二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:第1話 ( No.196 )
日時: 2013/10/12 00:36
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「——リンネええぇえぇぇ!!!!!」
「どうしたの?」

 僕がそう言い終わった時、僕の目の前には自分の膝が見えていた。……下にタイツ穿いてて良かった。

「いきなり蹴りかますってどう言うこと?」
「いや、突進して来たからつい……」
「って急がないと……!! お願いリンネ!!」

 コイツは僕の親友——宙。
 どうしたのって訊いたものの、なんとなく分かってるんだよね。わざわざ森の奥にある僕の家に来るんだ。

「……分かった。でもそこから先は自己責任だよ?」
「うん! ありがと!!」

 宙はそう言ってから僕の家(の僕の部屋)にあるクローゼットの中に入った。僕は溜め息を吐きながら、本棚から一番分厚い本を両手で抱えてベットに置く。布団の上にボフッと本が乗る。その本の題名は「魔呪」。「まじゅ」って読むらしいけど、呪いが掛かりそうな題名だと思う。こんなの絶対に売れないよ。僕は買ったけど。

「よし。今日こそ……!」

 僕は分厚い本を一ページ捲る。
 これは、誰でも簡単に出来る呪文が乗ってます。そう、だーれでも! 簡単に出来るんですよ? 凄いでしょ!!
 ……嘘付け! この分厚さで簡単とか言うなよ!!
 ——落ち着け僕。そうだよ。もう僕は前みたいに発狂して周りのもの全部氷漬けにするのは卒業なんだ! 弟子卒業! しかも今日から師匠になるんだよ……!!

「——水よ、我が手に……集え……?」

 百五十五ページに書いてあった呪文を唱える。僕は水(氷)属性の魔法を基本的に使う。だから、水系。
 元々は水とかじゃなくて風だったんだよ? でもね、最近あんまり使わないんだよね。
 ……水が……手に出て来た!! 何これマジック!? ……いや、僕が自分でやったんだ。気にしちゃダメ。これは当たり前。当たり前だよ……!!

「ソラあああぁあ!!」

 クローゼットの中から「ヒィッ」と言う情けない声が聞こえた。
 僕は手から出る水を握って止める。玄関前で叫んでる青嵐の所に行って

「また宙?」

と言った。
 そう。宙はこの人から逃げていた。……だって、怖いもん。関係ない僕も恐怖を覚えるほど。

「そうだよ!! 場所知らない!?」
「……知らない。ごめんね?」
「ううん。リンネは悪くない。悪いのはあたしのケーキを盗んだ宙だから」
「……えっと。頑張ってね……?」
「ありがと!! じゃあね!!」

 うわあ。ケーキで喧嘩してたんだ。幼稚すぎにもほどがあるよ。
 僕はクローゼットを開けて

「完全に宙が悪い」

と呟いた。

「えへへ、ごめんごめん。でもありがとう!! じゃあ、師匠頑張って! 俺は見つからないように家に帰るから——」
「あ、じゃあ僕が送ってくよ。失敗するかもしれないけど」

 僕は「魔呪」の二百三十八ページを開いてから

「——彼の者の想う場へ」

と唱えた。
 宙はシュンと消えた。成功……かな。
 よし、本を読もう。案外簡単だったかも……。

Re:第2話 ( No.197 )
日時: 2013/10/13 07:40
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 コンコンとノックの音が聞こえて来た。玄関から? そんな訳ない。最近僕の師匠は常識はずれなことばかりする。……まあ、僕の言えたことじゃないけど。
 窓からだよ。僕の部屋にある窓から。次は何だよ全く……。

「……何か用ですかアルバさん」
「えーっと……ごめん。窓からで……」
「ホントそうだよ!! 何、窓から来るのが最近の趣味なの!? ここで僕が着替えてたりしたら冥界に送り込むからね!?」
「いや、そう言うことじゃないけど……。冥界とかふざけんなあんな奴にまた会って堪るか!!」

 アルバが窓の外からブチ切れる。知らないよそんなこと……。
 と言うのも、この前僕達はもの凄くどうでも良い神様たちの争いに巻き込まれたんだよ!! 兄弟喧嘩に!!
 なんだっけ。アルバがタナトスとか言うもどきに乗り移られて助けに行ってそこでヒュプノスって言う神様とやっつけちゃって……。まあ、僕とアルバはクソどうでも良い喧嘩に巻き込まれたって言うこと。

「で、用件は?」
「そうそう。えっとなんだっけ。……思い出した。お前の新しい弟子連れて来たって言おうと思ったんだ」
「連れて来た!? 窓から!?」

 思わず窓の外に顔を出す。アルバの顔がグッと近くなったけど気にしない。もはやこれは日常茶番。誰も気にしない……はず。

「そう窓から。玄関付近には白鳥が……」
「あ、そっか……。男なら頑張れよ」
「俺に死ねと?」
「駄目だよ。僕の頑張りが全部、無になる」

 アルバは呆れた顔をしながらも窓から部屋に上がって来る。いや、こっちが呆れ顔をしたいくらいです。入る場所が絶対に違う。

「えーと、なんだっけ……」
「物忘れが激しいですね先輩。もうお歳ですか……」
「おいこら!? 仮にも俺はお前の師匠だぞ!?」
「で、その子の名前は?」

 僕はそう言って、頑張って窓からこっちに来ようとしてる子を見た。

「ノヴァ・アルテイラ……だっけ? そんな名前」

 アルバはそう言うと、ノヴァ・アルテイラって言う子の両手を握り、部屋に上げた。
 ごめん。ここ僕の家……。って言うか僕の時より優しいって思ったのは……僕だけかな。

「ノヴァ・アルテイラ……。ノヴァ……ノアの箱舟」
「リンネ。覚えるつもりだったのかも知れないけどさ。名前変わってる。ノアの箱舟じゃなくてノヴァ」
「……ノヴァね。うん。頑張って覚えるよ」
「お前はそこからか!!」
「残念ながら」

 僕は短くなった髪の毛をいじりながらベットに座った。

「あ、お茶とか出せなくてごめん。茶葉がないんだ」
「出さなくて良い。って言うか窓から入って来て本当にごめん」
「……もうそこは良いよ。一瞬チルベっぽく見えたのも気にしないよ」
「チルベ……かよ。ホントごめんなさい!!」
「謝らなくて良いって言ってるのに謝らないでくれたら嬉しいな!?」

 九十度ジャストで頭を下げるアルバに(別の意味で)感心しながらも、僕の目はノヴァと「魔呪」を交互に見ていた。

Re:第3話 ( No.198 )
日時: 2013/10/13 08:52
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「えっと……。ノヴァ・アルテイラです。……男です」
「じゃあ、ノヴァ君って言ったら良いのかな……?」
「えっとえっと……はい」

 くっそおおおっぉぉおぉぉ!! 全く分かんないよ。こう言うタイプの人はソアラで慣れて来たと思ったけど慣れないよやっぱり!! どうしたら良いのさ!!

「——まあ、その辺の自己紹介は後でしたら良い。俺はソアラに魔法教えるからすぐに帰ると思うし」
「そ、そうなんだ……。大変だね。じゃあノヴァ君。後で話しようか」

 ノヴァ君が小さい女の子みたいにコクンと頷いた。

「ノヴァ、コイツの属性知ってるか?」
「知らないよ。僕みたいに風属性とか……?」
「いや、はっきり言うと論外だ」
「論外? 普通じゃないの? 雷とか土とか火とかそう言うのじゃないの?」

 なんだろう。論外って。論から外れてるってことでしょ? 普通じゃないってことでしょ? ……分からない。
 ——二つ位属性持ってるのかな。雷と火の人は僕の家の周りを徘徊してるけど。

「……っと、もう時間がヤバいな」
「え、タイミング悪すぎじゃない? って言うか僕の時はサボり捲ってたくせに……」
「不可抗力だ。あの時俺、心臓に病気持ってただろ!? あれ、何だかんだでけっこう頻繁に——」
「それ以上に誘拐が多かった。魂誘拐されたりしたけ——」
「わあああああああああ!!!!!」

 アルバが大声を上げたせいで聞こえなかったと思うけど、あの後言おうとしてたのは、今思えばおかげで刀とかソアラとかに会えたんだよな……。
 アルバが僕のフォローを全部捨てたのは言わないでおいてあげよう。

「まあ、論外の件は今度話す! じゃあ、またな!!」
「うん! しなかったら立場逆転させるからね!!」
「……絶対話すから!! 下剋上とか止めろ!!」

 下剋上なんて出来る訳ないじゃん……。変なヤツ。また窓から帰ってったし。
 僕は玄関の扉を開けて、青嵐に

「宙は多分だけど家に帰ったよ」

と言った。
 僕の呪文が成功してるとは限らないから「多分」を入れた。おかげで「多分」を凄く強調してしまった。
 青嵐はすぐに走り出した。途中で振り向いて

「ホント!? ありがとう!! 今度ケーキ奢るわ!!」

と言った。
 普通、僕と同年齢の子はケーキとか喜ぶんだろうな。僕も嬉しいよ。でも……。

「ケーキじゃなくて茶葉ちょうだいよ!!」
「ちゃ、茶葉!? シブっ!! そんなんで良いんだったらいくらでもあげるよ!?」
「じゃ、じゃあ茶葉とケーキ!!」
「贅沢言うなあああぁあああぁぁぁ!!!」

 そう。僕が欲しいのは茶葉。ここ三日間、家の近くにある川の水しか飲んでないよ。
 茶葉とケーキで贅沢だったらステーキとか毎日食べてる人とかはどうなるんだろう。いや、そんなヤツ僕の身の回りにいないけど。
 って言うか茶葉ってどの種類持って来るんだろ。個人的にはほうじ茶が好きなんだよな……。麦茶も好きだけど。
 まあ良いや。ノヴァ君……の所に戻らないと。

Re:第4話 ( No.199 )
日時: 2013/10/13 20:53
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 僕はベットに座り、ノヴァ君は地面に——と言うのは嘘で、僕の隣に座らせた。

「僕は、十六夜霖音って言うんだ。趣味は……読書かな。魔法の属性は元々風だったんだけど、さっきの青紫の髪の男の人のせいで今は水と氷だよ。風も一応使えるけどね」

 軽く自己紹介をして、これからどうしようかとかを相談。

「えぇっと……もうお任せします。って言うかちょっと前に引っ越して来たばかりで、家が……」
「家か……。僕も家なかったな、そう言えば。じゃあここに住んで良いよ。空き部屋も一応あるし」

 ノヴァが凄く驚いた顔をした。「えぇ!? 正気!?」みたいな感じで。何、僕みたいな人がこんなに優しかったら驚くと?

「……まあ、ベットとかは用意してあげるからさ。うん、大丈夫。家の壁壊したりしても怒らないから。こっちの部屋だよ」

 僕はそう言って、廊下に出た。扉から向かって左に曲がり、まっすぐ進み、一番奥(突き当たり)にある部屋の前で止まる。

「ここですか?」
「うん。ここだよ。あ、片付けるからちょっとその辺にいて。お茶はないんだ、ごめんね?」
「い、いえ……」

 僕はノヴァを残して突き当たりの部屋に入った。扉を閉めて、電気を付ける。

「……きったな!!」

 思わず叫ぶ。
 もう、廃墟じゃないのって言うくらい。こんな部屋がこの家にあったなんてってくらい。化け物出るんじゃないの、ってくらい。部屋が終焉を迎えていた。

「……呪文は面倒臭いな。ここはぶっ飛ばした方が早い」

 直後に部屋のど真ん中に竜巻が起こる。ある程度ゴミが集まったからそれを凍らせる。

「よし、と。次は家具か……」

 地面にドカッと座って呟く。だいたい十メートルの正方形なんだよね。部屋の形……。窓は一つ。ちょっと大きめ。
 僕は電気を消した後、扉を開けてすぐの場所にいたノヴァに

「ちょっと出掛けるから僕の部屋にいて!」

と言ってから、玄関の外に出る。同時に玄関の隣に置いていた箒に跨り五メートルくらい走ってからジャンプする。
 反動で大回転しちゃったけどそれどころじゃない!!
 ……よし、財布はある。んー、あとは買い物に誘える人。青嵐と宙は絶対にそれどころじゃないし、アルバとソアラも忙しそう。五十嵐兄妹は色々怖いから駄目だし、人外(由美さんとサトルさん)は僕の命が持たない。
 ……あ、ちょっと上に上がりすぎたかな。
 箒の向きを斜め下に変えて、少し降下。と、そこでカミュさんを発見。
 ……行ける! あの人なら(多分まあ)大丈夫だ!!

「カミュさん!!!!」
「……!? ちょっと待て!!」

 カミュさんに当たる直前に僕は箒から降りて約二メートル上空から地面にジャンプ。
 着地と同時にカミュさんの溜め息が聞こえた。

「どうしたんですか?」
「どうしたも何も……。空から知り合いが垂直に降って来るとは思わないだろう?」
「えへへ……。で、本題に入りますね。ちょっと買い物付き合って下さい」

 別に断っても良いけど僕はショックだな、という意味を込めて満面の笑みで言うと、カミュさんはまた溜め息を吐いて

「分かった分かった。行くからその笑顔は止めろ」

と言った。
 一部気になる所はあったけど、仲間(荷物持ち)は出来た。
 そして僕達は、地獄のショッピングモールに行くことになった。

Re:第5話 ( No.200 )
日時: 2013/10/13 22:41
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「お……おぉーっ!!」
「……興奮する所じゃないよ、カミュさん」

 建物に入った瞬間下からナイフが飛んで来た。
 ……考え方によっては興奮するかもしれないけど。

「とりあえず……家具買いに行こう」
「そ、そうだな……」

 と言っても家具が売ってある店が下にあるんだよな……。
 エスカレーターでその階まで下りて、ナイフが飛んだ方を見ると、ショー(にしては客が命懸け)が終わった所だった。
 僕はホッとして店の中に入った。

「で、何を買うんだ?」
「ベットとテーブルとイス。あと、枕と布団と茶葉と——」
「茶葉?」
「茶葉が切れたから……あ、コップとお皿も買わないとっ!」
「……何があったんだ?」
「いやあ、弟子が出来たからさ……。家がないから僕の家に住むことになったんだよね」

 僕がそう言うと、カミュさんはしばらく黙った後に

「お前ももう……師匠か……。成長って凄いな」

と言った。なんだこの人。

「カペラはどんな感じですか?」
「色々と終わってるぞアイツ。面白い所もあるが、魔法が……な。お前、もう大魔法使いだろ?」
「まあまあ、そこが良いんでしょ?」
「まあな!! よし、さっさと買い物済ませて帰るぞ!!」
「はーい」

 そこからは、ある意味大変だった。
 ウッドベット、ウッドチェア、ウッドテーブル、同じくウッドシリーズの戸棚とランプ、ソファを買った。ベットに枕と布団が付いて来たから節約出来た。コップと皿はセットの方が安かったから買っといた。
 茶葉は諦めた。理由は家具売り場になんで茶葉があるんだよと言うカミュさんのツッコミから。

「——荷物はどうやって持って行こうかな」
「手伝うぞ?」
「でっすよねっ!! 流石カミュさん!」

 僕はそう言って、ベット(分解)とテーブル(分解)と戸棚(分解)と、チェアとランプとソファをドンっと渡した。

「ほとんどオレか!?」
「勿論です。僕は枕とか持つので忙しいからさ。組み立てもよろしく」
「人使い荒らすぎだろ……」
「ありがとうございまーす!!」

 いつもはもうちょっと躊躇する。でも、今日は人の為だからさ。不可抗力と言うか……ね。
 ショッピングモールを出てすぐ、箒に跨り僕は飛ぶ。カミュさんは建物の中で凄く大きな袋を貰っていたみたいで、その中にグチャグチャとガラクタ(と化した家具)を入れてから、袋を箒に引っ掛けて飛んだ。

「スピード出して良いですか?」
「出すな……! オレが死ぬ」
「ちぇっ……。まあ良いや。急ごう」
「人の話聞けよ!!」

 僕はカミュさんの言葉を全身全霊で無視して、スピードを上げた。
 でも意外に近いみたいで、すぐに着いた。

「ただいまー!」
「……おかえりなさい……? どこ行ってたんですか?」
「買い物。好みが分からないから適当に選んじゃった。ごめんね?」
「いえ、大丈夫です」

 僕は荷物を机の上に置いて、カミュさんが来るのを待った。
 五分くらいしてからカミュさんが家の前に着いた。

「遅い。何してたんですか?」
「お前の家の場所知らないんだよ……」
「あ、そっか。えへへっ!」

 僕は頭をコツンと叩いて笑った。
 その後カミュさんが頑張ってベットやら戸棚やらを組み立ててくれた。しかもソファとかも設置してくれた。
 でも、ヘロヘロになって帰ってたからな。体調崩してたりしたら間違いなく僕のせいだな……。

Re:第6話 ( No.201 )
日時: 2013/10/14 00:36
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「——ご、ごめんね!?」

 僕はノヴァの部屋でさっきのアルバみたいに頭を下げる。
 ノヴァ君、男の子だったのに……。布団とか枕とか、赤にしちゃったよ……。女子っぽいとかで馬鹿にされないかな……。
 だって唯でさえ、茶色の髪でロングストレート(キューティクル?)で黄色い目って言う女の子っぽい子の家の家具がこんなので大丈夫なのかな。

「大丈夫です。私、こう言うのけっこう好きですから……」

 私って言った。今、ノヴァ君絶対に「私」って言った。カミュさんとかみたいに厨二病もどきじゃなくて、普通に言った……。

「い、いや、あのぉ——」
「私、か……。良いな……」

 ボソッと呟く。

「どこも良くないですよ! 体は男の子なのに心の中は女の子! でも女の子の格好は駄目だって!! だから皆の前では自分の意見とかロクに言えないんですよ!?」

 ノヴァ君の盛大な反論が返って来た。

「分かってないなァ……。僕なんて女なのに無意識に僕とか言ってるんだよ? 無意識だよ? 直せないの。直す気もない! でも、君は違うでしょ? 女の子っぽくしたいって思って私って言ってる。それって凄いことだと思うよ!!」
「じゃあ、リンネさんは男か女かも分からない人の気持ち分かるんですか!?」
「知らないよ!! って言うか僕けっこうな頻度で男子と間違われるよ!?」

 その後、十分くらい口論があった。内容は……馬鹿らしかった。

「——って言うかさ、女みたいとか言って来るヤツを殴り飛ばしたら終了じゃない?」
「え、でもそんなことは……」
「僕は躊躇なしにやっちゃうけど」
「……確かにリンネさんはやっちゃいそうですね」

 結果的に「馬鹿にするヤツは処刑しちゃいます!」となった。
 大丈夫。僕は神様刀で刺し殺しちゃったことあるから。いじめっ子とかもその気になれば黄泉へ送れます。

「ふう……。あ、敬語とかさん付けとか堅苦しいから止めて良いよ? リンネって呼んでよ。って言うか自分のことも私って言って良いと思うよ? ほら、さっきの赤髪の男の人、自分のこと当たり前の様に私って言うよ?」
「そうなんで……そうなの? ……私の前ではオレって言ってたけど」
「んー、あの人オレと私を共有してるからな……。ノヴァ君のことノヴァって言って良い? って言うかノヴァって言いにくい。他に言いやすい呼び方ない?」

 僕がノヴァの部屋の床で胡坐を掻く。

「……面倒臭いしノアで良くない?」
「じゃあノアで。これからよろしくね!」
「こちらこそ!!」

 僕の新しい弟子、ノアちゃんですっ!! 男の娘って言うのかな……アルバにもこのことは伝えた方が良いのかな。ちょっと迷ってるんだけど……。言った方が良いよね。
 って言うか、人の部屋で胡坐掻いてる女子に「こちらこそよろしく」って言えるノアに驚いたよ。自分で言うのもなんだけどさ……?

Re:第7話 ( No.202 )
日時: 2013/11/03 00:27
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: スランプなう


「ふぁ……ぅっと。うん。今日も図々しいほどに嫌な朝だ!」

 朝の第一声。
 自分で言うのもなんだけど、何を言ってるんだよ僕は。何、図々しいほどに嫌な朝って。

「おはよう、ノア君……ちゃん?」
「ノヴァです。ノアで良いです。おはようございます」
「そう言う君も敬語使ってる」

 僕は頭のてっぺんに出現していたアホ毛モドキを引っ張りながら椅子に座った。

「眠い」
「リンネさ……リンネ、今日学校なくて良かったね」
「否定部分がないよ。……って言うか起きるの早いね」

 ノアは僕がリビング(と言う名の毒キノコ保管所)に着いた時にはここにいた。机の上には朝ごはんが、完全に準備されている。

「茶葉……」
「茶葉のこと引きずり過ぎ……。買いに行かないの?」
「……茶葉貰いに行こう」
「どこに」
「まずは青嵐の所に行ってそれで——」

 うん。青嵐が駄目ならアルバの所に行こう。

「ノア! 着替えて!!」
「えぇ!?」
「そのイモジャージじゃない!」
「じゃあどれ!? 私男服なの!? 女服!?」
「シャラップ! 僕が今から決めるから黙ってて!!」

 年下相手に「シャラップ」とか叫んじゃったよ。
 それはそうと、僕の服とか本当にセンスの欠片も感じられないよ。ビックリするくらい。
 ……いや、ティーシャツに芋とか字が付いてるのじゃないけど。

「うん。これなら良いんじゃないか? ほら」
「え……何これ」
「これ以外だったら変なのになるよ」

 ノアが僕の渡した服を引きずって、渋々部屋に戻った。
 直後に扉が開く。

「早着替え?」
「ふっふっふ……! これでも着替えは早いんですよ!?」
「そして似合ってる……。神だろ君」
「いやあ、それほどでも……。リンネってこんな服持ってたんだね」

 ノアが自慢げに笑った後、くるっと一回転した。
 真っ白なブラウスに茶色いサロペット。うん、可愛い。後は髪にリボンでも付けとけば女だね。妬ましいよ。

「髪の毛、どうする?」
「このままで良い。落ち着くから」
「そう? 分かった。箒乗れる?」
「乗れない」
「分かった。じゃあ後ろ乗って」

 と、そんな訳で箒で青嵐の家に向かっちゃいました。


「茶葉」
「う、うん……。茶葉、ね。分かった。はい」
「ありがと。じゃあバイバイ!!」
「うん。昨日は宙ホントにありがとね!!」
「どういたしましてー!!」

 僕はそう言ってからまた飛ぶ。

「回るよーっ!」
「はいぃ!?」

 直後、大回転。五〜六周した気がする。

「着いたっ!! アルバああぁあぁぁ!!!」
「げっ、ちょっと待てストップ!! 殺す気かあぁああぁ——」
「殺してたまるか馬鹿。遊びに来たんだよ。茶葉貰ったから」

 相変わらず約二メートル上空からジャンプ。大丈夫、ノアは僕がエスコートした。僕、どんどん男っぽくなってないか?

「何の説明にもなってないよ、リンネ」
「ソアラ!! 元気!?」
「おかげさまで」

 考えてたことが全部吹っ飛んだ。

「で、何の用だ?」
「遊びに来た」
「帰れ」
「お断りします。アルバにはとりあえず話したいことがあるんだ」
「かえ——」
「らない。ソアラ、ノアは任せた!!」

 そう言いながらアルバを(アルバの)家に突っ込む。

「わ、分かった!!」

 ソアラがそう言っていたのは聞こえたものの、何をするつもりだろう。

Re:第8話 ( No.203 )
日時: 2013/11/04 11:07
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: スランプなう


「——で、なんだよ」
「うん。昨日の話」

 僕はそう言ってから椅子に座り、机の上に茶葉が入った袋を置いた。

「昨日の……?」
「論外属性の話」
「論外属性!? なんだそれ!? ……あ、思い出した」
「早く教えてくれたら嬉しい……。……僕達仮にも恋人だよ」

 ボソッと呟く。
 今さらだけど、恋人ってこんな気まずい関係なの? イチャイチャは嫌いだけど、ここまで離れると悲しいよ。

「闇属性」
「……やみ?」
「闇、だよ。昨日の朝、雑草が消し炭になってた」
「アルバは闇属性ってのを雑草で判断したの?」
「違う。校長が言ってたんだよ。それを聞いた後にそれを見て確信したってだけ」
「良かった。……ふうん、闇かァ。じゃあ逆に光とかもあるのかな」

 でも、消し炭は怖いな。

「あるんじゃないか? 闇があったら光もある……はず」
「はず、って君さァ……。まあ良いや。あのさ、最近避けられてる気がするんだけど」

 思い切って聞いてみた。
 ……沈黙。十秒に一回の目安で溜め息が聞こえる。……うん、このパターンはまさか……ね。うん。

「……留学」
「わああぁああぁぁ!?」

 僕が言ったと同時にアルバが椅子から盛大にひっくり返った。
 図星か。

「うわああああああ……」
「馬鹿……。どことの交流?」
「……白夜魔法学園」
「学園? なんか凄そう……」
「ちなみにその白夜学園の生徒二人が来る」
「交換? 交換? 交換なの!?」
「いや、あっちから来るだけだ」

 何人? と訊こうとしたけど、面倒臭いから止めた。
 じゃあ溜め息は何だったんだ。

「まあ、そこに色々と問題があってな。トラウマを思い出すんだ」
「トラウマ……? あー、さくら魔法学校で何かあったの?」
「もう本当止めて……」
「え、なんかごめん」

 一応謝ったけど、図星だったことに驚いた。
 今度聞き出そうっと。

「留学生っていつ来るの?」
「明日か明後日。一週間位いるらしい」
「え! もうすぐじゃんっ!!」

 興奮して椅子から立ち上がった。同時に椅子が後ろに倒れた。

「怪獣が……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
「そう。じゃあ明日学校で!! ……と、前にチルベに貰ったヤツ、使い方がまだ分からないんだけど」
「おい……」

 白と黒の面があって、白の方にある少し凹んだ部分を押したら黒い部分が青白く光り出した。色々な言葉がズラッと並んで、アルバが「通話」と書いてあるボタンを指で押したら青白かった光が灰色に変わった。

「何これ! 凄い!」
「で、ここで話したい人の名前を押したら電話出来る」
「ほえぇ……」

 灰色に光っている部分を見つめながら無意識に声が漏れる。

「ねえ、これって宙とか青嵐にも出来るの?」
「フェイに増やして貰ったからな。それを持ってる人には出来るはず」
「はず……。うん、分かった。ありがと!! バイバイ!!」

 僕は茶葉袋を持ってからアルバに手を振った。
 扉を開けてから、扉に立て掛けた箒に跨って、

「ノアーっ! 帰ろ!!」

と叫ぶ。

「う、うん分かった! またね、ソアラさん!!」
「うん、バイバイ!!」

 ソアラに笑い掛けながら、ノアが箒に跨った。
 何をしたんだろう。凄く仲良くなってる。似た者同士だからかな?

「じゃ、明日ね!!」
「うん! またね!」

 そう言っている間に、箒は上に上昇した。


「おやすみなさーい!」
「うん。おやすみ……」

 僕は自分の部屋に戻ってから魔呪の隣に置いてある手帳を開いた。
 青嵐に茶葉を貰いに行ったよ。その帰りにアルバの家に寄ったんだ。僕の属性は元「風」だった感じで、ノアちゃんにもあるみたいんだんだけど、それが「闇」なんだって。闇なんてなかったよね……。
 それはそうと、明日か明後日に「留学生」が来るみたいなんだ。あ、そう言えば人数聞いてないな。うん……。

Re:第9話 ( No.204 )
日時: 2013/11/04 12:44
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: スランプなう


「——おっはよおぉーっ!!」

 教室に宙の大声が響き渡る。

「宙、遅刻だよ。リカルド先生が後で職員室来いってさ」
「え……」
「やーいやーい! 二人ともお似合いだぜーっ!!」
「そう言えばこの前噂でリンネに恋人が出来たって——」

 本当にもう……泣きたいよ。

「五月蠅いぞ! それにリンネの相手が宙な訳ないだろっ!! リンネの相手は——」
「言うなあぁあぁぁあ!!!!!」

 僕の椅子が昨日のアルバみたいに倒れる。
 んのクソカペラがっ! コイツのクラス知らないなとか思ってたけどちゃっかり同じクラスだし変にばらすんじゃない!!

「あーごめんごめん。腹立ったからさ」
「うん、ありがとう。最後の一言以外は嬉しかったよ」

 僕はそう言ってから椅子に座り直す。鞄からルピナスの髪の毛が入った瓶を机の上に置いた。
 同時に校長先生が来て、

「留学生を紹介します」

と言った。
 教室は数秒間だけど静まり返った。

「……入って来て下さい」

 校長先生が「シケた!?」みたいな顔をしてから言った。
 そしたら、男子と女子が一人ずつ入って来た。

「——ドロシー・アステル君と、星夜日向君です。一週間一緒に授業を受ける仲間なので、仲良くして下さい」

 校長はそう言ってから教室を出た。


                       * * *


「——ねえっ! ここってさ、どんな所なの?」
「えっ、え……僕?」
「うわあ! 僕って言った!! 仲間だっ!! 僕はドロシー、よろしくね! 君の名前は?」
「え、あ……うん。僕は霖音。よろしくね」

 いきなり話し掛けられたから驚いた。どこから来たんだって位にいきなりだった。
 その直後、

「日向っ! 友達出来たよっ!!」

と、ドロシーちゃんが後ろを振り向いて言った。
 日向……日向……。あ、星夜日向君か。

「うん……良かったね。眠い」

 眠いのか。

「はぁ……いっつもそれじゃん。あ、そう言えばなんか事件とかない?」
「事件? この前とんでもない事件に巻き込まれたけど、それ以外は特にないよ?」

 常に事件に巻き込まれてるから。

「その話聞かせてっ!!」
「うわっ!? ちょっと待って! 顔近い!!」

 アルバはもう慣れっ子だけど、他の人はまだ無理だああぁあぁぁ……!!

「あ、ごめん! えっと、で、話聞かせて!」
「う、うん。とりあえず僕の家においでよ。あんまり人に聞かれたくないし」
「そ、そう? 分かった」

 放課後で良かった、本気でそう思った瞬間だった。

Re:第10話 ( No.205 )
日時: 2013/11/04 14:49
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「——で、今に至る訳で」
「すっごぉい! てかなんでその神様たち喧嘩してたの!?」
「さあ。タナトスは世界を破滅っみたいな感じだったんだと思う。ヒュプノスは今回初登場っぽかったし、分かんない」
「面白かったよ、ありがと!」

 僕の家のリビング(と言う名のキノコ保管所)で話していた。
 すると、玄関の扉を叩く音が聞こえて来た。

「ちょっと待ってて」
「うん」

 僕が扉を開けると、校長がいた。

「なんですか?」
「今日の夜八時、留学生二人を連れてキノコの森へ来て下さい」
「え……はい。分かりました」
「では」

 なんだあの人。

「今日の夜八時にキノコの森に来いって校長先生が」
「なんで?」
「知らない」

 なんだろ、凄く嫌な予感がする……。


                       * * *


 そして夜。
 結局二人(日向とドロシー)は僕の家にいた。学校から帰って来たノアが腰を抜かしてた。
 ちなみにドロシーと日向は呼び捨てで良いって言ってたから……。

「あれ、ソアラ?」
「リンネも呼ばれたの?」
「うん」
「ちょっと待って、なんでソアラだけにしか反応を示さないの!?」

 宙が僕にツッコミを入れてから気付いた(と言ってもアルバには気付いてた)。
 ……うん。嫌な予感しかしないね、このパターン。

「皆さん集まりましたか?」
「校長、今から何するんですか?」
「少し遅くなりましたが、ドロシー君と日向君を歓迎します。そのパーティと言ってはなんですが、肝試しをしようと思いまして」

 アルバからフ(腐、不、負など)のオーラが出る。隣にいたソアラの血の気が引くのが分かった。
 宙とカペラはよく分かっていないらしく、首をかしげている。それを見たカミュさんと青嵐が同時に溜め息を吐いた。
 他の人達は茫然としてるだけ。勿論僕達四人も論外ではない。

「ノア、無理しなくて良いからね?」
「うん……」

 ノアは一人は流石に危ないから連れて来た。

「じゃあなんでキノコの森に集合したんですか?」
「幽霊屋敷前なんて言って誰が来るんですか」

 正論だ。僕もそんな所に夜来いって言われたら悟るよ。あ、これ肝試しだって悟るよ。

「では、今から行きます。あ、逃げても無駄ですよ? 成績下げて勉強が難しくなるだけなので」

 鬼畜。なんでこの人が校長なんだろう。
 いや、でもなんか色々あるのかも……。知らないよそんなこと。

「……はぁ」
「アルバ、溜め息出てる。やっぱり何かあったんだよ」
「さくら魔法学校でね」
「……さくら魔法学校?」
「ソアラが来る前の話だからね。気が向いたらアルバが話してくれるかも知れないこともないかも知れないよ?」
「分かった、今度聞いてみる!!」
「うん」

 凄く純粋。
 まあ良いや。とりあえず幽霊屋敷に行かないと……。

Re:第11話 ( No.206 )
日時: 2013/11/04 16:16
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「何ここ」
「幽霊屋敷です」
「ほえぇ……」

 思いの外広い。
 あやかちゃんがシュン君の服を掴んでいる。いや、服じゃなくて肉を掴んでるな、あれは。痛そう。

「じゃあ、今から二人——三人一組で幽霊屋敷の奥にある“勇気の欠片”を取って来て下さい。ペアはクジで決めます」

 校長がそう言いながら割り箸を取りだした。ないわぁ……。
 順番に割り箸を取る。

「3」
「俺も3」
「わた……僕も」

 はい来たよこれ。
 僕とアルバとノアの三人になった。

「宙、カペラ、カミュのチームが一番な」
「なんで!?」
「……勢いで、行ってらっしゃい」

 青嵐と由美さんが三人を幽霊屋敷に押し込んだ。
 次は由美さんとサトルさんだけ。なんでだよ。

「——よし、二分経ったね。いってっきまーす!!」
「じゃ、行って来るわー!」

 威勢が良い。
 次は……

「シュン、あやか、ソアラだね」

 ソアラご愁傷様です。(あの世に)いってらっしゃい。

「で、次は薺、苺、ロス」

「うわーっ! 弟よー!!」
「兄さーん!!」

 兄弟愛オツ。

「ジュネ、リア、フェイ」

「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」

 僕はフェイちゃんに手を振った。

「次はあたし達ね。行って来るわ」
「行ってらっしゃい」

 櫻さんと青嵐とコロちゃん。

「あ、僕のヤツ3」
「ホント!? 僕のも3だよ!」
「今ひいたの!?」

 サトルさんと由美さんが二人で行ったのに、僕ら五人だ。ずるい。

「で、最後が……」
「僕ら最後おぉ!?」

 絶叫。
 校長が

「では、頑張って下さい」

と言いながら魔法を使った。
 魔法使っちゃダメってルール、行ってる途中に言われてたな。最低だあの校長。

「……アルバ、行くよ?」
「あ……あぁ」
「ボロボロですね、アルバさん」

 文字通りボロボロだよ本当。どうしてこうなったんだ。
 扉を開ける……と同時に幽霊もどき。
 でも、なんか逃げた。

「逃げた!?」
「よし、行こう」
「は、はい」

 目の前にある大きな扉を開けると食卓。に幽霊が二体。逃げる。
 不意にノアを見ると、ネックレスを付けているのが見えた。服は昨日の服を着てるから、なんとなく違和感あったけど……。

「ラッキーチャームだっ!!」
「えぇ!?」
「ほら、そのネックレス! 綺麗に磨かれてるのはね、魔除けの効果があるんだって!」
「そう言うのどこで覚えて来るんだよお前は!!」
「本!」

 僕は念のために手を繋いで歩いていた。

「これ、相当恥ずいぞ」
「不可抗力です」
「この方が安心できるもんね!」
「はい」
「……ふうん」

 メチャクチャ疲れる。このメンバー……。
 それにしても、皆大丈夫かな。

Re:第12話 ( No.207 )
日時: 2013/11/04 20:50
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「ねえリンネ」
「ん?」
「何かついて来てる」
「何が?」
「分かんない」

 ノアが僕の手を強く握る。
 僕が振り向くと、鉄の甲冑っぽいのを着た何かがバッチリ後をついて来てた。

「何かいるね。甲冑お化けが」
「お化け!?」
「分かんない。悪戯かもね」

 アルバが動揺しているものの、気にしない。

「帰レ」

「ぎゃー! 喋った!!」
「アルバ五月蠅い」

 帰れって言われた。

「帰ラヌカ。フム、肝が据ワッテイルナ」
「誰ですか?」
「我ハコノ館に仕エル兵、インダコ。貴様、ナカナカダナ……。ソレニ比ベテソッチノ男ハナンダ?」

 ご尤もです。
 アルバはもう硬直していて動かない。

「で、何の用ですか?」
「今宵ハ宴。コノ館ニ住マウ者ガ狙ッテ来ルデアロウ。忠告ダ」
「じゃあ、インダコさん。僕達以外にも忠告はしたんですか?」
「イヤ、他ハ見テオランガ」

 駄目だ変なフラグ立ってる。

「ありがとうございます。じゃあ、他に人を見かけたら、リンネが家に帰った方が良いって言ってたって伝えて。それで、信じない人にはこれ渡しといて欲しい」

 僕はそう言って、アルバのポケットに手を突っ込んでから、ヘアピンを渡した。

「承知シタ」

 そう言うと、インダコさんは戻って行った。

「何だったんだ今の」

 ヘアピンを取られたことにも気付いていないらしい、アルバはポカンとしていた。

「行こう」
「そうだね」

 僕とドロシーは他の男子を引っ張って、奥に進んで行った。

「ふっふっふ! やっときたねっ! 君たち!!」

 階段を降りたらなんかいた。

「次はなんだよ!!」
「五月蠅いアルバ」

 だいたい七歳くらいの女の子が僕達の前に立つ。

「あのね、今日は新月でしょ?」
「そうだったんだ」
「だからねっ? いけにえをささげたら、あたしのおともだちがふえるのぉーっ!」

 何言ってんだコイツ。ぶっちゃけ「イケニエクソワロタ」しか感想が出て来ない。

「で?」
「だーかーらぁ、おともだちになってくれる人をずぅーっとまってるのぉ! えっとね、さっき二人できたんだよぉ!」
「二人……?」
「えーっと、シュンくんとそらくん!」

 なるほど。この子はセンスの欠片もない可哀想な子なのか。

「で、ソイツ等は?」
「いまはねぇ、まだこっちのせかいにはこれてないんだぁ……。でもね、よる十二じになったらこっちの子なんだよぉ!」
「こっちの世界?」
「そお、しんじゃうのっ!」

 沈黙。
 僕は刀を取ってから

「なるほど。十二時までにその馬鹿共を助けちゃえば良いんだね?」

と、現時点で分かっていることを呟く。
 じゃあ、数ヵ月ぶりだけど、暴れてみるか。

Re:第13話 ( No.208 )
日時: 2013/11/04 21:22
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 まず思い切って斬りかかってみる。勿論相手は幽霊だ。避けられる。

「おねえちゃん、あたしゆうれいだよ? そんなのあたるわけないじゃん!」

 女の子がキャハハと笑い出す。
 いや……分かってるけど呪札とかないじゃん。魔呪は読み終わってないから分かんないし。

「だよねー……」

 僕は刀をクルクルと回しながら考える。次は胡坐を掻く。

「おねえちゃんしにたいの?」
「滅相もない。君を成仏させる方法考えてて忙しいんだから、邪魔しないでよ」
「はぁ? なんであたしが、じょーぶつしなきゃだめなの? おともだちがふえるっていいことだよぉ?」
「こっちの“おともだち”が減るから嫌だよ。ピンポイントで親友をさ」

 親友……か。

「キャハハッ! そらくんのこと? へぇー。でもさ、その子はしんゆうって思ってるの?」
「は?」
「そっちの思いこみかもよ?」

 一々腹立つ餓鬼だ。

「——ただ、りようされてるだけじゃないの?」


 ——プツンっ……。
 何かが切れた音がした。

「おねえちゃん? それむだ——……え? ……なんで? あたしはゆうれい。けがなんてしない……」
「さあ、そうとは限らない。それに、人を唯の人って思うのは良くない。つまり、幽霊だからって怪我しないとは限らないんだ」

 “私”はそのままその場で蹲ろうとしている餓鬼の頭を、刀で貫いた。


「……早く、行こう」
「う……ん。そうだね……」

 僕は何をしてたんだろう。
 まあ、さっきのはいないし、先に行くべきなんだろう。……うん。きっとそうだ。

「さっきの、なんだ?」
「さっきの……?」
「お前があの幽霊倒したんだぞ?」
「……知らないよ。僕、覚えてないし」
「まあ、どっちにしても急がないと。リンネさんの友達が危ない」
「あれ? 日向にしては凄いこと言うじゃん」

 ノアが少しボーっとしてる。

「……ノア、大丈夫? 歩ける?」

 ノアが、首をゆっくり横に振った。
 まだ小さいもんね。限界が来たんだろう。

「な、わけで。アルバ、おんぶオア抱っこ」
「おんぶオア抱っこってなんだよ……」

 と言いつつも、アルバはノアをお姫様抱っこ。
 ちょ、微笑まし過ぎるんだけど。

「あれ、なんか光が見えるよ?」
「ホントだ」

 日向とドロシーの視線の先を見ると、扉があった。
 僕はそれを思い切り開ける。

「え!?」

 目の前にはグニャグニャに歪んでいる塔があった。

「……螺旋の塔」

 アルバが小さな声で言う。

「螺旋の塔……?」
「ほら、なんだっけ。文字通りの題名の本で見たんだ。絵だったから確信したわけじゃない……」

 文字通りの題名? あー……うん。今度雑草並の精神を持ち合わせて見てみよう。

「あれに入らないと目的地には行けないらしい」
「え、それって校長が言ってたの?」
「そうだ」

 うっそォーっ!!

Re:第14話 ( No.209 )
日時: 2013/11/10 08:00
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 無意識更新眠いです。


「し、失礼しまーす……」

 僕はこっそり(と言うより渋々)建物に入った。

「とりあえず休憩できる場所……」
「あ、あそこどう? 良い感じにベットがある!!」
「石畳だけどね」

 ドロシーの言葉に日向がボソッと付け加えた。
 アルバがそこにノアを運ぶ。前髪がもう凄いことになってる。前見えてるのかな。

「——っと、よし。死ぬかと思った……!!」
「君の前髪はもう世紀末を迎えてるけど」

 アルバは「あ、ホントだ」とか言いながら前髪を直してた。見えてたって言うのにビックリだよ。
 まあ、とりあえずここは一刻も早く出たい。
 すると、目の前に神々しい(ってこともないけど)光が集まって来て、校長先生が出て来た。

「言い忘れていたことがあります。悲鳴はアウトです」
「悲鳴はアウト!? どう言うことですか!?」
「悲鳴を上げたらその人に魔法を教えてる人がアクシデントと言うかなんと言うか……。まあ、頑張って下さい」

「っちょっと待てぇええぇ!!」

 僕の声も空しく、校長は消えた。
 くっそ、あの教師……!

「ここ、いるね」
「何が?」
「……うん。アレが」
「いちゃうの?」

 ドロシーと日向が色々と言ってる。

「どうしたの?」
「ここ、幽霊いるってさ。日向が」
「日向、霊感的な物があったりするの?」
「しないけど。って言うかここ、幽霊屋敷の敷地内。この際霊感もクソもないでしょ?」
「あ、確かに……」

 確かにそうだ。普通に考えて幽霊屋敷に霊感もクソもないな。うん。

「……おい。コイツ寝たぞ」
「あー……。アルバ、頑張ってね! もうそろそろ行くよっ!」

 そうだよ。カペラ……じゃなくてシュン君と宙が危ないんだった!

「アルバ、やっぱり僕が二人担ごうか?」
「止めろ」
「あ、でもリンネがやっても別に違和感はない……」
「いや、良い。俺措いて行っても良いぞ?」
「無理。だってアルバほぼ確実に悲鳴上げるから……」

 ついでにノアを残して逃げそうだから……。
 角を曲がる直前、向こうの部屋に明かりが灯って、そこを黒い影が横切った。

「なんか、電気点いたね」
「う、うん……」

 気付いてない。
 駄目だ、地味にフラグっぽいのが立ってる……。僕の頭に。

「なんか、不気味だね。明るいし」

 ドロシーが言った。
 同時に凄い音が部屋に近付いて来た。

「ドロシーっ! そこ危ないっ!!」

 日向がドロシーを抱いて部屋の端に跳んだ。
 ドロシーがいた所には……槍が立っている。上の方に突き出して? 駄目だここ早く出た方が良い。

「二人共、大丈夫? こっちまで来れる?」
「う、うん……。何もない所通ったら行け——」

 “何もない所”には一瞬で槍が並んだ。

「……来れる?」
「無理」

 一瞬で回答変わったぞおい。即答かよ。
 まあ、無理ないよ。一歩間違えたら槍にザクッって殺られるから、さ。

「じゃあ、別々で行動しよう。お前等はお前等で出口を探せ。俺達も出口を目指すから」

 アルバが言ったと同時に、槍の列の真上の壁にクソ長い槍がドスッと刺さった。

Re:第15話 ( No.210 )
日時: 2013/11/10 09:13
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 無意識更新眠いです。


「さっきのメチャクチャ怖かった」
「……さっきの、とは?」
「お前のさ……あのー……」
「纏めて……」
「ほらあの小さいの。あれ、リンネが刀でグサッと……」
「え、あれ自然消滅したんじゃないの?」

 沈黙。

「自然消滅な訳ねェだろ!? それこそメチャクチャじゃねェか!! つかお前自分でやったの覚えてねーのかよ!? 冗談抜きでお前何があったんだよ今留学生いないからちゃんと話せええぇ!!」

 アルバの説教モドキ。
 んー……。僕がやったってのは全く信じられないけど。

「全然覚えてないんだ。あの時のこと」
「覚えてない? あぁ、そう言うことか」

 アルバが呟く。多分、自然消滅の件だよ。

「まあ、覚えてないけど。ルピナスみたいにいつか解決するよ! 多分!」
「お前な……」

 思い切り溜め息を吐かれる。
 僕の目の前を黒い物が通った。……多分さっきのだ。

「アルバ、さっきから黒い影が……」
「気付いてるから。付いて行くか?」
「え、良い」
「おい」

 そう言いながらもシレッと影に付いて行ってる。
 扉に影が染み込んだ。扉には「ΘΕΑ」と書いた板が掛けてあった。

「セアー。……女神ってことだな」
「読めるの!?」
「俺こんなでも一応平均点取れてんだからな!」

 意外。
 女神、か。なんで女神?
 僕はもの凄く当たり前な疑問を抱いて扉を開けた。

「在り来たり」
「それを言ったらお終いだ」

 本棚がズラッと並んでいて、奥にちょこんと机と椅子がある。
 机の上には小さい手帳が置いてあった。

「読んで良い? って言うか読んで!」

 意味が分からなかったから、アルバに振った。

「これ書いたの誰だよ……」
「我」
「ぎゃっ」

 ……うん。まあいきなり真後ろで「我」って言われたらビックリするよね。
 インダコさんだ。

「書イタノハ、紛レモナク我ダ」
「インダコさん、他の人見ましたか?」
「武藤、黄泉原、ト名乗ル者ニハ会エタガ……」
「サトルさんと由美さんだぁっ!」

 でもおかしい。

「ちょっと待て。インダコ……だよな? お前どこから螺旋の塔に来た?」
「貴様ト同ジ方向カラニ決マッテイルデアロウ」
「じゃあ、その二人を見つけたのはどこだ?」
「ソノ屋敷ノ中ダ」

 僕とアルバは顔を見合わせた。
 なんで二番目に出発した人を最後が追い越してるの!?

Re:第16話 ( No.211 )
日時: 2013/11/10 09:59
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 無意識更新眠いです。


 ……でもなんか……ん? そうだ!

「……生贄!」
「リンネ、頭大丈夫か?」
「正常だよ! インダコさん! 生贄ってどこで何してるんですか!?」

 そうだよ。由美さん達がそっちにいるなら生贄二人組もそこにいるかも知れない。

「虚空ハ知ッテイルカ?」
「はい」

 それ以前に僕はそこからこの世界に来たらしいです。

「ソレガ六ツアルノモ知ッテイルナ?」
「はい」

 校長に聞きました。

「藍紫ノ虚空ト呼バレル場所ニイル」
「ら、藍紫の虚空?」

 藍紫らんしの虚空は死の国——冥界に繋がっているらしい。

「ソノ場所ハコノ地下深クニアル」
「なるほど。ありがとうございます!!」

 地下深く。下に進めば良いんだね!

「この手帳を書いたのは、お前だったよな。読んでくれないか?」

 アルバがインダコさんに言う。

「読メルデアロウ?」
「難しい」
「知ラヌ。自分デ読メ。短イハズダ」

 確かに手帳には四行位しか文がなかった。短い文で四行。

「くっ……! 読めば良いんだろ!?」

 読まなくても良い気がしないでもないけど黙っておこう。

「時の門より広げる結界。姫の歌を届けるために。囚われの女神。動けぬ力が張り巡らす結界」
「姫がここには閉じ込められてるの?」

 僕は思ったことをそのまま言った。

「アア。色々アッテナ」

 当たってた!?

「仕方ナイ。虚空マデ送ッテヤロウ」

 インダコさんがブツブツと呪文を唱え始めた。直後体がフワッと浮いた……と思ったらそのまま落下!

「えぇ!?」

 僕は鞄を押さえてインダコさんを見上げる。
 いない。
 僕の頭の中に声が響いた。

   ——貴様、複雑ナ運命ノ元ヘ生マレタノダナ——

 インダコさんの声だ。
 複雑、か。神様のせいで人生メチャクチャだね。

「リンネーっ!」

 下を見ると、アルバが僕に向かって叫んでる。
 なんか安定してる、って——

「ええぇえ!?」

 僕はそのまま落ちる。絨毯に。
 即効で立ち上がり、アルバに

「いつから絨毯とか使えるようになってたの!?」

と、叫ぶ。

「落ち着け。コイツが起きるだろ」

 ノアが起きる。うん、それは避けよう。

「——これってちゃんと下に向かってる?」
「エレベーターみたいな言い方すんなよ。もうすぐだから安心しろ」

 アルバはそう言ってノアを絨毯の上に置いた。
 ……ノアが女の子にしか見えない件。どうしよう。僕なんかよりずっと女の子だ。
 闇属性とかもうこの際どうでも良いと思う。だから何? で済ませれるくらいに可愛いと思う。

「リンネ、コイツの服って……」
「うん。僕の」
「なんでお前の服を男のコイツが着てるんだよ」

 僕がアルバに、事情を話す。

「そう言うの、早く言えよ」
「だって、言う機会が……」
「この前の闇属性の話した時言えただろ」
「だって、留学の話とかが混じっちゃって……」

 言い訳をする。

「……いや、俺色々あって女子の服持ってるんだよ」
「はぁ!?」

 色々と腹が立つよ、この人……!

「ほら、着いたぞ」

 アルバがそう言った。
 見ると僕達の目の前には、骨で作られたトンネルと、その前にある骸骨の群れがいた。

Re:第17話 ( No.212 )
日時: 2013/11/10 19:40
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: リンネとアルバは僕の中では掛け替えのない存在です。


「うわ……」

 アルバ、もう慣れたね。
 宙とシュン君は……いる。よし。

「じゃ、後はよろしく!」
「ちょっ待てよ!!」

 アルバの声が聞こえた? 気のせい、気のせい。僕もう飛んじゃってるから戻れないよ。
 僕はそのまま地面に降りた。元々の風魔法で全然痛くないんだよ。まあ、さっき落ちた時もそうしとけば良かったんだけど。

「今から何するんですか?」

 僕は目の前で明らかに不審そうな顔をしている骸骨に訊く。

「あ゛ぁん? テメェなんだよぃ」

 酔っ払いか。死体の分際で。

「ねえ、僕の質問答えてよ」
「ざけんなぁ、答える訳ねぃだろぅ」

 もはや何言ってるのか分からん。骨の分際で。

「答えないなら要らない」

 満面の笑みでそれ(骨の塊)を壊す。で、骨の一部を虚空に放り込む。

「なっ、何してんじゃい! 殺すぞクソ餓鬼が!」
「今から何するんですか。って質問、まだ答えて貰ってない」

 僕は骨の大群を使ってジャンプして、魔法で飛ぶ。そのまま宙とシュン君の所に向かった。
 下がさっき見たときより騒いでるな、としか感想が出て来ないわ。
 あ、発見。

「宙!」
「あ、リンネ!」

 なんだ、大丈夫じゃないか。
 僕は魔法を解いた。

「ねえ、これどう言うこと? なんか起きたらこんな所にいたんだけど」
「うん。きみの馬鹿さは僕が一番知ってるから大丈夫。このままだと君あの世に逝くことになるよ?」
「はい!?」

 シュン君は寝てるからここは置いといて。

「とりあえずその蛇斬るから動かないでね」

 僕は宙とシュン君の腕に(何故か)巻き付いている蛇を斬った。
 そこに丁度アルバが来る。

「ジャストタイミング! サッサと逃げるぞ!」
「お、おう……」

 僕が宙を絨毯に乗せて、シュン君はアルバが(渋々)回収した。

「逃げたぞぁ!!」

 なんだよアイツ等、語尾おかしいんだよバーカ!


                       * * *


「ふう。疲れた」
「お前、全く疲れてないだろ」
「否定はしない」

 落ちた場所に上がった筈なのに、螺旋の塔の外に来ていた。
 多分インダコさんがそう言う仕組みにしたんだろう。

「リンネ!! あと……アルバさーん!」
「ドロシー! 日向! 大丈夫だった!?」
「うん! そっちは?」
「大変だったよ……。まあ、なんとかなったけど」
「俺はおまけか」

 アルバの言葉を完全無視して、僕とドロシーはキャッキャと話をしていた。

「ゴール。皆さん、よくやりましたね」
「校長!?」

 いつの間にか目の前に、校長が立っていた。

「ここがゴールですよ」

 小高い丘の上がゴールか。校長らしいっちゃらしいな。

「……でも僕、行くところあるんで。待ってて下さい」
「どこ行くんだよ」

 アルバが僕に訊いた。直後、顔色が変わる。

「大丈夫?」
「お前、まさかあそこ行くのか!?」
「イエス。あそこに行って来ます。あ、先生。箒を室内で使うので、許可下さい。強制」

 僕は箒を呼んで、螺旋の塔に向かった。

Re:第18話 ( No.213 )
日時: 2013/11/15 15:06
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: リンネとアルバは僕の中では掛け替えのない存在です。

「インダコさーん!! いますかーっ!?」

 箒に乗りながらそう叫ぶ。時々幽霊が寄って来るけど魔法でふっ飛ばしてるから大丈夫。

「五月蠅イゾ。ヤット外ニ出レタモノヲ……。二人揃ッテ」

 セアーと書かれた扉からインダコさんが出て来た。

「インダコさん! ……って二人ですか?」

 僕が首を傾げると、後ろの方でゴトンと音がした。

「早ク出テ来イ。ソコ」

 そこから出て来たのはまさかのアルバ。

「アルバ!? なんでここに!?」
「お前だけで行けるかよ! いやインダコいるけど!」

 いきなり開き直られた。

「——インダコさん。姫はどこにいるんですか?」
「マサカ探ス気カ?」
「はい。こっちは手伝って貰ったんですから」
「フム、意味ノ分カラン娘ダ」

 ど、どうせ僕は息子ですよっ!

「聞かなくても分かるだろ」
「へ!? 全く分かんない!」
「冥界だよ冥界。死界だからな、冥界の掟って物で縛られるんだよ。結界張るには丁度良い」
「思ッタヨリモ使エル頭デハナイカ」

 インダコさんとアルバが地味に張り合っている。
 まあ、そうと分かれば話は早い。

「——風よ、我が望みを聴き入れたまえ!」
「おい待て! 落ち着け!!」


「よし、着いた」

 見事に骸骨の頭の上に着地。アルバは……あの野郎、絨毯使いやがったな。インダコさんと一緒に。
 とりあえず、あの虚空に入る必要があるみたい。
 僕は骸骨の頭を使って虚空に向かった。アルバカめ……、乗せて行ってくれても良いじゃないか。……校長は近寄るなって言ってたけど、今回は仕方ないよね。
 僕は骨で作られたトンネル——虚空を潜った。


「痛っ……うわあ! 何これっ!」

 僕の目の前には森林が広がっていた。空を見上げると、鋼……かな。銀色の機械みたいな物で覆われている。

「大丈夫か?」
「ぎゃっ! あ、アルバカ」
「アルバカって言うな!」
「アルバ、ここって……」
「冥界ダ」

 なんか、僕がこの前来た時とは随分と違うんだけど?

「とりあえず、行ったら良いんだよね?」
「そうだな」
「……質問。ここって冥界のどの部分ですか?」
「コキュートス、ダナ」

 ……コキュートス、か。イメージと大分違う。まあ、ここだったらなんとなく分からなくもない。
 僕達はてくてくと森林の中を歩いていた。湖が見えた所で、

「なんだ? お前等……。死者……じゃないな」

と言う声が聞こえた。

「ぎゃああああ!!!!!」
「アルバ五月蠅い。えっと、貴方は……?」

 湖の淵に、僕と同じくらいの年頃の、真っ黒なフードを被った男の子が立っていた。

「オレ? カローンってんだ。お前の名前は?」
「僕は、リンネ。十六夜霖音。カローンさん、ここで何してるの?」

 僕にしてはけっこう良い感じに聞けた気がする。
 カローンさんは、フッと笑って——

「——オレは、死んだヤツをそこの湖に落とすんだよ」

Re:第19話 ( No.214 )
日時: 2013/11/14 16:54
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 結局力尽きる紅雪。←


「……ストオオォオォォップ!!」
「何。驚いた」
「いや、驚いてないでしょ!? ってか何それ人殺してるの!? コキュートスだよねここ、何これ誰がそれしろって言った!!」
「落ち着けリンネ」

 完全に息を荒げている僕を見て、アルバが溜め息を吐いた。

「で、なんで?」
「チッ……。ほら、ああ言うのは無意識にこっちに集まるんだ」

 カローンさんが指を指した方を見ると、全然知らないおじさんが歩いて来ていた。
 無意識って……僕らは論外だよね。うん。

「ああ言うのをオレは——」

 カローンさんが指を鳴らすと箒が飛んで来た。それに飛び乗って、おじさんの近くへ行く。

「——!」

 突き落とした!?
 でも……、なんか……、凄く……。悲しそうな顔してた。

「おい! 何してんだアイツ! おっさん溺れてるぞ!!」

 溺れてるって言うかもう沈んでる。

「と、こんな仕事をしてる。引いただろ? どっか行け」

 いつの間にか戻って来ていたカローンさん。勿論箒からは降りている。

「いや、別に……。僕的にはどっちでも良い……。って言うか、姫って知りません?」
「は? お前、そこに叩き落とされたいのか!?」
「な訳ないじゃないですか。落とすならこっちの人が絶対に良いよ!」
「俺かよ!」

 アルバの服をグイッと引く。
 カローンさんはもの凄い呆れ顔で

「知ってる。まあ、怖がらなかったって言うだけでも相当だからな。良いぜ、連れてってやるよ」
「やった! ありがとう!! ……って、仕事は?」

 カローンさんは僕をジッと見て

「——良いよ、別に」

と呟いた。
 でも、その後もずっと僕を見てる。

「あ、あの、僕の顔に何か付いてますか?」

 若干焦って聞く。

「あ、いや……。別に……。じゃあ、案内するから」

 カローンさんが目を逸らして言った。
 しばらく歩いていると、不意にカローンさんが何か言った気がするけど、多分気のせい。


                       * * *


「コレハ……!?」

 さっきまで黙り込んでいたインダコさんがいきなり声を出した。

「この中だよ。……オレ、今からやることあるから」
「え……、うん。ありがとう!!」

 僕はカローンさんに手を振った。

「よし、行こう!!」
「お前が仕切るな。今はは状況的に現実的に普通に考えてインダコが先頭に立つ所だ」
「う、うん」

 アルバから鋭いツッコミを貰う。
 僕はインダコさんを先頭に出して、アルバの隣を歩くことにした。
 と言っても、いかにも何かが出そうなトンネルなんだけど。

「デハ、出陣!!」
「……アルバ、出陣って何?」
「おいこら」

Re:第20話 ( No.215 )
日時: 2013/11/14 21:11
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 結局力尽きる紅雪。←


 テクテクと歩き続けて約一時間。多分。
 ドロシー達どうしてるかな。時間は……今はだいたい三時くらいかな……。

「モウソロソロダナ」
「そうだな。変な物が集まって来てる」

 アルバとインダコさんが良く分からない会話をしている。
 変な物、か。

   ——君はあの時の!? 何故ここに!?——

「ぎゃあっ!!」
「どうした? なんか見えたのか?」
「う、ううん……。なんでもない」
「そうか」

 えっと、誰ですか?

   ——ヒュプノス。もう忘れたのかい?——

「うわあああああ!!」
「次は何」
「ご、ごめん……」

 僕はアルバのコートをしっかり握った。

   ——すまない。で、なんで君はここへ?——

 なんか、お姫様が閉じ込められてるらしいんですけど。ヒュプノスさんは何か知りませんか?

   ——お姫様……? あぁ、姫か。もう少しで着くね。でも……くそっ、黙れ!——

 ヒュプノスさんが叫ぶ。
 何かあったんですか? 僕何かしましたか?

   ——タナトスが五月蠅いだけだ。安心してくれ——

 あー……タナトス。生きてたんですね。

   ——コイツは死だからな。基本不死身だ——

 うっざ……。まあ、続きをどうぞ。

   ——この前の熊をタナトスが出してな。気を付けてくれ——

「はいぃ!?」
「五月蠅いぞ」
「アルバアルバ! この後熊いっぱい出て来るから気を付けてっ!」
「く、熊?」
「うん! 熊! インダコさんも……って言いたいところだけど、もう大丈夫っぽいね」

 僕はアルバの手を引いてインダコさんの真後ろにくっ付いた。


                       * * *


「着いたけど……」

 インダコさん、何だかんだで熊撃退してたからな……。幽霊モドキでも疲れるよね。
 でも防波堤インダコさんがいなくなった。これからは僕、トラウマと闘う必要があるんだな。……って言っても、もう目の前なんだけど。

「インダコさん、大丈夫ですか?」
「問題ナイ」

 問題なくないから聞いてるんだけど。

「インダコさんはここで休んでいて下さい」

 僕はアルバの手を引いたままで、洞窟の奥へ走った。

「硝子……?」
「なるほど、そう来たか」

 アルバが腕を組んで呟いた。

「気を付けろよ」
「うん」

 言われなくても。
 僕はアルバのコートをさっきよりも強く握った。
 しばらく歩くと、奥で何かが光った。

「何か見えたよ?」
「そうだな」

 そこへ向かうと、鎖で繋がれた透明な女の人——!?

「え……えぇ!?」

 ポカンと口を開ける僕を余所に、その人は言った。

「——嗚呼、我が娘。よくぞ」

Re:第21話 ( No.216 )
日時: 2013/11/14 22:10
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 結局力尽きる紅雪。←


 ——は?

「今、なんて……」
「聞くな」

 アルバに言われ、僕は口を噤んだ。

「お前、なんだ?」
「我、貴方の母。よくぞ」
「誰の?」
「……ふっ、騙されなかったか」

 何が起こったああぁぁあぁあぁぁ!?

「やっぱりな。エキドナが……!」

 エキドナ。神話で見た。上半身は女の人で、下半身は蛇の化け物。……でも、その人にはちゃんと足もあるよ?

「そこまで分かっていたか。ならば話は早い。——行け! コウシュオン!」

 え、何語? コウシュオン?

「ヤバいぞ」
「えぇ!? 散々言っといて!?」
「いや、まさかアイツ等出されるとは……」

 熊の軍。
 刀だあぁ……。終われ。

「ねえ、あの人が姫なの!?」
「まあ一方通行だったからな。アイツだな」
「じゃあ、インダコさんは!?」

 インダコさんは何なんだ?

「さあな。とりあえずコイツ等はなんとかしないと」
「えー……。じゃあちょっと伏せといてよ。頑張るから」

 僕は刀を抜いてアルバに言った。

「風よ、鋭い刃と為せ、彼の者を切り刻め!!」

 叫びながら刀を振るう。
 熊は……消えた。

「うぅ……ゲホッゲホッ」

 よく分からないけど立っていられなくなって、その場に座り込んで咳込む。
 でも、まだ何体か残ってるみたい……。
 熊が二体同時に飛び掛かって来た。

「くっ!」

 アルバがその熊を二体、斬った!?
 見ると、アルバの手は光っている。——凍ってる。

「まだまだだな……。しかも、意外に体力使う……。リンネ、逃げ——」
「ちょっ……大丈夫!?」

 そのままアルバは倒れ込んだ。
 僕は膝をついてアルバを支える。そのままゆっくり地面に置いた。動かないから、気絶してる……んだと思う。
 僕は咳も止まって一応立てるけど、ぶっちゃけもう魔法使える気がしない。にも拘らず、熊——はコウシュオン。
 僕は目を閉じた。頬を生暖かい物が伝う。汗、涙、血、どれだろう。
 ごめん。僕のせいで、アルバまで巻き込んで死んじゃう——

「そんなこと、させない!」
「……え?」

 声が聞こえた。
 少し目を開けると、水色の長い髪が見えた。少し霞んで見えるけど、僕と同じ紅色の瞳も見える。
 でも——、なんでその人は口から血を流しているの?
 よく見ると、その声の主——カローンさんの腹部から鋭く光る物が見えた。

「か……たな!?」

 そう。僕にそっくりな子——カローンさんは、僕を庇って、コウシュオンの攻撃を受けた。

「なんで!!」

 僕が叫ぶと、

「なんでって……」

 カローンさんは少しだけ笑った後、目を閉じた。
 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!? 僕はなんで皆に守られてるの!? こんなの僕がもっと力を付けてれば二人も被害者を出さなくて済んだ! 僕は何をしてるんだ!
 こんなの——


 ——プツン。


「ふっ、お前も色々と大変なんだな。まあ、ここまで来れたのは褒めてやるよ」

 “私”はそう呟いてから、刀を抜いた。

Re:第22話 ( No.217 )
日時: 2013/11/15 17:53
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 二日連続の早退。本当にごめんなさい……。


 目が覚めると、骸骨達のいる場所の上空にいた。絨毯の上。
 アルバがそれの隅っこの方で僕に似た子、カローンさんを見ていた。

「な、何してんの!?」

 ガバッと起きてアルバに言う。

「似てるな。コイツ、誰? 一応回収したけど……。怪我してるし」
「カローンさん。最初はよく分かんなかったけど、声的に——エキドナは!? って言うか生きてるっ!?」
「え!? カローン!? 生きてるって……死体連れて来てどうするんだよ」
「うん……。カローンさんだよ?」

 僕はホッと息を吐いてから言った。

「……俺が起きた時はエキドナいなかったし、コイツとお前が倒れてた。インダコも消えてたし」

 えー! 意味分かんないよっ!

「あ、もう一つ。お前なんか手を刀に付けて……」

 えーっ!?
 僕はカサカサと絨毯の上を這ってアルバの隣に座り直した。

「動き方が……」
「うぇ、やっぱり?」
「当たり前だろ。ゴキブリっぽかったぞ。まあ、このまま絨毯で出るつもりだから」
「うん」

 僕は下の骸骨を見て吐き気がするのを我慢する。空は紫一色。こっちはこっちで……。絨毯の柄でも見とこう。
 うーん……なんだ、青一色か。藍色かな。
 そう言えば、カローンさんって冥界の人だよね。連れて来て大丈夫だったのかな。しかも、何か一瞬で僕そっくりになったし。服は全然違うけど。
 と言うのも、大魔法使いになってから私服の雰囲気を少し変えたんだ。白いブラウスに僕の目と同じ色の膝まであるワンピース。
 カローンさんはなんか、んー……着物? 帯も含めて真っ白な着物を着ている。最初会った時は何かフードモドキを被ってて分からなかったけど……。

「スピード出すぞっ! 強制!」
「僕の台詞パクるな!」

 と言いつつもカローンさんを支える。隅っこは危ないから、真ん中の方に連れて行った。


                       * * *


「やっと地上っ!」
「あぁ……、そうだな」

 ハイテンションな僕にアルバがぐったりとしながら返事をする。
 まあ、現実的に考えてそうだよね。病気治って元気だったアルバがぶっ倒れるんだもんね。相当疲れてるよね……。

「うぅ……。ッ!?」
「起きた! ……さっきはありがとう。……あと、ごめんね。僕のせいで……」

 言いながら涙が溢れて来る。

「いやいや、泣くなよ。別に大したことしてないし」
「大したことだよっ! 死ぬ寸前だよ!? 何! 切腹狙いだった訳!?」

 僕が拳を握りしめて言うと

「落ち着け。とりあえず皆と合流するから、揺らすな!」

と言うアルバの声が聞こえた。
 今はまだ、幽霊屋敷内だから……、かな。
 アルバの絨毯がゴウッと音を立ててスピードを上げた。

「リンネ!」
「ドロシーっ!!」

 僕は塔から出た瞬間絨毯から飛び下りてドロシーに抱き付いた。

Re:第23話 ( No.218 )
日時: 2013/11/15 20:56
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 二日連続の早退。本当にごめんなさい……。


「えっと。何か凄い重症で……大丈夫?」
「大丈夫な訳ないよ」

 ドロシーの心配そうな声に日向がズバリ正論を言う。

「あ、言い忘れてましたが、参加者は明日……本日学校を休んで下さい。健康第一ですからね。では」

 いつの間にかいた校長がそう言ってから消えた。
 ゴール——小高い丘? で皆を待ちながらボーっとしていると

「まあ、私がいるから大丈夫だけどねっ!!!!!」

と言う声が聞こえて来た。
 勢いが良い声……

「フェイちゃんっ! と他の皆!!」
「オレ達はおまけか!?」
「はい」

 この後カペラが吠えたのは言うまでもなく。
 さっきインダコさんがサトルさんと由美さんしか見てないって言ってたけど……。

「フェイちゃん、なんか皆も遅かったけど、何かあったの?」
「んー。甲冑が襲って来てさ、逃げてたら遅くなっちゃった!」

 インダコさあああん!! マジやめろおぉおぉぉぉ!!

「え? 私達も見たよ? でもさ、凄い一方的に喋られたからせいぜい名字言う位しか出来なくてさ。蹴っちゃった!」
「蹴っちゃったんですか!?」

 こっちはこっちで怖い。

「ま、あれでしょ? この怪我治しちゃったら良いんでしょ?」
「うん」

「ヒール!」

 フェイちゃんがそう叫んで杖をブンッと振る。
 カローンさんの腹部の血が止まった。

「もしかしてお前、フェイか?」
「おー、よく分かったね! フェイだよっ! フェイ・コスモス! あ、精霊の名前でもフェイだよっ!」

 うわー、何かフェイちゃんタイム……もとい、フェイワールド始まったわ。

「でねでね、ホントは妖精なんだけど、人として生きて行くことにしてさ——」

「あ、太陽……」

 フェイちゃんを余所に、僕は呟く。
 丘の上からは、地平線の向こうから太陽が覗いているのが見えた。

「凄い……! こんなの見るの初めてだよっ!!」

 僕が一人でキャッキャと飛び跳ねていると、上から長い布状の物が降って来た。
 何かちょっと石鹸の香りがするんだけど。洗ったばかり?

「うわ寒い。よくこの気温で平然としてられるな……」
「いや、僕にわざわざ巻かなくて良いよ……。って言うかなんか悪いよ」

 それに後ろからのあやかちゃんの視線が怖いよ。

「別に良いだろ。俺達一応だけど、恋人同士だし」

 耳元でこそっと言われて、僕は思い切り咳込んだ。顔は多分真っ赤。

「あのさ……いや、そうなんだけど……。覚えてたんだ」
「覚えてるも何も……、当たり前だろ!?」

 直後周りから笑われて、僕の顔がもっと赤くなった。
 アルバが唸りながら拳を震わせる。

「お、落ち着いて……」

 僕がアルバの首にストールを巻いた。
 アルバがあわあわと面白いリアクションをしてくれたから、思わず僕も笑ってしまう。
 それを見て、アルバは頭を掻きながら照れたように笑い出した。

「アッハハハッ!」
「変なのっ! これじゃあどっちが師匠だか分かんないよ!!」
「な、何ィ!?」

 アルバはそう言ってフェイちゃんと青嵐の方に走って行った。
 そう言えば、結局ノアは寝たままだったな。帰ってから部屋に寝かせてあげないと……。
 学校は……休んで良いんだっけ。お言葉に甘えます。
 今日は肝試しがあった。留学生のドロシーと日向が来て、そのお祝いらしい。でも、ぶっちゃけそれ以上に凄いことがあった。幽霊屋敷で虚空に入っちゃって、そこでエキドナに会った。インダコさんとエキドナは僕の予想だと、多分グルだったんだと思う。
 まあ、結局脱出したし、問題もなかったけど。カローンさんを連れて来ちゃったけど、コキュートスの人っぽいから心配。
 でも、その後見た朝日が凄く綺麗だった。よく考えてみたら、太陽って全ての人に与えられる物だよね。
 とか深いことを考えるけど、まだよく分からないから良いや!