二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:第24話 ( No.221 )
日時: 2013/11/16 00:08
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
参照: 二日連続の早退。本当にごめんなさい……。


 その後まあ、色々あって留学生二人は今日帰る。
 んーと、こう君にもプレゼントあげたからな……。二人には何か送る物……良いや。異世界じゃないから行こうと思えば行ける距離だし。何よりも大切なのは「気持ち」だし。
 そんなことを考えながら学校の廊下を歩いていると……

「はぁ? それ謝ってるつもり?」
「ちゃんと謝んなさいよぉー!」
「アハハハハッ!」

 うわあああああああ。いじめ来たこれえええええ。
 どうしようかな。止めて良いのかな。でもなんか面倒臭いことになりそうだな。チラッとそっちを見ると、……ソアラ。
 えー……!?

「何してるんですか?」

 この前も同じようなこと言った気がする。男子だったけど。

「り、リンネ!?」
「うん。リンネだよ?」
「何してんの!? 逃げてよ!」
「君こそ何してんのさ……。てか何この状況?」

 僕はソアラに暴力を振っていた馬鹿女子を完全無視して事情を聞く。

「いや、分かんないけど。いきなり」
「なんでいじめるんですか?」
「はっ、なんでってそりゃ、アルバ様——」
「はいもう分かりました諦めて下さいさようなら」

 僕は真顔でそう言って、ソアラの手を引き廊下を曲がった。
 どうせアレだ。「アルバ様の心を弄ぶ弟子が大嫌いなのよっ!」ってパターンだ。もうあれから十回は体験している。

「もう疲れたよ……」
「ご、ごめん」
「え? 別にソアラに言った訳じゃないよ?」

 僕は苦笑いを浮かべながら言った。

「……僕、今からドロシー達探さないと」
「そ、そうだったんだ。じゃあ、バイバイ! 明日ね!」
「うん!」

 廊下を曲がる。

「おいっ! クソ女!」

 あちゃー……。

「誰ですか、クソ女って」
「テメェだよ!」
「五月蠅い!」

 僕はさっきの女子に思い切り蹴りを入れていた。
 で、その勢いでその近くにいた人に——

「あ、日向。……どいてっ!」
「え——」

 あー。ごめんなさい。

「あ……ははっ、日向ぶっ倒れてる」
「ご、ごめん! ドロシー。と、日向。保健室連れて行くね」
「うん! 運ぼっ!」

 何故かノリノリのドロシーと一緒に日向を運ぶ。
 罪悪感がもの凄い……。


                       * * *


「あらら、じゃあそこに寝かせてちょうだい」
「はい」

 保健室の先生の言う通りに、ソファに日向を寝かせた。

「んー、問題ないわね。ホント、なんで気絶してんのってくらいね……」
「え……」
「うわダサい」

 心配して損した。

「あら? もしかして留学生お二人さん?」
「あ、はい! 今日帰るんですけどね」

 ドロシーがエヘヘと笑って言った。

「でも、もうそろそろバスが来るわよ?」
「えぇ!? も、もうそろそろ!? ちょ、日向起きてっ!」

 そう言いながら日向の頬をパンパンと叩くドロシーは多分僕以上の馬鹿。

「ドロシー、落ち着こうか」
「お、落ち着いてらんないよ! 一応もう準備は出来てるけど教室に全部置いて来ちゃってるんだから!」
「じゃあ僕が起こしとくから準備! 早く!」

 僕がそう言ってソファを叩くと日向が起きた。

「起きたんならお前も行け!! 失礼しました!!」
「ええ、またねー」

 保険の先生に手を振って、日向の手を引き猛ダッシュ。ドロシーが速い! 追いつかないんだけどっ!?

Re:第25話 ( No.222 )
日時: 2013/11/16 21:49
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)

「遅かったね」
「ドロシーが早いだけ」

 日向がそう言って荷物を持った。
 ——僕が色々と置いて行かれてるんだけど。
 と、色々あって校舎を出たら、丁度バスが来た。

「じゃあ、お別れだね」
「お別れって言っても、時間があったら行ける距離だよね」
「確かにそうだね! んじゃあ遊びに来てよっ!」
「じ、時間があったらね」

 僕は苦笑いをする。

「ドロシー……早く」
「あ、うん! バイバーイ!」
「じゃあね、ドロシー! 日向!」

 僕はバスが見えなくなるまで手を振った。

「よし。終わったか」
「うわあああっ!?」
「普通そこまで驚くか?」

 僕の真後ろにアルバがいた。

「な、何……?」
「アイツが起きた」
「マジっ!? 行くよっ!!」

 僕はアルバを急かして絨毯に乗った。


                       * * *


「カローンさん!!」

 僕が扉を開けながら叫んだ。
 すると、バタンと言う音がして、ベットの下から僕そっくりの男の子が出て来た。
 この前、フェイワールドが終わった直後、カローンさんはそのまま倒れた。カミュさん曰く「疲れたんだろう」。カペラ曰く「フェイのせい」。
 ぶっちゃけどっちでも良いけど。結局空き部屋があるアルバの家に預けられたんだ。

「な、なんだ!?」
「えーっと。ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳ないだろ……。まあ、フェイのおかげで怪我は治った」

 僕はホッとしてベットの近くの椅子に座った。

「あ、カローンさん」
「何だ? オレここではカローンじゃない……」
「じゃあ何て呼べば良いですか?」

 ベットに座りながら言うカローンさんに訊く。

「ここは魔界だから……。んー、オレ孤独だしアローンって所だな」
「今決めましたね」
「五月蠅い」

 何よりも一週間近くここで預かって貰っといて「孤独」とか言い出すヤツがあるか。
 アローンって言うのは「孤独」「独りで」って言う感じの意味があるらしい。アルバが勉強してるのをこの前覗いた。

「まあ、アローンで良いんですね?」
「呼び捨てで良いし……。敬語とかマジ良いから」
「じゃあ、僕のこともリンネって呼び捨てでお願いしまーす! まあ、元気そうで何よりだよ」

 僕は若干の殺気と喜びを混ぜ合わせた様なオーラをかもし出す。

「ついでに人間界では?」
「は?」
「僕は人間界だろうと魔界だろうと冥界だろうと天界だろうと何だろうと、十六夜霖音なんだけど」

 カロー……、アローンは一瞬顔をしかめた。

「オレは……人間界では……、霤天。霤天って言うんだ」
「るてん、か。……字で書いてみて」

 僕はその辺にあった紙と鉛筆を渡した。
 アローンは溜め息を吐いたけど、書いてくれた。「霤天」か……。

「僕の字はねー」

 僕はそう言いながら、久しぶりに「霖音」と言う字を書いてみる。
 学校の教科書やテスト用紙には常に「十六夜 リンネ」と書いてるから、下の名前を漢字で書くのなんて数か月ぶりなんてものじゃない。

「名前の雰囲気が似てる」
「へ? あー、ホントだ!」

 僕は紙に書かれた、ちょっと潰れた自分の字と、習字で書かれたみたいな綺麗な字を見比べてそう叫んだ。
 どっちも「雨」が付いてるし、最初の字は難しくて次が簡単って言う共通点がある。読み方も、「輪廻」と「流転」だし。流転輪廻なんて言葉もあるし……。

「名字は……言わね!」
「ひっどーい!」

 僕とアローンはそう言って笑いあった。

Re:第26話 ( No.223 )
日時: 2013/11/16 22:26
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「おーい、二人共いるかー?」
「いるよー!」

 扉の向こうから声が聞こえて来たから、僕はそう叫んだ。

「ちょ、オレがさっき滅茶苦茶笑ってたのとか絶対言うなよ!?」
「なんで?」
「は、恥ずいだろ!?」
「あーうん。分かった。言わない」

 本当に言わないように注意しとこう。ふ、フラグじゃないからっ!

「飲み物とか薬とか、色々持って来たんだ……大分元気っぽいな」
「うん。さっきも……普通に大丈夫だよ」

 危ない。アローンに殺される所だった。

「あとね、ここではカローンじゃなくてアローンって言う名前なんだよ」
「アローン? 孤独?」
「気にしないであげて。若干の被害妄想から生まれただけだから」
「被害妄想だと!?」

 アローンがいきなり切れたから、僕は思い切り笑ってしまった。

「お前等が仲良いのはよく分かった。爆ぜろ」
「嫌だよ。爆ぜてたまるか。って言うか爆ぜるのはエキドナとタナトスで充分」

 僕とアルバは同時に頷いた。
 アローンはそれを見て溜め息をついた。

「そう言えばさっき言おうとしてて思い切り忘れてたんだけど、霤天はこの後どうするの?」
「とりあえず冥界に帰るかここに留まるか——霤天言うな!!」

 なんか、ルピナスがアミスタさんに「シアン」って言われた時に反応が似てる……。

「でもさ、確かにわら……あのことは言わないって言ったけど、その名前も言うなとは言われてない」
「ヒデェ……」

 僕とアローンはこそっと笑う。
 アルバはそれを見て

「何してんだよお前等。つかなんでそんなコソコソと……」

と言う。

「ねえ、アルバになら言って良い? 何だかんだでこの人約束は守るし、守らなかったら冥界に送ったら良いし」
「何その責任感! そんなんだったら言わないで良いから!!」

 アルバがもの凄く動揺してくれた。

「いや、言わなかったら良いし……。コイツになら言って良い気がする……」
「わあっ! 霤天が自分から!?」
「霤天言うな。せめてアローンだ」
「わ、分かった……」

 僕がアルバの持って来たお茶を飲んでいる間、何故かアルバは地面に座って、アローンはベットの上に胡坐を掻いて説明していた。

「なるほどなー……リンネが浮気して、んでそこに俺が来た——」
「何聞いてたんだよ!!」

 僕は思わずツッコミを入れる。

「嘘だっての。まあ、アレだろ? アローンはけっこう明るい良いヤツでした、と」
「うん。そう言うこと」
「違う!!」

 あらら。としか感想がない。本当のことなのに……。

「——アルバーっ! アールーバー!! いるー!?」

「呼ばれてるよ? 声的に……ソアラかな?」

 僕がそう言うと、アルバは

「凄く嫌な予感がする……」

と言いながら震えている。
 相当だよこれは。

「僕代わりに行って来る」

 そう言ってソアラの声がした方へ向かった。

Re:第27話 ( No.224 )
日時: 2013/11/16 23:25
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 玄関の扉を開くと、ソアラが息を切らしながら立っていた。

「あ、あれ? アルバは!?」
「何かいきなり痙攣起こしたから僕が代わりに来た」

 嘘だけど本当。

「で、用は?」
「そう! 大変なんだっ! さっき何かいじめ? あれあったでしょ?」
「うん」
「で、それを止めたリンネの弟子? の、ノアさんが人質になっちゃって……」
「そう言うのはアルバじゃなくて僕に言うんだよ!?」
「だって家にいなかったから……」

 うん。ごめんなさい。でも最初に「あれ? アルバは!?」とか言いだしたのは誰だろうね。
 僕は箒を出しながら

「場所は?」

と訊く。

「孤島!」
「分かった!」

 僕はそう言いながら飛んだから、箒がグラグラと揺れた。から、一回転。
 ……よし、安定した。行くぞ!

「待て!」
「はいぃ!?」

 僕の乗っている箒はそのままジェットコースターみたいに回転して声のした方を向く。
 ——アローン!?

「オレも行くから」
「え!? 大丈夫なの!?」

 僕が体を前に傾けると、箒がスッと下の方へ動いた。
 アローンは無言で頷くと、僕に向かって手招きをした。

「ぼ、僕も行こうか?」
「ううん。良い。ありがとう! 奥の部屋で死にかけてるアルバを助けてあげて!」
「う、うん!」

 ソアラが家の中に入るのを見てから上に上がる。
 ……妙に重い。

「おいこらなんで乗ってるんだ君は」
「まだこの世界に慣れてない。魔力がまともに使えないからな。箒も持ってないから飛ぶにしてもまともな方法がない」

 うぐぅ……! 否定出来ない……。

「——頑張る。から、しっかり捕まっててよねっ!!」

 僕はそう言ってから今までで一番って言っても嘘じゃないと思うスピードを出した。

 僕とアローンは商店街の前で箒から降りると、それを持ったままで海岸に向かって猛ダッシュ。


                        * * *


「じゃあ、よろしくお願いします!」

 箒タクシーと言う職業をしている(らしい)、マッハさんに頼んで孤島まで送って貰うことにした。
 タクシーは海の上をスケートをしてるみたいに移動していた。

「で、どうするつもりなんだ?」
「うん。とりあえず和解? 頑張ってみて、無理だったら凍らせる」
「駄目だコイツ。将来大人になった時が……」

「もうすぐ、孤島に到着する——」

 ……着いたけど。

「ねえ、絶対ずれてるよね」
「間違いなく」

 目の前にはノアを人質にしている女子。ではなく、ノアを人質にしている男子。

「これはどうすれば良いんだろう」
「さあ」

 でも、なんでだろう。男子達の後ろに何かある——何か、歌が聞こえて来た……?

Re:第28話 ( No.225 )
日時: 2013/11/17 00:41
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「♪〜♪♪〜」

 どうしよう凄い歌ってる。誰が歌ってるんだ。

「セイレーンだ。なるほど。操ってるのか……」
「ちょ、勝手に理解して満足しないで」

 僕はアローンの着物の裾を引きながら言った。

「ノア、大丈夫ー!?」
「え、あれ!? リンネ!?」
「リンネだよー! で、何この状況」
「何かよく分かんないけど、女の人達に捕まったと思ったら、いきなり男の人に変わって——」

 なるほどアルバは“男子”に好かれていたのか。

「お前も凄いこと考えるよな」
「ん? もしかして僕の心読んだ?」
「な訳ねェだろ。口に出してたぞ」
「あらら。とりあえずセイレーンを刺したら良いの?」

 僕はそう言って刀を取り出す。

「まあ待て。ああ言うのはオレの得意分野だ。お前は魔法でアイツ等を凍らせろ。分かったな?」
「え、それ本気で言ってる? 僕としては一向に構わないよ?」
「じゃあ頑張ってろ。あ、歌聴くなよ?」

 そう言ってからアローンがザッザッと音を立てて歩き出す。
 どうしよう。この世のものとは思えない程に不安が……。
 とりあえず凍らせたら良いんだよね。

「待て! どこ行くつもりだ! って——」
「じゃ、バイバーイ!」

 僕はドロシーがお別れの時に言った「バイバーイ」をトレス……って言うのかな。真似してみた。
 で、馬鹿は凍った。ノアの所に行って

「変なことされてない?」

 第一声。

「何もされてないよ」

 完全に苦笑いされる。
 僕はノアをその場に座らせて、木の陰からアローンを探す。
 いた。……って言うか、何かジリジリと動いてる。何か見れば見るほどアローンが人間界の昔の人に見える。でも、持ってる物はまさかの——短剣。グルグルと回しながら何もない場所に話しかけている。
 くそ、武器交換したい……!

「——うん。分かった。じゃあ、止めてくれないか?」

 歌が止んだ。

「そうそう。じゃあ、これからは気を付けて。ヒェレテ」

 ヒェレテって何だあぁああぁ!? 何か戻って来たし!

「終わった。帰るぞ」
「え、リンネが二人?」
「それを言っちゃお終いだよ。僕は女だけどあっちは男だし」

 その後子供ならではの純粋発言(自分のこと女だと思ってるの? 的な)でアローンのテンションが沈んだ。


                       * * *


「ただいまー」

 って言ってもアルバの家だけど。
 何か、達成感がない。

「おかえり! どうだった!?」
「う、うん……えっと……」

 僕は苦笑いをしながらソアラの後ろにいるアルバの所へ行き、

「ホモ野郎……」

と呟く。

「どう言うことだああぁあぁ!?」

 ソアラとノアがアローンに色々聞いてたけど、僕はアルバから逃げるのに夢中で分かんなかった。
 今日は何か色々と大変だった。まず、留学生二人が帰った。カローンさんと話したら、意外に楽しい人だった。もう一つはアルバファンが男だった。
 留学生二人は多分また会える、気がする。から省略。
 アルバファンの件。なんか、ソアラをいじめてた女子たちにノアが誘拐されて、孤島に行ったら何故か男子がいた。セイレーンとアローンが和解した時には思わず(心で)叫んでしまった。
 帰った後、アルバに「ホモ野郎」と言ったらブチ切れられた。だから、アルバの家敷地内を凍らせてしまった。が、「てへぺろ」で終わらせた僕は別の意味で凄いと思う。

Re:第29話 ( No.226 )
日時: 2013/11/17 13:28
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 学校が騒がしかった。何があったんだとか聞く気すら起こらないほどに……。
 でも、その辺の話によると、今年二度目の「学園祭」が一週間後。で、出し物がまた演劇。
 ……色々と問題があるんだけど!?

「おっはよー! リンネ、今日も凄いしかめっ面……」
「五月蠅い黙れ」
「あ、演劇。あれね、この前と同じメンバーですることにしたんだ」

 僕の表情はまた暗くなっただろう。


                       * * *


「えー、ではー。二回目学園祭、演劇発表しまーす!」
「いえーい」

 この前と同じ丘の上で同じメンバー。

「次は……オーロ——」
「却下。またアレするのは嫌だ」

 僕は素早く反対する。

「仕方ないなァ……。まあ、想定内! これでどうだ! ヘンゼルとグレーテル!」
「まあ……、うん。それなら……」

 よく分かんないけど、まだマシかな?

「役は……眠れる森の美女のと同じ感じで良いよな?」
「やったー!」

 コロちゃんがガッツポーズをして言う。
 ……やっぱり女役楽しかったんだね。

「ソアラとアローンとノアが増えましたー!」
「あ、そうだった!」
「でもその前に。元魔法使い役はライト、頑張ってね。あと出来る人は衣装」

 そう言えば、僕はヘンゼルトグレーテルの話をあまりを知らないんだけど。
 二人が兄弟で親に捨てられて——って所くらいしか。

「オレ参加する前提?」

 アローンが聞いて来た。

「まあ、一応校長には話しつけてるし、出なかったとしても雑用はすると思う」
「マジかよ……」

 それ以前にアローン、僕そっくりだし。

「アローン君、主役行く? リンネに似てるから問題ないよ?」
「何言ってんのフェイちゃん!?」

 いや、だからと言ってアルバと兄妹ってのも変だけど。

「オレはそんなの興味ないからしない。……つかオレ、体弱いし」

 四分の一は嘘だと思う。
 アルバは心臓病にも拘らずやってたけどね。

「そっかぁ……。まあ、それじゃあ仕方ないよね。じゃあ、前と同じアルバだね」
「うっ……」

 僕とアルバが同時に息を飲んだ。

「ノヴァちゃんは——」
「あたし達の手伝いしてくれない……かな」

 櫻さんが手を挙げて言った。

「じゃあ、任せた」
「ふぇ!?」

 この子何だかんだであやかちゃんと同い年なんだよね。地味に女の子って思われてるし。

「ソアラは?」
「雑用」
「雑用多すぎですよリアさん」
「いやぁ、でも色々忙しいんだぞ? 雑用も」

 知らねェよ。
 今日は何故か今年二度目の「学園祭」の準備があった。
 ヘンゼルとグレーテル。僕は魔女を炎の渦に突き飛ばす係、グレーテル役。アルバがヘンゼル役だ。アローンとソアラは雑用係になって、ノアはナレーターのお手伝い係。
 アルバファンが増えたのは恐らくこの前の眠れる森の美女だと思うんだ。別に良いけど何か違和感がある。まあ、あと一週間だから練習しないと。

Re:第30話 ( No.227 )
日時: 2013/11/17 14:13
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 で、本番。
 台詞や仕草に色々と問題あるけど。まあ、初めての女の子役だし、頑張ろう。まあ、一人称僕のままだし、口調も変だけど。
 僕とアルバはまあ、特に服を変える必要はない。強いて言えば、アルバが強制的にストールを取られたことかな。

『むかしむかし、ある森のはずれに、貧乏な木こりがおかみさんや二人の子供達と暮らしていました』
『子どもの一人は男の子で名前をヘンゼルといい、もう一人は女の子でグレーテルと言います』

『ある年の事、夏だというのにひどい寒さがやってきて、畑の作物がすっかりかれてしまいました。唯でさえ貧乏な木こりは、その日に食べるパンもろくにありません』
『お腹が空きすぎて眠れずにいると、おかみさんが小声で話しかけてきました』

「ねえ、貴方。このままでは親子四人、死んでしまいますよ」

 小さいお母さん——あやかが言った。

「そうだろうな。……でも、しかたがない」
「ねえ、ここは思いきって、子どもを手放してみてはどう? 子どもたちの運命は、天の神さまにまかせて」
「なんだって!?」

 やけに嬉しそうに言うシュンさん。

「しーっ! 子供達が起きるよ」

 この二人のコンビ見てて怖い……。

「だってさ、このままこうしていても、どうせ皆飢え死にするに決まっているでしょう。だから二人の子どもを遠い森に連れ出して、置いてきぼりにするんだよ。運がよければ、私達も子供達も助かるでしょう」

 凄く渋々言ってるよこの子。

「それは、そうかもしれないが。……しかし、子どもたちを捨てるなんて、オレにはとても……」

 早く捨てに行くぞと言わんばかりの顔で言うシュンさん。

「じゃあ、このまま四人とも死ぬかい? 私は嫌だよ、このまま死ぬのを待つなんて」

 何だかんだで結局納得しちゃうお父さん。と言うかあやかちゃんが納得してる。

『この二人の話を、となりのへやの子どもたちがすっかり聞いていました。とっくに寝ている時間ですが、なにしろお腹がペコペコだったので寝るに寝られなかったのです』

 僕とアルバはもう色々な意味で静まり返っていた。
 ライトが僕達を照らす。

「僕達、捨てられちゃうんだ……」
「グレーテル、泣かなくても良いよ。俺が付いてるから」

 アルバ——ヘンゼルは、グレーテルの頭を撫でてから

「俺は、例え捨てられても家に帰ってこれる、良い方法を考えたんだ」

と言いながら目を輝かせた。

『ヘンゼルはそう言うと、まどから外へ抜け出して、道に落ちている白い小石を集めました』

 櫻さんがそう言った直後、ライトが消えた。

Re:第31話 ( No.228 )
日時: 2013/11/17 14:48
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


『次の朝、まだ夜が明けきらないうちに、お母さんが子どもたちを起こしました』

「今日は、森へ行きますよ。はい、これはお弁当」

 あやかちゃんはそう言って、小さなパンを一つずつ僕とアルバに渡した。

「食事はこれっきりなんだから、食べたくてもお昼になるまでがまんするのですよ」

『四人はそろって、森へ出かけました。その途中、ヘンゼルは時々立ち止まって、自分の家を振り返りました。そしていま来た道をたしかめると、目印に昨日ひろった白い小石を一つずつ、こっそり落としていったのです』

「どうして、そんなに立ち止まるんだい?」
「うん、うちの家の屋根に白いネコが上がって、俺達にさようならしてるんだ」

 アルバがシュンさんに言った。

「あれは屋根にお日さまがあたって、チカチカ光ってるんだよ」

 あやかちゃんが満面の笑みで言った。
 でも、慎重にもの凄い違和感が……。違和感が……。違和感、が——。

『そのうちに、四人は目的の場所へやってきました。ここは、深い深い森の中です』

「さあお前達、小枝を沢山集めておいで」
『子どもたちが小枝を集めると、お父さんが火を付けて言いました』
「寒くないように、たき火にあたって待っていなさい。お父さんとお母さんは、この近くで木を切っているからね。仕事がすんだら、呼んであげるよ」

 シュンさん顔が怖いです。

『二人の子どもがたき火にあたっていると、やがて少しはなれた所から、コツン、コツンと、木を切る音がしてきました』
『二人はお昼になって、パンを食べました。小さなパンは、あっという間になくなりました。コツン、コツンと木を切る音は、お昼も休まずに続いていました』
『退屈した子どもたちは横になると、いつの間にかぐっすり寝込んでしまいました。そのうちに火が消えて寒さにふるえながら目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっています。ですが木を切る音は、まだ続いています』

 ぶっちゃけこれ、演技が疲れる。
 アルバに至ってはボソボソと「疲れただるい終われ」と呟いてるし……。

『さびしくなった二人は、音をたよりに行ってみました。するとそれは木を切る音ではなくて、えだにぶらさげた丸太が風にゆられてぶつかる音だったのです』

 親最低だ。
 うげ、次僕台詞だ……。

「お父さーん! お母さーん!」

 勿論返事はない。
 カーテンの中でシュンさんがニヤニヤと笑っていて気持ち悪い。

「僕達、本当に捨てられたんだ!」

 だってそう言ってたじゃん。
 自分の台詞に自分で突っ込んだ。

「泣かなくても大丈夫だ。ちゃんと帰れるから。月が出るまで、待って」

 了解。

『やがて月が出ると、足元が明るくなりました』
『すると、どうでしょう。ヘンゼルが落としてきた白い小石が、月の光にキラキラと輝き始めたのです。二人はそれをたどりながら道を歩き、朝になる頃には家へ帰りました』
『お父さんもお母さんも、二人が帰ってきたので驚きました』

 二人のナレーションが……怖い。
 って言うか一々交替で言わないで……!

「お前たち、帰ってきたんだね!」
「大丈夫だったか!」

『お父さんとお母さんは、二人の子どもを抱きしめました』

 僕は逃げました。
 あやかちゃんがアルバを抱きしめたのを見て「うわあ」と思った。

『二人とも森の中においてきた子供のことが心配で、一晩中泣いていたのです』

 ……自業自得。

Re:第32話 ( No.229 )
日時: 2013/11/17 14:59
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


『でも、食べ物がない事には変わりありません。お父さんとお母さんは自分たちの食べ物も子どもたちにやりましたが、もう限界です』
『数日後、お父さんとお母さんは、また子どもたちを別の森に連れて行きました。それがあまり急だったので、ヘンゼルは白い小石をひろうひまがありませんでした』
『そこでヘンゼルはお弁当のパンを細かくちぎって、それを目印に道のところどころへ落としておきました。』

 僕はアルバのコートを引いて歩いていた。
 面倒臭いことこの上ない。眠れる森の美女は最後だけしか役がなかったから簡単だったけど。
 ……何か、今回は大変だけどアドリブはないっぽい。

『ところがこれは、失敗でした。おいてきぼりにされた二人が帰ろうとすると、目印のパンがなくなっているのです。月は前の時よりも明るくてらしているのに、パンはひとかけらも見あたりません』
「どうして?」
『それもそのはずで、昼のうちに森の小鳥たちがパンを食べてしまったのです。二人の子どもは、ついに迷子になってしまいました』

 ——それもそのはずで、シュンさんが帰り際に全部回収していたからです。

「どこへ行けばいいんだろう?」

『二人はあっちの道、こっちの道と、ひと晩中歩きまわりました』
『次の日も歩き続けましたが、二人は森から出られるどころか、どんどん奥へと迷い込んでしまったのです』
「どうしよう、森から出られないよ」
『その時、どこからか綺麗な白い小鳥が飛んできて、二人の前をピヨピヨ鳴きながら、おいでおいでと尾っぽをふりました。二人が近づくと、小鳥は少し先へ行って、またおいでおいでをします』

「もしかして、俺達を呼んでいるのか?」

『小鳥に導かれてしばらく行くと、そこには小さな家がありました。小鳥はその小さな家の屋根にとまっていましたが、二人が近づくと姿を消してしまいました』

「あれ、小鳥が消えた。それにしても、この家は良い匂いがするな」
「ヘンゼル! 見て見て! この家、おかしで出来ているよ!」
「えっ? ……ほんとうだ!」

 はっちゃけたキャラは僕には無理だ。

『驚いたことにその小さな家は、全部がおかしで出来たおかしの家だったのです。屋根のかわらが板チョコで、まわりの壁がカステラで、窓のガラスが氷砂糖で、入り口の戸はクッキーと、どこもかしこもおかしでした』
『家の中から、誰かの声がしてきました』

「だれだい、わたしの家をかじるのは?」

 クッキーの戸が開いて、中から年を取ったおばあさんが出てきました。
 えっと……かじってません。

Re:第33話 ( No.230 )
日時: 2013/11/17 15:17
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


『二人はビックリして、逃げ出しました。そんな二人を、おばあさんが呼び止めます』

「これ、お待ち。逃げなくても良いよ。おばあさんは、一人で退屈していたところなんだ。さあ、お家へお入り。中にはミルクでもココアでも、ミカンでもリンゴでも、何でもあるよ」

『それを聞いて、二人はホッとしました』

「何だよコイツ何の演技でも出来るのかよ」
「食べ物で子供を誘うとか不審者じゃん」

 僕とアルバは同時にそう呟いた。

『二人が家へ入ると、おばあさんは飲み物や果物を沢山出してくれました。それに気持ちよさそうな子供用のベッドも、二つ並べてありました』

 並んでるとか終わってるじゃん……。

「さあ、どんどんお食べ。おかわりはたくさんあるからね」
『二人は飲むだけ飲んで食べるだけ食べると、ベッドへもぐって寝てしまいました』

 全然飲んでないし食べてない。もぐって寝てない。
 幸いライトを消してあるからその演技をしないで済むけど、ベットの中に僕とアルバは入ってないと駄目だった。

『おばあさんは子どもたちの寝顔を見ると、ニヤリと笑いました』

「ヒッヒヒヒ、どっちの子から食べようかね。久しぶりに、美味しいごちそうにありつけるよ」

『なんとおばあさんは、人食いの魔女だったのです!』

 魔法を使えばこんなの即終了だよね。
 僕も魔女だし……。人間界の劇をネタにするからこんなことになるんだ。

『白い小鳥で子どもたちをおびきよせ、おかしの家をおとりに待ちぶせていたのです』


『朝になると、おばあさんはヘンゼルを大きな鳥かごに放り込んで、戸に鍵をかけてしまいました。それから、グレーテルをたたきおこして——』

「いつまで寝ているんだい! さっさと水をくんで、美味いご馳走をこしらえるんだよ! お前の兄さんに食べさせて、太らせるんだからね。こんなに痩せてちゃ、不味くて食えないからね」

『と、怒鳴りつけました。かわいそうにグレーテルは、兄さんを太らせる料理を作らなければならないのです』

 僕の料理なんて食えた物じゃないから安心して下さい、としか言いようがない。
 アルバが入る鳥かごって、それなりに大きいよね。

『しばらく経ったある日、おばあさんはヘンゼルを入れた鳥かごにやって来て言いました』

「どうだいヘンゼル、少しは太ったかい? さあ、指を出してごらん」

『おばあさんは目が悪いので、あまりよく見えなかったのです。そこでヘンゼルは指の代わりに、スープのだしがらの鳥の骨を出しました』

 はいおばあさんザマァ。
 僕はキッチンで料理をし(ているフリをし)ながら思った。

『おばあさんは、その骨を指だと思って』

「やれやれ、まだそれっぽっちか。これじゃあ、もっともっと料理を奮発しなくちゃね」

 止めろ。魔女が食う前にヘンゼル(アルバ)が死ぬ。

『しかしいくら料理をふんぱつしても、ちっともききめがありません。おばあさんは、とうとう待ちきれなくなりました』

「ああ、もう我慢が出来ないよ。やせっぽっちのガリガリだろうと、かまうもんか。今すぐ大鍋にぶちこんで、食ってやるよ。さあグレーテル、急いで大鍋に水を入れな。水を入れたら、火をたくんだよ」

 可哀想に。そこまで空腹だったのね、おばあさん。

『悲しい事に、グレーテルはお兄さんを料理するために、火をたかなければなりません。グレーテルは、しくしくと泣き出しました』

 泣いてません。

『グレーテルは思いました。こんなことなら、森の中でオオカミに食べられて死んだほうがマシよ。それだったら、兄さんといっしょに死ねたのに!』

 そんなこと考えてない。

「グレーテル! なにをぐずぐずしてるんだね。さっさと火をたきな!」

 え、無理。

『おばあさんが包丁をとぎながら怒鳴りますが、いくら怒鳴られてもこんなことは悲しすぎて、テキパキと出来ません』

 それ以前に本気で僕どうしたら良いのか迷ってるからね。

Re:第34話 ( No.231 )
日時: 2013/11/17 15:29
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


『グレーテルがいつまでものろのろやっているので、おばあさんはすっかり腹を立てました』
『そして、召使いにしようと思ったけど、こんな役立たずじゃ使えないね。ついでに食べてしまおうか。と思いました』

 勝手に思っとけボケがぁッ!

『ちょうどパン焼きがまの火が燃えていたので、おばあさんはグレーテルに言いつけました』

「他のことは良いから、パンが焼けるかどうか、かまどの中へ入って火加減を見ておいで」

『おばあさんはグレーテルをかまどで丸焼きにして、頭からガリガリ食べるつもりだったのです。グレーテルは、すぐにそれに気がつきましたそこで、わざと首をかしげると、』

「かまどには、どうやって入るのかわからないわ」

『と、言いました』

「本当に、お前は馬鹿だねえ。こうやってちょっと体をかがめりゃ、だれだって入れるじゃないか」

 テメェに馬鹿とか言われる筋合いはねェよバーカ。

『おばあさんは、かまどの入口へ頭をつっこんで見せました』
『するとグレーテルは、おばあさんを力任せに後ろから突き飛ばしました』

 本気で力任せに後ろから突き飛ばしてあげました。

「うぎゃぁぁぁーー!」

『かまどに転げおちたおばあさんは、雷が落ちてきたかと思うほどのさけび声をあげると、そのまま焼け死んでしまいました』

 ご愁傷様です。

『グレーテルは、鳥かごに閉じ込められたヘンデルの所へ駆け寄りました』

 勿論かまどの中のコロちゃんは放置。

「兄さん! 魔女はやっつけたよ! 僕達、助かったんだ!」
「本当かい。ありがとう、グレーテル」

『やっと鳥かごから出る事が出来たヘンゼルは、妹を抱き寄せて泣いて喜びました』

 抱き寄せて泣いて喜んだ……ねェ……。
 確かに抱き寄せられたけれども泣いてませんよ誰も。

『さて、持ち主のいなくなったおかしの家の中には、ダイヤモンドや真珠など、たくさんの宝物がしまってありました』
『ヘンゼルとグレーテルは、それをポケットに詰め込めるだけ詰め込みました。そして二人は何日もかかって、ようやく自分たちの家へと帰ったのです』

 なるほど。僕達は泥棒になったんだね。グレーテルは人殺しだし。

「お父さーん! お母さーん! ただいまー!」
「ヘンゼル!」
「グレーテル!」

『ヘンゼルとグレーテルの姿を見て、お父さんとお母さんは涙を流して喜びました』

「ごめんよ、本当にごめんよ。もう決して、お前たちを捨てたりはしない」

『お父さんが謝ると、お母さんも泣きながら言いました』

「お前たち、悪いお母さんを許してね。お前達がいれば、食べ物がなくてもかまわないわ。飢えて死ぬ時は、四人一緒だよ」

 ぶっちゃけどう言う風の吹き回しだとか考える僕は鬼だと思う。

『見るとお父さんもお母さんも、すっかり痩せこけていました。二人とも捨てて来た子供達のことが悲しくて、あれから一欠片のパンも喉を通らなかったのです』

 だから、自業自得だって。

「お父さんも、お母さんも、痩せたね」

『ヘンゼルはそう言って、グレーテルに目で合図をしました。そして二人はポケットに入れていた物を取り出して、ニッコリ頬笑みました』

「でもだいじょうぶ。これで、すぐに太れるよ」

『お父さんもお母さんも、二人が取り出した宝物を見てびっくりです』
『それから四人は、おかしの家から持って帰ってきた宝物で幸せに暮らしました』

 だから、泥棒……。

Re:第35話 ( No.232 )
日時: 2013/11/17 16:42
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「……違和感凄かったね」
「あぁ……」

 アルバがストールを巻きながら僕に同意した。

「皆お疲れ様ー! 大変だったね!」
「……うん」

 実質登場人物は五人だったけど。

「なんかさ、僕。リンネに本気で突き飛ばされた気がした」
「本気で突き飛ばしたもん。当たり前じゃん」
「えぇ!?」

 僕は地面に座って言った。

「今回一番頑張ったのは、ナレーションだよね」
「うん。基本喋ってたもんね」

 フェイちゃんの言葉に皆が頷く。

「櫻! カミュに何もされてないよな!?」
「勿論……」
「俺の櫻に手を出すヤツは誰だろうとゆるさねェぞ!」
「……あぁ」

 カミュさんはそう言いながら親指を下に持って言った。
 あ、これは「シね」って意味だったよね。うわあ怖い。

「明日は開いてるか?」
「なんで?」

 ロスが満面の笑みで言い出した。

「よし、開いてるな。明日学校前で午前九時に待ち合わせな!」

 何なんだよ!!

「じゃあ、解散!」

 今日も屋台が出ているらしい。

「——行くぞリンネ!」
「ぎゃあっ!?」

 アルバに手を引かれて僕の体が一瞬飛ぶ。

「じゃあ、ノアは任せた!」
「え、ちょ——」

 僕とアルバは体育館(演劇をやっていた所)を出た。


                       * * *


「んじゃあこれとこれと——」
「ヘンゼルはやっぱりよく食うなあ。はいよ」
「いや、ホントマジ腹減ってるんだ」

 笑いモノだ……。

「じゃあ妹さんにもやるよ、ほら」
「ありがとうございます」

 もの凄くイラッと来たけど、抑える。
 この前も同じ感じでアルバが冷やかされてたな……。
 僕は貰ったチョコバナナを食べながら

「この後帰ってたら誘拐されたんだよねー……」

と呟いた。

「そんなことあったな。あの二人、元気にしてるかな」
「って言うか校長がその二人の友達だったって言うのはビックリしたな」
「そうなのか!?」
「うん。アルバはソアラに飛び付かれて階段から転げ落ちてたけど」
「え……」

 僕はその間に起こったことを話した。

「面倒臭いな」
「うん。それ以前に校長とアミスタの年齢が気になった」
「確かに」

 僕とアルバは頭の上に無数の<?>マークを浮かべた。
 本当に何歳なんだろ……。

「話変わるけど。明日何するの?」
「打ち上げパーティ?」
「誰のお金で」
「そりゃあ企画者のロスだろ」

 なんか違う気がする。
 そして何かもの凄く嫌な予感がする。

「よし、一通り回ったし、帰るぞ」
「うん」

 僕達はそう言って校庭を出た。
 途中、本当にこの前誘拐事件が起こった時と全く同じ場所。
 いきなり目の前の木が太くなったかと思うと、中には宇宙が見えた。そこから——

「うえぇえぇぇ!?」

 人が、出て来た……!?