二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:番外編 ( No.265 )
日時: 2014/02/02 21:52
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


 あたしは今、“恋”をしている。
 って言っても、それは絶対に叶わない。
 理由はその人に、好きな人がいるから。

「はぁ……ぁ」
「どうしたの?」

 聞き覚えのある声。
 振り向くと、そこにいたのは————十六夜霖音、だった。

「リンネ……。おはよう」
「おはよう。なんかさっき、溜め息吐いてたよね? アルバのモノマネ?」
「違う。断じて」
「そ、そう? 悩み事なら聞くけど……。僕、恋とかの知識皆無だからね……?」
「うん。知ってる」

 アルバの好きな人——リンネは、冗談抜きで恋心に鈍感だ。いや、鈍感のレベルを超えて鈍感だろう。
 リンネはあたしの席(公園の二人用ベンチ)に座り、頭の後ろに腕を組んだ。

「なんかさ、人間関係って難しいよね」

 そう言って、地面から浮いた足をバタバタと動かし、あくびをした。

「んー、慣れたら良いもんだけど?」

 それはあたしが昔体験したことだから。

「僕ね、ここに来る前の記憶ほっとんどないんだよね。なんか、自分の髪の色と目の色が茶色とかだった気がするんだけど……」
「ふぅーん……!?」

 今、サラッととんでもないこと言った気がする。気のせいだろうか。

「そう言えば、青嵐は今、何してるの?」
「何って……あれ? あ! そうだ。宙のヤツ、逃げたか……?」
「え……、宙待ってたの?」
「そう。人間関係で唯一今困ってるのはアイツの対処法……っ」
「おっ落ち着いて!? それに今、宙はカペラ達と野球行ってるよ」
「はぁ!?」

 思わずベンチから立ち上がる。
 リンネはその振動で「わー」なんて言いながらベンチから落ちた。

「えっと、まあ。今日は宙を忘れて、僕と話そう。その方が色々と安全な気がする」
「怒りぶつけるかも……」
「それはちょっと嫌だけど、それならこっちも正当防衛するね?」

 正当防衛——恐らく氷結のことだろう。

「ねえ、リンネはなんでこんな家から離れた所に来たの?」

 リンネの家は、樹氷町の三つある森のなかの一つ、メドゥーサに住んでいる。森の名前は物騒だけど、一番安全な森だ。
 そしてここ、公園の場所はそのメドゥーサからはほぼ間逆の方向にある。

「いやぁ、アルバがなんか、今日はここで修業しよーぜって言ってきて……」

 その言葉に思わず反応してしまう。
 ——アルバ。

「いつ来るの?」
「もう時間は五分十分過ぎてるんだけど……。その辺でぶっ倒れてたら遅れるのも納得——来た!」

 リンネはそう言って、ベンチから立ち上がり、待ち人——アルバのもとへ走って行った。
 真っ黒な長い髪。制服……であろう服の上に羽織っている髪と同じ真っ黒なコート。朱色の少し長めのストール。瑠璃色の瞳。
 ——なるほど。コイツは容姿がもう人の目を引き寄せているのか。

「いや、出かける直前にちょっと詰んだ」
「詰む前に薬を飲んで下さい先輩……」
「ホントそこはごめん。——よし、白鳥は来てるな」

 え、あたし?

「宙は……サボりか。じゃあ、今から——競走だ!」
「アルバカ……、心臓ぶっ壊すよ?」
「分かってるけど。薬飲んだし」
「それで済んだら医者はいらない。けど、良いよ。コースは?」
「この前留学した時色々あってな。リベンジに行こうと思う……」

 アルバはその後しばらく、ブツブツと独り言を言っていた。
 ——なんだかよく分からないけど、楽しそうなことになって来た。