二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第四戦 雀宮高校4 ( No.10 )
- 日時: 2013/04/16 17:26
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: 千尋vs伊織、決着。そして……?
千尋は最後のボールを手に取ると、それを放り投げた。
「これで最後だ、リザードン!」
千尋の最後のポケモンは、火炎ポケモン、リザードンだ。
炎タイプのポケモンの中でもトップクラスの人気と知名度を誇るポケモンだが、実力もそれなりに高い。
(普段ならガブリアス相手にリザードンは出し難い。でも伊織の手持ちは残りガブリアス一体、しかも拘りスカーフの影響でアイアンヘッドしか出せない。これはチャンスだ)
ガブリアスは確かに攻撃力が高いが、それでも効果いまひとつのアイアンヘッドではリザードンを倒す前にやられるのがオチだ。千尋はこの時点でほとんど勝利を確信していた。
「ガブリアス、アイアンヘッド!」
ガブリアスは地面を蹴って突っ込み、鋼鉄の如く硬化した頭でリザードンに頭突きをかます。かなり勢いのある一撃だったが、リザードンには効果いまひとつ。決定打にはならない。
「リザードン、龍の舞!」
今のうちにリザードンは、龍のように激しく力強く舞い、攻撃力を上昇させる。
あと二発くらいならリザードンでもガブリアスのアイアンヘッドには耐えられるはず。なので次の一発を耐えて地震を繰り出す、その次の一発も耐えてさらに地震でとどめを刺す、というのが千尋の算段だ。ドラゴンクローやアクロバットを覚えていないので龍の舞を積んでも一発で倒せそうにないのが痛いが、それでも二回攻撃すれば十分倒せる範囲内だ。
だが、現実は千尋の都合には合わせてくれなかった。
「アイアンヘッド!」
ガブリアスのアイアンヘッドがリザードンに直撃するが、効果いまひとつなため、ダメージは少ない。けれど、その攻撃を受けて反撃するはずのリザードンの動きが止まってしまった。
「っ、こんな時に怯みか……っ!」
アイアンヘッドは三割程度の確率で相手を怯ませる技。鋼タイプが攻撃に向かないのは前述したとおりで、アイアンヘッドを追加効果目的で使うポケモンも少ないため普段なら怯みなんて意識しないのだが、ここに来てそれが発動してしまった。
(やばいな)
この怯みのせいで千尋の算段は瓦解してしまった。いくら効果いまひとつでも、ガブリアスの攻撃をリザードンがそう何度も耐えられるとは思わない。耐えられてあと一発だが、リザードンではガブリアスには先制できず、しかも今リザードンが覚えている技——フレアドライブ、地震、龍の舞、身代わり——のいずれかを使用してもガブリアスを一撃で倒すことは出来ない。
勝ったと思えば、たった一回の幸運で逆転されてしまう。これも、ポケモンバトルの神髄である。
分かっているのか分かっていないのか分からないが、状況が優勢になったと感じ取って伊織は得意げな顔になる。
「まーしょうがないよ。中学の時からそうだったし、多少対策したところで、ヒロさんじゃあたしには勝ってこないのさ!」
「…………」
若干、不機嫌そうに眉根を寄せる千尋。言うまでもなく、伊織の発言にイラッと来ていた。
(くっそ、たかが一回のラッキーパンチで調子に乗って……ムカつく奴だ。戦術もデタラメな癖に)
怒りと苛立ちが募っていく千尋。中学時代に経験してもう慣れたはずだったが、そう上手くは行かないらしい。
「さーて、じゃああと一二発で決めちゃうよ、ガブリアス! アイアンヘッド!」
地面を蹴って飛び出したガブリアスは、頭部を鋼のように硬化させ、猛烈な頭突きをリザードンにぶつける。そしてその反動を利用し、すぐさまリザードンから飛び退った。
これでリザードンの体力は残り僅か、あとアイアンヘッド一発でやられてしまうだろう。ここで千尋が逆転する方法があるとすれば急所狙い程度。
だが、しかし、
「リザードン、フレアドライブ!」
「え……っ?」
刹那、リザードンは激しい爆炎に包まれる。そしてその炎を纏ったまま翼を羽ばたかせて超高速で飛行、凄まじい勢いでガブリアスへと突っ込む。
「ガ、ガブリアス!?」
フレアドライブの直撃を喰らい、ガブリアスは吹っ飛ばされる。効果はいまひとつなはずだが、ありえないほどの火力を叩き出したフレアドライブでガブリアスは戦闘不能となっていた。
「…………」
流石の伊織も黙っていた。
フレアドライブは炎タイプの技なので、リザードンが使用すればタイプ一致で威力に補正がかかる。さらに龍の舞で攻撃力が上昇し、リザードンの持つ特性、猛火も発動するため、かなりの高威力になることは確かだ。
しかしそれでも、ガブリアスを一撃で倒すというのは驚くべきこと。もう一段階攻撃力が上がっていれば別なのかもしれないが、今のリザードンの火力は異常だった。
「あ……」
攻撃が終わってから、千尋はしまったというような表情を見せる。が、それも一瞬で、すぐに気を取り直して反動で戦闘不能となったリザードンをボールに戻す。
「……引き分け(ドロー)、だな」
「え? ああ、うん……」
どこか釈然としない様子の伊織だったが、今の攻撃でガブリアスがやられても、それは急所に当たったとか耐久調整の問題とか、色々と理由はつけられる。なのでここは一旦飲み込むことにした。
そしてそのすぐ後、授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「へぇ、結局は引き分けになったんだ」
「うん。もう少しであたしが勝ってたのに、あんなラッキーパンチのせいで引き分けだよ?」
「言っとくけど、お前のアイアンヘッドもラッキーパンチだからな。あの怯みがなければ僕が勝ってた」
放課後、千尋、伊織、このみの三人はすぐに帰宅せず、軽く談笑しながら教室に居残っていた。
「それよりヒロさん、あのフレアドライブなに?」
このみに一限目の結果を報告し終えると、伊織は千尋の方を向いて訝しげな眼差しで見つめる。
「……なに、っていうのは? それこそなんだよ」
「あのフレアドライブさ、どう考えても火力がおかしいと思うんだよね。いくら龍の舞で攻撃力上げても、あんな威力はでないはず、ガブリアスが一撃でやられるなんてありえないよ。あれ、どういうこと?」
ジッと見つめられ、千尋は少しだけ視線が泳ぐが、すぐに言い返す。
「どうもこうも、急所にでも当たったんじゃないのか? もしくはお前の努力値振りが適当だったとかな。それより、このみはどうだった? 今日の一限目」
「えっ? えっと、わたしは、特になにもなかった……かな? ぎりぎりでなんとか勝てたよ」
急に話を振られて言い淀んだが、このみも言葉を返す。だが伊織もこのみも、千尋が唐突に話を変えた事に疑念を抱いていた。特に中学からの付き合いの伊織は、千尋が自発的に話の流れを変えることはほとんどない事を知っている。なのでさらに追及しようとしたのだが、
突如、凄まじい勢いで教室の扉が開かれた。
ダンッ! と扉が壊れるくらいに開けて入って来たのは、一人の女子生徒だ。このみよりも少し長いくらいの黒髪で、制服は着崩しており、目つきはお世辞にも良いとは言えない。
というか、はっきり言って不良っぽい。
女子生徒は鋭い眼光で教室内を見渡す。教室内の生徒は何事かとざわざわしだすが、女子生徒が目線を向けただけで黙り込んだ。
「な、なんだろう、あの人……?」
「さあ……? 校章から察するに、二年生っぽいけど……こんなとこに何の用だ?」
「ちょっ、こっち来るよ……っ」
女子生徒は視線を千尋達に固定し、ずんずんと歩み寄って来る。途轍もない威圧感だ。千尋としては今すぐ逃げ出したいところだが、伊織がぐいぐいと前に押し出してくるため、そうもいかない。
そうこうしているうちに女子生徒は千尋たちの前に立ち、止まった。他のクラスメイトたちの視線が一斉にこちらへと向くのだが、それ以上に目の前の女子生徒の眼力の方が怖い。
千尋はサッと伊織に目配せをするが、伊織は、ヒロさんに任せた! とでも言うような目線を寄越す。このみも伊織と同じようなことを言いたそうにしている。
なので仕方なく、千尋は目の前の女子生徒に言葉をかける。
「あの——」
「お前が若宮千尋か?」
先手を取られた、というか出鼻を挫かれた。
そのせいで少し戸惑ってしまったが、どうやら相手は千尋に用があるらしい。千尋としては最悪であるが、ここで答えないわけにもいかない。
「えっと、そうですけど……僕に、何か……?」
「ちょっとツラ貸せ」
ドスの利いた声で女子生徒は千尋の腕をつかむ。
(怖っ!)
今のところの言動すべてが不良そのものだ。自分が一体何をしたのか、自分は今からどこに連れて行かれるのか、様々な不安が千尋の脳裏によぎる。
流石にこれはまずいと思い、千尋は友人二人に助けを求めるような視線を送るが、
「がんばー、ヒロさん」
「えっと、無事に帰って来てね……」
二人とも助ける気はサラサラないようだ。手を振って千尋を見送っている。
「おら、ついてこい」
「ちょ……っ!」
千尋はぐいぐいと女子生徒に引っ張られ、教室から出されて強制的にいずこかへと連行されていった。