二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第五戦 雀宮高校 5 ( No.11 )
- 日時: 2013/04/16 22:53
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: 旧校舎に連れ込まれた千尋。その行方は……?
千尋が連れて来られたのは古びた旧校舎だった。雀宮高校が由緒正しき学校なんてことはないが、それでも設立は結構昔のことらしいので、老朽化した校舎を旧校舎とし、新しく建築した校舎を新校舎として使用している。生徒たちがもっぱら使うのが新校舎で、旧校舎が使われることはほとんどないのだが。
しばらく歩いたが、女子生徒が止まる気配はない。流石の千尋も耐え切れず、思い切って聞いてみた。
「あ、あの、先輩……ですよね?」
「確かにあたしは二年だから、一年のお前からすれば先輩だな」
「そうですか……で、一体、どこに向かって——」
「もう着く、黙ってろ」
「はい……」
聞いてみたが、黙らされた。
だが女子生徒の言うことは正しく、確かにその発言の後、すぐに足を止めた。そこは、一つの教室の扉の前だった。
「……対戦部?」
扉の前にぶら下がっているプレートには、そう書いてある。
「おら、ここだ。入れ」
「は、はい……」
一抹の不安を感じながらも、千尋はゆっくりと扉を開ける。
中はごくごく普通の教室だった。いや正直に言ってあまり普通とは言えないが、少なくとも造りは普通の教室だ。
だが中にはテーブルやらソファやらベッドやら冷蔵庫やら……どこからそんなものを運んできたのかと聞きたくなるような日常品が並んでいる。
そんな木に竹を接いだような部屋の中央のテーブルに、女生徒が腰を下ろしている。千尋を強引に引っ張ってきた女子生徒とは違い、落ち着いた印象のある生徒だ。
「おい、お前の言ってたカモ連れて来たぞ」
「カモ?」
「ご苦労様。とりあえず中に入れてあげて」
「あ、あの——」
「おう、とりあえず中に入れ。話は後で聞いてやる」
背後の女子生徒に背中を押され、強引に入室させられる千尋。どうやら逃げることは出来ないらしい。最初から逃げられるとは思っていないが。
招かれるまま千尋は席に座らされる。ちょうど女生徒と向かい合う位置だ。
「……さて、急に連れてこられて困惑してると思うけど、まずは自己紹介からさせてもらうわね。私は常葉汐、雀宮高校対戦部の部長よ」
『profile
雀宮高校三年
常葉 汐(Tokiwa Shio)』
「んで、あたしが副部長の牧野茅だ。よろしくな」
『profile
雀宮高校二年
牧野 茅(Makino Kaya)』
「えっと、僕は若宮千尋です……」
名乗られたので名乗り返したが、よく考えれば茅は千尋の名前を知っていた。ということは汐もそれを知っている可能性が非常に高く、ここで千尋が自己紹介をする意味はなかった。言ってからそう思い返す千尋だが、二人はそれをスルーして、汐が立ち上がる。
「あなたをここに連れてきたのには、当然ながらちゃんと意味があるの。単刀直入に言えば——」
千尋に背を向け、汐は一拍溜める。それからすぐにくるりと回って千尋に向き直ると、
「若宮千尋君、あなたを対戦部にスカウトするわ」
「はぁ……え?」
適当に相槌を打ったが、よくよく考えて疑問符を浮かべる千尋。わけが分からない、それだけで千尋の頭はいっぱいになった。
「えーっと、よく意味が分からないのですけれど……というか、この学校に対戦部ってなかったんじゃ……」
入学してすぐに部活紹介があったのだが、そこに対戦部の名前はなかったはず。それも含めて、千尋にとってはわけが分からない。
「そうね、確かにまだ対戦部はないわ。はっきり言って勝手に部を名乗ってるだけで、実際は同好会みたいなものだし……でも、あと三人部員がいれば、部活に昇格するの」
「だから、僕に入部しろと……?」
「大雑把に言うと、そんな感じだな」
つまり、細部を端折れば直接部活動に勧誘されたという形になるわけだ。ただ、強制連行されたのは釈然としないが。
そしてもう一つ。千尋にとって腑に落ちない点がある。
「まあ、部員が足りないのは分かりましたが、なんで僕なんですか? 対戦部って、ポケモンバトルをする部活ですよね? なら、もっと強い人を勧誘すればいいじゃないですか。たとえば、僕の友達なんかは学年二位、誘うならこっちでしょう」
さらりと友人を売る千尋だったが、汐はゆっくり首を横に振った。
「うん、確かにあなたと戦ってた女の子、彼女は強かったわ。でもただ強いだけで部員を集めるっていうのもなにか違うのよね。私としては、あなたに見どころがあるからこうして声をかけたんだけど?」
「見どころ……?」
千尋は首を傾げる。自分に見どころがあるなんていわれても、どう返せばいいのか分からない。少なくとも千尋自身は、自分に特筆すべきものがあるとは思っていない。だがしかし、汐は続けた。
「あなたが最後に出したリザードン。その最後の技、フレアドライブ。あれ、なんだかおかしくかったかしら?」
「っ……!」
「龍の舞を一回積んだくらいじゃ、いくら猛火が発動してもノーダメージのガブリアスを一撃で倒すことはできないはず。どうしてかしらね?」
「いや、あれは……」
必死で頭の中から言葉を引っ張り出し、並べて繋ぎ合わせる。言葉を繋ぎ終えると、今度は途切れ途切れになりながらも矢継ぎ早に言葉を発す。
「急所に当たったとか、努力値振りの関係とかで、倒せただけですよ。伊織……彼女は、そういう細かいの、苦手ですから。だからたまたま、偶然倒せただけです」
「へぇ……?」
何か含みのある笑みを浮かべ、汐はゆっくりと千尋に近づいてくる。
「じゃあ、君のリザードンが覚えてる技は? 普通、あの場面でフレアドライブなんて技は選ばないわよね。他に攻撃技を覚えてないならともかく、普通のリザードンなら攻撃技がフレアドライブだけなんてありえない。地震とかドラゴンクローとかアクロバットとか、そういう技を覚えているのが定石だと思うんだけど?」
「う……っ」
流石に千尋も言葉に詰まる。ここで嘘を吐いても、今度はリザードンの覚えている技をチェックされるだろう。なので、千尋はこれ以上何も言えなかった。
いや、言えることはあるのだが、千尋はそれを口には出さない。決して、口外しない。
だがこのまま黙っていてもどうしようもないので、千尋はお手上げとでも言うかのように、深く溜息を吐く。もう、彼は諦めた。
「……分かりましたよ。その対戦部とやらに入ればいいんでしょう」
そしてこの日、若宮千尋は雀宮高校、対戦部の部員となった。