二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第六戦 雀宮高校 6 ( No.12 )
- 日時: 2013/04/17 01:30
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: 徐々に集まる部員たち(ピース)、雀宮高校対戦部
「——で、結局その対戦部に入部したの?」
「まあな……断るに断れない状況だったし」
翌日の早朝、千尋は先日の旧校舎での出来事を伊織に話した。伊織はうんうんと頷きながら、ニヤニヤと笑っている。
「なんだよ、その変な顔」
「いやー、なんか面白そうだなーって思ってさー」
「僕が連行される様が、だろ。第三者め」
「いやいや、そうじゃなくって。話を聞く限りはほんとに面白そうだと思うよ、その部活」
「うーん、そうかなぁ……?」
千尋も昨日の今日で部活動の内容はざっくりとしか聞いておらず、詳しいことは分からない。なので面白いのかどうかは判断できないが、あまり好意的にはなれなかった。
(まさかあの場面を見られてるとはな……気を付けてたつもりなんだけど、僕としたことが、安い挑発に乗っちゃったなぁ……)
不良染みた言動の茅、見透かしたような性格の汐。はっきり言って癖の強い上級生が二人もいて、やりにくそうな部活動、というのが千尋の現状での見解だ。
「ま、今のところ部員が足りないみたいだし、入部希望者は歓迎されると思うよ。入りたければ入れば? どうせお前帰宅部だし」
「そうだねー、んじゃ、今日にでも覗いてみよー」
と伊織が言ったところで、始業の鐘が鳴った。それを合図に教室内に散開していた生徒たちは慌ただしく自らの席へ散っていったが、中でも一番慌てていたのは、寝坊してギリギリの登校となったこのみだった。
(相変わらず抜けてるなぁ、このみは……)
昨日は普通に登校してきたが、このみは三日に一回くらいの頻度で寝坊する。おっとりしていると言えば聞こえはいいが、率直に言ってとろい。
あわあわと一限目の授業の準備をするこのみを眺めつつ、千尋は彼女も対戦部に勧誘しようかと思ったが、
(……いや、やめとくか。あんな癖のある部活にこのみが付いて行ける気がしないしな。対戦部からしたら惜しい人材かもしれないけど)
放課後。係の仕事があるらしいこのみと別れ、千尋と伊織は対戦部の部室がある旧校舎へと向かった。
「へぇ、こんなとこに部室があるんだ。なんかいいね、秘密基地みたい」
「地震とか来たら怖いけどな」
旧校舎北棟四階右端、校舎の右上の隅っこが対戦部の部室だった。他にも空き部屋は、正に腐るほどあるのだからこんな辺鄙な所じゃなくてもいいと思うのだが、何故かこんな不便な場所に部室が存在している。
部室の扉まで来ると、千尋は恐る恐る部屋へと入る。中には既に、汐と茅がいた。
「お、来たわね千尋君……と、後ろの子は?」
「ひょっとしてひょっとすると、新しいカモ——もとい新入部員か?」
期待の眼差しで見つめる二人。その期待には沿えるのだが、なぜか釈然としない。
そんな千尋を差し置いて、伊織はピョコッと前に出て、
「桐谷伊織ですっ、よろしくお願いします!」
「元気いいわねぇ。私は部長の常葉汐。よろしくね、桐谷さん」
「あたしは牧野茅、副部長だ。しっかし、二日続けて部員が増えるとはな。これは、インターハイもマジで狙えるんじゃないか?」
「インターハイ?」
茅が何気なく発した一言を千尋が拾う。
「対戦部って、インターハイに出るのが目的なんですか?」
「当たり前じゃない。運動部全国を狙うように、私たちもそこを目指すのが道理でしょ? あと一人部員が増えれば、部活動として正式に活動できるし、県予選の団体戦にもエントリーできる。ま、それはこっちで何とかするから、あなたたちは難しいことは考えなくていいわ。とりあえず、何か飲み物……」
椅子から立ち上がり、汐は冷蔵庫に向かった。電気は通っていないはずだが、一体どうやって稼働させているのだろうと千尋は疑問符を浮かべる。
「ねぇヒロさん」
汐が冷蔵庫を漁っている間、伊織が軽く千尋を小突く。
「なんだ?」
「あと一人、部員がいればいいんだよね?」
「そうらしいな」
対戦部を正式な部活動にするためにも、県予選の団体戦にエントリーするためにも、五人という人数が必要らしいので、あと一人いればどちらの条件もクリアできる。
「だったらこのみちゃんも誘おうよ、せっかくだし」
なにが折角なのかは分からないが、伊織がそう言うだろうことは予想できていた。なので千尋は、考えていた返しをそのまま口にする。
「はっきり言って僕は反対だけど、このみ次第だよな。お前はお気楽楽観主義者だからどうってことないだろうけど、正直、僕はこの空気感に押し潰されそうなんだよ。このみが同じようにこの空気に耐えられるか、僕としては非常に疑問だ」
「えー、そんなの入ってみないと分かんないよ」
「だからこのみ次第、だ。あいつが嫌と言えば、無理強いは出来ないだろ」
千尋がそう言うと、伊織は黙り込んだ。是が非でも入れたいというような顔をしているが、千尋の言うことも否定はできない、そんな表情だ。
「……あれぇ」
とその時、冷蔵庫の中身を漁っていた汐が妙な声を上げる。
「どうした?」
「冷蔵庫の中に飲み物が何もないわ。茅、お茶かコーヒー、そっちの棚にある?」
「……ねぇなぁ。もう切れてるみたいだ」
教室の端にある棚を覗き込み、茅は首を傾ける。どうやら飲み物はないようだ。だからと言って千尋が困るわけではないが。
「ふぅ、しょうがないわね。若宮君、ちょっと新校舎まで行って飲み物買ってきてくれない?」
「え? なんで僕が?」
急に名指しされて慌てる千尋。断ろうとしたが、すぐに鋭い視線が突き刺さった。
「男だろお前。か弱い女子生徒にパシリやらせるつもりか?」
「か弱いって……」
少なくとも、茅はか弱いという風には見えないが、当然ながら口には出さない。
このまま抗議しても茅が怖いので、千尋は仕方なく、不承不承新校舎まで飲み物を買いに行くことにした。
「ヒロさん行ってらー」
「ゲテモノじゃなけりゃなんでもいいぞ」
「部員が集まって部が設立出来たら、部費で降ろしてあげるから」
背後から口々に言われ、千尋は部室から出ていった。
「流石に持ちにくい……!」
四人分の飲み物を抱え、千尋は再び旧校舎に向かっていた。運の悪いことにほとんどの自販機は売り切れで、ゲテモノしか残っておらず、旧校舎から最も遠い自販機で買う羽目になってしまった。
「あれ? ヒロくん?」
旧校舎に向かってとぼとぼ歩いていると、不意に声をかけられた。振り返ると、そこには黒髪をショートカットにした女子生徒。というか、この学校で千尋のことをそのように呼ぶ人物は一人しかいない。
「このみ……」
「どうしたのこんな時間に?」
「部活動だよ。朝は伊織にしか話してなかったんだけど……ほら昨日、僕が連行された」
「あー、あれかぁ。だいじょうぶだったの?」
「うん、まあなんとか……」
ただ、現在進行形でパシリをやらされているが。
「部活動かぁ。それって、どんな部活なの?」
「対戦部だよ。ポケモンバトルをする部活」
「え……っ?」
千尋がざっくりと部活動の内容を説明すると、このみはきょとんとした目でこちらを見つめる。
「ポケモンバトルの、部活……?」
「う、うん、そうだけど……」
なにか変なことでも言ったのだろうかと千尋は不安になり、もう少し情報を開示することにした。
「今、部員が一人足りなくて、五人揃えば正式な部になるんだって。あ、あと人数が集まればインターハイに出場するとか——」
「インターハイ!?」
グイッと、このみは身を乗り出して千尋に顔を近づける。身長差があるのでさほど威圧感はないが、このみは必死な表情で千尋に詰め寄って来る。
「こ、このみ……?」
「そ、その部活に入れば、インターハイに出れるの? 全国に行けるのっ?」
「い、いや僕にはなんとも……とりあえず落ち着いて」
まだ短い付き合いだが、このみがこんな大声を出すとは思わなかったので、千尋も狼狽している。
「どうしたの、このみ。インターハイに、なにかあるの?」
ひとまずお互い冷静になって、千尋はこのみから話を聞くことにした。
「う、うん。昔の話なんだけど、実はね——」
そしてこのみは語り出した——
「そう……愛媛にいた頃の幼馴染との約束、か」
「うん、本当はインターミドルに一緒に出たかったんだけど、予選で負けちゃって……インターハイこそいっしょに全国行こうって約束したんだけど、わたし、こっちに転校することになっちゃったから……」
「それで、インターハイか」
千尋は、伊織とは中学来の付き合いだが、このみは高校に入ってからの友人だ。なので当然、彼女の幼馴染のことは知らない。けれど彼女がその幼馴染たちに強い思いがあるのは理解できた。
「インターハイで会おうって別れる時に約束したんだけど、わたしが入れる高校はこの辺りだと雀宮だけで……学校紹介でもポケモンバトルに力を入れてなくて、対戦部もなくてって知ってからは、もうほとんど諦めてたんだ」
でも、とこのみは彼女にしては力強く言い、
「まだ全国に行く希望は残ってる。この学校にも対戦部はあるんだよね? この学校でも、全国に行けるんだよねっ?」
「う、うん。確かにこのみがいれば部員五人、県予選には出られるみたいだけど」
その一言で、このみの顔はぱぁっと明るくなる。
「じゃあわたし、対戦部に入る! 全国に行って、みんなに会いたい!」
「そ、そう。じゃあ今から部室に戻るから、一緒に行こうか」
「うんっ!」
にこやかで晴れやかなこのみは、軽い足取りで千尋の後に続く。
(そうか、昔の友達か……)
他県から来たということもあって孤立しかけていたこのみを伊織が引っ張り込んできた時、千尋はこのみになにかあると踏んでいた。まだ付き合いが浅いこともあって今まで触れなかったが、存外早くその謎も解けた。
しばらく歩くと、やがて対戦部の部室に辿り着く。部屋に入ると目を垂れる伊織や茅、待ちくたびれたと嫌味を言う汐たちがいたが、全員このみの姿を見ると目を丸くしていた。
千尋は黙ってこのみを前に誘導する。そして、
「城川このみです、えっと……よろしくお願いしますっ!」
四月十五日、雀宮高校対戦部が、発足した。