二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第七戦 龍源寺高校 1 ( No.13 )
日時: 2013/04/17 17:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: 一応、登場人物の名前には植物に関する文字、言葉、部首を付けてる

 放課後の遅い時間、もうほとんどの生徒が帰宅している中、旧校舎の一角、つい先週発足したばかりの対戦部の部室にて、二人の生徒が向かい合っていた。
 一人は女性にしては若干背の高い、大人びた雰囲気の女子生徒、常葉汐。もう一人は、目つきが鋭く制服も着崩した不良のような出で立ちの女子生徒、牧野茅。
 汐は便箋を片手に持ち、もう片方の手でシャーペンをくるくると回していた。
「——で、詰まるところ、対抗試合の誘いが来たわけか」
「ざっくり言えばそうなるわね。ついてるわよ、私たち。こんな発足してから一週間の部活に目を付けるなんて、あちらにはいい目利きがいるようね」
「よく言うな……だが、いいのかよ」
「なにが?」
「確かにその誘いを受けられたのはラッキーかもしれないけど、あいつらのプレッシャーにならないか? まだ一年だしよ」
「うーん、大丈夫じゃない? それに、全国に行くなら一度は経験した方がいいでしょ?」
「あ? なにをだ?」
「そんなの決まってるじゃない——」
 茅の言葉に汐はスッと立ち上がり、夕日を背に、答える。

「——全国最強の実力よ」



 千尋、伊織、このみの三人が対戦部に入部して、一週間が経過した。県予選は六月の半ばくらいだそうなので、もうあと一ヶ月を切っている。
「さーて、みんな集まったわね。それじゃあ今日もいつものように大会のレギュレーションに近い形でバトルをしてもらうわ」
 汐は部長らしく皆を仕切りまとめ、指示を出す。
「それと、今までは体育館を借りてバトルしてたけど、今日からは一階にバーチャル空間を展開する機械を設置したから、時間無制限でバトル出来るわよ」
 校内ではバーチャル空間以外の場所でポケモンバトルをしてはいけない校則となっている。なので今までは他の部活との兼ね合いもあってバトルに制限時間があったのだが、どうやら今日からはそれがなくなるらしい。だが、
「……いつの間にそんなものを」
「科学部に頼んで、昔使ってた装置を直してもらったのよ」
「ちなみに、交渉はあたしが行った」
「交渉……?」
 脅迫の間違いでは、と言いそうになったが、寸でのところで言い留まる。
 とにかく、今日からは時間を気にせずバトルができるようだ。今までの窮屈な感じがなくなるだけでも万々歳だろう。
 というわけで、今日も今日にて県予選に向けての特訓が開始された。



 インターハイにおける対戦形式は通常のバトルとは相違点が多々ある。その中でも特筆すべきものは、四人で同時に戦うところだ。それもいわゆるマルチバトルではなく、四人が一体ずつポケモンを繰り出し、シングルバトルを行うというもの。
 攻撃範囲などはダブルバトルに準拠するが、細かい部分ではこの形式独自の技術を求められたりもするので、まずはそれに慣れるところから始めることになる。
 というわけで、千尋、伊織、このみの三人に、茅を加えた四人で同時にバトルを行うこととなった。部長の汐は今回は見学——伊織曰く現場監督だ。
「四人とも定位置について、さっさと始めるわよ」
 汐の指示を受け、四人はそれぞれバーチャル空間と化した教室の四方に散る。東に千尋、西が伊織、南は茅、北にはこのみがそれぞれ位置についた。
「位置についた? もう一度ルールを確認するけど、使用ポケモンは一人三体。勝利条件は、最後まで生き残っていた者が勝ち。いいわね?」
「おう」
「大丈夫です」
「おっけー」
「わ、わかりました」
 四者四様の答えを聞き、汐は満足そうにうなずく。
「よろしい。それじゃ、バトル開始!」
 汐の合図で四人は一斉に手にしたボールを宙に投げる。
「最初はお前だ! バンギラス!」
 乱暴に投げられたボールから出て来たのは、鎧ポケモンのバンギラス。
 バンギラスは場に出ると、激しい砂嵐を巻き起こす。バンギラス特性、砂起こしだ。これにより岩、地面、鋼タイプ以外のポケモンはスリップダメージを受けてしまう。
「頼んだよ、ジャローダ!」
 千尋の先発はロイヤルポケモン、ジャローダ。
 草単タイプで弱点は多いが、防御寄りのステータスと補助技を使いこなすテクニカルなポケモンだ。
「出て来て、ウインディ!」
 伊織が繰り出したのは例のウインディ。バンギラスには不利だがジャローダには有利なタイプだ。だが特性が威嚇ではなく貰い火なので、バンギラスの攻撃力を下げられないのが痛いか。
「とりあえず頑張って、クチールス」
 このみの一番手はクチートの進化系、欺きポケモンのクチールスだ。ウインディに代わって特性、威嚇を発動させ、他のポケモンの攻撃力を下げる。
「さて、と……」
 千尋はまず考える。ポケモンバトルでは一つの行動が生死を分けると言っても過言ではないので、ポケモンに指示を飛ばす際は慎重にならなければいけない。
 千尋のジャローダは、一般的な麻痺撒き型。蛇睨みで相手のポケモンを麻痺させ、後続に繋げる型だ。
 バンギラスはタイプからしてジャローダが有利。クチールスも、特性が威嚇なら積極的に攻撃することはないはず。恐れることはない。
 だが千尋は正面——伊織に視線を向ける。伊織の先発は炎タイプのウインディ。持ち物は恐らく命の珠。厚い脂肪のトドゼルガすらフレアドライブで瞬殺したウインディが相手では、威嚇で攻撃力が下がってもジャローダが耐えられるとは思えない。
(もしウインディがクチールスに向かってくれればいいけど、あいつの性格から考えれば……)
 千尋は新しくボールを一つ取り出し、こっそりと構える。そして、
「ウインディ、ジャローダにフレアドライブ!」
 直後、真っ先に動き出したウインディは爆炎を纏い、ジャローダに向かって一直線に走りだした。
「やっぱりこっちに来るか……! ジャローダ、交代!」
 伊織の行動は読めていた。なので、千尋はジャローダをボールに戻し、代わりに先ほど取り出したボールから違うポケモンを繰り出す。
「次は君だ、アバゴーラ!」
 交代で出て来たのは、アバゴーラ。アバゴーラはウインディのフレアドライブの直撃を受けるが、水と岩の複合タイプで炎技の威力は四分の一。さしたるダメージにもならず、余裕で受け切った。
「うっそ!? そこで交代なんて!」
「ウインディがこっちに突っ込んで来るのは読めてたからな。単純なんだよ、お前は」
「む、なにおう!」
「おいそこの二人、ぼさっとするなよ!」
 言い合う千尋と伊織に割り込む形で、茅が声張り上げる。それと同時にバンギラスも動き出した。
「まとめて吹き飛ばせ! 地震!」
 バンギラスはその巨体を存分に生かし、地面を踏みつけて地を伝う凄まじい衝撃波を放つ。衝撃波はウインディ、アバゴーラ、クチールスの三体に容赦なく襲い掛かった。
「うわっ、ウインディ!」
 一番派手に吹っ飛ばされたのはウインディだ。威嚇で攻撃力が下げられたとはいえ、効果抜群の地震だ。耐え切れず、戦闘不能となった。
 対するアバゴーラとクチールスはまだ耐えている。アバゴーラは特性、ハードロックで威力を減衰し、クチールスは恐らく防御を調整していたからだろう。まだまだ余裕だ。
 そして最後に動き出したのは、クチールス。
「クチールス、カウンター」
「っ!」
 クチールスは拳を握り、バンギラスに接近。そのまま勢いよく拳を振り抜いて、バンギラスを吹っ飛ばした。
「バンギラス!」
 ウインディほどではないが派手に倒れたバンギラスは、なんとか体を起こす。まだ戦闘不能にはなっていないようだ。
「あたしが初っ端から一体戦闘不能かぁ……戻って、ウインディ」
 伊織はウインディをボールに戻すと、次のボールを構えた。



「…………」
 一通りバトルの様子を眺めていた汐は、不満そうに口を尖らせている。
「あれから一週間……まだ出ないのかしら」
 以前、偶然にも見つけた未知の力。あれに惹かれて彼を誘ったのは事実だし、だからこそもう一度の力を見て確認したいのだが、
「隠してるのかしら……? だったら、どうにかして引っ張り出さないとね……」
 怪しく笑い、汐は下級生たちが戦う様子をじっくりと眺める。



今回から、こっちにもあとがきを書くことにします。と言っても、紙ほかのように毎回というわけにはいかない……と思いますけどね。そういうわけで序章が終わり、次の章、龍源寺高校がスタートです。龍源寺高校とはなにか、それは作中でじきに明かされるとして、今まで書いてきた感想でも。今まで僕はアニメや漫画を基準にした、殴り合いの描写をしてきましたが、このようにゲーム染みた駆け引きも書いていて面白いです。とはいえ、まだバトル描写は少ないし、完全にゲームに合わせてるわけでもないですが。あ、ちなみに一応言っておくと、クチールスはクチートの進化系で、改造ポケモン、アルタイル・シリウス、ベガのポケモンです。詳しくは>>0のURLを参考にしてください。では次回、思ったよりも書きやすかった千尋vs伊織vsこのみvs茅の四人対戦の続きです。あと一、二話くらいで終わるかな? それじゃ、次回もお楽しみに。