二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第九戦 龍源寺高校3 ( No.17 )
日時: 2013/04/20 14:32
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: 千尋、(色々な意味で)最大の危機……!

 まさかの物理型に変更されたフワライドに、千尋は歯噛みする。
 フワライドが物理型ということは、アクロバットを多用してくるはず。となると、素早さで勝っていてもジャローダは繰り出し難い。だからと言ってアーケオスのままで戦い続けられるかというと、微妙な所だ。
 物理型フワライドの主な攻撃手段はアクロバットくらいだが、代わりに補助技が充実している。しかもアーケオスがフワライドに有効打を撃てる攻撃技は諸刃の頭突き。体力の多いフワライドに諸刃の頭突きなんて食らわせれば、反動でアーケオスがやられかねない。このみにはまだ正体不明のポケモンが一匹の凝っているので、なおさらアーケオスをここで失いたくはない。
「…………」
 千尋が思考を巡らせている中、茅も最後のポケモンを繰り出す。
「そら出て来い、トリトドン!」
 茅の最後のポケモンはトリトドン、西の海の個体だ。こちらもアーケオスの弱点を突けるので、注意が必要だ。
「とりあえずはフワライドを倒そうか……アーケオス、アクロバット!」
 アーケオスは俊敏な動きでフワライドに接近し、翼を叩き付ける。飛行のジュエルとアクロバットの相乗効果で威力が跳ね上がっているため、かなりのダメージが期待できるのだが、フワライドはまだ戦闘不能ではない。
 このまま反撃に何かされるだろうと腹を括っていた千尋だが、
「トゲキッス、エアスラッシュ!」
 直後、フワライドがトゲキッスに切り裂かれた。
「っ、フワライド……!」
 アーケオスのアクロバットでかなり削られていたため、フワライドはトゲキッスのエアスラッシュで戦闘不能。
 このみはフワライドをボールに戻す。これでこのみの手持ちも残り一体だ。
(ラッキーだったな。伊織がこのみを狙ってくれるとは)
 なんとかフワライドを倒し切れたため、あとは三体目のポケモンだけに注意していればいい。そう思っていたが、
「よそ見するなよ。トリトドン、波乗りだ!」
「!」
 次の瞬間、トリトドンはどこからか大波を呼び寄せ、アーケオスとトゲキッスを飲み込んでしまった。効果抜群のアーケオスは勿論、ワイルドボルトで大きく削られたトゲキッスも、まとめて戦闘不能にされてしまった。
「くっ、戻れアーケオス」
「うー、あたしが最下位なんて……戻って、トゲキッス」
 千尋と伊織はそれぞれポケモンをボールに戻す。この時点で伊織は手持ちがゼロなので、敗退確定というか、最下位決定だ。
(さて、残り一体、ジャローダだけか)
 千尋はジャローダを場に出しつつ、胸中で呟く。
 茅の残りポケモンはトリトドンだけなので、相性で非常に有利なジャローダなら問題なく倒せる。だから問題は、やはりこのみだ。
(なにが出て来る……?)
 千尋はこのみを注視し、このみは手にした最後のボールを放り投げる。
「出て来て、ポリゴン2」
 このみの最後のポケモンは、ポリゴンZの進化前、ポリゴン2だ。
(……ポリゴン2かよ)
 苦虫を噛み潰したような表情を見せる千尋。ここでいっそ炎タイプなんかが出て来てくれれば清々しいのだが、ポリゴン2となるとギリギリジャローダでは倒せない相手となる。
 勿論、ポリゴン2の技構成次第では倒せるが、恐らくこのみはジャローダを倒せるような技構成にしているだろう。フワライドのトリックの時もそうだったが、このみの読みは鋭く的確だ。こちらがジャローダを選抜することを予測して対策することは十分考えられる。
(ここまでか……ま、トリトドンは倒せるし、結果として二位に着けたのならよしとするか)
 千尋はこの一週間バトルを続けて、トップを取ったことが一度しかない。ほとんどが三位か四位という、総合的に見れば部で最も勝率が低いのだ。だから二位というのも、彼にとっては好成績となるので、無理に一位を狙う必要もない。
 だがその時、今までずっと椅子に座って観戦していた汐が立ち上がった。そして、

「ねぇ、若宮君って女の子っぽいと思わない?」

「……はぁ?」
 突然なにを言いだすんだと思いながら、千尋は混乱していた。本当にいきなり過ぎる内容だ。
 だが意外にも、千尋以外の三名は同意を示していた。
「まあ、確かによく見れば女っぽい顔してるな」
「ヒロさん、普通に女物の服着るだけでも通用しそうだよね」
「言われてみれば……ヒロくんって女の子みたいだね」
 口々に言う女子たちの言葉が、千尋の心に容赦なく突き刺さる。
「ぅぐ……いや、そりゃ僕は女顔で体つきも男らしいとは言えないかもしれませんけど、だからなんだと——」
「若宮君も分かってると思うけど、君は部内で一番成績が悪いのよ?」
 千尋の言葉を遮って、汐は続けた。
「これは由々しき事態だと思うのよね。こんな体たらくじゃ県予選を勝ち抜くなんて夢のまた夢、若宮君にはもっと緊張感を持ってバトルに臨んでもらわないといけないわよね」
 と言って、汐はごそごそといつ間にか足元に置いてあった大きな鞄からなにかを取り出し、それを大きく掲げる。
「……なんですか、それ?」
「見て分からない?」
「いや、分かるのは分かるんですけど……それを、どうしようと、いうのですか? 部長?」
 汐が取り出したのは制服だ。雀宮高校の、女子用の制服。黒いブレザーとプリーツスカート、白いブラウスに、赤いリボンタイが付いている。
 汐は悪戯っぽく口の端を上げて笑うと、千尋に宣告する。
「もし若宮君がこのバトルで一位になれなかったら、これを着てもらおうかしら」
「……え?」
 千尋の額からドッと汗が噴き出す。まさか、本気ではないだろう。そんな健全なる男子生徒に女装を強要する人間がいるわけない。そう思いたいのだが、汐は笑っている——本気で楽しむように、笑っている。
 しかも、それだけに終わらない。
「そうか。なら千尋が一位を取れなかった時はあたしがひん剥いてやる」
「あーあ、もっと早く言ってくれれば、ヒロさんに集中攻撃してたのに。言うのが遅いよ、部長」
 かなりノリノリな茅と伊織。この二人を止めることはもう不可能そうなので、千尋は最後の救いとしてこのみの方を向く。
 が、しかし、
「ヒロくんの女装かあ、ちょっと見てみたいかも……」
(マジか……!)
 唯一の良心が寝返った。もうこの場に、千尋の味方はいない。
「さあ若宮君、明日も男子用の制服で登校したければ、トップを取りなさい。君ならできるはずよ」
 と汐は言うが、この状況、ジャローダでポリゴン2を倒すのは非常に難しい。特にこのみが本気で勝ちに来るとなれば、千尋の勝利は絶望的だ。
 だが、明日から着る制服が女子用になればそれこそ千尋の未来が絶望に包まれる。ここは是が非でもこのみを倒さなくてはならない。
(やるしか……ないのか)



うーん、やっぱりこっちだとあまりバトルをしたって感じがしませんね。というわけで、部内バトルもいよいよ大詰めです。さて、千尋が男の尊厳の危機に瀕したところで、次回に続きます。千尋はこのみに勝てるのか、ジャローダ一体で、どうやってポリゴン2を攻略するのか。次回をお楽しみに。