二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第十一戦 龍源寺高校 5 ( No.19 )
- 日時: 2013/04/20 22:17
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: 遂に語られる千尋の秘めたる力……
「特性を変えられる?」
「変えるっていうか、干渉する、かな。どういうわけか、僕はポケモンの特性に干渉できるみたいなんです」
千尋の口から言い放たれる事実を受けて、一同は唖然とする。そんな中、汐はさらに問う。
「干渉するっていうのは、すべて挙げるとどうなの? さっきみたいに特性を変えるだけじゃないのよね?」
「はい……僕が今までできたのは、特性のスイッチ、特性の強化、それと、一時的に特性を無効化することです」
具体的には、先週の伊織のガブリアスを倒したリザードンの猛火フレアドライブと、先ほどこのみのポリゴン2を倒したジャローダの深緑リーフストームが特性強化、ジャローダの特性を天邪鬼から深緑に変えたのが特性スイッチだ。
「というか、部長。驚かないんですか……?」
「ん? 驚いてるわよ、十分。でもそれ以上に、嬉しいのよ」
「嬉しい?」
千尋は首を傾げる。今までこの力で良い思いをしたことはない。ゆえに、ここで嬉しいなんて言葉をかけられるとは思っていなかったのだ。
だが、
「だって、そんなに凄い力があるなんて、心強いじゃない。これで私たちの全国出場もグッと近づくわ」
「部長……」
汐だけでなく、伊織やこのみも千尋の側へと歩み寄り、
「まっさかヒロさんがあたしに隠し事してたなんて、普段なら怒るとこだけど、びっくりしてそれどころじゃないや。そんなことできるなんて、ヒロさん超強いじゃん」
「特性を変えられるってことは、それだけ戦術の幅が広がるってことだよね。凄いよヒロくん!」
「伊織、このみ……」
皆、笑っていた。普通なら恐れられたり、奇異の目で見られたりするものなのだが、この場にいる全員の目は、優しく暖かいものだった。
「さて、若宮君の秘密も知れたことだし、特訓再開よ。県予選までは一ヶ月しかないから、時間を無駄には出来ないわ」
パンパンと手を叩く汐。それを合図にまた四人は散開し、それぞれ位置に着く。
(特性への干渉、それが若宮君の力……これは、凄い人材を見つけちゃったわね)
汐は再びバトルを行う四人を見つつ、手にした一通の便箋に目を落とす。
(もしかしたら、彼の力ならあそこにも通用するかもしれないわ……!)
便箋の宛名には、龍源寺高校と書かれていた。
翌日。
千尋、伊織、このみの三人は放課後、そのまま部室へと向かっていた。
「それにしても、本当にびっくりだよ。ヒロくんにあんな力があったなんて」
「正直あんま使いたくなかったんだけど……部長に積極的に使えって言われちゃったからなぁ」
「そのせいであたし、全然ヒロさんに勝てなくなったんだけど」
じろりと千尋を睨む伊織。
特性干渉の力を解放した千尋の強さは、一昨日までとは別物だった。千尋自身も特性をスイッチすることを前提として動き、それが上手く嵌ったため勝率がグンと跳ね上がったのだ。そして千尋の勝率が上がったということは、相対的に他の者——特に千尋の戦術の変わりように上手く対応できない伊織の勝率が下がってしまったのだ。
「睨まれても困るんだけど……というか、お前の場合はもっと自分の戦い方を見直せよ。特性云々がなくても、最初の攻撃を凌がれたらすぐにダメになるだろ」
「うー……」
伊織は唸るだけで、それ以上は何も言い返さなかった。
そうこうしているうちに、旧校舎の部室へと到着する。千尋が扉を開けると、そこに汐と茅の姿はなかった。
「部長と先輩、まだ来てないのか」
「三人だけじゃ練習できないし、待ってるしかないね」
と言って、三人はそれぞれほぼ定位置となっているテーブルの席に着く。
三人が席に着いたとほぼ同時に、テーブルの上にティーカップが置かれる。ちょうど三つ、人数分だ。
「ん、ありがと……それにしても、予選まであと一ヶ月か。流石に少し緊張するなぁ」
「そうだね。でも、まだ予選。こんなとこで負けてはいられないよっ」
「そーそー、あたしたちがそう簡単に負けるはずないって」
「気楽だなぁ……ま、お前とこのみに関しては、そのくらいがちょうどいいのかもしれないけど」
と言いつつ、ティーカップを持ち上げて紅茶を啜る千尋。しかしそこで、まだ砂糖を入れていないことに気が付いた。
「ん……えーっと、砂糖は……」
「…………」
「あ、そっちにあったんだ。ありがとう」
無言でシュガーポットを差し出され、それを受け取る千尋。スプーンで砂糖を一杯すくい、紅茶の中に入れてかき混ぜ——
「って、誰!?」
——たところで、やっと気付いた。汐でも茅でもない第三者の存在に。
それは若い女性だった。無感動だがやや鋭い目。現実味に欠ける赤黒いストレートロングの長髪で、頭頂部の辺りには獣の耳のようなものがピョコッと立っている。
服装は黒いワンピースにフリルの付いた白いエプロン組み合わせたエプロンドレス。いわゆるメイド服というやつだ。
「おー、メイドさんだ! まさか生で見られるなんて!
「わたし、メイドさんって初めて見たよ。きれいだねー」
「いやいやいや! なんで二人ともそんな反応なのさ! いろいろとおかしいでしょこれ!」
興奮する伊織とのほほんとしたこのみ。部室に見知らぬメイド服を着た女性がいるという事態に対する感想ではない。
千尋の言葉を受け、メイド服の女性は困ったようにおろおろし始める。困っているのはこっちだと言いたい。
ずれた反応しかしない女子二人の処置と、謎の女性に困惑する千尋だったが、その時、救世主が登場するかのように部室の扉が開かれた。
「お? もう一年生三人は来てたのね。ごめんねー、今日はちょっと、今度の実力テストの説明があって……って、どうしたの若宮君?」
「ぶ、部長……! いいところに」
入って来たのは汐と茅だ。千尋だけでは収拾がつきそうにないこの場だが、汐ならなんとかできるはずだ。
「なんか、部室に見知らぬ人が……」
「んー……ああ!」
思い出したように手を叩く汐。
「そう言えばまだ一年生たちには言ってなかったわね。この子はミレニア。言っておくけど、ポケモンよ?」
「ポ、ポケモン……?」
千尋が復唱すると、ミレニアと呼ばれた女性はくるっとその場で回転した。すると女性は別の姿——黒いしなやかな体に赤い鬣を持つ、狐のようなポケモンへと変化した。
「ゾ、ゾロアーク……!」
「そう。私のポケモン、この部の給仕担当、ゾロアークのミレニアよ。ちょっと前まで風邪で寝込んでたけど、今日から復帰することになったわ。ほらミレニア」
汐に促され、ミレニアはゾロアークの姿からメイドの姿へと変わり、ぺこりと頭を下げる。言葉を発しないということは、喋れないのだろうか。
「……まあ、ミレニアさん? についてはとりあえず分かりました。でも、なんでメイド服なんですか?」
「♀だから」
「…………」
ストレートな変化球を喰らい、千尋は沈黙した。今時の女子校生はメイド服に並みならぬ思い入れでもあるのだろうか。
「それより今日は話すことがあるから、皆集まって」
「話すこと? 予選のルールとかですか?」
「それはまた今度。今日は別の事案よ」
言って汐は、悪戯っぽく笑った。