二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第十二戦 龍源寺高校6 ( No.20 )
日時: 2013/04/25 23:43
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: 龍源寺=りゅうげんじ 東京都東部とかにある寺の名前

「対抗試合?」
 伊織が汐から発せられた言葉を復唱する。
「そう。練習試合って言った方が正確なんだけど」
「練習試合でも対抗試合でも構いませんが、こんな時期にですか? まだエントリーが始まってないとはいえ、予選まで一ヶ月ちょっとですよ? 一体どこの高校がそんなこと——」

「龍源寺高校」

 苦言めいた千尋の言葉を、汐は静かに遮った。
「今回の練習試合は、とある学校が主催した大規模なものよ。その主催が、龍源寺高校。昨年、東部東京の代表校として全国出場し、優勝した高校よ」
『っ……!』
 千尋、伊織、このみの三人に緊張が走る。昨年の優勝校ということは、現時点で日本の高校では最強ということだ。
 そんな学校と、先週発足したばかりの雀宮が練習試合……他の学校も招かれているのだろうが、それにしたって不釣り合いだ。
「龍源寺高校は毎年この時期に、全国出場はしなさそうだけどそこそこ実力のある学校を関東から招いて、練習試合を行っているのよ。向こうはもうレギュラーが決定しているだろうし、その調整でしょうね」
 つまり自分たちは、龍源寺の踏み台にされているようなものだ。
 だが、汐は逆説で繋げる。
「でも、強豪校とのバトルは私たちにとってもプラスになる。今回の練習試合はインハイのレギュレーションに近い形で行われるらしいし、ルールや雰囲気……そして相手に慣れるため、私たち全員でこの練習試合に参加する予定だけど……それでいいかしら?」
 汐は部員四人を見渡し、告げるように言う。
「日程は?」
「来週の日曜日。集合は朝七時、終わりは夕方以降になるでしょうね」
 千尋は少し思案し口を開く。
「……僕は大丈夫です、たぶん」
「あたしもおっけー! このみちゃんは?」
「わたしも、平気、かな……?」
「決まりね」
 かくして、雀宮高校対戦部は、日本最強の高校、龍源寺高校との練習試合に参加することとなったのであった。



 全国高校生ポケモンバトル選手権大会。
 俗にインターハイと呼ばれる高校生トレーナーが頂点を目指す大会の団体戦におけるレギュレーションは以下の通りである。

1.参加人数は1チーム五人。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順番でポケモンバトルを行う。

2.バトルの方式は四校四人の選手で同時にバトルを行う今大会独自のルールを採用。

3.使用ポケモンは一回のバトルにつき三体。地方予選では出場校の数に応じて対戦回数を調整するが、本戦ではポケモン三体のバトルを前半戦、後半戦の二回行う。

4.各チームには試合開始時点で10000のポイントが与えられる。ポケモンがバトルでダメージを受けるにつれポイントが減少し、大将戦終了時にこのポイントが最も多いチームの勝ちとする。

5.持ち点が0になった場合はその時点で試合終了し、最も点数の多いチームの勝ちとする。

6.試合終了の条件は、前半戦なら一人を除いて他三人のポケモンがすべて戦闘不能になった時、後半戦なら一人が三体全て戦闘不能になった時。前半後半がない場合は前者のルールを採用する。

7.試合までに指定された選手が対戦フィールドに来れなかった場合は失格となる。ただし補欠登録した選手が代理で出場することは認める。



「——以上が、大まかなインハイレギュレーションよ」
 光陰矢のごとしと言うように、あっと言う間に訪れた龍源寺高校との練習試合。行きの電車の中で、汐はインターハイの大まかなルールについて部員たちに説明していた。
「まあ、まだ予選まで時間あるし、微調整はされるかもしれないけど、押さえておくべきポイントはさっき言ったもので全部。ここまでで、何か質問は?」
「はいはーい! 質問しつもーん!」
 汐が質問は? と言い切るより早く、伊織が威勢よく手を上げた。他の乗客もいるのだからもう少し静かにしろと言いたい。
「バトルの順番はどうなってるの?」
 順番というのは、いわゆるオーダー。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順番のことだ。
「ああ、それね。本当は着いてからのお楽しみにしようと思ったけど、今から話すわ。と言っても、龍源寺戦に向けてとりあえず決めたものだから、後から調整するつもりだけど」
 と言って、汐はメモらしきものを取り出し、読み上げていく。
「まずは先鋒、茅」
「おう」
 最初に名指しされたのは茅だった。
「牧野先輩が最初なの? あたし最初がよかったなー」
「我儘言うな。順番だって戦術に組み込んだりするんだから」
「その通りね」
 伊織を小突く千尋に、汐は同意する。
「選手のポジションもこの団体戦では重要なの。特に私たちみたいな、作りたてのチームだとね。それに先鋒は強い人がオーダーされることが多いから、一年生にはまだ荷が重いと思うの。だから今回は茅に任せるわ」
「え? なんで、最初に強い人が来るんですか……?」
 このみがおずおずと質問し、汐は待ってましたと言わんばかりに目を光らせて説明する。
「古くから団体戦で強い人……つまりエースをどこに配置するかは色々と議論されていたわ。昔は最後に逆転できるようにって大将に据えられることが多かったけど、昨今の風潮だと、後続の負担を軽減するために先鋒にエースを置いて相手を削り、後はそのまま逃げ切るっていうのが一般的ね。勿論、中には伝統とかで他の場所にエースを据える学校もあるけど、エースを先鋒に持ってくるのが現代のセオリー。これは変わらないわ」
「なら部長が先鋒をやればいいじゃないですか」
 千尋の言い分はもっともだ。一概にそうとは言えないが、やはり最上級生である汐の方がトレーナーとしての暦も長く、強いだろうことは想像つく。強い者を先鋒に持ってくるのなら、汐が先鋒であるべきなのだが、
「残念ながら、私は中堅よ。これだけは譲れないわ」
 と言って、自身のポジションを強く主張した。何か中堅というオーダーに思い入れでもあるのだろうか。
「それに中堅は一番難しいポジションなの。真ん中だから、チームが勝ってるときはその流れを維持して後に繋げなきゃいけないし、負けてたら流れを変えて逆転しなきゃいけない。それを下級生にやらせるのも、やっぱり荷が重いと思うわ」
「はぁ、そんなもんですか」
「そんなもんよ」
 汐にそう言われ、千尋は大人しく引き下がった。元々チーム全体の戦術や作戦は部長の汐に全面的に委任しているので、千尋たちはあまり強く言えないのだ。
「じゃあ続けるわね。先鋒は茅で次鋒が伊織、中堅はさっき言ったように私で、副将が千尋君、大将はこのみよ」
「わ、わたしが最後ですか……っ?」
 大将という、いわば団体戦の華とも言えるポジションに放り込まれたこのみは、激しく動揺し、取り乱していた。
「まあ、まだ試行錯誤の段階だから、あんまり気に病む必要もないわ。最終決定は県予選の時だしね」
「ならいいんですけど……」
「そん時は最初がいいなー」
「…………」
 まだ不安が拭いきれないこのみと、お気楽にそんなことを言う伊織。千尋はそんな二人を静かに見つめており、
「……お、着いたみたいぞ」
 その時、電車が止まった。



久更新です。最近はずっと紙ほかの方に行っていたので、こちらを更新するのは久しぶりです。今回は昨年のインターハイ優勝校、龍源寺高校の名前が上がりました。さて、こっちだと文字数制限がきついのでこの辺で。次回は龍源寺との練習試合です。お楽しみに。