二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第二戦 雀宮高校 2 ( No.5 )
- 日時: 2013/04/15 02:15
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: 体感的にウインディのワイルドボルトは意外と威力が出ない。何故?
ポケモンバトルの演習が行われるのは特殊な体育館の中だ。外見は普通の体育館なのだが、中は外観よりも広い。
これは、体育館の中がバーチャル空間になっており、中に一歩足を踏み入れれば体は素粒子まで分解され、空間内にデータとして適応し、新しく体を構築する。まあ、要するに体積や容積などを自由に弄れる、ポケモンバトルをするための特殊空間だ。
「……やっぱりこの感じ、慣れないな」
「そうかな? わたしはこのふわっとした感じ、好きだけどな」
「ふわってなにさ……まあ、僕は中学の頃はこんな洒落たものなかったから、まだ違和感を覚えるだけかもしれないけど」
などと言いつつ、千尋とこのみは体育館の奥へ奥へと進んでいく。
「ほらほらヒロさん、早く早く!」
「分かった分かった、分かったから少しは大人しくしろよ」
伊織に急かされ、適当な位置を決めて、二人は向かい合った。
「このみちゃんは審判お願いね。ま、ごしんのよちがしょーじるまでもないくらい、速攻で決めるけど」
「お前、絶対に意味分からずに言ってるだろ」
あながち間違った使い方ではないが、最後の速攻で決めるという発言のせいで違和感がある。
「そんじゃーここはあたしから先にポケモン出してあげるよ。せめてもの情けって奴だね」
偉ぶった態度で言って、伊織は手にしたモンスターボールを放り投げる。
「行くよ、ウインディ!」
伊織が繰り出したのは、伝説ポケモン、ウインディ。攻撃面がそれなりに優秀で、素早さもそこそこ。威嚇なら耐久力もあるのだが、伊織の持つウインディの特性は貰い火だ。
「ほらほら、ヒロさんも早くポケモン出したら?」
「…………」
安すぎる挑発をする伊織を無視して、千尋は自分の繰り出すポケモンを考える。
(参ったな、今日はウインディとまともにやりあえるポケモンはいないぞ……)
全員が炎タイプ弱点とかそんなことはないのだが、大抵のポケモンはウインディの覚えているだろう技に弱点を突かれてしまい、残るポケモンも弱点を突かれなくともゴリ押されてしまいそうだ。
(伊織のことだから努力値振りなんて考えてないだろうけど、あいつの初手は何故か火力とかスピードが段違いだからな、一対一で勝つのは難しい)
伊織のポケモンはほぼ全てがフルアタ、つまり全て攻撃技の構成となっているので、範囲は広い。さらに相手が物理型であると考えれば、覚えている技はフレアドライブ、逆鱗、インファイト、噛み砕く、ワイルドボルト、神速あたり。技の威力を重視する伊織がニトロチャージや地ならしを覚えさせているとは考えにくい。となると、ほぼ確実なのがフレアドライブとインファイト、そしてワイルドボルト。なので水や岩タイプのポケモンは出し難い。かといってウインディのタイプ一致フレアドライブを等倍で耐えきれそうなポケモンは、今の千尋の手持ちにはいない。火力アップアイテムを持っていることも考慮すればなおさらだ。
となれば、
「……もう、なんでもいいや」
千尋は諦めた。
「どうせ伊織に一対一で敵うはずないんだから、さっさと終わらせよう。トドゼルガ」
千尋が繰り出したのは、氷割りポケモンのトドゼルガ。有用な補助技を多数おぼえ、耐久力もあるポケモンだ。怒りの前歯と潮水のコンボや、眠ると寝言で絶対零度と地割れを連発する一撃必殺に頼った戦法、はたまた霰下で身代わりを発動し、アイスボディや食べ残し、守るなどで時間を稼いで身代わりのHPコストを補填する無限トドなる型などが流行している。
ちなみに、千尋のトドゼルガの特性は厚い脂肪。炎技の威力を半減するので、少なくともフレアドライブでゴリ押しされることはない……はずである。
「えっと、じゃあ始めるよー」
緩い感じの声と共に腕を上げる。
「試合スタートっ」
そしてそのすぐ後に手を振り下ろし、試合は開始された。
「トドゼルガ、なみの——」
「ウインディ、ワイルドボルト!」
刹那、電撃を纏ったウインディが一直線にトドゼルガへと突っ込み、吹っ飛ばした。
「……あれ?」
吹っ飛ばされたトドゼルガを見て、このみは首を傾げている。それもそうだろう、トドゼルガはウインディのワイルドボルト一撃で、戦闘不能になっているのだから。
「もとより先制できるとは思ってなかったし、来るとしたらインファイトだと思ってたけど……本当に半端ないなぁ、お前」
「ふふん。ま、これがあたしの実力さ!」
話を整理すると、素早さで勝るウインディはトドゼルガにワイルドボルトで先制攻撃を仕掛けた。千尋のトドゼルガは耐久力に特化していたのだが、そんなことはお構いなしに伊織のウインディはワイルドボルトでトドゼルガを葬り去った。
このみも流石に一撃でやられるとは思っていなかったようで、わたわたしているが、それを無視して千尋と伊織は会話を続ける。
「命の珠を持ってたとはいえ、耐久特化の僕のトドゼルガを一発か……お前には敵わないよ、本当」
「見直した? 見直した?」
「あーうんうん、見直した見直した」
適当な返しだったが、それで伊織は満足したのか、やたらふんぞり返っている。その時だった。
『これより、三対三の演習を行います。手持ちのポケモン三匹を用意して、各々対戦相手を探してください』
バーチャル体育館の中に放送が流れる。どうやら一対一は準備運動のようなもので、本番は三対三のオーソドックスなバトルらしい。
「えー、三対三でやんのー? せっかくあたしのボーナスステージだと思ったのにぃー」
「文句を垂れるな。今日日、三対三のバトルが主流なんだから、いくらポケモンバトルに消極的なこの学校でも、その形式に合わせるのは当然だろ」
「うー……じゃーあたしヒロさんともっかいやる」
うなだれながらやる気なさそうに伊織は言った。
「まあ別に僕はいいけどさ……あ、このみはどうする?」
「わたしは別の人を探すよ。二人とも、がんばってね」
仲間内で一人あぶれても笑顔で立ち去るこのみ。まあ本人はそこまで思っていないだろうが、千尋にはどこか健気に見えた。
「さて、それじゃあ第二戦、始めるか」
千尋は新しくボールを取り出し、握り込んだ。伊織も同じようにボールを取り出す。
「順位は確かに僕の方が下だけど、三対三なら僕にも勝機はある。手加減なんかしないからな」
「当然……いや、上等! 全力でかかってきなよ!」
バトルとなると急に威勢がよくなる伊織。口ではなんだかんだ言いながら、どんな形式でも純粋にバトルを楽しんでいるようだった。
「それじゃあ」
「始めよっか」
そして二人は、同時にボールを放り投げた。