二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第三戦 雀宮高校 3 ( No.6 )
日時: 2013/04/15 02:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: 速攻の伊織と対策の千尋、勝負の行方は……?

「行くよ、バクフーン!」
「出て来い、ポリゴンZ!」
 伊織が繰り出すのは火山ポケモン、バクフーン。千尋が繰り出すのは、バーチャルポケモン、ポリゴンZ。
「バクフーンか……」
 内心、千尋は歓喜していた。いやそこまで喜んではいないが、伊織の戦術がバレバレなので心の中で微笑みを浮かべていた。
(相手がバクフーンなら、恐らくスカーフ持ち……なら一発目で来るのは噴火だな)
 拘りスカーフを持たせたバクフーンに、先制して噴火を使用させる戦法は一時期流行し、今でも有名だ。今は炎タイプを受けられるポケモンが多くなったり、あまりにも流行し過ぎて戦術がバレバレになってしまったりと、昔に比べて落ち着いてはいるが、それでも単純かつ強力であることに変わりはない。
 だが手の内さえ知れれば対策は簡単だ。
(ま、それでも無闇に交代させて、後続にダメージが溜まるのも嫌だな。伊織の初手のポケモンは異様にパワーがあるし、ここは確実に仕留める)
 幸い、ポリゴンZの特性はアナライズ。後攻なら技の威力が増すため、ほぼ確実にバクフーンを倒せるだろう。
 そう思った直後、伊織とバクフーンが動き出した。
「バクフーン、噴火!」
 案の定、千尋の予想通りにバクフーンは先制一発目に噴火を放ってきた。口から発射される高熱の爆炎。体力が満タンの時に放たれるバクフーンの噴火は途轍もない威力だが、
「っ、耐えてる……!?」
 ポリゴンZはまだ戦闘不能ではなかった。体力を僅かに残し、バクフーンの噴火を耐えていた。
「気合の襷を持ってたんだ……」
「まあな」
 気合の襷とは、ポケモンバトルにおいてはかなりメジャーな道具だ。体力が満タンの時に攻撃を受け、その一撃でやられそうになっても、ギリギリ持ち堪えるという道具。その道具があったために、ポリゴンZはバクフーンの高火力の噴火を耐えられた。
「次はこっちから行くぞ。ポリゴンZ、トライアタック!」
 ポリゴンZは両手と足にそれぞれ赤、青、黄の三色のエネルギーを凝縮し、それぞれから光線を発射する。
「バクフーン!」
 三本の光線の直撃を喰らい、バクフーンはあえなく戦闘不能。
 ポリゴンZはノーマルタイプで最も特攻が高く、全ポケモン中でもトップクラスだ。加えてタイプ一致のトライアタックにアナライズの特性まで加算すれば、その火力は計り知れない。
「うぅ、先勝されたぁ……戻って、バクフーン」
 悔しそうにバクフーンをボールに戻す伊織。確かに先手を取ったのは千尋とポリゴンZだが、残り体力は数値化すれば1。突けば消し飛ぶ体力しか残っていないので、ほぼ差し違えたようなものだ。
「相手はノーマルタイプ。だったら次は任せたよ、コジョンド!」
 伊織の二番手はコジョンド。高い攻撃力と素早さを兼ね備えるポケモンだ。
 このコジョンドに対しても、千尋は思考を巡らせる。
(コジョンド、普通は手負いのポリゴンZが相手なら確実に先制で猫騙しを使ってくるんだけど、伊織のことだから猫騙しを覚えさせていない可能性が高い。跳び膝蹴りとストーンエッジ、アクロバットあたりは確実かな……他にあるとすれば、ウッドハンマー、ブレイズキック、三色パンチ、ぶち壊すくらい? なんにせよ、一発目は命中安定のアクロバットあたりが来そうだな)
 伊織の手持ちはほぼ全てが速攻アタッカーなので、中途半端な素早さしか持たないポリゴンZでは、先制するのは難しいだろう。それならここは、ポリゴンZには悪いが捨て駒にし、後続に繋げた方がいい。
「コジョンド、冷凍パンチ!」
「お?」
 コジョンドは一瞬でポリゴンZとの距離を詰め、凍てつく拳を叩き込む。その一撃で、ポリゴンZは戦闘不能となった。
「……戻って、ポリゴンZ」
 千尋はポリゴンZをボールに戻し、再び思案する。
(アクロバットじゃなくて冷凍パンチ……てことは、ジュエル持ちか? どうせ一撃で倒せるポリゴンZ相手だから、飛行のジュエルを消費するアクロバットを嫌った?)
 なんにせよ、相手がコジョンドならこちらの出すポケモンは決まっている。
「次はお前だ、アーケオス!」
 千尋の二番手はアーケオス。飛行タイプで弱点を突けるのだが、それだけではない。
 種族値の関係上、最速ならコジョンドはアーケオスには先制できない。伊織がどんな風に努力値を配分しているのかは知らないが、千尋のアーケオスは攻撃と素早さに特化させてある。なので仮にコジョンドが最速だったとしても、アーケオスは抜けない。
「一撃で決めるよ、アーケオス。アクロバット!」
「させないよ! コジョンド、ストーンエッジ!」
 コジョンドは自分の周囲に鋭く尖った岩を浮かべてアーケオスを迎撃しようとするが、先ほど述べたようにコジョンドのスピードは僅かにアーケオスに劣る。鋭い岩が射出させる前にアーケオスはコジョンドに接近し、勢いよく翼を叩きつけて吹っ飛ばす。
「コジョンド!」
 結局コジョンドがジュエル持ちだったかは分からず仕舞いだが、代わりにアーケオスが飛行のジュエルで強化されたアクロバットを披露し、コジョンドを瞬殺した。
「これでお前の手持ちは残り一体だ。さあどうする?」
「うぅー……」
 唸りながら伊織はコジョンドをボールに戻し、最後のボールを手に取った。
「最後は頼んだよ、ガブリアス!」
 伊織の最後のポケモンは、マッハポケモン、ガブリアス。
 俗に600族と呼ばれる強力なポケモンで、種族値配分に無駄がなく、技の範囲も優秀。アタッカー向きなため攻撃面がクローズアップされがちだが、耐久力も意外と高く、調整すればそう簡単には落ちず、とにかく強いの一言で表されるポケモンだ。
(ガブリアスは強い。覚えてそうな技は逆鱗と地震、それからストーンエッジになんかだろ。怖いのはやっぱりエッジかな)
 ガブリアスのストーンエッジなんか喰らえば、アーケオスは一発で戦闘不能だ。
(でも最速アーケオスなら、ガブリアスには抜かされない。一撃で仕留めるのは無理かもしれないけど、手傷を負わせられれば後続に続けられる)
 そう思い、千尋はアーケオスに次なる技を指示する。
「アーケオス、ドラゴン——」

「ガブリアス、アイアンヘッド!」

 刹那、アーケオスはガブリアスの猛烈な頭突きを喰らい、吹っ飛ばされていた。
「!?」
 その光景に、千尋は目を見開く。驚くべきことが多数あり、どこを突っ込めばいいのか分からない、とでも言いたげな表情だ。
 だがそれでも、千尋はなんとか言葉を紡ぎ出す。
「……抜かされた?」
 まず最初の疑問はそれだ。最速のアーケオスならガブリアスには先制されないはずと思っていたのに、この結果。どういうことだと千尋が首を傾げていると、
「そんなの簡単なことだよ。あたしのガブリアスの持ち物は拘りスカーフ。最速だかなんだか知らないけど、そんなアーケオスぶっち切っちゃうよ!」
 簡単に言う伊織だが、それはありえないはずだ。なぜなら、
「でもお前、最初のバクフーン、スカーフ持ちだったろ……?」
 ポケモンバトルでは、同じ道具を複数のポケモンに持たせることは出来ない。公式の試合でないとはいえ、そのルールは基本的に厳守される。それは伊織も分かっているはずだ。
 だが次に伊織の口から飛び出した言葉は、千尋の予想の斜め上を言っていた。

「あたし、バクフーンには火の玉プレート持たせてたんだけど?」

「っ……!」
 その一言で謎が全て解決した。
(ポリゴンZは普通に抜かされただけかよ……! 素早さ特化させたってのに!)
 ともあれ、ガブリアスのスピードの謎は解けたが、もう一つの謎だ。これは口にするまでもないので、頭の中で思考するだけだが。
(なんでアイアンヘッドなんか覚えさせてんだよ、こいつ)
 鋼タイプは基本的に、攻撃には向かない。なぜなら、鋼タイプの技で弱点を突けるのは、岩と氷の二タイプしかないからだ。
 サブウェポンが不足してるのならともかく、ガブリアスは自身とストーンエッジを覚えるので、その二つで岩と氷の弱点は十分突ける。それでもあえてアイアンヘッドを採用するのなら怯み狙いくらいだが、それなら逆鱗でもなんでも普通に殴った方が遥かに良いはず。
(本当にこいつはなにを考えてバトルしてんだか。よくこんな戦法で学年二位なんて順位になれたな)
 とはいえ、普通なら最初のバクフーンでこちらのパーティーは壊滅寸前まで追い込まれている。千尋は伊織の傾向をよく知っているから、その対策になるようなポケモンを揃えたため、こうして互角以上の戦いが出来ているのだ。何も知らない生徒が戦えば、最初のウインディで三タテされるなんて日常茶飯事だろう。
「……戻れ、アーケオス」
 とりあえず疑問はほとんど払拭された。千尋はアーケオスをボールに戻し、こちらも最後のボールを手に取る。