二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.131 )
日時: 2013/09/28 19:42
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: bqK6PZgA)
参照: 創立記念日だよ☆

一章

 光が消えると、涼しい空気が肌を撫でた。
 ここは何処だ、と呟きセシルは辺りの様子を窺う。
 空を見れば、いつの間にか夜になっていた。黒い雲に覆われ、月や星は見えず、空は一面真っ暗だ。
 しかし、石の壁にある燭台には火が灯され、辺りは明るい。
 町の中へと続く木製の橋が、炎に照され、長い影を作っていた。
 セシルは、この石壁と町の出入りであろう木製の巨大な扉には見覚えがあった。石の壁は、トラペッタの市壁。城を思わせる巨大な木製の扉は、街の出入口。
 今の時間、燭台に火が灯されている門は一つしかない。大通りに面した正門だけ。

「……助かったか」

 セシルは安堵のため息をつくと、辺りを見渡し、オデットの姿を探した。
 しかし、オデットの姿は見えない。
 変わりに地面でうつ伏せになるシャウラを発見した。セシルは安堵したように息を吐き、小走りで駆け寄る。
 眠っているのか、シャウラはぴくりとも動かない。セシルは前足でシャウラの脇腹をつついた。

「おい、起きろねぼすけ」

 数回つつくと、びくっとシャウラは身動きした。
 そして、寝返りをうち、仰向けの姿勢になる。栗色の髪に草がくっついたが、シャウラは大して気にした様子も見せない。
 仰向けのまま、シャウラは目だけを動かしてセシルを見る。

「ここは天国?」

「馬鹿は休み休み言え。トラペッタの外だ。オデットの奴が、魔法か何かでここまで逃がしてくれたようだ」

 シャウラは上半身を起こし、キョロキョロした。
 そしてトラペッタの外だと分かったのか、力が抜けたように地面に倒れる。
 草ががさ、と言う音を立てた。

「大丈夫か?」

 セシルが声をかけると、

「……だるい」

 ふう、とシャウラは息を吐いた。
 オデットを呼び出した直後より顔色はよくなっているが、疲労の色が強く残っている。

「……しかし、よく魔法を発動したな。あの消耗具合だと、命まで奪われていたかもしれん」
 
「自分の力を過信して身を滅ぼすって言いたいの?まるで魔法使いカサンドラみたいね」

 ふふ、とシャウラは薄く笑みを浮かべ、他人事のように言った。
 自分の力を過信し、強大な術を使ったがために身を滅ぼした魔法使いカサンドラの故事はあまりにも有名すぎる。魔法に触れる者は、必ずと言っていい程この話を聞かされると言っても過言ではない。
 事実、シャウラもライラスにカサンドラのようになるな、己の力を見極めろとしつこく言われた。

 しかし、とシャウラは思う。勝手に限界を決めていては、何も出来ないだろう、と。

 シャウラはオデットを呼び出した時のことをよく覚えていない。
 あの時は助かりたい一心でなるがままになっていたので、記憶があまり残っていない。

 しかし、助かるためにはオデットを呼ぶしかなかった。
 もしオデットが目の前に現れて、この魔法は賭けよと笑ったとしても、シャウラは自分が呪文を唱えていただろうと、シャウラは思う。
 ——それだけ生きたかった。

「そういえば、オデットさんは?」
「知らん」

 シャウラはオデットの姿を求め——ある方向で視線を止めた。
 セシルが視線の先を追うと、石壁の向こうから白い煙が見える。

「……現実なのね」

 天へと伸びる白い煙を見つめながら、シャウラは呟いた。
 その声は、どこか冷静だった。彼女の顔には感情のさざ波すら現れていない。
 ——ドルマゲスに捕まり、生死不明の父。生きているか、死んでいるのか。それは分からないが、自分が一人で残されたことだけは確かで。
 そう思うと、目が急に熱くなってきた。視界が滲み、頬を熱いものが伝い、足下の草を濡らしていく。
 シャウラは眼鏡を外すと、すがるように、セシルの身体に顔を押し付けた。
 暖かい体毛に包まれた途端、シャウラの目頭はさらに熱を帯びる。
 瞳から溢れる熱いものはいつまで立っても止まらない。
 頭では様々な思考が混じりあい、何故自分が泣いているのかも分からなかった。——父が心配で泣くのか、一人になった自分が不安で泣いているのか。

 顔を押し付けられたセシルは、黒い瞳を細め、シャウラを優しく見守っていた。シャウラはセシルの身体に顔を埋め、声も出さず、静かに泣き続けていた。虫の音だけが、辺りに響いていた。
 しばし無言の時間が続き、不意にセシルが口を開く。

「……外は魔物がいる。町に戻るぞ」

 その言葉にシャウラは顔を上げた。
 ——左右で色の違う瞳に、まだ涙は残っていたが、服の袖で無理にぬぐい去る。

「そうね」

 静かに頷くと、シャウラは眼鏡をかける。
 瞳は両方とも元の鳶色に戻っていた。冷たい夜風がシャウラのお下げを揺らしていた。


 色が〜の下りは描写ミスではありません。
 シャウラは本来オッドアイ(左が緑、右が青)ですが、眼鏡で目の色をごまかしてます。隠す理由は一章の終わりに出てきます。
 眼鏡くらいじゃすぐにばれるだろ、と突っ込みたくなりますが。そこは江戸川コナン君理論で←コナンもハードなことやっても眼鏡取れないし、何故かばれないので……