二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.206 )
日時: 2013/11/13 13:13
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)
参照: 一章 魔物

 翌日。
 シャウラは、悪魔祓いを行うため、教会に一人で来ていた。
日暮れが近いのか、聖母を描いたステンドグラスからは、オレンジの光が射し込み、中を照らしていた。光の中でほこりがゆっくりと舞い上がっている。
 シャウラは最前列の長椅子に腰掛け、両手を組み、俯いていた。目は閉じられ、何かを祈っているように思える。
 彼女の前では神父が両手で聖書を持ち、滔々(とうとう)とその一節を読み上げていた。

「……悪魔どもは、底知れぬ所に落ちて行くことを……」

 神父曰く、聖書の言葉は悪魔を追いやる力。
 らしいが、シャウラにとっては眠気を増幅させる言葉にしかならなかった。
 神父は気が付いていないが、シャウラは居眠りをしている。両手を組んだまま、こくりとしていた。口からは穏やかな寝息が漏れている。
 居眠りをするシャウラの前で悪魔祓いは進む。神父は大きく息を吸うと、高らかに叫んだ。

「ああ、我らが神よ! シャウラを忌まわしき悪魔より解き放ち下さい!」

 その大声で、シャウラの身体がびくっと動き、鳶色の瞳が開いた。そこで自分が居眠りしていたことに気が付いたシャウラは、また目を閉じ、神父の祈る声を聞き始める。姿勢を正し、改めて手を組み直す。
 直後、教会の扉が乱雑に開き、数人の人々が駆け込んできた。皆、顔は青ざめ、肩で息をしていることから、何か起こったことは明らかだった。

「……し、神父さまっ! た、た、大変だよっ!」

 女性が乱れた息を整えながら言うと、神父は首を傾げる。

「どうしましたか?」
「ま、魔物が! 町に魔物が入り込んだんだ!」

 恐ろしさのあまり、顔から血の気が失せているらしい男性が、悲鳴をあげる。神父は目を険しくすると、手に持った聖書を抱き締めた。

「それは大変ですね。すぐに参りましょう」

 こちらです、と案内係を買った青年に伴われ、神父は外に出ていく。その後を追い、残りの人間も外にいった。
 眠気が残りぼうっとしていたシャウラは、気が付くと一人であった。しんとした空気が辺りを包む。
 呑気にあくびをして身体を前に伸ばすと、誰かが入ってくる気配を感じた。身体をひねって後ろを向くと、セシルがいた。昨晩化けた、花売りの娘の姿である。セシルは扉をきちんと閉めてから、シャウラが座る長椅子まで歩く。そして、彼女の隣に腰掛けた。

「セシル、魔物が出たって聞いたけど、大丈夫なの?」

 シャウラが尋ねると、セシルは頷いた。

「あれは小物だ。放っておいても、害はないだろう。絡むと面倒だから、さっさと帰るぞ」
「……運悪く入り込んだのね」

 シャウラは他人事のように呟いた。

「今、広場を見てきたが、魔物は町の連中に囲まれていたぞ」
「人が殺されたの?」
「いいや。奴は何もしていない。ただ、町に入っただけだ」

 その言葉でシャウラは表情を曇らせ、女神像をじっと見上げた。
 女神像は、ローブを纏った若い女性の姿。杖を両手で抱えながら、こちらを見下ろしている。その目は何かを慈しむように優しく細められ、全てを包む女神の優しさを表現していた。

「おい」

 セシルが呼び掛けたが、シャウラはまだ女神像を見続けている。

「魔物を助けようなどと言う、馬鹿げたことを考えていないだろうな?」

 呆れた口調でセシルが聞くと、シャウラは女神像に視線を固定したまま首を振る。

「まさか。あの場に行けば、トラペッタを敵に回す羽目になるわ」

 否定はしたが、その語気はとても弱々しく、まるで苦しい言い訳をしているようで。実際、シャウラは自分に言い訳をしていた。
 ——助ければ自分は魔物の味方とされ、迫害される。敵の味方は敵。それは、分かりきったことで。魔物を助ければ、自分は全てを失う。助けても、損しかしない。だから、見てみぬふりをする。
 出来ないのなら、初めから関わらなければいいの、とシャウラは自分に言い聞かせた。しかし、もやもやしたような気持ちは晴れない。腹に石を入れられたような、鈍い重さを感じる。
 救いを求めるような表情で女神像を見るシャウラを見て、セシルはため息と共に言葉を吐き出す。

「放っておけ」

 その言葉にシャウラは弾かれたように、セシルを見る。

「お前、この町で生きると決めたばかりだろう。トラペッタ(ここ)を敵に回せば、居場所はなくなるぞ。……なら、聞こう。魔物一匹のために、お前の全てを捨てる覚悟はあるのか?」

 セシルは鋭い目付きで、シャウラの真意を問う。とっさに答えることが出来ず、シャウラは言葉を濁した。

「……それは」

 シャウラの顔に迷いの色が強く出る。視線を床に落とし、俯いてしまった。
 セシルはふん、と鼻を鳴らす。

「なら、やめておけ。中途半端に情けをかければ、お前も魔物も。どちらも助からないぞ」

「『羊毛を求めに行くが、自分の毛を刈られて帰る者が多い』、ね」

 人を連れ戻しに行った者が帰って来ない、と言う意味の諺。無闇に人助けをすれば、己の身が滅ぶこともあると示しているのではないか。

「その通り。今、魔物を救うのは勇気ある行動ではない。——ただの蛮勇(ばんゆう)だ。魔物の運が悪かったと諦めるんだな。このままだと殺されかねないが、それもまた不幸か」

 淡々と紡がれたセシルの言葉に、シャウラは驚いたように目を開ける。

「え、今、なんて……」
「あのような弱い魔物なら町中の人間に攻撃されるだろう。下手をすれば死んでもおかしくないさ」

 当然そうに言うセシルに、シャウラは言葉も出なかった。魔物は人に殺されて当然のもの、と言うセシルの言葉は正しい。だが、何もしていない魔物が殺されてよいのだろうか?

「シャウラ、セシル! ここにいたのね!」

 その時、教会の扉が開き、ユリマが駆け込んできた。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.207 )
日時: 2013/11/13 13:21
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)

 ユリマは数回深呼吸をして乱れた息を整えると、扉を閉め、シャウラとセシルの前にやってきた。

「ユリマ、魔物はどうなってるの?」

シャウラが問うと、ユリマは悲しげな表情を見せる。

「ひどいの。魔物は何もしていないのに、町の人たちは魔物に攻撃しているの」
「攻撃?」
「みんな石を投げつけたり、乱暴な声で罵るの。何もしていないのに……何も……」

 ユリマが消え入りそうな声でいい、シャウラは気持ちがますます重くなる。
 セシルが殺されかねない、と言ったのが実感を帯びてくる。魔物はこのまま放置すれば、確実に死ぬのだろう。——だが、シャウラに助けると言う行動を起こす気になれない。

「魔物は逃げないの?」
「空を飛べる魔物じゃないから、逃げられないみたい」

 その言葉にシャウラは瞬きをした。
 高い石の壁を越えたのだから、町に入ったのは空を飛べる魔物——例えば、こうもりのような魔物、ドラキーだと考えていたからだ。シャウラは、この時、魔物が門をくぐって堂々と入ってきたとは思わなかった。

「ドラキーじゃないのね」
「珍しい魔物だったよ。何て言うのかな……顔はカエルみたい。でも、何となく分かるの悪い子じゃないって」

 そしてユリマはシャウラとセシルを見据え、はっきりとした声音で

「だから、私はあの魔物を助けたい。二人とも、手伝ってくれないかな?」

 ユリマの言葉にシャウラは戸惑うような表情を見せる。どうしてよいか分からず、救いを求めてセシルに視線を向けた。が、セシルは「お前が決めろ」言い切り、相手にしなかった。
 決断するよう言われ途方に暮れるシャウラの横にユリマが座り、二人を見ながら、

「私は魔法も剣も出来ない。だから、助けられる力が必要なの。二人には助けられる力があるから、協力して欲しいの」
「……ない」

 シャウラはユリマを見て、首を振る。

「え?」
「あれだけ大勢の人間をどうにか出来る魔力は、私にはない。父様がいたら、話は違うでしょうけど」
「どうして卑屈になるの? メラやラリホーがあるだけで色々出来るのに」

 ユリマの反論に、シャウラは困ったように肩を落とす。

「確かに、それで魔物は救えるかも、ね。けど、私たちはどうなるの?」
「……あ」

 はっとした表情になったユリマは、"魔物を助ける"と言う目先の事しか考えていなかったようだ。それに気が付かない振りをし、シャウラはユリマに魔物を救う危険性を説明する。

「魔物は悪。本来なら、罪人と同じく助けてはいけない存在なのよ。それを助けようとした時点で私たちは悪とされ、罰は必ず来る」
「…………」

 黙るユリマに追い討ちをかけるように、シャウラは現実を突き付ける。

「トラペッタを追い出される程度で済めばいいけど、町の人に殺される可能性も十分にあるわ。あれだけ大勢の人に襲われたら、セシルを使って町の人を何人か殺して逃げるしかないわね」

 ユリマは、口を閉ざしたままだ。
 シャウラから聞いた話に、衝撃を受けたらしい。
 顔や唇から血の気は失せ、青ざめていた。ぎゅっと手でスカートを握り、小刻みに身体を震わせている。

(……普通ならこんなところまで頭は回らないから、無理はないか)

 今にも泣きそうなユリマの様子を見、シャウラは心のなかでため息を吐いた。
 片親とは言え、普通の生活を送り、人を愛することが出来るユリマには信じられない話だろう。いや、知識として持ってはいても実際に体験するのは初めてなのだろう。——優しい人間が冷酷な人間へと様変わりする、それを。

 魔物を助けようとした時点で、シャウラたちにトラペッタの居場所はなくなる。町を追い出されるか、怒り狂った人々に殺されるかの二つに一つ。
 
 魔物の命をとるか、自分の居場所をとるか。
 両方を天秤にかければ、自分の居場所をとるべきなのは明らかだろう。魔物を助けたから何か褒美が与えられる訳でも、誉められる訳でもない。シャウラにとって得る物は何もなく、失うものしかない。
 ——それはユリマも同様だ。だが、彼女には居場所だけではなく、家族と言う足かせがある。それもユリマがいないと、生きていけないような人間が。追われた場合、どうなるのか考えるだけでぞっとする。彼女を止めなければ、とシャウラはユリマを説得しようとする。

「ユリマが追い出されたらどうするの。ルイネロおじさまが、一人になってしまうわ」
「……お父さんが?」

 ユリマが泣きそうな瞳でこちらを見た。少し落ち着いたのか、顔に赤みが戻っている。

「おじさまはユリマがいないと、生活出来ないのよ。それに罪人の親として、町の人たちから冷たい目で見られながら生活しないといけなくなるわ」
「お父さん……」
「残念だけれど、魔物は諦めた方がいいわ。……失うものが多すぎる。世の中には、どうしようもないこともある。そういう時に大切なのは、いかに早く諦めるか、よ」

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.208 )
日時: 2013/11/13 13:28
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 あっさり言い切ったシャウラ。
 だが、顔付きは浮かないものだった。失うものが多すぎる、とは言ったがそれは見捨てる言い訳に過ぎない。自分にとって不利なことは切り捨てればよい、と言う考えてしまう自分。シャウラは自分がろくでもない人間だと、内心で自嘲する。
 ユリマは、納得がいかない表情を作った。

「でも、本当にシャウラが言う通りなのかな」

 まるで冗談を聞いたように、ユリマは笑う。

「確かにあり得る話だけど、ちょっと大げさすぎない? みんな、今、すごく怖いけど話せば分かってくれる。本当は優しい人たちだから……」
「無理ね」

 シャウラがあっさり否定すると、ユリマは眉を上げる。

「どうして? 魔物を救えるかもしれないのに」
「じゃあ、はっきり言いましょう。ユリマ。死ぬ気?」

 ユリマは一瞬、ぎょっとした素振りを見せる。

「そ、そんなことないよ」

 シャウラは呆れたようなため息をし、

「あの人たちは今、殺気立っている。すごく、怒っているのよ」
「……うん」
「下手に魔物を助けてなんて口を挟めば、怒りが増幅されるわ。あの人たちは、魔物を敵と見なし、消そうとしている。敵の、味方は敵、ってことで私たちも消されるわよ」
「セシルがいるもの、逃げられるわ」
「トラペッタの人が何人か死んでもいい?」

 冷然とした態度でシャウラが問うと、ユリマは俯き、弱々しい声で答えた。

「……ダメ」

 だが、すぐに顔を上げ、シャウラを睨む。いつもなら優しいはずの青い瞳には、シャウラを非難するような光が宿っていた。

「でも、……でも。魔物を見捨てていいのかな。」
「どうしたの、ユリマ?」

 魔物を見捨てることに疑問を抱く様子のユリマに、シャウラは心配するような声をかける。やや間があってから、ユリマはシャウラをしっかり見つめた。

「私たちは、セシルと仲がいいよね」
「そうね」

 とりあえず肯定すると、ユリマは頷いた。ちらっとセシルに目をやる。

「悪であるはずの、セシルと暮らしている。だけど、シャウラも私も差別はしない。おかしいよね」
「…………」

 返答に窮するシャウラに、ユリマは畳み掛けてくる。

「魔物が全部悪じゃないって知ってるから、じゃないかな? セシルがいい魔物だって知ってるから、私たちは人間と変わらずに接している」
「何が言いたいの?」

 シャウラが低い、語気を強めた声で尋ねると、ユリマは淡々と見返す。強い光を宿した青い瞳で、シャウラの鳶色の瞳を射る。

「私ね、いい魔物もいると知りながら、見捨てるっておかしい、って思うの。それって、友達の友達を見捨てるようなものでしょ?」
「広場の魔物が、いい魔物とは限らないわよ」

 シャウラは否定した。弱いふりをする、狡猾な魔物と言う可能性がない訳ではない。セシルやユリマの発言からその可能性がゼロに近いと理解していても、シャウラは言わずにはいられなかった。言わないと、見捨てると言う行為が間違っているように思えた。

「抵抗もしないで、自分から殺してくれって頼む魔物はいないわ。少なくとも、人に害を与える子ではないよ」

 反論の言葉が思い付かないシャウラは、苦し紛れに話題を変える。

「……繰り返すけど、失うものが多すぎるわ。それでも、やる必要はあるの?」
「あるわ」

 ユリマは、きっぱりと言い切った。そこに、先程の怯える彼女の姿はもはやない。

「私たちの居場所はまた作れるけど、魔物の命は二度と戻らない。助けることは、私たちにしか出来ないことよ。魔物と友である、私たちが成すべきことだわ」
「町の人たちが襲ってきたら?」
「シャウラ、精霊を呼べるよね? 火事から逃げたように、精霊に逃がして貰えばいいよ」

 質問が思い付かないシャウラは、口を閉ざす。ユリマの勢いにのまれ、頭がろくに回らない。
 反論しようにも反論が思い付けず、ユリマの発言をそのまま受け入れてしまう自分がいる。
 シャウラは驚いていた。大人しいユリマに、言い負かされるなど、初めての経験だった。

「シャウラ、そろそろ本当の気持ち、言ってくれないかな?」

 不意にユリマが穏やかな声で言って、シャウラは瞬きする。

「え?」
「さっきから理屈っぽいことばかり言って、無理矢理自分を納得させているわ。あなたの本心は、魔物を見捨てることじゃない」
「……そんなことない」

 シャウラは力ない声で否定し、ユリマから目をそらした。もやもやした気持ちが、一層強くなる。

「嘘よ」

 凛とした声でユリマは、言った。

「シャウラは、どうしようもないから諦める、って理由を作っているだけ。救う手立てがあるなら、助けようって思ってる。違う?」

 ふ、とシャウラは観念したように口元を歪める。改めてユリマに視線を合わせ、冗談半分に、

「そうね。私たちが町から追い出されず、魔物も救える、都合がいい方法があるなら、助けたいわね」
「あるよ」

あっさりとユリマに言われ、シャウラは呆然とする。

「何か考えがあるの?」
「聞いて、思いつきなんだけど……」

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.209 )
日時: 2013/11/13 13:35
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 ユリマが手短に話した内容に、シャウラは首を捻った。

「いいとは思うけど、ユリマにしては、随分乱暴な発想ね」
「そ、そうかな?」

 困ったようにユリマが笑うと、今まで黙っていたセシルが口を開いた。

「幸い、今、トラペッタの連中に力あるものはいない。存外、上手い方法かもな」
「衛兵さんは? 訓練を積んだ兵だし、簡単に屈するとは思えないけど」
「バカを言え。あいつは平和ボケしていて、真っ先に逃げる奴だぞ。前にキラーパンサーの姿でからかってやったら、一目散に逃げていったわ。やはり、賢い私に衛兵ごとき敵ではないな」

 得意気に自慢するセシルに、シャウラは言葉を失い、卒倒しかかる。町を守る衛兵が弱虫であると言う事実と、セシルの悪趣味が二重の苦しみとなって、シャウラにのし掛かる。
 その横でユリマも苦笑していたが、すぐに話題を戻した。

「どう?」

 シャウラも頭を切り替える。

「確かに上手く行きそうだとは思うけど、不安なところもあって」

 正直なところ、失敗した際のことが頭をよぎり、行動を躊躇してしまう。失敗を恐れる気持ちが、まだ残っている。
 それをユリマに隠さず吐露すると、彼女は優しく微笑んだ。

「悩むのはよく分かるわ。私もトラペッタから追い出されると思うと、怖いもの」

 ユリマの笑顔から恐怖は読み取れない。むしろ、大丈夫だと確信しきった顔付きである。それだけに、シャウラには意外だった。

「じゃあ、どうして魔物を救おうとするの?」
「後悔したくないから」

 ユリマは手を組み、女神像を見上げる。

「魔物を救えたのに、って後悔したくないの。きっと、どっちを選んでも後悔するわ。だったら、自分のやるべき事をやった方がいいと思うの」
「……やるべき事」

 シャウラも女神像を見詰める。静かな笑みが、こちらを見下ろしていた。

「行動を放棄しなかった分、後悔は少なくなると思うから」
「うん……」

 二人は自然と視線を下げ、お互いを見ていた。ユリマは柔和な目でシャウラを見る。淡々とシャウラは見返していた。

「もし町を追い出されたら、三人でどこかに引っ越そうよ。三人いれば何かのお仕事にはつけると思うから」
「ルイネロさんは?」
「お父さんも力強くで引っ越させればいいわ。四人で引っ越すの」
「……強引ね」

 シャウラは呆れてため息をつく。ふふ、とユリマは楽しそうに笑い声を上げた。

「四人で力を合わせれば、新しい町でも生活出来るよ。………あくまで最悪の場合、だけどね」

 そう前置きして、迷いのない目で二人を見据えた。

「私は上手く行くと思う。シャウラやセシルとなら、何とかなりそうな気がするの。あの火事から生き残ったあなたたちとなら、きっと上手く行く」

 自信満々にユリマは断言し、シャウラは迷いが何処かに吹き飛んだ。考えてみれば、迷ったのがバカなようだった。
 どうせ近い将来、トラペッタを追い出されるのは避けられないし、殺される可能性だってあるのだ。それが早いか遅いかの違いだけだと気づき、シャウラは変にほっとした。
 気が付くと、シャウラは無意識のうちに眼鏡のつるを掴んでいた。

「私、魔物を助けるのを手伝うわ」

 頭の片隅に思考を追いやると、シャウラは自分の意思をはっきりと表現する。
 セシルも仕方ない、と言った感じで、

「いいだろう。やってやる」

 二人の言葉を聞いたユリマは嬉しそうに笑ったが、すぐに次の行動に移った。
 席から立ち上がると、教会の右奥の扉まで駈けていき、扉を開けた。ややあって、何かを両脇に抱えながら帰ってきて、シャウラが座る席の後ろにそれを置く。
 それは外套が付いた、紺色の長いローブ。
 恐らく旅に用いるものなのか、シャウラが持っていたものよりずっと丈夫そうだった。触ってみると、結構厚みがあり、寒さにも耐えられる便利な代物であると分かる。
 だが、問題はその横にあるものだ。
 恐らくは豊穣の祭りの際に用いる、被り物。牛の頭を模したそれ。きちんと色も付けられた精巧なものである。
 シャウラは、身体を捻った体勢のまま、唖然としていた。
 外套だけで、顔を隠せないから被り物をするのは分かる。
 だが、もう少しましなものはなかったのだろうか。何故牛を選んだとシャウラは一言、ユリマに言ってやりたかった。

 一方のユリマは早くも着替えに取り掛かり、牛の被り物を被っていた。

「シャウラ、すぐに着替えて」

 頭だけ牛になったユリマがシャウラの手に、ローブと牛の被り物を押し付ける。被り物を被れば、完全に牛でユリマの顔は全く見えていない。
 渋々、シャウラも着替えを始めた。首もとにあるボタンを止め、ローブを身に付けると、シャウラは牛の被り物を手に取る。じっと見詰めながら、

「ねえ、何で牛なの?」

 不満そうに聞くと、ユリマから弁明の声が。

「被り物、これしかなかったんだもの」
「……後、これって泥棒?」
「"借りるだけ"。洗って返せば大丈夫よ」

 ユリマの声は、晴々としていた。罪悪感など皆無に等しいようだ。
 そういう問題か、と思わず突っ込みを入れたくなるが、今はそれ程暇ではなく。シャウラはユリマに意見するのを止めた。

「…………」

 事態が急を要するので、シャウラは責めるのを諦めて牛の被り物を頭から被った。だが、眼鏡が引っ掛かった。
 それを見ていたセシルが、ユリマに話しかける。

「おい、ユリマ」

 するとユリマは視線をシャウラからそらした。
 その隙にシャウラはユリマに背中を向け、眼鏡を外した。
 すると鳶色の瞳が、左右で色の違う瞳に変化していた。左目はエメラルドを思わせる鮮やかな緑、右目は空を写しこんだような青。
 シャウラは手早く牛の被り物を被り、眼鏡を服のポケットに捩じ込む。頭だけが牛と言う、怪しい人間が二人、現れた。

「あ、シャウラも着替え終わったね」
「お前ら怪しいな」

  セシルはからかうように言うが、すぐに真顔に戻る。何やら呪文を唱えると、煙が上がり、セシルの姿が消えた。シャウラは片手を握り、拳を作る。

「行こう」

 ユリマの言葉にシャウラは頷いた。


Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.210 )
日時: 2013/11/13 13:40
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 シャウラとユリマが、教会で魔物を救う準備をしていた頃、トラペッタの酒場に旅人が訪れていた。
日が落ちかかるこの時間、仕事を終えたトラペッタの人々が次々とやってきて、酒場は騒がしい。——はずだった。
 ところが、今日は酒場にほとんど人がいなかった。いつもの喧騒はなく、酒場のマスターがグラスに氷を入れる小気味よい音だけが場を支配する。

「兄貴ーどうしたでがすか?」

 野太い声に呼ばれた、"兄貴"こと、エルニアは振り向いた。
 身なりは、旅人らしいものだった。頭にオレンジのバンダナを巻き、服は長袖の青いシャツ、その上に黄色のチュニック。下も動きやすそうな暗めな緑のズボン。
 バンダナの下から覗く短めの髪は暗めの茶色。いかにもひとが良さそうな顔立ちをしていて、漆黒の瞳も穏やかな光を湛えている。
 ここまで見れば、エルニアはただの若い旅人に見えるかもしれない。
しかし、その背にある長剣は、ただの旅人が持つにしては使い込まれた様子のものだった。

「いや、人がいないなあって……」

 エルニアは、男——ヤンガスを見て、答える。
 ヤンガスはエルニアよりもずっと年上、三十代後半と言ってもおかしくないふけた顔の持ち主。ふくよかな体格で、身なりは一見山賊風だ。上半身、特に前はほぼ裸に等しく、熊らしい毛皮を一枚纏うだけ。丸太のように太い腕や、贅肉付きの腹が丸出しである。下はダボダボの、明るい青緑のズボン。
 鋭い眼光を放つ黒い瞳と顔や腕にある傷。極めつけに棍棒を背に持てば、誰がどう見ても立派な山賊に見える。

「変でがすなあ……この時間なら、確実に人がいるんでがすが」

 ヤンガスがいぶかしむと、エルニアも腕を組んだ。
 彼らの目的は、『マスター・ライラス』と言う人物を探すことだった。
 このトラペッタの何処かにいると聞いたが、彼らは何も知らない。なので町の人に教えて貰おうと、人が多い酒場にやって来たのだ。
 だが、酒場の人々は何かに怯える様子で口を閉ざしており、とても話が聞けそうな状況ではない。困った二人が突っ立っていると、酒場のバニーが声をかけてきた。

「あら、お客さん。広場に魔物が出たって言うのに、随分冷静ね」

 その言葉で二人の顔から、さあと血の気が引く。

「ま、まさか……!」
「おっさんと馬姫様が危ねえ!兄貴、急ぐでがすよ!」

 エルニアとヤンガスは大慌てで、外に飛び出ていった。

 エルニアたちが酒場を飛び出すと、空は鮮やかなオレンジ色に染まっていた。
 酒場の前では、人々が集まり、不安そうに下の広場を見ていた。
エルニアとヤンガスも広場の様子を窺おうとするが、人々が集まりすぎているせいでよく見えない。
 二人は仕方なく、人々の間に無理やり割り込み、広場が見渡せる位置まで移動する。

「す、すいません……」
「ちと、通るでがすよ」

 向けられる非難めいた視線に謝りながら、人々を押しやり進むと、ようやく広場の様子が見えた。
 広場は人々で溢れ、怒号や罵声が飛び交っていた。
 彼らは皆、トラペッタの出入りである門の前を怒りの眼差しで睨み付けていた。
 そこには、緑色の魔物がうつ伏せになっていた。緑の肌には赤い擦り傷や切り傷が多くあり、痛々しい。意識がないのか、ピクリとも動かない。

 その魔物を守るように、馬車に繋がれた白馬が立ち塞がっていた。
 人々が怖いのか、深緑色の瞳には、不安そうな光が灯っている。
 それでも、人々の敵意の視線と暴言に対し、時おり、白馬は馬蹄(ばてい)で地面を力強く叩き、応戦する。鼻息を荒くし、威嚇の真似のようなこともするが、深緑の瞳は誰かの助けを求め、あちこちをさ迷っている。

「陛下、姫!」

 それを見たエルニアは、ほぼ無意識に身体が動いていた。剣の柄を掴み、高台から飛び降りようと一歩踏み出す。それに気付いたヤンガスが、慌ててエルニアを止めようとする。

「兄貴、どこへ行くつもりでがすか?」
「陛下と姫を守るのは、僕の仕事だ。町の人たちから、二人を取り戻すんだ」
「兄貴、おっさんと馬姫さまが心配なのは分かりやすが、落ち着いて下せえ」

エルニアは怒りの形相でヤンガスを睨み、

「これが落ち着いていられるか! 二人の危機な……」

 なんだ、と言う声は遮られた。

「み、みなさん!」

 不意に通る声がし、人々の視線が一斉に声がした方角に向く。エルニアとヤンガスも広場に目をやる。

 広場に二人の人間が現れた。人々を押し退け現れたのは、長いローブに身を包み、牛の被り物をした二人の人間。つまりは、シャウラとユリマ。同じ格好をしている上に元々体格も似ているので、遠目には見分けがつかない。
 人々は双子が現れたような気分だった。そして、突然の怪しい人間の登場に、広場はどよめきに包まれる。人々の反応などまるで無視し、ユリマは白馬を守るように前に立ち、シャウラは背後の魔物の元へと歩み寄る。
 ユリマは広場を見据える。作り物の無機質な瞳が人々を捉えた。

「だ、誰なんだ……あんたたちは!?」

 突然現れた、それも異様な格好をした彼らに対し、人々は敵意を込めた眼差しを送る。
 辺りから悲鳴や怒りの声が上がるが、彼らは静かだった。何かの動きもせず、じっと立っているだけ。それがかえって異質さを高めている。

「あ、兄貴……」

 広場を見ていたヤンガスが戸惑いがちに、エルニアを見る。

「な、なんなんだあの人たちは……」

 エルニアもまた、怪しい人間たちに困惑していた。
 だが、すぐに本来の目的を思い出し、剣を抜こうとし、エルニアはヤンガスに剣を奪われた。

「ヤンガス。僕は二人を守らないといけない。今度は、今度は……」

 エルニアは拳を握り、震わせながら言って、ヤンガスは首を振る。

「兄貴、気持ちは分かりやすが、下手に動けば、おっさんと馬姫さまに危害が及ぶかもしれないでげす。だから、兄貴の頼みでも聞けないでがす」

 ヤンガスが言って、エルニアは辺りの様子を窺う。
魔物と馬に視線が集まっている今、下手に動けば、かえって二人を危険にさらしそうだ。町の人たちは数が多く、二人で対応するには無理そうだった。
 今は大人しくした方がいい、そうエルニアは判断し、渋々ヤンガスに従う。

「……分かった」

 二人は改めて広場を見た。広場では、トラペッタの人々とユリマがにらみ合いをしている。
 人々の強い眼光に牛人間——ユリマは、気圧された様子だったが、いつの間にか横にいたシャウラが無言で手を差し出すと、迷わず掴んだ。 それで落ち着いたらしく、すうと息を吸い、いつもより声の調子を落とし、宣言する。

「わ、私たちは放浪の魔物使いです! トラペッタに魔物が迷い混んでいると聞き、ここに来ました!」

〜つづく〜




Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.211 )
日時: 2013/11/13 13:47
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 人々はぷっと吹き出す。わはは、と大声で笑う声もした。
道化師か何かと勘違いしているようだ。

「ま、魔物使いって……」

 エルニアも呆気にとられた。ヤンガスは町の人たちに混じり、大笑いしていた。
 多くの人々が小声でひそひそと囁き、小馬鹿にするようにユリマを見るなか、威勢のいい若者が口火を切った。

「魔物使いだと? 嘘を言うな! お前もそいつらの仲間だろう!」

 人々は口々にそうだ、そうだと叫ぶ。

「魔物使いだが、魔法使いだが知らんが、証拠を見せろってんだ。そしたら、信じてやるぜ」

 中年の荒くれがそう挑発すると、人々からどっと馬鹿にするような笑いが起こる。何も知らない人々は野次を飛ばしたり、馬鹿にしたりと、魔物使いであると信じてはいないようだった。
 そして、魔物の味方など神に代わって裁いてやる、と一部の過激な人々が足下の小石を手にとった、その時。
 怪しい人間の一人——シャウラが、笑った。可笑しくてたまらない、と言わんばかりに笑った。
 シャウラの突然の行動に、人々が唖然とするなか、シャウラは冷たい声で、

「のんきなものね」

 広場がどよめきに包まれる中、ユリマが明るい調子で、

「なら、証拠をお見せしますね」

 シャウラとユリマは見つめあって頷きあう。シャウラは、背中に隠していた拳を天に掲げ、早口で叫ぶ。

「母なる大地の力、我が祈りに応えん。魔物を操る力をこの手に宿らせよ!」

 そして、拳を一気に降り下ろし、ぱっと手を開く。
 少なくとも、人々にはそれだけの行為に見えた。
 直後白煙が上がり、その中から一匹の獣が現れた。
 豹のような体躯、赤いたてがみ、鋭い牙と爪。それらが意味するものを、分からない者はいない。本で、絵画でよく登場するそれ。魔物の中でも、特に凶暴で人に懐かしいはずのそれ。
 人々の手から、石が溢れ、地面にぶつかる音がする。

「きゃあ! キラーパンサーよ!」

 一人の女性が悲鳴を上げた途端、図ったようにあちこちから叫び声が上がった。人々は、凍り付いた。
 先程と打ってかわって、その顔に余裕はない。顔は青ざめ、恐怖の色に染まっている。ある者は身体を震わせ、ある者は逃げ出し、またある者は泣き出す。広場は、恐怖と混乱に包まれていた。

 何人か気丈にキラーパンサーを睨んだが、キラーパンサーが低い威嚇音を発しただけで、奇声を上げながら逃げていった。
 一方、高台の方では大半の人々は逃げ出したが、エルニアとヤンガスを含め何人か残っていた。残った人々は恐々と、身を乗り出して広場の様子を窺う。

「な、何でキラーパンサーが出て来るんでげすか!?」

今にもひっくり返りそうな勢いでヤンガスは絶叫し、

「トラペッタに、キラーパンサーは生息していないはずなのに……」

 魔物は人間が付けた呼び名であり、実際のところは生物だ。鳥が空に、魚が海に住むように、魔物が生息する範囲も不思議と決まっている。
 どこでも生きられるしぶとい生命力の魔物もいれば、寒いもしくは熱い場所にしかいないものもいる。挙げればきりがない程、魔物はあちこちに生息する。
 野生のキラーパンサーは、本来、トラペッタ付近には存在しない。それこそ、魔法か呪術で呼ばない限り、いるわけがないのだ。

 エルニアは我が目を疑い、広場のキラーパンサーを凝視する。鋭い牙と爪は、野生のそれで、見世物として飼われている訳ではなさそうだ。 ただ、野生にしては体毛は綺麗で、けづやもよく、きちんと手入れがされているのが分かる。

「キラーパンサー、町の人たちを引き裂きなさい!」

 ユリマの言葉で町の人たちは震え上がる。
 キラーパンサーは、身を屈め、威嚇しながら人々に近付いていた。悲鳴を上げながら、人々は広場から逃げ出した。
 ユリマが指示を出すと、威嚇しながら近付き、人が逃げ出すのを見たら、また別の人々に近付き、の繰り返し。まるで、広場から人を追い払っているようだ。
 エルニアがふと気が付くと、牛人間の片方——シャウラが消えていた。

 どこへ行ったのかと、姿を求めるとシャウラは魔物を抱え、馬車の側面にいた。魔物を片手で抱き、空いた手を魔物にかざす。すると手が淡い緑の光を帯び、魔物の身体もわずかに輝いた。
 傷を回復する魔法——ホイミのようだ。

(彼らは、陛下と姫を助けようとしているのかな?)

 ホイミを使う牛人間を見、エルニアは確信する。
 彼らは、この場から魔物と馬を救おうとしているのだと。
 キラーパンサーを呼び出したのは、力で町の人たちを従わせるためだろう。そうすれば、今の状況もつじつまが合う。
 キラーパンサーに、町の人たちを襲わせないのはあくまでも、力を見せつけるつもりだから、なのだろう。町の侵略が目的なら、問答無用で町の人たちをキラーパンサーの餌食にすればよいのだから。

 ふと視線を戻すと、キラーパンサーに一人の男が近付くのが見えた。左手には、小瓶が握られている。
 エルニアは小瓶の形に覚えがあった。

(あれは、聖水?)

 聖水は、魔物を寄せ付けないようにする道具だ。神の祝福を受けた、特別な水のことで、その水を身体につけることで効力を発揮する。魔物は神の力が嫌いらしく、聖水をつければ大抵の魔物は寄ってこないのだ。

「くらえ!」

 キラーパンサーに近付いた男は、瓶の栓を抜き、中の透明な液体をキラーパンサーの顔にぶちまける。

「はは! 魔物には、神の力が効くだろう!」

 男が得意気に笑う。だが、男は勘違いしていた。
 聖水は魔物を"寄せ付けないようにする"だけで、魔物に致命的なダメージを与える代物ではない。
 キラーパンサーは顔から雫を垂らしながら、呆れたように目を細める。

「——バカめ。聖水ごときでこの私を倒せるとでも思ったか?」

 憮然とした声は、キラーパンサーから。
 広場は一度凍り付いた。半拍程遅れて悲鳴が上がり、広場は逃げ惑う 人々で、混乱状態に陥った。あちこちで罵声や悲鳴がし、広場から離れようとする人々が道に集まり、押し合い圧し合いをしている。

「き、キラーパンサーが話しただと!? どうなっているんだ?」
「ママー! 怖いよぉー!」

 大人は顔を真っ青にし、子供は親に抱き付き、泣き叫ぶ。キラーパンサー一匹のために、トラペッタは翻弄されていた。

「あ、あんたたち! トラペッタをどうするつもりだ!?」

 若い男が叫び、ユリマは淡々と答える。

「私たちは、この魔物と馬車を頂きたいだけです。これらを頂けるなら、すぐに町から出ていきますよ」
「魔物でも馬車だけ持って、さっさと出ていきなさいよ!」

 若い女が吐き捨てるように言って、夫らしき男性が駆け寄ってくる。
 片手で女の口を塞ぎ、叱る。

「バ、バカ! キラーパンサーに襲われたら、どうするんだよ!」

 そして、ユリマに取り繕うような笑みを見せて、

「ど、どうぞお持ち下さい。そうしたら出ていって下さるんですよね?」

 男に確認するように聞かれ、ユリマは静かに頷く。
 すると、男は嬉しそうに笑い、女の口から手を離した。町の人たちにてきぱきと指示を出し始めた。

「おい、道を開けろ! 魔物使いの方々が通れないじゃないか! あんたたちは、さっさと散れ! 見世物じゃないんだぞ!」

 男の指示で、人垣が割れ、まっすぐな道が出来る。人々は怒りと敵意をない交ぜにした視線を牛人間たちに向けるが、彼らは動じなかった。
 シャウラは魔物をユリマに渡すと、馬の鞍を叩き、何やら話しかける。
 馬は安心したように目を細め、シャウラは馬のたてがみをそっと撫でた。そして片手で馬の手綱を掴み、歩き始める。すると、馬は大人しくシャウラの後に続いて歩きだし、エルニアは目を剥く。
 シャウラを先頭にユリマとキラーパンサーが後を追うように続いた。

「も、もう二度と来るな、化け物め!」

 南門へ向かう彼らの背に、町の人々の罵声が突き刺さる。
 しかし彼らは見向きもせず、まっすぐに南門へ向かい、門を開けて外に出ていってしまった。それを見送ると人々の間にほっとしたような、怒りのような、微妙な空気が漂い始める。

「……ヤンガス、行くよ」

エルニアとヤンガスは、困惑する人々の間を通り抜け、外に急いだ。

〜つづく〜






Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.212 )
日時: 2013/11/13 13:56
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 外に出ると、緑の魔物が白馬の頭を撫でていた。
 魔物の肌には、多少擦り傷やアザが残るが、特に大事はないらしい。元気に頭を下げた白馬に抱き付いたり、たてがみを撫でたりしていた。

「陛下、姫!ご無事ですか!?」

 エルニアは魔物と馬に声をかけながら、駆け寄る。
 それに気がついた魔物は馬から身体を離し、エルニアに近付いた。魔物の背は、エルニアの膝より少し高いくらいなので、自然と見上げる格好になる。

「おお、エルニア。わしもミーティアも無事じゃ。あの魔物使いには、感謝してもしきれんのう」
「ああ、よかった」

 エルニアは安堵したように微笑むと、馬に歩み寄る。——真っ白な馬。その場に佇むだけで絵になりそうな馬だった。
 すらりとした体躯、真っ白な毛並みは美しく、馬車を引く馬のようには見えない。汚れらしい汚れがほとんどないことから、きちんと手入れがされているようだ。

「姫、恐かったでしょう?」

 優しい声で問いながら、エルニアが馬のたてがみを撫でると、馬は小さく頷いた。まるで甘えるように、エルニアの手に顔を擦り付ける。それだけだが、行動はどこか上品に思える。
 ふふ、とエルニアは笑い声を上げた。

「もう大丈夫ですよ。僕がそばにいますから」

 エルニアがたてがみを撫でながら、穏やかな声音で言う。馬は安心したように深緑色の瞳を細め、撫でられるがままになっていた。
 しばし馬を撫でた後、エルニアはため息と共に言葉を吐き出す。

「……全く、トラペッタの人たちは最低だよ。陛下に乱暴をするなんて」
「そういえば、あの魔物使いたちは何処に行ったんでがすかね?」

 ヤンガスは辺りを窺うが、人はいない。

「わしらを逃がしてすぐ、何処かへ行ってしまったのじゃ。全く、恥ずかしがることでもないのにのう」

 と、魔物は何か思い出したような顔になり、エルニアに視線を向ける。

「ところでエルニアよ、マスター・ライラスの行方は知ることが出来たのかの?」

エ ルニアは馬から離れ、魔物に視線をむける。困った表情で頭をかいた。

「それが……この騒ぎで聞きそびれてしまいまして」
「む、そうか……それは、困ったのう」

 その時、エルニアたちは背後から誰かに呼ばれた。

「……あの」

 控えめな声に振り向くと、そこにはユリマとシャウラがいた。牛の被り物とローブは外し、いつもの町娘らしい姿だった。シャウラは再び眼鏡をし、瞳は両方鳶色に戻っている。

 その姿を見ると、エルニアは鋭い目付きでユリマとシャウラを睨みつけた。あまりの剣幕にユリマは震え上がるが、シャウラは顔色をかえない。エルニアに静かな視線を返した。

「何か?」

 落ち着いた声音でシャウラが尋ねると、エルニアは険しい顔つきのまま、首を振る。

「別に」

 そしてユリマとシャウラの行動に目を光らせる。
この二人がやって来たのは、門の方。つまり、彼らはトラペッタの人間。
 それだけでエルニアは、陛下に危害を加えに来た連中、と勝手に判断し、彼女らを敵視しているのだった。

「あ、あの……わ、私、皆様にお願いがあって、こ、こうしてやって来ました」

 エルニアの視線にたじろぎながらも、ユリマは自分の目的を明かす。

「願い、じゃと?」

 ユリマは魔物たちをしっかりと見つめ、頭を下げた。シャウラはただ付き添いに来た、と言う感じで、ユリマから離れた場所に佇む。エルニアの視線など、完全に無視していた。

「お願いです、どうか水晶玉をとってきて頂けませんか?」
「……そんな面倒なこと」
「ええい、エルニアよ、お前は黙っておれ」

 エルニアは断ろうとしたが、魔物に一喝され、しぶしぶと言った感じで口を閉ざす。

「お嬢さん、詳しく話してもらえんかの?」


 トロデに促されたユリマは頷き、ゆっくりと話始めた。

「願いとは、父のことです」
「親父さんでがすか?」
「あ、申し遅れました。私はユリマと言います。私の父の名はルイネロ。かつては有名な占い師でした」

 おお、と魔物が感嘆の声をあげる。

「確か、探し物に関しては右に出ないとまで言われた占い師じゃな。最近は、全く音沙汰がないが……」

 やや俯き、ユリマは項垂れる。

「いつの頃からか、父は占いが全く当たらなくなり、生活も堕落していき、今はみる影もなく……今日だって、占いをしたんですけど、外れたみたいで、お客様を怒らせてしまって」
「何で外れるようになったんでがすか?」
「その原因は、水晶玉がただのガラス玉に変わってしまったせいです」

 ユリマは断言する。

「ガラス玉とな?」
「夢で、水晶玉が滝壺に投げ捨てられ、家にガラス玉が置かれるのを見ましたから」
「作り話じゃないの?」

 ユリマを初めから信じていないエルニアが嘲笑うように言って、再び魔物に注意される。

「エルニア、話に口を出すなと言っておるじゃろう! ……すまんな。お嬢さん、気にせずに続けてくれ」
「……陛下は人がよすぎるんですよ」

 注意され、ふてくされた態度をとるエルニアを無視し、ユリマは再び口を開く。

「だから、水晶玉さえ取り戻せば、父は力を取り戻すと思うのです。今の父は自分で自分を傷つけているみたいで、見ていてとても苦しいんです」

 青い瞳を伏せ、憂えを帯びた表情を見せるユリマに、トロデは感銘を受ける。両のまなじりから涙を流し、それを手で懸命に擦っていた。

「え、えらい! 何て、優しい娘なんじゃ……さすがは、ミーティアと同じ年頃じゃの」

 感動している魔物に対し、エルニアは呆れたようにため息をつく。

「よし、命令じゃエルニア。お嬢さんの願いを聞き届け、水晶玉を手に入れるのじゃ!」

 すぱっと下された命に、エルニアは黒い瞳を大きく見開いた。すぐに、反対の意を示す。

「へ、陛下! 狼藉者の願いなど、聞く必要はありませんよ!」
「わしがやると言ったら、やるのじゃ!主の命が聞けないと申すか?」

 しばし議論が展開されたが、魔物は譲らず、結局エルニアが折れた。

「……分かりましたよ。やればいいんですね」
「うむ、それでこそ我が家臣じゃ!」

 得意げに胸を張る魔物を見ていた、ユリマが不意に、

「後、もう一つだけお願いがあります。私の友人を、同行させて欲しいんです」
「ど、同行でがすか?」

 ヤンガスが瞬きをする。

「私、夢で告げられたんです。『人でも魔物でもないものが、あなたの友人と力を合わせる時、願いは叶うであろう』と」

 うんうん、と魔物は納得したように何度も首を縦に振る。

「確かにわしは魔物でも、人でもない。それは、わしのことで間違いないじゃろうな。して、友人と言うのは……」
「この人です」

 ユリマが掌でシャウラを示すと、一同の視線が彼女に集まる。シャウラは瞬きしていた。

「ユリマ、私まで行くなんて聞いてないわよ」

 鳶色の瞳をパチクリさせるシャウラを見て、

「おお、この娘さんか。失礼ながら、戦えそうには見えんが」

 トロデが感想を漏らす。その横でシャウラを見ていたエルニアは、不満そうな顔つきでユリマに聞く。

「この弱そうな娘さんと一緒に、水晶をとってこいと言いたいんですか?」

 弱そう、と言われたシャウラはエルニアに冷ややかな視線を送る。

「彼女は魔法が得意です。ですから、弱くはありません」

 ユリマが抗議するが、エルニアは首を横に振る。

「残念ですが、出来ません。彼女は足手まといにしかならないかと」

 そこで、黙っていたシャウラがようやく口を開く。

「ユリマが言った通り、これでも魔法の心得が少々ございます。……あなたたちの足を引っ張るような真似は致しません」
「僕とヤンガスだけで十分です。なあ、ヤンガス?」
同意を求められたヤンガスは、渋い顔をする。

「え、でも……」
「水晶玉探しは陛下の命により引き受けますけど、彼女の同行は許可しません」

 ユリマに反論する隙を与えず、エルニアはきっぱりと断る。
 どう返してよいか分からず俯くユリマを見て、魔物が助け船を出した。

「しかしエルニアよ、彼女は魔法の心得があると言っておるんじゃぞ? 力を借りた方がいいのではないか?」
「陛下に乱暴をした狼藉者と力を合わせるなんて、ごめんです」

〜つづく〜



Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.213 )
日時: 2013/11/19 21:43
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)

 そこで言い切り、エルニアは怒りがこもった目付きで、シャウラを睨んだ。その視線には、非難の意も込められていた。
 助けを求めるように、ユリマがシャウラに視線を飛ばすと、シャウラはエルニアを見て、クスクスと笑うだけ。

「無理みたいね。ま、この方たちにお任せすればいいんじゃない?私は必要なさそうだし、帰るわ」

 それだけ言い残し、シャウラはエルニアたちに背を向け、門の方へ歩いて行ってしまう。

「待って!」

 ユリマが呼んだが、シャウラは町の中に消えていった。愕然としたユリマは、エルニアたちに頭を下げる。

「す、すみません」
「自分から身を引くなんて、ありがたいですから、大丈夫ですよ」

 エルニアが嬉しそうに言った。ユリマは、困った顔でため息をついた。

「水晶玉は明日、しっかり探してきますから」
「……水晶玉は、ここから北にある"滝の洞窟"と言う場所にあります。魔物が出るので、気をつけて下さい」
「キミの家は?」
「酒場の裏手にある、井戸のすぐそばです」
「そう」

 短く言い切ったのは、さっさと帰れと言うエルニアなりの意思表示。必要な情報は得たから、これ以上話すつもりはなかった。
 ユリマは、それを悟ったらしい。お願いしますと頭を下げ、とぼとぼとトラペッタに帰って行った。
 それを見送った後、ヤンガスが珍しく非難の視線をよこす。

「……兄貴、あの姉さんと嬢ちゃんに冷たくしすぎでがすよ」

 魔物も同意する。

「エルニアよ、トラペッタの人間全てが、わしに乱暴をしたわけではないぞ」
「でも、あの二人が関わっていないと言う、証拠はありませんよ。……もし乱暴をしなかったとしても。助けなかったのは、乱暴をふるうのと同罪です」

 消えていくユリマを見て、エルニアは当然そうに言ったのだった。そして、

「……今日は、野宿だね」
今までとは違う穏やかな顔でヤンガスに笑いかける。
「おっさんと馬姫さまが見つかったら、まずいでがすからなあ」
「しかし、お前たちはしっかりと休むべきじゃろうに」
「大丈夫ですよ、陛下」

 エルニアは微笑むと、馬車から道具を出し、野宿の準備を始めるのだった。

 青い空が広がる翌朝。
シャウラはトラペッタの広場にいた。肩にはずだ袋を下げ、手には皮の袋を握っている。
 壁沿いに並ぶ露店の一角に立ち、セシルから渡されたメモを見ながら商人と話し込んでいた。

「やくそうはありますか?」
「はい、ありますよ」

 シャウラが尋ねると、商人は後ろの棚から麻の袋に詰められた野草を取りだし、台の上に置く。"やくそう"は鮮やかな緑の野草で、葉を何枚も重ねたような形をしている。

「おいくらですか?」
「一つ、8Gになります」
「なるほど……」

 麻の袋を台の上に置いて、やくそうを手に取り、じっと観察するシャウラ。
 が、見たところでやくそうの質などまるで分からないので、すぐに台の上に戻す。
 シャウラは持ってきた皮の袋を開け、ひっくり返し、掌に数枚の硬貨を出した。そして、頭でやくそうがいくつ買えるかを計算する。

「買えて9個が限界……10個は欲しかったのに」

 メモを見ながら頭を悩ませるシャウラは、初めてお使いに来た子供の頃を思い出した。あの時もお金が足りず、悩んだのだった。
 商人は声をかける。

「この辺りはバブルスライムがいるから、"どくけしそう"もオススメしますよ」

 愛想のいい笑みを浮かべながら、商人は棚から別の商品を取りだした。それは、麻の袋に詰められた草。やくそうに似た色だが、形は柊の葉を幾重にも重ねたような草だった。

「一つ、10Gになります」
シャウラはどくけしそうをじっと見ていたが、"10G"と聞いた途端、掌の硬貨に視線を落とし、眉をひそめた。

「……どくけしそうは、必要ありますか?」

 なるべく出費を抑えたいシャウラは、疑問を口にする。メモにも、買えたら買うとしかかかれていないので、あまり必要がないように思えた。
 それに、バブルスライムと言われてもシャウラにはピンと来ない。トラペッタ周辺にいるスライムやドラキーしか知らないシャウラには、未知の魔物だった。
 商人は首を縦に振る。芝居がかった口調で、

「なめちゃいけません。バブルスライムは、身体の表面に毒がありましてね、触れただけで我々人間の体内に毒が入り込んでくるんですよ」
「恐いですね」
「どくけしそうか、"キアリー"の呪文があれば恐いことはありませんが、毒を放置すれば死に至ることだってありますよ」

 商人の話でシャウラは、どくけしそうを買う気になった。

「うーん……いくつ買おうかしら……」

 いくつ買おうか考えていると、商人はさらに商品を売り付けようとしてくる。両手には鳥の羽を加工した道具と皮で作られた盾をそれぞれ持ち、シャウラに見せる。

「あ、後、お帰りにはキメラの翼、防具として皮の盾がオススメですよ!おまけして、総額で100G(ゴールド)になります」
「……大金すぎます」

 100Gと言う法外な値段を提示され、シャウラは目眩に近い感覚を覚える。
 確認のため、指で弾くように硬貨を数えるが、100Gはない。
100Gもあれば、買いたかった防具も買えるのに、とシャウラは内心ため息をついた。

「要りません」

 商人はがっくりしたような顔付きになる。が、すぐにまた商売人らしい笑みを作り、

「ではお客さん、どうなさいますか?」
「このお金で買えるだけ、やくそうとどくけしそうを買いたいので相談に乗って下さい」

 シャウラは硬貨を袋に戻すと、それで台を叩いた。硬貨がぶつかる小気味いい音がした。


Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.214 )
日時: 2013/11/13 14:07
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)

 商人と上手く話を纏め、買い物を終えたシャウラはは、門を潜り、外に出る。
 するとキラーパンサー姿のセシルが歩いてきた。

「あ、セシル。調査は?」

 調査、と言うのはこの辺りにどのような魔物がいるかを調べること。
 気をつけるべき魔物を探してくるから、買い物は一人でやれとセシルに言われたのだった。

「注意すべきなのは、バブルスライムくらいか。あいつの身体に触れると毒が身体に回る。気を付けろ」
「商人の人も言ってたわ。甘く見てると命を落とすって」
「後は、正直言って、お前ですら倒せる雑魚ばかりだ」
「お前ですらって言い方は何よ……」

 口の悪いキラーパンサーを睨むが、セシルは特に動じなかった。

「買い物は終わったのか?」
「ええ。やくそうとどくけしそうを買えるだけ、買ったわ」

 肩から下げているずた袋を開き、セシルに見せる。中にはやくそうとどくけしそうが、いくつか入っていた。
 セシルはそれを見ると、満足そうに頷いた。

「まあ、これだけあればいいだろう」
「本当、ユリマには感謝しないと」

 無一文のシャウラは、ユリマから金を借りた。その金、実はルイネロの酒代らしいが、ルイネロには秘密となっている。
 いつも浴びるように飲んでいるからたまにはいいの、とユリマは言っていたのでシャウラはよしとしている。

「滝の洞窟に行くだけなのに、こんなに道具が必要なのかしら」

 シャウラはずだ袋を見ながら、首を傾げる。
 普段、魔物がいる洞窟には行かないシャウラにはしっくり来ないらしい。

「本来なら、道具ももっと必要だし、武器や防具も必要だ。今回も、お前用の防具くらいは欲しかったがな」
「防具まで買ったら、どくけしそうが買えなくなるわ。なんで、あんなに高いのよ……」

 普段、防具のお世話にならないシャウラは、今回の買い物で防具がいかに高いかを初めて思い知らされた。
 魔物の攻撃から身を守る盾は、あるだけで怪我を軽減する重要なアイテム。本来なら持つべきだが、金が足りないためシャウラは買えなかったのだ。

「まあ、今回は気合いで頑張るんだな」

呑気な口調でセシルが励まし、シャウラは呆れる。

「鍛えた人たちと一緒にしないで」

そしてセシルを見て、

「セシル。なるべく守ってよね? こういう時こそ、ペットは主を守るものだわ」

 なに、とセシルは怒り、牙を剥き出しにして唸る。

「誰がペットだ! お前が、私のペットだろうが!」
「はいはい。私はセシルの後について行くから」

 適当に返事をすると、セシルは唸るのを止めた。

「ところで、ユリマのお告げは本当なのか? 『シャウラとセシルが旅人さんたちと力を合わせないと、水晶が手に入らない』と言うのは」
「さあ……」

 シャウラは今朝の出来事を思い出す。
 悪魔祓いの効果があったのか、オデットが夢に現れずセシルと二人安心していたところに、ユリマが新しいお告げを受けたと言ってきたのだ。その内容は、"光を求める者たち"が力を合わせ、水晶を手に入れる。——ただし、一人でも欠ければ水晶は手に入らないだろう、と言うものらしい。光を求める者たちは、きっとシャウラとセシル、旅人たちを示す。だから、二人とも滝の洞窟に行って、旅人さんたちに協力してあげて欲しいとユリマに頼まれた。

「"光を求める者"、と言うのが私たちを指すとは限らないしね」
「そうだな。バンダナの口振りだと、奴らは大層強いらしいではないか。放っておいても、よいのではないか?」

 バンダナとは、エルニアのこと。
 昨晩の出来事をシャウラから聞いてからと言うもの、セシルは、何故かエルニアを"バンダナ"と呼んでいる。

「でも、あんな風に頼まれたら、断れないわよ。……今は、ただ同然で居候してるし」

 ユリマはシャウラとセシルに真剣な顔で頼み、二人はそれを受けることにした。現在ただ同然で居候するシャウラは、ユリマに申し訳ない気持ちがあり、断ることが出来なかったのだ。

「まあよい。にしても、"光を求める者"とはなんだ? 私は光なんぞ求めていないぞ」
「私もよ」

 と、セシルは、前を見据える。鮮やかな緑の草原とその中に伸びる一本の道。その先に小高い丘のようなものが見える。

「行く?」

風にお下げを揺らされながらシャウラが聞くと、

「……さて無駄話は終わりだ。さっさと終わらせるぞ」

 乗れ、と命令しながら、セシルが身を低くする。シャウラは慣れた様子でセシルの背を跨ぎ、そのまま腰を下ろす。セシルの首に両腕を回し、しっかりと捕まった。
 セシルは立ち上がると、強い力で大地を蹴り、走り出した。腕の下で、筋肉が力強く動くのをシャウラは感じた。
 セシルは、速いスピードで大地をかける。乗っている分にはスピードを感じさせないが、景色が遠ざかっていく速さは異常だ。緑の草原があっというまに森に変わり、次に気が付いた時には小川が見えている。  時々魔物が見えたが、セシルが速すぎて襲えないらしい。逆に魔物の方から、逃げていった。
 多少縦揺れを感じるが、不快ではない。ただし、真正面から吹き付ける風は強かった。耳元でびゅんびゅんと風を切る音がし、シャウラの二つに結んだお下げが激しく揺れる。

 丘が近付くにつれセシルは、スピードを落とし、やがて立ち止まる。
水の音が聞こえ、シャウラは頭上を見上げた。
 小高い丘の上からは水が落ち、小さな滝となっていた。落ちた水は淵となり、川となって流れていく。
 滝の洞窟は丘の地下にあり、そこへ続く入口はすぐ近くにあった。ぽっかりと口を開けた穴が目の前に見えている。
 セシルから降りたシャウラは、そこに向かおうとして、見慣れた馬車と魔物を見つけた。

「おお、娘さんよ! 待っておったぞ!」

 魔物は御者台から飛び降りると、大きな声でシャウラに呼び掛けながら、手を振る。答える意味で魔物に小さく手を振ってから、シャウラはセシルに先に行くよう目配せした。
 早口で何かを呟くと、セシルは花売りの娘に姿を変え、先に洞窟へと向かっていく。途中でシャウラの方に向かってくる魔物とすれ違ったが、互いに何の反応もしなかった。
 魔物はシャウラの元にやって来ると、申し訳なさそうな顔を作る。

「昨日は、わしの家臣、エルニアがすまないことをしたのう。主として、わしが謝ろう。すまなかったの」

 魔物に深々と頭を下げられ、シャウラは特に気にした様子も見せず、

「特に気にしておりません」

 それを見た魔物はほっとした顔で、

「エルニアのやつは真面目じゃが、ちと感情的になりやすくてのう……時に、娘さん、名は何と申す?」

 名を聞かれたシャウラは、素直に名乗ることにする。

「私は、シャウラと申します」



Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.215 )
日時: 2013/11/13 14:11
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 それを聞いた魔物は、シャウラを見上げる。

「うむ、シャウラよ。実は頼みがあるのじゃ」
「頼み、ですか?」

 シャウラが聞くと、魔物は心配そうな顔になる。

「エルニアとヤンガスを探してきてくれんかの? 朝早くにはあの洞窟の中に入ったが、まだ戻ってこなくてのう」
「ここは、迷うような洞窟ではないと聞きましたが……」

 商人曰く、滝の洞窟内部は一本道なので迷わない。それにさほど深くないので、腕試しにはいいとシャウラは聞いていた。
 空を見れば、太陽は高い位置にある。朝早くに入ったにしては、時間がかかり過ぎているような気がした。怪我、迷うと言った単語がシャウラの頭をよぎる。

「なら、ますます心配じゃ。わしも心配して、入口までは行ったが、魔物が邪魔をしおって、先に進めん。すまんが、水晶探しのついでに探してはくれんか?」

 その話でシャウラは、魔物がかなり弱いであろうことを悟った。こうしてシャウラに話しかける辺り、無害な魔物のように思える。見た目は怖いが、悪い魔物ではないようだ。

「分かりました。水晶探しのついでに、お二人を探してきましょう」
「おお、そうか!すまんが、頼んだぞ」

 シャウラは頷き、洞窟の入口に向かって歩を進めようとすると、魔物に呼び止められた。

「待て、シャウラよ」
「まだ何か?」

 立ち止まって振り返ると、魔物は不思議そうな顔付きで首を傾げた。

「お前は落ち着いておるが、わしが怖くないのかの?」
「怖くはありませんよ」

 当然そうな顔付きで言うと、魔物は感心したように、

「お前は変わった娘さんじゃのお……」
「では、行ってきますね」

 もしかしたらエルニアさんやヤンガスさんが怪我をしているのかも、と思うとシャウラはいてもたってもいられなかった。
 魔物の質問に答えると、すぐに前を向き、歩き始める。
 すると、魔物は遠ざかるシャウラの背に大きな声で呼び掛けた。

「うむ、頼んだぞ、我が家臣よ!」
「か、家臣って……」

 その言葉にシャウラは唖然としたが、気にせず進む。短い橋を渡り、洞窟の入口をくぐった。

〜つづく〜


Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.216 )
日時: 2013/11/15 21:56
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

ありがとうございます!!

最初イシュマウリさんを見た時女に見えました・・・はい。
これから徐々に物語が動いていきます!(予定では・・・・・。)
コメントありがとうございます!!

シャウラのイメージを描くために容姿を以前より詳しく教えていただけませんか?

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.217 )
日時: 2013/11/16 11:25
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

わかりました!

わからないところがあったらまたお聞きします!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.218 )
日時: 2013/11/24 23:20
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

早速ですが、シャウラの髪はおろせば背中までと書いてありましたが、背中のどこら辺ですか?

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.219 )
日時: 2013/11/16 17:05
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: GRSdBGT1)  

洞窟に入った途端、シャウラは不快な気分になる。辺りの空気がじめじめとし、蒸し暑い。服の襟を掴み、パタパタと風を送ると、いくらか不快な気分はなくなる。
さらに歩くと、急に天井が高くなった。上を見上げると僅かに光が差し込む岩の天井。その間から水が流れ、滝がカーテンのように広がっている。滝を追って視線を下げると、水は暗闇へと消えていった。
シャウラは改めて前を見る。蛇行した一本道が、洞窟の奥へと続いている。道の両端には灯りが灯る燭台が置かれ、周囲を照らす。ただ、それだけ。柵や壁のような転落防止の仕組みはなく、落ちたら闇の中へとまっ逆さまである。
そう考えてしまい、シャウラは道の真ん中を歩く。

「ぬかるんでいて気持ち悪いわ。後で風呂に入らないといけないではないか……」

先頭を歩くキラーパンサー姿のセシルが、ぶつぶつと文句を言いながら進む。
セシルの言う通り、足下はぬかるんでいて、履いてきたシャウラの靴は既に泥まみれになっていた。
周囲を絶えず水が落ちているせいかその飛沫がこちらまでやって来るので、地面が濡れるらしい。シャウラとセシルは、霧雨の中を歩いているようだった。

「……こういう時に、眼鏡って嫌なのよね」

シャウラは、指先で眼鏡についた雫を一生懸命落とす。しかし、すぐにまた眼鏡は濡れてしまい、拭いても意味がなかった。

「外したらどうだ?」

シャウラは一度立ち止まり、辺りを慎重に見渡してから眼鏡を外す。両方とも鳶色の瞳は左が緑、右が青になっていた。
そして警戒した表情で、

「誰かにこの瞳を見られたら、どうするの。魔物は構わないけど、人間は困るわ」
「こんな洞窟に来るのは、私たちやバンダナのような物好きだけだろう」

と言った直後、セシルが体勢を低くする。見ると、魔物が三匹いた。スコップを持ったもぐらに似たものととげのついた長靴に似たもの。

「ほう、早速お出迎えが来たぞ」

言うや否やセシルは風のように躍りこみ、二匹の魔物を立て続けに前足の爪で切り裂いた。
そこにシャウラが、メラの呪文を叩き込む。

「メラッ!」

切り裂かれた魔物たちは、光の粒と姿を変え、一瞬で霧散する。
セシルは、ふんと鼻を鳴らした。

「いたずらもぐらに、スキッパー。……雑魚だな」
「……スキッパーってモジャモジャしてるけど、触り心地はいいのかしら?」

怪しい独り言を呟くシャウラにセシルが冷ややかな視線を送ると、急に張り切りだし、

「さ、さあ!エルニアさんとヤンガスさんを探さないと!」

早歩きで道を歩いていく。その時、低い鳴き声が降ってきてシャウラとセシルは構えながら、降り仰ぐ。頭上には暗闇が広がるばかりで、何もない。

「魔物の声?」
「いや、あの鳴き声はフクロウのように聞こえるが……」

シャウラとセシルは、辺りを注意深く見渡し、何もいないのを確認すると、奥へと進んだ。
それを突如現れたフクロウが、羽ばたきながら、じっと見つめていた。
フクロウは彼らを見送ると、体勢を変え、滝の流れに沿って、下降していった。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.220 )
日時: 2013/11/16 18:53
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

すいませんあたりです。

おろすと、です。
慌てていて打ち間違いに気づかず送信してしまいました。

真ん中ぐらいですね?
わかりました。


あと、もう1ついいですか?

前髪の分け目ってどうなっていますか?

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.221 )
日時: 2013/11/16 19:49
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: w1PAg8ZW)  

しばらく進むと、道は洞窟の内部に入った。辺りの岩壁から水がしみでているだけで、滝はない。
シャウラは再度、眼鏡をする。

だが、内部に入ると、途端に魔物の数が増えた。
たまたま魔物が多い道に入ったのか、待っていましたと言わんばかりに次々に魔物が現れる。
だが、シャウラは魔法を唱えない。魔法は唱えるだけで炎や風を出せる便利なものだが、魔力を消費する。"魔力"は、人間の体力のようなもので無限ではない。ひよっこであるシャウラの魔力など大したことはなく、使える回数は制限される。
なのでセシルの提案で、シャウラは極力魔法を使わないことにした。だが、魔法を使えないシャウラは無力だ。
セシルがある程度魔物を倒したら、全速力で逃げるしかない。

「……まだ生きてる!」

セシルが魔物を倒した。
かと思いきや、しぶといのがいた。まるでおもちゃのの鳥に似た魔物、ガチャコッコ。
ガチャコッコは弱々しく、翼を動かした。すると羽が勢いよく飛び出し、シャウラの服の袖を切り裂いた。
「っ……」

シャウラは顔をしかめ、立ち止まる。幸いかすった程度ですんだ。
それが最後のあがきだったらしく、ガチャコッコは霧散した。直後、新しいガチャコッコとスキッパーが、現れる。

「おい、逃げるぞ!」
「……ホイミ!」

全速力で走りながら、切られた部分に手をかざし、呪文を唱える。シャウラの手が淡い緑色の光に包まれ、腕の傷は塞がった。

先頭のセシルが魔物に攻撃する内に、シャウラは必死に走る。しばらく走ると、下に続く階段が見えてきた。それも一気に駆け抜け、下に着くとシャウラは岩の壁に背中を当てる。呼吸は荒く、ぜいぜい喘いでいた。
階段を跳ぶように降りてきたセシルが、それを見て目を細める。

「何とか撒けたな……」

数回深呼吸をし、呼吸を整えるとシャウラはセシルに歩み寄る。

「お前、腕は?」
「もう大丈夫」

そして、歩こうとするが、シャウラは立ち止まった。それに気が付いたセシルが足を止める。

「なんだ、歩き疲れたか?」
「……ちょっと疲れたかも」

ふう、と息を吐くと、シャウラはそのまましゃがみこむ。魔物に追われたせいか、どっと疲れた。
普段、魔物がいるような場を歩かないシャウラは、滝の洞窟を甘く見ていた。

「おい、先はまだ長いぞ。こんなところでへたるな」
少しの休憩の後、シャウラとセシルは先に進む。
水の音がしてきた。
また滝か、とシャウラはため息をつきながら行くと、巨大な木製の門が現れた。
作られてかなり時が立っているのか、ぼろぼろに朽ち果てていて、柱くらいしか残っていない。
そこを塞ぐように、一匹の魔物が立っていた。
三角形の頭巾を被った、小柄な魔物だった。手に背丈の倍以上はある木槌を持ち、佇む姿は門番に見える。
「おい、人間。ここを通るつもりか?」

シャウラが近付くと、魔物は木槌を構えながら、聞いてきた。

「ええ。通るつもりです」「ほほう。人間のくせに、このオレ様に近付くとは、なかなか勇気があるようだな」

魔物は、じろじろとシャウラを見る。そして、余裕綽々の笑みを浮かべた。非力そうな娘だと思ったらしい。
シャウラは気にせず、しゃがみこんで魔物に視線を合わせ、話しかける。

「あの不躾なお願いをしてもよろしいでしょうか?」「まあ、聞いてやらなくはないぞ」
「通して下さい」

冷静に言うと、魔物はいきり立った。

「生意気な人間め、オレ様がどのくらい強いのか分かってそんな口を聞くのか?」

木槌を向けられるが、シャウラは動じない。

「バブルスライムよりは、はるかに弱いかと」

シャウラは正直に言った。先程見たバブルスライムは、全身が緑の魔物だった。触れると、毒になるのでセシルも迂闊に攻撃できず、苦戦した相手だった。
その言葉におおきづちは、震えた。

「あ、あのドロドロ以下だと……」

そこへセシルが現れ、おおきづちは手から木槌を放してしまう。

「き、キラーパンサーがなんでこんなところに……」
おおきづちの全身からは血の気が失せていて、先ほどまでの自信は失われていた。
セシルはおおきづちを見ながら、

「それは私のペットだ。手を出せば容赦しないぞ」

口の鋭い牙を見せ付ける。それだけでおおきづちは、泣きそうな顔になった。瞳を潤ませる姿は、逆に可愛く思える。

「に、人間を手下にしたキラーパンサー……だと……」

セシルの言葉を真面目に受けたおおきづちは、驚愕のあまり目を限界まで見開いた。

「セシル、自分の立場を誤魔化さないで」
「……人間を従えると言うことは並々ならぬ実力があると言うことか……なら、逆らわない方が無難だな……」

おおきづちは、セシルが人間を従えるキラーパンサーだと勘違いしている。
そう思われるのは許せないので、シャウラはきちんと訂正をする。

「このキラーパンサーは、ただの居候です」

おおきづちは落とした木槌を手に取り、横にずれる。
「……よし、通れ」
「ありがとうございます」
シャウラが頭を下げると、セシルは前足をシャウラに向けて、

「おい、おおきづち。これ以外に人間を見かけたか?」
「人間? さっき腰抜けの商人なら脅かしたが……ああ、そういえば大分前に、とても強いお二人をお見かけしたな。圧倒的な力で歯が立たなかった」
「なるほど。ボコボコにされたのだな」

セシルがニヤリと愉快そうな笑みを浮かべると、おおきづちは怒りで身体を震わせた。
しかし、セシルは涼しい顔で、

「おい、おおきづち。私に引き裂かれたいのか?」

爪を見せながら楽しそうに聞くセシル。本当に性格の悪いキラーパンサーだと、シャウラは思う。

「すいません、ごめんなさい」

おおきづちは観念したのか、素直に頭を下げた。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.222 )
日時: 2013/11/16 19:56
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

分け目なし・・・メモメモ・・・・・。

了解です!


私、すごくセシルが好きです!
カッコいいwww&カワイイですwwww
シャウラの冷静さも大好きです!

おおきづちがバブルスライム以下・・・・・。
結構全滅させられた覚えが・・・・・。
(リーザスで)

Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.223 )
日時: 2013/11/17 13:29
名前: 水恋 (ID: w/AVokpv)

シャウラのオッドアイが気になります(*゜Q゜*)
何か秘密がありそうだ。

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.224 )
日時: 2013/11/18 23:16
名前: 朝霧 (ID: /./DNVgg)  

おおきづちと別れた後、シャウラとセシルは再び人口的に掘られた道を歩いていた。
変わらず灯りはあるので辺りは見えるが、この道はやたらと曲がりくねっていて先が見えない。右に曲がったと思えば、今度は左に曲がる道が見えてくる。その逆もあった。
前に進むたび、水の音はどんどん大きくなっていく。
「ちょっと肌寒いわね」

歩きながら、シャウラは自分の身体を抱く。さらに深い場所に来たせいか、入口よりも気温が低い。
天井からは雫がポタポタと落ちている。

セシルは足元にある水溜まりの水を飛ばしながら、

「つくづく人は不便だな。そんな薄い毛で、よく生きられるな」
「人間はね、衣服で体温を調整するからいいのよ」

そして、セシルは一度立ち止まり、

「さて、バンダナたちをさっさと探すぞ」

曲がった道の先に向かって、セシルは大声で呼び掛ける。

「おい、バンダナ!山賊!いたら返事をしろ!」
「そうやって呼ばれても、分からないわよ」

シャウラはセシルに突っ込んだ後、すうと息を吸って腹から声を出す。

「エルニアさーん!ヤンガスさーん!いたら、返事をして下さい!」
「誰でがすか!?」

道の奥から、ヤンガスの声が返ってきて、シャウラはセシルと顔を見合せる。

「早く、こっちに来て欲しいでがす!」

続けて聞こえたヤンガスの声は、助けを求めるように焦っていた。セシルの言う通り、怪我をしているのかもしれない。エルニアの声が聞こえないのも気になる。頭に色々な考えが浮かぶが、シャウラは返事をする。

「今、行きます!」

セシルは念のため花売りの娘に化けた。
セシルを先頭に走ると、ヤンガスがこちらに手を振りながら、こっちでがす、と合図を送っているのが見えてきた。——そして、ヤンガスの横で壁を背に、もたれ掛かるエルニアの姿。

ヤンガスの前を通り抜けたシャウラは、エルニアに近付く。
エルニアは、ぐったりした様子で俯いていた。顔は青ざめ、冷や汗をかいているせいで濃い茶色の前髪が額に張り付いている。そして、口から溢れる呼吸は、浅くかつ速い。明らかに健康な状態ではない。

「セシル……」

シャウラはセシルに聞くが、セシルは口を開かない。エルニアの様子を観察したり、脈を図っていた。しばらくして、ようやく口を開く。

「毒、だな。身体に毒が回っているんだろう」

シャウラは振り向き、ヤンガスに尋ねる。

「どくけしそうは?」
「持ってきてないでがす」
ヤンガスは悔しそうに首を振る。
エルニアがこのまま放置されていた、と言う状況を考えると、キアリーの呪文も使えないのだろう。
考えていると、急にヤンガスが平伏してきたのでシャウラは驚いた。

「頼む。兄貴を救ってくれ!あんたたちにしか、頼めないでがす!」

ヤンガスは土下座をして、シャウラとセシルに頼み込む。
二人は互いを見て、頷き会う。

「まあ、目の前で死なれても、迷惑だからな」
「やりましょう」

ありがとうでがす、と改めて土下座をして礼を言われた。
シャウラは、ぐったりしたエルニアに歩み寄りながら、毒消草を手に取る。

(もう、見捨てない)

シャウラには、魔物を一度見捨てようとした後悔があった。自分に利益がないなら、と魔物を見捨てようとした自分が恥ずかしくてたまらない。やろうと思えばできたはずなのに。
だからこそ、今度は自分がやるべきと感じることは、きちんとやろうと思った。
一方的に敵視し、一度は協力を拒んだ彼。助ける必要はないのかもしれない。

(けど、私はエルニアさんが苦しむのを見るのは嫌)
エルニアが苦しむ姿を見れば何とか助けたいとシャウラは思っていた。
そして、シャウラはエルニアを救う手だてを持っている。これは自分がやるべきこと、と確信した。

(今度は助けたい)

やるしかない、とシャウラがずだ袋からどくけしそうを取り出した。
〜つづく〜
毒消し草やバブルスライムを強調していたのは、この話への下準備だったつもりです←
すみませんが、コメントは明日返します。
朝練が朝の6時からとか前代未聞のこと通告されたので←

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.225 )
日時: 2013/11/19 22:14
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: ZtEKXS3z)  

水恋さま!

ひ、非常に申し上げにくいですが、獣の末裔がネタバレになってます。どうしても待てない!待てない!と叫ばれるようでしたら、過去作の獣の末裔をお読み頂ければ、書いてあります。設定はほぼ変えてません。
もうじき書きますが、よければどうぞ。(ただのネタバレじゃないbyオデット

ただの宣伝になり、申し訳ありません。

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.226 )
日時: 2013/11/20 13:18
名前: ユウ (ID: hxRY1n6u)

セシルとにゃんこ先生が出会ったらどうなるんでしょうかねwww

ククール「オレは昔キラーパンサーに追いかけられた覚えが・・・。」

頭かじられた?ww

セシルとシャウラのコンビはホントに好きです!
シャウラが下僕なのか、セシルがペットなのか気になりますwww

エルニアが毒にやられる・・・・・ハラハラドキドキ!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.227 )
日時: 2013/11/22 12:43
名前: @ (ID: .iyGyIWa)

獣の末裔を読みました! シャウラさんの先が暗雲な気がして不安でたまりません。
エルニアが毒!中々出てこないと思ったら、まさかの展開に驚いた!毒消草がないから、ヤンガスも何も出来ず、うろうろするしかない。まさにいいタイミングでシャウラが来ましたね!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.228 )
日時: 2013/11/24 14:35
名前: さだこ (ID: Gx2AelYh)

初めまして。さだこと言います。よろしくお願いします。

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.229 )
日時: 2013/11/24 21:30
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 5prxPZ/h)  

その時。
突然、剣の切っ先がシャウラの手ギリギリまで迫り、止まった。
驚いたシャウラが顔を上げると、エルニアが座った姿勢のまま、剣を握り、こちらに向けていた。剣を握る右手は震え、表情は痛みで歪んでいた。

「お、お前の助けなんか、必要……ない……」

荒い息と共に吐き出された拒絶の言葉を、シャウラは理解できなかった。苦しみながら、どうして助けを拒むのか分からない。彼を責める言葉が喉元まで上がってるが、無理矢理飲み込んだ。毒消草をずだ袋にしまい、怒鳴りたい気持ちを堪え、頭を下げる。

「お願いですから、手当てを……」

ヤンガスも加勢する。

「兄貴!今は、そんな場合じゃないでがすよ!」

だが、エルニアは頑なに拒み続ける。

「お前の手当てなんか、嫌だ……陛下を見捨てた、お前を……ゆるさ、ない……ううっ……」

小さく唸ると、エルニアは痛みで顔を歪めた。手から剣が溢れ、地面に落ち、乾いた音を立てる。
落ちた剣をとろうとエルニアは震えた手を伸ばすが、その前に、セシルが素早く剣を拾った。
武器を奪われたエルニアは、呼吸をさらに荒くしながら、セシルを睨む。
剣を両手で抱えたセシルは、呆れた目付きでエルニアを見下ろす。

「話し合いは無理だな」

ふうと、ため息をつくと、剣を地面に置く。仕方なしと言った感じで、シャウラに命令する。

「シャウラ、こいつを眠らせろ」

淡々とシャウラは、呪文を唱える。

「ラリホー」

するとエルニアは瞼を閉じ、がくんと項垂れる。どうやら、エルニアは眠りに落ちたらしい。
ラリホーは、相手を眠らせる呪文だ。
確認のため、シャウラはエルニアの肩を叩く。反応はなかった。

「よし、眠ったか」

シャウラがふう、と安堵の息を吐くと、ヤンガスが遠慮がちに話しかけてくる。
「あんた、魔法が……」
「こうしないと、無理なので」

シャウラはヤンガスにちらりと目をやり、

「文句なら、後でいくらでも聞きます。今は、手当てをさせて下さい」
「……頼むでがす」

ヤンガスは、頭を下げる。シャウラとセシルは頷いた。その時、突如道の奥からスキッパーが飛び出してくる。

「手当ての邪魔はさせねえ!」

ヤンガスは素早く棍棒を手に取ると、スキッパーを殴り、倒した。

「魔物はあっしに任せてくだせえ!」

その言葉に頷くと、シャウラは前を見た。

「よし、シャウラ。教えてやるから、お前が手当てをしろ」
「え?」

セシルの言葉にシャウラは戸惑う。その反応を予測していたらしく、セシルはシャウラに耳打ちをした。

「この牙を見られたら、どうする」

ヤンガスがこちらを見ていないのを確認すると、セシルは口を開く。そこには歯ではなく、小さな牙がびっしり生えていた。どうやら、歯までは変えられなかったようだ。

「見つかれば、"神の怒りの子"って言われるわ。……セシルのモシャスは、見た目だけしかそっくりに出来ないのよね」

セシルは、モシャスと言う姿を変える魔法を使い、人に化ける。モシャスは本来、目の前にいる相手そっくりに化ける魔法だが、セシルは自分の、記憶を頼りに姿を変えることができる。ただ、記憶が曖昧だと今のように口のなかに牙が残ったり、頭に獣の耳があったりする、半端な姿になることがある。なので、普段はよく見かける人々——例えばユリマや花売りの娘に化けているのだ。

「仕方無いだろう……モシャスで人間に化けるのは、中々高度なのだ。ああ、傷口は左手の甲だ」

シャウラはエルニアの前で、片膝をついて座る。彼の左手首を掴み、自分の方に引き寄せた。手の甲はぷっくりと腫れ上がり、青紫色になっていた。

「よし、毒を吸いだせ」
「どうやって毒を吸い出すの?」
「傷口に口を付けて、血液と一緒に毒を吸いだせ。そして、すぐに吐き出して、また吸え」
「えーと……ここに口を……」

セシルの言葉を反復し、その通りにシャウラはエルニアの手の甲に唇を近付けて——自分が何か間違っていることに気が付いた。急に、身体が熱を帯びたように熱くなる。辺りは涼しいはずなのに、身体は異様に熱くなっていた。

「ん?どうした?」

エルニアの手首を掴んだまま、急に固まったシャウラを見て、セシルは怪訝な顔付きになる。

「私、エルニアさんに口を……つけなきゃいけないのよね?」

ぼそぼそと話すシャウラは、俯き、困った表情をしていた。

「何だ、お前。恥ずかしいのか?」
「…………」

シャウラは、無言で首を縦に振った。いくら手当てのためとは言え、異性の手に唇を付けるのは恥ずかしい。なので、シャウラは気後れしているのだった。

「都合のいい時だけ女子になるな。普段は男に興味もないくせに」

シャウラは、苦しむエルニアを前に困り果てていた。助けたいと言う気持ちと恥ずかしい気持ちが混ざり、どうすればよいか分からず、混乱している。

「なら、こいつを女だと思え。中性的な顔立ちだし、行けそうだと思うが」
「格好からして、どう見ても男の人でしょう……」

シャウラが呆れた声音で呟いた時、エルニアが肩を激しく上下させ、喘ぐ。

「あ、ああっ……」

その姿を見て、シャウラの中から恥ずかしさが吹き飛んだ。助けなければ、と言う気持ちが、シャウラを突き動かす。迷うことなくエルニアの手の甲に口を付け、傷口から血液と共に毒を吸いだす。苦い鉄のような味を舌に感じながら、シャウラは近くに吸いだした毒を吐き出す。その時、青ざめた表情で震えるヤンガスと目があった。

「あ、ああ、兄貴にキスを……!」

小さな悲鳴を上げるヤンガスに、シャウラは冷静に告げる。恥ずかしさなど、感じられない。

「毒を吸いだしているだけです」
「す、吸い出すぅ?」

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.230 )
日時: 2013/11/24 21:47
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: ilLKTbvz)  

すっとんきょうな声を出すヤンガスに、セシルが補足を入れる。

「毒が身体に回るのを遅くするために、傷口から毒を吸い出すのさ。誓いのキスではないわ」
「な、なるほど……」

感心するような声を出し、ヤンガスは何度も頷いた。すいやせんでした、と何故か謝ってから、見張りに戻った。
一度行動し、吹っ切れたシャウラは一生懸命エルニアの毒を吸出していた。吐いては、また吸い出して。
壁に寄りかかるエルニアは、肩を上下させながら、荒い息を吐いていた。先程より症状は落ち着いたが、依然として苦しそうだ。寝顔もは苦痛で歪み、口からうめき声が漏れる。

「あ……ううっ……」

苦しむ声を聞き、シャウラはキアリーを習得していればと後悔した。

「もうすぐ、治りますから」

でも、今は出きることをやるしかない。傷口があるエルニアの手を両手で包んで励ますと、セシルが次の指示を出す。

「毒消草を手に当てろ」

ずだ袋から毒消草を取りだし、シャウラはそれを傷口に押し当てる。沁みるのか、エルニアは小さく呻き、身体を強張らせる。
——その直後、異変が起こった。エルニアの呼吸が僅かにゆっくりになったのだ。

「よし、古いのは捨てろ。新しいのを当てろ」
「あ、毒消草が……」

セシルの指示に従い、毒消草をエルニアの手から離したところで、葉の色が茶色に変色しているのに気が付いた。艶のあった毒消草の表面は枯れ、がさがさになっていた。

「毒消草は、毒に一定時間触れると枯れる性質があるのさ。普通なら、毒消草が枯れる頃には毒は抜けているものなのだ」

新しい毒消草をずだ袋から出す。また、傷口に当て、枯れたら捨てる。それを繰り返すうちに、エルニアの容態は徐々に回復に向かう。まず乱れた呼吸が整い、肩の激しい上下が治まった。顔色が健康的なものに戻る。
最後の毒消草が枯れる頃には、寝顔は穏やかなものになり、口からは静かな寝息が漏れていた。

「ギリギリ足りたか」

セシルの言葉でシャウラはどっと疲れた。崩れるように足を地面に付け、そのまま座り込んでしまう。赤く染まった口を袖で拭った。
「じゃあ、兄貴は……!」
嬉しそうな声を出すヤンガスに、セシルは口角を上げる。

「ここまでくれば、放置しても死にはしないな」
「セシル、やるだけやりなさい」

シャウラは、セシルに冷ややかな視線を送る。

「ありがとうでがす!」

その横でヤンガスは嬉しさのあまり、万歳をしていた。

「全く、頭の固いペットだな……ああ、お前は疲れて役に立ちそうにないから、後は私がやる」

悪態をつきながら、セシルはずだ袋に手を突っ込み、薬草を取り出す。そして、エルニアの頭——正確には、そこに巻かれたバンダナを凝視した。

「丁度いいな」

ニヤリと笑うと、セシルはエルニアの頭に巻かれたバンダナに手を伸ばす。結び目をほどくと、オレンジの布が広がり、エルニアの暗めの茶色い髪が露になった。先程までバンダナで纏められていたせいか、髪が少々逆立っている。

「よし、洗ってくるから待っていろ」

セシルは、エルニアから奪ったバンダナを手に、意気揚々と洞窟の奥に進んでいった。
しばらくすると、セシルが帰ってきた。手にしたバンダナは湿っており、本当に何処かで洗ってきたようだ。

「シャウラ、こいつの傷口にホイミをかけとけ。治りが早くなるはずだ」
「うん」

セシルがエルニアの手首を掴み、彼の手を持ち上げる。シャウラは膝立ちになり、差し出された手の甲に両手をかざし、呪文に集中するため瞳を閉じる。

「光の神よ。我が祈りを聞き届け、あなたの力で傷をお癒し下さい。ホイミ」

シャウラの言葉で、かざした手が緑色に輝き、エルニアの手の甲で光が弾ける。腫れが少し引いた。

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.231 )
日時: 2013/11/24 21:55
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

———————!!

言葉にならない奇声。

朝霧の才能に感動です(感激)(泣)
できるならアニメ化してほしい・・・・・・。

ククール「すまないが俺に近づかないでくれるか?(ブルブル)」

食ってもいいよ?

ホントに私のはいきなりが多いばっかりにつじつま合わせるのが大変で・・・・。
私は早くドルマゲス決戦を書きたいので頑張っています!休みの日はほとんど小説☆

こちらこそコメントありがとうございました!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.232 )
日時: 2013/11/24 21:58
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: WV0XJvB9)  

明日は暇があるので、ザバン戦まで書けたらな〜と思います(あっさり終わりますがw

>>水恋さま?
多分水恋さまですよね、@さまと改名なされた?ようですが断りがないのでこのまま行きます!
ありがとうございますwいや、今もひどいですが前もひどいですよねorz
シャウラはどうなるか…これからを楽しみになさって下さい。
また描写足さないと…ヤンガスは魔物からエルニアを守っていたりもしたり←
コメントありがとうございました!

>>さだこさま!
初めまして!朝霧です、よろしくお願いします^^*よ、よければですが、小説の感想やこの小説で好きなキャラをお聞かせ頂けると朝霧はとても嬉しく思います。さだこさまはドラクエ8がお好きですか?よければ、色々語らせていただきたry
あわわ、失礼しました。
コメントありがとうございました!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.233 )
日時: 2013/11/25 21:54
名前: 朝霧 (ID: yMcAY8PJ)  

シャウラはホイミをかけ終えると、後ろに下がった。
「この洞窟の水は綺麗だからな。バンダナの汚れは、全部洗ってくれるはずだ」
セシルはエルニアの手首を膝の上で固定し、反対の手で手の甲に薬草を当てる。その上から、慣れた手付きでバンダナを巻き付けた。最後にしっかりと固結びをすると、

「我ながら素晴らしい手当てだ。惚れ惚れする」

と、自分で巻いたバンダナを満足そうに見て、自画自賛している。
ヤンガスは巻かれたバンダナとセシルを交互に見て、首を傾げる。

「あっしには手当ての素晴らしさが分からないでがすが……」
「大丈夫です。セシルがうぬぼれているだけですから」

ラリホーがかなり効いたらしく、眠り続けるエルニア。彼が目覚めるまで暇なので、何となくヤンガスに話しかける。

「そういえば、エルニアさんは何故毒に?」

シャウラの前にいた、ヤンガスは顔をしかめ、

「ちょっと前……あっしらはバブルスライムに、不意打ちをかけられたでがす」「……なるほど」

この洞窟で毒を持つ魔物は、今のところバブルスライムしか知らない。原因はそれだと予想はしていた。

「あっしが奴の毒攻撃に気付いた時には、兄貴が前に……」
「エルニアさんが、貴方を庇った……?」

正直、シャウラには意外な話だった。敵意の視線を送り、剣まで向けてきた男、エルニア。彼に、仲間を庇う優しさがあるなど思いもしなかった。

「バブルスライムはあっしが倒したでがす。でも、毒消草がなくて手当てが出来ない上に魔物が来るから、身動き出来なかったでがす」
「そこに私たちが……なるほど」

シャウラが目を閉じた時。エルニアが小さく唸った。うっすらと漆黒の瞳が開き、辺りの様子を探る。

「兄貴!」

エルニアに一番に駆け寄ったのは、ヤンガスだった。シャウラとセシルは特に近付かず、離れた場所から安心したような顔でエルニアを見る。
壁に寄りかかったまま、エルニアは自分の手に巻かれたバンダナを難しい顔つきで眺めていた。
ヤンガスに大丈夫でがすか、と声をかけられ、エルニアは顔を上げて柔らかい笑みを作る。

「ヤンガス、心配かけてごめんね」
「兄貴が無事だから、問題ありやせん。本当にあの二人には感謝しないといけないでがす」

ヤンガスは手でシャウラとセシルを示す。
顔から笑みを消すと、エルニアはシャウラとセシルに視線をやる。その顔には、感謝と敵意がない混ぜになり、複雑な表情となっていた。

「…………」

エルニアは、漆黒の瞳にシャウラとセシルを写しこむ。二人は助けてやったと偉ぶる様子も、感謝を求める様子も見せず、静かに佇んでいる。
少々迷い、エルニアはシャウラたちに呼び掛ける。

「感謝はするけど、キミたちを許したわけじゃない。陛下と姫への無礼は、許さないよ」
「…………」

シャウラは、無言でエルニアを見据える。鳶色の瞳に、感情らしいものは宿っておらず、何を考えているか読み取ることは出来ない。その対応にエルニアは不快感を露にするが、すぐに笑顔を作り、ヤンガスに笑いかけた。

「ヤンガス、少し休んでもいいかな?」
「もちろんでがす!体力を回復して、今度こそ水晶を手にいれるでげす!」
「水晶が見つかったのですか?」

シャウラに聞かれ、エルニアは淡々と答える。

「実はこの先に水晶があったんだけど、手強い魔物が守っていて取れないんだ」「ふん。助けは要らないと言っていたのは、どこの誰だ?」

その言葉を聞いたセシルが嘲笑い、エルニアはむっとした顔で睨む。セシルは余裕な笑みでエルニアを見下ろし、二人の間に緊張が走った。

「セシル、失礼よ」

シャウラが注意すると、ヤンガスが二人を仲裁した。
「まあまあ……落ち着くでがす」

エルニアはぷい、とそっぽを向く。
ヤンガスはシャウラとセシルに向き直った。

「ところで姉さん、嬢ちゃん。あっしらと一緒に、魔物と戦って欲しいでがす」
シャウラは快諾する。

「私たちでよければ」
「……付いてきてもいいけど、僕はキミたちを守らないからね」
「兄貴……」

エルニアが口を挟み、ヤンガスが困った顔をした。
シャウラは動じず、はっきりと、

「魔法の腕には自信がありますので。守って頂かなくて、結構です」
「ふーん……」

エルニアはつまらなそうに呟くと、また横を向いてしまった。

「こいつと同じだ。私も一人で大丈夫だな」

胸を張るセシルに、シャウラはそっと耳打ちをする。
「セシル、大丈夫なの?人間に化けていると、武器も魔法も使えないじゃない」
セシルの武器は牙や爪。
人間に化けてしまうとそれらがないので、セシルは戦えなくなる。

「大丈夫だ。いざとなったら、キラーパンサーに戻ってやる」

セシルは小声で言い切り、親指を立てて見せるがシャウラは不安しか残らない。人間がキラーパンサーに化けたら、エルニアたちはどのような反応をするのだろうか。あまりよくない結果を想像しながら、シャウラはため息をついた。

しばらく休み、エルニアが動けるようになったところで、シャウラたちは更に洞窟の奥へと進んだ。しばらく歩くと、突然視界が開き、空気が涼しくなった。
頭上には暗闇が広がり、そこから、幾つかの滝が水を落としている。壁に沿って流れる滝は、岩に広がる白いカーテンのようだ。
辺りには大小さまざまな石の柱が点在し、その下には水が貯まっている。どうやら、入口で見えた滝はここまで落ちるらしい。

「…………」

自然が織り成す美しい光景に見とれるシャウラ。しかし、エルニアとヤンガスは手に武器を持っていた。
何か感じるものがあるのか、セシルも目付きを鋭くする。
まっすぐな道を歩くと、一際大きな滝が目の前に現れた。勢いよく水しぶきを飛ばし、轟音を立てながら流れる滝は圧巻だが、シャウラには迷惑以外の何者でもない。眼鏡が水滴で覆われ、視界が霞む。水しぶきがかからない位置まで下がると、不意に高笑いが聞こえた。

「ふぉっふぉっふぉ……また懲りずにやって来たのか」

エルニアとヤンガスが武器を構える。
途端、水音と共に魔物が飛び出してきた。
シャウラの第一印象は魚人、だった。赤い鱗に覆われたそれは間違いなく魚のもの。だが、上半身には人間のような腕、先端のえらは四つに分かれ、指のようになっていた。かと思えば指と指の間には水掻きがあり、魚のようにも見える。人間の上半身と魚の下半身を合わせたら、こんな感じになるのではないか。
魚人は、シャウラとセシルを見て、ニタリと顔を歪める。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.234 )
日時: 2013/11/25 21:56
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: zypMmNa5)  

「助っ人は弱そうなおなごたちか……何度やっても結果は同じじゃろうがの」

魔物の勝ち誇った笑みが気に入らないセシルが、舌打ちをする。

「黙れ、じじい魚。さっさと水晶を渡せ」

その言葉に魔物はカチンと来たらしく、怒りで身体をわなわなと震わせる。両手を上げ、叫んだ。

「ええい、生意気な小娘め!お主には教育が必要なようじゃな!」

魔物が両手を降り下ろした瞬間。突然、シャウラたちを紫と黒が混じった霧が包み込む。

(か、身体が……)

霧に触れた瞬間、身体が強い力で固定されてしまう。鉛に変えられたように、重い。いくら動かそうと念じても、固まったまま動かない。以前のドルマゲスが使った術のようだ。
ヤンガスとセシルも、シャウラと同じく凍り付いたように動かない。それを見たザバンは、勝ち誇ったように笑う。

「ふぉっふぉっ! わしの偉大な呪い攻撃はどうじゃ!」
「えいっ!」

笑うザバンの前を剣の煌めきが通りすぎた。ザバンはすんでのところで滝に逃げてかわす。
滝から顔だけを出し、両手で剣を構えるエルニアを睨んだ。

「ほう、やはりお主には呪いが効かんか。だが——」
そこまで言って、ザバンははっとした顔付きで上を見る。青ざめた顔でエルニアに怒鳴る。

「そこから逃げろ!この戦いは終わりじゃ!」
「え?」

突然の言葉にエルニアが呆然としていると、ひゅうと何か空気を切るような音が上から聞こえた。
何だ、とエルニアが降りあおぐと、何かが落ちてくるのが見えた。杖だ。一本の杖が、空気を切るような音と共に真っ直ぐ落下してくるのが目に飛び込んでくる。
慌てて一歩下がると、杖は地面に突き刺さる。かなり長く、頭に鳥を模した飾りがある杖。シャウラには見覚えがあった。ドルマゲスが持っていた、長い杖。

「杖……?」

恐々とエルニアが杖に手を伸ばすと、ザバンがエルニアと杖の間に割り込む。

「杖に触れるでない!その杖には、魔法がかかっとる!出てきた奴に食われてしまうわい!」
「で、出てくる?」

エルニアが瞬きをしていると、先端の鳥の瞳がぼうっと赤く光った。
それを合図に、杖に一本の亀裂が走った。やがて亀裂は杖全体に広がり、破裂するように砕ける。刹那、閃光が走り、エルニアの視界が眩む。
光が収まり、目を開けた瞬間、エルニアは我が目を疑う。
先程まで杖があった場所には、一匹の魔物がいた。その見た目は人ほどの背丈がある緑色のトカゲが、立ち上がった姿。手には銀色に輝く、大きな斧を手にしている。

「あれは、トカゲの魔物か?」

エルニアは剣を構えながら、魔物を見据える。魔物の目には獣らしい獰猛な光が宿り、身構えていた。

「記憶が正しければバトルアックスと言う、ドラゴンの魔物じゃ。見たところ、この辺りに住み着いとる"ドランゴ"ではないようじゃが」

バトルアックスは待ちきれない、とばかりに咆哮をあげると、エルニア目掛けて突進してくる。

(身体が……)

手助けに向かいたいが、シャウラの身体は固まったまま。ヤンガスとセシルも動かない。
エルニアは、身体を捻ってバトルアックスをかわした。
バトルアックスは勢いを失わず、シャウラたちの方へと向かう。
エルニアは仲間を救おうと剣の柄をしっかりと握り直すが、それより先にザバンが動いた。両手を降り下ろすと、先程の霧がバトルアックスを包む。バトルアックスは彫刻のように、突進する姿勢のまま止まった。同時にシャウラたちも解放され、身体が自由に動くようになる。

「お主ら、こやつを滝壺に落とすぞ!」

ザバンの号令で、一同は固まったままのバトルアックスの元に集まる。
その時、ザバンはセシルを見て、

「おい、生意気な小娘!お主、本性は獣じゃろう。力が必要じゃから、戻らんか」
「は、獣って……?」
「こやつは人ではない。わしの目はごまかせんぞ」

シャウラが顔をしかめ、エルニアとヤンガスがセシルに注目する。その中セシルは観念したようにため息をつき、

「……空気が読めないじじい魚だな」

悪態をつくと変身を解く。煙が立ち、現れたのはキラーパンサーだった。
エルニアとヤンガスは、目をむいてびっくりする。

「に、人間がキラーパンサーになったでがす!?」
「え、ええっ!?」

戸惑う二人に、セシルは呆れたような視線を送る。

「お前ら、今はこいつを突き落とすのが先だろう」

セシルは前足を上げてバトルアックスを示した。

「そ、そうだね……」

エルニアは頷いた。

「みんな、行くよ!」

全員でバトルアックスを取り囲み、身体を道の端へと押し出す。バトルアックスの身体は見た目以上に重く、三人と二匹がかりでも中々動かない。それでも、皆懸命にバトルアックスに力を込める。固まる身体がゆっくり動き、崖から石がポロポロと落ちる。協力しあい、何とか道の端ギリギリまで押すと、エルニアが合図する。

「みんな、今だよ!」

エルニアの合図で、皆は最後に思い切り力を込めてバトルアックスを押し出す。目覚めたらしいバトルアックスが暴れ、エルニアたちは弾き飛ばされた。
その際、バトルアックスはバランスを崩し、手にした斧を放り投げた。それを取ろうと、バトルアックスは自ら道から飛び降りた。まるで呼ばれるように青い水面の中に、落ちていった。最後に青い水面の中に、二つの白い水柱が上がる。しばらく水面には水泡が浮かんでいたが、やがて消えた。

「わ、我らが王に栄光あらんことを……」

——泡が消えた直後。洞窟中に、渋い中年男性のような声が響いた。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.235 )
日時: 2013/11/25 22:21
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

ククール「不味そう・・・・・。喜んでいいのか、落ち込めばいいのか・・・・・・。」
女の方が旨い・・・・・?どこからその情報が・・・・・。

エイト「だって・・・・自分がわからない=何をしでかすかわからないじゃん。」
やっぱパラレルワールド同士って似てるんだね・・・。
ゼシカ「当たり前じゃ・・・・・。」


私はエルニアが毒にかかってシャウラの治療を拒むところがなんか・・・・好きです!!
主を見捨てた人に助けられるくらいなら・・・・みたいで、自分の想いを貫く感じで・・・感動です!
エルニア強い!カッコいいと思います!
ゼシカ「すいません。ユウって・・・・ちょっとずれてて・・・・。結構・・・残酷っていうか・・・・・。」
酷くない?

ホントにアニメにして、永久保存したいくらいです。

プロットを考えると、途中で変わる!
それをすでに経験して、いきなりで書いてます!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.236 )
日時: 2013/11/25 23:46
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: iAJranvs)  

——バトルアックスに弾き飛ばされた際、多くの者はその場になぎ倒されただけだった。
しかし、シャウラは当たった角度が悪く、さらに吹き飛ばされる形となる。気が付いた時にはシャウラの身体は道を飛び越え、そのまま遥か下にある水面へ落ちようとしていた。

(え!?)

身体が浮いたような感じがした直後、自分の身体が道から外れたのに驚いた。足場がない。何もない虚空で手足だけが動く。
ヤンガスの叫びがひどく遠くに聞こえる。その直後、身体が強い力で下に引っ張られた。振り向けば青く輝く水面が、おいでと手招きするように煌めいている。ああ、死ぬのか。とぼんやり頭で考えていると、不意に声がした。

(あなたはどうしていつも諦めるの?)

脳に直接声が響いた直後。シャウラは自分の手を掴まれる感触がし、宙ぶらりんの状態となった。掴まれた手を視線で追うと、エルニアが道の端から手を伸ばし、シャウラの手を掴んでいた。

「エルニアさん……」

名前を呼ぶと、エルニアはバンダナを巻いた手を伸ばし、両手でシャウラの手を掴んだ。

「僕の手を離さないで。しっかり握ってて!」

その背後では、ヤンガスたちの声もする。

「兄貴〜手伝うでがす!」「なんじゃ腰に来そうじゃの」
「元気なじじいが何を言うのだ!」
「みんな、引っ張るんだ!」

エルニアの合図で、皆が力を入れたらしい。強い力でシャウラの身体は引き戻され、あっという間に道の上に戻ってきた。
安心したのか一同が荒い息を吐いていると、声が響く。
——我らが"王"に栄光あらんことを……

洞窟中の空気を使い、響かせているような声だった。しかし、その言葉を最後に声は聞こえなくなる。滝の轟音だけが、辺りを支配していた。

「王?」

シャウラが首を傾げると、滝の音に混じり、拍手が聞こえた。降りあおぎ——シャウラは硬直した。
頭上にいたのは、ドルマゲスだった。まるで何かに固定されたように宙に浮いている。不気味な笑みを浮かべ、シャウラたちを見下ろしていた。

「ドルマゲス!」
「おやおや。可哀想な下僕を弔いに来たと言うのに、あまり歓迎されていませんね、ロッドバルド」

ドルマゲスは、杖の先端に止まる茶色いフクロウ——ロッドバルドの頭を指で撫でた。
フクロウは見た目こそ森にいるそれと変わらない。が、瞳に宿る輝きは普通のフクロウではなかった。鳥にしては理性を感じさせる静かな光を湛えているが、その光は時折ぎらつき狂気も感じさせる。そのせいか、ドルマゲスと共にいても風格を備える、おかしなフクロウだった。

「……何だ、この気配。あのロッドバルドとか言うフクロウ、尋常じゃない力を感じるぞ」

セシルが全身の毛を逆立て、威嚇するように唸る。それでも、フクロウはピクリとも動かない。静かに、こちらを見下ろすだけだった。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.237 )
日時: 2013/11/26 00:11
名前: 朝霧の独り言 (ID: iAJranvs)  

独り言
参照5000ありがとうございます!
4000行ったのがついこの間だった気がしますが、…3000突破した辺りで短編書こう、書こうと思っていたら、参照ばかり増やしてしまいすいません。トラペッタ編を終えたら、何か短編を書くつもりです←

久々に大量更新です。全部で…6000〜7000字は書いたみたいですね?自分でも何字書いたか分からない状態です←

新しくロッドバルドが出てきましたが、こいつはドルマゲスにくっつくだけでほとんど喋らない子です。どうか、忘れないであげて下さい。(シャウラ「作者が出番を増やせばよいのでは?」

ところでオデット、ジークフリード、ロッドバルドと来て、とあるバレエを思い浮かべた方は大正解です。彼らの名前は、某バレエの登場人物から取ってます。

キャラが多いので、一章終わったらキャラ紹介や用語集を作りたいと思います。

長い、独り言でした。

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.238 )
日時: 2013/11/26 07:22
名前: ユウ (ID: Dbh764Xm)

いえいえ!私のなんて!
でも、嬉しいです……ありがとうございます。


エイト「怖いよね。僕 も思うよ。僕は悪の者が送り込んだんじゃないかって。だから、記憶も消されたんじゃないかって。 」
サラ「そんなの私も。怖いよ。でも、エイトやみんなが居てくれるから、大丈夫っておもえるんだ。」


男性よりは女性のほうが、美味しそうだよね。
男性はゴツゴツしてるみたいで、女性は筋肉とか少ないから。

エイト「僕だって、敵に命乞いなんかしない!それなら、死んだ方がましだよ。」


Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.239 )
日時: 2013/11/28 23:04
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: a1/fn14p)  

それでも、エルニアは怒りをはらんだ声で言う。

「ドルマゲス、何しに来た!?」

ドルマゲスはロッドバルドを撫でながら、楽しそうに笑う。

「新しい力を手に入れたので、試しに来たのですよ。まあ、下等にしては頑張ったと言ったところでしょうか」
「お主、魔物を何だと思っているのじゃ!」

ザバンが怒鳴ると、ドルマゲスはわざとらしく怖がって見せる。

「おお、恐い恐い……」

恐いとは口で言うが、実際目は笑っていた。
シャウラはエイトたちより前に出て、静かな声音で問う。

「ドルマゲスさん、父様はどこですか?」
「さあ」

大袈裟に肩を下ろすドルマゲス。答えをはぐらかされたシャウラは、さらに問おうとするがエルニアが前に出て、

「陛下と姫を、トロデーンを元に戻せ!」

怒りの形相で叫んだため、シャウラは問いを発せられなかった。
エルニアは剣を鞘から抜き、構える。
だが、ドルマゲスは余裕綽々な態度を見せる。顔色も変えず、不気味に微笑む。
「……ああ、あなた様はあの時の近衛兵ですか」

ドルマゲスは、楽しそうにエルニアを見つめる。

「主に従い、わざわざ死に急ぐとは大した忠誠心だ。——だが、それはいずれ……」

訳知り顔で、ドルマゲスはエルニアの漆黒の相貌を見つめる。

「くくっ……いつまで主に忠誠を誓えますかねえ?いずれは、この私に殺されてしまうと言うのに!」

嘲笑うように高笑いをするドルマゲス。
その時、ロッドバルドが甲高い声で鳴いた。

「ああ、ロッドバルド。そろそろ時間ですか」

それを聞いたドルマゲスの姿が、一瞬で消える。まるで空気と同化したようだった。
エルニアが駆け寄るが、ドルマゲスの姿はない。ロッドバルドもいなくなっていた。滝の音だけが、響いていた。

「くー!なんて逃げ足が早いんでがすか!」

ヤンガスが叫びながら、地団駄を踏む。エルニアは悔しそうな顔で唇を噛み、一人佇んでいた。手にした剣が小刻みに揺れている。

シャウラは彼らから少し離れ、セシルにそっと耳打ちをした。

「父様……いなかったわね」
「どこかに監禁されているのかもな。あるいは……」
「もう生きてない」

セシルが言う前に、シャウラが言い切った。疲れきった瞳で、

「父様、死んでる気がしてきたわ」

セシルが目を細める中、シャウラは本当に疲れた表情になった。
ドルマゲスが父を連れていなかった時点で、生存している可能性は低くなった。監禁されている、と考えることも可能だが、父が亡くなっていると考える方がしっくり来る。ドルマゲスは、父を殺そうとしていた。色々仄めかすようなことは言っていたが、生きている、と考える方が難しい。

「ごめんなさい、セシル。私ね、白馬の王子様みたいな、根拠のない希望はやっぱり信じられないわ。そういうのは、ないってずっと前から知ってるから、疲れちゃう」

何もかも諦めきった表情だが、絶望はしていなかった。父にも、自分は年だからこれからのことを考えろとよく言われていたし、自分自身でも予測はしていたから。

「悲しい予感を信じて、諦めた方が気が楽だわ」

そう、諦めた方が楽。
無意味な妄想は、自身を苦しめるだけなのだ。いくら待っても、父は帰って来ない。

「父様は死んでる。なら、私は、これから一人で生きていかないといけないと」

——呟いた現実は悲しいものだった。

〜つづく〜


Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.240 )
日時: 2013/11/29 15:18
名前: 水恋 (ID: DQ6CtGsj)

シャウラさん簡単に諦めるなんて(;_;)

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.241 )
日時: 2013/11/29 19:52
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

すいません。昔の日記ノープランです・・・・・。
ゼシカはアルバート家のお嬢様なので、昔から船に乗っていたということでしょうかね!

航海士てきな存在です。

呪われた娘・・・・似たようなことを言われた人を知っているな・・・・。

エイト「ある意味ネタバレでは?」

こんなの知っても何ともなんないって(笑)

エイト「チャゴス王子なら。僕はおとめしません。」
サラ「でも、それならククールもいんじゃない?」
ククール「10年以上昔のはないしだ。」

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.242 )
日時: 2013/11/29 21:53
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 3iqcZzcT)  

独りごとですのっ!

最近、魔法少女まどか☆マギカにはまっています。
今までの魔法少女ものを覆す意外な展開がとても面白く、夢中になってます。
……女神まどか様のデザインがツボです←

>>水恋さま!
シャウラが簡単に諦めてしまうのは訳があります。前に言っていた、白馬の王子様なんていないがヒントです。

コメントありがとうございました!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.243 )
日時: 2013/11/29 22:45
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

ナミさんもどきってことで・・・。
アルス(7主)の父みたいな船に専門の人が来てたんだよ!多分!
色々教育を受けていたということで・・・・・。

呪われた人か・・・・ある意味私。
多分呪われている。
そして、人を呪った。
きかなかったけどww

サラ「・・・・・。残酷なんです。」

ルシオ「僕がいる教会は結構自由なんですよw誰でも受け入れます。でも、悪しき心を持っている人は追い出しますがwチャゴス王子はその1人ですねw」
チャゴス「ふん。悪しき心じゃなくて、清すぎる心を持っているからだろ(ドヤ)」

・・・・・・・・・・・。

ククール「あいつを食ったら死ぬぞ。」

Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.244 )
日時: 2013/12/04 23:35
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: a7WresCQ)

 一方、エルニアたちは。
 シャウラの様子に気が付くことはなく、滝の近くでザバンと共に話をしていた。
「あやつとあのフクロウ、尋常ではない魔力を持っておるな。さすがのワシも鱗が逆立ったわい」
「ところでザバン。さっき、よく分かったね。あの杖から何かが出てくるって……」
 ああ、とザバンは何でもないことのように、
「魔力の波動が、知っているものじゃったからの。魔物が仲間を呼ぶ呪文に似とったわ」
「ってことは、兄貴。ドルマゲスには魔物を呼び出す力があるってことでがすかね?」
 ザバンは頷く。
 そこにシャウラとセシルが近付いてくる。シャウラの表情は、いつもの落ち着いたそれに戻っていた。
「じゃろうな。あやつの魔力では魔物どころか、悪魔を呼び出すかもしれんな」
「……悪魔か。厄介だね」
 エルニアは眉を潜める。
 と、ザバンが思い出したように、
「ところでお主らよ、何故にこの水晶を求める?」
 エルニアは手短に、水晶を探しに来た経緯を説明する。ザバンはなるほどと、腕を組んで頷いた。
「この水晶の持ち主の娘に、頼まれたのか。ならば、協力の礼も兼ねて渡してやろう」
 ザバンは一度跳躍して滝に飛び込んだ。ややあって、両手で水晶玉を抱えて戻ってきた。人の頭程はあろう、大きな水晶玉だった。透き通った紫色をしていて、神秘的な雰囲気を醸し出している。
 水晶玉をザバンが差し出すと、エルニアは両手でしっかりと受け取り、濃い緑の袋の中に閉まった。
「さっきは襲って来たのに、えらく態度が変わったでげすな」
ヤンガスが呆れたように肩を落とすと、ザバンはふぉっふぉっと笑う。
「乗り掛かった船、と言うやつじゃ。先程の戦いを見れば、お主らが水晶の占い師でないくらい察しがつくわい」
 そういえば、とザバンはエルニアを見据える。
「お主はわしの呪い攻撃が効かなかったの」
「それが?」
「——水の流れで聞いた噂を思い出したぞ。『ここからほど近いある城が、悪魔の呪いによって滅ぼされた。生き残りはただ一人。そいつは、馬とおかしな魔物を連れて旅に出た』とな」
 その話を聞いたシャウラは、ドルマゲスの昔話を思い出す。賢い王と美しい姫がいる王国。杖を守る王国。城は滅ぼされ、魔物と馬に姿を変えられた、と言う下りであることに気付く。
 ——魔物と白馬。すぐ近くにいるではないか。

「ところがお城は呪われ、滅びてしまいました。王様は化け物に、姫は白馬へと姿を変えられたそうです。王国はもうどこにもない。悲しいなあ。悲しいなあ……」
 一生懸命に記憶を引っ張り出し、独りごとを装って言葉を紡げば、辺りが急にしんとなった。水の流れる音しか聞こえない。
振り向けば、ヤンガスとエルニアが驚愕の色を顔に出し、こちらを凝視していた。
「キミ、どこでその話を……!?」
 震える声で尋ねるエルニア。驚愕を通り越し、顔は恐怖で青ざめていた。
「一昨日、町にいたドルマゲスさんに聞きました。いや、聞かされたと言った方が正しいですが」
 そう告げると、エルニアは目を限界まで見開き、
「キミ、ドルマゲスに会ったの!? 行方に心当たりは? あいつはどこに行くとか言ってた?」
 矢継ぎ早に次々と質問を浴びせられたが、シャウラは冷静に
「残念ですが、行方に心当たりはありません」
 シャウラが首を横に振ると、エルニアはがっくりとする。
「くそ……ようやく手がかりが見つかったと思ったのに」
 そこにセシルが、口を挟む。
「なら、ルイネロに聞けばいいだろう」
「ルイネロさん? 誰だっけ?」
 眉を潜めるエルニアを見て、セシルはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ユリマの父親の占い師だ。聞いていなかったのか?」
「き、聞いてたさ! ルイネロさん、ルイネロさんだよね!」
 エルニアは、むきになって反論する。焦る様子から本当は忘れていたようだが。
 セシルはふんっと鼻を鳴らすと、
「あいつの得意分野は、探し物だ。人、モノ問わずにな……水晶さえあれば、ドルマゲスの行方も探せるのではないか?」
「キラーパンサーのくせに、やけに詳しいじゃないか」
 エルニアはセシルを見下ろし、皮肉のような口調で言う。
 セシルは当然そうに返した。
「私は、ただのキラーパンサーではない。賢く、偉大なキラーパンサーなのだ。知っていて当然さ」
「……喋る魔物って、どうしてこうも尊大な態度をとるかな」
 エルニアの素直な感想にシャウラは心の中で同意する。セシル、おおきづち、ザバン。どれもこれも、人を見おろす態度をとる魔物ばかりだ。
 不意にごほんと、ザバンが咳払いをする。
「話はすんだかの?わしは、腰が痛むので帰りたいのじゃが」
 ザバンは水掻きが付いた手で背中を叩く。人間でいう腰に当たるらしいが、下半身は魚であるためいまいち実感が伴わない。
(さ、魚に腰ってあるのかしら?)
 シャウラはザバンを見ながら首を傾げた。その横でセシルが、ぼそりと一言。
「……あれほど騒いでおいて、何が腰だ。老がいめ」
 セシルの悪口に気付かなかったザバンは、話を続ける。
「一つだけ、水晶の持ち主に言伝てを頼む。"むやみやたらに滝に物を捨てるな"、とな!」
「分かったよ」
 エルニアが了解すると、ザバンは満足そうな笑みを浮かべ、背を向けた。頭を抱え、痛いと悶える。
「……っ! 今日の戦いのせいで、古傷が痛むわい!」
 頭を抱えながら滝壺に飛び込むザバン。水しぶきを残し、今度こそザバンは消えた。その際、全員離れた位置まで避難したので水はかからなかった。
 ザバンを見送ると、エルニアはシャウラと目を合わせる。
「ねえ、キミ。ドルマゲスに会ったって話、詳しく教えてくれないかな?」
「何故ですか?」
 シャウラはエルニアの気持ちを図るように、じっと見つめる。エルニアは、微苦笑を浮かべた。
「ずいぶんと慎重なんだね」
「……色々ありすぎましたから」
 シャウラは、エルニアから視線をそらした。端から見るとほぼ無表情だが、唇だけはきつく結ばれている。
 しばしエルニアは、シャウラが口を開くのを待ったが、進展がないので、
「さて、一度外に出ようか。——リレミト!」
 呪文を唱えた瞬間、エルニアたちの姿は、拳程の丸い光の玉へと変わった。光の玉は徐々に小さくなり、やがて点のような大きさになる。そして、ぱっと光の玉は弾け、消えてしまった。

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.245 )
日時: 2013/12/04 16:33
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)

ふと気が付くと、冷たい風がお下げを揺らしていた。振り向けば、滝の洞窟に続く入口がぽっかりと口を開けている。
 降り仰げば、空は鮮やかな夕焼けの色。巨大な火の玉のような太陽が、大地を紅に染めながら地平線に沈もうとしている。
 その空の色を見て、シャウラは一昨日のことを思い出していた。広場にドルマゲスがいたのも、こんな夕暮れの時だった。
 エルニアの言葉で一昨日の出来事を思い出していると、遠くからしわがれた声が聞こえてきた。
声の方を振り向けば、魔物が馬車から降り、こちらに向かって手を振っていた。
「これー! エルニアー! ヤンガスー! 娘さんたち! わしをどれだけ心配させれば気がすむのじゃ!」
 魔物の近くにエルニアとヤンガスが駆け寄る。その背中をぼんやりと見ながら、シャウラは魔物と馬を改めて観察する。恐らく、ドルマゲスの話に合った呪われたであろう王と姫。王は分らないが、白馬は言われてみると姫君のようだと納得がいく。白馬は、馬とは思えない上品な雰囲気を纏っていた。例えるなら可憐な百合のような。
そこに存在するだけで人々の視線を引く美しさをその馬は持っていた。
 魔物は笑顔を順番にエルニア、ヤンガス、シャウラに向け——硬直した。シャウラのすぐそばにいたキラーパンサー姿のセシルを見て、悲鳴を上げる。
「な、き、キラーパンサーではないか!? エルニア、こやつを切り捨てるのじゃ!」
 エルニアは魔物をなだめる。
「陛下。このキラーパンサー、性格は悪いですけど、無害ですから」
「む、そ、そうなのか?」
 魔物はおっかなびっくりセシルに近いた。
セシルはめんどくさそうに口を開く。
「おい。私と会うのは、二回目だろう。いい加減に慣れろ」
その言葉に魔物は不愉快な顔つきになる。
「な、なんじゃ魔物ふぜいが偉そうな口を聞きおって……まるで、牛人間が呼んだキラーパンサーのようじゃの」
 そこまで言って魔物ははっとした顔になり、
「お前さんは、先刻のキラーパンサーなのかの?」
「さっき、会うのは二回目だと言っただろう」
セシルがうんざりして言うと、魔物は感嘆の声を上げた。
「おお! あの、魔物使いのキラーパンサー……名は確か、セシルと言ったかの」
 状況が理解できないエルニアとヤンガスが、シャウラとセシルを交互に見比べる。
「は? これが魔物使いのキラーパンサー? どうなってるでげすか?」
「じゃあ、キミが魔物使いの一人なの?」
 シャウラは俯いていたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「疑問には後でお答えします」
 ドルマゲスの話をすればひどく長くなる。今は、ゆっくりしている場合ではない。
「……早くトラペッタに戻りましょう。特にエルニアさんは早く教会に行くべきかと」
 シャウラは鳶色の相貌を静かにエルニアに向ける。
 毒の治療は、教会の担う仕事の一つである。多少のお金は取られるが、格安で本格的な毒の治療をしてくれるので有難いものだ。
 一応、手当てはしたが、あれは応急措置に過ぎない。エルニアはぴんぴんしているので大丈夫だとは思うが、シャウラは不安でたまらない。
が、当の本人は手にまかれたバンダナを見ながら、渋い顔をした。
「……嫌だ。トラペッタの教会なんて行きたくない」
 あの神父なんかに、と憎々しげに呼び捨てにしている辺り、相当な恨みを感じられる。
 そういえば、魔物騒ぎがあった時。トラペッタの神父は魔物を滅するべしと言って、民衆が魔物に敵意を持つよう煽っていた。言わばあの騒ぎの主導者の一人と言っても間違いはない。
 大切な人——今は魔物だが、を傷つけた人間を許せないのだろう、とシャウラはようやくエルニアの気持ちに気が付いた。先ほどまでは敵意を持たれていたのも、このせいだったのだろうとようやく理解する。
が、それに気が付くと同時に、シャウラは説得できないことを悟る。先程の問答から、エルニアは自分の主張を簡単に変えない性格であることは分る。多分、何を言っても聞かないだろう。
 ならば、とシャウラは魔物を利用することにした。魔物には逆らえないらしいので、魔物が命ずれば大人しく教会に行ってくれるのではないか。そう考えたシャウラは、洞窟の中で起きた出来事を知らず、首をかしげている魔物に向き直り、
「エルニアさんは、魔物から毒の攻撃を受けました」
「な、なんじゃとう⁉」
 魔物が驚いて叫ぶと、エルニアは『余計なことを言うな』と鋭い眼差しでシャウラを睨み付けた。見るだけで人を圧巻するような強い眼力だが、シャウラにはどうということもなかった。狂気に満ちたドルマゲス、人々におそれられるドラゴンであるオデット。彼らに比べれば全然怖くない。たった数日でシャウラは恐ろしく逞しくなっていた。
「ですから教会に行かないと危険です」
 シャウラの説明に納得したらしい魔物は、エルニアを叱った。
「エルニア! 早く教会に行き、手当を受けてこんか! お前の体に何かあったらどうするのじゃ⁉」
 狙い通り魔物の言葉には逆らえないらしい。エルニアは俯き殊勝な態度で魔物の話を聞いている。最後には渋々、といった感じでうなずいた。
「……わかりましたよ」
 さあトラペッタに行こう、とエルニアはくるりと踵を返した。その背中はやけに小さく見えた。

〜つづく〜
思うところがあり、詰めてみました。読みづらい…でしょうか?

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.246 )
日時: 2013/12/04 17:01
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)

 トラペッタに戻ったシャウラは魔物と馬、そしてセシルを残して町に入った。魔物がセシルに興味を持ったらしく、話したいと言われたので置いてきたのだった。
 ヤンガスとシャウラが付き添う形でエルニアを教会に連れていき、毒の治療を受けさせた。応急手当てが早かったらしく、今日一日安静にしていればいい、と神父に告げられ、ヤンガスとシャウラはほっとした。
 そのまま、来たついでに、とシャウラたちは水晶を届けに行くことにした。
 家々がひしめくように立つトラペッタの奥。そこがユリマとルイネロの住居だった。
 扉を開けると、ルイネロが既に待っていて、シャウラたちを驚かせた。
 ルイネロは椅子に座って、目を閉じていた。騒がず、動かず。ルイネロが纏う静かだが張りつめた空気にシャウラたちは、気圧されそうになった。歓迎はされていないのは明らかだ。
 部屋には紫の布に覆われた円形のテーブル、その上に透明な球体が置かれていた。手に入れた水晶と大きさこそ同じだが、濁ったような透明さで水晶ではないと分かる。
 ルイネロは黒い髭を蓄え、爆発したような個性的な黒髪を持つ中年の男性だ。
 ややあって、ルイネロがゆっくりと目を開け、シャウラたちを順々に見た。
 既に何かを悟ったような顔。その瞳に宿るのは、静かな怒りだ。鋭い眼光がシャウラたちを射る。
「……ようやく、来たか。待ちくたびれたぞ。この水晶がガラス玉だとしても、そのくらいのことは分かる」
 ルイネロは前に置かれたガラス玉に目をやる。
 オデットのことを言い当てた力は確かにあるのだ。
「ユリマに頼まれた品を手にいれたな?」
 ずばり言い当てられたエルニアとヤンガスは、驚きで言葉を失った。 恐らく、半信半疑だったのだろう。シャウラは身動ぎもせず、ルイネロを見つめ返す。
 ルイネロはゆっくりと立ち上がると、だんと強く机を叩いた。ガラス玉が微かに跳んだ。
 顔を怒りで歪めながらエルニアに近付くと、彼の肩を乱雑に掴んだ。今までの物静かな態度と打ってかわって、非常に荒々しく、今にも殴ってきそうな勢いだ。
 水晶を誰が持っているかも分かっているらしい。
「さあ、大人しく水晶を渡してもらおうか!生憎、必用としていないのでな」
 大きく声を張り上げ、ルイネロは水晶を渡すよう威喝する。エルニアは僅かにたじろぐが、負けじと、
「あ、そうだ。伝言です。滝壺に水晶を捨てないで下さい」
「滝壺に水晶を捨てるな? なんのことだ。訳が分からんぞ!」
 一応約束したので伝えたが、ルイネロはザバンのことを知らないらしく、理解してもらえなかった。
 ようやくエルニアから手を離すと、ルイネロは三人を睨んだ。全く、と呆れたように大きなため息を吐く。
「おぬしら、わしが何故水晶を捨てたのか分かるか? ……おせっかいもいいところだ」
 そして、再度強い口調でルイネロはエルニアに迫ってきた。シャウラとヤンガスが間に入り、ルイネロをなだめようとするが効果はない。
「さあ、水晶玉を渡せ。あんなもの、粉々に砕いてくれる!」
「嫌です」
 はっきりとエルニアが断り、ルイネロの顔がひきつる。ルイネロの両手がガラス玉へと伸びる。
 さすがに危ないと思ったシャウラは得意のラリホーの詠唱を初め、
「止めて、お父さん!」
 突如ユリマが現れた。叫びながら、エルニアとルイネロの間に割って入る。潤んだ瞳でじっとルイネロを見た。
 突然のユリマの登場に一同が呆けている中ユリマは、青い瞳から輝く雫をぽたぽたと落とす。
「もういいのよ。私、ずっと前から知っていたわ。お父さんが、どうして水晶を捨てたのか」
 さあ、とルイネロの顔から血の気が失せる。先程までの高圧的な態度は消え、狼狽し始めた。
「ユリマ、まさかお前……」
 視線をユリマに向けたまま、ルイネロは凍りついた。口が言葉を紡ごうとするが言の葉にならず、ルイネロは飲み込んでしまう。次に出す言葉を躊躇っているようだ。しばらく迷った後、ルイネロはようやく震えた声を出した。
「本当の両親のことを?」
 ユリマは瞳を濡らしながら頷く。雫がまた零れた。
 ふ、とルイネロは自嘲するような笑みを浮かべ、
「なら、わしを憎んでも構わないのだぞ?」
「お父さんは、ただ占いをしただけよ。悪くないわ」
 静かにユリマは自分の気持ちを打ち明け、袖で目をごしごしと擦った。にこり、と優しく微笑んで見せる。その笑みに恨みの感情など何処にも存在しない。全てを許した、優しい笑み。
「お父さんの力は凄かった。だから、逃げていた私の両親の居場所を言い当てしまったのよね」
 ふう、とルイネロは長いため息を吐いた。当時を思い出すかのように、遠くへと視線を投げかける。
「あの頃のわしは世界中に名が知れた占い師。有頂天になり、占えることは片っ端から占ったものだ」
 そして、ルイネロは爪が食い込みそうな程強く拳を握り、悔しそうな顔になる。瞳からいくつもの涙が頬を伝った。身体が小刻みに震えていた。
「……だから、わしは近付いてくるヤツが善人か悪人なのか考えもしなかった!」
 己への怒りとも強い後悔とも取れる、ルイネロの悲痛な叫びに、ユリマは静かに首をふる。ゆっくりとルイネロの元へ歩み寄ると、両の手でルイネロの拳を優しく包み込んだ。まるで大丈夫、と言うように。
「でも、お父さんは一人ぼっちになった、赤ちゃんの私を育ててくれたじゃない」
「……ユリマ」
 弱々しくユリマの名を呼ぶと、ユリマは笑った。
「お父さん、一つだけわがまま言ってもいいかな? 私、昔のようなお父さんを見てみたいな。高名で自信に満ちたお父さんの姿を……!」
 ユリマは穏やかな表情で、しかし強い声音ではっきりとルイネロに告げる。
 その瞬間、ルイネロははっとした顔付きになった。そしてふ、と零れる息と微笑。
 ゆっくりとエルニアに身体を向けると、
「気が変わった。水晶を渡してくれ」
「え、じゃあ……!」
 声を弾ませるエルニアに、ルイネロはゆっくりと頷く。その顔に今までの後悔は何処にもなく、晴れ晴れとした表情だった。まるで憑き物が落ちたようだ、とシャウラは思う。
 本来の明るく自信に満ちたルイネロの復活したのだ。
「ああ、占い師ルイネロはここに復活を宣言する!」
 ルイネロが高らかに宣言し、ユリマがルイネロに抱き付く。
「ありがとう、お父さん!」
 父親に一層強く抱きつきながら、ユリマは涙を流す。ルイネロは何も言わず、ユリマの頭をそっと撫でていた。その姿は本来の親子のようだ。
 黙って事の成り行きを見つめていたエルニアたちは思いもいの顔でユリ間を見ていた。
 エルニアは羨ましそうに目を細め、シャウラは口角を持ち上げ、よかったねというように静かに微笑んでいる。親子愛に感激したのか、ヤンガスは泣いている。感動したでがすよ、と独り言を言いながら腕で涙を何度も拭いている。
「皆さんも本当にありがとう!」
 ユリマがシャウラたちに頭を下げ、エルニアたちはお互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた。

〜つづく〜

一気に進みました。
後はシャウラが旅に出るまで、で終わるはず(長くなりそうだが


Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.247 )
日時: 2013/12/04 19:40
名前: 水恋 (ID: 66F22OvM)

ユリマちゃん、、超感動だ!

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.248 )
日時: 2013/12/04 21:00
名前: ユウ (ID: viAVUXrt)

ククール「腐敗してるってなんだ!?」
ゼシカ「文字通りよ。」
マルチェロ「私は腐敗などしていない。こんなやつと一緒にしないでくれ。」

ミーティア「呪いは・・・・きついですよ。とくに解かれた跡が・・・・。」

エイト「地獄に叩き落としたいな・・・・。」
チャゴス「庶民が何か言ったか?」
エイト「ナニモイッテマセン。」
チャゴス「僕に文句があるなら牢へ入れてやるからな!(エッヘン)」
サラ「(ボソッ)威張るな。」


セシルかわいい。