二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.43 )
日時: 2013/08/05 12:42
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)

序章
 
光に満ちた、世界だった。辺りは白い光に包まれた、どこまでも白い世界。そして母の腕に抱かれているようなぬくもりを感じる、どこまでも暖かい世界だった。

「——、——」

ぼんやりとした意識の片隅で、娘と獣は誰かの声を聞いたような気がした。しかし、声は本当に微かで何を言っているのかはっきりと分からない。ただ、言の葉らしい音が鼓膜を震わせていた。

「ねえ、貴方は誰なの?」

 聞くのが何度目か分からない問いかけを娘がするが、"声"の持ち主は無言だった。その態度に娘は怒りを通り越し、呆れていた。何回も人の夢に現れては、何も語らず去っていく“声”は何がしたのだろう。初めこそ眠りを邪魔され、怒りの感情を持っていたが、今はこうして何度も何度もやってくる“声”に呆れてしまう。何かを伝えたいなら、他に手段はないのだろうか。こちらはここ最近まともに寝た気がしない、少しは気持ちを考えて欲しいと娘は心内でため息をつく。

続けて、獣が口を開いた。

「人の眠りを妨げた罪は重いぞ」

 獣は身を低くし、声が聞こえた方向を睨み、喉を低く鳴らす。今にも"声"に襲いかかりそうな体勢だ。
 最近、この夢のせいで睡眠不足気味な獣は、機嫌が悪かった。姿さえ見せれば引き裂いてやる、は最近の獣の口癖だった。
 獣は、この世界で『キラーパンサー』と呼ばれる生き物だ。襲われたら最後、鋭い牙と爪であっという間に引き裂かれてしまうと人々に恐れられる、恐ろしい獣だ。
 そんなキラーパンサーを前にしても、"声"はまだ何かを訴え続けてくる。今度は雑音が混じり、声はますます聞こえにくくなっていた。
 声が聞こえるだけで声の主は姿が見えない。声の主は人か、異形か。それすらも分からない。

「貴方は何をなさりたいのですか?」

 娘が警戒の色を顔に浮かべながら聞くと、雑音が僅かだが弱まった。

「起きて……、……助け……」

 若い女性らしき声がし、娘と獣は思わず顔を見合わせる。声が少しでも聞き取れたのは随分久しぶりなことだ。ただ、前回の声は男の声だった記憶があるが。 
しかし、はっきりと聞き取れたのは『起きて』、『助け』の部分だけ。他は雑音が混じってしまい、理解することが出来なかった。
 娘は首を傾げ、さらに問いを重ねる。

「起きる? 助ける? どういう意味ですか?」

 返事はあった。ただし、耳鳴りに似た雑音はますます酷くなり、女性の声を聞こくことは出来ない。起きて、助けて、と言う単語を何とか文章にしようと苦心する娘。
 その足下で獣はしばし口を閉ざしていたが、やがて限界に達したらしく"声"に怒鳴った。

「いい加減に、目的をはっきりしろ!」

 獣が怒鳴った瞬間、波紋が広がるように静寂に満ちた。雑音が消え、恐い程の静かさが空間を満たす。
 突然のことに娘と獣は顔を強ばらせ、思わず身構える。

「私に戦う意志はございません」

 そこに、凛とした"声"が娘と獣に敵意がないことを告げる
先程までは頭に直接響くような声であったが、今は娘と獣の目の前から声がする。変わらず、そこには誰もいない。ただ白い空間が広がっていた。

「急ぎなさい。闇が貴方たちの近くに……」

 何のことかと娘と獣が問い質そうとした刹那。
 ——白い空間が大きく揺らぎ始めた。

〜つづく〜