二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.81 )
- 日時: 2013/08/19 18:37
- 名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)
自宅に帰ると、シャウラは息苦しさを感じた。空気が重い。暗く、どんよりとした重苦しい空気が家全体を包んでいるようだ。
シャウラが家の扉を完全に閉めたのを確認すると、セシルは早口で何かを呟いた。すると、セシルの周りから煙が立ち上ぼり、一瞬で霧散した。その後にいたのは、ユリマに似た姿ではなく、キラーパンサーだった。
「父さま?」
シャウラが大声で父を呼びながら中へ足を一歩踏み出すと、突如、鋭い声が上からした。
「シャウラ、セシル、逃げろ!」
その声にシャウラとセシルは思わず足を止め、お互いに顔を見やる。
「私が先に行く」
セシルの言葉にシャウラは頷くと、セシルを先頭に、彼らは声がした二階へと急いだ。
階段を上りきった時、まず見えてきたのは部屋を囲む本棚と、先程広場で昔話をしていた道化師の後ろ姿。そして、道化師の足下でうつ伏せになったままうめき声をあげる、老人の姿。
「貴様、ここで何をしている?」
セシルが牙を剥き出しにしながら低い声で、問う。すると、道化師はゆっくりと振り返った。白く化粧をした顔はまさしく道化師のそれだろう。しかし、道化師の肌の色は生気を感じさせない色だった。
青ざめた、見方によっては緑のようにも見える肌に、とても血が通っているようには思えない。
——その瞬間、シャウラは自分の中で、強い感情が生まれるのを感じた。悲しみ、怒り、恐怖。遠い日に消し去ったはずの感情がありありと蘇り、シャウラは困惑した。表面上は平静を装っているが足は震え、肌は脂汗が流れている。
道化師はシャウラに目をやると、口元に笑みを浮かべ、優雅に一礼をして見せる。
「これはこれは……先程の可愛らしいお嬢さんではありませんか。わざわざ、私に会いに来てくださったのですか?」
「貴方は……?」
自然とシャウラの口から出た独り事だったが、ドルマゲスには誰、と問われたように聞こえたらしい。
これは失礼、とショーの前のように挨拶をする。
「これは、これは自己紹介が遅れました。我が名はドルマゲス。以後、お見知り置きを」
その瞬間、シャウラは強烈な違和感を覚えた。
あのような別れかたをして、まるで初対面のような振る舞い方をするのが信じられなかった。どこかで事故に会い、記憶喪失になったとでも言うのか。
「本当に、ドルマゲスさん?」
シャウラが聞くと、ドルマゲスは愉快そうに笑った。
「可愛らしいお嬢さんに名を呼んで頂けるとは。このドルマゲス、光栄に思います」
そしてニヤリと不気味な笑みを浮かべると、ドルマゲスは手にした杖を持ち上げ、倒れている老人——ライラスに向かって一気に降り下ろした。どうやら杖でライラスを刺すつもりらしい。
その意図に気が付いたシャウラは、呪文を唱える。
「風の精霊よ、真空の刃となりて、引き裂け! 『バギ』!」
シャウラの言葉と同時に空気が渦を巻き、竜巻が生まれた。風が吹き荒れ、窓枠が軋む音がする。
竜巻は激しさを増しながら、真っ直ぐドルマゲスに向かった。当たれば風の刃に切り裂かれ、少しは怪我を負うだろう、とシャウラは考えていたが、ドルマゲスは焦る様子を見せなかった。余裕な笑みを浮かべ、杖の先端を竜巻に向ける。すると先端の鳥の瞳が、赤く光り、竜巻は一瞬で消え去ってしまった。
「今の時期には心地よい微風ですねぇ」
ドルマゲスが余裕綽々に前髪をかきあげる。そこに、助走をつけたセシルが突っ込むが、ドルマゲスは身体をひねってあっさりとかわした。しかし、セシルはすれ違い様にドルマゲスの身体を引っ掻き、傷を負わせることができた。
ドルマゲスは小さなうめき声を上げ、肩を掴みながら数歩後退する。身体はふらつき、顔には脂汗が浮かんでいた。
セシルはライラスを守るように前に立ち塞がり、低い音を発する。シャウラも身構え、ドルマゲスの様子を窺い——我が目を疑った。ドルマゲスの傷が、凄まじい勢いで回復していた。赤い傷口はみるみる塞がり、肌は元の血の通わない色に戻っていった。まるで怪我などなかったかのようだが、破れた袖は確かにセシルが引き裂いた証である。
化け物か、とセシルが舌打ちし、ドルマゲスはニタリ、と口を歪めた。何を考えているか分からないその顔は、見ていて本当に不気味だ。背筋が震える。
だが、恐れていてはダメだとシャウラは自分を叱咤した。ドルマゲスは明らかに父を殺そうとしている。自分が守らなければ、父は間違いなく殺されてしまうだろう。
シャウラは、父を守りたい一心でドルマゲスと対峙していた。だが、ドルマゲスに勝てないであろうことも理解していた。
自分よりも遥かに優れた魔法使いである、ライラスが勝てないのだ。魔法使いとして未熟な自分が勝てる確率はほぼゼロに近い。ただ、父さえ生きてくれればいい。なら自分が囮になって、隙を見て父を逃がせばいいと、シャウラは考えを巡らせていた。
「メラ!」
敵わないと知りながらも、シャウラはドルマゲスに向かう。炎の呪文、<メラ>を立て続けに放ち、ドルマゲスの足元に火の玉を飛ばす。ドルマゲスが火の玉を避けようと数歩下がるのを見てから、シャウラはセシルに目をやる。すると、セシルはライラスの首根っこを口で加え、身体を持ち上げる。
しばし後退したドルマゲスは不意に鼻で笑うと、杖を押し出した。再度、杖の飾りが輝き、火の玉は一瞬で燃え尽きた。
「おお……何と心地よいのでしょう」
ドルマゲスは両腕を大きく広げ、うっとりとした表情を浮かべ、上を見上げる。どういう意図かは分かりかねるが、ドルマゲスが余裕なことだけはシャウラは分かった。
気にせず再度、メラを唱えようとした時、ドルマゲスが音を発した。いや、確かに何かを呟いたのだが、速すぎて言葉として認識できない。虫の羽音に似た音がただ耳に届く。
〜つづく〜
序章修正しました。ライラスの扱いも変わります。