二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.93 )
- 日時: 2013/08/25 23:41
- 名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: NPMu05CX)
シャウラは振動で目が覚めた。人の足音と共に部屋が小刻みに揺れたような気がした。初めは小さかった揺れもだんだんと大きくなり、ちょっとした地震のような揺れになってきた。そして、少し遅れてドタバタと何かがぶつかるような音。——どうやらヤンガスが、走り回っているらしい。
ヤンガスは巨体だ。
だからか、彼が走り回れば辺りは地震に似た縦揺れの振動が起こる。それに、ヤンガスは慌てるとやたら物にぶつかり大きな音を必ずと言っていい程たてる。
これは朝の宿屋には大迷惑らしく、毎回のように別の客からクレームが来るのだが今回も免れないらしい。
ドアの外でドタバタと走る音がしたかと思うと、ヤンガスが体当たりするかのように部屋へと飛び込んできた。かなり急いで来たのか呼吸は乱れており、額から流れた汗が頬を伝い床にボタボタと垂れている。
シャウラはベッドから足を下ろすと靴を吐き、立ち上がった。セシルは地面に伏せたまま、うっとおしそうな視線をヤンガスに送る。
「ヤンガス、朝から騒がしいぞ」
セシルが苛立ちまぎれに言うと、ヤンガスは一度深呼吸をして呼吸を整えた。そして、とても真剣な表情でこう告げた。
「シャウラ、セシル!兄貴が浚われたでがす!」
「え、まさか……」
短い驚きの声を上げるシャウラに、ヤンガスは首を振った。
「本当でがす! これを見るでがすよ」
ポケットに手を突っ込むと、ヤンガスは何かを取り出し、シャウラに差し出す。それは丸められ、紐で止められた羊皮紙だった。
シャウラは羊皮紙を受け取ると、紐をほどき、羊皮紙を広げる。何が書かれているのか気になるのだろう、セシルも立ち上がり、羊皮紙を除きこんだ。
その羊皮紙には達筆な字で大きく、
『バンダナの青年は頂いた』
とだけ書かれていた。
どうやらオデットの話は本当だったらしい。ヤンガスの慌てぶりも理解できる、とシャウラとセシルはようやくエルニアが浚われたことを現実だと知った。
しかし、シャウラはここで慌てない。確かにエルニアは心配であるが、彼は近衛兵をやるような男だ。そう簡単に殺されたりはしないだろうとエルニアを信じる。心配ばかりして、ヤンガスのように慌てていては何も出来ない。
「……これだけ? 普通、誘拐って言ったら目的があるはずだけれど」
シャウラは犯人の目的を見出だそうとしていた。誘拐と言えばやはり金か。しかし、このパーティーに金なんてないし、手紙に金のことが一文も書かれていないのがおかしい。
そう考えたことを呟くと、ヤンガスは悪魔を見るような目でシャウラとセシルを見て、ため息をついた。
「ああ、シャウラは兄貴が浚われたってのに何で冷静なんでげすか!?あっしは外で兄貴を探すから、急いで支度するでがす!」
と言いたいことを好き放題言って、部屋から出ていってしまった。
その背中を見送ったセシルが呆れたように息を吐く。
「当てもなしに探すとは、無謀もいいところだな」
外は皆に任せればいい、そう判断したシャウラは自分なりに調べることにした。
シャウラはセシルを連れ、すぐ隣の部屋——昨日ヤンガスとエルニアが泊まっていた部屋に足を踏み入れた。
部屋は二つのベッド、服を入れるクローゼット、化粧台がある宿屋としては比較的ましな部類に入る部屋だった。
今止まる街はトラペッタのように栄えているためか、個室と言うよい造りをしているのだ。
いざ部屋に入ったはいいが、変わったところは何も見当たらない。浚われたにしては部屋は荒れていないし、物が盗られたような痕跡もない。要はこの部屋にエルニア誘拐事件に関わるものは何もなかった。
宿屋の主人に、怪しい人間を見たか話を聞いた方がいいんじゃないか、とセシルが提案し、シャウラは部屋を去ろうとした。
その時、ゴトンと鈍い音がし、シャウラとセシルは振り向いた。
見ると先程まで化粧台の上にあった小瓶が床に落ち、中の水が地面にぶちまけられていた。
化粧台に目をやると、小瓶の代わりにトーポが何故か座っている。
「おい、じじい!何をやっているのだ!」
セシルが怒鳴り、トーポは恐がるように身体を丸めた。そして猫がネズミを襲うように、セシルはトーポに襲いかかった。化粧台まで駆け寄ると器用に前足を伸ばし、逃げようとしたトーポを押さえつける。
ぢぢ……と苦しそうな声を漏らし、トーポは逃げようと身をよじる。しかしいくら炎や氷の息を吐けるネズミでも所詮はネズミ。キラーパンサーの力には叶わないらしく、もがけばもがくほど身体が潰されていた。セシルは怒りのあまり、しばしトーポを押さえ付けていたが、不意に顔をあげた。
「なんだ、この鏡?」
セシルに言われて、シャウラは魔力の存在に気が付いた。化粧台から、魔力の気配がする。
「魔力の気配が……」
そう言いながらシャウラは鏡に駆け寄る。そして鏡に向かって手を伸ばした。普通なら手は鏡にぶつかり、それ以上先には進めないだろう。しかし、シャウラの指が表面に触れた途端、指は鏡の中に入ってしまった。泥に指を突っ込んだような感触を覚え、シャウラは反射的に手を引っ込めた。
「この鏡、別の空間に繋がっているわ!」
以前、人家の鏡がトロルと言う魔物の住処に繋がったことがある。あの時は鏡を通り抜けて別の空間に行くことができた。なら、今回も別の空間に行く可能性が高いだろう。
「よし、ならヤンガスたちを呼んで……」
その瞬間鏡が輝き、二人を飲み込んでいった。
〜つづく〜