二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 悪夢の断章 −おとぎの鎮魂歌− プロローグ的な何か ( No.669 )
- 日時: 2015/02/10 14:43
- 名前: 葉月@別のPCなう (ID: jAQSBAPK)
- 参照: 重い空気のままじゃ嫌なので話を書くぜおい!
クリック? クラック!
さぁ、今回はこのお話をいたしましょう。
最初の話は『灰かぶり』。
昔、ひとりのお金持ちの男がいました。男は妻と一人娘と幸せに暮らしていましたが、やがて妻は病気になり、死の床に就きました。
最期の時、母は娘を呼んで言いました。
「かわいい子、私はおまえを置いて逝かなければなりません。
でも天国に行ったら、おまえのことを上から見ていますよ。私のお墓の上に小さな木を植えなさい。そして、なにか欲しいものがあったら、その木を揺すりなさい。それにおまえに困ったことがあったら、助けを送りますからね。だから、いい子にしていらっしゃい」
そう話すと、母は目を閉じ、死んでしまいました。子どもは泣いて、小さなハシバミの木を1本、お墓の上に植えました。その木に水をやるのに水を運ぶ必要はありませんでした。なぜなら、子どもの涙で十分でしたから。
雪がお母さんのお墓に白いハンカチをかぶせ、太陽が再びそれをはがし、お墓に植えた木が二度目に緑になったとき、男は別の女を妻にしました。この継母には、最初の夫との間に娘がふたりありました。ふたりは顔は美しかったのですが、心は高慢でうぬぼれが強く意地悪でした。
結婚式がとり行われ、この三人が家にやってくると、子どもにとってつらい時が始まりました。
「ろくでもない役立たずが、居間で何をしているんだい」と、継母は言いました。
「とっとと台所へ行きな。パンが食べたきゃ、まずその分働くんだね。わたしたちの女中になればいいんだ」
それから継姉さんたちは娘の洋服を取り上げ、古い灰色の上着を着せました。
「おまえにはこれがお似合いさ」と言って、ふたりの継姉さんたちはその子をあざ笑い、台所へ連れて行きました。そこでかわいそうな子どもは骨の折れる仕事をしなければなりませんでした。日の出前に起き、水を運び、火を起こし、食事の支度をし、洗濯をしなければなりません。その上継姉さん達は、ありとあらゆる心痛を与えたり、あざけったり、灰の中にえんどう豆やレンズ豆をあけたりしたので、子どもは1日中座り込んで、豆を選り分けなければなりませんでしたし、疲れても、夜、ベッドに入ることはできず、暖炉の脇の灰の中に寝なければなりませんでした。そして、そうやっていつも灰とほこりの中をはいずりまわり、薄汚く見えたので、灰かぶりアッシェンプッテルと呼ばれるようになりました。
ある時、王様が舞踏会を催し、舞踏会はきらびやかに3日間続くことになりました。この舞踏会では王子のお妃を選ぶのです。舞踏会には、ふたりの高慢な姉さん達も招かれました。
「灰かぶり!」
姉さん達は呼びつけました。
「上がっといで。わたしたちの髪をとかして、靴にブラシをかけるのよ。そして、しっかりと靴紐をお結び。あたしたち、舞踏会の王子様のところへ行くのよ」
灰かぶりは一生懸命に、できるだけきれいに姉さんたちをおめかしさせました。けれども継姉さんたちは、灰かぶりを叱りつけてばかりで、支度がすむと、あざけるように聞きました。
「灰かぶり、おまえも一緒に舞踏会に行きたいわよね?」
「ええ、それはもう。でも、どうやって行けばいいのかしら。わたしにはドレスがないのですもの」
「ドレスがなくて良かったのよ」上のお姉さんが言いました。
「お前が舞踏会に行ったら、あたしたち、恥をかくところさ。おまえが私たちの妹だなんて、ほかの人たちに聞かれでもしたらね。
おまえは台所にいればいいんだ。ここに鉢いっぱいのレンズ豆があるから、あたしたちが帰ってくるまでに、これを選り分けておくのよ。悪いのが混ざらないように、よく気をつけてね。さもないと痛い目にあうからね」
そう言うと、姉さん達は出かけてしまいました。灰かぶりは、立ってふたりを見送りました。そして、何も見えなくなると悲しい気持ちで台所に行き、かまどの上にレンズ豆をあけました。豆は大きな山になりました。「ああ」と、灰かぶりはため息をつきました。
「これでは真夜中まで選り分けていなければならないわ。眠ることもできやしない。まだまだ苛められるのかしら。このことをお母さんがご存知だったら!」
灰かぶりがかまどの前の灰の中にひざまずき、豆を選り分けようとした時、白い鳩が2羽、窓から飛び込んできて、かまどの上の豆の横に降り立ちました。
「灰かぶり、レンズ豆を選り分けるのを手伝おうか?」
灰かぶりがうなずくと、鳩は声をそろえて歌い始めました。
悪いお豆はおなかの中へ
良いお豆はお鍋の中へ
そうして、こつ、こつ! とついばみ、悪い豆は食べてしまい、良い豆だけ残しました。15分後にはレンズ豆はすっかりきれいに選り分けられ、ひとつだって悪いのは混じっていなかったのです。灰かぶりはその豆を鍋に入れることができました。更に、鳩達は言いました。
「灰かぶり、姉さんたちが王子様と踊るところが見たいなら、鳩小屋の上にお上がりよ」
灰かぶりは鳩達の後についていき、はしごの最後の段まで登りました。するとお城の大広間が見え、姉さんたちが王子と踊っているのが見えました。何千ものろうそくがきらきら光り輝いています。灰かぶりはじっくり眺めると、鳩小屋から降りました。気持ちが沈んで、灰の中に横になって眠ってしまいました。
次の朝、ふたりの姉さんたちは台所に入ってくると、灰かぶりがレンズ豆をすっかりきれいに選り分けてあるのを見て、腹を立てました。姉さんたちは、灰かぶりを叱り飛ばしたかったのです。しかし、そう出来ないので、舞踏会の話を始めました。
「灰かぶり、とても楽しかったわよ。踊りの時、王子様は あたし達をリードなさったのよ。あたし達のどちらかがお妃になるのよ」
「そうね」灰かぶりが言いました。
「わたし、ろうそくが輝いているのを見たわ。さぞかし華やかだったことでしょうね」
「なんですって! おまえ、どうやって見たの」
「わたし、鳩小屋の上に立っていたのよ」
これを聞くと、上の姉さんはすぐに鳩小屋を取り壊させました。
そして灰かぶりはまた姉さんたちの髪をとかし、おめかしさせなければならなくなりました。すると、まだ少しだけ心の中で同情していた下の姉さんが言いました。
「灰かぶり、あんた、暗くなったらお城に来て、窓から見ればいいんだわ!」
「およしったら」上の姉さんが言いました。「そんなことさせたら、灰かぶりが怠け者になるばっかりさ。ここに袋いっぱいのそら豆がある。灰かぶり、これを良い豆と悪い豆に選り分けるんだよ。怠けるんじゃないよ。明日になってもきれいに選り分けていなかったら、この豆を灰の中にぶちまけてやるからね。全部選り分けるまでは、何も食べさせてやらないよ」
灰かぶりはしょんぼりとかまどの上に座り、そら豆を開けました。そこへ、またあの鳩たちが飛び込んできて、親しげに言いました。「灰かぶり、そら豆を選り分けてあげようか」
悪いお豆はおなかの中へ
良いお豆はお鍋の中へ
こつ、こつ! こつ、こつ! まるで、手が十二もあるような速さです。全部片付けてしまうと、鳩達は言いました。
「灰かぶり、あなたも舞踏会に行って踊りたい?」
「まあ、なにを言うの。こんな汚い服で、舞踏会なんて行けないわ」
「お母さんのお墓の木のところへ行って、木を揺すって、素敵なドレスをお願いしてごらん。でも真夜中までには戻ってくるんだよ」
そこで灰かぶりは表へ出て、小さな木を揺すりながら言いました。
ハシバミさん
ゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって
金銀を落として
灰かぶりがそう言い終えたか終えないうちに、きらびやかな銀のドレスが灰かぶりの前にありました。それに、真珠、銀の飾り縫いのついた絹の靴下、銀の靴、そのほかに必要なものがなにもかもありました。
灰かぶりは、それをみんな家に持って帰りました。そして体を洗い、ドレスを着ると、露に洗われたバラのように美しくなりました。
灰かぶりが玄関の前に出てみると、羽飾りをつけた黒馬六頭立ての馬車があり、青と銀の服を着た召使いもいて、灰かぶりを抱き上げ、馬車に乗せました。そして駆け足で王様とお城へと向いました。
王子は、馬車が門の前に止まるのを見て、知らない姫がやって来た、と思いました。そこで自ら階段を降りて、灰かぶりを馬車から降ろし、大広間へと連れて行きました。そして何千ものろうそくの明かりに照らされると、灰かぶりは誰もが驚くほど美しくなりました。
継姉さんたちもそこにいて、自分達よりも美しい者がいることに腹を立てました。けれどもそれが、家で灰にまみれている灰かぶりだとは決して思いませんでした。
王子は灰かぶりと踊り、お姫様にふさわしくもてなして、心の中で思いました。
——花嫁を選ぶなら、この人以外に考えられない。
長い長い間、灰と悲しみの中にいた灰かぶりは、今や華やかさと喜びの中にいました。けれども真夜中になると、時計が12時を打つ前に、灰かぶりは立ち上がり、お辞儀をして、どんなに王子が頼んでも、もうこれ以上はいられない、と言いました。
そこで王子は、灰かぶりを下まで送りました。下では馬車が待っていて、やってきた時と同じように華やかに走り去りました。
灰かぶりは家に着くと、再びお母さんのお墓の木のところに行きました。
ハシバミさん、
ゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって!
ドレスをもとに戻しておくれ!
すると木は、再びドレスを取り上げました。灰かぶりは、もとの灰の服を着ました。そして家に戻ると、顔をほこりだらけにして、灰の中に横になりました。
切ります。
- 悪夢の断章 −おとぎの鎮魂歌− プロローグ的な何か 2 ( No.670 )
- 日時: 2015/02/10 14:46
- 名前: 葉月@別のPCなう (ID: jAQSBAPK)
- 参照: 重い空気のままじゃ嫌なので話を書くぜおい!
次の朝、姉さんたちがやってきましたが、機嫌が悪い様子で口もききませんでした。灰かぶりが言いました。
「姉さんたち、昨夜は楽しかったのでしょうね」
「とんでもない。お姫様がひとりやって来て、王子様はそのお姫様とばかり踊っていたのよ。でも誰もそのお姫様を知らなくて、どこから来たのか、誰にも分からないの」
「その方ってひょっとしたら、黒馬6頭立ての立派な馬車に乗ってた方?」
「お前、どうしてそれを知っているの?」
「戸口に立っていたら、その方が通り過ぎていくのが見えたのよ」
「これからは、仕事から離れるんじゃないよ」上の姉さんが怖い顔で灰かぶりを見ました。
「どうして戸口なんかに突っ立ってなきゃならないのさ」
灰かぶりは、三日目もふたりの姉さんたちにおめかしをさせなければなりませんでした。そしてご褒美に、姉さんたちはえんどう豆を一鉢、灰かぶりにくれました。それをきれいに選り分けろ、と言うのです。「ずうずうしく仕事から離れるんじゃないよ」と、上の姉さんはうしろからどなりさえしました。鳩達さえ来てくれたら、と灰かぶりは思いました。そして心臓が少しどきどきしました。すると鳩達が前の晩のようにやってきて、言いました。
「灰かぶり、えんどう豆を選り分けてあげようか?」
悪いお豆はおなかの中へ
良いお豆はお鍋の中へ
鳩達はまた、悪いお豆をついばんでよけ、片付けてしまいました。鳩達は言いました。
「灰かぶり、小さな木を揺すってごらん。もっときれいなドレスを落としてくれるよ。舞踏会にお行き。でも真夜中までには帰るように気をつけるんだよ」
灰かぶりは小さな木のところへ行きました。
ハシバミさん
ゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって
金銀を落として
すると、この前よりずっと華やかで、ずっときらびやかなドレスが落ちてきました。なにもかも金と宝石でできていました。金の飾り縫いのある靴下と金の靴もありました。灰かぶりがそのドレスを着ると、真昼の太陽のようにきらきら輝きました。
玄関の前には6頭の白馬を引く馬車が止まっていました。馬達は丈の高い白い羽飾りを頭につけており、召使い達は赤と金の服を着ていました。
灰かぶりがお城に着くと、王子がもう階段で待っていて、灰かぶりを大広間に連れて行きました。
昨日、人々はこの姫の美しさに驚きましたが、今日はもっと驚きました。姉さんたちは大広間の隅に立って、嫉妬のあまり青ざめていました。もし姉さんたちが、その姫が家で灰まみれになっている灰かぶりだと知っていたなら、妬ましさのあまり死んでいたでしょう。
王子は、この見知らぬ姫が誰なのか、どこから来てどこへ帰るのか知りたかったので、家来達を通りに立たせて、よく見張っているように命じていました。そして灰かぶりがあまり速く走り去ることができないように、階段にベタベタするチャン(木材を燃やす時に発生するガスが液化した油カスのようなもので、かまどや煙突の内側にくっついている。粘性があり黒い。あるいは接着剤として用いる蜜蝋のこと)を塗らせました。
灰かぶりは王子と踊りに踊って、楽しさのあまり真夜中までに帰らなければならいことを忘れていました。
突然、踊りの真っ最中に灰かぶりは鐘の音に気付きました。そして鳩達の忠告を思い出し、驚いて急いで扉から出て、飛ぶように階段を駆け下りました。ところが、階段にはチャンが塗ってあったため、金の靴の片方がくっついて脱げてしまいました。けれども、灰かぶりはその靴を拾おうとは思いませんでした。
灰かぶりが階段の最後の段まで来た時、鐘が12回鳴り終えました。すると馬車も馬も消え、灰かぶりは自分の灰まみれの服を着て、暗い通りに立っていました。
王子は灰かぶりの後を急いで追いました。階段のところで金の靴を見つけ、はがして拾い上げました。けれども王子が下まで来ると、なにもかも消えてなくなっていました。見張りに立っていた家来達も、何も見なかった、と報告しました。
灰かぶりは、それ以上ひどいことにならずにすんで良かった、と思いました。
そして家に帰ると、自分のほの暗い小さな石油ランプに火をつけ、煙突の中に吊るし、灰の中の横になりました。
まもなく、ふたりの姉さんたちも帰ってきて、「灰かぶり、起きて明かりを持ってきてちょうだい」と、大きな声で言いました。灰かぶりはあくびをし、まるで起きたばかりのようなふりをしました。
けれども明かりを持っていくと、姉さんのひとりが話しているのが聞こえました。
「あのいまいましいお姫様は、誰だか分かったもんじゃないわ。くたばっちまえばいいのに。王子様は、あのお姫様としか踊らなかった。そしてお姫様がいなくなると、王子はもうその場にいる気がなくなって、舞踏会もおしまいになってしまった」
「まるで、ろうそくがみんな、一度に吹き消されたようだったわね」と、もうひとりの姉さんが言いました。
灰かぶりは、その見知らぬ姫が誰なのか知っていましたが、一言も言いませんでした。
切ります。
- 悪夢の断章 −おとぎの鎮魂歌− プロローグ的な何か3 ( No.671 )
- 日時: 2015/02/10 14:52
- 名前: 葉月@別のPCなう (ID: jAQSBAPK)
- 参照: 重い空気のままじゃ嫌なので話を書くぜおい!
あれこれやったけどうまくいかなかった、けれどこの靴が花嫁探しの手助けをしてくれるだろう、と王子は考えました。そして、この金の靴の合う者を妻にする、というおふれを出しました。
けれども、誰が履いてもその靴はあまりに小さすぎました。
とうとうふたりの姉さんたちにも靴をためす順番がやってきました。ふたりは喜びました。なぜならふたりは小さな美しい足をしていたので、きっとうまくいく、と思っていたのです。
「お聞き」お母さんがこっそり言いました。「ここにナイフがあるから、もし靴がどうしてもきつかったら、足を少し切り落とすんだよ。少しは痛いだろうけど、そんなこと構うもんか。じきに良くなるさ。そうすれば、お前達どちらかが女王様になるんだし、女王様になったら足で歩くこともないからね!」
そこで上の姉さんが自分の部屋へ行き、ためしに靴を履いてみました。爪先は入るのですが、かかとが大きすぎました。そこで姉さんはナイフを取り、かかとを少し切り落とし、そうして無理やり足を靴の中に押し込みました。そうやって上の姉さんは王子の前に出ました。
姉さんの足が靴に納まっているのを見ると、王子は、この人が私の花嫁だと言って、馬車へ連れて行き、一緒にお城へ向いました。ところが馬車がお城の門のところに来ると、門の上に鳩達が止まっていて、言いました。
ククルッ、ククルッ、ちょっと後ろを見てごらん
靴の中は血だらけだ
靴が小さすぎるもの
本当の花嫁はまだ家の中!
王子はかがんで、靴を見ました。すると、血が噴き出していました。
王子は騙されたことに気付き、偽の花嫁を家に帰しました。けれども、お母さんは二番目の娘に言いました。
「おまえが靴をためしてごらん。もし小さすぎるようだったら、爪先の方を切った方がいいね」
そこで二番目の娘は靴を持って自分の部屋へ行きました。足が大きすぎると、娘は歯を食いしばって爪先を大きく切り取り、大急ぎで足を靴に押し込みました。そうやって娘が進み出ると、王子は、この人が自分の本当の花嫁だと思い、一緒に馬車で城に向いました。
ところが門のところに来ると、鳩達がまた言いました。
ククルッ、ククルッ、ちょっと後ろを見てごらん
靴の中は血だらけだ
靴が小さすぎるもの
本当の花嫁はまだ家の中!
王子は下を見ました。すると、花嫁の白い靴下が赤く染まって、血が上の方まで上がってきていました。そこで王子は、二番目の娘もお母さんのところへ連れて行き、言いました。
「この人も本当の花嫁ではありません。でも、この家にもうひとり娘さんはいませんか」
「いいえ」
お母さんは首を横に振りました。
「汚らしい灰かぶりが いるにはいますが、いつも灰の中にいる子で、靴が合うわけありません」
お母さんは灰かぶりを呼んでこようともしませんでしたが、どうしてもと王子が言い張るので、ついに灰かぶりが呼ばれました。灰かぶりは、王子が来ていると聞くと、大急ぎで顔と手をきれいに洗いました。
灰かぶりが居間に入り、お辞儀をすると、王子は灰かぶりに金の靴を渡して、
「さあ、ためしてごらん。もしこの靴が合えば、君は私の妻になるのだ」と言いました。
そこで、灰かぶりは左足の重い靴を脱ぎ、金の靴の上に左足をのせ、ほんの少し押し込みました。すると、靴は灰かぶりの足にぴったりと合いました。
そして灰かぶりが体を起こすと、王子は灰かぶりの顔を見つめ、あの美しい姫であることに気が付いて言いました。
「これが本当の花嫁です」
継母とふたりの高慢な姉さんたちはびっくりして青ざめました。王子は灰かぶりを連れて行き、馬車に乗せました。そして、馬車が門を通るとき、鳩達は言いました。
ククルッ、ククルッ、ちょっと後ろを見てごらん
靴に血はたまってない
靴はぴったり合っている
今度は本当の花嫁だ!
参考文献
『ベスト・セレクション 初版グリム童話集』 吉原高志・吉原素子編訳 白水社
- 悪夢の断章 −おとぎの鎮魂歌− プロローグ的な何か4 ( No.672 )
- 日時: 2015/02/10 14:53
- 名前: 葉月@別のPCなう (ID: jAQSBAPK)
- 参照: 重い空気のままじゃ嫌なので話を書くぜおい!
僕たち人間とこの世界は、〈神の悪夢〉によって常に脅かされている。
神は実在する。全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに、神は確かに存在している。
この概念上『神』と呼ばれるものに最も近い絶対存在は、僕ら人間の意識の遥か奥底で有史以来ずっと眠り続けている。眠っているから僕たち人間には全くの無関心で、それゆえ無慈悲で公平だ。
あるとき、神は悪夢を見た。
神は全知なので、この世に存在するありとあらゆる恐怖を一度に夢に見てしまった。
そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の小さな意識では見ることすらできないほどの巨大な悪夢を、切り離して捨ててしまった。捨てられた悪夢は集合無意識の海の底から泡となって、いくつもの小さな泡に分かれながら、上へ上へと浮かび上がっていった。
上へ————僕たちの、意識へ向かって。
僕らの意識へと浮かび上がった〈悪夢の泡〉は、その『全知』と称される普遍性ゆえに僕らの意識に溶け出して、個人の抱える固有の恐怖と混じりあう。
そしてその〈悪夢の泡〉が僕らの意識よりも大きかった時、悪夢は器をあふれて現実へと漏れ出すのだ。
かくして神の悪夢と混じりあった僕らの悪夢は、現実のモノとなる。
————————甲田学人「断章のグリム」シリーズより引用