二次創作小説(映像)※倉庫ログ

ドラゴンクエスト8 時の軌跡 05 ( No.19 )
日時: 2013/08/27 21:06
名前: フレア (ID: w4lZuq26)

「……消えてくれ」

そう呟いたのは、野次馬のうちの一人だった。道化師が消えてからしばらく経って、ようやく皆が我に帰ったときに。

「……あんたがいると、またあの道化師がこの町にやってくるだろう」
「……言われなくても」

少女は微塵も顔色を変えずに、町の出入り口へと歩き出す。

「あ……」

ありがとうすら言えなかった……ミストは後悔した。そして、町人への憤りも感じた。
遠くで、数人の男が倒れているマスター・ライラスを揺さぶっていた。マスター・ライラスはぴくりとも人形のように動かない。
魔法使いとしてかなりの力を持ったマスター・ライラス。彼がどう殺されたのかは知らないが、道化師はかなりの力を持っていそうだ。
ミストを道化師が殺そうとしたとき、少女は助けてくれた。もしかしたら、道化師は町の人々を殺戮するためにこの町へと来たのかもしれない。なぜマスター・ライラスを襲ったのか。それは一番最初に目についたから、なのかもしれない。いずれにせよ、彼女がいなければ、今、皆生きていなかったかもしれない。責められるいわれはないはずだ。

「おい、ミスト」
「は、はい?」

思考を意想の彼方へやっていたミストは、突然かけられた声の主の方を向く。
町人が、神妙な顔をして口を開いた。

「お前も、この町から出て行ってくれ」
「……え」

ミストは、耳を疑った。

「お前も、何でか知らないがあの変なやつに狙われてんだろ」
「……何で……」
「消えてくれ!この町から!」
「お前がいると、俺たちまで危険なんだよ!」
「あんなやつに会うのは、二度とごめんだ!ライラスも死んじまったし……」

その言葉は、ミストを深く傷つけた。
ーートラペッタ。彼女はこの町に裏切られたのだ。みんな、酒場で愚痴をこぼして、笑いあっていた。みんな、陽気で明るく、きらきらと輝いていた。なのにーー

「早く出ていけ!ミスト!」

今の人々の目は、血走り、狂気すら感じ取れる。
ーーあの優しかった人たちは、変わってしまった。あの道化師は奪って行ってしまった。ずっと、彼女が生きてきた、居場所を。

「……さい」
「……あ?」
「……うるさい!言われなくても出ていくわよ!!」

小さな肩をいっぱいに怒らせて、ミストは叫んだ。広間が、水を打ったように静まる。
悲しさと怒りで、涙が零れ落ちた。

「だいたい、昔から気に食わなかったのよ!この町は!絡んでくる酔いどれどもの相手をするのも、昔から反吐が出るくらい嫌だった!むしろ、いい機会だわ!こんな最低な町とおさらばするのも!!」

固めた拳は、爪が食い込んでいた。皮膚に突き刺さっていたが、痛みは感じなかった。それ以上に、心の傷が深かったから。