二次創作小説(映像)※倉庫ログ

ドラゴンクエスト8 時の軌跡 08 ( No.29 )
日時: 2013/09/02 19:52
名前: フレア (ID: bxqtOE.R)

「んっ……」

冷たい夜風に頬を撫でられ、ミストは目を開いた。
春とはいえ、まだ夜は寒い。ミストは、自分に毛布代わりにかけられた黄色いコートを肩まで引っ張り上げ、再び眠りにつこうとしたところで我に返る。

(……私は……)

寝起きでうまく頭が働かない。自分がなぜ眠っていたのか思い出せない。
ミストは地面に手をついた。草の感触からして、草原か森に眠っていたみたいだ。
やがて、暗闇に目が慣れてきて周りがわずかに見えてきた。
火を焚いていたと思われる小枝からは、とっくに火が消沈していて煙すら上がっていない。その周りには、顔は見えないが体格からして男が二人、雑魚寝していた。起きる気配はない。
ミストは、この二人のうちどちらかがかけてくれたと思われるコートを置き、立ち上がって歩き始めた。

(とりあえず、ゆっくり思い出すか……)

闇に閉ざされたこの場所に響くのは、梟の鳴き声と川のせせらぎのみ。
今日は月が満ちていた。夜空に散りばめられた星々は、淡く瞬いている。

(……寒い)

彼女の服装は、半袖のワンピースにエプロン、そして素足にハイヒールを履いているのみ。
冷たい夜気を孕んだ風は、ミストが歩いている道を吹き抜けた。彼女は小刻みに震える身体を抑えた。

「……私、何してるんだろ」

あの二人が寝ている場所にいればよかったのかもしれない。だが、なぜかいてはいけないような気がしてならなかった。同時に、胸が締め付けられるような、そんな感じがした。
ミストは川の畔に座り込んだ。水面に映る満月は、直接月を見るより輝きが増していた。
身体を乗り出すと、水面にミストの顔が映り込む。そこには、まだあどけなさが残る、少女の姿が映し出されていた。その薄い青の瞳は、憂いを帯びている。

「……思い出した」

ミストは膝を抱え込んだ。

「なんで思い出しちゃうんだろ。そのままずっと忘れていればよかったのに……」

全部変わってしまった。道化師が町を訪れたことで。わけの分からない理由で襲われて。あの町の人々の笑顔は、もう見ることはできない。今行ったとしても、自分に向けられるのは憎悪と恐れ、侮蔑の視線を向けられるだけだ。
ミストが膝に顔をうずめた途端。

「君、こんな夜遅くに一人で散歩なんて危ないよ?」
「っ!?」

突然背後から声をかけられた。
反射的に振り返ると、酒場に訪ねてきて、そして道化師を前に倒れたあの少年だった。
どうやら、ミストにかけられていたコートは彼のものだったらしい。少年もやはり寒かったらしく、今は着ていた。

「ほら、寝た方がいいよ?」
「……」

優しげに笑う少年。端正な顔立ちだが、どこか子供らしさが滲んでいた。あの道化師を前に殺気立っていたあの姿は、まるで別人のようだ。

「あ、そうそう、昨日みんなで話し合ったんだけどさ、君も僕らと一緒にこないか?」
「……はあ?」

ミストは、一瞬少年が何を言ったのかがわからなかった。

「どういうつもり?」

片眉を上げ、ミストは立ち上がる。少年に真意を尋ねる。

「いや、その、ミストちゃんは」
「ミストでいい」
「そう?」

少年は軽く息を吸うと、笑みを表情から消した。

「じゃあミストは、あの道化師みたいなやつ……ドルマゲスっていうんだけどさ、君はなぜだか知らないけど命を狙われてるんだろう?」
「……」

ミストは、無言で首を縦に振った。
……あの道化師、ドルマゲスっていうんだ。ドルマゲス、その名を心の中で繰り返していると、腸が煮えくり返るような思いになる。

「僕らはドルマゲスを追って旅してるんだ」
「……だったら、なんで私を誘うの。自分から危険に飛び込むなんて馬鹿らしいわ……」
「でも、一人でいるよりはいいと思うな」
「……」

少年の言葉に、ミストは押し黙った。
さらに少年が畳み掛ける。

「それに、この頃魔物も凶暴化してるし、女の子の一人旅は危険だと思う。僕ら、ドルマゲスには手も足も出なかったけど、その辺の魔物は倒せるから」

そう言うと、少年は屈託ない微笑みを浮かべた。その笑みは、飾ったものではなかった。

「……」
「ちょ、ちょっとミスト!?」

自分でも知らぬ間に泣いていたらしい。ミストは顔を両手で覆った。
少年が慌てふためく。

「ご、ごめん!なんか変なこと言っちゃったんなら謝るよ!」
「……」

しばらく経ち、不意にミストが顔を上げた。

「……名前は?」
「え?」
「あんたの名前よ!」
「え、エイト」

ミストは乱暴に手の甲で涙を拭くと、きっとエイトを見た。

「……あんたたちについていくわ」
「そうかい」
「……あんたたちは、死ぬの止めてくれたし……」
「へ?」

彼女が自らの命を絶とうとしたのは、あまりにも傷つき、我を忘れていたのもある。今は、少しは落ち着いた。とは言っても、未だに泣きそうになるが……。

「……うん、じゃあ、ミスト。よろしく」
「……」

だが、差し出された手をミストは払いのけた。

「勘違いしないで。私はあんたを信用したわけじゃない」
「……」

エイトは某然とミストを見つめた。
空に浮かぶ星々は、物言わずに輝いていた。