二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ドラゴンクエスト8 時の軌跡 11 ( No.38 )
- 日時: 2013/09/08 10:17
- 名前: フレア (ID: FX8aUA2f)
「ねえ、あのさ、ミスト」
「……何?」
ミストがエイトを見て、ぱちぱちと瞬きをする。同時に、ヤンガスもトロデも静かになり、その場に音といえば馬車の軋む音だけしかなくなった。
「あのさ……」
エイトはミストの瞳をじっと見つめる。……青藍で、どこまでも綺麗な瞳だ。透き通って、細かい色彩まで見えるほど純粋で、それでいて、まるで美しい花がすぐに散ってしまうように、脆く、儚そうだった。だが、そんな瞳には、虚ろな光が灯っていた。
意を決して、エイトは口を開く。
「辛いことがあるんだったら、僕らに言って欲しいんだ」
それは、エイトが言おうとしたこととは別に、自然と口からこぼれた言葉だった。一瞬、言った本人が戸惑ったが、訂正する気はない。
ミストが、藍玉のような瞳をはっと見開き、エイトを見やる。
「……多分、今でも辛いと思うんだ。あんなことがあったから……」
「……」
ミストは、黙ってエイトの話を聞いている。
「何もかも抱え込まないで、僕らに言って欲しいんだ。今はまだ、無理かもしれないけど……」
「お気遣い、感謝するわ」
ミストは、淡い笑みを口元に浮かべる。
しかしそれもつかの間、すぐに表情を引き締めた。
「でもその言葉、あんたにも当てはまるんじゃないの?」
「……?」
「まあ、私には関係ないけど」
ぶっきらぼうに言い放ち、ミストは髪を手櫛で梳き始める。
「そんなこと言って、あんた本人も苦しんでいたりして。……なんてね」
「……」
「兄貴?」
膠着状態のエイトの顔を、ヤンガスが覗き込む。
その表情は、痛みを堪えているかのようだった。固めた拳は、怒りからか小刻みに震えている。
「……ドルマゲス」
エイトは、その名を絞り出した。震える声で。
「……」
ミストは、視線を前に戻す。
近づいた滝の裏側に目を凝らしてみると、洞窟らしき入口が見えた。
今まで黙っていたトロデが口を開いた。
「あそこが、あの娘さんの言っていた洞窟か。儂と姫は残るからな。お主らで行ってきて、早い所水晶玉を見つけてきてくれ」
「おっさん、あっしらと一緒にいた方が安全だと思いやすが」
「ばかもん!王族である儂らが、汚い場所なんて入れるか!」
ヤンガスは、やれやれと溜息交じりに首を振った。そして、ミストに目を向ける。
「姐さんはどうしやすか?」
「行くわ」
即答するミスト。
「こんなところで……ドルマゲスに襲われたらひとたまりもないもん。まだ、エイトとヤンガスと一緒にいたほうがましなような気がする」
「儂だって強いぞ。何しろトロデーンの武道会で」
「わかりやした。多分魔物がうじゃうじゃいるんで、覚悟しておいてください」
無視されたトロデは「なんじゃい……近頃の若いもんは……」とふてくされた。
「ちょっと、魔物がいるって大丈夫なの?」
「一応、この辺の魔物は楽勝で倒せやすよ。兄貴なんてあっしより若いのに……兄貴?」
ヤンガスは、ずっと虚空を見つめたままのエイトに気がつく。
「兄貴、どうしやした?」
「あ、いや、何でもないよ」
声をかけられ、我に帰ったエイトは、早足で洞窟に歩き出す。
「さ、行こう。……あれ、ミストも来るの?」
「……本当に話を聞いてなかったのね」
ミストは、呆れ顔で呟いた。