二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ドラゴンクエスト8 時の軌跡 12 ( No.41 )
- 日時: 2013/09/08 16:58
- 名前: フレア (ID: T0oUPdRb)
洞窟に続く階段を降りると、肌にひんやりとした空気が肌に触れた。
階段があることや、通路のはしに篝火が焚かれているところを見ると、人の手が及んでいることは間違えなかった。
岩場を伝う水は、地面に落ちて川のような通路に波紋を広げる。
「……いやに冷たいし、寒いわね」
ミストは、自分の両腕をさする。
この洞窟は、通路に水が満ちている上に、足場がひどく悪い。しかも、寒い。こんな中を、どこにあるかわからない水晶玉を探すのは億劫だ。
「水晶玉、どこにあるか分かるの?」
「ユリマちゃんに教えてもらった。この洞窟の奥深くに捨てたって夢を見たらしいよ」
「……まさか、そんな夢をあてにしてるの?」
エイトは「そうだよ?」と不思議そうにミストを見た。
……バカなの?ミストは心の中で毒づく。そんな信憑性の薄い情報で、水晶玉を探すなんて……。
かつて見通せぬものなど無いと、その名を轟かせたルイネロ。しかし、今や占いは当たらなくなり、酒場で飲んだくれるただの中年男となってしまった。
その娘、ユリマは泥酔したルイネロを家に戻すために、毎日のように酒場でミストと顔を合わせていた。二人は年齢が近かったせいか、すぐに馬が合った。ミストは休暇をもらった日は、ユリマと過ごすことが多かった。
そんなある日、ユリマにこんなことを言われた。『私、変な夢を見たんだ』どんなものかと聞くと、ユリマは『綺麗な声にね、こう言われたの。’’七つの命と娘を捧げし時、邪悪なる神は復活する。その運命を破壊したいのであれば、そなたの望みを叶えよ’’ってね』と、夢の内容を話していた。その時ミストは一笑に付したが、今思うと、ユリマの表情はどこまでも真剣味を帯びていた。それから、彼女はこう言っていた。『’’導くは、再び呪われし城に、生をもたらさんとする者。水の守護者が在りし場に、そなたの望みはある’’』ユリマの望みとは、父ルイネロの飲んだくれている今の様をどうにかして欲しい、昔のように占いをやって、迷っている人たちの願いを叶えて欲しいということだった。ユリマは、こう言う。『今、占いに使っている水晶玉、ただのガラス玉みたいなの。よくよく中を見てみると、水晶にはないはずの傷があって……。それに、水晶って真実を映し出すものでしょう?占い師の法力がどんなに小さくたって、事実の断片ぐらいは水晶玉に映るはずだもの』
それを旅人に頼むユリマもユリマだ。いくら占い師の娘だといっても、夢で告げられたことを鵜呑みにするなど。
ーーまあ、見つからなかったら見つからなかったで、私には関係ないし……
その時、足元がぐらりと揺れた。ミストの足が変な方向に曲がり、激痛が襲う。同時に、ぱしゃんと音を立ててミストは水面に叩きつけられた。
ーー……こんな足場の悪い洞窟で、ハイヒールなんて履いてる私はバカね……。
全身が、稲妻が走ったような感覚だった。水かさはそれなりに多かったため、服から髪、下着など、何から何まで濡れてしまった。
「大丈夫!?」
「姐さん、お怪我はないでがすか?」
ーー大丈夫なわけないでしょ。
起き上がったミストから、雫が落ちた。
服が肌に張り付いて不快だ。ミストは、服の裾を絞った。清流を連想させる瑠璃色の髪からは、耐えることなく水が伝う。
「えっと、とりあえず寒いだろうから、コート貸すよ」
そう言ってエイトはコートを脱ぎ、差し出した。
「……ありがと」
受け取ったコートは、暖かく感じられた。まるで、町を追放された日の夜のように。