二次創作小説(映像)※倉庫ログ

ドラゴンクエスト8 時の軌跡 13 ( No.46 )
日時: 2013/09/11 15:47
名前: フレア (ID: wHWZSlRc)

「へくちっ!」

コートを被って、ミストがくしゃみをする。先ほどの件で彼女は懲りたのか、ハイヒールは脱ぎ、その手に持っていた。素足では足が傷つくが、それでもまた転ぶよりはましだ。足の裏に感じる岩の突起を踏みしめながら、彼女は思った。

「大丈夫?少し休んで行く?」
「……いや、大丈夫」

ミストはエイトの気遣いを断り、鼻をすする。
再び進行方向に視線を戻すと、岩の影に何かが蠢くのが見えた。何かが篝火の光を反射して光る。
ミストは弾かれるように叫んだ。

「二人とも!魔物っ!魔物がいる!!」
「ヤンガスっ!」
「承知でガス!」

エイトは鋭い剣を、ヤンガスは鋭利な斧を背から引き抜く。
それとほぼ同時に、岩場から影が飛び出してきた。
スコップを構えて斬りつけようと飛びかかる、いたずらもぐら。鋼の体を持つ鳥、メタッピー。タップを踏む不気味な肌をした。、びっくりサタン。一体どれだけの数がいるのだろう。

「あんたら無茶よ!逃げましょ!」

しかし、エイトは剣を凪りながら答えた。

「大丈夫。僕たち、戦いはそれなりに得意だから」

いたずらもぐらの頭と胴が分かれ、紅の血が吹き荒れた。返り血がエイトの頬にべっとりと付く。
そんな光景に、思わずミストは目を背けた。

「うおりゃーっ!」

ヤンガスは、気合一線斧をメタッピーに叩き落す。斧を引き抜くと、爆発して跡形もなくなってしまった。そして、また次の標的へと斧を振るう。
……無茶苦茶よ。魔物たちがたった二人の人間に蹂躙されている光景を、ミストは唖然と見つめる。
元々、魔物とは動物とも人間とも違う、生まれながらに各々の天性の力、というものがある。その力は、人間や動物の力が及ぶものではない。少なくとも、剣も魔法も持たぬ一般人では。そんな魔物たちが凶暴化した今、魔物を一瞬で消し炭にできる者など、魔術の天才、マスター・ライラスのみだとミストは思っていた。だが、この二人は魔物を秒殺している。
魔物が大したことのないように見えるが、それは違う。二人の、鮮やかな手捌きに、魔物たちもなす術が無いのだ。

「凄い……」

最後の一匹に、エイトが剣を深々と胸にさして息の根を止める。
魔物の叫びで満ちていたその場所は、今や魔物の屍と、流れる水に不快な紅い液体が流れるのみ。

「終わりやしたね」
「うん。ミスト、怪我はない?」
「あ……うん」

一瞬、エイトの問いにミストは戸惑ってしまった。戦いのときと、今のように話している顔が、なぜだか別人のように見えるのである。まるで、戦いのときは、殺しを楽しんでいるかのようなーーそんな感じが、ミストにはした。

「ん、あれ……」

もはや敵はいなくなったと思われたその場所で、ミストは、小さな三角形のような形をして、手に木槌を持っているピンク色の魔物に気がついた。その魔物は小さな足を必死に動かして、その場所から立ち去ろうとしていた。

「ねえ、君」
「っ!?」

エイトが声をかけると、ピンク色の魔物は恐る恐る振り返った。

「なっ!何だ人間!貴様、闘るきか!?」

震える手で、魔物は木槌を握りしめた。
つぶらで愛らしい瞳は、殺意はなかったが、代わりに恐怖で満ち満ちていた。

「違う違う。みたところ、君は他の魔物と違うみたいだし。さっきの魔物は、僕たちのことを問答無用で襲いかかってきた。だけど、攻撃しなかっただろ?」

……やっぱり、殺しを楽しんでるなんて勘違いね。ミストは、エイトを見て思った。同時に、あの喧騒の中でエイトが魔物の様子を把握していたと思うと、ただ者ではないのだろうと、ただ感嘆するしかなかった。

「嘘だ!お前ら人間の言うことなんて聞けるか!」

そう喚いている魔物に、ミストは近づく。
魔物は、怯えたように身を引いた。自分より何倍もの背丈の人間に恐怖の念を抱くのは、まともな魔物ならあたりまえであろう。魔物は、ミストの膝ほどの大きさしかなかった。

「……」
「あっ」

ミストが、ひょいと魔物の木槌を取り上げ、魔物が跳んでも届かない位置まで持ち上げる。

「あ、返せ!返してっ!」

ぴょんぴょんと跳ね、親指大ほどの大きさしかない腕を必死で伸ばす魔物に、ミストは思わず笑みをこぼした。
そして、わざとらしく、唇に人差し指を当てる。

「おねーさんの言うことを聞いてくれるんだったら、いいんだけどなー」
「聞く!何でも聞きますから!」
「本当!?」

そんな様子を見て、エイトとヤンガスは苦笑を浮かべた。

「姐さん……絶対、面白がってやす……」
「はは……」

ミストは予想以上に軽かった木槌を手で弄びながら、魔物に微笑みかける。
だが、その微笑みも、魔物には悪魔の嘲笑にしか見えなかった。

「じゃあ、一応聞いておくけど、あんた名前は?」
「人間などに教えるのは不愉快だが……」
「エイトー、これ、壊しちゃってー」
「オズだ!ほら、言ったろ!?早く返してくれ!」

自らをオズと名乗った魔物は、もう涙目になっている。
流石に気の毒になったが、ミストは「嫌」と拒否する。

「お、おい!言うことを聞いたろ!?」
「いやー、私があんたにやって欲しかったのはそういうことじゃなくて……」

木槌を持っていない方の手で、オズの頭を掴むミスト。
当然のごとく、オズは「やめろ!放せ!」とジタバタと暴れるが、ミストの手は緩まない。
ミストは、魔物って弱いのもいるんだ、と当たり前な感想を胸の中で呟くと、エイトとヤンガスに目を向ける。

「私たち、この洞窟のどこかにある水晶玉っていうのを探してるんだ。どこかで見なかった?」