二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ドラゴンクエスト8 時の軌跡 01 ( No.6 )
- 日時: 2013/08/25 06:28
- 名前: フレア (ID: Uj9lR0Ik)
やたらと天気が良い日だった。暖かい、というには少し暑く、太陽の光がじりじりと地を照りつける。雲一つ無い空を仰げば、鳥が舞っている。
ーー穏やかな日々。代わり映えしない毎日だ。
そんないつもと同じトラペッタの道を、ミストは歩いていた。
「お、おはようさん。今日は何を買いに来たんだい?」
トラペッタの市場にて。雑貨屋の主人が店前で立ち止まったミストに話しかける。
ミストは軽く会釈をしてから目的のものを言った。
「いつものをお願いします」
「え、いいのかい?珍しい西瓜って果実があるんだが……」
「へえ・・・お客様は喜びますかねえ……」
顎に手をやりしばし思案するミスト。
彼女のいう『お客様』というのが雑貨屋のものではなく、少女のものだと主人は瞬時に判断した。
「もちろん。噛むと甘い果汁が溢れ出てきてなーー」
その西瓜という果実を、両手で持ちながら熱弁する主人。外見だけでいえば、やたらと大きい上に、緑色で縞模様が入っている玉にしか見えなく、食欲が全く湧かない。
まあ、職業柄嘘をついてでも売らなければならないのだろう。彼だって生活がかかっているのだ。それに、赤字を出せば、妻が文字どうり鬼の形相で主人を殴りにかかるだろう。
最近めっきりこの町に来る人が減った。理由はただ一つ。魔物が凶暴化したからだ。一日前には行商人が町周辺で死体で発見された。聞いた話によると、死体は無残にも食い荒らされていたという。そんなご時世、外を出歩く者などほぼ誰もいない。つまり、魔物のせいでこの町にはほとんど誰も来なくなった。雑貨屋だけではなく、この町全ての店が閑古鳥が鳴いている状態、というわけだ。
客は一人でも多い方が良い。客は町の住民だけしかいない状態なら、なおさらだ。
「ーーってことで買わないか?今ならたったの80Gだ!」
ミストは心の中で溜息を吐いた。こんな得体のしれないものに80Gも。
そもそもどうやって食べるのか 。あの緑色の硬そうな皮を食べるのだろうか。
「今回は遠慮しときます……」
興味はあったが、 そう答えることにした。残念ながら彼女は無駄金を使うような余裕は無い。
「そうかい……」
主人は残念そうな顔をし、手早く麻の袋に色々詰め始めた。
「いやー、それにしても最近この町に来る人が減ったよねー」
「そうですね」
どうやら今度はただの世間話らしい。
ミストは財布の中身を探りつつ、相槌を打った。
「魔物は暴れるわ町の外には出れないわカミさんには殴られるわ、もう踏んだり蹴ったりだよ……」
「大変ですね。いくらですか?」
「125G」
貨幣を雑貨屋に渡し、品物を受け取るときに、ふと目をやると町の入口から、馬車が引き摺られてくる光景が見えた。
馬車を取り巻くように歩いているのは、赤いバンダナに黄色いコートという目立つ格好をしている少年と、背は少年の半分ほどしかないが、太り君の人相が悪い中年男だ。
その二人に共通する点は、武器を背に携えているということだ。
「珍しいですね。旅人なんて」
「お、おいミスト!!あれ……あれを見てみろ!!」
主人が震える手で指差した方向には、魔物がいた。
カエルの顔面を潰したような醜い顔と、緑色の肌を持った魔物が馬車の御車台に座っていた。その魔物は、町の人々に笑いかけるが、目が合った住民は短い悲鳴を上げて去って行く。
「魔物がどうかしましたか?」
「どうかしましたかって……魔物が町に入ってきたんだよ!?ほら、早く僕らも逃げないと!」
主人の顔は恐怖感で青ざめていた。
しかし、ミストは首を傾げた。
「逃げる必要なんてないんじゃないですか?」
「何で!?」
「あの魔物と一緒にいる人たちが押さえつけてくれますよ」
「根拠はどこにもないだろう!?あの二人も、魔物の手下っぽいし……!」
「まあ、暴れたら暴れたでライラスさんが何とかしてくれますよ」
マスター・ライラス。この町には最強と謳われる魔法使いがいる。彼なら、あんな魔物など、赤子の手を捻るより簡単に始末できる。
「それに、まだ何もやってませんよ」
「……」
ミストの正論に、主人は黙るほかなかった。
夕方になると、酒場は一気に客が訪れる。仕事を終えた男たちが、癒しの場を求めて。
「ミストちゃーん!!こっち酒三つー!」
「はーい!!」
ミストはトラペッタの酒場の看板娘である。端正な顔つきに、華奢な身体というのが、男からの人気の理由だとか。
だが、彼女は、バニーガールの服を着ない。バニーガールといえば、酒場の定番だが、昔に酒場のマスターがミストにバニーの服を着るように言ったら、顔面を殴られてしばらく鼻血が止まらなかったという。それ以来、マスターがバニーの服を着るように言うことはなかった。そのため、彼女は普通の町娘が着るようなワンピースにエプロンという、質素な格好をしている。
だが、その格好の方が少女らしい華やかさが際立ってまた良いという意見が多数寄せられている。
「ほら!ルイネロさん、起きてくださいよ!」
ミスト客が飲み終わったビールグラスを片手に、空いた方の手でカウンターに座っている男を揺さぶる。
ルイネロは、かつては高名な占い師だったというが、今は全く占いは当たらない。数年前から酒場に入り浸って愚痴をこぼしている。
「……がごぉぉぉぉ……」
「マスター、ルイネロさん完全に寝てます。どうしますか?」
酒のつまみを作っていたマスターは、顔も上げずに答えた。
「そのままでいいよ。それより、じゃんじゃんお客様のご注文の品、運んじゃって」
「はーい」
酒場の扉が開く。
新たに来た客に、従業員たちは「いらっしゃいませー」と常套句を口にする。
頭を軽く下げつつ入ってきたのは、昼間にあの魔物と一緒にいた少年と男だった。
「こんばんは。ここにマスター・ライラスというご老人はいらしますか?」
赤いバンダナの少年が、ミストに話しかける。
「あ、いえ……まだいらしておりません。いつもなら来ているのですがーー」
「大変だっ!!」
突然乱暴に酒場のドアが開かれた。
酒場にいる者たちの視線が、ドアを開けた青年に集中する。
「マスター・ライラスが変な奴に襲われてるんだ!!」
その言葉に一瞬酒場は水を打ったように静かになり、それから皆、青年を押しのけて外に走り出した。
あとに残されたのは、ミストとマスターとルイネロのみ。客も従業員も外に出て行ってしまった。
「マスター、私も行っていいですか……?」
期待を込めたその目は、マスターを見つめる。
マスターは深々と溜息を吐くと、「客全員から勘定貰ってないから、ついでに貰ってきて」と言った。
- ドラゴンクエスト8 時の軌跡 02 ( No.7 )
- 日時: 2013/08/25 06:31
- 名前: フレア (ID: Uj9lR0Ik)
酒場から出た途端、町全体に響き渡るような轟音が轟いた。
(何が起こっているの……!?)
今の魔法は、マスター・ライラスが最も得意とする爆発呪文の最上級、イオナズンだ。実際にミストはマスター・ライラスがイオナズンを使っているところなど見たことはなかったが、彼女は確信した。
(トラペッタは今、危険な状況なんだ……!!)
マスター・ライラスが最上級呪文を唱えることなどなかった。たとえ町に魔物が入り込んできたとしても、下級呪文で事足りる。だが、その彼がイオナズンを使うということはーー
(相手は誰なのよ……!)
マスター・ライラスと同等の、もしくはそれ以上の実力を持つ者が相手。
不意に、ミストの脳裏に昼間の魔物の姿が浮かんだ。強大な力を持つ魔物ほど、人間に近い姿をしている。あの妙に人間臭いあの魔物がマスター・ライラスの相手だということも、納得できる。
「お、おい!どうなってやがんだ!」
「ライラスがやられちまうなんて……!」
やがて人垣ができている、戦いの場所へと辿り着いた。
人を掻き分けてようやく見えた光景に、ミストは絶句した。
ーーマスター・ライラスが倒れ、武器を手にした少年と男が、マスター・ライラスを庇うように立っていた。ーーそして。
「おや……貴方の方からやってくるとは。手間が省けました」
直感的に、ミストは身の危険を感じた。
その者は中に浮き、ミストに近寄る。ミストの周りにいた野次馬たちが、たちまちに散る。
相対しているのは、道化師のような格好をしている男。その肌は血が通っていないのかと思うほど青く、魔物を連想させる。道化師が持っている先端が鳥の顔のようになっている杖は、鳥の目が紅く不気味に輝いていた。
「お久しぶりです。王よ。いや、姫様、とでも呼ぶべきか」
「え……?」
ミストには思い当たる節がなかった。だが、言い返すにも全身が恐怖で支配されて言葉が出せない。こうして目の前にいられるのも悪寒が走り、いっそ気絶した方がましとさえ思えてきた。
「……さて、取り敢えず貴方にも消えて貰います」
「おい、何を言っているんだ!!」
その言葉に反応したのは、ミストではなかった。
「その人は関係ないだろ!!」
少年だった。少年は、その瞳に殺意をにじませていた。剣を構えたまま、間合いを詰めて行く。
だが、その様子を見ても道化師は動じずに嘲笑った。
「関係あるんですよ……」
「何でだ!」
「貴方に教える義務はありません。……さあ、死んでもらいますよ……」
高々と、道化師は杖を掲げた。杖の上に、火が徐々に集う。
ミストは呆然と見上げることしかできなかった。足が竦み、逃げる気力すらなくなっている。胸は早鐘のように時を刻み、しかしその時は永遠のようにも思えた。
「くそっ!ヤンガス!」
「分かってやす!」
少年と男が、同時に武器を振りかざし、道化師に飛びかかった。
しかし、道化師は一つ溜息を吐くと、杖を持っていない方の手を少年たちの方向に差しかざした。同時に、少年たちの動きは止まる。
「くっ……お前、何をした……っ!!」
「少しうるさいハエがいたものですので、動きを封じさせて貰いました。ああ、用が済みましたら解きますのでご心配なく」
「きっ、貴様ぁっ!!」
ミストは、そんな会話も聞こえてはいたが、内容を理解していなかった。
ただ、絶対的な恐怖に震撼し、その瞳には涙すら浮かべていた。
「おや、怖いのですか?」
道化師は、薄笑いを浮かべながらミストを見下ろす。
「でも大丈夫ですよ。一瞬の苦しみで、全てのしがらみから解放されるのですから!!」
道化師が、杖を振り下ろした。
誰かが息を飲む。誰かが目を覆う。誰かが叫ぶ。
巨大な炎がミストに迫って行く。
全ての時が止まったような感覚に、少女は目を硬く閉じた。
そして呟く。
「助けて」とーー