二次創作小説(映像)※倉庫ログ

ドラゴンクエスト8 時の軌跡 14 ( No.65 )
日時: 2013/09/20 14:22
名前: フレア (ID: iTHoKTwe)

「……そこ、左な」
「うん」

ミストの胸に抱かれているオズが、小さな手を伸ばして案内する。
オズの声は明らかに不服そうだ。時折、木槌とミストのハイヒールを持たされたエイトを恨めしげに見ていた。

「……くそっ。何でこの俺が人間なんかに……」
「文句があるなら、どこへなりとでも消えるといいわ。一生木槌が手元に戻らなくなること、覚悟してなさい」

オズが逃げないように両腕で抱きしめているミストの背中は、まるでおもちゃを与えられた子供のようにエイトには映った。

「……で、あんたは何で他の魔物と違って話せるのよ」
「ああ……」

そのミストの問いに、少しだけオズは目を伏せた。

「……人間ごときに教えるのは不快だが……少し前まではみんな、いいやつらばっかだった。だが……変な女がこの洞窟に来てから、みんなおかしくなったんだ」
「変な……女?」
「これといった特徴がなかったな。強いて言うなら……目が死んでいる女だった。その女がザバン様に会ってから、みんな前みたいに優しくなくなって……」
「ザバン?」
「ザバン様、と呼べよ」

オズが顔をしかめる気配がする。
だが、ミストは構わず続けた。

「ザバンって誰?」

やがて諦めたようにオズが溜息を吐くと、問いに答えた。

「この洞窟の主様だ。言っておくが、それなりの覚悟をしていけよ」

その言葉に、ミストもエイトもヤンガスも、妙な不安を覚えた。
水晶玉を取りにきただけなのに、何を覚悟しろというのだろうか。

「……ここを降りると、ザバン様がいらっしゃる場につく」
「え、ちょっと水晶玉は?」
「水晶玉はザバン様が持っておられる。俺は何にも見てないしやってないからな!」

さらに困惑する三人。
戸惑っているミストの腕の力が抜けた隙に、オズは腕から飛び降りる。

「あ……」

そして、エイトから小槌を奪うと、走って闇の奥へと消えてしまった。
某然とその姿を目で追っていたエイトは、やがて表情を引き締めると、ミストとヤンガスに向き直った。

「……行こう」

ザバンが話の通じる魔物であったら、そこは穏和にことを解決できる。だが、もしそうでなかったら、一戦交えることになるだろう。
不安に苛まれ、ミストは黙ってエイトが持っている自分のハイヒールに手を伸ばした。
篝火に照らされた薄暗い階段は、徐々に下降して行った。
やがて、滝が落ちる音が一層激しくなった。視界には、流れ落ちる滝。それはさながら、水のカーテンだった。

「兄貴、あれ……」

ヤンガスが指差した方を、ミストとエイトも追う。
滝に接しるか接しないかの場所に、水晶玉が浮かんでいた。丘のように切り立ったところにある。
その光景に、ミストはごく普通の違和感を覚えた。

「……何で水晶玉が浮かんでるのよ」

周りには、何もない。その中で、水晶玉のみがあるのは不自然だ。
三人は水晶玉に近づいた。

「……やっぱり、ザバンを呼んだほうがいいよね」

エイトが呟いた。
黙って持っていくのは、流石に罪悪感が生じる。いくら相手が魔物だろうと、(話ができる相手であればだが)断っておいた方が良い。

「ザバン様ー」
「ザバンさんー」

一応、礼儀として『様』と『さん』を付け、エイトとヤンガスは呼びかける。

「儂を呼んだのは貴様か……?」
「ひゃうっ!?」

水飛沫が盛大にかかると共に、何かが飛び出してきた。
いきなりのことに、ミストは思わず後ろに倒れこんでしまう。ヤンガスが慌てて手を差し伸べた。
声と共に滝から飛び出してきたのは、魚のような尾ひれがあり、人間の顔をした魔物。赤い鱗に覆われた身体からは、水が滴り落ちる。

「……貴様は、ここに何をしにきた……?」

重々しい声で言うザバンには、威厳があった。
額には深い傷があり、それが厳しい戦いを超えてきたことを暗に告げている。

「あなたの水晶玉を、頂けませんか?」
「……何?」

ザバンの目に、殺意が宿った。全身をわなわなと震わせ、拳を握る。

「そうか……貴様らがぁ……」

その様子を見て、エイトとヤンガスはわけもわからずに武器に手を掛けた。
ミストは、今からエイトとヤンガスが戦うことになると察した。後退りし、極力ザバンから離れる。

「生きて帰すとは思うなよ!喰らえ!」
「っ!」

ザバンの右手から、暗黒の瘴気が迸る。逃げる間もなく、二人はそのまま霧に呑み込まれてしまった。