二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.24 )
- 日時: 2014/09/08 21:09
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
残された三人は、当初の予定通りに動いていた。巨大樹の森の淵を進み、巨人と遭遇したら引き離すこと。だが、その後巨人に遭遇することも、他の班に出会うことも無かった。
そして、とうとう巨大樹の森を一周してしまった。
「おかしい…」
「巨人に遭遇しなかったのは良かったけれど、他の班にも会わなかったのは少々気がかりですね…」
「なんか、嫌な予感するな…」
「…まさか」
ペトラは馬を巨大樹の森の中へ走らせる。
「おい!ペトラ!」
必死に馬を走らせるペトラ。だが馬も疲れているのかなかなか進まない。遠くで雷鳴がする。雨が近いのかもしれなかった。
「急にどうしたんだよ!」
「さっき…黒だったよね」
苦虫を噛み潰したような顔で続けた。
「もしかしたら…それが言ってた超怪力の巨人かもしれない」
二人は絶句した。
「か、確証はあるのかよ」
ペトラは首を横に振る。
「分からない…ただ、そんな気がする」
雨が地面を濡らし始めた。
その頃。
二体の同じ顔をした奇行種と戦闘を始めたカウツたち。カウツは巨人の右手から繰り出される拳を避けた。後ろにあった巨大な木が轟音と共に崩れる。
「な、なんだこいつら…」
一旦距離を置きたいところだが、新兵達に先頭を任せるわけにはいかなかった。
「班長!これは言っていた目標ではっ」
クララが叫ぶ。確かに、通常の巨人より怪力のようだ。見た目はそんな風には見えないが、先程崩れた巨大な木がそれを物語っていた。
カウツはガスを思い切り吹かし、二体の巨人に斬りかかった。二体の目を一定時間使い物にならなくさせる。
「お前ら!所定の位置へ誘い込め!」
「しかし!まだ合図が…」
「いいから!行けっ」
新兵三人は中央へと急いだ。カウツもそれに続く。その際、地面に横たわる同期の顔を見た。
——アヤックス…。
だが嘆いている暇など無かった。一刻も早く任務を遂行するしか生き残る道は無い。先を急ぐが、すぐに足音が聞こえてきた。
軽く舌打ちをしたのは、新兵のアドルフだった。
「もう回復しやがったのか…一体どういう体のこ——」
後ろを振り返ったときだった。もうすぐ目の前に巨人がいた。
「う、うわぁあああ!!」
「焦るな!アドルフ!」
しかし、彼にその声は届かなかった。前を見ていなかったため、木に激突、そのまま落ちてしまう。カウツは方向を急転換し、救出に向かう。新兵二人はその場に立ち止まる。
「アドルフッ!」
ぶつかった衝撃ですぐには立ち上がれないようだ。奇行種たちは仲良く手を差しのばす。
「アドルフ!逃げろ!アドルフ!!」
彼が正気になったのはすでに二体の巨人の手の中の時だった。巨人は分け合うかのようにアドルフの体を真っ二つに引き千切る。アドルフの痛ましい悲鳴が聞こえた。
彼の抵抗も空しく、アドルフは巨人の餌になってしまった。クララとダニエラの二人は始めてみる光景に絶句した。ダニエラは泣き出してしまう。カウツは間に合わなかった。暫し呆然としていたが、すぐに切り替える。
「落ち着けダニエラっ!クララっ!先を急げ!」
クララも我に帰り先へ進む。だが、ダニエラは進まないままだ。
「ダニエラ!おい!」
巨人がダニエラに気付く。このままではまずい。カウツは思い切りガスを吹かした。その甲斐あってか見事間に合い、放心状態のダニエラを抱え先を急ぐ。
「おい、しっかりしろ!」
「アドルフが…アドルフが…」
パニックを起こしているようだ。無理も無い。初陣でだいぶ惨い姿を見せられたのだから。
——だが目標地点まであと少しだ。
そう思ったときだった。
カウツのガスが切れた。空しい音を一つ立て、ダニエラもろとも地面に落ちる。その音に先に行っていたクララも気付く。急いでカウツのところに向かった。スナップブレードを引き抜き、臨戦態勢に入ったときだった。
「待て!!」
クララはその声に反応し、立ち止まる。
「今回の作戦はこいつの捕獲だ!!!殺すな!」
クララが反応に困っていると、カウツは彼女を叱咤する。
「命令だ!!俺の言うことを聞け!!」
巨人がカウツたちの下へ着いた。カウツはスナップブレードを巨人に向ける。
「お前はダニエラを連れて所定の位置へ急げ!」
ダニエラを巨人の死角に隠す。二体の巨人から繰り出される攻撃を紙一重で避けていくカウツ。
「は、班長…」
だが、カウツが巨人の平手打ちを浴びてしまう。受身を取れたものの、動ける気配は無かった。カウツが目を開けると、不気味な顔をした二体の巨人がカウツの目の前にいた。
「班長!」
「クララ!!早く行け!!ペトラたちと帰るん——」
それが、彼の最期の言葉となった。
クララは呆然とした。圧倒的力の差に。そして悟った。こんなものに勝てるはずがないと。泣き出したかった。
しかし、彼女は諦めてはいなかった。目尻に涙を浮かべながら、カウツ達が命を掛けて助けたダニエラの元へ向かう。そして、思い切り頬をひっぱたく。
「ぼーっとしてんじゃねぇ!いつまでそんなんでいるつもりだよ!隊長とアドルフの命を無駄にするんじゃねぇこの馬鹿っ!」
その言葉で正気に戻ったダニエラは、クララと共に所定の位置へ急いだその時だった。信号弾があがったのだ。
「団長だ…!急げダニエラ!吹かせ!!」
二人は最高速まであげた。カウツを食べ終えた巨人は視界に捕らえた二人に迫る。足音が徐々に近くなる。巨人が手を伸ばす。
——間に合え、間に合え…
「間に合えぇぇぇぇ!!」
クララとダニエラは途端に開けた場所に出た。二体の巨人がクララに手をかけようとしたときだった。
「打てぇぇええええ!!」
当たり一帯に轟音が響く。それに気をとられていたとき、二人のガスが切れ、地面に落ちた。派手に転げ、泥まみれになる。
荒い息を整え、後ろを振り返った。煙が広がって何も見えなかったが徐々にそれが晴れていく。
そこには、体の自由を奪われた二体の巨人がいた。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.25 )
- 日時: 2014/09/08 21:05
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
「大丈夫かい!?二人とも!」
倒れた二人の下にハンジが降りてきた。そして辺りを見回した。
「他の班の人は?隊長は?」
二人の顔から血の気が失せた。
雨ですぐに消えてしまったが、確かに信号弾があがっているのをペトラたちが確認した。彼女たちはすぐに方向を転換、その場所へ向かう。
「作戦は…成功したのか?」
ペトラはマントのフードを目深にかぶった。
——お願い、生きていて。班長、クララ…
クララとダニエラをテントまで移動させ、ハンジは話を聞き始めた。
アヤックス班は全滅したこと。それの援護をするために班を二手に分かれさせ、応戦しようとしたこと。そこで二人の尊い命が亡くなってしまった事。憔悴しきったダニエラの代わりに、クララが嗚咽を漏らしながら続ける。
「班長はっ…私なんか、の、為に…」
ハンジはクララの頭を撫でた。
「辛かっただろう。だが、これが調査兵団に入ったということなんだ。現実を受け止めて欲しいんだ…いいね」
クララは泣き続けるしか出来なかった。
ペトラたちのグループも、二体の巨人が捕縛されている場所まで辿り着いた。
「成功…したのでしょうか」
ペトラはすぐに馬を降り、クララ達の姿を探す。雨足が徐々に強くなってきた。地面から跳ね返る雫が当たり一帯を埋め尽くし、霧のようになって視界を悪くしていた。探し回っていると、テントを見つけた。あそこにいるのではないか。そう思った。
「ペトラ」
呼び止められた。そこにはハンジの姿があった。
「ハンジ分隊長…あの、カウツ班長を見ていませんか」
ハンジは黙って歩き始める。ペトラもそれに続く。向かった先はテントだった。入り口を開けると、クララとダニエラの姿があった。
「クララ…ダニエラ…生きていたのね」
ペトラはクララに駆け寄り、座っている彼女の視線に合わせてしゃがんだ。
「班長は…?」
二人の顔つきが変わった。ダニエラは肩を抱えて震えている。クララの瞳にはいつもの覇気がなかった。
ペトラはクララの肩を掴み、揺さぶって問い詰める。
「班長は?アドルフは?ねぇ、一緒に行ったんでしょ?なんで貴方たちだけが…」
その時ハンジがペトラに制止をかけ、首を横に振った。ペトラの顔が一気に蒼ざめる。クララがやっと口を開いた。
「ぺと…ら…あたし、あたし…」
「何も、出来なかった…」
彼女はペトラの胸に崩れた。嗚咽が聞こえてくる。ペトラの頭にはカウツの声が蘇ってきた。
『お前なら大丈夫だ。——まぁ…頼んだぞ、ペトラ』
ペトラはクララを引き剥がし、あえて突き放すようなことを言った。
「新兵は生き残れば十分だって…言われたでしょ。それに、こうなることは覚悟してたでしょ。いつまでも泣いてんじゃないわよ。ダニエラも」
そう言ってテントを後にした。
ペトラは拠点から少し離れた木の上で遠くを見つめていた。雷鳴が聞こえてきた。今日はもうそろそろ引き上げるだろう。新兵にしては過酷だったが、頑張ったと思う。そうやって自分を励ましていたのだ。
「でも…私も、何も出来なかったです…班長…」
叩きつける様な雨と雷の音で、彼女の鳴き声はかき消されていた。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.26 )
- 日時: 2015/02/16 21:40
- 名前: 諸星銀佳 (ID: e7DIAQ8b)
二体の奇行種を捕獲した調査兵団は、早速調査に取り掛かる。が、雨で視界は遮られ、巨人に飛び移ろうにも足元が滑る。また、アンカーも狙ったところに刺すことが出来なかった。
「だめだぁ…可愛い君達を調査できないなんて…残念だよ」
ハンジが残念そうに言う。
「雷が近くなってきている。森に長居するのは危険だ。今回は引き上げる。リヴァイ」
エルヴィンが命じた。リヴァイは何も言わずにスナップブレードを構える。アンカーを一体の巨人の肩に刺したときだった。
すぐ近くの木に雷が落ちた。
「!?」
兵士の悲鳴がこだまする。
「しまっ…」
雷が落ちた木が、巨人のほうへ向かって倒れてくる。対特定目標拘束兵器が潰れ、ワイヤーが千切れる音がした。
「逃げろ!!」
力いっぱい叫んだところで、轟音と雨音で届くはずも無い。二体の巨人は再び自由を取り戻し、あたりの兵士を蹴散らし始めた。
その音は、一人でいたペトラの元にも届いていた。
「雷…?」
音のほうへ行こうとしたときだった。
「ペトラ!!」
後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこには同期だが少し大人びた印象を持った男性の姿が。彼こそ、103期訓練兵団を主席で卒業したエルド・ジンだ。
「エルドさん…何があったの?」
「いいから逃げろ!」
彼の形相は嘘の様には思えなかった。言われるがままエルドの後ろについていった。
エルヴィンの撤退の指示が届いたのは、彼の周りにいたごく少数だった。テントで呆然としていたクララは、外が急にうるさくなったのでテントから顔を覗かせる。そこでは、自分たちの仲間を奪ったあの巨人たちが暴れているではないか。事の重大さに気付いたクララはダニエラを抱え、一気に飛び立った。
「な、なにが起きてるの!?」
——逃げなきゃ…逃げなきゃ。
彼女は必死にその場を離れていった。暫くダニエラを抱えて飛んでいたクララは視界の先に人影を見つける。目を凝らしてみてみると、見覚えのある後ろ姿が鮮明になってくる。
「ペトラ!」
名前を呼ばれ思わず振り返った。そこには、班員を抱えた友人の姿があった。
「クララ!無事だったの!?」
「なんとか…それより、コイツをどうにかして欲しいんだ」
抱えている班員にはもう覇気も生気も感じなかった。
ペトラは目でエルドに訴える。先に行け、と。しかし、エルドはそれに応えなかった。
「全員で外に出るぞ」
「馬も無い状態でどうやって壁内に戻るというの?そうとなればやるべきことは一つ——戦うのみ」
ペトラはスナップブレードを引き抜いた。
「ガスも補充したし、替え刃も用意した。作戦を忘れたの?『超怪力奇行種の捕獲及び調査の後駆逐』。調査が出来ない今、巨人を殺すしかない」
「ペトラ…」
「だから…いい?」
エルドは苦い顔をした。だが、それもほんの僅かで、クララから奪い取るようにダニエラを抱えた。
「死ぬなよ」
ペトラは敬礼をしながらウィンクする。
「任せてって!」
エルドは軽く頷くと、その場から去っていった。さて、とペトラはクララに目で合図を送る。クララもそれに応えるようにスナップブレードを引き抜く。
「足音が近くなってきたね…ガスを無駄に使わないようにここで待つよ」
二人は戦闘態勢に入る。兵士の悲鳴とガスの音。地鳴り。アンカーが突き刺さる音。諸々の音が近づいてくる。
「——来る」
視界に二体の巨人が映った。正確には、二体の巨人の手のひらが映った。二人はそれぞれ逆方向に横っ飛びする。
二人を殺り損ねた巨人はその場に立ち止まる。
「また会ったな…」
クララの目に恐ろしげな光が宿る。クララは状況を把握しようとあたりを見渡す。兵士はざっと10人いる。一体を5人ずつでやればいける。そう考える。次の考えに移ろうとしたとき、巨人の拳が目の前に来る。が、紙一重で避ける。余裕が出来、先程の考えに戻る。一番経験が豊富そうな上官の下へ近寄り、指示を仰ぐ。
「上官!二体の巨人を駆逐します!指示を!」
「よし、分かった。距離をとったら、一斉に斬りかかれ。二体同時に相手するのは危険だが、囮と実行に分ければやれないことは無い!俺に続け!」
二体の巨人と逸れた——というべきかどうかは分からないが——エルヴィンの近くにいた兵士たちは馬で移動していた。
「チッ…どこ行きやがった…」
リヴァイが辺りを見回しながら言った。
「この雨と雷では正確な位置は分からない。全員、いつでも動けるようにしておけ」
「あぁ…貴重な調査だったのに…」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。ただでさえ陣形は壊滅。兵団縮小も無理ねぇな」
「そんなぁ…!」
——にしても、この数は少なすぎないか?あの場には今回連れ出した兵士の半数はいたはずだ。ここにはその10分の1いるかいないか…
リヴァイの頭に嫌な予感がよぎった。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.27 )
- 日時: 2014/09/25 21:38
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
5人が追われ、5人が追う。そんな戦闘を繰り返していたが、相手の豪腕を恐れるあまりなかなか項を削げずにいた。また、天候の悪さも影響していた。
「くそっ…埒が明かねぇ。一気に畳み掛けるしかねぇな」
クララはスナップブレードを握りなおす。一人で特攻を掛けようとした時だった。豪腕を振りかざす最中、一人の兵士がワイヤーを巻き込まれそのまま地面に思い切り叩きつけられた。肉片がクララの高さまで飛んできた。それに気をとられ、困惑するものもいた。何しろその場にいた兵士の殆どは今日が初陣の新兵であった。ものの数秒で半分の5人になってしまった。
「まるで知能でもあるかのような動きだ。流石奇行種。何をしでかしてくるかわかりゃしねぇってことだな」
上官の兵士も不気味な笑みを湛えていた。そして、クララの隣で呟く。
「作戦変更。俺が巨人を引き連れる。木にぶつかる寸前で俺が避ける。その一瞬を狙え。いいな」
クララは小さく頷いた。他の兵士にもジェスチャーで伝える。近場にいた数名の兵士を引き連れ、作戦を決行した。そこにペトラも加わる。前に新たに現れた餌に、当然巨人は引き寄せられる。後ろを振り返らずに一心不乱に飛び続ける。クララを含めた、後方に位置する兵士は今か今かとチャンスを逃さぬように、斬りかかる態勢でいた。
「今だ!」
木にぶつかるギリギリまで飛び続け、一気に横に飛び散る。案の定、スピードを緩められなかった巨人二体は思い切りぶつかった。
「一斉に叩け!」
言われるより前に動き出していた一同。全員が項めがけて斬りかかる。だが、寸での所でクララは異変に気付く。逃げろ、と言ったものの同時に鳴った雷に掻き消された。
巨人はぶつかった衝撃をものともせず、首を真後ろにひねるようにした。大きな口が兵士を迎え入れる。その口の中にクララ以外の全員が飲まれた。
「な…んて…こと」
ペトラは唖然とするしかなかった。隣にいた上官が我をも忘れ斬りかかりにいく。その光景は作戦も何も無くなったただの烏合の衆。開いている両手で兵士を掴み、先程喰われた兵士の肉片が残る口にほおる。ほぼ丸呑み状態であった。残されたのはペトラとクララだけだった。
二人は動けずにいた。そんな動かない餌を無視する筈が無い。二人に巨人の手がゆっくりと伸びる。ペトラは死を覚悟し目を瞑った。その時だった。腹部あたりに衝撃を感じた。恐る恐る目を開けると、写った景色は流れる木々だった。
「大丈夫か!?二人とも」
顔を横に動かすと、そこには同じく同期のグンタ・シュルツがいた。彼はとても真面目で寡黙だが、内には熱いものを秘めている。そんな男だ。
「え、あ、うん…大丈夫…ありがとう…」
「クララも大丈夫…って感じではなさそうだな」
クララは二度も目の前で多くの命が散るところを見てしまったショックで気を失っていた。
「目の前にいたから手を伸ばしただけみたいだな。腹は満たされて追っては来なさそうだ」
「もう、一人で平気。ありがとう」
そう言ってグンタから離れ、一人で少し前を行く。
三人はペトラのガス切れもあり、下に降り立って歩くことにする。その先でオルオの班と合流した。ここにいるのは危険だということで一行は歩いて巨大樹の森を後にする。彼女たちの馬は、対特定目標拘束兵器が破壊された混乱が落ち着いた後、少数の兵が呼び戻したらしい。
兵士たちの顔に覇気は微塵も感じられなかった。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.28 )
- 日時: 2014/10/03 21:11
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
全員が暗い面持ちで巨大樹の森を抜けようとしているときだった。オルオが一人班の後ろを離れて歩いていた。
「どうしたの?オルオ」
「いや…なんでも…」
以上に怯えている姿から見て出てきた答えは一つだ。オルオの班と一緒に居たエルドから話を聞くことができ、確信に変わる。
失禁したのである。
「オルオ…その…ほら…雨も降ってるし、分かんないって」
「そうだ…それにペトラを見ろ?平然としてるだろ」
グンタのその言葉にペトラの思考が一瞬停止した。
「はぁ?ペトラ…まさか…お前も…」
「い、言うなよ!黙ってれば、分かんないでしょ!」
「正直、凄ぇ勢いだった…」
ペトラがグンタから離れ一人で飛んでいたとき、実はペトラもやらかしていた。幸い、グンタにはかからなかったみたいだが。
「マ、マジかよ!?」
「そこ!喜ばない!」
そのやりとりで一瞬、場が和んだ。しかし、本当に一瞬だった。
クララはグンタにおぶられたまま動かない。エルドも馬上から周りを警戒しているが、その表情は恐怖に満ちている。エルドが預かったダニエラは憔悴しきっており、まともに何かをできる状態ではなかった。ペトラとオルオも馬鹿みたいなやり取りをもうやる元気は無い。グンタは途中ですれ違った同期の亡骸を見つけ、班員に知らせるという作業を黙々とこなしている。
全員が全員、気がおかしくなりそうだった。
巨大中の森を抜け、調査兵団の一団に合流することができた一同は、それぞれの上官の下へ生還報告、及び行きと同じ陣形に隊列すべく、各々戻っていった。ペトラの班は、報告すべき上官がいない。残ったのは新兵であるペトラ・クララ・ダニエラのみだった。だが、ペトラを除いた二人はまともな状態ではなく、荷馬車で運ばれることとなっている。現状では彼女一人ということになった。そこへ、歩み寄ってくる一人の男がいた。
「…おい、お前」
聞き覚えのある声にペトラが振り返る。
「リヴァイ兵長…」
「…お前だけなのか」
「いえ、他に同期が二人…でも、二人とも目の前で沢山の大切な仲間を失ったので…ショックでまともな状態じゃないんです…って、リヴァイ兵長にこんな話をするのは失礼ですよね。貴方のほうが、目の前で沢山の部下を失っているんですから…」
それ以上言葉が紡げず、ペトラは俯いてしまった。静寂を掻き消す様に雨の音だけが聞こえる。
「ペトラ・ラル、だったよな」
「え…?」
リヴァイが自分の名前を覚えていてくれている。それはとても嬉しかったが、いかんせんこの状態では素直に喜べなかった。
「帰りは俺の後ろを走れ。いいな」
「え、しかし…他の班の方は」
「俺は直属の部下は持っていない」
どうやら彼は独り身で今まで戦ってきていたようだ。その方が彼が自由に戦えて力を発揮できるからだろうか。詳細は聞けなかったが、彼の異端の強さだけは伝わった。
ペトラは涙を滲ませた顔を真っ直ぐとリヴァイに向け、敬礼をする。
「はっ。貴方の指示に従います」
リヴァイは一つ頷くとペトラの元を後にした。雨が弱くなってきた。彼女は自分の馬を見つけ、言われたとおりリヴァイの近くへと急いだ。だが、彼が行きにどの辺りにいたのかは知らなかったが、行軍の指揮を執るエルヴィンの近くであることは予想がついたので、中央前方辺りへ向かった。案の定、そこにはリヴァイの姿とエルヴィンの姿があった。ゆっくりと歩を進め、リヴァイの後ろへ着く。気配を感じ取ったのか、リヴァイが振り向いた。ペトラは敬礼をして感謝の意を伝える。彼は目をゆっくりと瞬きした。
調査兵団は行きの人数の約半分、72名で帰還の途についた。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.29 )
- 日時: 2014/10/20 17:50
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
一人、部屋の真ん中に立ってみる。
帰ってこれたという安心感と、様々なものを失った喪失感であふれていた。クララと共同の部屋だが、生憎彼女は今だ目覚めず、医務室で横になっている。ペトラもベッドに横たわり、壁外調査の出発する前のことを思い出していた。
新兵勧誘式——今回は勧誘ではなかったが——で、初めてであったペトラ、オルオ、グンタ、エルド。——ペトラとオルオはその前から知り合いだったが——その縁ですれ違うたびに挨拶などをする仲にはなっていた。
壁外調査前日。食堂の後片付けの当番になっていたペトラ、グンタ、エルド。そこに、オルオが上官からくすねた酒を手に四人だけの決起会が行われた。
「なぁ、お前らってどうして調査兵になったんだ?」
徐にエルドが問いかけた。
「どうしても何も、今回は自分の意思なんか無かったじゃない」
「にしても、だ。俺たちは上位十名に選ばれている。拒否権もあったはずだろ」
確かにそうである。上官がペトラのところへ聞きに来た。「本当に行きたいところはないのか」と。それでもペトラはどこでも良いと言ったのだ。その後、調査兵団入りが決まったが、念のためにともう一度着て確かめたが、彼女の意思は変わらなかった。
グラスを傾けたグンタが話し始めた。
「俺は正直な話、給料だ。危険に見合っただけの報酬は貰える。それに…万一戦死した場合の遺族への保証金も他の兵団より高い。祖父たちの生活の足しにはなる」
「でも、給料は憲兵の方が高いじゃない?それなら、憲兵に行ってずっと高い報酬貰ってた方が良いんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけどな。けど、新兵のうちはそうでもないらしい。同室だったやつが憲兵に行ったんだが、扱いの割には給料が低いんだと」
オルオが足をテーブルの上に乗せ、頭の後ろで手を組んだ。
「流石、年功序列型って感じだな。調査兵団は実際、実力主義。俺らよりも年上の人が未だにポスト貰えてなかったりするよな」
そして、少し声のトーンを落とし、オルオが語り始める。
「俺はな…壁の中で燻ってる奴らとは違うんだよ…。ビクビク怯えながら一生を送るなんて…俺はごめんだ」
それに対しペトラは、前も聞いたと言った。オルオは覚えていないようだ。一回目は何の意味も無く納得していたが、二回目はただのかっこつけにしか聞こえなかった。グラスを一気に開けたペトラも話し始める。
「私は、自分の力を誰かの為に役立てたいと思ったからよ。お父さんには家に入れって、散々反対されたけどね」
「ま、父親が娘の幸せを願うのは当然のことだな」
エルドも一気に飲み干し語ろうとしたが、外から物音が聞こえたので、四人は忍び足で退散した。結局、その後もエルドが調査兵団に入った理由は聞けてない。
誰かの役に立ちたい。そう思って入った筈だ。しかし、誰一人として救えてないじゃないか。人類を救う前に目の前の仲間一人さえ救えずにいる癖に、何が役に立ちたいだ。
「思い上がりも甚だしい…」
涙が出てきた。あまりにも無力だ。力が欲しい。仲間をもう失いたくない。覚悟の上で入ったことだが、やはり嫌なものは嫌なのだ。
その日はある決意を心に秘め、彼女は眠りに付いたのだった。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.30 )
- 日時: 2014/10/30 22:12
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
夜も更けた頃だった。突然ドアをノックする音で目が覚めた。重い瞼をこじ開け、なんとかドアを開ける。
暗くて顔が良く見えなかった。だが、次第に月明かりが窓から差込み、徐々に形と色を鮮やかにさせる。
その姿にペトラは一瞬で眠気が吹っ飛んだ。
「り、リヴァイ兵士長!」
「悪いな」
彼の後ろには数人の上官たちがいた。そこにはハンジや帰りに森を一緒に出て行った班長たちが居た。
「リヴァイ、女の子の部屋に夜に押しかけるなんてぇー。夜這いと間違われちゃうでしょー?」
「心配しなくともお前になどする気もない。ペトラ・ラル、お前に話がある。付いて来い」
言われるがまま付いていき、食堂に着いた。数個のランプと月明かりだけだったが、それでもその場にいる全員の顔がはっきりと見える。
「あの…私が何かしましたでしょうか」
言いにくい雰囲気だったが、始めなくては埒が明かない。勇気を振り絞って言う。
「まあ、そんなに固くならないで。はい、お茶」
「す、すみません!後は私が…」
「あぁ、いいよいいよ。たたき起こしたのは私達の方だしね。これくらいは。まぁ、明日は特に仕事も無いから遅くまで寝てていいよ。なんか言われてもエルヴィンが知ってるから大丈夫」
ハンジが優しく微笑む。少し熱めのお茶をすする。
「明日の朝でも良かったんだがな…手短に話そう。結論から言う。クララ・べラルダ、ダニエラ・クヴァールは明日付けで駐屯兵団へと移動させる」
手からグラスが落ちた。音を立てて割れた。ペトラ自身にも茶がかかった。ハンジや他の隊長が慌てたが、彼女はただ呆然としていた。
「あの状態ではもう戦場には立てない。生きて帰ってこれただけマシだが…兵士としてはもう生きれねぇ。駐屯兵団は調査兵団に比べたら仕事も多くねぇ。ただ、事務に回ってもらうがな」
「私は…どうなるんですか」
母親を失い、同期を失い、班長を失い、班員を失い。自分は死神なんじゃないかと思う程、目にも留まらぬ早さで仲間が死んでいく。消えていく。
——こんなのをリヴァイ兵長はずっと…此処にいる皆はずっと…経験していたんだ。
甘かった。こんなに苦しいなんて思っても無かった。仲間を助けたいと思っていたのに、仲間に助けられていた。仲間がいないと何も出来なかった。
はたと思い出し、残っていた仲間のことを問いただす。ペトラが置き去りにした二人の班員だ。二体の巨人が暴れ始めたとき、二人は運よくエルヴィンの近くにおり、彼の指示を聞くことができていた。その為、彼らと共に森を抜け出していたのだ。今は兵舎でちゃんと寝ているそうだ。
それを聞いて少し安心したのも束の間だった。今度はペトラが問いただされる。
「お前はどうしたい…このまま調査兵団にいるのか?それともいっそのこと兵士なんか辞めちまうのか」
ペトラはすぐに答えられず、俯いてしまう。
「これだけは言っておこう。ペトラ・ラル。班員が死んだのは決してお前のせいじゃねぇ。そしてその班員たちのせいでもねぇ。全ては巨人のせいだ。だから俺は巨人を絶滅させる。必ずだ」
その言葉を聞いてペトラは顔をあげた。リヴァイの瞳は揺らがなかった。
自分は薄情な女だと思ったと同時に、この人についていきたい。心のそこから思っていた。
「…私は、諦めません…班長のためにも、皆のためにも…残してきた父のためにも、必ず巨人を滅ぼします…だからお願いです」
「調査兵でいさせてください」
残されたものは、仲間の屍を越えてでも前に進まなければならない。たとえその道が、どんなに茨の道だったとしても。