二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.44 )
- 日時: 2015/12/12 19:23
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
【第四章 仇討ち】
壁外調査当日。第30回壁外調査の開始。そう思うとあれから何回も壁外調査が行われ、一年が過ぎていた。これと言って戦果がなかったんだとも思う。
緊張して固まっているペトラたちにリヴァイが言い放つ。
「いいかお前ら。俺がお前らに言うことはただ一つだ」
エルヴィンの叫び声が聞こえた。その後の言葉が喚声に紛れて若干聞こえにくかったかもしれない。だが先遣隊のメンバーはしっかりと聞き取った。
「死ぬんじゃねぇぞ」
リヴァイの後に続いて一行は奇行種の住処を目指し始めていた。
「兵長!廃屋のあたりに巨人が二体居ます!」
「…来やがったな。お前ら、剣を抜け」
全員が言われたとおり剣を抜いた。全員の顔に恐怖と怒りが入り混じった何とも言えない表情になった。
「来るぞ」
リヴァイはわざと信号弾を巨人の方へ向けて撃った。なるべく距離を取って誘き寄せるためだ。
「き、気付いた…」
見るだけでぞっとするような表情をした2体の奇行種がこちらを向く。
「全速力で駆けろ!」
まるで逃げるおもちゃを追うように、巨人はこちらに迫ってくる。
「エルド!」
「は、はい!」
この作戦の副班長を任されたのがエルドだった。エルドは全員に横に小さく並んで走るように指示する。縦に並んで走れば、一番後ろの兵士が格好の餌食になる。かといって横に並べば、巨大樹の森の入り組んだ地形で離れてしまう。信号弾を撃てば済む話なのだろが、少数精鋭のこの臨時で組んだ班に、そんな暇も人数も居ない。
なので、なるべく横になるべく小さく並んで走るこの陣形が一番ベストなのだ。
「このまま巨大樹の森に行くぞ」
「「了解!!」」
一方、エルヴィンは全班を誘導し、巨大中の森の入り口を固めてあの奇行種以外の巨人が森の中へ入らないように配置させた。
と言っても、ただ樹の上で突っ立っているだけなのだが。下を見れば獲物に群がる巨人が手を伸ばして不気味にこちらを見ている。今回の作戦内容は通達されてはいたが、先遣隊の存在は極秘であった。自分たちの真後ろで同期とリヴァイが戦っていることなど、知りもしなかった。
存在を知っているものだけが、ただ森の奥を眺めていた。助太刀に行けるものなら行きたいが、自分にも任務がある。
ただ、祈ることしか出来なかった。
その頃、先遣隊は立体機動に移り戦闘を開始していた。
「あの時の借り…返してやるっ!」
ペトラは剣を握り締めた。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.45 )
- 日時: 2015/05/18 23:22
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
立体機動の音がこだまする。
先遣隊は2体の奇行種の相手に苦戦していた。通常種ですら二体同時は大変なのだから、奇行種はその倍大変なのだ。なるべく二対を引き離して戦いたいのだが、妙な連携を取り合い、吐かず離れ図の距離を保っている。相変わらずの怪力で樹を一撃でなぎ倒す。
「こいつら、人間なんじゃねぇのか…」
リヴァイは小さく呟いた。攻撃をしようにもあの怪力に当たればひとたまりもない。項を捕らえたことは多々合ったものの、そのたびにもう一体の巨人からの手が伸びる。歴戦の彼でさえ苦戦していた。
「一体になれば…」
リヴァイは賭けに出た。
エルドは迷っていた。
足の腱を切って行動不能にさせたあとに一斉に襲い掛かりたいところなのだが、もう一体が隙を見逃さずに手を伸ばす。
そうこうしている間にも仲間が倒れていった。
「迷ってんじゃねーよ!」
紅一点のペトラの声が響く。彼女は紙一重で避け続けているようだ。
「エルドの癖に悩んでんじゃないわよ!」
初めて呼び捨てされた。ペトラより少し年上で、彼女はいつもそれを気にしていてさん付けしていたようだ。
「ったくどういうことだよ…さん付け取るなら宣言してからにしようぜペトラちゃんよぉ!」
樹の陰から一気に間合いを詰めて腱を切った。巨人は前のめりに倒れた。
「今だ!項を狙え!」
ペトラ・エルド・オルオの三人は一斉に向かう。項まであと僅かとなったときだった。
「お前ら避けろ!!」
グンタの声が響いた。グンタは巨人と三人の間に割り込むように飛んだ。そして巨人の目を斬り付けた。視覚が奪われ半狂乱になった巨人は手をぶんぶんと振り回す。グンタは僅かに避け遅れ、足に手が当たり、真下に叩きつけられた。
「グンタ!」
幸い柔らかい落ち葉の上に落下したようだが、呻き声が聞こえた。どうやら足を折ったらしい。
先遣隊は壊滅状態。残っているのはリヴァイ、エルド、オルオ、ペトラの四人だった。
「落ち着け、お前ら」
リヴァイがグンタを片手で拾い上げ、木の上にもたれかけさせる。ここから動くなと指示し、三人に向き直った。
「今は両方とも動けない。チャンスだ。確実に仕留めていくぞ」
リヴァイの頼もしい言葉に全員が頷いた。
「俺がやつらを引く。ペトラとオルオはやつらを動かさないように刻んでけ。そしてエルド。お前が項を削げ」
「は、はい!」
「カミル・ジンだったか…」
その言葉にエルドは目を見開いた。
「何故…その名を」
「優秀な兵士だった。お前も、そうなってくれることを祈る」
そう言い残して飛び去っていった。あとを追うようにペトラとオルオも続いた。
そうこうしているうちに二体の巨人は回復しきったようだ。耳を劈くような咆哮が響く。一瞬我を忘れていたエルドもその声で引き戻される。
エルドはブレードを握り締めた。信頼できる仲間のために、亡き父のために。その目にもう迷いはない。
- Re: 【進撃の巨人 ペトラ・ラル】貴方に心臓を捧げます。 ( No.46 )
- 日時: 2015/06/13 23:42
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
——ただ、知りたかったのかもな。死ぬだけの価値が本当にここにあるのかどうか…
エルドはそんなことを思っていた。
彼の父、カミル・ジンは調査兵団の部隊長を務めていた。腕は立つし、回転も速い。訓練は厳しいと評判だったが、普段はとても優しい人だった。部下からも慕われ、よく家に帰省するときには部下を引き連れて朝までどんちゃん騒ぎをしていた。
そんな父を、エルドは尊敬していた。
だがある日。ボロボロになった部下たちが涙ながらに父の戦死を告げに来た。土下座をして、ごめんなさいと叫びながら。父の遺体は右の手だけだった。手の甲の傷、手のひらのマメ、短く切りそろえられた爪…確かに父のそれであった。
彼は信じたくなかった。またいつものように帰ってくるのではないかと。そしてこうも思った。
父が心臓を捧げていた調査兵団に何の価値があるのか。ずっと考えていた。
それが今、分かったような気がした。巨人を絶滅させたい、憧れてた…そんな大層な動機じゃなかったかもしれない。
——それでも、こいつらを護りたい。この人——兵士長——と戦いたい!
リヴァイが一人で二体の巨人を森の奥へと導く。そして、ペトラとオルオが待ち構えているのを確認すると、リヴァイは巨人の上を通るように方向転換。視界から消えたリヴァイを諦め、目の前の二人を獲物と定めたようだ。二体の巨人はその怪力で次々に巨木が倒れていく。
『え、わざとやるんですか?』
『あぁ…そうすることで信煙弾を使わなくとも、エルヴィンたちに位置情報を送ることが出来る。それに——』
巨人が目と鼻の先まで近づいたとき、ペトラとオルオが顔を見合わせ互いに頷く。そして一気に二手に分かれた。巨人はそれぞれ一体が一人に狙いを絞って追っていく。
——ここまでは狙い通り。あとはガスが切れないのを祈るのみ…!
紙一重で攻撃をかわし、前へ進んでいくペトラ。
『少し進むと開けた場所に出る。そこで元来た道を戻れ』
『え!?それじゃあ巨人と鉢合わせ…』
『んな訳ねぇだろ。その場所で二人が合流した場所を真っ直ぐもと来た道を戻れ』
つまりこういうことだ。
二人は巨人を緩やかな弧を描くように誘導する。そして、目的地まで来たら二人でその弧の内側を通るように飛ぶ。すると歪な『中』のような流れで巨人を誘導するのだ。
するとどうだろう。二人がリヴァイとエルドの場所まで戻ってきたときには、周りは巨人自らが倒した巨木で身動きが取れなくなるのだ。まさに袋の鼠。巨人二体が動けるスペースが僅かなのに対し、先遣隊は倒れた巨木を使ってトリッキーな動きが可能になる。一気に形勢逆転である。
動けないことを悟った巨人たちは闇雲に腕を振り回す——が、互いの拳が互いにあたり、自滅へと追い込む。勢いよく二体が倒れるとペトラとオルオが足の腱・付け根・腕を刻んでく。
「今です!」
ペトラが叫ぶと。日の光を遮るように黒い影がものすごい速さで振ってくる。そして、それが人の形になった時、二体の巨人は大声を発しながら力尽きた。リヴァイとエルドが仕留めることに成功したのだ。
あたりには蒸気が立ち込める。互いの顔がやっと確認できるくらいに。その顔は喜びでも憎しみでもない、複雑な表情だったが、僅かに達成感を感じられるものだった。