二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- chapter05 〜キオクのウタ〜 (非)日常編 ( No.195 )
- 日時: 2014/01/27 20:00
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: hH8V8uWJ)
新しい街に足を踏み入れた私は、妙に懐かしい感触に襲われる。辺り一面のピンク色。空や道もが、その舞い散る桜で覆われていた。———一言でいうならば、「春」なのかしら…。
儚くも美しい光景に、私はただただ見とれていた。
場違いなモノクマオブジェが目に入るたびに幻滅するのはいつもと変わらなかったけど…。
「ふわぁ…!すごく綺麗だね、ここ」
「でもこの桜、人口のモノみたいだぜェ。でも、ここまで出来るッて…。流石は希望ヶ峰だよなァ」
「か、感心してないで探索開始しようよ…」
「そうね。一刻も、無駄には出来ないものね」
桜の舞い散る光景に私は一瞬目的を忘れそうになるが、なんとか気持ちを持ち直し探索を開始した。
…私を心配そうに見つめる白戸さんが気になったけど…ううん、気にしてる場合じゃないわ。
しばらく歩いていると、薬品がガラス越しにたくさん置いてある店を発見する。……恐らく、『薬屋さん』なのかしら?
気になって入ろうと提案すると、羽柴くんが半ば興奮気味に賛同してくれた。あぁそっか、彼は『超高校級の科学部』なんだっけ…。
薬屋さんに入ってみると、独特のツンとした匂いが私の鼻に入ってくる。うう、やっぱり薬屋さんなんだわここ…。
「すげェ…。海外では輸入禁止になッてるとんでもない薬品まで揃ッてる…。こ、ここが宝庫だッたのか?!」
「うーん…。匂いがきつくて私には長居は無理だよぉ…」
「ぼ、僕も…」
「あ、え、えッと…。なんか、ごめんなァ。一人で興奮しちまッて」
「ううん。誰しも好きなものを見ると興奮するものよ。調べたいなら、隅々まで調べることをお勧めするわ」
「あ、あァ…」
———どうしたのかしら?普通に返したつもりだったんだけど、羽柴くんに変な表情をされてしまった。まるで、私を心配しているような…。うーん…何か良くないことでもしたのかしら?
その場を何とかはぐらかし探索を続けていると、書類の棚に入っている一際目立つ黒いファイルを発見した。
気になってファイルを取ってみると…。そこには、汚い字で『かいふうげんきん』と書かれていた。
…これ、前にも見たパターンね。あの時はモニャンが書いた字だったわけだけど…。今回はそれよりも汚い字。十中八九モノクマだろう。と、いうことは…。
これに、何らかの情報が入っているに違いない。
「みんな、これ見て。あそこの棚に入っていたわ」
「神谷さん、それ…」
「ファイルに汚い字で『見るな』って……黒い本と同じパターンだね」
「でもよォ…。これ、多分モニャンがつけたわけじゃなさそうだぜェ?」
「私もそう思う。だから…後でみんなで見てみることにしない?」
ここで勝手に開封して、モノクマに情報を隠されてしまっては元も子もない。私がそう提案すると、みんな賛同してくれた。
薬屋には他に目ぼしいものはなかったので、とりあえず外に出ることにした。
薬品の詰まった室内からの解放感が心地よかったことは……羽柴くんには内緒にしておこう。
再び探索を続けていると、次に大きなモノクマオブジェが特徴的な城が目に入ってきた。街に城…?一瞬不審に思ったが、あのモノクマだ。趣味の悪いものを一つ二つ用意したっておかしくない。
「お城…だね」
「いかにも趣味悪いけどな」
「写真で見るお城とは違って不気味だよね…。どうする?入る?」
「えぇ。入ってみましょう」
モノクマキャッスル(仮名だけど…)に入り探索を続けたけど…。モノクマの異様な飾り以外には特に気になるものは見つけられなかった。
どうやら他のみんなも同じだったらしく、私達は落胆しつつモノクマキャッスルを後にすることにした。
———無駄に大きいだけじゃないの、この城…。
「あぁ…目がちかちかする…」
「そりャあ白と黒で作られた城だもんなァ。目もちかちかするよなァ…」
「白黒の映画見たほうがずっとマシだよ…」
気を取り直し町の探索を続けていると、スパナの看板が特徴的な店を発見した。
『パーツショップ エレクトリック』か…。機械の専門店、なのかしら?
「機械のパーツなんかが置いてあるみたいだね。秦野くんに言ったら喜びそう!」
「アルターエゴの強化パーツに使えそうなものもあるかもしれないわね。中に入ってみましょう」
「映画映画…」
「流石にそれはねーと思うぞ…」
珍しく興奮気味の白戸さんを連れて、私達はパーツショップに入ってみる。星野くんの言った通り、店には機械のパーツがびっしりと並んでいる。小さいものから凶器に使えそうな、大きなものまで…。まぁ、もうコロシアイは起こさないんだし関係ないんだけど…。
歩いていると、ふと星野くんが「あ」と声をあげる。
「どうしたの?」
「ねぇ、このドライバー1本だけ色が変だよ?それに…これ、何か柄の部分に彫ってる跡がある」
「あ…ほんとだ。えっと…『そうだ』って読めるみたいだね…」
「『そうだ』…?そうだって、もしかして…」
名前を聞いた瞬間、何かが私の中を駆け巡る。『そうだ』という人を、私はどこかで見ている…はず。記憶の引き出しを数瞬で駆け巡り、私はある『1つの知識』を本棚から取り出した。
「…それ、もしかして…。アルターエゴのデータベースにあった『77期生の生徒の名前』じゃないかしら?」
「あッ!そういえば『左右田和一』ッて奴がいたなァ」
「じゃあ…このドライバーは、左右田って人の私物なのかなぁ…。でも、どうしてこんなところに…」
「うーーん…。とりあえず、写真だけ撮って帰りましょう。勝手に持って帰ったら何起こるか分からないからね」
他にめぼしいものはなかったので、パーツショップを後にすることにした。
……今回は、この『黒いファイル』がなにか手がかりになるのかしら。そうだとしたら、早く帰ってみんなに知らせないと———!
そう思って、帰ることを提案しようとしたその時だった。
「ワリィ、星野と白戸だけ先に帰っててくんねェか」
「え?いいけど…用事でもあるの?」
「ちょッとしたデートだよデート。すぐ戻るから気にすんな」
「え、ちょ、羽柴くん?!」
「うん…分かったけど…。二人とも気を付けてね?」
「おう」
そう言って、羽柴くんは他の2人を先に帰してしまった。そして、私を街にあったベンチに座らせて、彼も座る。
———改めて、羽柴くんの背が高いことを思い知らされた。
そう思ってるのも束の間、彼は私に向かって真剣みを帯びた声で話し始めた。
———『躍起になっている私』を止めてくれる、『仲間』という存在を改めて感じさせる話を…。
- chapter05 〜キオクのウタ〜 (非)日常編 ( No.196 )
- 日時: 2014/01/29 18:23
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: Qv./XS1Y)
「…なァ、神谷」
「…何?こうして話している時間は私達には残っていないのよ?需要のない話をするなら早くホテルに戻りましょう」
「………はァ」
今思っていることを素直に伝えたのに、羽柴くんにため息をつかれてしまった。…うーん、私彼に気に障ること言ったかしら…。
こうしている間にもモノクマは何をしでかすか分からない。もしかしたら、先に戻った星野くんや白戸さんもろともホテル班の人達に何かあったのかもしれない。そうなってからでは、遅い。
…だから、こうしてベンチに座って話をしている場合ではないのに…。
表情を全く変えずに座っている私を、羽柴くんは無理やり自分と向き合わせるようにして座らせた。……こ、これって男女でいえば「恋人」がやることでしょ?!ま、まさか羽柴くん……。
私が変なことを頭で考えていると、羽柴くんは声を落ち着かせてこう呟いた。
「シオンの最期の言葉、真に受けすぎだッての」
「…え?」
「神谷がこうやってやッかみになってモノクマに立ち向かうのも分からねェワケじゃねェ。でもよォ…。これじゃ…自滅すんぞ、お前」
「……自滅……」
『自滅』。彼からその言葉を聞いた時、私の胸に何かが突き刺さるような気がした。こう、鋭利な刃とか…じゃなくて、冷たい氷で出来た刃物のような『何か』。気付いた瞬間、その異物感はよりいっそう大きくなっているような気がする。
———私は、間違っている?
「…なァ」
「何?」
「…昔な、俺と一緒に科学実験をずーっとやってた親友がいたんだ。小学生からの仲でさァ、俺達は互いを高めあいながら、科学の知識を深めていったんだ」
「…………」
ふと、羽柴くんが昔話を私に話してくれた。どうやら、彼が『科学部』として有名になるまでの経緯、だという。
「神谷は知ってると思うが、俺はその頃に『疫病を治す薬』を開発してノーベル化学賞を貰ったんだよ。…あの時はとても光栄な気持ちでいっぱいだったが、悲しみも沢山あったんだ」
「どういう、こと?」
「俺が薬を開発して有名になったことを、親友が良しとしなかったんだよ。俺だけがちやほやされることが、嫌だったんだろうよ。…その時は小学生だったから、そいつの気持ちなんて分かってやれなかった。
…科学賞の授与式の前日だったかな。俺はそいつにとある人気のない公園まで連れてこられたんだ。そして……。『俺よりもすごい疫病を治す薬』っていうのを作ったって言ったんだ。でも、それは俺の分析だと『失敗作』。それをあいつは『すごいもの』として俺に見せてきた。
そして…そいつは言ったんだ。『お前には絶対に負けない』って」
「羽柴くん…」
思わず彼の名前を呼ぶが、彼は真剣みを帯びた目をやめずに話を続けた。
まるで、自分を戒めるかのように。ゆっくりと、彼独特の低い声で。
「そいつは、俺の目の前でその薬を飲みやがった。そして…そいつは『すごいだろ!!』って言いながら……俺の目の前で死んだ。
そいつの作った薬は『疫病を治す薬』なんかじゃない。失敗して生み出された『毒薬』だったんだよ…。
俺への嫉妬でやっかみになって、結局は自滅したんだ…」
「…………」
「神谷。今のお前は…なんとなく、そいつと同じ影が見えるんだ。だから…シオンの言葉を『使命』だとは思うな」
「…でも…それじゃ…」
「別の方向にシフトチェンジすりゃいいだけの話じゃねェか。何つーか…俺にもよくわかんねェけど…。あいつの言葉借りるなら、『一つの支えとして稼働させる』ってやつか?」
「『…一つの…支え…』」
———そういえば、佐藤さんが殺される前にシオンくんは私に言っていた。『みんなの言葉、そして姿を支えにすれば、怖いものなどない』と…。
もしかして、彼がみんなのために犠牲になろうとしたその心は、私達がいたから…だったのかもしれない。
彼が言いたかったのは…一人一人が持つ『希望』なんかじゃなくて…みんなで紡ぎだす『絆』なんじゃないかって。
———今更答えにたどり着くなんて。本当、私は『超高校級の知識』失格よね。
多分…ホテルから出ようとした時に冥雅くんが私の手を握ったのも…同じ意味だったのかもしれない。羽柴くんが、今私に気づかせてくれているように。
…一人で突っ走って、何になるのよ。私達には…『仲間』がいるじゃない。
「もう…大丈夫。羽柴くん、気づかせてくれて…ありがとう。シオンくんの言いたかったこと…今更気付いたわ」
「ま、あいつの言うことは俺にはさっぱりだけどさァ。神谷の今の顔、さっきより100倍いい顔してんぜェ」
「…うふふ。私は一人じゃない。『仲間』がいるのよね…。モノクマが何をしても、私達は諦めない。だから…もう、心配はいらない。私には、みんなには、『絆』があるわ」
「…そこまで元気になったら大丈夫、だなァ。さ、ホテルに戻ろうぜェ。お前を好いてる奴が禁断症状起こしてもしらねーぞー?」
「何よそれ…」
羽柴くんの冗談にも、いつも通り突っ込むことができた。…ふふ、冗談きついわよ。
私達は他愛ない話で談笑しながら、ホテルへの道を戻って行った。
「———冥雅。あとはお前が気持ち伝えるだけだ。大丈夫、影から応援してるぜェ」
羽柴くんが冥雅くんに向かって何か話してたみたいだけど…。なんだったのかしらね?