二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 零章「生まれたての葉と幻想郷」 ( No.1 )
- 日時: 2014/01/25 00:50
- 名前: 幻灯夜城 (ID: z0poZTP7)
気づけば、私はここにいた。
「……」
どうして、ここにいるのか。
なぜ、ここにいるのか。
——何故か、何も分からない。
「私は、一体……?」
風の吹く丘の上で、一人、私は立っていた。
此処が何なのか、何故ここに私がいるのか、どうして、ここにいるのか。
そもそも私は何なのだろうか。
何故か何も分からない。分からないということは、恐怖を生む。新鮮な大地の中に踏み出した者が未知に対して警戒することは出来れど、突如何も無い存在が何かある場所に放り込まれようものなら、恐怖と不安で塗りつぶされてしまうことだろう。
「……あれ」
「……!」
ぼぅっとして、風に吹かれ流され行く木の葉を見ながら己について悩んでいた時のことだ。
「見かけない顔だね?」
そう言って私に話しかけてきたのは、紫色の少女。
初めて見る、他の人。初めて出会う、他の人。
紫色の少女は私に初めてを与えてくれた。
「ふんふん……植物の妖怪、みたいだけどきみは……どこから来たの?」
その問いに、何も無かった頃の私は言葉を発さず首を横に振って答える。即ち、否定。即ち、「わからない」という意思を伝える。
「わからない、の……?……植物の妖怪もいないわけじゃないけど、生まれたてってのは初めてかも」
紫色の少女は感心するように、頷き、思考し始める。
生まれたて、植物の妖怪、何を言っているのだろうか。
「……よーし」
そして紫色の少女はまだ何も見ていない私の瞳を見据えて告げる。
「私が教えてあげる。この、おかしくて素敵な幻想郷のことを! なーんて気取っちゃったりして。きみ、名前はなんていうの?」
……名前?
首をかしげる私など意にも介さずに紫色の少女の口は止まらない。
「って、ないよね。じゃぁ君でいいよね。あ、ちなみに私は——」
————
幻想郷について。
私の力について。
その妖怪だけからじゃなく、植物達からも教えてもらった。
——楽しかった。
色んなことを知れて、話すことができて、
だけど、しばらくして、
「……」
ふと、見回してみれば——。
同じ場所、同じ大地、同じ世界のはずなのに。
そこにあった若々しさや水々しさは、無くなっていた。
代わりにあるのは寂寥とした赤土と、荒涼とした大地。
——助けたい。
みんなを、助けたい。
そう、あの妖怪……いや。
「……お姉ちゃん、私は、皆さんを助けたいです」
・・・・・
——お姉ちゃんにそう言った。
「私もだよ。……冷静に聞いてね」
「この、植物達が枯れる現象。……きっとこれは幻想郷中に広まるわ。
……この場所だけじゃなくなると思う」
そう言うお姉ちゃんの口ぶりは何時もの明るい調子ではなく、ずっしりと何かを思いつめるような暗い調子で、でも覚悟が決まっていた、そんな印象を私に与えてくる。「だから」最後にお姉ちゃんはそう付け加えて、
「この異変を解決する手段を探そ?……私は私で探すから、君も君で」
「……うんっ!」
あの時。
「こういう異変を解決することが仕事の人がいるの。その人に手伝ってもらって」
「……ど、どんな人なのでしょうか?」
あの時、私が、
「どんな人?そうね。確か、博麗神社ってところにいる、博麗 霊夢っていう巫女さんだったと思う」
「博麗 霊夢さん……博麗神社の巫女さんって人を探せばいいんですね」
お姉ちゃんの思いに気づいてあげられていたなら、
「うん、だから、君は博麗神社へ。……そして、異変を解決できる手段を見つけたら、私のことを探して。私も、何か手段を見つけたら君を探すから」
「はい。お姉ちゃん、私がんばりますっ!」
どんなに、楽だったんだろう。
・
「うん、その意気だよ。……じゃぁ、君に、葉にプレゼント」
「ほぇ? ぷ、プレゼントですか? と、というか葉って……」
「これからは、知らない人や妖怪とも話すんだがら、名前ぐらいないと不便でしょ? だから、君に名前。
・・ ・
——瀬笈 葉 だよ」
葉、瀬笈 葉。
それが、私の名前。このかつて緑が溢れていた大地を象徴するかのような若々しくも輝かしい、そして——お姉ちゃんがくれた、名前。
二度、三度、反復してかみ締める。これが私の、名前なんだ。
「がんばろうね、葉。絶対——植物達を助けようね」
「——はいっ!」
—行こう、いや、行かなければ。
博麗神社に。
————
—原作:東方project ならびに ASATO氏製作「東方自然癒」
—著者、幻灯夜城
『東方自然癒—一枚の葉と幻想郷—』
はじまりはじまり……