二次創作小説(映像)※倉庫ログ

幕間「もう戻れない」 ( No.21 )
日時: 2014/11/28 20:28
名前: 幻灯夜城 (ID: 3mZ8rXZz)

 草木も眠る丑三つ時という言葉が存在する。
 その言葉は幽霊共が跋扈する時間帯であり、古来……といっても極300年位前までは恐れられていた時間帯であった。人は闇を恐れる。その傾向が風習となり、やがては亡霊を見たなどという逸話が横行する。

 しかし、幻想郷においてその常識は通用しない。
 夜だろうがなんだろうが、植物は眠らない。

 深く、深い、森の中。
 入る事を躊躇われるような世界の中。

 ——葉様が、博麗の巫女、ならびに魔法使いと接触しました——

「……そう」

 奥深く。暗い、暗い、夜の中。月明かりのみが差す場所に紫色の少女はいた。彼女は物憂げな顔で、植物下級妖怪からの報告を聞き頷く。

 ——今後も、監視を続けますか?——

「ええ、お願い。出る時期位は見極めておきたいから。ただ、気をつけてね。姿を晒したらあっという間に倒されちゃうよ」

 ——……肝に銘じておきます。■■様も、あまり気に病みすぎることのないよう。貴女様が体調を崩されましては、今回の策は元も子もなくなるのですから——

 かなり高い位にいる下級妖怪なのであろう。本当に彼女の身を案じるその姿に、少女はくすりと笑って「大丈夫よ」とだけ答えた。
 その後に姿は消えた。他の者達に伝令を回しにいったのだろう。

 月を見上げて、思う。
 私はどうすればよいのかと。
 こんな残酷な運命をあの子に背負わせた私は、酷い裏切り者なのではないかと。できるなら代わってやりたいと。

「……ごめんなさい」

 ぽつり、とそれだけを呟いて彼女は森の奥へと消えていった。

 残されたのは寂しげに灯る月明かりのみ。
 一陣の風が木の葉を揺らし、漣立ててゆく……。


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