二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」4 ( No.7 )
日時: 2014/01/27 19:33
名前: 幻灯夜城 (ID: 8pAHbekK)

——植物が元気を無くす。
それを聞いて頭に浮かぶのはあの西行桜の異変。どこぞの未練がましい幽霊が幻想郷から春を奪い去り、その春で桜を満開に咲かせようという計画だ。
そして、それが原因で一時的に幻想郷からは活気が奪われていた。当然、春が奪われたのだから冬が長く続き、植物が芽吹かなかったのだ。

「まだ冬には遠いぜ?」
「冬だって、植物は元気です」

同じことを思ったのか茶を飲む手を一旦止めて魔理沙が疑問を呈す。
だが、葉から言わせれば"そういうの"とはまた違うらしい。

「でも、何故か"急に"みんな元気が無くなっちゃって……」
「元気が無いって……枯れていってるとか?」
「枯れていったり、話す気力が無かったり……。とにかく、元気が無いって状態なんです」
「話す気力? 植物って話すのか?」

先程から葉の言い回しにはどこか霊夢達の常識とはかけ離れたものを感じさせるものがある。常識に囚われない幻想郷の住民からしても、葉の言い方や言葉の選び、そのどれもが不思議なものだ。
話す気力、というのもまたその類なのだろうか。

そんな魔理沙の単純な疑問に元気良く、自分が見聞きしたことを嬉しそうに伝える子供のように声を弾ませ葉は答える。

「はいっ! 向日葵さんなんか、夏は毎日熱唱してますよ!」

その言葉に二人は顔を見合わせて同時に同じ想像をした。
想像してみよう。あの幽香がたっぷりと愛情(?)を込めて育てている向日葵の大群が、太陽をいっぱいに上げて高らかに歌う姿を——。

「……なんか、近づきたくなくなるな……」
「……え、えぇ……」

想像するだけでとてもシュールである。両者共途端に能面のような表情になる。

「……コホン、植物とかには詳しくないけど、病気とかじゃないの?」

気を取り直して咳払いを一つ。場を整え、再び葉に事情を伺う。

「ちがいます。そしたら、私だけ無事な理由がありません」
「ってことは、葉は植物の妖怪ってとこか」

病気かもしれない——その可能性も在りうるのだが、それは葉の言葉によって一掃された。
成る程。それは確かに在り得ない。偶然かかっていないという可能性も否定は出来ないが、それでも植物である葉が病に犯されていないというのは、もし病気のせいで元気を無くしているのであれば不思議な話だ。

話を整理する。
葉の話は、植物達が急に元気を無くしたというもの。
・それは枯れる、とは違う元気の無くしかたであるらしい。
・葉は植物の妖怪。彼女"だけ"が無事なら、病気説は在り得ない。

「……シンプルじゃないってのもまた困りものよね」

長い話で手を付けるのを忘れ、すっかり冷めた茶を口に含み紅白の異変解決のスペシャリスト——霊夢は熟考する。
今までに相対してきた敵は、必ずどこかに黒幕がいるというものだ。だから、ソイツ等をふっ飛ばせば済む話であった。
だが今回はそうもいかない。何せ情報が漠然とし過ぎている。

「ま、なんにせよ行ってみればいいんじゃないか?」
「そうね、考えるよりは動いた方がいいわ」

しかし今根つめるように考えても何も解決への手がかりは出てこない。
ここは、一気に茶を飲み干して早速行動に移ろうと進言する魔理沙の言葉に従い、情報源を片っ端から洗っていこう。
         ・・・
「じゃぁ、ちょっと紅魔館にでも行ってみる?」

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」5 ( No.8 )
日時: 2014/01/28 15:56
名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)

魔理沙、そして葉に霊夢は行き先の提案を告げる。あそこならば動かない大図書館やあそこ一帯を統べているに等しい紅魔の主もいる。
そこならば知識の一つや二つはもらえるかもしれない。そう思って提案したのだがここで若干一名の表情が一変する。

「……え"」

それは魔理沙だ。ぎくり、と擬音が聞こえるくらいに震え上がったその体。
額には汗が浮かんでおり、それだけで何か隠していることを伝えてくれる。

「なに?」
「い、いや、その……ど、どうしてだ?」
「ほら、パチュリーとか結構知恵を貸してくれそうじゃない?」
「あー、そう、だな……」

……彼女の様子があきらかにおかしい。その表情が今飲んだ茶が一気に苦くなったかのようになっている。
紅魔館という名前が出た時から何か気まずそうにしていたのだが、パチュリーの名が出てから更に額に冷や汗まで浮かび始めている。
不信に思い、霊夢は魔理沙に近づき彼女の瞳をじっと見つめて問い詰める。

「なんかマズいことでもあるの?」
「いやぁ……実は」

しっかりと見つめてくる霊夢から視線を逸らさざるを得ない魔理沙は近い近いと霊夢の顔を押しやるようにして苦し紛れに白状した。

「……ちょっと本を借りてきたばかりで……」

……呆れた。
こういう時に限って面倒ごとになりやすいのだ。信頼度が零になればGAMEOVERな世界もあるように、こっちだって信頼度が低くなればまともな扱いをしてもらえない。
情報は信頼あってのもの。それを情報収集する前から損ねてどうするというのだ。
無論、彼女が"白状"したことは初対面である葉は全く知らない。何も知らぬ者が見れば、魔理沙の様子はただ本を返しそびれて気まずくなっている人のようにしか見えない。

「だったら、丁度返しに「葉、魔理沙の"借りる"っていうのは"盗む"ってことだから」……へっ?」

聞こえはいいが実態はそういうことである。
実態を聞かされた葉は鳩が豆鉄砲を食らったような表情で霊夢を見る。彼女は二言はないと言わんばかりにうなずく。
その表情のまま魔理沙を見る。彼女は相変わらず苦い笑みを浮かべたまま。

「ちゃんと借りてるぜ? 死ぬまでな。とにかく、他に行こうぜ!」
「ダメですよ、借りたものはちゃんと返しておかないと魔理沙さんに誰も貸してくれなくなっちゃいますよ?」
(もうそんな感じだけどね)

そして全く悪びれることなくさらりと逃れようとした魔理沙であったが、良心(というより一般人の感覚なのだが)である葉は穏やかに魔理沙の行動を苛め、優しく厳しく忠告する。

——と、ここで葉が意外な提案をした。

「そうだ! 私も手伝いますから、一緒に本を返しましょう!」

少なくとも魔理沙と他の関係者のやり取りを知る者からすれば在り得ない、といった風な言葉が出てくる位に意外な提案だ。
いや、それでなくとも「死ぬまで借りる主義」の魔理沙からしても考えられない(考えたことが無い)言葉でもある。

「いや、家……散らかってるし」
「私、探し物を見つけるのは上手だって褒められました!」

事実を述べただけなのにどんどん後が無くなってゆく魔理沙。目線を泳がせて、必死に何か言おうと考えている。いつも強気な彼女がこんな風に弱々しくなり狼狽する様を見るのもかなり久しぶりかもしれない。

そして最終的に根負けしたのは魔理沙の方であった。

「〜〜っ、分かったぜ。後悔するなよ?」

純粋な良心から来る真っ直ぐな心に耐え切ることが出来なかったのだろう。負け台詞染みたものを吐いてしぶしぶ承諾する。
(後悔する程のものなのね……まぁいいわ)。
コイツの私生活は一体どうなっているのだろう。話に入っていないのにも関わらず霊夢の心に呆れを通り越した感心すら出てくる。
はぁ、息を吐きとりあえず行動指針が決まったようなものだ。

「じゃぁ、まずは魔理沙ん家ね」
「ああ」

そして、適当に準備——といっても弾幕として撒き散らす札を霊夢が持っただけなのだが——を済ませ、外へ出る。
霊夢達の心中とは裏腹に、太陽は今日も光沢を放ち大地を、この幻想郷を照らしていた。
それはまるで、葉の笑顔のようでもあった。

——こうして、不思議な少女「葉」から受けた奇妙な依頼の遂行が始まった。
まずやることは、紅魔館で魔理沙が借りた(盗んだ)本を返すべく魔理沙の家へと向かうとこからであった。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」6 ( No.9 )
日時: 2014/01/28 18:23
名前: 幻灯夜城 (ID: nyr1MBL9)

——魔法の森

鬱蒼とした木々が生い茂り、辺りにはよく分からないキノコまで生えているこの地。名を"魔法の森"といい、此処を抜ければ魔理沙の家が見えてくる。入り口付近まで歩く三人。
と、幸か不幸か、丁度野良妖怪のような生物と遭遇した。壺型に何か生えているような妖怪。

それを見つけるなり後方を歩いていた葉がいきなり駆け出した。

「ちょっ、葉?」

どういうわけかさっぱり分からず後を追う二人。
そして、肝心の葉はその野良妖怪に笑顔で挨拶をしている最中であった。

「こんにちは」
「……」

一応言っておくが、挨拶したからって答えてくれるような小妖怪なんてほとんどいない。妖精とかは別だとしても。

「「普通に挨拶した(やつ)(の)は初めて(だぜ)(見るわね)」」
「え」

二人揃って同じ感想が漏れる辺り、葉はやはりどこか普通じゃないのかもしれない。しかもその葉ときたら突っ込みに対して鳩が豆鉄砲食らったみたいになってるし。

「うーん。結構、葉って扱いづらいわね……」
「ご、ごめんなさい……」

霊夢も今までに関わったことがない部類であるが故に思わず苦言を漏らすと、律儀にも葉が霊夢のほうを向いてしゅんとした様子で謝罪する。
その光景は思わず微笑みを漏らしてしまいそうになるもの。
ただし、完全に小妖怪を除け者にして背に追いやっているが。

「ま、いいさ。それに、余所見してると危ないぜ?」
「へ……?」

苦笑いしながら魔理沙が忠告する。
それに嫌な予感を覚えた葉が再び妖怪の方をくるりと振り返り——。

「ぎゃっ」

突如壺から伸びてきた触手が葉を捉えんと蠢いてきた。慌てて武器を取り出そうとしたがその手、その足を捉えられ宙吊りにされてしまう。

「た、た助けてー!!」
「ああもう仕方ないわね!! 動かないでよ!!」
「やれやれ……」

まさかと思うがこれしきの事に突っかかるとはまるで思ってもいなかった。触手にひっ捕らえられ、宙で弄ばれる葉。
助けを求めるその声に思わず吐き捨て、霊夢は手元よりお札を取り出す。同時に魔理沙も小さな道具——八卦路を取り出すと共に手元に小さな魔法陣の形成を始める。

「さっさと放しな——さいっ!!」
「おイタが過ぎるのはよくないぜっ!」

狙うは触手を行使する本体。
霊夢の札は投擲されたと同時に鋭い針のような弾幕へと変化し、触手の本体である壺へと飛んでゆく。
一瞬怯み、触手の動きが止まる。そこへダメ押しと言わんばかりの魔理沙の八卦路から放たれた小型レーザーがぶちこまれる。

緩んだ触手。
必死にもがいていた葉は突如緩んだ反動で束縛から解き放たれると共にGに任せて勢い良く落下し、腰を思い切り打ち付ける。

「アイタタ……な、なんでおそわれたんでしょう……?」
「今更言っても遅いでしょうが。下級妖怪同士でなんか会話出来ないわけ?」
「……えっと」

その言葉で我を取り戻し、一旦瞳を閉じて耳を澄ます葉。
そして、困り顔で彼女が告げた回答。それは、

「……魔理沙さんが、嫌いみたいです……」
「また私かよ?」
「とりあえず、魔理沙のせいってわけね。まったく……」

結局こうなるのかとしぶしぶ札を構えなおす霊夢。その手に持っているのはお祓い棒。
立て続けに理不尽な不幸が舞い込んでくることに謎の憤りを感じずにいながらも箒を構える魔理沙。
それに続いて葉も、懐より鉄扇子を取り出す。

「ま、いいわ。いつもどおりやるわよ。葉、あなたも神社まで来た位だからやり方分かってるでしょ?」
「勿論ですっ!」

お姉ちゃん仕込みの直伝弾幕、というより自分の"能力"を生かした戦い方は身に着けているつもりだ。そうでなければあそこからここまで来る時に妖怪に襲われていた時にどうしようも無くなっていただろう。

「準備はバッチリってわけだな。そういうの好きだぜ」
「じゃぁ、サクっとやっちゃいましょ」

言うなり、先手を切ったのは霊夢だ。
振るったお祓い棒より放たれるはお札型の弾幕——直線的な弾道で突き進み、小妖怪に一撃を与え怯ませる。
間髪入れずに魔理沙が追撃を入れるべく背後に回りこむ、が——。

「っぶね!?」

背後に回り込もうとした彼女に細い一本の影が差し、気づいて地面を転がる形でよければ次の瞬間には触手の一撃が大地に叩きつけられる。
迂闊だった。幾ら怯んでいるとはいえ、コイツの手に当たる触手は無数にあるのだ。気を抜けば思わぬ所で傷付いてしまうかもしれない。

「調子乗ってるとやられるわよ魔理沙!」
「んなことわかってるんだ、ぜっ!」

転がり様にまさかの寝転がった姿勢のままレーザーを妖怪へと向けて放つ。

一筋の閃光が真昼の空を駆け抜ける。
弾幕はパワー——ブレインと対極を成す閃光は、触手をたたきつけたことによって隙だらけとなっていた小妖怪にクリーンヒットし、小さな呻き声を上げさせる事に成功する。

「やりぃ!」

自身の一撃が絶大な効果を齎したことに思わずガッツポーズする魔理沙。だが、慢心は敗北を招き寄せるように、魔理沙にもまた敗北の触手が忍び寄ってきていた。

「危ない魔理沙さんっ!!」
「うぇ……? いっ!?」

いち早く気づいたのは葉だ。
葉っぱカッター、即ち葉型の弾幕を投射していた葉であるが魔理沙の頭上に影が差し込んでおり、触手が今にもたたきつけられんと振り下ろされる——

——寸前で、その動きが"止められる"。

「は……?」

叩きつけられるそれに思わず目を塞ぐように腕を交差させた魔理沙であったが、何時まで経っても衝撃が来ないことに不信に思いちらりと腕の間から顔を覗かせ、そして驚愕する。

ぎちり、ぎちり、と音がする。
触手を縛る、"自然の触手"。即ち——"蔓"。
無数の蔓が小妖怪を縛り上げ雁字搦めにし、その身動きを封じていた。

「ふぅ……か、間一髪です……」

それを行使するのは、緑色の幼い少女——"葉"。

「ちょっと……これ、アンタが?」
「ほぇ、そ、そうですけど。それより早くトドメを!」

余りの異質さに霊夢が呆然とするも敵が動けなくなっている今こそが好機。危機を救われた魔理沙、そして霊夢は各々の弾幕を走らせる。

一方向より札の群れが。
一方向より一筋のレーザーが。
挟み撃ちにする形で、動きを封じられた妖怪に叩きつけられた。

「ピギイィイ……」

二人の弾幕に挟まれた小妖怪はたまらず森の奥へと傷ついた体を引きずり逃走する。やはり怒りより命が優先のようであった。

「ふ、ふぅ……」

植物の行使で体力を消費したのだろう。
戦闘が終わるのとほぼ同時に、ふらりとクラついたかのようにフラフラ動いた葉であったが、やがて立ってられないと言わんばかりにへたりこんだのだから。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」7 ( No.10 )
日時: 2014/01/31 17:46
名前: 幻灯夜城 (ID: Dgyo6F5o)

「うーん……まぁ、最初はそんなものだな。しかし、さっきはヒヤヒヤしたぜ」
「よく言うでしょ、ヒヤリハットとかって。アンタも気をつけてないとその内やられるわよ」

疲労困憊といった様子で地面にへたりこんだ葉とは対照に、霊夢と魔理沙はそんな他愛の無い会話を続けている。そこに戦闘の後に来る疲れのような色が全く感じられない。

「お、お二人はっ……余裕そう、です……ね……」
「慣れっこだからね、こういうの。葉もそのうち慣れるわ」

何でもなさそうに霊夢は答えた。慣れっこ——というより霊夢に至っては慣れるの極地を極めていると言っても過言ではないのだが。
 実際、戦闘中にも明らかに差が出ていた。
葉っぱの弾幕を飛ばすことに集中していたせいで動きが緩慢になっていた葉に対し、霊夢や魔理沙は俊敏な動きで妖怪を翻弄しながら弾幕を打ち込んでいる。力技で押し切ろうとする魔理沙は相手の動きが少しでも鈍ったところへ、ダメージを積み上げて一気に叩き込まんとする霊夢は相手にこちらの隙を見せないように、と言った具合に弾幕の扱い方にも慣れている様子であった。

「……そういえば、スペルカード準備してなかったな」

今更といった風に魔理沙が呟く。スペルカード、弾幕ごっこにおける重要なアイテムであり今回のような小妖怪に対しても使われる代物だ。
霊夢は神社に置いてきているし、魔理沙も自分の家に置いてきたままなのだ。

「今更でしょ。結果オーライってやつよ」

何でもなさそうに霊夢が返す。
どの道、あのレベルの敵であればスペルカードなど無くとも十分。

「じゃあ私のアレも結果オーライってことで「それは不注意で」」

流石お調子者といったところか。魔理沙がおどけるのを何時ものように霊夢が突っ込みを入れたところで彼女はふと思う。

「そういえば、葉はスペルカードどうしたのよ?」
「えっと……そういうのまったく必要なかったので……」

困ったように答える葉。
最も、今みたいなのはお姉ちゃんが全部倒してくれていたのもあってか葉に関しては最低限の防衛術程度しか覚えていないのだ。

「のんびりしたところにいたのねぇ」

今時人里でも防衛手段が無くていい場所というのは珍しいものである。

「ま、別に大丈夫か。こういうのは私たちに任せとけ」
「は、はいっ!」

今までのんびりとした場所で暮らしてきたが故に戦場に不慣れな葉よりかは、霊夢と魔理沙の方が何百倍も経験の上で勝っている。そのため、戦闘等の荒事は自分達がやった方がいい、そう判断したのだ。

「……さて、その面倒くさい魔理沙の家へ向かいましょう、と言いたいけど……ちょっと久々のアレのせいで疲れたわね。休みましょう」
「え、早く本を「休みましょう」」

有無を言わせずに休ませようとする霊夢。自分が休みたいというのは勿論あるし、何より先程の葉の不慣れな様子を見てこのまま進むと不味いと感じた故にだ。尚、魔理沙は我先にと言わんばかりに丁度いい背丈の木によしかかって腕を伸ばしている。

「わ、分かりました……」
「素直なのはいいことよ」

霊夢から漂ってくる鬼すらもひれ伏しそうなただならぬ気迫に負け、葉もその辺に寝転がる。
それを確認した霊夢もまた此度の疲れを癒すべく、木の方へ寄りかかった。

(……それにしても)

妙だ、と霊夢は思う。
葉の力が特別凄いとか魔理沙が押されていたとかそういうのはどうでもよかった。だが、気のせいだろうか。あの程度の妖怪は普段なら速攻で蹴散らせるのに、今回やたらと苦戦したような気がする。
断じてそれはスペルカードが無いからとかそういうのではない。根本的に、妖怪自体に"何かがあった"ようにしか思えない。

(……杞憂であってくれればいいけど)

また、面倒くさいことにならなければよいのだが。
そんなことを考えながら霊夢はゆっくりと瞳を閉じて視覚を遮断し、底知れぬ暗闇の世界へと入っていく——。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」8 ( No.11 )
日時: 2014/02/04 16:23
名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)

夢を、見ていた。

それは、自分が先代の博麗の巫女を慕っていた頃、己が何も知らない童女であった頃の夢。

夢を、見ていた。

それは、自分が博麗の巫女になった頃、魔理沙と出会い何時ものように弾幕ごっこをしているときの夢。

夢を、見ていた。

それは——"幻想郷が跡形も無く崩壊した夢"。

「……なに、ここ」

呆けたような表情で呟く霊夢の視界いっぱいに広がるのは、不安定な世界を漂う幾つもの領地。霧雨魔法店はない。迷いの森も無い。紅魔館も無い。霊夢の知る博麗神社でさえも無い。
た だただ目を背けたくなるような底なしの虚無だけが広がり続けている。どこまでも、どこまでも。

崩れ果てた広大な領地の中に点々と残る小さな村。それらは確かに人里であった。それらは確かに幻想郷に存在するものであると理解できた。そして、ここが"幻想郷"であることも理解できた。

自分の知る幻想郷はそこには無い。馬鹿騒ぎがあちらこちらで繰り広げられ、毎日のように頭に高濃度のアルコールが回った奴等が問題を起こすような世界はそこにない。よくも悪くも粛々と流れ続ける時の中、人々が身を寄せ合って暮らしている、そんな息苦しい世界。

——信じられなかった。
何故、何故こんなことになったのだろうか。
——信じたくなかった。
これが夢だとわかっているなのに。異常にリアルで生々しくそこに鎮座し続けることを。

目を擦る。目の前の風景を見たくないと言わんばかりに必死に目を擦っては再度見直す。でも結局そこにあるのは異常なまでに生々しい現実の虚無のみ。

「なんだっていうのよ」

早く覚めて欲しい、そう願った。
これ以上見たくない、そう願った。

だが非情にもこの悪夢は霊夢という一人の人間に対して更なる映像を見せ付けんとしてくる。

次に見えたのは、小さな祠であった。重々しく鎮座するそれからは生気といったものが全く感じられず、少しでも気を抜けばその灰色の怖気に飲み込まれてしまいそうな位に寂しい。

その中心にいるのは、緑色の髪をした一人の天女。

「……?」

肩出しの衣装を着て、ただ天を見上げている彼女の瞳は途方もなく暗い。まるで周囲の気に飲み込まれてしまったかのように。
不思議な浮遊感を覚えながらも霊夢はそれに近づく。会ったことが無いはずなのに会ったことがあるような感覚を覚えたからだ。

だが、彼女に触れることは出来ない。
それもそうか、伸ばした手が彼女の肩を透かしたのを確認して諦める。

その時だ。少女がぽつりと漏らしたのは。

「……ごめんなさい」
(……え)

その表情は途方も無い虚無に包まれていながらもちらりと深く染め上げられた青黒い哀しみと絶望の色であった。

「ちょっと、アンタ。何で謝ってんのよ」

聞こえるはずもないのに思わず声を出してしまう。
気のせいだろうか。これが"聞いたことがある"ように思えるのは。
伸ばす手、再び掴もうとする手、そして彼女の心を掴もうとする手。

——それが彼女に届くのよりも先に、夢に終わりが訪れる。
視界が暗く染まっていく。

「ちょっ、そこのアンタ……聞こえてんなら返事くらいっ……!!」

その言葉も届くことは無く、虚無の中に響いて雲散霧消するのみ。
夢に終わりが訪れる。
そして、当の少女はそれを何ら意に介することなく言うのだ。

「"ごめんなさい、皆さん。私は、ここを、壊してしまいました"」

最後に少しだけ聞こえてきたのは、はっきりとした懺悔の言葉。
その意味を問いただすこともならぬまま霊夢の意識は再び闇の底へと引きずりこまれてゆく——。

———

「……むさ……!!……むさん!!」
「れい……ろって……き……って……!!」

「「起きろ(てください)霊夢さん!」」

目覚めは最悪だった。
少女二人の声が同時に耳に響くと同時に頬にぴりぴりとした刺激のようなものを覚えて目を開けると、心配そうに顔を覗きこむ葉と魔理沙が視界に入った。
荒い息を上げながら何が起こったか分からんと言わんばかりに二人の顔を交互に見つめる霊夢。

「私……寝てたのかしら?」
「ああ、寝てたぜ。とびっきりの悪夢でも見ているのかと言わんばかりのうなされ声を上げながらな」
「びっくりしましたよ。私達が霊夢さんの所に行ったっけ、汗ぐっしょりな霊夢さんが凄い声でうなっているんですもん!!」

若干テンパりながら説明する葉とゆっくりと落ち着かせるように話しかける魔理沙。
そこまで凄い事になっていたのか。確かに、額から滴り落ちる滝のような汗を考えても相当疲れていたのだとは思うが。

「……どうする? 霊夢。お前キツいんなら私達だけでも……」
「何でも無いわ。ただうなされてただけよ」
「で、でも体には……」
「悪夢如きに屈するようじゃ巫女失格よ。誰がなんと言おうが私の前進をとめることは出来ないわ。さ、いきましょ、魔理沙の家へ」

二人から休息の勧めを入れられるも強引に断り立ち上がる霊夢。だが、内心は震えが止まらなかった。お世辞にも心臓によろしくない幻想郷の未来。あんなものを見せられた後で平常心でいろというのもまた無理な話であるのだが。
まだ不安気な様子の葉と、やれやれと一度言い出したら止まらない霊夢を気遣う魔理沙の前を歩み始める。

「……ところで魔理沙」
「なんだ?」
「頬がヒリヒリするんだけど、やったのアンタ?」
「ああ、揺さぶっても起きないから渾身の力を入れてお前の頬に思いっきり平手打ちをかましてやったぜ!」
「ああ、そう。やっぱりアンタだったか」
「?」

にっこりと悪魔のような笑みを作る霊夢。
第六感が危機を告げ、僅かに後退りする魔理沙。

そこへ、

「うっごおぉぉっ!!?」

——魔理沙の無防備な脇腹にタイキックをお見舞いしておいた。

「ま、魔理沙さんっ!?」
「さ、ソイツはほっといて行くわよ葉」

呻き苦しむ魔理沙を放置しそ知らぬ顔で歩き出す霊夢。
鳩尾にクリーンヒットしたらしく「うごぉ……」と呻き声を上げながら
後をよろよろとついてくる魔理沙。霊夢と、そして魔理沙を交互に見つつおろおろしながら真ん中を歩く葉。

……魔理沙の家はもうすぐそこにあった。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」9 ( No.12 )
日時: 2014/02/03 17:49
名前: 幻灯夜城 (ID: 0WV2matm)

現在一行は魔理沙の家までもう直ぐといった所まで来ていた。
周囲の草土はいつの間にか怪しげな枯れ草色へと変貌しており、それが魔法の森であるという印象を訪れた者達に強く刻み付ける。

「ってて……霊夢の奴どうしたんだよ……」
「う、う〜ん……」

お調子者の魔理沙が何時ものように霊夢に呆れられ突っ込まれる。それは然程珍しい光景でもなんでもなく、魔理沙も何時もの恒例行事であるかの如くそれを受け入れていた。だが、今日の霊夢は少し違った。いや、厳密にはうなされた後の事だろうか。
何時もより蹴りの切れが凄まじいというか、本人の不機嫌度合いが何時にも増して高まっているというか。とにかく、そんな感じがするのだ。

「……揃って何腐った食べ物見るような目してるのよ」
「何でも無いぜ! さ、さぁ行くか!!」

そして当人である不信に思われたため、これ以上の詮索は止めようと確信する魔理沙。その空気に気圧されるような形で口篭りとりあえず場の空気を和ませようと(逃げようとしたの間違いだが)明後日の方向を向きながら困り顔で「今日のご飯はなんだろなー!」等と大声で歌う葉。
霊夢当人からしてみればこれほどまでに胡散臭く見えたのは彼女等の方ではないか。

「……ん?」

それは、魔理沙の家が後少し、大体五分位で到着するといった所のことである。霊夢の瞳がそこに何かを捉えた。
それは水色の鳥——もっと正確に言うならば鳥型の妖怪が道の真ん中を陣取っている光景。まるで「此処は通さん!」と中ボスのように陣取るその姿は一見すれば可愛らしささえ感じられるものの、その瞳はまさに狩猟者のそれであった。

霊夢達が近づいても、ソイツは我が物顔でそこに居座り通行人のためにそこを避けるような素振りは見せない。

「お、なんだなんだ? やる気か?」

その勇猛たる態度を魔理沙が買ったのだろう。ずずいっと霊夢と並ぶように前に歩み出れば強い語調で喧嘩を売る。
一方の葉は先程ので少々恐怖(というより一般的な警戒心)が芽生えたのだろうか、「はふ〜……お、襲わないで〜……」だなどと小さな声で言いながら魔理沙の後ろに引っ付く形で隠れている。

「襲うなよ

    絶対にだぞ

        襲うなよ」

by霊夢心の俳句

「何一句詠んでんだ」

歩いている内に何時の間に調子を取り戻したのか、霊夢が葉の言葉に合わせて謎の一句を読み始めるのに対し魔理沙がビシりと緊張感零の態度に苦笑いで突っ込みを入れる。
だがあの時の霊夢でないということが少々嬉しくもあったのだが。

「というわけでほら! 構えて! 葉!」
「は、はいっ!」
(何が"というわけで"なんだ……?)

味方、主に葉を鼓舞すべく一喝を入れる霊夢。それに後押しされる形で鉄扇を構える葉。それを見た魔理沙もまた箒を構え臨戦態勢に入る。

「せいっ!!」

まずは葉が先陣を切った。相手を捕らえるべく大地より植物の根を急速成長させて何本も生やし、それを鳥妖怪の羽や嘴に絡めて動きを封じんと複雑な動きを以って襲い掛からせる。

——だが、それよりも速く鳥妖怪が動いた。

「う、きゃっ!?」
「葉!?」

その翼より旋風を起こし、自らに絡み付いてくるそれらを弾き飛ばすと同時に鎌鼬現象を起こし刃となったそれが葉に襲い掛かり、彼女の緑の服に傷を付けてゆく。

「よくも……!!」

飛び上がった霊夢、地上で箒を構える魔理沙。

「魔理沙! タイミング合わせなかったら承知しないんだからね!!」
「言われなくても合点承知だぜ!」

「「はぁっ!!」」

上空に舞い上がった霊夢はそれよりも低い場所にいる鳥妖怪へと向けて弾幕を降り注がせ、そして地上にいる魔理沙もまた光色のレーザーを鳥妖怪へと向けて真っ直ぐに放つ。
天地を生かした挟み撃ちであった。これであれば先ほどのように、翼を羽ばたかせた風によるガードも喰らう心配が無い。

反撃を許さぬ二方向からの砲撃。
だが、鳥妖怪の目が一瞬"笑った"ように見えた。

次の瞬間、叩きつけられるようにして降り注いだ弾幕も、一直線に放たれたレーザーも交差衝突して消滅し——"斜め上に舞い上がった鳥妖怪がこちらに風の刃を飛ばしてくる"。

「んなっ……!?」
「マジかっ……!」

愕然としながらも地上へ降りた霊夢、そして魔理沙は葉を守れるような位置につきそれぞれの弾幕を用いて相殺する。

衝突地点で合い争う風の刃と、レーザーとお札の混合弾幕。
そこを爆心地とし互いに放った攻撃が消滅しあたりに爆風と砂煙を撒き散らす。揺らされた木の葉が戦闘から成る衝撃に耐え切れずに飛ばされ、大地が抉れて行く。

「……キリが無いわね」
「ああ、全くだ」

溜め息を付く霊夢と魔理沙。このままでは互いに互いが消耗しあうというジリ貧状態になるのが目に見えて明らかだ。

「ど、どうするんですか?」

先ほどのダメージはほとんど障らなかったのか、少し息を切らしながらも困り顔で二人に問いかける葉。
その問いかけに対し二人は顔を見合わせ、うんと全く同じタイミングで頷く。

「決まってるさ。分が悪いなら逃走だぜ!」
「そうね、一旦対策を立て直すべきね」
「え、えぇっ!?」

何も答えに驚いたわけではない。すんなりとそういう答えが出てきて、そして勢いに任せてぐるりと後ろを振り向いた二人に気圧されたのだ。

そして、二人の逃げ足と来たらそれはそれは速かった。

「それ、逃げるぜ!!」

霊夢と魔理沙が駆け出す。周囲には彼女等が走ったことによる大気のブレが衝撃として放たれ取り残された葉の髪を揺らした。

「は、はやっ!!!」

脱兎の如く大地を駆け出し、一瞬にして戦場から離脱する二人を呆然と見送る形になる葉。
そして背後から聞こえてくる「さっさと帰れ」という威嚇の意味を込めた唸り声。

「……」

背後を振り向き、獣と瞳を合わせる。ご丁寧にも獣の方は攻撃を仕掛けないで逃げるのならば待ってやろうという慢心染みたものをかもし出していたのだがそんなものは今現在の葉には関係の無いことである。

しばらくして、ようやく葉も危機を感じたのか走り始めた。

「ま、待ってください〜〜っ!!」

既に遥か彼方へと逃走していったであろう二人の後を追って、二人よりもよっぽど遅いスピードで大地を駆けて逃げる葉。
幸い、後ろから追ってこられるなんていうことは無く無事に逃げ切れたようだ。


第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」10 ( No.13 )
日時: 2014/02/05 17:34
名前: 幻灯夜城 (ID: Ib5HX0ru)

逃げて。
逃げて逃げて。
逃げて逃げて逃げて。

「はぁっ……はぁっ……!!」
「いい逃げっぷりだ」

ようやく合流したときにかけられた言葉といえば、魔理沙のそんな言葉であった。

霊夢達の下へとたどり着いた時にはもうあの鳥妖怪の姿は見えなくなっていた。代わりにあるのは延々と続く木々の群れであり、一体自分はどれ程の距離を走ってきたのだろうと感じる。

「しっかし、めんどくさい奴がいるわね……」
「何時もならスペルカードで蹴散らしてるからな……」

人様の家の前の通路を我が物顔で陣取るなど小妖怪にあるまじき傲慢不遜な態度であるが、スペルカードを持っていない彼女等にとってはタダのザコが十分な中ボスに成り得る。

「めんどくさいし、魔理沙の家は寄るのやめよっか?」
「えー、せっかくここまで来たのに?」

確かにあの鳥は面倒くさいっちゃ面倒くさい。こちらの放つ弾幕を悠々不適に回避バレルロールしてみせてこちらに反撃を返してこられては決め手がないと何時までも続く消耗戦にしか成り得ない。

「そ、それにっ……ほ、本を……かえっ……さないとっ……!」

息も絶え絶えな様子で葉も反論する。だが、その表情は未だ青ざめており走ってきた時に失った酸素を取り戻しきれてない様子。

「ほんと体力ないんだな。それでも妖怪か?」
「はいはい、そういう言い方しない。あんたのことをここまで気にかけてくれてるってことでしょ」
「しっかしなー……今の所打つ手ゼロだぜ?」

「「……」」

魔理沙の言うことには頷かざるを得なかった。何度も言うが、結局は"それ"なのだ。
幾ら何が欲しいだの何をしたいだの何をしなくてはならないだの言った所で、その過程にある壁……例えば罠、例えば強敵等を乗り越えられなければ結局現実味の無い話になってしまう。

「……しょーがない」

若干重い空気が漂い始めたところで、霊夢が重い腰を上げる。

「神社に戻って、適当に倒せそうなの持ってくるわ」
「ここでパパッとやるってのは?」
「めんどくさい。だるい。そこまでして倒すとか嫌。カード出して宣言する方がいい」
「お前……」

お前はオモチャ売り場でダダを捏ねる子供か——と言われんばかりの否定を述べまくる霊夢。確かにここで作るのは少し時間と手間がかかるが、少なくとも往復移動するよりは時間の短縮にはなるはずだが。
言い方が悪いが、天性の才能が故に努力を怠る巫女らしい発言であった。呆れ返るも、昔からこの巫女はそういう気質だったということにしておこう。

「あんたらはどうする? ついてくる?」
「それもなんだがだぜー」
「わ、私は……ひぃはぁ……ど、どう……」

先ほどから思っていたが、本当に葉は大丈夫なのだろうか。一応200m位は走っているとはいえそろそろ息を整えてもおかしくないはず。

——と、ここで魔理沙の頭に電流が走る。

「そうだ! そういえばこの前アリスの家に泊まったんだよ! スペルカードとか色々忘れてきた気がするんだ」
「そう。なら魔理沙はそれを取りに行く?」
「ん、葉もついてこい。また神社まで往復するの大変だろ?」
「は、はいぃ……」

神社往復どころかアリスの家に向かう前に倒れたりしないだろうか。

「じゃ、そっちはよろしく」
「ああ」
「は、はい……。ふぅ」

言うなり、霊夢は分かれ道より南、即ち博麗神社の方へと駆け出していった。きっと彼女なりに運動不足を感じ取っていたのだろう。その足取りにはしっかりと大地を踏みしめるような感覚があり、こちらにもその様子が伝わってくる。

「それじゃ、葉。行くか。アリスの家はここから北だ」

それを見届け、葉と魔理沙はアリスの家がある北の方角へと向けて分かれ道から歩みを進めていった。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」11 ( No.14 )
日時: 2014/05/23 13:02
名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)

魔法の森を歩む彼女等二人——主に葉の足は弾んでいた。

「ふんふ〜ん♪」
「元気そうだな……」

上機嫌に鼻歌を歌いながらスキップで歩みを進める葉と、それに呆れたように苦笑いを浮かべながらも優しく見守る魔理沙。
葉は博麗神社まで一人で来た風なことを言っていたから、恐らくは何日被りに人と共に行動しているのだろう。それが嬉しいのかもしれない。それが少女にとっての幸せかもしれない。
誰だって、人の温もりを求めるものだから。

当然、こんなに楽しくあるいていればアリスの家までたどり着くまでの時間も短く感じることが出来る。

「……お、案外早く着いたな」

やや遠くの方に見えた建物を見て魔理沙が言う。
それは、紅い屋根の家であった。扉はやや大きめの木製の扉であり、ここが大きな家であるというのは全貌を見なくとも分かる。

「お邪魔するぜー」
「お、お邪魔します〜……」

魔理沙が先導する形で扉を押し開けると共に、やや控えめな態度で葉も入っていく。

「あら……」

家へと入った彼らを出迎えた——というよりかは偶然出会ってしまったような表情をしているが——金髪の少女、またの名をアリス・マーガドロイドその人は身支度をしており、その手には魔理沙のものと思しきスペルカードやマジックアイテムが握られていた。

「おいすー、元気してたか?」
「つい先日泊まってったばっかりでしょ」
「挨拶だよ挨拶。ところでなんだ、どこかどこかに出かけるのか?」

アリスの外出用に服装等を整えている様子を見て魔理沙は問いかける。
問いかけられたアリスはやや困り顔で魔理沙の方を見ながら答えた。

「今、魔理沙の家に行こうとしてたところよ。この前、いろいろ忘れていったでしょ」

どうやら、たまたま過程こそ違えど同じ目的であったらしい。家主であるアリスが忘れ物を届けに行くタイミングで、葉達が訪れたということになる。
言われて初めて魔理沙はアリスが持っているものが自分の忘れ物であることに気づいたのか、笑顔で礼を言った。

「おっ、そいつはありがたいぜ! サンキューな!」
「もう……。ところで、そっちこそどうしたの? 何か用?」
「ああ。その忘れ物を取りに来たところだったんだ」

何だ、それなら話は早いとアリスは魔理沙の道具に抜け漏れが無いことを確認する。

「対した忘れ物は無かったと思うけど……はい、これ」
「おぉ、これだこれだ。サンキュー!」

そして、確認を終えると魔理沙に全て渡した。
渡された魔理沙はひーふーみー、だなんて言いながら道具に抜け漏れが無いかを確認している。葉もまた、その様子が気になってしょうがないのかしきりに魔理沙の肩越しにマジックアイテムをしげしげと見つめている。だが、その表情には先程意気揚々と歩いた代償が降りかかってきたかのように疲労の表情を見せていた。
そんな二人の様子を見て、アリスが提案する。

「せっかく来たんだから、一服していく?」
「いいのか?」
「そっちの子が相当疲れているみたいだしね」

言って、アリスは葉の方へ視線をやる。

「はぇ!? あ、え……」
「おっと、全然気づかなかったぜ」

思わぬ所を突かれて狼狽する葉と、こりゃ参ったと言わんばかりに笑みを浮かべる魔理沙。
二人の様子を見かねたのか、答えが出ていないのにも関わらずくい、と客間の方を首の動きで指した。

「はぁ。まぁ、いいわ。さ、上がって。今紅茶持ってくるから」

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」12 ( No.15 )
日時: 2014/02/09 18:07
名前: 幻灯夜城 (ID: YnzV67hS)

「えっと、初めまして。アリス・マーガドロイドよ」
「は、初めましてっ! 瀬笈 葉っていいます!」

全員が席に着くなり、紅茶を入れて彼女等の前に置いたアリスは葉に対して名乗る。そして魔理沙の方を見れば、やや訝しげな表情で言った。

「見かけないタイプの妖怪だけど……?」
「植物の妖怪みたいだぜ。ちょっと、変わってるよな」
「あ……じゃあ、紅茶はまずかった?」

植物の妖怪だと聞いて若干気まずそうな表情で葉に問いかけるアリス。
しかし葉は何ら気にすること無く答える。

「いえ、とってもおいしいですよ」
「……そ、そう。それならいいけど……」
「植物だけに天然って感じか?」
「はい?」

そんな他愛の無い言葉のやり取りが繰り返されていく。が、そんな中でアリスの様子が若干おかしいことに魔理沙は気づく。
紅茶の件以降、ずっと葉を注視している。まるで、何かを観察しているかのように。

「どうしたアリス。そんなに見つめて」
「……」
「葉に惚れたのか? 応援するぜ?」

そしてやはり魔理沙の減らず口が止まる事は無い。

「寝言は寝てから。そうじゃなくて」
「……ど、どうしたんですか? 米粒でもついてましたか?」
「何もついてないわよ? 気にしないでちょうだいな」

葉もアリスがじっと見つめていることに今更気づいたのだろう。米粒でもついていたのだろうかと頬を弄るが、アリスから何でもないと返され米粒を探っていた自分が恥ずかしくなりちょっと俯く。
そんな様子を微笑ましくみながらも、アリスは問いかける。

「ところで、どうして魔理沙と一緒にいるの?」
「え、えっと……私の住んでいたあたりの植物が、みんな元気なくなっちゃって……博麗神社に行ったら、優しい巫女さんと魔理沙さんが様子を見てくれるって……」

その発言に目を丸くしたのはアリスと魔理沙だ。正確には「優しい巫女さん」というただ一つの単語に対してだけだが。

「……。優しい巫女さんて誰?」
「優しい巫女さんなんかいたか?」
「何を言ってるんですか。霊夢さんのことに決まっているじゃないですか」

二人して揃って葉の方を見る魔理沙とアリス。
そして、視線を逸らして言うのだ。

「……やさしい」
「優しい、ねぇ……?」

とてもじゃないが、今までの霊夢の発言やら容赦なく妖怪を叩きのめしてきたドライな様を見続けているとどう足掻いても優しいとは思えない。というより、賽銭の時点から一般論としての優しいからはかなりかけ離れている。
二人してどもったために疑問符を浮かべる葉。そんな彼女の様子などお構いなしにアリスは魔理沙へと問いかけた。

「……。魔理沙、この子大丈夫なの?」
「植物の妖怪なだけに、頭にお花が咲いているのかもな」
「え、えぇ……?」

二人からの辛らつなコメントに落胆する葉。

「だから、一緒にいるってわけ?」
「ま、それもある」
「魔理沙も大変ね……」
「ま、霊夢っぽく言うなら「大変だけどたいしたこと無い」ぜ」
「……?」

その言葉にどういう意味が含まれているのか、葉は知らない。彼女等との付き合いは短いとはいえ、そのことが少々寂しくもあった。

しばらくの間彼女たちは茶を飲みながら談笑していた。
と、そろそろ頃合いなのか魔理沙が準備をした後に立ち上がった。

「っと、霊夢がもどってくることだろうし、あんまり長居はしていられないか」
「あ、そうですね」

それに続いて、葉も席を立ち上がる。

「いい休憩になった。ありがとなー!」
「どういたしまして。葉……だったわよね。またね」
「はいっ! 紅茶とっても美味しかったです!」

そのまま二人は扉の方へと向かう。が、何かを思い出したかのようにアリスも立ち上がり彼らを引き止めた。

「あ、魔理沙。ちょっと待って」
「ん、なんだ、お金か?」
「お金なんて要求しないわよ。ましてや魔理沙にはね」

どうやら、二人で話したいらしい。そんな雰囲気を汲み取ったのか、葉は「私は先に出ていますね」とだけ言い残して去っていく。
残された魔理沙とアリス。葉が出て行ったことを確認したアリスは早速と言わんばかりに話を切り出した。

「……あの子、植物の妖怪だって自分で言ったの?」
「いや? 霊夢がそうじゃないかって」
「……そう。専門家の霊夢がそういうなら……」

話を聞いてもどこか腑に落ちないといった風な表情であったが、アリスは再び笑顔を取り繕う。

「……ごめん魔理沙。変なとこで引き止めちゃって……」
「いつもながら変なヤツだなー。用はそれだけか?」
「ええ、ごめんね。それと、いつもながら、は余計よ」
「ん。じゃあ行ってくる」

それだけを言って魔理沙も葉の後を追うようにして出て行った。
取り残されたアリスはただ一人、呟く。

「……。形あるものには、必ず何かが宿っているはず。それが、生きているならそれこそ魂のようなものが……。考えすぎならいいけど」

——まぁ、そうとしても。

「油断しないようにね、魔理沙……」

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」13 ( No.16 )
日時: 2014/05/22 20:34
名前: 幻灯夜城 (ID: 17jRVk42)

「それじゃ、行くか。多分霊夢ももう着いてる頃だろ」
「そうですね。行きましょう!」

 そんな会話を交わしながらアリスの家を出て二人は共に元来た道を歩いてゆく。流れる景色は来た時と比べて反転しつつも元へと戻っていくような感覚は、魔理沙は兎も角この辺りを初めて歩く葉にとっては新鮮味溢れるものであろう。
 遊楽気分でうきうきとした調子で歩く葉を尻目に見ながら「こういうのもいいもんだよな」とボソりと呟き置いていかれぬように魔理沙も歩調を合わせてゆく。

 やがて、その向こうに見えたのは紅白の巫女服——霊夢。
 "やや力のない草達"を見回し、難しい顔を浮かべながら考え込んでいる彼女の元へと二人は走ってゆく。

「おっ、霊夢ー」
「忘れ物は見つかった?」
「ああ。そっちの準備は?」

 そう問われると、霊夢はスペルカードを1枚出し、ひらひらとしながら余裕の笑みで答える。

「まぁ、あの程度の雑魚になら楽勝でしょう」

 その言葉に魔理沙もまたニヤりと笑みを返し。

「ああ、それじゃあ行くか」

 ——二人の息の合った楽勝という発言。
 その言葉に二人の歩んできた修羅のような道の険しさ。そしてそれがどれほど心強いものであるかを葉は再確認する。

 この人たちなら、きっと。
 
 頭に浮かんだ言葉。
 しかし何故そのようなことを考えたのか分からない。ふっと思考にふけっているうちに霊夢と魔理沙は意気揚々と駆け出してしまっていた。

「……あっ」

 気付けば、二人の影が遠い。
 このままでは置いていかれる。

「待ってくださーい!!! おーいーてかーなーいでぇえー!!!」

 ——体力の浪費をいとわず、葉は全力で彼女等の後を追った。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」14 ( No.17 )
日時: 2014/05/23 16:45
名前: 幻灯夜城 (ID: 6BbhaqaU)

 ——やはり、"ヤツ"は元の位置から動いていなかった。

 水色の鳥はやはりその位置を動かず、その巨体を道のど真ん中で我こそが征服者と言わんばかりに鎮座し続けている。その鋭い眼光は並みの妖怪を一睨みすれば逃げ出してしまいかねないほどに輝いている。
 そして挑戦者達もまた、新たなる武器を構えてこの地に戻ってきた。
 金髪の少女——魔理沙はその手にスペルカードを構える。

「……今度は、思いっきりやれそうだな」

 その後ろから——殺意を包み隠さず放出し続ける黒い笑顔の霊夢が、同じくスペルカードを手にして妖怪に微笑みかける。

「手間かけさせたことを後悔するのね」

 何だろう。
 魔理沙は兎も角霊夢が尋常じゃなく怖い気がする。

「一番手、貰っていいな?」
「ええ、どうぞ」

 それだけの承諾を貰い、魔理沙が一歩前に歩み出る。
 そして妖怪にスペカを見せつけ高らかに発声した。


「心置きなくいかせてもらうぜっ! 

 恋符

 『ノンディクショナルレーザー』っ!! 」


 さて、ここでスペルカードルールのおさらいだ。
 スペルカード (Spell card)通称「スペカ」とは、幻想郷内での揉め事や紛争を解決するための手段とされており、人間と妖怪が対等に戦う場合や、強い妖怪同士が戦う場合に、必要以上に力を出さないようにする為の決闘ルールである。

対決の際には自分の得意技を記した「スペルカード」と呼ばれるお札を一定枚数所持しておき、すべての攻撃が相手に攻略された場合は負けとなる。また、カード使用の際には「カード宣言」が必要であるため、不意打ちによる攻撃は出来ないとされる。

その他、細かな取り決めでは

決闘の美しさに意味を持たせる。
意味の無い攻撃はしてはいけない。
事前に使用回数を宣言する。
このルールで戦い、負けた場合は負けをちゃんと認める。余力があってもスペルカードルール以外の別の方法で倒してはいけない。
 -ニコニコ大百科「スペルカードとは」より。

 
 魔理沙が手にしたそれから放たれるのは無数の光球。
 そして鳥妖怪もまた空を滑空して彼女を追い詰めにかかる。

「ピィイィーーッ!!!」

 上空より、捉えたと言わんばかりに鳥が落ちてくる。対する彼女は動かない。いや、"動く必要は無い"。

 その瞬間だった。

「甘いんだよっ!!」

 光球がカッと輝いたかと思えば——それが鳥の周囲を取り囲むように巻き無数の光線を辺りに撒き散らす。それはさながらサーチライトのように。しかし激しいソレは鳥の動きを鈍らせ、羽を僅かに焼き行動を阻害する。

 そこへ。
 もう一人の少女の声。

「 夢符『封魔陣』 」

 何が起きたのか——鳥の眼に映るもう一人の紅白の少女が札を構えた時には既に遅い。乱射されるレーザーの中で迂闊に身動きが取れない。そこを狙って。

「やあぁぁあぁっ!!!」

 ——"陣を通して霊夢が上空より鳥目掛けて降って来た"。
 これには流石にたまらない。身動きの取れぬまさに"格好の的"状態となっていた鳥の背に当たる部分に直撃。

 そのまま、大地へと叩きつけられ少女の自重に乗せられたためか嫌な音まで響く。

 ——そのまま、鳥は動かなくなった。上に乗っていた紅白巫女こと霊夢はそこよりひょい、と飛び立ち鳥の様子を見る。

「……大人げ無いなおい」
「私は、私の邪魔をするヤツを絶対に許さない性質たちよ」

 そんな、他愛の無い言葉を交わしていると何時の間にやら逃走したのか。鳥がこの場より消えていた。
 圧倒的で——しかし、幻想的な戦闘。何かをするまでも無く何も出来なかった葉が己の不甲斐なさに少々どもりながらも、しかし進むべき道を切り開けたので安堵する。

「やっと……魔理沙さんの家へ行けますね」
「そうだな」

 意気揚々と、先へ歩みだそうとする二人。
 しかし霊夢の足だけはやや遅い。何かを考えているように。

(……それにしても、強力な妖怪が何でこんなところに? 異変でも起きたのかしら……?)

 "おかしいのだ"。

 最初からまるで仕組まれていたかのように、それは此処に鎮座していた。近所に何かがあるわけでもなく、格別餌が取れるとかそういうわけでもない。ましてこの森は人間は余り近寄らないので餌という餌も来ないはず。
 明らかに、あの鳥は妖怪としての理念から外れた行動をとっていた。
 だとしたら、自身の知らない所で何か大きな——。

 なんて、考え事をしていたら。

「そぉいっ!!!」
「わっ!?」

 後ろからドツかれた。魔理沙であった。

「……いきなり何するのよ」

 文句の一つでも言ってやろうとすると——「しーっ」と魔理沙が人差し指を口元に当てて前方にいる葉を見やる。

「……あの子?」
「……あんま難しい顔すんじゃねーよ。お前がそんな顔すると、葉が心配するだろうが」
「……は?」

 ——もしかして。

「……魔理沙、アンタも気付いてるの?」
「当たり前だっつーの。でも、ここで私たちまで深刻な顔したら葉がもっとしんどいだろ?」
「……」

 今の魔理沙の発言は、意外だった。何時もなら躍起になって異変解決だの弾幕だのに乗り出す彼女がここまで他者を気にかけた発言をするなんて。
 そんな霊夢の心情も露知らず、魔理沙はにかっと笑った。

「今までだって、何とかなってきたじゃないか。だから今は、平気な顔してよーぜ?」
「……お優しいことで。モテる女性は違うって?」

 と、ここまで来て二人の世界に入っていたことに気付いたのだろう。不自然なところで立ち止まっている二人に葉が問いかける。

「あの、一体何を……?」
「ちょっと、猥談をな」
「わ、わいd「なんでよりにもよってアンタと猥談しなきゃいけないのよ!!」
「お望みなら、葉にもしてあげるぜ?」
「するなバカ。さっさと行くわよ」

 言うなり、霊夢が進行を再開してさっさと行ってしまう。
 
「短気な巫女相手だとヤレヤレだぜ」

 呆れたように笑いながら——魔理沙もまた、その後ろをついていった。残された葉はただ一人、呆然とその背を見送って……。

「……ごめんなさい。そこの草木から聞いちゃいました……」

 静かに、両手を合わせ。

「……。ありがとうございます」

 遠くから、「どうしたー!? 私の家はすぐそこだぞー?」と聞こえてきたので。

「あ、はい! 今行きます!」

 再び、葉もまた待つ二人の下へ歩き出した。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」15 ( No.18 )
日時: 2014/07/06 01:33
名前: 幻灯夜城 (ID: nG1Gt/.3)

 さて、魔理沙の家に無事についたはいい。ついたは、いいのだが。
 全員が中へ入ろうとするが、その前に霊夢が葉に念入りに言い聞かせる。

「いい?」
「な、何でしょうか?」

 巫女から立ち上る今にも火山が噴火する寸前であるかのような気迫。これから一体何を言われるのだろうかと思わず身構えてしまいそうになるような鬼気迫る感じに若干葉がたじろいでいる。
 しかしそんなものは巫女にとっては何ら関係の無いことである。慣れている人間なら兎も角この世間知らずの小娘は知っておかなければならないことが多すぎるのだ。

「魔理沙の家は、相当アレだから覚悟しておくことね」
「……へ?」
「おーい、何吹き込んでるんだー?」
「何でも無いわよ」

 早口に矢が流れるように継ぎ足されてゆく会話。
 そんな中で葉は一体何故己が覚悟しておくように言われたのかがいまいちよく分からず、もしかしたら何か怖いものでも——? というちょっぴり好奇心とちょっぴり恐怖を抱きながら霊夢と魔理沙に続いて家の中へと入っていく……。

——
——

 そして、葉はようやく霊夢の言っていた意味を理解した。

「こ、これは……」

 魔理沙が苦笑いし、霊夢が呆れ返る。
 眼前に広がるのは積み重なった本の山、山、山!!!
 あちらこちらに散らかった何だかよく分からない道具達。
 後何か埃を被っているものもちらほらと見受けられる。
 近年稀に見るゴミ屋敷か。

「……ちょっとは掃除しなさいよ」
「いやぁ、すぐこんな風になると掃除する気も……な?」

 おまけに魔理沙が自分から"掃除してもすぐこういう風"になるというのだから余程整理整頓の習慣がついていないのだと見て取れる。
 
「……さて、葉」
「……はい」
「アンタが言ったんだから責任持って探しなさいよね」

 驚きでそのまま硬直していた葉であったが。

「……は、はい」

 苦笑いと共に、本棚の方面へと歩んでゆく。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」16 ( No.19 )
日時: 2014/11/25 21:45
名前: 幻灯夜城 (ID: RSr7AuJO)

 ……どうしよう。
 ああも張り切って言ってしまったはいいが、実際どうすればいいのか全く以って分かっていない。山積みになった本といい投げ散らかされたレポートといい悲惨極まりないその有様。いるものといらないものを判別する人間がいたらどれだけ片付けられるのだろうかと考えてしまう風景。
 しかも、もっと不味いのが葉がその本が"何であるかを聞いてない"。借りた物が何であるかが分からないままにそれを探すのは無謀極まりない判断だった。

(……そ、それでも)

 言ったからにはやるのだ。それが私だ。諦めるなよ私。こんな本の山程度に屈してどうする。頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ!!!
 自分を奮い立たせながら書斎に一歩足を踏み入れた。

 ——……むぐ……——

「……?」
 それは完全な第三者の声。それも葉にしか聞こえない声であった。何かに圧迫されているのかそれは酷く苦しそうな様子であった。
「どうしたの? 葉」
「いえ……、今、どこからか声が聞こえたんですけど……」

 ——……むぐ……むぐ……!——

「何も言ってないぜ?」
 
 そりゃそうだ。葉にしか聞こえていないはずのこの声。それを他の誰かが発声していたとかそういうのは決してない。
 葉はその音源。少し苦しそうなその声を探すべく書斎を歩き回る。

「……確か……こっちから……」

 その声に、少しずつ、少しずつ近づいていく。
 そして大分その声が近くなった時、葉の視界に入ったものは一冊の分厚い辞書。そしてその下から声が聞こえてくる。
 葉はそれをそっと持ち上げて……笑った。重たい辞書の真下に雑草が床を突き破って生えているのが見えたからだ。

「やっぱり! 草さんがいました!」
「どんだけ汚いのよここ!?」

 有り得ない。実に有り得ない。普通の住居でもこのような事態になるわけがない。

「結構生える」
 
 とは魔理沙の談。思わず霊夢は呆れ気味に溜息を付きながら「掃除しなさい」と告げるのであった。

「いや、結構食えるんだぜ。煮たり焼いたり」
「アンタの家は山じゃないんだから」

 何てやり取りが交わされているのを他所に、ぜーはー、と苦しげな息をつきながら「重かったのよ!」と文句を垂れる草の小言を聞き流していた葉は、妙案を思いついた。

「そうだ!」

 ——何よ?——

「草さん、魔理沙さんが借りてきた本が何処にあるかわかりませんか?」

 ——借りパクしすぎてもう際限がないけど……一番新しい本でいいなら、多分あっち側よ。アイツ、何時も読み終わると奥の方にポイ投げするから多分そこじゃない?——

 「ああもうそれで潰されるこっちの身に……」と悪態を付き始める草に葉は「ありがとうございました」と礼を述べてから魔理沙達へと向き直った。

「わかったのか!?」
「はい。魔理沙さんはいつも読み終わると奥の方にポイ投げするから、奥の方にあるだろうって。それに潰されるから大変だって」
「へぇ、植物もよく見てるのねぇ」
「植物の声が聞ける能力か。意外と便利かもしれないな」

 我々の認識の片隅にある植物という存在。身近にいながらも身近ではない彼らだからこそ、多くが見えるのかもしれない。

「とりあえず、探してきますね」

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」17 ( No.20 )
日時: 2014/11/26 19:47
名前: 幻灯夜城 (ID: cTzH0pQB)

 奥の本段をあーでもないこーでもない、と得た情報を頼りに探している葉。その懸命な姿を眺めていた霊夢は彼女の能力に付いて考えていた。
 今だ不明瞭な所が多い彼女の能力。便利ではあるが……同時に、何処か不自然なものも感じる。

「植物の声……っていうよりは、意思を汲み取るって感じね」
「でも紅茶は普通に飲んでたぜ?」
「お茶も普通に飲んでたし、相手は生きてる植物だけってことかしら……」

 それを聞いていた魔理沙が何か思い出したように。

「そういえば、結界が弱まった時に植物も色々あったよな?」
「あれは別に植物の元気がなくなるってわけじゃなかったし……。病気じゃないとしたら、何が原因なのかねぇ」
「……まぁ、こればっかりはなんとも。困った時に頼れるのが知識人だぜ」

 原因が全く分からない。原因がいる前提で起きている異変の所在を突き止めるのは、詰め将棋式に簡単なものだ。道中道を塞ぐ相手を倒していき情報を搾り出す。
 だが、今回ばかりは少し面倒臭い。まず何が原因かすらもハッキリ分かっていないのだ。あらゆる病気を操る例の蜘蛛であれば、植物だけに作用する病も作れるだろう。だが、これは病気ではない。

(……)

 おかしい。何かがおかしい。
 あんまりにもあんまりな、符合の一致。植物が元気を無くしている時にやってくるのが、植物の意思を汲み取れる少女。通常、ナズーリンならば鼠とコミュニケートできる。といったように近い存在同士でなければ成立しない能力のはず。
 そして、凶暴化の兆候を見せ始めた小妖怪。

(……それに……)

 霊夢が気にかかっているのは妙に現実的な"あの夢"。幻想郷が崩壊し何もない中空を漂っていた世界の夢。少女が懺悔と祈りを捧げ続けている夢。
 ただの悪夢だと片付けるには異常に気持ちが悪かった。

(……杞憂であってくれればいいんだけど)

「あっ、これかな……?」

 思案にふける霊夢を葉の様子を見守る魔理沙。
 そんな彼女達の元へ、一冊の本を手に抱えた葉がやってくる。

「魔理沙さん。この本ですか?」

 それは妙な言語で書かれた書物。魔理沙はこれを見ておお、と久々に出会えた旧友に対する感情をもって本を眺める。

「懐かしいな、それだそれだ。サンキュー」
「さて、じゃあ」

 早速返しに行きましょう——そう告げようとした時だ。

「おっと待ちたまえ紅白巫女」
「まさかあんたにそう呼ばれる日が来るなんてね」

 魔理沙がそれを引きとめた。「まぁまてよ」とでも言いたげなその様子は恐らくまだ何かをたくらんでいるのだろう。彼女はもう一度葉に対して頼みごとをする。

「実はまだもうちょっと探して欲しいもんがあるんだけどなー?」

 嫌な予感がした。

———

 ——三時間経過。

「はぁ、はぁ、こ、これで全部、ですか……?」
「ああ」

 息も絶え絶えな様子の葉。
 眼前に道具を山積みにした魔理沙。

「……あんた頼むだけで一回も手伝わなかったのね」
「いやぁ私が弄ると余計手間がかかりそうだったからな」
 
 それはごもっともと言ってやりたいが三時間は流石にない。霊夢は暇して適当なものでかちゃかちゃと遊んでいた。近くに転がされていた知恵の輪は既に二つ目の解体に入っている。
 それを無視して魔理沙は葉を手招きした。

「さて、んじゃ、葉。ちょっとこっちに寄ってみな?」
「え、まだ何か……?」
「違う違う。お前もスペルカードを用意しないと色々危ないだろ? 教えるから、ちゃちゃっと作るぜ」

 こうして彼女達はスペルカードの作成に没頭する。
 魔理沙の様子が何時になく生き生きとして見えたのは気のせいか。ちらりとその様子を見ながら知恵の輪を弄って。

 かちゃ。

「あ、外れた」

——

 ——更に五分後。

「ん〜……、何かパッとしない感じだなー」
「あんまりはかどって無いわね」
「いやぁ、こいつセンスないみたいだ」
「ご、ごめんなさい……」

 いい加減飽きたので知恵の輪を元の位置に戻して様子を見てみれば、スペルカード作成レクチャーがまだ終わってない。葉の足元には数枚のまだ未完成のスペルカードが置き去りにされている。そのどれもが萌ゆる緑に近い色合いを保っていた。

「っていうか、あんたが拘りすぎてんじゃないの?」
「その、とりあえず私が原因、みたいな流れはもうやめてくれよ」

 霊夢がチラっと未完成のスペカを見る。それから、魔理沙のお手本用のスペカを見る。彼女の型は基本"花火"に近い。どっかんどっかん打ち上げて人を魅せつけて、火力も増大させる。パワー型だ。
 もしかしたらそれが葉にとっては相性が悪いのかもしれない。

「葉、ちょっと自分だけで作ってみたらどう? 一応魔理沙のやり方を応用すればできるはずよ」
「は、はいっ!」

 「えーっとこれをこうして」。霊夢が自分で作るようにと葉に言ってから、一秒、二秒。三秒が経過。

「で、できたーっ!!」
「……。一瞬で出来たぞ」

 その手にある萌ゆる緑が舞い散る札を片手に、はしゃぎ回る葉の姿がそこにあった。五分かかって出来なかったとは何だったのか。

「人並みのセンスあるじゃない。やっぱり魔理沙の教え方が……」
「でもいいのか? そんなんで。弱っちぃぞ。戦っていけるのか?」
「こ、これからがんばります!」

 確かにそれはある。
 魔理沙の言うとおり彼女の手元にあるのは攻撃向きではない。攻撃性能が少しでも付随していたならばまだマシであったのだが、今の彼女のスペカはそれですらない。
 "回復"。傷を癒すことだけに特化した存在だ。

「……。ま、いいか。使いたくないスペルカード作っても仕方ないからな」
「さ、じゃあ紅魔館へ向かうわよ」

 ——こうして、彼女達は魔理沙の家を後にし、紅魔館へと向かうのだった。

 そこで起きている恐ろしい異変のことなど知る由もなく。

 ——To be continue