二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 序章(プロローグ) ( No.1 )
- 日時: 2014/01/27 06:17
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)
体が、痛くない。さっきまで、あんなに痛かったのに。この、仮想電脳空間(デジタルワールド)を吹く風すらも感じない。
当然だ。あんなに、斬り合ったのだから。この鋼の体を砕くほど。
なのに、なのに、今目の当たりにしている相手がまだ余裕綽々浮かべて尚も聖騎士としての威厳を漂わせているのが、解せなかった。
散るならばとっくの昔に散っている。
散らせているのだ。この命を。桜吹雪の如く。
命ならば当の昔に置いてきた。
この一閃の、いや、一戦の前に。
「ッらあああ!!!!」
全身全霊を、今の一撃に賭けたつもりだった。
‐‐‐‐‐‐この世界のために散るならば、惜しくは無い!!
一振りした聖剣が、目の前の夷敵を切り裂く音がした。確かに手ごたえは感じる。
幾度とも振ってきた剣の感覚は、体にこびり付いて、もう取れない。だからこそ、感じた。
今の一撃で、勝ったはずだ、と。
確かに真っ二つになっていた。今の敵、そして昔の盟友は。
見事に奴の体は割れている。断面は黒く疼いていた。そして思ったとおり、そこに詰まっていたのは、データの塊などという綺麗なものではなく、幾多にも蓄積した不正プログラムや、違法ウイルスの塊だった。
盟友の今の体を構成していたものは、いつの間にか変わってしまったのだ。
かつての純白はそこには無い。
そこにあるのは、果てしも無く広がる漆黒の闇。
だが、そんなことは良かった。今の一撃で、友を救うことが出来たのならば尚更だ。
(こんなになるまで……お前はッ、お前はッ……!)
体はもう動かない。
手に宿る力がどんどん抜けていく。
この、真っ黒な空間の中で、この世界は自分に唯朽ち果てろと言っているのか。
こうなることはとっくに分かりきっていた。友を救えば、自分もまた消滅の一途を辿る‐‐‐‐‐‐と。
だが、それらも含めて全て、自分が望んだことである。
戦いで死ねるならば本望。
友人を助けるためならば尚更。
ましてや、この世界の命運をかけた戦いならば。
救わねばならない。救わねばならない。
二度頭の中で繰り返し、剣を握る。もう、自分の能力を使うことは出来ない。ここまでに、力を使いすぎている。
もう、自分の命さえも燃やして戦っている状況なのに。
だからこそだった。最後の一撃は、唯純粋に、聖騎士として付けたかった。小細工なしで。
狙うは、今の一閃でむき出しになった、彼の核(コア)だ。
ここで絶つ。
全て縛る悪夢を。
もう、誰も居なくなってほしくない。
だから告げよう、我が友よ。
生まれ変わって、また会おうと。
「うおらあああ……ッ!?」
咆哮を上げ、気持ちを奮い立たせた。剣を振り下ろさんとしたその時だ。
違和感を感じる。特に喉辺りに。冷たい銃口が向けられている。
考えられる可能性としては、真っ二つになった盟友の右半身、それも右腕がこちらに伸びていることだった。
「愚か者め……! 戦いのときは、最後まで気を抜くなと。そういったはずだぞ……」
迫る。キィィィィという、音が。まさか、真っ二つになっていても生きているとは、誰も思うまい。
いや、正確に言えば核を破壊せねば倒したことにはならない。
だが、それでもだ。
正常に機能できるとは、普通考えられない。
「絶対零度の凍て付く焔に身を焼かれるが良いわ……!」
べぎゃべぎゃと嫌な音を立てて半身と半身がくっついた。そして、赤い瞳をぎらつかせて、猟奇的な笑みを浮かべると、最後に渾身の力を込めて、なのか瞳が一回り大きくなる。
‐‐‐‐‐‐ガルルキャノン!
絶対零度の、何もかもを凍て付かせる砲撃が己の心をも凍りつかせる。
もうだめだ。
友を救うことの出来なかった無念さに、打ちのめされた。
落ちる、落ちる、落ちる。
ただ、無限の闇へ‐‐‐‐‐‐。
***
「……おとうさんは、もういないの?」
自分を抱きしめて泣きじゃくる母の姿がそこにあった。
あらゆるコンピューターは発達してきた、今からそう遠くない未来。ただ変わらない日常が、そして掛替えの無い日常が続いていくはずだった。
”はずだった”。
ある日、全ての時間が止まった。正確に言えば、世界中全てのコンピューターが。あちこちで、弊害が起こる。
管理機器の停止、データの消失、そして何より世界が注目していた、新型オートパイロットシャトルの墜落だった。
宇宙での飛行運用も可能だった、このシャトルも、この大災害に会った。
居て当たり前だったものが、一瞬で無くなった。
その試験飛行に立会った父は、遺体も残さないまま、突然この世を去った。
飛行中に停止した飛行機は、そのまま何も出来ずに墜落。炎を上げながら太平洋のど真ん中に空中分解したという。
が、幼いこの少年に、父が突然居なくなったという実感など、沸いてくるはずがなかった。
時に優しく、時に厳しかった、あの父が?
目の前で棺おけに入っているわけでも無いのに、死んだという実感など、無い。
嗚呼、これは嘘だ。そうだろ? 悪い冗談はやめて、実はエイプリルフールのネタでしたエンド。そしたら皆が、怒って、そして笑って父さんに押しかけるんだ。
だけど、笑えなかった。
今日は八月一日。
とっくに四月一日など過ぎ去っていた。
「え……」
ただ、少年は見ているしかなかった。傍で泣きじゃくる母を。
母が、自分を抱きしめる力を強くする。
「強く生きるのよ! 父さんの分まで!」
「うん……」
呆然と突っ立っているだけの少年。だけど、科学者だった父を奪ったコンピューターウイルス。
この、後に【電脳大感染(パンデジック)】は、人々の心に強く刻まれ続けることとなる。
少年は幼くも強かった。
「僕、作ってみせる」
「……?」
「どんなウイルスにも負けない、強いソフトを作るよ!」
母親は、その言葉で明日に希望が持てたのだった。
嗚呼、息子はどうしてこんなに強いのだろう。きっと、あの人も向こうで喜んでいるだろう。
そうだ、終わったわけではない。
何故なら、まして始まったわけでもないのだから。
***
電脳空間(デジタルワールド)、そして現実世界(リアルワールド)。この二つの世界で起こった事件は、間違いなく同時に起こったことである。
一つのタマゴが電脳空間をさまよい続ける。
だが、それが誰かの元に渡るのは、十年後の話‐‐‐‐‐‐。