二次創作小説(映像)※倉庫ログ

(1) ( No.2 )
日時: 2014/01/29 18:35
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)

「クリックすべきか。このまま大人しく引下るべきか」

 御堂新志がマウスを片手にデスクトップと睨めっこしているのは、明らかに地雷のサイトに入るかどうかの決断を強いられているから……ではない。いや確かに年齢制限はあった。
 だが所詮”六禁”だった。サイトのタイトルには、こう書いてある。

『六禁ホラーゲーム、六歳未満は立ち入り禁止』と。

 にも拘らず、この少年は入ることをためらっている。
 つまりを言うとこの少年、御堂新志は大胆不敵で好奇心旺盛、成績ははそこそこ、運動は帰宅部一(つまり運動部に勝てない)の一見すればまあまあな少年だったのだが、それに追い討ちをかけるかのように、ホラー系が大の苦手という弱点を抱えていた。
 本人曰く、苦手なものはお化けではなく、ゴーストとファントムであると。
 ならば、見なければいいのだが、ここで彼のもう一つの性格が足を引っ張った。

 ずばり、好奇心旺盛であることだ。

 怖いもの見たさで、この間は十八禁ホラーゲームの実況を見て、失禁したばかりであった。(無論パンツは自分で洗った)
 じゃあたまたま検索してヒットしたこのサイトを見て、新志は訝しげに画面を睨んだ。

(六禁て何だ六禁って……レーティング微妙すぎるだろ)

 とクリックしたのが運の尽き。自分の好奇心を恨む。
 だが、男がここで引下れるか、という変なプライドの所為で選択肢は二つに絞られる。
 「入る」ボタンをクリックするか、ブラウザのバックボタンをクリックして、とっととゲームの実況を見に行くか(無論ホラーではない)のどちらかだった。
 だが、もしもヤバい奴だったら?
 だが、もしも六禁ではなく十六禁だったら?
 だが、もしもしょうもない幼稚な奴だったら?
 だが、もしも意外と面白かったら?
 
 と、不安をいろいろな意味で煽る想像をしてみるが、だめだ。やはりどうしてもジレンマに陥ってしまう。
 そもそも、今日という日が悪いのだ。何故ならば、外は激しく雨がアスファルトを打ち付けており、裏山の木々は撓って、まるで外に出るなと言わんばかりだ。
 それに、御堂新志はクラスではそこそこもてる方といったら、そうである。が、それと彼女が居るというのは別問題ではないか。数ヶ月前も、一人の女子が自分に告白してきたが、あろうことかその次の日に別の男に乗り換えてしまったのである。それ以来、彼は女子の乙女心というものに対し、かなりの警戒を抱くようになっていた。
 だから、新志が彼女と一緒に仲良く雨降りデート、等ということは有り得なかったのである。
 今の服装だって、ヒートテックの黒い長袖Tシャツ。さらにその上に紅いパーカーを羽織っている辺り、完全に私服と分かる。
 そして、亡くした父の形見である紫色のペンダントを首からぶら下げていた。紫色の宝石が埋め込まれており、細かい龍の文様が彫ってあった。
 さて、好い加減考えるのにも飽きたのか、新志は頭を抱えた。

「……だぁ〜! 悩んでいても仕方がねえじゃんか! 虎穴に入らずんば、虎子は得られず! 入るぞ、俺はやるぞ! ポチッとな」

 そういって御堂は、やや後悔気味に目を閉じた。これからくる恐怖の波に備えるため。(何度も言うが、六歳禁)
 目を、恐る恐る開けてみた。が、再度閉じる。何故ならば、「キャァ〜」という少女の悲鳴が聞こえるからである。
 それも、自分と同い年くらいの声色だろうか。一番自分が嫌いな。
 やはり失敗だったか。このサイトは六禁ではなく十六禁だったのだ、と脳が哀しい演算結果を出している間に、とっととブラウザを閉じてしまおうという発想に至った。が、次の瞬間だった。


「そこをどいてくださ〜い!!」


 という少女の悲鳴が聞こえたところで、新志は顔面に強烈な衝撃を感じた。まるで、というかキックを食らったようだった。硬いブーツの底で。
 一瞬、何がなんだか分からなくなった。何が起こっているのか。というか、目をつぶっていた自分が悪いのだが。
 鼻がへしゃげたような感覚を覚えた。そして、後方に吹っ飛ばされる。椅子ごと。
 やはり女というものは声だけでも自分に不幸を齎すのだな、と再三感じながら、彼は現実世界からログアウトしたのであった。


 ***




 声が聞こえる。少なくとも、天国の何たらかんたらではないようである。そもそも、非オカルト主義(と言い張る)の新志には天使だの神様だのは信じる類に値しなかった。
 信じるのは、科学的な数値で立証された事実のみ。と言ってる割には、ホラーサイトに興味本位ではいる辺り、その辺のキャラ付けが甘いのだろうが。

「あのぉ〜、生きてますか?」

 語調が強くなる。怒らせているらしい。このまま目を開けても大丈夫だろうか。しかも、聞こえるのは少女の声。

「仕方が無いなぁ……えいッ!」

 グサッ。

 額に何かが突き刺さるのを感じた。
 新志は再三ログインした。現実世界に。ついでに、激痛のログイボーナスを受け取りながら。

「いってぇなぁおいいい!!」

 慌てて起き上がった。額を、何か尖ったもので刺されたような感じがした。だから痛かったし、自分は悲鳴を上げたのだろうが。

「何なんだ一体! てかアレですか!? 俺今日大凶!? うっそマジで、最悪じゃねえか!」
「何言っているのは貴方のほうですよ、人間さん」

 見れば、そこには純白の少女。清楚という言葉が正しかったのだろうが、唯ひとつ奇妙なのは、妙な被り物をしていることだった。そして、シスターさんと呼ぶには奇妙だったのは、その少女が三又の槍を小脇に抱えていたからであった。
 皮の鞄をぶら下げた少女は、首をかしげて言った。

「何でもいいけど、貴方誰ですか」
「俺が聞きてぇわ、武装シスター! どこぞのラノベと丸かぶりなんだよ、自重しろ!」
「ちょっと! それは無いんじゃないですか。私はわざわざ助けてあげたんですよ? 倒れていた貴方を」

 憤慨したように彼女は言った。

「たぶん、原因はお前以外の何者でもなく、その後槍で突き刺したのもお前だろうが!」

「あ、ばれました?」とペロリと舌を出して見せて答える辺り、性質は無邪気なのだろうが、女子が嫌いな御堂にとってはその辺りいい気はしなかった。
 しかも、やり方が強引過ぎる。自分にとって苦手なタイプだ。口調こそ丁寧だが、メッキが剥がれてきている。

「お前いきなり何!? 人ん家勝手に上がりこんで、よく分からないもので頭ブッ刺しやがってこるァ!」
「起きない貴方が悪いんです」
「俺を眠りに誘ったのお前!」
「起きない貴方が悪いんです」
「二度も言うな!」

 目くじら立ててまくし立てるも、全く動じない少女。なんというか、図太いというか……。
 が、しかしこの少女はどこから入り込んできた? という疑問が付きまとった。
 目立ちすぎる。この格好は。
 玄関から入ってきた? いや、それなら母と接触していてもおかしくはない。
 では窓から? 否、新手の泥棒? 

 この世のどこに、コスプレして民家に入る少女泥棒がいると。

 だから一応たずねた。

「お前、どこから来た?」
「電脳世界(デジタルワールド)ですよ」

 新志は顔を背けた。ダメだ、頭のねじの向きが完全に俺ら一般人とは違う、と。
 少女は膨れっ面をした。昭和の古い少女マンガの主人公かと思った。いまさらだが、感情豊かで表情もそれに比例している。

「それも、貴方に会うために、です!」
「どんな電影少女!? ふざけんな聞いたことがねぇぞ!」
「貴方は適格者なんですよ? ようやく見つけることが出来たんです」
「何が基準だ?」

「それ」と少女が指差したのは、真っ直ぐと形見のペンダントだった。
 思わず悪態をつく。いや、つかなければ気が済まない。

「寝言は寝て言え電波シスター」
「なら、信じられないようですから案内しましょう」

 にっこり微笑む少女。そのときの顔が、一番シスターさんらしかった。
 が、そんな新志の余裕は一瞬で消えうせる。
 PCのデスクトップがおかしい。
 まるで、渦を巻いているようだ。
 混沌とした世界へと誘うように。


「仮想電脳世界(デジタルワールド)を!」


 その瞬間、渦が一気に大きく開いた。新志と少女を飲み込むように……。