二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- (3) ( No.4 )
- 日時: 2014/01/29 19:11
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 0.DI8Vns)
突如現れた群れは、低くうなりを上げて飛び掛ってきた。
刹那、金色のラインが宙を飛ぶ。少女が振り上げた三叉の槍がガオスモンのうちの一匹を切り裂いたのだ。ガオスモンは真っ二つになって倒れる。
逃げ道が出来上がった。咄嗟に少女は新志の手を引いて駆け出した。
「逃げましょう! 成長期の私と奴ら一匹分は同レベル、だから何匹も掛かってこられたら捌き切れません!」
(死ぬ、死ぬ! 死ぬぅ〜!!)
涙目で引きずられながらも、何とかその場を脱出することで危機を逃れた……訳は無かった。
無論、動く敵を見れば追いたくなるのがガオスモンの習性である。よく言えば根性があり、悪く言えばしつこい。
「うっ、うっ、何でこんな目に……」
体勢を即座に立て直し、起き上がる新志。何とか、並走できるまでには復帰した。
地面は土だ。現実世界と全く同じ質感で、違和感を全く感じない。もともと、運動には自身のあるほうだ。走って逃げ切るのは容易い。
と、思っていた時代が彼にもあった。
「くっそぉ!!」
五匹。まだ五匹いる。上に述べた補正があったとして、所詮ただの一般中学生に過ぎない新志は、陸上選手でもスポーツ選手でも、そのどっちでもないため、振り切るにはかなりまずい状況といえよう。
***
「ねぇねぇ、調べてみたんだけど、あの二人カモフラージュも何もやっていないみたいだよ? 子供と、人型のデジモン。それで間違いないね」
「関係ないな。デジタルワールドへの外部からの干渉は俺ら以外認められていない。取り締まるのが俺の役目だ。それに、少年ハッカーがデジモンを使って進入した可能性もある。どちらにせよ、捕らえねばなるまい」
「かったいなぁ〜、相変わらず。でも好きだよ、あんたのそーいうところは」
ニコニコ笑う少女。振り向いてそれを見た少年は、鬱陶しげに言った。普通の男子ならば、今の笑顔でノックダウンするところだろうが、少年は違った。
もう、魂胆は読めてしまっている。
「……また何かスイーツおごってほしいのか」
「あ、バレた? じゃあさ、じゃあさ、今度プリンアラモードとメrンフロートとチーズバーガーをお願い!」
「やだ」
「ちぇ〜、ケチぃ〜」
***
助かった、とでも言っておこうか。ひとまず、奴らの視界から外れて木の上に上った。あの体躯ならば、まず登って来れまい。
意外と太い幹だったので、上に乗っても折れそうにはなかった。
「んじゃあ、そろそろ教えてもらおうかな」
と、新志は切り出した。
当然、何故自分が此処に連れてこられたのか。父の形見のペンダントと関連性は何処か。そして、帰るアテは?
と疑問は山積みにある。だが、何より教えてほしかったのは、デジタルモンスター、通称デジモンと呼ばれる生命体のことが第一だった。
これでも新志は常識人だ。まずは、この世界の生命体のことを知って危険を回避する方法を知っておかなくてはなるまい、と判断したのであろう。
「デジモンのことについては、まぁ置いておきましょうか」
スルーされた。
「んじゃあ、こっちを聞くか。何で俺を此処に連れてきた?」
「貴方に、この世界の英雄を復活させてほしいからです」
「英雄?」
いよいよ雲行きがおかしくなってきた。
「この世界の名は、【仮想電脳空間(デジタルワールド)】。【現実世界(リアルワールド)】とは、似て非なり、そして相反す世界」
「? 、?」
「つまり、ネットワーク上に突如作られた現実世界の模型(ジオラマ)のようなものです。誰がいつ作ったのかは知らないんですけど、そのことは今のところ公にはされていません」
「はぁ、そしてこの世界に生息する生命体が電脳獣(デジタルモンスター)、通称デジモンってわけか」
「はい、彼らに課された試練はネットワークを守護すること。それは、この世界での状況がネットワークに大きく影響するからです」
彼女の話に半信半疑の新志だったが、大人しく聞いていることにした。
「当初、この世界には【データ】という属性のデジモンが生息していました。ですが、ある日を境にネットワークに悪影響を与えるデジモン、【ウイルス】が出現したんです」
「ん? てことは俺を呼んだのは、まさか人間の俺にそいつらを退治してほしいからとかいう、桃太郎的ノリな理由じゃねえだろうな?」
「違います! 最後まで人の話を聞いてくださいよ、馬鹿!」
「馬鹿!?」
「それで、【ウイルス】に対抗するため、【聖騎士(ロイヤルナイツ)】を神々は創造しました。彼らの制圧力と抑止力は大きいものでしたが、それでも尚止まらないウイルスデジモンに対抗するため、【ワクチン】というデジモンが登場したんです」
「じゃあ、何なんだ!? もったいぶらずに教えてくれよ!」
「異変です」
深刻そうに頭を抱えて彼女は続けた。
「【聖騎士(ロイヤルナイツ)】の一人、オメガモンに異変が起こったからなんです」
「オメガモン?」
「はい。彼は非常に強い戦士だったのですが、来る日も来る日も明け暮れるウイルスデジモンとの戦いで、体が汚染されてしまって、数年前。突如、暴走を起こしました」
「それが‐‐‐‐‐‐」少女は、うつむきながら言った。悲しそうな顔を押し殺して。
その時だった。吼える声が近づいてきた。
「まさか奴らが‐‐‐‐‐‐」
見下ろせば、さっきのガオスモン達が群がっている。少女は飛び降りて、槍を構えた。止めようとした新志だったが、彼女は叫ぶ。
「来ないで! ここは私が食い止めます!」
「クソッ……何でバレたんだ!?」
***
「うろたえてるわね、あいつら」
「全く、俺達はこっち(現実世界)から向こうを見ることが出来るんだ。簡単には逃げ切らせないよ、コソ泥が……」
「そうね、捕まえてからどうしようかな?」
画面の向こうから、悪意のある顔を浮かべて微笑む茜色の少女。
「さぁ、仕上げにかかるぞ」
少年は、キーボードのエンターキーを押す。画面には、「実行」と浮き出ている。
***
「はぁぁぁ!!」
槍を振り下ろし、肉を切り裂く嫌な音が聞こえる。一匹は真っ二つ。そのまま、ドットのように砕けてなくなる。
新志は、何も出来ない自分に憤りを感じた。思わず、身を乗り出す。守られてばかりじゃダメなんだと。
「おい、電波シスター、今すぐ助けてやる!」
「ちょっと、待ってください!」
少女は慌てて答える。後、二匹……あれ、もう一匹は!?
そのとき、ガオスモンの一匹が死角から飛び出してきた。
‐‐‐‐‐‐このままでは噛まれる!!
咄嗟に身構えようとする少女、しかし間に合わない。
刹那。一本の腕が飛び出た。新志が飛び込んできたのだ。間一髪、少女は難を逃れる。しかし、血しぶきが上がる。
次の瞬間飛び込んできたのは、真っ赤な水溜り。すぐに、槍でガオスモンの頭を貫き、破壊(デリート)した。
「無茶しないでください!!」
「馬鹿言え、電波。ここで女の子一人放ってみておけるほど、俺は頭良くねぇんだよ!!」
傷がずきずき痛む。それでも尚立ち上がろうとするのを、少女は手で制した。
「言いそびれましたが、私の名はシスタモン・ブラン。その役割はテイマーである貴方を護る事! その貴方が死ぬ目に遭ってどうするんですか!」
あと一匹。もう少し。もう少しのはずなのに起こったアクシデント。
迫るガオスモン。低いうなり声を上げて。
***
「さぁ、これでフィナーレだ」
そう呟くと、少年はデバイスのような装置を手に取った。そして、紅い宝石のようなものを埋め込む。
機会の音声が発せられた。
『エヴォリューションエナジーVer1起動』
「行くぞ。ガオスモン、進化!」
***
これさえなぎ払えば、最後だ。
と、思ったその時だった。ガオスモンの体が分解し始める。まるで、パズルのピースが一つ一つ崩れ落ちるように。
ブランの顔が青ざめた。
「う、嘘でしょう……」
無慈悲な体の構築とともに、恐竜型デジモンはその場に君臨し、咆哮を上げたのだった。