二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ヴィルヘルムの過去話 ① ( No.73 )
- 日時: 2014/08/24 22:19
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: 8bddVsaT)
過去にこちらの別のスレッドで書かせていただいたものの再録版です。
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———ひとつ、過去話をしようか。
それは、あいつ…MZDがまだ『松田翡翠』として前の世界で過ごしていた頃の話に戻るのだが…。そう、私もまたあいつと同じように『こちらの存在』ではないのだ。
…ふふ、何故お前がこのことを話しているのかって?———話したくなったからだよ、私の気まぐれさ。
……さぁ、過去の扉を開けようじゃないか。誰も知らぬ『隠された過去』へ…向かおうではないか。
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〜HELL城〜
「それじゃお菓子の振り分けはじめまーす!!どれたーべる!!」
「ぽてち!!」
「チョコレート!!」
「プリンですわ!!」
「全部ねーよ!!」
ある昼下がりの出来事だった。
逃走中で起こった謎の襲撃事件…。MZDが被害にあってしまったが、まだあいつのいう『力の暴走』とやらは起こっていないから考えないことにしていたのだが…。
なにやら、不穏な空気がぬぐえない毎日を過ごしていた。
ランスがこっちの世界に住み着くようになってから、いつもの日常は更に賑やかさを増した。
異世界からの客人を引き寄せ、異文化コミュニケーションを通じ、日々は少しずつ、少しずつ変わろうとしていた。
今はプリン、カービィ、ハテナが烈のおやつを取ろうとしているところ…なのだが。
結局ないものねだりをされて困っているのだが。
私は…その光景をみながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。
「ヴィル、何やってんの?」
「別に…」
「ふぅん。ま、別にいいけど」
「…………」
「そういや、さ。ヴィルも…今名乗ってる名前、本名じゃねーんだろ」
「…誰から聞いた?ランスが?」
「うん。根掘り葉掘り聞いたら答えてくれた」
「あいつめ…」
黙ってようとしてたのに…。余計なことをするものだ。
そう思いながら、私は黙ってMZDの話を聞いていた。
———あいつ、私の過去についてまで話をしたのか……。
「…ねぇ、過去について教えてくれない?」
「なぜ貴様に話す必要がある」
「いいじゃん、親友なんだからさぁ」
「……仕方ないな…。ここで話すのもなんだ、別の場所に移動しよう」
そう言い残し、私はMZDを連れて部屋を後にした。
場所を変えるなんて言ったのが不都合だったのか、あいつは何度も「場所変えんのかよ」と言ってきた。
———だが、真実を話すことはあの場ではできない。
「……この世界の人間には、酷すぎる事実だからな」
- ヴィルヘルムの過去話 ② ( No.74 )
- 日時: 2014/08/24 22:22
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: 8bddVsaT)
〜テラス〜
私達がやってきたのは、広いテラスのような場所だ。
ここならば外が一望できるし、よほどのことがない限りは誰にも見つからないであろう。
私はため息交じりにテラスに置いてあった椅子に腰かける。
「さて、何から話したらいい」
「オレの音無町時代の話から」
「…と、いうことは…。ドイツ時代から、かな?」
「え?ヴィルドイツ生まれなの?」
「言葉遣いと四天王時代の技で察してくれ」
「うぃっす」
こいつ、もしかして私が妖術で操られていたことを忘れているのか…?!
と、冗談は置いておいて。私は深呼吸した後に、ゆっくりと過去について話し始めたのだった。
「私は…確かに、お前と同じくこの世界の出身ではない。お前が日本の音無町に住んでいたように…私もドイツで産まれ、幼少の頃を過ごしていたのだ」
「えっと…確かあいつに聞いた話だと、ヴィルの魂がこっちに来たのは…7歳の誕生日迎えた時…だったんだっけ」
「あぁ。ドイツの上流貴族出身で、家族ぐるみで暗殺業をしていたんだ。私は物心ついた時から暗殺の技術を叩き込まれ、既に何人もの依頼を受けていた…。そんな感じか。一応、身分を隠し学校にも通っていたのだ」
「生前から暗殺業してたのかよ…」
「悪いか」
「いや、話続けて?」
「それで…私には『ユウリ』と『ジェーン』という友人がいた。彼らは学校に入ってから初めてできた友達で、よく家に招いて遊んでいたこともあったな」
「『ユウリ』は今のユーリ、『ジェーン』は今のジャックってことでいいんだよな?あいつらには記憶がないそうなんだけど…」
「そうだ。それで、私を含め3人はお互いをいたわりあいながら生活を続けていたのだ。しかし…とある日。ユウリの両親とジェーンの両親が些細なことから喧嘩を始めてしまった。そして…私の親に頼んできたのだ。『相手の息子を殺してほしい』と…」
「なんだよそれ!狂ってる…。親同士が喧嘩してるなら、子供は関係ないだろ!!」
「そうでもしないと気分が収まらないほど興奮していたのだろう…。そして、その依頼は不幸にも私に回ってくることとなった。私は感情を押し殺し、放課後の学校に2人を呼び出した」
「…それで、殺したのか?」
「いや。私にそれが出来るほどの心の強さはなかった」
「じゃあ…どうしたんだよ」
不安がるMZDは、恐る恐るそう聞いてきた。
私は改めてため息をつき、なるべく表情を悟られないようにこう彼に突き付けた。
『殺した。自分自身を』
「それって…自殺…って、こと?」
「あぁ。耐えられなかった。自分を労わってくれた仲間など…殺せるわけがなかろう…。それで…自分自身の命を絶ったのだ。呪われた人生から自分を断ち切るために」
「それで…その魂はこっちの世界に来て、魔界に降り、当時のプルートさんに魔族にしてもらったんだよな」
「外見的な変化が起こったのもその頃だな。おかげで今の今までずっと少年と青年の狭間をさまよい続けている」
「…まぁ、いいんじゃねーの?外見が定まってるってことは…。どんなに歳喰ったって見た目が醜くならねぇ、ってことなんだからさ」
私の話はこれで終わりだ。彼にそう告げると、あいつは妙に納得したように声を上げた。
……あぁ、喋ってしまった。だが…それでいいのかもな。むしろ今まで喋らなかったのがおかしかったのではないだろうか。
ただ———『あの戦争の話』までは持ち込んでほしくないのだが…。
その思惑は、不幸にもジルクファイドの登場によって打ち破られることとなった。
- ヴィルヘルムの過去話 ③ ( No.75 )
- 日時: 2014/08/24 22:31
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: 8bddVsaT)
「…ごめん、ちょっといいかな。大変なことになった」
「どうした?ジルク」
テラスで話し込んでいると、急にジルクが現れた。
話によると、ユーリから討伐依頼が出たらしい。…場所が場所で気になるがな…。
「『死霊地』から…大量のゾンビが噴出してるってユーリから連絡があった。討伐手伝ってほしいんだって」
「『死霊地』…?どうしてそんなところから…?」
「それで…現地で戦ってるみんなの情報集めてきたんだけど…。ゾンビは『過去の戦いの死霊』で、中には腕に『金色の腕輪』をつけてたやつもいたんだって」
「金色の腕輪…!!それって!!」
「そう。エムゼがつけてるのと、全く同じ奴だよ」
ならば、死霊地でのゾンビの暴走はエコロ達が関係しているということか…?
とにかく現場へ向かわなければ。私はそのウマを伝え、準備を整えて死霊地へと向かった。
———あの、かつて行われた『醜き戦争』の場へ———。
〜死霊地〜
「やっと来たか!遅いぞ三大嫁!」
「お前が使うなよ嫁でもないくせに。まぁいいや。とにかく、このゾンビを全部片付ければいいんでしょ?」
「だが…気をつけろよ。腕輪をしているゾンビは他のゾンビより力が強く感じる」
「ってことは…金色の腕輪は『魔力の増幅装置』って考えたほうがいいのかもね」
「でも…オレ今つけてるけど力が強くなった感じはしないよ?」
「何か条件を満たさないと魔力は増幅しないのか…」
ユーリからの情報を聞いた後、私は自前の杖を取り出す。…確かに、腕輪をしていない者より腕輪をしている者の方が凶悪なオーラを発している。
さらに…ゾンビには自我はないと思うが…。腕輪をしている方は『敵味方関係なしに攻撃している』ように感じる。———どういうことだ?
疑問は募るが、これ以上ゾンビが増えるのもままならないので、とりあえず数を減らすことに専念することにした。
……そして、数分後。あらかたのゾンビは討伐し終わっただろう。数は圧倒的に減っていた。
「ふぅー。なんとか上手くいったって感じ?」
「協力、感謝する」
「でも、どうして俺達に頼みに来たの?裸族仲間もいるじゃない」
「連絡はしたのだが…全員戦える状態じゃなかったからな…」
「そ、そう」
裸族はどうでもいい…。しかし、どうしてゾンビが大量発生したのだろうか。
とりあえず、私は倒れているゾンビの1体に記憶操作魔術をかけてみる。
———すると、目の前に過去の記憶…………が…………。
これは——————
「こいつらは……私……が……殲滅した……」
目の前には、黒い鎧を着た初老の男と、彼に掘り起こされたのだろう大量の死体が写っている。
……死体に見覚えがあった。いや、忘れられるはずがなかった。『魔族をすべて滅ぼそう』と動いた、あの軍事国家の兵士達の死体だった。
私は———あの戦い…『魔族と軍事国家の戦い』で、自らの魔力を抑えられなくなり暴走したことがある。そのおかげで魔族軍は勝利し、私は『紅き英雄』と呼ばれるようになったのだ。
———しかし、私は英雄ではない。戦いが終わった後、兜の取れた兵士の顔を偶然見てしまったのだ。
……兵士は……子供だった。私よりも幼い、小さな子供だった。私は……彼らを、無理やり戦いに駆り出された何の罪もない子供を、殺したのだ。
不意にその出来事を思い出し、挙動不審になる。私は英雄ではない。言うなれば『死神』だ。世間から『紅き死神』として騒がれるようになった時、心のどこかでそう感じていた。
「ヴィル…」
「このゾンビ、魔族を滅ぼそうとしていた軍事国家の死体…だったみたいだ。人間の軍は強大な魔力を持った一人の魔族に滅ぼされたって本に記述されてあったけど…。
まさか、その魔族が…ヴィルなのかなぁ」
「真実を知るのはあいつだけ、だろうな」
「…あいつ、こんなに苦しい思いしながら過ごしてたんだな…。暗殺者のくせに人の命を奪うのに抵抗があるって言ってたの、わかる気がするな…」
だったら…今、謝ったほうがいいのだろうか。
私は…罪もない子供達を殺した償いをしたほうがいいのだろうか。もう動かなくなったゾンビの悲しそうな顔を見ながら…私はそう思った。
奪ってしまった命はもう元には戻らない。ならば———それ相応の弔いはしてやらないとな。
遅れてしまったが———せめて、これくらいはやらせてくれないか。
「MZD、ジルク。先に帰っててくれないか」
「え?」
「…今から、このゾンビ達を全て焼き払う」
「ちょっと?!そんなことしていいの…?!」
「この子達に罪はない。だから…せめて天国に送ってあげたいのだ。せめてもの…弔いだ。誰にも見てほしくないのだ…だから」
「分かった。ジルク、ユーリ、行こうぜ」
「う、うん」
———状況を察してくれたのか、MZDはまだ理解していない2人を連れて城まで戻って行った。……感謝するぞ、MZD。
そして、彼らが言ったのを確認し…。私は両手を前に掲げる。炎魔術の詠唱を始める。
彼らが少しでも救われるように。私も魔族ではあるが『この世に生を受けた』者。せめて、これくらはやらせてくれ。天国で幸せに暮らしてくれ。
そう、祈りながら。
『Ubertreffen』
———私は、炎の海で燃え盛るそれを、祈りながら、ただ、見ていた。