二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.1 )
日時: 2014/03/29 09:43
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第一章−刀は迷い込む。−

森を歩いてる時だ。

4人の陰陽師に囲まれる


定型句をもって緊迫した会話を始める。

暁「陰陽師か?」

陰陽師1「そうだ。」

集団のリーダーと思わしき人物が答える。

背には弓と矢筒を装備している。

暁「何故…何故、私を襲う?」

陰陽師1「お前が妖怪だからさ。」

暁「妖怪は…生きてはいけないのか?」

陰陽師1「いけないだろうよ、お前みたいな人殺しはな。」

暁「お前は妖怪を殺すのか?」

陰陽師1「殺すさ。」

暁「それは宜しい事なのか?」

陰陽師1「当然だ、人じゃないだろ?」

暁「俺を…殺すのか?」

陰陽師1「殺すさ。」

———酷く冷たい言葉。
  
   さらに零度のような言葉を投げかける。

暁「では…私も全力で抵抗させてもらおう。」

手から取り出した刃渡り90㎝程の刀。

多くの修羅場を潜り抜け、多くの血を啜り、深紅に染まった刀身。

自分の核にして、自分自身。

「鬼切丸」

一つ名を呼ぶ。

名とは、縛るものだ。

だがそれを解けばどうなる?

名が変わるたびに縛るものが増え力を失っていく。

だが戻せばどうなる?

当然、力は戻る。

膨れ上がる妖力。

陰陽師たちは今まで何人もの仲間たちが殺された理由を知った。

リーダーらしき人物が後ろの木に登り、残りの奴らが襲い掛かってくる。

遮蔽物の少ない場所では数の暴力がものを言う。

暁は森の中に飛び込んだ。

拙い、暁はそう思った。


想像以上に退魔士の能力がやっかいであった。

数人いるうちのどれかの能力なのか、これ以上の呪の解放も行えないのだ。

また見当違いの方向に幾つもの矢が放たれる。

逃れるように走るが突然矢は方向を変え、向かってくる。

直撃するものを避け、避けきれないものを叩き落す。

それでも残る矢が暁の体を擦り、さらに裂傷を増やした。

先程からこの繰り返しだ。

遠視か透視、どちらかを持っているのかどこにいても捕捉されてしまう。

さらに森からいつの間にか竹林に変わり視界が改善されてしまったことがさらに逃走を困難にしてしまっている。

その奪われた体力が暁をふらつかせた。

それを隙と見たリーダーらしき人物が切り札を打ち出す。

現れたのは空を埋め尽くす矢の雨。

その全てが先の矢と同様暁に向かい、回避を試みるが効果はない。

残る力はそう多くない。

脇構えと呼ばれる構えをとり、生き残るための技を使う。
そうして振り上げられた鬼切丸が地面を抉り、振り切ると矢を迎撃した。

今の刀は八十一センチより先の部分が延長され十メートルを超す超巨大な刀に変わっている。

後二度刀を振るい向かってくる矢の全てを迎撃しきった。

だが、十メートルを超す刀を振るったのだ。

その反動で隙ができてしまう。

残る三人の退魔士が三方から暁を囲み、己の武器を突き刺すと、声を合わせた。

 『滅妖結界』

その瞬間、暁の周りは光に包まれ身動きがとれなくなった。

陰陽師1「ふぅ。やっと捕まえたさ」

リーダーらしき人物が言う。

止めを刺すためなのか、ゆっくりと近づいてくる。

暁は抵抗するが、ミシミシと身体が音を立てる。

陰陽師1「やめておいたほうがいい。四肢が千切れる」

暁「殺すのだろう?」

陰陽師1「ああ、殺すさ。せめて痛みの無いように殺す」

暁「そうか。」

暁は無理やり身を動かし、拘束を逃れようと暴れる。

今敵がようやくまとめて攻撃圏内にいるのだ。

今なら殺れる。

———バキャ、


滅妖結界は破られ、結界を張っていた三人は吹き飛ぶ。

しかし、暁の様子は見れたものではない。

全身から血を流し、両足はもう歩けるような状態ではないだろう。

比較的無事な右手も真っ赤に染まり、左手に至っては辛うじてつながっている程度だ。

それでも生きてる。

右手だけならまだ動く。

生きるためにこいつらを殺そう。

そう、いつも通りに暁は決意した。

世界は暗闇に包まれた。



Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.2 )
日時: 2014/03/29 09:48
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「…ハァ…」

刀を地面に突き刺すと自ら作った血の海の中に倒れこんだ。

残っていた力も使いきり、もう人間体を保つのも難しい。

暁「しばらく刀に戻るしかないか」

力ずくで結界を引きちぎった所為で、内面からボロボロだ。

おそらく半日は意識が消え、最低丸一日は休まなければ人間体にはなれないだろう。

今の状態で刀を折られれば、確実に息絶えるだろうが、今回ばかりは折られたりしないことを祈るしかない。

ここは何処だかはわからない。

周りには森が広がり、満月が湖に移り、幻想的だ。

———この様な場所で息絶えるのも宜しいかもしれないな。

そう考えると暁は目をつぶった。

暁は紅い光に包まれ、刀の中に消えていった。

刀身が刺さったところに映りしは、満月と湖であった。


Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.3 )
日時: 2014/03/29 14:54
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第2章-運命?-

「あら?」

一人の女がそれを見つけた。

メイド服を身に着け、左手には買い物袋を持っている。

此処は幻想郷、

そして、霧の湖。

そこに4つの死体。

殺した者の姿は無く、血の海の真ん中に一振りの刀が刺さっている。

その刀身を引き抜くと、紅魔館に持って帰った。

持って帰らなければいけないような気がした。

とりあえず持ち帰ったまではよかったが、どう扱っていいのかわからない。

本来ならば鞘に収めて置いておけばいいのかもしれないが、鞘が無いのだ。

困った。

なのでパチュリー様に助けを求めることにした。

咲夜「パチュリー様、」

パチュリー「あら、どうしたの?咲夜?」

咲夜「これを、拾ったんですが…」

そういって深紅に染まった刀を見せる。

咲夜「どう扱えば宜しいのか…」

パチュリー「そうねぇ。私たちの中に日本刀扱える人はいないわね。
      それにどうして拾ってきたの?」

咲夜「いえ、何だか拾わなければいけない気がしたので。」

パチュリー「完全で瀟洒な貴方がねぇ、まあいいわ、白玉楼に行って妖夢に見てもらえばいいんじゃない?レミィには言っておくから。」

咲夜は日本刀は置いておくだけではダメだ、という話を聞いたことがあった。

この際、保管の仕方から手入れの仕方まで、一切合切覚えたほうがいいかもしれない。

でも今日はもう遅いから、明日にすることね。今日のところは、この布にでも包んで置いておくといいわ」

懐から手品のようにサッと大きなやわらかい布を取り出す。

これならば、刀身を傷つけることも無さそうだ。

パチュリーに礼を言うと、咲夜は布を受け取り日本刀を包み、それを両手に大事に抱え自らの部屋に向かって廊下を歩きだした。

美鈴「咲夜さん、それどうしたんですか?」

興味津々で刀を見つめる美鈴。

咲夜「美鈴、門番の仕事は?」

にっこりと笑いながら、ナイフをかざす咲夜。

美鈴「待ってください!お嬢様から休みを頂いたので。」

咲夜「……そう。じゃお休み。」

ナイフを下しながらあくびをする咲夜。

美鈴「はい、おやすみなさい。」

翌朝、日本刀を両手にしっかり抱え、紅魔館の玄関に来ていた。

咲夜「それではお嬢様、行ってきます」

レミリア 「はい、気を付けていってらっしゃい」

日本刀の重さは二3キロほどで、油断していると落としてしまうかもしれない。



少女移動中……


白玉楼への長い階段の途中に妖夢を見つけた。

咲夜「妖夢」

妖夢「あれ、咲夜さんどうしたんですか?」

咲夜「実は、これを拾って……」

そう言いながら布を取り出し、日本刀をみせる。

咲夜 「保管の仕方がわからなくて、聞きに来たの。ついでに、手入れの仕方も」

妖夢 「そうですか。少し貸してもらっていいですか?」

妖夢は咲夜から日本刀を受け取ると、何度か角度を変えて最後に光に透かし地金の波紋を調べ、返した。

「素晴らしい刀です」

と、妖夢は誉める。

咲夜「そうなの?」

妖夢 「ええ。持っている能力は別として、刀の格としては私の楼観剣にも劣らないでしょう。大した業物です」

咲夜は驚いた。

たまたま拾っただけの刀に、それだけの価値があると言われたのだ。

驚きもするだろう。

妖夢 「では、中にどうぞ」

妖夢に導かれ、咲夜は部屋に入っていった。

妖夢「まず、手入れの道具ですが、目釘抜、打ち粉、油、油塗紙に、拭い紙が二種類、あとは木槌です」

妖夢が一つ一つ見せていく。

妖夢 「うちに予備がありましたから、こちらは差し上げます」

咲夜 「ありがとう」

妖夢 「ただ、しっかりと道具の手入れも忘れないでください。汚れたものでやってしまうと、刀を傷つけてしまいますから」

そう言うと、背中に掛けている楼観剣を取り、手本を見せるように手順を始める。

妖夢 「始めに、目釘抜で目釘を抜きます」

と、妖夢が目釘を抜く。

咲夜も妖夢に習い、抜こうとするが、何故か抵抗が強い。

それでも、力を入れるとなんとか抜けた。

妖夢 「次に鞘から抜き、左手でこのように握り、右手の拳で手首を軽く打ちます」

妖夢は自分の小さな頃を思い出したのだろうか、小さく苦笑し、続ける。

咲夜は軽く手首を打ってみるが、柄がゆるむ気配が無い。

手首を打つ強さは段々上がっていくが、一向に抜けず遂に全力で打った瞬間。

——キュイン

刃は小気味いい音を立てて抜け、しばらくの空白。

妖夢「みょん!?」

咲夜 「!!」

グサッと咲夜と妖夢の間に刺さり、妖夢は変な声を出し、咲夜は両手をついた。

咲夜「ご、ごめんなさい」


その後、拭いを行い、柄にいれ目釘を打って、作業を終えた。



抜くときとは違い、目釘も柄もするりと入りしっかりと固定された。

銘は鬼切丸というらしい。

そっと名を呼んでみるとリィンと刀が鳴いたような気がした。

咲夜はしっかりと布を巻き、立ち上がった。

咲夜 「今日はありがとう。助かったわ」

妖夢 「いえ、刀を扱うものが増えるのは、嬉しいことですから」

喋れる仲間が増えるのは嬉しいです、と妖夢は続ける。

妖夢 「今日形も見ましたので、鞘も用意しておきます。二三日したらまた来てください」

咲夜 「何から何までごめんなさい」

妖夢はそれに笑みで答えた。


互いに手を振り合うと、咲夜は紅魔館に帰っていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.4 )
日時: 2014/03/29 15:12
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第3章-姿-

皆が寝静まった頃、美鈴は刀が保管されている所に来た。

目的は、鑑賞。

美鈴自身も刀には興味があったらしく、

布に包まれた刀をとろうとした瞬間…


美鈴「——!?」


刀から手が飛び出した。

悲鳴にならない悲鳴を上げる美鈴。

しばらくすると、ズルズルとゆっくり刀から左手、頭、体と順々に姿を現してくる。

その姿はリン〇の貞〇に酷似していて、その恐怖は言葉では表わせない。

美鈴はガタガタと震えながら、それを見ていることしかできない。

いや、見ていたくはないが、目を逸らすこともできない。

刀から出てきた男らしき物体は、底冷えするような声で言った。


「喰っても……いいのか……?」


紅魔館に、ようやく音になった、美鈴の悲鳴が響き渡った。

暁「いや、すまなかった。若干悪ノリし過ぎたようだ」

暁は謝る。

周りには、パチュリー、小悪魔、レミリア、咲夜、美鈴の5人がいる。

レミリア「その件についてはもういいわ。美鈴の自業自得だもの。それより、貴方はいったい誰?」

と、レミリアが問う。

暁 「俺は」

言葉を切り、ふと気付いたような目でレミリアの方を見つめている。

何かを思い出そうとしている様子だ。

レミリア「?」

レミリアはすっかり疑問顔である。

そして、暁は思い出したようにポンっと手を叩くと言った。

暁「レミリア・スカーレットか!」

その言葉には、咲夜が反応した。

首に突き付けられたナイフ。

咲夜 「貴方、何者!」

暁 「?」

と、素で返す暁。

咲夜「とぼけないで。あなたには疑問な点が多すぎる」

暁 「俺としては、500年前の吸血鬼が生きている事のほうが疑問なのだが」

考え込む仕草を見せる暁。

まるで、突き付けられている物などないように振る舞っている。

暁「なるほど、人の生血だな。たしかそれが生命の源だったはず…」

暁が右手を胸に当て、横になぐように腕を振ると、赤い光と共に咲夜の拾った赤い刀が現れた。

暁 「こいつに見覚えはないか?」

レミリアに刀を渡す。

赤い刀など見たことはない。

だが、造りをよく見ればそれは、

レミリア「まさか、鬼切丸?」

暁「ご名答。俺はこいつの付喪神。今は暁と名乗っているので、そう呼んでほしい」

レミリア 「咲夜、いいわ。座ってちょうだい」

レミリアのそれに従う咲夜。

咲夜「なんでお嬢様様の事知ってるんですか?」

咲夜は口を挟んだ。

暁「伝承にはないがな、一回海に落ちてな、さまよってたら見知らぬ城についてな。そこでたしか吸血鬼に拾われて…我が国に帰してもらった。」

暁「四百年も経って、道具の頃の顔見知りに会えるとは思わなかったが」

実は、幻想卿にはあと二人顔見知りがいるのだが、今はまだ暁は知らない。

暁 「こちらの質問もよろしいかな?」

暁 「ここは何処だ?」

レミリア「此処は幻想卿、博霊大結界の内側、そこの紅魔館よ」

紅魔館の主、レミリアが答える。

暁「素晴らしい場所だな。真っ赤な造り、センスがある」

誉められたことで、少し得意顔のレミリア。

暁「此処を見るだけでわかる。ここは笑いが絶えないのだな」

羨ましそうに言う暁。

陰陽師の存在もここにはないようだ。

テレビやパソコンなど、文明の利器は見当たらないが、それでも充実した日々なのだろう。

暁「良ければ此処に居候させてはもらえないだろうか? 迷い込んだようで住処も無く、さすがに野宿というのも少々遠慮願いたいものなのだが」

レミリア 「私たちにその理由はないわよ」

暁「レミリアにはないが、そこのお譲さんにはあるぞ」

そういい、暁は咲夜の方を向く。

紅魔館の主、レミリアに向かい言う。

暁 「実はな、そこのお譲さんが、嫌がる俺を無理矢理ひん剥いてな、頭の先からけつの穴まで見られてしまったんだ。これは責任とってもらわねば……」

よよよ……、と泣き崩れるふりをする暁。

レミリア 「あら、咲夜。あなた実は鬼畜だったのね」

冷たい視線が三つ、咲夜に突き刺さる。

なんのことだかは、咲夜にはわからなかったが、レミリア、パチュリーにそんな目で見られてしまっては、何も言えなかった。

レミリア「ふう、じゃあ仕方ないはね。認めるわ」

暁 「すまない。代わりに料理などの家事を手伝わせてもらう」

暁は一人一人顔を覚えるように見た。

レミリア「他にも妖精メイドがたくさんいるけど、ゆっくり覚えていってちょうだい」

そう言い終えると、大きなあくびを一つ

レミリア「ふぁ。咲夜、もう眠いから私寝るわ」

咲夜 「わかりました。えーと」

暁「暁。呼び捨てでかまわない」

レミリア 「では、暁。今日は部屋が用意できないから、咲夜の部屋で休んでくれるかしら?」

咲夜 「お嬢様!?」

暁 「あぁ、了解した」

驚く咲夜を二人とも軽くスルーし、話を終えた。

静まる部屋に残された咲夜と暁。

咲夜「暁さん」

暁 「暁でいいぞ。さんはいらない。こちら咲夜と呼ばせてもらうが」

咲夜 「あ、はい。それで」

暁 「あぁ、部屋のことは気にしなくていいぞ。端っこで刀の中で寝れば済む」

咲夜 「いや、そうじゃなくて!どういう事ですか、私が襲ったみたいなこと言って!」

暁 「ひん剥いたろ?」

咲夜「剥いてません!」

暁 「見たろ?」

咲夜「見てません!」

ん〜と腕を組み、顎に手を当てる。

暁「あの時だ。白い髪の女の子、確か妖夢と言ったか。そいつと共謀して。目釘抜けにくかっただろ?」

咲夜「はい」

暁 「柄、外れにくかったろ?」

咲夜「はい」

暁 「見たろう」

咲夜「?」

暁 「茎」

暁 「見たね」

暁 「ほれ、俺の言うとおりではないか」

咲夜「?」

暁 「刀にとって茎はけつの穴みたいなもんだ。目釘が抜けにくかったのも、俺が抵抗してたからだ。何一つ嘘はついてないな」

咲夜 「うっ…」

言葉につまる咲夜は、反撃を試みる。

咲夜 「だからって、あんな言いかたないじゃないですか…」

暁 「すまん。それについては謝る。自分を知られて普通に接する者などいなかったからな……」

だが予想とは違い素直に謝られ、罪悪感がわいてしまう。

咲夜「い、いいです…別に。もう気にしてないですから。ほら、もう夜も遅いですし、寝たほうがいいですよ?」

暁 「そうだな。そうさせてもらおう」

そして、部屋まで先導を始めた咲夜。

咲夜には後ろに目が付いてなかったので、やっぱり暁の黒い笑顔には気付けなかった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.5 )
日時: 2014/03/29 14:58
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

言い忘れましたが、『超』不定期更新です。
コメント待ってます。
それだけです。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.6 )
日時: 2014/03/29 15:00
名前: 河童 (ID: DxRBq1FF)

面白かったです!頑張ってください!

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.7 )
日時: 2014/03/29 15:03
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

≫河童さん
黄昏。「有難う御座います!」

暁「こんな文章力0の小説を見てくれたのか!礼を言わなければな。」

コメント有難う御座います!!

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.8 )
日時: 2014/03/29 16:04
名前: 河童 (ID: DxRBq1FF)

こちらも東方小説書いているので…がんばってください!

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.9 )
日時: 2014/03/29 17:57
名前: 黄昏。 (ID: ???)  

河童さん、作品拝見させてもらいました。おもしろかったです。更新がんばります!       コメントありがとう御座います

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.10 )
日時: 2014/03/30 15:21
名前: 時雨 誠 (ID: zRMXy3Mo)

小説、ご拝見させていただきました!
とても面白いですね!、自分では足元にも及びませんw

これからもご拝見させていただきます!

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.11 )
日時: 2014/03/31 09:43
名前: 黄昏。 (ID: ???)  

時雨さんありがとう御座います!これからも宜しくお願いします!

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.12 )
日時: 2014/04/01 08:46
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第四章-家庭的?-

次の日の朝、いつもより早く目が覚めた咲夜。

咲夜「?」

端っこに置いてあったはずの暁がいない。

それに、なんだか味噌のいい匂いが漂ってくる。

匂いにつられ、ふらふら〜と立ち上がり台所へ向かう。



暁「よう。中々早いのだな」

迎えたのは、黒い着物に赤い帯をし、エプロンを付け頭に白いバンダナを装備した、暁だった。

随分とちぐはぐな格好ではあるが、お玉を持つ姿は案外様になっている。

咲夜「何を」

寝ぼけたまま咲夜が尋ねる。

だが、頭がまだ回っていないのか、最後まで言葉が出てこない。

暁 「家事の手伝いはするといったからな。その一環だ」

暁はその意味をしっかりと受け取り、答える。

傍らで、鮭が焼けている音がして、具合を見ながら調理を進めていく。
咲夜「何」

暁 「今日は、豆腐の味噌汁に焼き鮭、あと漬物があったから、それも切っといたぞ」

お釜では、ご飯が炊けているようだ。

暁 「あとなんか欲しいもの有るか?」

咲夜 「紅茶……」

暁 「紅茶はそこ、紅茶の茶葉はもう準備してあるから、入れてくれ。お湯はもう丁度いい温度だと思うからな」

咲夜は無意識ながらも、指示通り言われたことをこなし、人数分振り分けた。そして、心の中でつぶやいた。

…お嬢様…洋食なのですが…




Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.13 )
日時: 2014/04/01 08:58
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)



『いただきます』

と、皆で声を合わせた。

暁「口に合えばいいのだが」

暁が前置きするが、誰一人として聞いちゃいない。

まぁいいか、と暁も食べ始め、うむ、いつも通りの味だ、と納得する。

レミリア「咲夜、咲夜! これ美味しいわ!」

咲夜「そうですね、お嬢様。」

どうやら中々好評なようだ。

皆の食事はみるみる減っていき、

『ごちそうさまでした』

食べ終わってしまった。

暁 「お粗末様でした」

暁は答える。

いつもの食事当番である咲夜が聞く。

咲夜「夕霧。味噌汁のだしは何使ったの? 鰹出汁?」

暁 「だしの素だが?」

咲夜 「だしの素?」

暁 「だしの素」

咲夜の頭の上には、クエスチョンマークがいくつも浮いている。

暁はおののくように言う。

暁 「ま……まさか、だしの素を知ら……ない?」

咲夜「はい…」

なんでもないように答える咲夜。

暁 「ちょっと待て」

と、一度台所へダッシュし、あっという間に戻ってきた暁。

手に握られているのは、だしの素の入ったビンだ。

暁 「これを知らないか?」

咲夜 「知らない…ですが」

暁 「いいか、よく聞け咲夜。これはな、だしの素という、人間のたどり着いた境地とも言うべきものだ。おそらくこれは、人間が生まれてから最大の発明、いや、至高の発明と言っていいだろう」

あまりの剣幕に若干ひいている咲夜を置き去りにし、暁は続ける。

暁 「これを知らないのは人間、いや、世界に申し訳がたたん!」

ふぅ、とようやく暁は止まり、落ち着きを取り戻した。

暁 「しかし、まさか知らないとはな。外にこれが落ちてたもんだから、普通にあるものだと思ったが」

からからとビンを振る。

その発言に驚いたのは咲夜だ。

咲夜 「ちょっと! 落ちてた物食べさしたの!?」

暁「いや、落ちていたのは空ビンだが?」

『??』

一同全く理解できない。

暁 「そういえば、言ってなかったか」

そう言うと暁は、ビンの中身を別の容器の中に詰め替えた。

暁 「これを持っててくれ」

と、詰めたほうの瓶を近くにいたパチュリーに渡し、空のだしの素の瓶だけが手元に残った。

暁 「此処におわすは、人類の至高、だしの素の空ビン。これに軽く手をかざして、一度振るだけで」

すると、空だったビンの中身いっぱいにだしの素が現れている。

もちろん、パチュリーが持っているビンも元々入っている分が元の通りのこっている。

暁 「と、まぁこの通りだ」

『おお〜』

と咲夜とパチュリーの二人が拍手を送る。

パチュリー 「それは能力?」

暁 「『出現』能力だ」

パチュリー 「『出現』?」

暁「そうだ。咲夜たちはどんな能力なんだ?」

咲夜 「私は時間を操る程度の能力、お嬢様は運命を操る程度の能力よ」

暁「むっ…こちらでは能力定義の仕方が違うのか」

ん〜と唸る暁。

暁 「因みにパチュリーは」

パチュリー「火水木金土日月を操る程度の能力よ」

なるほど、と相槌を打ちながら、悩む。

暁 「そうだな、こちらの定義で言うとすれば、無から有を作り出す程度の能力、と言ったところか」

パチュリー 「ところでどうやってだしの素をだしたのよ」

うむ、と暁は説明を始める。

暁 「だしの素の空ビン。これの中身はおそらくだしの素だった。つまり、今は中身が『無』い。能力で『有』る状態に変えたんだ」

とってもわかりにくい説明だ。

パチュリー 「空の醤油ビンの中にお酒を出現させるようなことはできない。そういうことね」

パチュリーが補足して説明する。

レミリア 「へ〜。便利な能力だねぇ」

パチュリー 「私は美味しければ何でもいいわ」

そんな平和な朝の時間は過ぎていく。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.14 )
日時: 2014/04/01 09:07
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

朝食の後片付け、掃除、洗濯(暁はやらせてもらえなかった)を終え、午前最後の家事に取り掛かった。

薪割りだ。

暁 「スペルカードルール?」

よっ、と力をこめて薪を割りながら暁が聞く。

咲夜 「そう。もめ事が起きたときの、ここでの解決方法だから、ここに住むなら覚えたほうがいいでしょ」

といいながら一枚の手の平サイズのカードを見せる。

そこには「幻符「殺人ドール」」と書かれている。

咲夜「これがスペルカードって呼ばれるもの。技に名前を付けて契約書形式でカードに記しておく。技を使う際にはカード宣言が必要なの」

聞きながら一本ずつ薪を割っていく。

咲夜 「で、これを任意の枚数持って決闘して、体力がつきるか、スペルカードを全部攻略されたら負け、逆なら勝ちよ。最低限のルールとして、負かした後に殺すのは禁止。後は博霊霊夢は殺しちゃダメ。博霊大結界が維持できなくなっちゃうからね」

頭の中で意味を咀嚼し、覚えていく。

暁 「『スポーツ感覚に近い決闘』と言ったところか。なるほどな。霊夢とやらには一度会っておいたほうがよさそうだ。よし、スペルカードを用意しよう。俺はネーミングセンスがないから、咲夜、付き合ってくれるか?」

咲夜 「さっきの見たらわかると思うけど、私もネーミングセンスはないわよ?」

暁 「……」

咲夜 「……」

前途は多難のようだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.15 )
日時: 2014/04/01 09:06
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第五章-楽しみ-

なんとかスペルカードを数枚作り、暁は口を開いた。

暁 「他の家事は?」

咲夜 「後は、妖精メイドたちがやってくれるわ」

暁 「よし、じゃあ霊夢とやらに会いにいこう」

咲夜 「いってらっしゃい」

暁「何を言っている。咲夜もだぞ?」

立ち上がり、手を差し出す。

咲夜 「なんで?」

暁 「居場所がわからん」

咲夜はつい一昨日、暁がやってきたことを忘れていた。

それほどまでに暁は溶け込んでいた。

咲夜「わかったわ。お嬢様に言ってくるから待っててちょうだい」

咲夜は戸を開け出ていった。

暁は、戻ったらすぐに出れるように片付けはしておくことにしたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.16 )
日時: 2014/04/01 09:11
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

玄関前、パチュリーとレミリアが見送ってくれた。

レミリア 「暁は飛べる?」

暁 「飛べはしないな」

歩いていくと面倒なんだけどな、と咲夜は思う。

暁 「浮くことならできるぞ」

パチュリー 「浮く?」

その疑問に答えるように暁は階段に上るように、一歩踏み出した。

すると、足場が無い空中に足を踏みしめ、両足が浮く。

暁 「まぁ飛べはしないが、擬似的なことはできる。空中を通るならそれも可能だ。速度は走れば問題ないだろ」

本来足場が『無』い場所を『有』ることに変えたのだ。

レミリア 「うわ〜何でも有りね」

暁 「そんなことないぞ? 任意に消すことができんし、役割を与え続けないと消える。それに、器がなければ何もできないしな」

咲夜「あまり理解できないけど、まぁいいわ。先導するからついてきて」

暁「なぁ、咲夜」

咲夜 「なに?」

暁「咲夜はどうやって飛ぶんだ?」

咲夜 「こうやって」

というと、羽が生えたかのようにふわりと宙に浮いた。

暁 「いや、原理は?」

咲夜 「? 飛べるから飛べるのよ」

何でも有りなのは咲夜の方じゃないか、と思わずにはいられない暁だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.17 )
日時: 2014/04/01 09:13
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

大きな赤い鳥居をくぐると、腋が無い巫女服を着た紅白と、大きな黒の帽子をかぶり箒にまたがった黒白が飛び回っていた。

暁「あれが言ってたやつか?」

二つの意味を含め、暁が隣に話し掛ける。

咲夜「スペルカードのことならそうよ。霊夢のことなら巫女の方。因みに黒白の方は霧雨魔理沙」

咲夜は遠慮なく指を差す。

前に腕を組み、懐手している暁は、興味深げに目を細めた。

二人の戦いは終盤を迎えているようだ。


——恋符「マスタースパーク」


魔理沙が放った極太の光条が霊夢に向かう。

もはや逃げ道など存在せず、威力は相当、生身では受けることは容易くないだろう。

しかし、

暁 「ほう」

暁が感心したような声を出す。

一秒前までいた場所には霊夢は存在せず、現れた場所は魔理沙の背後。


——境界「二重弾幕結界」


マスタースパークをうった反動から未だ抜け出せず、硬直する魔理沙を取り囲むように放たれた弾幕に、為す術もなく魔理沙は被弾した。

暁 「あれは、空間転移か無時間移動の類か?」

咲夜 「無時間移動だったと思う」

緋想天のときを思い出しながら言う。

暁 「やはりか。あれほどの使い手は見たこと無いな」

なぜか嬉しそうな顔をした暁がいた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.18 )
日時: 2014/04/01 09:17
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

霊夢「で、あんた誰よ」

霊夢が不機嫌そうな声を出した。

暁 「暁という。今は紅魔館に居候している。今日来たのは顔見せと言ったところか」

霊夢 「顔見せ?」

暁 「ああ。一昨日幻想卿に来たばかりで、顔を知らんからな」

霊夢 「一昨日って、何処からよ」

暁 「ここは侵入、外出防止の結界があるのだろ? おそらく紅魔館の前の森の中に結界の綻びがある。俺はそこから迷い込んだ」

思案顔の霊夢は暫く考え込むと、

霊夢 「わかったわ。報告ご苦労様」

暁 「では、用事も済んだ。是にて失礼する」

その言葉に従い、咲夜と暁が踵を返し、帰ろうとしたときだ。

霊夢 「ちょっと待ちなさい。神社に来たんだから、お賽銭入れていきなさいよ」

と、お賽銭箱を指差す。

咲夜は呆れ顔だが、暁は邪悪な笑みを浮かべた。

何か面白いことを思いついたようだ。

暁 「咲夜。まだ帰らなきゃいけない時間じゃないな?」

咲夜 「まだ、余裕はあるわ。」

僥倖、と一言入れ、懐から財布を取りだした。

中身から一枚のお札と、硬貨を右手と左手に持つ。

暁 「さて、右手におわしますは、福沢諭吉様。左手には五円玉だ。このどちらかをお賽銭にしようと思う。霊夢とやら、どちらがいいか?」

霊夢 「右手に決まってるじゃない」

憮然として、霊夢が答える。

暁 「だろうな。だが、俺は五円玉がいいと思う。ご縁がありますように、と最近は言うらしい。さぁ大変だ。霊夢は壱万円、俺は五円。意見が食い違った。こういう場合此処ではどうすればよいかな?」

霊夢 「そういうことね」

暁 「ああ、弾幕勝負をしよう。霊夢が勝てば、望みどおり諭吉様をお賽銭にする。逆なら五円だ」

霊夢 「いいわ。やってあげる」



咲夜 「ちょっと、大丈夫なの?」

霊夢 「何がだ?」

咲夜 「あの巫女強いわよ?」

暁 「まぁ、勝つつもりでやるが、負けてもたいした痛手はない。弾幕勝負を一度やってみたかったのもある。どちらにしろ、何かしらの因縁をつけてこのような流れに持っていこうとも思っていた。お賽銭に執着してたから利用させてもらったまでだ」

やれるだけはやるさ、と軽く言い、財布を咲くに預けた。



先ほど、霊夢と魔理沙が戦っていた場所まで移動する。

左手に右手を突っ込むと、ズルズルと刀を取り出し、露を払うように真一文字に振るった。

暁 「では、始めようか」

霊夢 「ええ」

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.19 )
日時: 2014/04/01 09:28
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

二合、幣と刀を打ち合い、三合目に袈裟切りを放つ。

霊夢は、それを素直に避け、封魔針を投げる。

二人の演舞のような戦闘が続いていた。

魔理沙「あれは強いのか」

咲夜 「知らないわ。戦っていたところ見たことないし」

魔理沙 「霊夢は強いぜ。大丈夫なのか?」

咲夜 「知らないわ。本人は勝つつもりでやるとは言ってたけど」

魔理沙 「それにしては、弱そうだぜ。プレッシャーを感じない」

俗に強妖と呼ばれるもの(紅魔館の姉妹のような)は、対峙するだけで肌が粟立つような、一種の恐慌に囚われるような強烈な存在感を持っている。

だが、暁には一端の妖精程度の力しか感じない。



暁 「先ほど魔理沙とやらと戦っていたようだが、言い訳になる程度には消費してるか?」

霊夢 「いいえ。問題ないわ。このぐらいのほうが調子出るもの」

暁 「それは幸い。互いに準備運動はこの程度でいいだろう」

霊夢 「ええ、そうね」





——「鬼切丸」

暁は一度に全ての呪を解放した。




魔理沙 「おい、あれは何なんだよ」

咲夜 「本人は刀の付喪神って言ってたけど」

妖精?それどころの話じゃない。

肌が粟立つような存在感。

間違いなく、全力で向かうべき強さだ。

咲夜 「お嬢様と知り合いで、確か銘が鬼切丸っていう」

魔理沙 「鬼切丸!これはまた御大層な」

 ともに平安時代、源頼光の四天王が振るった退魔の刀で、童子切安綱の兄弟分にあたる。
 鬼切丸は渡辺綱が一条戻橋で鬼(茨木童子)の腕を斬ったことから名が付いた。当初は。試し斬りに罪人の死体を用いたところ、首を斬った際に髭まですっぱりと削ぎ落したことから髭切と呼ばれていた。
 蜘蛛切丸は、頼光を悪夢を見せていた土蜘蛛を仕留めたことからその名を付けられる。
 また鬼切丸同様、試し斬りに罪人の死体を用いて両膝を一気に斬り落とすほどの切れ味を見せたことから膝丸の名を付けられていた。

源氏を勝利に導く刀であったが、名を何度も変えられたことで力を失った。

後に名を戻すことで力を取り戻したが、後に行方がわからなくなっていたのだが。

咲夜「そうだったんだ……」

自ら拾った物が業物だと言われたときには驚いたが、そこまでいくと逆に通り越して呆れてしまった。



霊夢 「夢符『封魔陣』」

弾速の遅い赤いお札の群れを順々に避けていく。

避けやすいほうへ、避けやすいほうへ。

気付いたときには、

暁 「ッ!!」

檻の中だ。

霊夢 「霊符『夢想妙珠』」

五つの色とりどりの球が、暁へ殺到する。



この身では避けようの無いそれを、暁はこの身でなくなることで避けた。



球と球の間五センチほどの隙間を、刀に宿ることで避けたのだ。

暁 「憑符『鬼切斬』」

刀から飛び出す勢いそのまま、霊夢には遥か届かない位置で縦に刀を振る。

霊夢は、直感的に避けることを選んだ。

正解だ。

突如巨大化した刃が石畳を砕く。

返す刀で再度ねらうが、風に舞う木の葉のように宙に舞い、するりと避けられてしまう。

畳み掛けるようにもう一枚発動させる。

「奥義『鬼皮削』」

長さはその巨大さを保ちつつ、赤く色付いた刀を居合いの構えで持つ。

一度で引き抜き、八つの斬撃が赤い光条を残しながら、霊夢に襲い掛かる。

八つの斬撃のどれもが必殺の威力。


霊夢「夢符『二重結界』」


——ピシッ

一枚目に罅が入り、

——カシャン

あっさりとした音と共に壊れた。

——ピシッ

二枚目にも同様の罅が入り


だが、そこまでだ。


そこからの動き出しは同時。

暁は無い足場を駆け上がり、霊夢は止まった斬撃の間を抜ける。

射程に入り、互いに右手を突き出す形。


「宝具『陰陽鬼神玉』!!」
「喪符『鬼神哀愁歌』!!」


二人の中央にて、全てを照らすような白い光を放つ大玉と、全てを覆い隠すような黒い光を放つ大玉がぶつかり合う。

互いに姿は見えない。

いや、間違いか。


暁は既に、霊夢の背後に。

暁は真一文字に振るった。


——来ると思ったわ


それは持ち前の勘の良さ。

もはや、予知とも呼ぶべきそれによって、霊夢は既に迎撃準備ができていた。

反転し、スペルカードを取り出している霊夢。

トドメとして振られた刀は、最早止められる勢いではなく、霊夢の動きを目で追うことしかできない。



——神技『八方鬼縛陣』



叩きつけるように、地面に貼られた一枚のお札。

そこから放たれた光の束によって、暁の視界は白く染まった……。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.20 )
日時: 2014/04/01 09:31
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第六章-見落とし-

暁「咲夜もついでに入れていくか?」

苦笑を見せる咲夜に、暁は五百円玉を握らせた。

暁 「五百円玉も五だからな、ご縁があるだろう」

一万円札を無造作に入れ、パンパンと手を合わせた。
それに倣い、咲夜も同じようにする。

その様子を満足そうに見つめるのは、ホクホク顔の霊夢だ。




暁 「では、これで失礼する」

霊夢 「また来るといいわ」

暁 「ああ、またお賽銭でも入れに来るさ」

霊夢に背を向け、咲夜と暁は宙に舞った。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.21 )
日時: 2014/04/01 09:36
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「いいの、あれで?」

暁 「何がだ?」

咲夜 「お賽銭。あの神社御利益無さそうじゃない」

暁 「無いだろうな。まぁ霊夢が、殺そうにも殺せない存在であることはわかった。その授業料だと思えば、高い買い物ではないだろう」

くくっ、と笑いを堪え切れずに漏らす暁。

咲夜 「何が可笑しいのよ」

暁 「いや、俺が払った一万円と、俺が今日スペルで打ち壊したものの修理代。どちらのほうが高いのかと思ってな」

思い出せば、階段からお賽銭箱まで敷いてある石畳を縦に叩き切ったのだ。

修理代が一万円を下回ることはおそらく無いだろう。

これこそ夕霧が、邪悪な笑みを浮かべながら考えていたこと。

勝てば良し、負けてもそれはそれで面白い展開であると。

咲夜「まるで、永遠亭の兎みたいね」

呆れたように肩をすくめる。

これではまるで永遠亭のイタズラ兎だ。

咲夜 「そういえば、霊夢の後ろにまわったあれ、どうやったの?」

イタズラ兎が永遠亭に一羽いる想像をして寒気がした咲夜は、それを振り払うために別の質問をした。

咲夜 「霊夢と同じ無時間移動?」

一瞬消えたと思ったら、いつの間にか霊夢の後ろに現れたのだ。

現象が霊夢のそれと酷似しているのは言うまでもないだろう。

暁 「いや、違うぞ」

だが、暁はそれを否定する。

暁 「縮地法って知っているか?」

咲夜 「仙人が使うやつ?」

咲夜が言っているのは、瞬間移動テレポートの事である。

暁 「そっちじゃなくてな。日本武術の方法論の一つでな、五歩の間合いを三歩で詰める、そういう歩法の名だ」

つまり、

暁 「霊夢の背後までの約六歩の距離を一歩で済ませたんだ」

咲夜「え?」

確かに今聞いた話では、五歩を三歩に縮める技術だったはずだ。

距離としては五分の三。

だが、暁が今言ったのは、六歩を一歩に縮めた。

距離としては六分の一。

咲夜 「おかしくない?」

暁 「おかしくないぞ。突き詰めれば、その程度はできる技術ということだ。やっていたのは剣術の合間、趣味程度だがな。その程度でも長い年月続ければ、形になるもんだ。塵も積もれば、というやつだな」

軽い調子で話す暁。

変人を見るような目をしている咲夜。

咲夜 「よく、長い年月同じ趣味が続くわ」

暁 「深遠はまだまだ先だからな」

どうやらまだ満足する域ではないらしい。

長く生きてる人はよくわからない、と永琳と輝夜の顔が思い浮かんだ咲夜あった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.22 )
日時: 2014/04/01 09:43
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

妖精メイド「……」

暁 「おっ、すまない。いただこう」

ティーカップを差しだし紅茶を注いでもらう。

既に紅魔館に溶け込んでいる暁。

レミリア「咲夜、今日はどうだったの?」

咲夜 「お賽銭入れて帰って来ました。」

レミリア 「あら、意外ね。弾幕ごっこの一つくらいしてくると思ったのに」

暁 「してきたぞ? 霊夢とな。」

レミリア 「勝ったの? 負けたの?」

口を挟んだ暁に、嬉しそうに聞くレミリア。

暁 「負けたな。あれは中々面白いものだ」

久しぶりに、楽しい戦いというものをした、と続ける。

レミリア 「じゃあ私とやってみないかしら?」

暁 「遠慮しておこう。居候の身としては、主人を傷つけるわけにはいくまい」

レミリア「気にしなくていいわ。すぐ直るもの。」

と、どこから取り出したか包丁で腕を切る。

だが、傷口は、スッと傷口は塞がり、跡も残らない。

飛び散った血を妖精メイドたちが拭いている。

暁「さすが吸血鬼。すごいな」

素直に驚く。

咲夜「暁だって同じようなもんじゃない」

咲夜が言う。

先の弾幕ごっこで、八方鬼縛陣をくらった後、ボロボロだった身体を一瞬で治したのは暁自身だ。

まるで、某蓬莱人のリザレクションを見ているようだった。

暁 「そんなことはない。あの時は鬼切丸だったからだぞ」

身振り手振りを加えながら説明する。

「俺に掛かっている呪いは、友切、獅子の子、鬼切丸、童子切の四つ。全部解放して鬼切丸の状態なら、霊力が続くかぎり回復できる。だが、友切の時に四肢が吹き飛ぶぐらいの傷を受けたら、人間体の方を維持できなくなる。まぁ時間は掛かれど、刀と人間体のどちらかだけが傷ついただけなら、最終的に回復はできるんだがな。因みに鈴仙に拾われた時は友切の時に、四肢を吹き飛ばされたからだぞ」

パチュリー 「面白い身体してるわね……体の中見てみたいわ……」

ボソッと漏らすパチュリー。

一同に底冷えする風が吹き込んだ。

暁 「ま、まぁ今日は霊夢とやり合った後だから、勘弁してもらえると助かる」

パチュリー 「そうね。そうしましょう」

暁達は聞かなかったことにしたらしい。

微妙に噛み合っていない会話が悲しいところだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.23 )
日時: 2014/04/01 09:52
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「あれ?何やってるの?」

そう尋ねたのは咲夜だ。

暁 「いい酒が無いかと思ってな」

咲夜 「それなら」

ガサゴソと台所の下を探り、取り出したのは一本の酒瓶。

咲夜「ほら、一杯どうぞ」

なみなみと注がれた一杯の透明な液体。

暁「ぐいぐ〜い、と」

促されるままに、暁は一気飲みした。

いや、してしまった、の方が表現としては適切か。

「ヴハッ!」

一度口に含んだものを全て吐き出した夕霧。

咲夜「あれ?…あっ!ワイン!」

申し訳なさそうな顔をしながら謝罪の身振りをする咲夜。

暁 「なんだ?この味?」」

しかも濃度がアホみたいに高い。

喉が焼けた感じがする。

咲夜「ワインですが?」

暁 「いやその辺はいいが、なんでそんなもんが酒瓶に入ってそんなとこ置いてあるんだ」

咲夜「お嬢様がよくお飲みになるので…」

あっけらかんと話す咲夜に怒る気も失せてしまった。

暁 「まあいい。その酒瓶借りるぞ」

咲夜「どうするの?」

そう問いながら酒瓶を渡す咲夜。

暁 「まあ、見てれば分かる。」

そう言いながら流しにワインを全て捨て、中を何度も濯いでワインを洗い流した。

念のため中に水を入れてから飲んでみたが問題はなかった。

暁 「俺の能力を使えば」

この通りだ。

咲夜「やっぱり、便利ね」

暁 「こういう時はな。これから外のどっか飲めそうな場所探しに行くが咲夜も一緒に行くか?」

咲夜 「いや。お嬢様の支度があるから、遠慮しておくわ。」

では、と言って手を振りながら部屋に戻っていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.24 )
日時: 2014/04/01 09:56
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第七章-懐かしみ-



見事な星月夜。

満月の青白い光が青々とした竹に反射し、幻想的な景色を作り出している。

その中を暁は一人、歩く。

ふらふらと明確な目的はない。

落ち着いて酒が飲める場所ならば、どこでもよかった。

——まばゆい光が放たれた

炎の放つ光のようだ。

少し気になった暁は、そちらに向かうことにした。

ただ、歩みは速めない。

紅魔館とは逆方向なのだ。

わざわざ急ぐ必要もないだろう。

単なる野次馬根性で向かって行った。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.25 )
日時: 2014/04/01 10:06
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

慧音「お前、何者だ」

現れた白髪で、角の生えた女性が問う。

今にも撃ってきそうな勢いだ。

暁「敵ではない」

暁はそれを感じ取って、端的に事実だけを伝える。

慧音「敵は皆そう言うだろう。あの人のところへは通さない」

しかし、耳を貸さず女性は弾幕を張る。

それを必死で避けながら、声を張り上げる。

暁 「待て! ちょっと待て! 敵ではないって言ってるのにいきなり撃つ奴があるか! っうお!」

危うく当たるところだったものを避け、刀を取り出すと地面に突き刺した。

暁 「攻撃の意志はない。証拠に武器は捨てた」

そう言いながら、両手を挙げる。

慧音 「なぜ此処にいる?」

暁 「火があがるような光を見た。その理由を確かめに」

慧音 「幻想卿に住まう者なら、此処が好奇心で近づくべき場所じゃないのは知っているだろう」

暁 「いや、知らないな。俺は一昨日此処に来たばかりだからな」

再び懐手し、告げる。

暁 「敵意が無いってわかったならあれ拾っていいか? あれは実は俺の本体なんだ」

慧音 「本体?」

暁 「ああ、付喪神だ。今は紅魔館の世話になっている」

慧音「な! またレミリアからの刺客か」

また撃ちそうな雰囲気に慌てて言う。

暁 「刺客が何の話だかは知らないが、今日此処に来たことは紅魔館の誰の意志でもない。単に酒が飲める場所を探している途中に立ち寄っただけだ」

その言葉に女性は戟を収めた。

それを見てホッと一息ついたときだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.26 )
日時: 2014/04/01 10:10
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

妹紅「どうしたんだ?慧音」

背中に炎の翼を生やした女の子が降り立った。

暁「お前は!」

妹紅 「ん?」

暁は思わず声を出した。

背中の炎は見覚えが無い。

だが、綺麗な長い銀髪と顔には覚えがある。

暁 「藤原んとこの不比等の隠し子か? 名は確か、妹紅と言ったか。いや、人間がこんな時まで生きてるはずはないから、その子孫か? それにしてもよく似ている。瓜二つどころの話じゃないぞ」

そんなとき、暁は輝夜姫の存在を思い出した。

暁「まさか、お前、蓬莱の薬……。しかし、輝夜姫は渡した本人であるからわかるが、手に入れる手段が無い。む、帝は蓬莱の薬を山に捨てたのだったな。まさかお前はそれを奪ったか。いや、奪ったという表現は正しくないな。捨てたものを拾うだけならば、個人の自由だ。また大層な事だ。人の身に永遠は辛かろうに。それほどまでに得る理由があったか」

暁のマシンガントークは、勝手に気付き、勝手に推察し、勝手に答えに辿り着いてしまった。

懐手していた手を懐に入れ、日本酒の瓶を取出しながら言う。

暁 「まぁ色々あっただろうが、今日此処に再会したのは良縁の導きだ。昔話でも肴に飲もうではないか、妹紅」

もう、暁の中では銀髪を妹紅ということにしたらしい。

決して間違いではないのだが、相手に一言も喋らせないのはどうだろうか?

暁 「そちら、慧音と呼ばれていたか、一緒にどうだろうか?」

完全に二人を置いてきぼりである。

しかも、すでに妹紅が了解済みであるような言い様だ。

妹紅 「おいおい、ちょっと待ちなよ。あたしは確かに妹紅だが、あんたは誰だよ」

暁 「おっと、これは失礼した」

刀を拾って言う。

「俺はこの鬼切丸の付喪神で、今は暁と名乗ってる。妹紅にはまだ只の刀だったときに見た。その時主だった源頼光と、何度かあったことがあるだろう?」

妹紅という人物は、元主がしきりに気にしていた人物であり、何度も通っていたために輝夜姫よりもよく覚えていた。

加えて、あの時代珍しい銀髪と白子。

また、人間の構造的な綺麗さを持っていた妹紅を忘れるはずもない。

妹紅「頼光! 懐かしい名前だな。あいつには世話になった。いいだろ。うちに招待しよう」

慧音 「妹紅!?」

慧音が叫ぶが、

妹紅 「慧音も来いよ。きっと、実録の歴史が聞ける」

ちょっと惹かれるような表情を見せる。

堅苦しい歴史家という二つ名は間違いはないらしい。

歴史家の血が疼くのだろう。

結局は流されてしまうのだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.27 )
日時: 2014/04/01 10:16
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

しばらく歩くと妹紅の住んでいる家が見える辺り、小さく開けた場所がある。

三人は各々椅子のように配置された石の上に陣取り、各自用意したものを出した。

妹紅「せっかく酒を飲むんだ、余興でも見せようか」

人差し指を伸ばすとポッと火が灯る。

それによって熱燗を温めると、ちょうどいい温度に仕上げた。

おお〜、と暁が拍手する。

暁 「では、いただこう。乾杯」

暁が音頭を取り、盃を合わせた。



妹紅 「もう、あまり殺したいとも思わないね。今も殺し合うのは惰性もあるんだと思う」

妹紅 「千年の時を生きて、常人並の性格保っているのは、憎しみのお陰もあるだろうさ。その部分だけは輝夜への借りだな」

そう言って酒を煽り、もう一言。

暁 「それとも、あれか? 憎さ余ってなんとやらって」

妹紅 「なっ! ち、違うわ!」

暁 「焦るな、冗談だ」

くっと笑いを堪えながら言う。

酒の所為でほんのり頬が色付いていたが、それでも誤魔化せないほどには赤くなってしまった。

慧音 「それを言うなら、可愛さ余ってだろう、暁」

寺子屋の先生である慧音が、嗜める。

暁 「おっと、これは失言だ」

堪え切れず笑い声をあげた。

慧音「史実にある、茨木童子の腕を切ったのは本当か?」

暁「本当と言ったところだ。確かに切った覚えはある。元主達は気付いてなかったが。」

慧音「成る程。因みにたまに博麗神社に出没するぞ」

暁「おや。会ってみたい気もするが、気まずい感じもするな。しかし、輝夜といい妹紅といい茨木といい、俺は幻想卿に強い縁が有るのかもしれないな」

そう思わずにはいられない程に、昔見知ったものと会ってしまった。



暁 「普段二人は何してるんだ?」

慧音 「人里の寺子屋で、子供たちに勉強を教えている」

妹紅 「筍掘ったり、散歩したりだな」

対照的な二人。

妹紅「あとは、たまに輝夜と殺し合いか」

是非とも、日常には組み込まないでほしかった項目である。

妹紅 「暁は何をしてるんだ?」

暁 「今は居候の身故、家事手伝いだ。午前中に全て終わらせて午後は自由だ」

洗濯以外は何でもやるぞ、と洗濯をさせてもらえないことに遺憾の意を表しながら続けた。



暁 「む、そろそろ時間か。今日はこれにて失礼しよう」

妹紅 「泊まっていかないのか?」

暁 「おいおい、これでも人間体的には男に分類されるほうだぞ?」

慧音 「たまにはそういう夜も良いじゃないか」

暁 「やめておこう。割と一途なんだ俺は」

冗談混じりに言葉を交わす二人。

その様子は、まるで生来の友の様で、周りからは少し羨ましく思えるものだった。

暁 「ではな。今度はそちらが紅魔館の方に来るといい。主たちにはばれないようぐらいの配慮はしよう。いや、ばれた方が面白いか?」

妹紅 「ばれない方で頼むよ。そちらもいい酒が入ったら来るといい。いつでも待っていよう」

暁 「応」

妹紅 「応」

二人に背を向け、軽く手を挙げ挨拶をすると、懐手して、来た道を戻っていった。

朝食の準備の待つ紅魔館へ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.28 )
日時: 2014/04/01 10:21
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第八章-奇なることは続く-

長い階段をゆっくり上る。

前回は上らなかった階段だ。

今日は参拝なので、歩いて上るべきだろう、という案外几帳面な暁だった。

ややあって、階段を上り切ったところには竹箒を持った霊夢がいた。

そして、昨日壊した石畳はきれいに直ってる。

霊夢 「あー! あんたこの前壊された石畳、直すの大変だったんだから!」

暁 「ここに樋口一葉様がおわすのだが」

霊夢「よく来たわね、暁、歓迎するわ」

暁 「切り替え早いな」

驚きの早さだ。

元々お賽銭を入れに来たので、それで機嫌が直ってくれるのは有り難いことだが。

魔理沙 「おまえも物好きだな」

暁 「そうなのか?」

魔理沙 「悪戯目的以外でお賽銭入れるやつなんてお前ぐらいだぜ」

縁側から魔理沙が話し掛けてくる。

暁 「うむ、だがご利益があったからにはお礼はせねばなるまい」

魔理沙 「ご利益?」

暁 「ああ、偶然昔の知り合いに出会ってな。案外ここの神社には縁結びがあるのかもしれん」

五千円を入れ終えると、魔理沙が入る縁側に腰掛けた。

ちょうどその時お茶とお茶請けをもった霊夢がやってくる。

霊夢 「ゆっくりしていってね」

と、霊夢はお茶を差し出した。

それに不満を示すのは魔理沙だ。

魔理沙 「なんで私にはお茶請けなしで、暁にはありなんだ? お茶だってセルフだぜ」

霊夢 「ほしいならお賽銭入れてきなさい」

だが、バッサリと切り捨てられる。

魔理沙 「そりゃないぜ」

暁 「まあまあ、二つあるからh——」

すると高速で奪われるお茶請け(饅頭)。

全部言い切る前に取られてしまう。

霊夢 「おい、ちょっとまて」

魔理沙 「邪魔したな、霊夢。この辺で帰らせてもらうぜ」

饅頭を一口で飲み込んだ魔理沙は箒に飛び乗り消えていった。

霊夢 「あきらめた方がいいわよ。魔理沙に盗まれたら戻ってこないわ」

何もかもね、と呆れ顔の霊夢が言う。

暁 「むう、この借りはいつか返さねば」

深く心に誓った暁だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.29 )
日時: 2014/04/02 14:40
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

華扇「霊夢、裏の掃除終わったわよ」

霊夢「お疲れ様、華扇。」

165㎝くらいの身長に頭にシニョンをつけた女性がふらふらしながら歩いてくる。

いわゆる千鳥足と言うやつだ。

華扇「ん、この人は誰?」

暁を指差し霊夢に尋ねる。

霊夢 「最近幻想郷に来た暁よ」

暁 「暁だ。よろしくな萃香」

と手を差し出すが、それを無視して華扇は夕霧の匂いを嗅いだ。

華扇 「ん? なんか嗅ぎ覚えがある匂いが…」

暁 「? 初対面だと思うが……」

互いに顔を見合わせ、首を傾げる。

霊夢「まぁいいじゃない。きっとそのうち思い出すわ。それよりも華扇が集めた落ち葉で焼き芋しましょ」

華扇 「焼き芋!」

霊夢 「ええ、掃除してくれたお礼よ」

霊夢の手には既にサツマイモがある。

暁 「では、俺はこの辺で失礼するとしようか」

霊夢 「食べていきなさいよ。たくさんあるし」

暁「いいのか? 華扇のお礼なんだろ?」

霊夢 「いいわよね、華扇?」

華扇 「うん、いいわよ。」

霊夢「ってことよ」

暁 「ならばご馳走になろうか」

そういうことになった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.30 )
日時: 2014/04/01 10:40
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

華扇「霊夢、まだかしら?」

霊夢「もうちょっと待ちなさい」

まるで母親と子供のようなやりとりをしている霊夢と華扇。

華扇は耐え切れない風に木の枝で落ち葉の中を突っついている。


霊夢「もういいわよ」

そう言った途端、素手で枯葉に手を突っ込んだ。

暁「む、それでは風情が無いぞ、華扇」

華扇「??」

暁「焼き芋はな、炭の中から探し出すのも楽しむものなんだぞ?」

華扇「??」

まったく理解できないように?マークを浮かべながら焼き芋を頬張っている華扇を見て、毒気を抜かれた気持ちになり、まぁいいかと思い直した。






暁 「いくつか持って帰っていいか?」

霊夢 「いいわよ。魔理沙もいなかったし、いっばい余っちゃったから」

そうして五個の焼き芋を抱え、宙に立つ。

暁 「では、失礼しよう」

霊夢 「ええ、またお賽銭入れに来なさい」

ずいぶんストレートな金銭要求だった。

苦笑を返し、華扇にも話し掛ける。

暁 「華扇もまたな」

暁 「ええ、 またどこかで。」」

華扇ともすっかり打ち解け仲良くなっていた。

が、気になることもある。

暁「その右手はどうした?」

華扇 「ずいぶん前にどこかの侍に切られてね。」

少し苦笑しながら答える華扇。

暁 「ん、頭のシニョン、切られた右手、」」

考えるそぶりを見せる暁。

何か引っ掛かるものを感じた暁だったが、すぐにはわからなかったので、後に回すことにした。

暁「鬼の一族は酒豪と聞くからな。また飲もう」

こちらは酒を準備しよう、と言った。

華扇「それなら、次にやる宴会で持ってきてくれたら助かるわ。」

暁「む、ならばそうさせてもらう。紅魔館の所属としてお呼ばれされよう」

そう言うと再び宙に立ち、紅魔館に向かった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.31 )
日時: 2014/04/01 10:44
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁は歩きながら先ほどの引っ掛かるものについて考えていた。

引っ掛かったキーワードは『切られた右腕』

そういえば、会った初め嗅ぎ覚えのある匂いがする、と華扇は言っていた。

昔会ったことがあるのか?

場所は『博麗神社』

あそこには特に関係は……

と、考えたとき慧音のことを思い出した。一緒に酒を飲んだとき何か言っていた気がする。





——『因みにたまに博麗神社に出没するぞ』






……ああ、そういう事か。



つまり茨木童子=華扇ということだ。

気付かなかった。


暁 「分身との容姿違いすぎだろう」

思わず洩らした独り言。

元主と共に見た茨木童子の姿はいかつく、いかにも鬼ということを主張した姿だった。

あれがあんな女性だったとは。

すぐに繋がらなかったことも頷ける。

だが、華扇に対して個人的な恨みはない。

斬ったときも、それはそれで人間との力比べを楽しんでいたようにも思える。

向こうが恨んでいる可能性も無くはないが、その時はその時だ。

右手を斬ったことがあるわけで、全く勝ち目が無いという訳でもない。

それに、恨んでいる相手を忘れるほど馬鹿でもないはずだ。

とりあえずは、酒を飲み交わすまで。

その時までは黙っていることにした。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.32 )
日時: 2014/04/01 10:51
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第九章-勘違い。擦違い。-

咲夜「あ!」

それは、暁が来てから一週間経ったある日のこと。

何時も通りに家事をこなしていた時だ。

突然奇声を挙げた咲夜に、

暁「どうした!」

少し離れた場所にいた暁が駆け付けた。

咲夜 「妖夢と約束忘れてた……」

暁 「あ?」

盛大なため息を吐いて、

暁 「そんなことか。驚かせるな」

呆れたように言う。

咲夜 「そんなことじゃない! 約束はもう三日も過ぎてるし」

暁 「なら早く行ってこい」

咲夜「無理。お嬢様のお使いで今から人里に行かなきゃいけないの」

む、と短く唸り思い出したように言う。

暁 「そういえば、約束とは俺の鞘の話だったか?」

咲夜 「そうだけど、何で知ってるの?」

暁 「意識があったから聞こえてるに決まってる。まぁ俺のための鞘だ。俺が取りにいこう」

本来俺に鞘は必要ないのだが、好意は受け取っておくものだな、と付け加える。

咲夜 「鞘いらないの?」

暁 「ああ、人間体が鞘みたいなものだからな。通常はいらん」

それから気付いたように、

暁 「咲夜の部屋で寝るためには便利か」

未だに咲夜の部屋で寝ている暁は言うのだった。

咲夜 「いや、出ていきなさいよ」

暁 「良いではないか、何をするでもなし、寝ているだけなのだから。それとも疾しいことでもあるのか?」

咲夜 「ないけど——」

暁 「ならいいな」

十分に言葉を接がせず、被せるようにして発し、

暁 「居候の身では、部屋を用意してもらうのも恐縮してしまうのだ」

と、畳み掛けた。

そう言われてしまえば、咲夜には断れないのだ。

お人よしさを完全に利用されている咲夜だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.33 )
日時: 2014/04/01 10:54
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「この先を真っすぐ行けば、白玉楼に着くわ」

暁「それは道沿いという意味ではなく、文字通りの意味でか?」

咲夜「ええ」

暁 「了解した」

咲夜 「帰りは迎えに行くから、妖夢と話でもして待ってて」

暁 「おう」

二人は各々の方向へ向かった。



咲夜は急いでいくと言った。

呪の解放なしなら咲夜の急ぐの方が速いだろう。

それでは妖夢と語らう時間が短くなってしまう。

暁は、この幻想卿での生活を良いものにしたいと思っている。

今まで会った中で、剣士という存在は珍しい。

是非とも、刀について話がしたいと思っていたのだ。

仕方ない、そう考えながら呪の解放を行う。



——鬼切丸



それが、何を招くかを知らずに。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.34 )
日時: 2014/04/01 10:59
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁は走る。

まず、事故はその速さ故だった。

突然、目の前に現れた緑の服を着た白髪の少女。

為す術もなく二人は衝突した。


妖夢 「う〜」

唸り声をあげて立ち上がるのは妖夢だった。

頭を押さえながら立ち上がる暁。

妖夢 「す、すいませ……」

頭を下げようとした妖夢の動きが止まった。

妖夢「それは、咲夜さんの刀!」

暁が呪の解放のために出していた刀を指して言う。

妖夢 「さては、盗んできたのか! じゃあ今物凄いスピードで走ってたのは、逃げるため……」

暁 「いや、まて」

物凄いスピードで勘違いしているのは、妖夢である。

妖夢「問答無用! とりあえず切る!」

暁 「斬る……? 俺をか?」

妖夢 「この楼観剣に斬れないものはあんまり無い!」

暁 「ほう……」

なにやら暁の琴線に触れたようだ。

暁 「いいだろう。身の程というものを教えてくれる」

そうして刀を抜いた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.35 )
日時: 2014/04/01 11:07
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

膨れ上がる妖力が辺りを包む。

空気が刺すように痛い、そういうレベルのプレッシャーだ。

暁「俺を斬ると言ったんだ、それなりに覚悟はしろ」


——人符「現世斬」


妖夢は強さを感じ、言葉を聞かず、攻撃を仕掛けた。

高速移動から仕掛ける胴への一撃。

だが、

暁 「初手で胴を選択したことはいいだろう。だが、その程度では足りん」

鐔に刃先を差し込み、楼観剣を止める。

思い切り振られた右足が左肩を捕え、勢いのベクトルを曲げられた妖夢は制御を失い、自ら飛んでいった。

妖夢 「くっ!」

途中、漸く制御を取り戻した妖夢は体を捻り、木に着地する。

暁 「期待外れだな」

その言葉を振り払うように、続けてスペルカードを使う。


——桜花剣「閃々散華」


短い距離を連続で高速移動することによって姿を消し、数ある急所を狙っていく。

暁 「速さは中々だ。だが、」

軽く差し出すように刀を出す暁。

妖夢は危うくそれに突っ込みそうになり、ギリギリでなんとか体を止めた。

暁 「機動力がまだまだだ。先読みできれば、然したる問題はない」

しかし、それは今一度だけの回避。

次には繋がらない。

「喪符『鬼神哀愁歌』」

黒い大玉が妖夢に向かう。

既に、回避手段を失った妖夢は被弾する以外に無かった。

(強い!)

見えないはずの高速剣もなぜか見切られてしまう。

だけど、

(負けられない!)

咲夜の刀を取り戻す。

そのために戦意を取り戻し、足掻きとして暁に向け半霊を飛ばした。


「ッ!!」


それにお互いが驚いた。

暁は予想だにしていなかった攻撃を受けたことに、妖夢は苦し紛れの攻撃に暁が驚愕を示したことに、だ。

軽く暁が飛び、宙返りをするような形で着地した。

暁 「今のは面白い!ただの剣士では無いということか!」

至極楽しそうに笑う。

縮地法により、五歩の間合いを一瞬で無くす。

妖夢の高速移動の起点を潰し、加速する時間を与えない。

だが、それ以上に起点が多く拮抗する。

それを嫌がるように、互いに一歩ずつ間合いを広げ、スペルカードが発動したのは、ほぼ同時。

「人鬼『未来永劫斬』」

「奥義『鬼皮削』」

鍔迫り合いになり、両方が弾かれて終わる。

しかし、先に体勢を立て直したのは妖夢。

その隙に、トドメとなるスペルカードが発動した。



——「待宵反射衛星斬」


だんだんと時が遅れ、妖夢だけは高速で動く。

逃げる範囲を限定するように、振るった太刀筋が現れ、夕霧を追い込む。

暁はキレていた。

自分は刀であるという自負がある。

自らは切り裂くものであると。

ありとあらゆる侮蔑の言葉は、夕霧を揺さ振らない。

だが、妖夢が言った『斬る』。

もはやそれは存在に関わることである。

だから、妖夢のことは全力で潰す。


暁を弾が擦っていく。

擦って、擦って、ただそれだけだ。

グレイズするだけで、一向に当たる様子はない。



このスペルを使ったのが、霊夢であったら決まっていただろう。

あるいは、魔理沙でも、咲夜でも。

妖夢でなかったならば、被弾していたはずだ。

わかるのだ。

五百年以上剣士を見てきた存在として。

純粋な剣士であればあるほどに、暁はわかってしまう。

こう避ければこうくる、こう隙を見せれば突いてくる。

剣士の思考が見えるのだ。

そうして、スペルを攻略した暁のトドメの一撃。



——憑符「鬼神千手観音」



「は?」

思わず間抜けた声を出してしまう妖夢。

今までは剣士同士の戦いだったはずだ。

半霊は使えど概ねそうだった。

それがどうだ、突然太陽が遮られるほどの影ができている。

完全に思考が止まってしまった妖夢は抵抗できず、

「みょん!」

背中に無数の鋼の手が生え、手には武器が握られており禍々しい妖力がにじみ出ている。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.36 )
日時: 2014/04/01 11:16
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

妖夢「ん〜」

哀愁歌 「おっ目が覚めたか」

妖夢がゴシゴシと目を擦る。

妖夢 「あれ、貴方は」

暁 「暁。咲夜が拾った刀の付喪神だ。突然キレてすまなかったな」

妖夢 「ということは私は勘違いを……。すいません」

目を伏せ、首を動かそうとして違和感に気付いた。

今の体勢は仰向けで横になっている。

それはいい。

だが、今枕にしているものはなんだ?

心なしか、暁との距離も近い気がしてきた。

暁 「うむ、たまには膝枕する側もいいものだな」

そう、膝枕されているのだ。

気付いた瞬間妖夢は飛び起きそうになるが、頭を押さえられてそれは叶わなかった。


妖夢「あの…暁さん?」

暁 「罰ゲームだ。そのままでいろ」

にかっと笑い言ってくる。

妖夢 「いえ、その足痺れませんか?」

暁 「痺れないぞ? 慣れてるからな」

妖夢にはもう反論要素が無くなってしまった。

よっておとなしくしているしかない妖夢の髪を細く長い指が梳く。

暁 「そういえば、どうしてあんなところにいたんだ?」

妖夢 「咲夜さんが約束を過ぎても来なかったので、届けに来たんですが」

暁 「やはりか。すまない、咲夜が迷惑を掛けたようだ。届けるとは鞘のことか?」

妖夢 「はい」

暁 「では、いただいておこう」

置いてある鞘をとるとスッと髭切をしまい、体のなかに収めた。

暁 「うむ、ぴったりだ。礼を言おう。ありがとう。楼観剣の言うとおり刀を愛しているのだな」


妖夢 「楼観剣が?」

暁 「ああ。素直でいい主だとな」

妖夢 「刀と話せるんですか?」

暁 「俺も刀なんだ、話せない訳が無い」

少し自慢気な暁が面白いのと髪を梳く手が少しくすぐったくて、笑いを洩らしてしまった。







妖夢 「強いんですね」

暁 「そんなことないぞ。ついこの間博麗の巫女には負けたしな」

妖夢 「え?」

妖夢は霊夢と少なくとも互角だと思っていた。

暁 「俺を基準に比べるなよ?今回ああいう戦い方ができたのは、相手が剣士だからだ。

ラストのスペルも他の者が使っていたら被弾していた。

 剣士ならば、という行動がわかるのだ。剣士としての純度が高いほどにな。千年近い研鑽と経験によって

千年。

半分人間の妖夢にとってあまりに長い時間だ。

暁「だが、鬼神哀愁歌の後の反撃は良かった。戦闘の本質を知るいい方法だ」

妖夢は強くなれる、と頭を撫でながら言うのだった。







咲夜 「あれ、暁?」

暁 「おっ、ようやく来たか」

暁 「なにしてるの?」」

膝枕する夕霧を見て、呆れる。

暁「気絶したもんでな、しばし休んでた。

 それより咲夜を待っていた。念のためパチュリーのところに連れていきたい」

暁は妖夢を持ち上げながら言った。

俗に言う、お姫さま抱っこだ。

妖夢 「ひゃい!」

みょんな声を上げてしまうが、暁が気にした様子もない。

暁 「む、思ったより軽いな。しっかり食べないとダメだぞ」

一人テンパる妖夢。

咲夜はそれを呆れたようにみて

咲夜「はぁ。まぁいいわ。行きましょ」

とフラフラと飛んでいった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.37 )
日時: 2014/04/01 11:19
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

パチュリー「はい、終わり。切り口も綺麗だし、貴方ならすぐに治るわ」

まだ赤みの残る妖夢の頬に手をあてて、

パチュリー 「熱いわね。熱かしら?」

ここに連れてこられた様子を見ていたとは思えないことを言った。

ただ、そう言ったときの目がニヤリと笑っていて、見透かされていることがよくわかる。

それが一層妖夢の熱を上げた。

パチュリー 「冗談よ。でも、気絶したのだから一応今日は泊まっていきなさい。人間は案外脆いのだから」

何かあったら大変よ、とパチュリーは言った。





暁 「妖夢、朝だ」

暁は妖夢の部屋に来ていた。

妖夢 「んっ…なんで暁さんがこんなとこ……」

寝呆けた調子で言った妖夢は、言い掛けて紅魔館に泊まったことを思い出したようだ。

シュバッと飛び起き、正座になりしばし互いに沈黙。

妖夢「お、おはようございます」

暁 「おう、おはよう。朝ご飯は用意してあるから食べていくと良い」

おずおず妖夢が挨拶すると、軽快に暁は返し、部屋を出ていった。

ポカーンとしていた妖夢だったが、すぐに我を取り戻し着替えてから食堂に向かった。




食後、なんとなく何か忘れているような気がする妖夢がいた。

暁 「どうした妖夢?まさか飯が不味かったか?」

暁がそれを察し、尋ねてくる。

妖夢 「いえ、とても美味しかったですよ。少し考え事です」

そうか、と笑顔で暁が返し、妖夢は再び思考に沈むが全く思い出せない。

しばらくしたら思い出すかと思い、白玉楼に帰ることにした。

パチュリー 「何か体に違和感があったらまた来なさい」

とパチュリー。

暁 「鞘の件、礼を言う。いつかこの恩に報いよう」

と暁。

咲夜 「ごめんね、妖夢」

と咲夜。

その三人に別れを告げ、妖夢は白玉楼に帰っていった。






一方その頃白玉楼には

「妖夢〜私のご飯はどこなの〜。お腹減ったわ〜」

と涙目な幽々子がいたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.38 )
日時: 2014/04/01 11:31
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十章-自らが望む結果を得るために争うものなり-

暁は紅魔館の前の森に薬草を積みに来ていた。

ここだけに生えるものがあると、パチュリーにお使いを頼まれたのだ。

摘み終わり、一緒に来ていた妖精メイドに薬草をパチュリーのところまで持っていくように頼んだ後、紅魔館に帰る。


と、いうわけで館の門の前まで来たのだが、

暁「なんだあれは」

珍獣を発見してしまった。

珍獣と言っても、別に獣やつちのこがいたわけではなく、立ったまま寝ているのだ。

鼻には鼻提灯を装備。

今どき鼻提灯など漫画の世界の空想だと思っていた。

一応門の前で立っているので、門番なのだろうか。

もしや、ある一定の距離に入ると目を覚まして襲い掛かってくるのか!? とゆっくり用心しながら距離を縮めてみるが、目の前に立っても起きる気配は全く無い。

なんとなく面白くなってきた暁はこれをしばらく観察してみることにした。



少年?観察中……



一時間が経過した。

肉体構造などの観察は隅から隅まで終わってしまい、手持ちぶさただ。

そんなときふと思った。

あの鼻提灯割ったらどうなるのだろう? と。

再び用心しながら目の前まで行き、そーっと鼻提灯を割った。

美鈴「ふわぁ!!」

暁 「うお!」

縮地を用いて全力で離脱した暁。

あまりに周りが静かだったために、突然の耳元での大声にはさすがにビビッたのだ。

美鈴 「何者です!侵入者ですか!」

と本来の仕事を思い出した門番。

暁「いや、涎垂れてんぞ。美鈴」

との指摘にはっと気付いたように、袖で頬を拭った。

暁 「侵入してないし、する気もない。帰って来ただけだしな。うむ、時間が余っているから話相手にでもなってくれないか?」

寝ているぐらいだから暇なのだろう?という問いは言葉にはしない。

美鈴 「はぁ、まぁいいですけど」

暁「ところで美鈴、お前は様々なあだ名で呼ばれているらしいな」

美鈴「はい。でも、みんな名前で呼んでくれないんです」

落ち込んだ表情で話す美鈴。

中国、みすず、本みりん……と暗い表情でボソボソと繰り返す美鈴。

暁「愛称で呼ばれるのは信頼の証だろうに。」

美鈴「本当ですか!」

暁 「あっ…ああ……」

ものすごい勢いで暁の手を握ってくる美鈴に、若干ひき気味の暁だった。

暁「「吸血鬼、同類にして天敵か」

美鈴「? なんでですか?」

暁「「通常なら問題ないが、霊力の半分が今まで啜った血を変換したものだからな。血を吸われるとその上乗せ分が一時的にだが、無くなる」

まぁ敵対する気もないから問題ないがな、と暁「は言う。





美鈴「それでですね、咲夜さんがお昼ご飯抜きだとか言うんですよ!」

暁「 「そりゃ働かざる者食うべからず、ってやつだろう」

美鈴「うっ、そっ…そうですけど……。でも、八時間勤務で週五日なんですよ!」

暁 「ごく普通のサラリーマンじゃねぇかよ」

思わずツッコミ。

むしろ残業が無い分いい待遇かもしれない。

暁「 「どうやったら、立ったまま寝れるんだ」

美鈴 「ぽかぽか暖かいじゃないですか。そうするとふわぁ〜っと」

一般的にその程度では無理だろう。

暁 「そんなに仕事無いのか?」

美鈴 「そうでもないですよ?腕試しにくる方もいらっしゃるので」

暁「「追い返すのか」

美鈴「お嬢様達に会わせるわけにもいかないですしね」

暁「 「ほぅ。門番の仕事ちゃんとやるときもあるのだな」

美鈴 「む、聞き捨てなりませんね。いつもちゃんとやってないみたいじゃないですか」

暁「 「俺が起こすまで鼻提灯膨らましてたのは誰だ」

美鈴 「うっ」

暁「 「俺が門の手前まで行ってもまだ寝てたぞ」

美鈴 「うぅっ」

だいぶ涙目になってしまった。

さすがに少しいじめすぎたかもしれない。

暁「 「すまない。つい反応が面白くて言いすぎてしまった。詫びと言ってはなんだが、これを」

と言って、懐から短い刀を取り出す。

美鈴 「それは?」

暁「約束の印だ。必要な時に必要なことをこれに願うと良い。それだけで俺は美鈴を一時的に主と認め、一度だけその願いを叶えよう」

美鈴 「いいんですか?」

暁「 「ああ、先の詫びと今日付き合ってくれた礼だ」

それに、

暁「 「美鈴は綺麗だからな。今まで見たことないくらいに」

美鈴 「ふぇ?」

暁「 「すっと伸びた足、引き締まった腕、構造的に最高の人体だ」

美鈴 「ふぇ……」

暁 「ただ一つ……そこの脂肪だけが……勿体ない……」

ガーン!と殴られたような衝撃を受ける美鈴。

暁 「まぁだが、気に入ったからな。いつでも呼ぶが良い」

時間を確認するように太陽を見ると、

暁 「では、そろそろ失礼しよう」

と、未だ衝撃を受ける美鈴を置いて去っていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.39 )
日時: 2014/04/01 11:34
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

十分後……


咲夜「中国?おやつ食べないの?」

美鈴 「あっ咲夜さん……」

いつもならとんでくる時間なのに来なかった美鈴を、心配した咲夜が呼びに来たのだった。

美鈴 「私って胸が大きいんでしょうか?」



——ブチッ



そのとき物理的には聞こえない音が聞こえた。

咲夜 「そう、美鈴。あなたそんなに……」

美鈴 「ひぇぇ!名前で呼ばれたのに嬉しくない!なっナイフしまってください!」

おもむろにナイフを取り出す咲夜。

その姿はまるで幽鬼のごとく。

咲夜 「幻符『殺人ドール』」

スペルを宣言されたとき、美鈴は思った。


——助けて


それはいかなる心の叫びか。

しかし、それは受理された。

暁「伏せておけ、美鈴」

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.40 )
日時: 2014/04/01 11:37
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

聞こえた声はつい十分前まで聞いていた声。

その声を聞いて反射的に伏せる美鈴。


——憑符「鬼神千手観音」


美鈴の真上を巨大な無数の腕が通過した。

なぎ払われたナイフの群れはいかなる法則によるものか瞬時に咲夜の手元に戻る。

暁は巨大な腕をそのまま叩きつけた。

暁「む……」

違和感があった。

避けられた。

そこに違和感はない。

避けられない攻撃ではなかった。

だが、ただ避けられただけとは違う感覚。

血が、警戒音を鳴らす。

"何かが違う"そう叫んでいた。

咲夜「暁?」

暁「今美鈴との血の盟約に従い、参上した」

もっとも、

暁 「結んで十分で呼ばれるとは思わなかったがな」

咲夜 「どきなさい。私は美鈴に用があるの」

暁 「言ったはずだ、血の盟約だと。それを破るのは俺の存在に関わる。無理な注文だ」

咲夜 「力ずくでいくわよ?」

暁 「それでこそ妖怪のやり方だろう」



——幻符「殺人ドール」


先ほどよりも増えたナイフが暁を取り囲む。

咄嗟の反応で、グレイズしながら避けていく。

だが、同じ違和感を感じる。

(召喚?いや取り出すモーションはあった。空間の跳躍?これも違う。するようなモーションはなかった)



暁「チッ!」

思わず舌打ちする。

秘密がわからないこともあるが、それ以上にまずい状況だ。

ナイフ一本一本の威力はたいしたことない。

しかし、如何せん手数が多いのだ。

避けるにも労し、刀はでかすぎて手数では追い付けない。



取り出すのは、美鈴に渡したのと同じ小刀。

鬼切丸は解放状態のまま鞘に戻しておく。

ナイフを打ち払いながら接近、小刀で切り上げる。

咲夜はスウェーで躱し、ナイフで反撃する。

だが、暁は妙な動きをする。

左手を横に伸ばしたかと思うと、勢いがついたように右側に傾く。

避けたと同時、地面に手をつけて足払いをするように蹴を放つ。

バックステップをした朔夜に追いすがり、全身で突っ込みながら突き。

いなされたが、何もないところで反転、空中で壁を蹴り再接近する。



咲夜はそういうものだと認識した。

幻想卿において、不思議な現象は日常茶飯事だ。

この辺りが、暁との差。

そういうものと認識して、自らの力でそれを上回る。

相手の能力など必ずしも知らなければいけない訳ではないのだから。



——時符「パーフェクトスクウェア」



時が止まる。

動かない暁の目の前にナイフをまるで壁のように配置。

そして再び時を動かそうとしたときだ。

暁 「うむ、時を操るか。人の身とは思えぬ能力だな」

突如暁の姿が消えた。

咲夜は反射的に振り返りざまにナイフを振るい、小刀と衝突して甲高い音を響かせた。

一度間合いを空け、仕切りなおす。

暁 「何でわかった」

暁「千手観音を避けられたとき違和感があった。今思えば、メイド服と髪のゆれだ。あのタイミングの攻撃を避けるなら、揺れるのが自然。それが無いということは何かしらの理由がある。紅白巫女の無時間移動で思いついて当たりを付けたが、まさか正解だとは思っていなかったな」

と語る暁。



こいつは危険だ。

咲夜はそう判断した。

全力で潰す!

「『咲夜の世——

「技巧『久遠の——

と、その時割り込む声があった。

レミリア 「止まりなさい、咲夜」

ピタリと止まる両者。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.41 )
日時: 2014/04/01 11:45
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

レミリア「お帰りなさい、暁」

笑いながら言葉を発す。

レミリア「暁は何で止めたのかしら?あのまま切ってしまえば咲夜を倒せたのに」

紅魔館の中、大きな部屋の小さなテーブルを囲い、レミリアと暁は対面で座っていた。

暁「盟約はメイリンを助けること、敵を倒すことではない。一時の危険さえ去ればそれで終わりだ」

レミリア「あぁ、そういうこと。」

レミリア「紅魔館の主だもの。紅魔館で起こったことなら何でもわかるわ」

もちろん、あなたと美鈴の会話もね。と続ける。

レミリア 「そこでお願いがあるんだけど。あなたの血の盟約とやらを私にもらえないかしら?」

不敵に笑いながら言うレミリア。

提案のニュアンスだったが、それに含まれる命令。

それを暁は、

暁 「断る」

全て無視した。

暁 「あれは誰にでも渡すものではない。特別気に入ったものにしか渡さぬし、お前は俺の助けが必要な事態など早々あるまい。お遊びで渡せるほど軽くはない」

レミリア 「あら、冷たいのね。それは、力ずくでと言ってもかしら?私はあなたの天敵なんでしょ?」

暁 「やめておいたほうが無難だな、レミリアよ。俺にとってお前が天敵なように、お前にとっても俺は天敵だ」

互いに腹黒い笑みで笑い合う。

と、その時静かな部屋にノックの音が響いた。

ゆっくりと開いたドアの向こうにいたのは、

暁「おう、咲夜か。どうかしたか?」

咲夜「少し危なげな雰囲気だったので…」

おどおどした様子の咲夜
先ほどとは違う素直な笑みを見せて、レミリアに言う。

暁「まぁこれで失礼する。これまでの無礼を詫びておこう、レミリア。またいつかこの部屋に用があるかもしれん。図書館のほうにも興味があるのでな」

レミリア 「ええ、いつでも来なさい。」

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.42 )
日時: 2014/04/01 11:51
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十一章-朝-

暁の朝は早い。

まだ日も上らぬ頃、同じ部屋で寝る咲夜を起こさないようにそっと外に向かう。

森のなかの少し拓けた場所で刀を振る。

まだ暗い世界に赤い刀身が幾筋も閃を残し、怪しく幻想的に光を放つ。

そうしてしばらく続けていると、空が白みはじめる。

朝食の準備をはじめる合図だ。

紅魔館の台所に立つと、まずは大鍋に昆布を入れ、湯を沸かす。

沸くまでの間に味噌汁に入れる具を用意する。

今日は美味しそうな大根があるので、それを使おうと決めた。

短冊切りにし、他の具もそれに揃える。

暁 「あとは何にするか?」

呟きながら、今ある食材を頭に浮かべていけば、それだけで残りのメニューは決定した。

味噌汁に味噌を入れる段階になれば、

咲夜「おはよう、暁」

暁 「おはよう、咲夜」

匂いに釣られた咲夜が起きてくる。

咲夜 「卵焼きかしら?」

暁 「おう、作ってあるぞ」

全ての調理を終えて、料理をよそい始めた。

その頃になれば、段々と他の妖精メイドも起きてきて、手伝いを頼む迄もなく手伝ってくれる。

配膳がちょうど終わった頃に、図ったようにパチュリーとレミリアが登場し、いただきますと共に食事が始まるのだ。





食べ終われば、洗い物は妖精メイドたちに任せ、先ずは掃除だ。

本来ならば洗濯が先だが、あいにく暁はさせてもらえない。

結果、次にやる掃除が先にくるのだ。

掃除とはいえ各部屋をまわって掃除するわけではない。

みんなの共同空間(居間や廊下など)の掃除だ。

己の部屋の掃除は己がするのが紅魔館らしい。

レミリアの部屋に限っては咲夜がやっているらしいが。



紅魔館の廊下は長い。

ものすごい長い。

本当に長い。

バケツに水を汲み、雑巾を二、三枚用意し端っこから拭いていく。

だが、小学校の掃除のように雑巾を前に置き、押していくのではない。

端の壁と向かい合い、腰を下げ後ろに下がりながら目に沿って拭いていく。

大雑把なように見えて、案外几帳面なところも有ったりする。

たっぷり三時間以上かけて、廊下を全て拭き終えた。





薪割りはそんなに大変ではない。

ここに来ればちょうど美鈴も手伝いに来てくれるからだ。

美鈴 「刀で斬ったほうが早くないですか?」

暁 「刀は薪を作るためのものではないぞ」

無駄話をしながらも、体は動かしておく。

そうしていれば、日も上りきった辺りには終わってしまうのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.43 )
日時: 2014/04/01 11:58
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

その夜、二人はレミリアの風呂のために火を炊き温度調節をしていた。

吸血鬼は水が苦手らしいが、流れる水限定らしい。

中ではすでにレミリアが湯船に浸かっている。

咲夜 「ねえ、暁?」

暁 「ん?薪でも切れたか?」

咲夜 「いや…そうじゃなくて……」

暁 「?」

言い淀む咲夜を不思議そうな目で見る暁。

暁 「なんかあったのか?」

咲夜 「えっと、その……」

改めて言うとなると羞恥心が先立ちなかなか切り出せない。

咲夜「あっ…ありがとう……」

暁 「なにがだ?」

咲夜「その、家事とか手伝ってもらって……」

暁「当たり前のことを下までだ」



といって笑顔を見せた。



レミリア 「咲夜〜熱いわ」

咲夜 「も…申し訳ありません!」

しばらく見つめ合った二人はレミリアの声で我に返り、仕事を再開した。

だが、

「(そこの雰囲気がね)」

とレミリアは心の中で付け加えた。



レミリア 「ちょっと咲夜冷たいわよ」

咲夜 「ええ!? す、すみません!」

理不尽だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.44 )
日時: 2014/04/01 12:00
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十二章-割に合わない-

暁「久しいな、美鈴」

美鈴 「あっ、暁さん。お帰りなさい。」

暁「ああ、図書館に入らせてもらおうと思ってな」

と、言いながら直方体の箱を取り出し、美鈴に渡す。

美鈴 「これは?」

暁 「プレゼントだ。仕事中に眠くなるって言ってたんでな、リポビタ〇Dだ」

女の子に渡すプレゼントがリポビタ〇Dとはいかなる了見なのか。

だが、美鈴は嬉しそうに受け取るとお礼を言った。

暁 「して、レミリア嬢は紅茶が好きという情報は正しいか?」

腰に手を当て風呂上がりに飲む牛乳のように一気飲みした美鈴。

ぷは〜、と気持ちよく息を吐いた 後明鈴は答える。

美鈴 「ええ。咲夜さんに渡せば美味しくいれてくれますよ」

暁 「そうか。では邪魔する」

美鈴 「はい。どうぞ」

そういうと門を開け、その中に暁は入っていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.45 )
日時: 2014/04/01 12:09
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「失礼する」

そう言いレミリアの部屋に入った暁。

レミリア 「あら、暁じゃない。血の盟約を渡しに来てくれたのかしら?」

クスクスと笑いながら言うレミリア。

暁 「ニルギリだ。咲夜に入れてもらうと良いだろう」

レミリア 「あら、何を企んでるのかしら?」

反応せずに話を進めた暁に気を悪くもせず、逆に笑みを深くして問う。

暁 「手土産だ。図書館を借りたくてな、何も持たずにくるのも失礼だと思った故、用意させてもらった」

レミリア 「ふーん。魔理沙とは違うのね」

暁 「魔理沙?」

レミリア 「いいえ、こっちの話よ。咲夜、案内してあげて」

咲夜 「かしこまりました」

一礼すると暁の方を向いて扉を出ていった。

ついてこいということらしい。

黙って後ろに着いていくことにした。

咲夜「此処が図書館よ」

ようやく声を出した咲夜が告げる。

少々の遣り辛さを感じながらも、夕霧は図書館の扉を開けた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.46 )
日時: 2014/04/01 12:14
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「レミリアの許可を得て入れてもらった。閲覧と貸し出しの許可を貰えないだろうか?」

パチュリー 「ダメよ。ただでさえ魔理沙に盗まれて減っちゃってるんだから」

あなたにまで盗まれたらたまらないわ、とパチュリー。

暁 「魔理沙? レミリアからも聞いたな。霧雨魔理沙のことか?」

パチュリー 「ええ、そうよ。本人は借りるって言ってるけど、許可なしに突入して許可を得ずに持ち去ったら、その行為は盗むよね」

ふぅと軽くため息を吐く。

暁 「自分で取り返さないのか?」

パチュリー 「外に出たくないし、喘息もあるからあまり長い間出てられないのよ」

暁 「本人は借りると言っているのだな」

パチュリー 「そうよ」

暁 「よし、ならば等価交換といこうではないか、図書館の主」

パチュリー 「等価交換?」

話を持ちかけたのは暁。

暁 「ああ、魔理沙に盗まれた本を一冊取り返すごとに一冊の閲覧か貸し出しの許可がほしい」

実は暁は視界の端に目的の本がありそうな棚を見つけていた。

日本の古書の原本。

それが目的。

しかし、パチュリーの返事は芳しくなかった。

パチュリー 「ダメね。それじゃ何も変わらないわ。せめて二十冊で一冊が妥当ね」

どれだけ盗んでるんだと思ったが、顔には出さず交渉を続ける。

暁「二冊で一冊だ」

パチュリー 「話にならないわね」

交渉は長く続き、六冊で一冊の閲覧か貸出、という条件で合意した。



パチュリー 「次来るときは直接来て良いわ。咲夜」

咲夜 「はい」

いつのまにか現れた咲夜が返事をする。

パチュリー 「他のメイドにもそう伝えてちょうだい」

咲夜 「かしこまりました」

逆らうことなく咲夜は了承した。

暁 「メイドとは大変なのだな」

パチュリー 「さぁどうかしら」

既に読書に戻っているパチュリーが適当に答えた。

暁 「では行ってくるとする」

パチュリー 「期待しないで待ってるわ」

その言葉どおりたいした期待はしてないようだ。

さして気にせず、暁は窓から歩いて出ていく。

めざすは魔法の森、魔理沙の家だ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.47 )
日時: 2014/04/01 12:20
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

着いたのは魔法の森、魔理沙邸のすぐ傍だ。

パチュリーに道を聞いていたので迷うことはなかった。

だが、

魔理沙「よう、暁。こんなところになんのようだ?」

魔理沙にばったり出くわしてしまっていた。

存在に気付いたときには既に隠れられるような距離ではなかった。

なので、正直に話すことにする。

暁 「図書館の主の頼みで、魔理沙が盗んだ本の回収に来た」

魔理沙 「借りただけだぜ」

暁 「向こうはそうは思ってないようだ。返す意志はあるのか?」

魔理沙 「私が死んだら返すよ」

暁 「それでは長すぎるな。期間も明確ではない。主の許可もなしだ。ゆえに回収に来た。できれば手荒な真似はしたくない」

魔理沙 「お断わりだぜ」



——恋符「マスタースパーク」



突然放たれたマスタースパークによって暁は存在から吹き飛ばされた。



妙な話だ。

霊夢と互角程度の戦いをしていたやつがこんなにあっさり消えてなくなる。

釈然としないまま、家を振り返った。

「!?」

本を両手いっぱいに持った暁が空に駆け上がっていた。

魔理沙 「待て!」

暁 「むっ、予想以上に早いな。できればもう少し距離を離したかったが」



——恋符「マスt——



暁「おっと、そいつを撃つと本が燃えるな」

一冊を片手に持ち、盾のように構える暁。

確かにマスタースパークでは暁だけ狙うなんて、器用な真似は出来ない。



魔理沙 「くっ! なら、星符『ミルキーウェイ』」

暁の行く手を阻むように配置される弾幕。

暁は持ち前の機動力をもって、避けるがその間にも距離は縮んでいく。


これは完全に計算外の展開だった。

既に暁は鬼切丸までの解放を行っているが、本の重量に加え元より魔理沙のほうがスピードがあるのだ。

縮地法は相手の動きや自らの間接の捻りや伸びを利用した歩法であり、連続使用できるものでもない。

故に、はじめはこっそり盗みだす計画であったし、見つかった後もデコイを使って時間を稼ごうとした。

だが、思った以上の我が道を行くっぷりに完全に狂わされた。

結果がこの鬼ごっこだ。

しかも、この本を返すには完全に振り切らなきゃいけない。


目的地が知られてる以上それは物凄く難度が高い。

暁 「やるしかない、か」

魔理沙 「逃がさないぜ、魔符『スターダストレヴァリエ』」

高速で突っ込んでくる魔理沙。

暁は壁を蹴るような仕草で勢いをつけ紙一重で避ける。

速度で負けている以上機動力でどうにかするしかない。

しかし魔理沙の猛攻は続く。


——光符「アースライトレイ」


地面から放たれる光の束をなんとかやり過ごすが、そのせいで魔理沙の姿を見失う。

「星符『エスケープベロシティ』」

下から突き上げるように箒に片手で掴まりとんでくる魔理沙を避けようとするが、見えないところからの攻撃に反応が遅れ、右肩に被弾した。

暁 「チッ!」

その反動で一冊が吹っ飛び慌てて手を伸ばし掴むことに成功。

だが、それは完全に避けられない隙を作った。

魔理沙 「此処からなら本は燃えないぜ」

暁の背後に回った魔理沙はスペルを発動した。



——邪恋「実りやすいマスタースパーク」



まずい、暁は思った。

これは死ねる、と。

小細工なしで飛んでくる大火力の攻撃と自らより速いスピード。

純粋な強さの象徴を兼ね備えた魔理沙。

片手が辛うじて使えるような状態で勝てる相手じゃない。

とにかく先ずはこの危機を乗り切らなければ。

「咆符『鬼神破咆哮』!」

空いている左手を突き出しスペルカードを発動した。

瞬間、満月のような青白い光を放つ大玉が、夕霧の周りに展開。なんとか受け切ることに成功した。


魔理沙「これで終わりだぜ。星符『ドラゴンメテオ』」


だが、暁を待っていたのは絶対なる対空砲。

暁は鬼切丸を前に出し、抵抗する構えを取る。

それを本が燃えぬように前に差し出す。

縮地法によって魔理沙との距離を詰めた。

それは自殺行為にしか見えない。


——喪符「幻影将門」


暁はそのままドラゴンメテオに突っ込んだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.48 )
日時: 2014/04/01 12:26
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

魔理沙「本は返してもらうぜ」

魔理沙は本を抱えている暁から奪い返しながら言う。

そうして全部持つと箒に乗って飛び去っていった。


暫くして、暁は周りをうかがった。

暁 「ふぅ。行ったか」

がさがさと草むらから出てくる暁。

その手には十二冊の本。

暁 「二度も引っ掛かってくれて助かったな」

ホッとしたように汗を拭うと図書館に向かって走りだした。

暁がやったことは二回とも同じ。

簡単に言えば、魔理沙は騙された。

本を持ちながら残像を出し、その上で質量や物理的な作用の『無』い残像を『有』ることにしたのだ。

本来は八人になる幻影将門を二人だけ出し、一人には魔理沙を騙す係、もう一人は本体を投げ飛ばしドラゴンメテオから離脱させ、のちにわざと被弾させて存在から吹き飛ばされる。

こうして、暁は魔理沙を騙したのだった。








暁 「約束の物、十二冊だ」

パチュリー 「あら、本当にとってきたのね」

暁 「正直、途中で二冊では割りに合わぬとも思ったがな」

本当に死ぬかと思った。と疲れた表情で言う。

パチュリー 「条件は変えないわよ?」

暁 「ああ、それについてはそれで良い。契約は当初の通り履行されるべきだ。今のは単なる愚痴だ。気にしなくていい」

暁は二冊の本を探すために棚に行く。

パチュリー 「そこは日本古書の棚よ? 暁なら見たことあるんじゃないかしら?」

暁 「いや、原書がほしくてな。探しに来たわけだ」

パチュリー 「何が読みたいのかしら?」

暁 「平家物語の原書と三宝絵の原書だ」

パチュリー 「それなら二段目の右から三冊目と六段目の左から八冊目よ」

その言葉に従い、遥か上にある二段目と六段目に向かい無い足場を上っていく。

暁 「さすがは図書館の主と言ったところか。ドンピシャリだ」

若干羨望の眼差しをむける暁。

パチュリー 「パチュリー。パチュリー・ノーレッジよ。パチェで良いわ。図書館の主なんてながったらしい名前で呼ばないでちょうだい。今のはサービスよ、対価はいらないわ」

暁 「では、パチェ。感謝する。それと約束どおりこの二冊を借りていく。写本が終わったら返却しよう」

パチュリー 「ええ、魔理沙より早く返ってくるのを祈ってるわ」

暁 「む、そのようなことはしないぞ」

だが、それきり興味を失ったのか再び本に目を戻しパラパラと捲っている。

釈然しないものを感じた暁だったが、よく見れば同じところばかりを読んでいる。

もしかしたら、パチェなりの気恥ずかしさのあらわれなのかもしれない。

そう思った暁は、図書館を静かに出ることにした。

図書館の主の邪魔にならないように。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.49 )
日時: 2014/04/01 12:30
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十三章-それは酒の所為か?-


今日は月が出ていない。

空は雲一つないようだが、今日は新月だ。

小さな光を囲む二つの影。

暁「たまにはこういうところで飲むのもオツなものだ」

暁と、

妹紅 「そうか?あたしは落ち着かないけど」

妹紅だ。

暁「それは此処が永遠亭だからだろ」

そう、此処は永遠亭の屋根のうえ。

暁は前にも永遠亭の世話になったことがある。

そんな場所で二人は飲んでいた。

輝夜「あら、妹紅。あなたこんなところに殺されに来たのかしら?」

ハシゴから上ってきたのは輝夜だ。

その声に反応して、妹紅が立ち上がり襲い掛かろうとするが、暁がそれを止めた。

暁「待て、妹紅。酒の席でそういう事をするのも不粋だな。輝夜もだ」

輝夜「単なる言葉遊びよ」

となんでもないように輝夜は言った。

これ以上言ってもどうしようもないことを悟った暁は話を進めることにした。

暁「ならいい。それより輝夜は何か持ってきたのか?」

輝夜「お酒は二人が用意すると思ったから私は肴を用意したわ。とりあえず今は鮎。後で永琳が良い物を持ってきてくれるわ」

暁「ほう。それは楽しみだ」

楽しそうに笑う暁とは逆に不機嫌そうにしている妹紅。

暁 「どうした妹紅?」

輝夜 「飲まないのかしら?」

輝夜が話し掛けてきて、妹紅は自分だけが意地を張っている気がして、とりあえず一気飲みして酔ってみることにしたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.50 )
日時: 2014/04/01 12:34
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「おい、妹紅。飲み過ぎると体に悪いぞ」

妹紅「きょんにゃにおいしいもにょがきゃらだにわりゅいわけにゃいにょ〜」

結果、完全に酔っ払ってしまっていた。

暁 「まったく。まだ永琳が肴を持ってきてもいないというのに」

そのうちに、

妹紅 「うにゃにゃ〜」

輝夜に膝枕させて寝てしまった。

どこか愛しいものを見るような目で輝夜は妹紅の頭を優しく撫でる。

輝夜「ねぇ、暁」

暁 「なんだ?」

輝夜 「あなたは私たちを殺せるかしら」

静かな空気が流れ、暁の顔から表情が消える。

暁 「なぜ、そんなことを聞く?」

輝夜 「なぜ、かしらね。私も長く生きてると死にたいときぐらいあるのかもしれないわ」

苦い顔をした暁はお酒を一杯煽り話を続ける。

暁 「そういうものか?」

輝夜 「そういうものね」

輝夜は答えた。

ため息を吐いて暁が話す。

暁 「言ってしまえば理論上可能だ」

輝夜 「意外ね。やらないとでも答えてお茶を濁すかと思ったのだけど」

暁 「ああ、確かにやらないがな。理論上の話だ、現実は甘くない」

長く話すために一息吐き、再び話しだす。

暁 「新月の夜、百度本気の輝夜を殺せばその内の一度は死なせられるだろう。不死者とは死ぬ可能性が無い者だからな。確率がゼロならば俺の力で有ることにできる。が、蓬莱の薬の力はやわじゃない。現実性は皆無だな」

本気の輝夜を百度殺すまでに俺は何回死ぬやら、と暁は締めた。

輝夜 「そう」

あっさりとした返事をしたが、その顔は悲しいような嬉しいような複雑な顔であった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.51 )
日時: 2014/04/01 12:39
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

家の中で調理していた永琳。

用意されたのは白子だ。

どうやら、妹紅とかけたらしい。

姫様らしいと永琳は考えながら屋根に掛けられたハシゴを器用に上った。



——あなたは私を殺せるかしら



永琳は上ろうとする手を止めた。

そのままのぼっていれば、これからの未来を避けられただろうか?

あるいはもう少し白子の準備に時間が掛かっていたら。

もしくは妹紅が酔い潰れていなかったら。

だが、そんなものはIFの世界でしかなく意味はない。



——言ってしまえば理論上可能だ



すでに時は動きだしている。

もう知ってしまった。

永琳は料理を届けるのを止め自分の部屋に戻った。





輝夜「永琳遅いわね」

暁 「む、見てこようか」

そういうと、屋根から飛び降り台所に向かう。

そこにはメモ書きと料理。

メモには持っていけなかった謝罪と急用が入ったということだけが書いてあった。

なんとなく不自然な気がしたが、幻想卿のお医者さんである永琳は急患が入ることもあるので、決しておかしいわけではない。

気にせずに暁は輝夜たちの下へ運ぶことにした。

輝夜 「どうだった?」

暁 「急用だそうだ。謝っておいてくれとの書き置きがあった」

輝夜 「ふ〜ん」

白子をぱくつきながら輝夜が言う。

輝夜も違和感を感じたが、言葉には出さなかった。

未だに妹紅は起きる様子はない。

すでに空は白み始め、いつもならばそろそろ鍛練も半ばに入る頃だ。

今日はこの辺りでお開きにするべきだろう。

暁 「うむ、では妹紅を送り届けてこよう。朝御飯の準備には間に合うように帰ってくる」

輝夜 「送り狼?」

暁 「ならん」

クスクスと笑う輝夜と呆れたように否定する暁。

輝夜 「あら、それはそれで失礼なんじゃないかしら?」

どうしようもないので、スルーすることに決めた。

妹紅をお姫様抱っこした暁に、

輝夜 「いってらっしゃい」

優しい笑顔で輝夜が告げた。









次の日は変な日だった。

いつもどおりの時間になっても永琳が来ないのだ。

呼びに行った兎も追い返されたらしい。

今日の朝ご飯は暁が作るようになってから初めて欠員を出すことになった。



昼御飯の時間になっても永琳は出てこない。

ただ、鈴仙が持っていったご飯は受け取ったようだから、動けない状態であるわけではないようだ。

心配ではあるが、今行っても邪魔だと追い払われてしまうらしい。

自ら出てくるのを待つしかないだろう。




午後を朝やらなかった鍛練にあてた暁。

夕食の席にもついに永琳は出てくることはなかったらしい。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.52 )
日時: 2014/04/01 12:46
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

その日の夜のことだった。

ドアの前にある気配。

それは毎日会っていたもので、今日一日は一度も会っていないもの。

暁「永琳か。何の用だ?」

永琳「話があるわ。ちょっと外に出てちょうだい」

二人は咲夜が起きないように小さな声で話すと、竹林の中を進んでいった。




永琳 「幻想卿から出ていきなさい」

暁 「あの話を聞いたのか」

今日の不自然な行動の意味はわからないが、昨日の会話を聞いたことは暁にも理解できた。

暁 「言わなかったか?やらないし、現実性は皆無だと」

永琳 「関係ないわね。姫様を殺せる力がある。それだけで十分に排除するに値するわ」

暁 「では、断れば力ずくで、というわけか」

永琳 「ええ、今までの礼としてせめて殺さないでおいてあげるわ」

生きてるとも言えない状態にはするけど、と言った。

暁 「断る」

暁は断言した。

暁 「お前が輝夜を大事にするように、俺にも大事にするものがいる。少なくともそいつらがいる間は此処を去る気はない」

そう告げた。

永琳 「交渉決裂ね。力ずくでいくわ」

暁 「黙ってやられるほどお人好しではないのでな。『鬼切丸』」



——天丸「壺中の天地」

——喪符「幻影将門」



一人を囮に暁七人がスペルから脱出する。

上下左右すべてを囲うように暁が向かっていく。

「技巧『永の檻』」

一人が永琳を中心に九本の斬撃を展開。

それに倣い計六十三本の斬撃が永琳に襲い掛かる。

「天呪『アポロ13』」

だが、分身全てが叩き潰され、同時に暁も吹き飛ばされる。

「チッ!」

舌打ちしながらも暁の体は光に包まれ、傷が回復した。

しかし、すでに引き絞られた弓。

飛んできた矢を頭を引くことで避けた。



「……」

その威力に声も出ない。

地面が抉れる、というレベルだ。

クレーターができている。

当たったら回復を余儀なくされるのはもちろん、擦るのも危険かもしれない。

永琳の攻撃は止まらない。



(遠距離じゃ話にならん)



暁「憑符『童子切』」

さも当然のように避けられるがそれでも体勢の崩れた永琳の矢の雨は一時的に止む。

その間に縮地法によって距離をつめる。



——奥義「鬼皮削」




赤い八本の斬撃が永琳に向かう。

しかし、それは永琳の表情を変えるまでにもいたらない。

斬撃の内の一本を弓矢で砕き、できた隙間によってスペルを回避。


ここは霊夢戦での再現。

だが、今度は暁の攻撃が当たる。

「降華蹴!」

縮地法によって後ろに回った暁は永琳の脇腹に直撃させることに成功した。

スペルを発動する隙はなく、通常攻撃ではまともにダメージなど通らない。

そこでこの選択。

以前から訓練していた蹴りを美鈴監修の元、完成させたものだ。

美鈴程の威力はないが、スピードはお墨付き。

さすがの永琳も顔を歪めざるをえない。

これで被弾一ずつの五分と五分。



(分が悪いな)



とはいっても、こちらがあてたのは少し強い程度。

向こうはスペルだ。

加えて蓬莱の薬の回復がある。

こちらも回復はできるが、霊力消費するものであり、霊力は戦うための元だ。

長引けば長引くほどにこちらは不利。

暁 「やるしかない、か」

考えるほどに不利が増えていく思考を切り替えるように、暁は呟いた。

戦闘において必要なのは思い切りの良さ。

思い切れないようになる思考は切り捨てるべきだ。

距離を離さないように切り合っていく。

相手は弓だ。

離さないほうが、やりやすいに決まっている。

だがその程度でどうにかなる相手でもない。

暁の袈裟切りを避けると接近、腰の捻りだけで軽いパンチを当てた。

決して強い打撃じゃない。



暁 「む、」



思わず声を洩らす。

蹴を放とうと思った瞬間に膝から力が抜ける感覚がし、止まってしまう。

永琳 「どうやら、人間と似たり寄ったりな体の構造をしているみたいね」

暁 「フッ!」

言葉を振り払うように刀で横に薙ぐが、がむしゃらに振られただけの攻撃が永琳に当たるはずもない。

永琳 「ここはどうかしら?」

ダンッと永琳が足を踏みしめる音がし、抜き手が暁の脇腹に突き刺さった。

暁 「ぐ……」

それにより、暁は完全に動きが止まってしまった。

動くことのできない暁に対し、適正な距離をとりスペルが発動される。



——神脳「オモイカネブレイン」



迫りくる弾幕。

人間体は意志に反して動きやしない。

被弾は確実、そう思った暁は、一度刀に戻った。

そしてすぐに再構成。

目の前にはすでに広がっている弾幕。

しかし、暁は刀を鞘にしまった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.53 )
日時: 2014/04/01 12:49
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「居合いの極意その一、居合いは究極の不意打ちであるべし」


赤い光のきらめき。

は逃げ道のなかったはずの暁の前に現れた一本道。

永琳に向かって暁は駆ける。

弓を放ちそれを阻止しようとするが、宙に舞い上がり、暁は避けた。

刀の間合いだ。

だが、避けた具合が悪く踏み込むことも踏ん張ることもできない体勢。

暁 「居合いの極意その二。いかなる体勢でも神速を以て放つべし」

——居合『鬼神剣』

そんなことは関係ないとばかりに撃たれた居合いは永琳に直撃。

永琳 「このスペルは使わないつもりだったけど」

しかし、その代償は大きい。

鈴仙 「待ってください師匠!」



——秘術「天文密葬法」




いつのまに気付いたのか、駆けつけた鈴仙が叫んだが、永琳のスペルは止まらない。

先ほど放たれた矢。

今までは地面が抉れる程の威力だった。

しかし、今のは抉れず突き刺さり光を放っている。

黒くどこまでも深いそんな空間に放り込まれた。





暁 「時間断層、虚数世界、斜行概念どれもありそうだな」

脱出する術を探っていた。

暁 「が、おそらくは時間断層だな」

時間断層であることがなぜかわかる。

暁 「咲夜か。戦っておいて助かったな」

おそらく咲夜の時止めから能力で脱出したからだろう。

咲夜ならびに戦闘の場を作った美鈴にも感謝した。

感じられるならば問題はない。

物理的な意味が無いならあることにしてしまえばいい。

暁 「居合いの極意その三。如何なるものも切り裂くべし」




——神鬼「羅生門」





鈴仙 「師匠、なんで……」

今にも泣きだしそうな顔で、鈴仙が問う。

暁 「暁は姫様を殺す可能性がある。だから排除するわ」

永琳は無表情に鈴仙の方を見ずに答えた。

鈴仙 「でも!」

永琳 「黙りなさい。これは私が決めたこと。あなたには関係ないわ」

二の句を接がせずピシャリと言い切る。

それ以上しゃべるなと言うように。

永琳 「それよりも下がってなさい。次の攻撃は辺りなんて気にしてられないわ」

発動されているのは天文密葬法。

時間断層に落とし、封じ込めるスペルだ。

それなのに永琳は次の攻撃があると断言した。



それは妖怪の本能か。

反射的に鈴仙は飛び退いた。




——神鬼「羅生門」



断層に亀裂、そこから暁は飛び出した。

互いにこれからスペルを放つ。

用意されたのは最大火力。

結末は如何なるものか。



——秘薬「仙香玉兎」

——禁書「平家物語」


二人は光に包まれた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.54 )
日時: 2014/04/05 09:17
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「俺の勝ちだ」

永琳 「ええ、負けたわ」

仰向けに倒れている永琳の上に馬乗りになり首に刀を突き付けていた。

暁の勝利だ。

暁 「ふぅ。死ぬかと思ったな」

刀をしまい、力尽きたように永琳の横に倒れこむ。

永琳が限界であったように、暁も限界。

今回勝てたのは単なる運だ。

暁「永遠亭にはこれからも行かせてもらうぞ」

永琳 「ええ、好きにしなさい」

咲夜「暁!」

咲夜が駆けてくる。

暁 「なんだ咲夜、来ていたのか」

永琳 「あら、来てたのね。」

永琳が答えた。

咲夜 「何でこんなこと」

暁 「おそらく必要だったのだろう。特に永琳にとってはな」

永琳 「そうね。知ってしまったからには」

咲夜 「でも、だからって!」

暁 「咲夜」

暁が遮る。

暁 「それはもう終わったことだ。咲夜は気にしなくていい。それよりも帰っておけ、紅魔館に。」

咲夜「…わかったわ。」

永琳「で、どうするの?」

暁「ああ、異変を起こす」

周りは驚いた表情を見せる。

「なんで?」

「これからも永遠亭に行くからな。このままでは永琳も安心できないだろ。それじゃ、ダメだ。だから、俺が輝夜を殺せる部分のだけを封印する。それが落とし前だからな。」

その工程に異変クラスのことが必要だ、と暁は話す。

暁「もちろん、永遠亭の勢力にも力を借りなきゃならない。周りにも協力してもらう必要もある。それなりに準備もしなければならない。決行日は次の新月の日、約一ヵ月後。無論永琳は強制参加だ」

永琳「ええ」

暁「まぁ詳しい話は後にしよう。鈴仙、兎達を呼んできてくれ。さすがにここから歩いて帰るのは無理だ」

鈴仙「えっ? う、うんわかった。ちょっと待ってて」

そういうと、鈴仙は永遠亭に向かって駆けていった。





「……」

「……」


永琳 「どういうつもり?」

長い沈黙の後、永琳が口を開いた。

暁 「なんのことだ」

もはや二人とも首も動かせず空を見たまま話す。

永琳 「あなたは勝者なのだから私のことなんて気にする必要ないじゃない」

暁 「はじめに言わなかったか?」



『俺にも大事にするものたちがいる』



暁 「永琳、お前だって含まれてるに決まってるだろう」

お互いがどんな顔をしているか、お互い見ることはできない。

遠くから鈴仙達の声が聞こえる。

どうやら戻ってきたようだ。



これからの一ヵ月おそらく大変なことになるだろう。

たくさんのものと争うことになるかもしれない。

だが、大事なものがいる。

やるだけのことはやろう。

そう決意した。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.55 )
日時: 2014/04/01 13:03
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十四章-侮る無かれ、これでも主なのだから。 ‐

暁「よろしく頼む」

そう言って暁は頭を下げた。

永琳と戦った朝のことだ。

すでに二人は回復が終わり、外見からは戦いの後など見て取れない。

だが、全員今あったことを聞き、何をするか理解し、頭を下げた夕霧への協力を受理した。





暁 「永琳には、これの解析を頼む」

取り出したのはパチュリーから借りた三宝絵、それの写本である。

永琳 「どうしてこれを?」

暁 「日本の風習でな。全く別のものに見せ掛けて術式を後世に伝えるというのがある。桃太郎の話がその実、錬丹術の術式であるようにな。そのひとつが」

永琳 「この本というわけね」

永琳が後の言葉を受け継いだ。

暁 「そうだ。もう一冊が平家物語。こちらは本物を使う。だが、パチュリーの持ち物だからな。それなりの代償が必要になるだろう。加えて、術式の起動に大規模な本陣と気の流れの操作も必要だ。とにかく解析を終えなければ話にならない。本の解析はこの計画の要だ。新月の三日前には終わらしてくれ」

永琳 「わかったわ」

暁 「他のみんなは本陣の作成と他陣営への牽制だ。本陣作成は当日までばれぬように慎重に行なってくれ。そこの指揮はてゐに頼む」

てゐ 「はいよ」

てゐが請け負った。

暁 「鈴仙は竹林に侵入者が無いように見張りを頼む」

鈴仙 「わかった」

暁 「俺と輝夜は周りへの手回しだ」

輝夜 「私が?」

ほとんど外に出ることのない輝夜が尋ねた。

暁 「ああ、妖怪山の介入があるとやり辛い。だが、妖怪山と関係が深いものがいないようなのでな。こういう場合はトップが行くべきだろう」

永琳 「無理よ」

永琳が答えた。

暁 「何故だ?」

永琳 「姫様はあの山は登れないわ」

暁 「……なるほど」

暁も気が付いた。

輝夜の蓬莱ニートと呼ばれるほどの生活ぶりを。

暁 「ならば、輝夜は鈴仙の手伝いを頼む。対外交渉は俺が引き受けた」



こうして役割は決まった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.56 )
日時: 2014/04/01 13:06
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

役割を決め終わった後、暁はすぐに出かけていった。

輝夜 「永琳、山を登れないはひどいんじゃない?」

永琳 「あら、そうですか?」

輝夜 「そうよ。私だって山ぐらい登れるわ」

ちょっと怒ったように輝夜が言った。

永琳 「まぁいいじゃないですか、暁も騙せたことですし」

輝夜 「暁も暁よ。あんな理由で納得するなんて」

永琳はその様子をやわらかい笑みで見ている。

輝夜 「いいわ。じゃあ私も行ってくるわね」

永琳 「はい。お供できなくて申し訳ごさいません」

輝夜 「気にしないで。たまには一人旅もいいものよ」

永琳 「お気を付けて」

輝夜 「ええ、次会うのは満月の頃かしらね」

永琳 「そうですね」

輝夜 「永琳も頑張ってちょうだいね」

そういうと、目的地に向かって歩きだした。

これは永琳と二人で決めたこと。

スキマ妖怪が住まう場所、マヨヒガだ。

暁はまだ知らない。

あそこには永遠亭のトップとして、輝夜が行く。

自らそう言ったのだ。

このことを暁に話せば、俺が行くと言いだすだろう。

何を見返りとして要求されるかはわからない、だが、如何なる物であろうと暁は飲むことになってしまうだろう。

だからこそさっきの芝居だ。

輝夜は歩く。

自らの永遠亭のために。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.57 )
日時: 2014/04/01 13:10
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

まずは妹紅だ。

永遠亭の勢力を除けば、妹紅は暁の知り合いの中で最大戦力。

妹紅にはやってもらはねばならないことがある。

妹紅 「異変を起こす?」

暁 「ああ。手伝ってくれないか?」

妹紅 「嫌だね。面倒ごとはごめんだ。こればっかりは暁のお願いでも聞けない」

だが、断られてしまう。

妹紅 「手を出すなって言うなら良いだろ。だけど協力は無理だ」

妹紅でなければおそらく打倒できない敵。

数少ない頼れる戦力を逃すわけにはいけない。

暁は切り札を出すことにした。

暁 「一昨日、酒に酔い潰れた妹紅を運んだのは誰だったか……」

妹紅 「うっ、そっ、それはそれだ」

暁 「そうだ。確か妹紅、お前は九歳の時——」

妹紅 「あー! 待て! それは言うな! というか何で暁が知ってるんだよ!」

九歳、というワードだけでわかってしまうほど恥ずかしい思い出があるらしい。

何故知っているか?

そんなものは当たり前だ。

暁「元主はな秘密事があると刀に向かって話す癖がある。おそらく自分の知ったことを整理する手段なのだろな。つまり、頼光が知ってることは何でも知ってる。例えばじゅ——」

妹紅 「待て! だから言うなって! わかったよ手伝う! 手伝うから!」

暁 「そうか。助かる」

妹紅「全く、恨むぞ頼光」

妹紅が呟いた。

暁 「無理強いしてすまない。だが、この異変に妹紅は不可欠だ。故に一番はじめに此処に来た。近いから、ということではなく、な」



——俺にはお前が必要だ



そう言った。

妹紅 「お前もなかなかずるい奴だな」

暁 「さてなんのことだかわからんが」

二人は笑い合った。

妹紅 「これからどうするんだ?」

暁 「次は人里にな。慧音に人間に次の新月までは竹林に入らないように言ってもらう。慧音が言えば、人里の人間も聞くだろう。後は鴉を捕まえに、な」

人里でのねらいは二つ。

慧音に注意を喚起してもらうことと、妖怪山に知り合いを作ること。

鈴仙が言うには、新聞を書いているものが人里に売りに行くことがあるらしい。

賭けではあるが、そのまま突っ込んで敵対しては介入される可能性が増す。

だから、それは最終手段。

時間のある今は、できるかぎりリスクを減らすことにした。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.58 )
日時: 2014/04/01 13:13
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十五章−腹黒たちの化かしあい。‐

慧音の家に居候をして三日目の朝だ。


文 「あやや、あなたはもしかして暁さんですか?」

暁 「む、そうだが何故知っている?」

文 「紅白から聞きました。あの博麗神社にお賽銭を入れた奇特な方だとか」

博麗神社は散々な言われようである。

暁 「新聞を書いている天狗とはお前のことか?」

文 「あっと、申し遅れました。私は記者をしている射命丸文と申します。文と呼んでくれていいですよ」

そう営業口調で言いながら名刺を差し出した。

外界にいたときの癖で自分も名刺を差し出そうとしたが持っていないことに気付く。

文 「ちょうど良いところにいました。取材をさせてください」

暁 「こちらも用があって待っていたのだ」

文 「あやや、何の用ですか?」

暁 「妖怪山へ案内してくれないか?」

文 「うーん、あそこは他人をほいほい呼んでいい場所ではないのですが……」

暁 「情報提供がある」

文 「行きましょう! 案内します!」

暁 「お前もか」

その切り替えの早さは、お賽銭が入るとわかった時の霊夢並だった。

呆れているといつのまにか飛んだ文が暁を呼ぶ。

文 「何してるんですか! 早く行きますよ!」

暁は置いていかれないように鬼切丸を解放した。

ちなみに下から見上げた文は鉄壁スカートだった、

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.59 )
日時: 2014/04/01 13:15
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

文「妖怪山の不干渉ですか」

暁 「ああ、今回に限りな」

文 「うーん、それだと大天狗様に申し立てしないといけないんですが……」

暁 「報酬は異変の独占取材許可だ」

文 「あやや、それは魅力的ですね」

腕を組んで考え込む文。

思いついたように呼んだ。

文 「椛、ちょっと来てください」

椛 「何のようですか、文様?」

文「暁さん、この子と将棋で勝負して勝ったら独占取材許可をいただいた上で、大天狗様に申し立てしましょう。逆に負けたら独占取材許可だけいただきます」

暁 「む、それではこちらが不利ではないか?」

文 「やらなくても良いですよ? 私は勝手に取材しますから」

一つため息を吐いた後、暁は答えた。

暁 「良いだろう、その条件を呑む」

勝った、文はそう思った。

椛は天狗の中でもかなりの腕だ。

周りのものに取材した情報では将棋をしている姿を見たものがはいない。

素人に椛が負けるはずがない。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.60 )
日時: 2014/04/01 13:19
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

結果を言おう。

「うっ……」

パチ

「……」

パチ

椛「うぅ、参りました」

暁 「ありがとうございました」

椛 「ありがとうございました」

椛は負けた。

ふぅ、と疲れを吐き出すように息をついた暁。

暁 「何故三手前に投了しなかった?お前なら詰みだということがわかったはずだが?」

椛 「うぅ、文様の期待に応えたくて……」


文 「なんで……? 将棋を知らないんじゃないんですか?」

暁 「うむ、知らないとは俺は一言も言ってないな」

椛 「でも、周りのものに取材した情報では将棋をしている姿を見たものはいません」

暁 「む、いつのまにか取材されていたか」

早めに来ておいて正解だったなと、暁は思った。

ただ、異変のことがばれたところで遣り辛くなるだけ、ではあるのだが。

暁 「極端なことを言えば、駒が無くともできないことはない。加えて元々武家の人間の模擬戦のようなものだったのだ。棋符は数えきれないほどに見てきた」

そうだ。

元々武家の持ち物であった暁は弱いはずはなかった。

文は情報を読み間違えたのだった。

将棋をしている姿を見たものがいない=将棋ができないではなく、相手がいなかっただけの話なのだ。

暁 「さて、約束だ。妖怪山の不干渉を実現してもらうぞ」

文 「もし破ったらどうなりますかね?」

暁 「さぁな、もしかしたら永琳あたりにえげつない薬を飲まされるかもしれん」

文はそのえげつないを想像して身震いした。

一緒に想像して椛も震えた。

そんなに怖いのか永琳。

文 「わかりました。大天狗様には話を通しておきます」

暁 「ダメだ。確約させろ」

文が心の中で舌打ちする。

通すだけ通して確約はしてないことにしようと思ったのだが、暁にはばれてしまった。

暁 「これ以上、小細工するようなら本気で排除する」

文 「あやや、暁さんにそれができますか?」

暁 「可能だな。こちらも本気なのだ、約束を破るならば相応の報いを受けてもらう」

文 「天狗をあまりなめないことです」

暁 「そちらもな。小娘」

しばし睨み合う二人。

その間では椛が急に変わってしまった雰囲気にオロオロしている。

どうしたら良いかわからないようだ。

文 「ふぅ、仕方ありません。こちらから出した条件を守らないのは大人ではないですね。確約しましょう」

ただし、と付け加える。

文 「守矢神社は別です。あそこは妖怪山勢力ではありませんから」

暁 「守矢神社?」

文 「ええ、妖怪山の中にある神社です。あそこには二柱の神様と巫女がいます」

暁 「む、それは知らなかったな。そちらも手を打っておくべきか」

スケジュール的には予想より早く文に会えたので、若干余裕がある。

巫女がいるということは話を通しておかなければ、出てくることは可能性としてはありえる。

一度会っておくべきだろう。

暁 「世話になった。これを持っておけ」

文 「なんですかこれは」

差し出された小刀を受け取りながら、文は疑問を投げる。

暁 「そうだな、約束の印、と言った所だ。それさえ持っていれば、今度の異変時誰にも邪魔されること無く取材が可能だ」

文 「?? なんでそんなこちらに有利なものを?」

暁 「情報の礼だ」

ではまたな、と言って暁は去っていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.61 )
日時: 2014/04/01 13:26
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁が出ていった後、大天狗に話を通し、確約してもらった文は博麗神社に向かっていた。

(紅白達に伝えないということは約束してないですしね)

そちらのほうが面白い記事が書けそうだ、と文。

文 「こちらの方が一枚上手でしたね」

とほくそ笑む。

そうこうしている間に博麗神社の鳥居が見えてきた。

霊夢はちょうど境内の掃除をしているようだ。

文 「霊夢さ〜ん!」

霊夢 「あら、文じゃない。何かあったの?」

文 「ビックニュースですよ! 実は……」



——あれ?




霊夢 「実はなによ」

文 「ちょっと待ってください」

今一瞬前まで話そうと思っていたことが思い出せない。

文 「あれ?なんで」

おかしい。

記者であり、記憶力は普通よりあるつもり。

だが、全くなにを言おうとしたのかわからない。

霊夢 「文、あんたボケたの?」

文 「あやや、失礼な!」

しかし、思い出せないのも事実だ。

霊夢 「思い出せないなら大したことじゃないのよ」

そう霊夢は言った。

そう言われればそうかもしれない。

文 「じゃあまた思い出して大したことだったら来ますね」

霊夢 「ええ、期待せずに待ってるわ」

そう挨拶を交わすと文は妖怪山に戻っていった。











暁 「やはり、か」

神社に向かっている途中、血の盟約の発動を感じた。

暁 「警戒しておいて正解だな」

文は気づかなかった。

約束されたのは、『妖怪山の住人による異変への不干渉』

その中には、他ならぬ文自身も含まれているということを。

異変の起こることを霊夢達に伝えることは、当然のごとく干渉行為だ。

血の盟約とは形ある約束。

本来形の無い約束を、暁の能力により形を有る事にされたもの。

それは約束されたことを強制させる。

暁 「口は災いの元、か」

暁のほうが一枚上手だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.62 )
日時: 2014/04/01 13:32
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十六章−人間の中に長くいた者はそちらに引きずられる面もある訳だ。‐
一度眠り、川を越え、夜が明けはじめた頃。

暁は守矢神社に到着した。

途中河童に聞いた話では、東風谷早苗というものが巫女をやっているらしい。

ちょうど階段の掃除をしている緑色の髪の巫女に尋ねることにした。

暁「すまぬが、尋ね事をしていいだろうか?」

早苗 「ええ、構いませんよ」

暁 「東風谷早苗というものを探している。ここの巫女だと聞いたのだが……」

早苗 「はぁ、東風谷早苗は私ですが……」

暁 「む、これは失礼した。今日は願いがあってきたのだ」

早苗 「参拝ですか?」

暁 「いや、祈願ではない。東風谷殿と二柱の神様への依頼に近い」

その瞬間に早苗の目が変わった。

暁 「まぁだが、その前にお賽銭を入れていくことにしよう。今回のことの成功も祈ってな」

早苗 「へ?」

だが、勢いを削がれたように早苗が声を出した。

暁 「む、幻想卿の巫女はお賽銭で喜ぶと思ったが、そうではないのか」

プレゼント作戦は失敗か、と一人ごちる暁。

早苗 「それはどこからの情報ですか?」

暁 「博麗霊夢だが?」

早苗 「……まぁ祈願に来たものを無下に追い返すことはできません。境内まで案内します。ついてきてください」

同じ巫女として恥ずかしく思ったのか、聞かなかったことにした早苗。

先導して境内に案内することになった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.63 )
日時: 2014/04/01 13:34
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

お賽銭を入れ、手を合わせた後諏訪子と神奈子に異変について説明した。

暁 「——ということだ」

神奈子 「それで? 何で私たちにそれを話すんだい?」

暁 「異変に関して不干渉でいてくれないか?」

神奈子 「……話はわかった。ついておいで」

神奈子は立ち上がると境内を出た。

それに暁も続く。



「神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』」

地面に巨大な御柱が突き刺さった。

神奈子 「こいつを斬れたらおまえの願いを聞いてやろう。できなければ早苗が異変を潰す」

暁 「了解した」

神奈子 「期限は今日から数えて、三日目の夜明けまでだ。ただし、スペルはなし」

暁 「む……。わかった。やろう」

条件を呑み御柱に向き直った。

居合いの構えで『鬼切丸』と呟き、呪の解放を行った。

それから赤い光が煌めき、鈍い音が響いた。

暁 「チッ」

神奈子 「まぁこのぐらいできないようじゃ異変なんてやめときな」

そういうと、暁に背を向けて境内に戻っていった。

御柱は固いわけではない。

斬りにくいわけでもない。

だが、斬れない。

しかし、守矢神社に対して提示できる条件がない。

そうである以上、向こうが出した条件を満たすしかない。

暁の挑戦は始まった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.64 )
日時: 2014/04/01 15:01
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

そしてあっという間に日が落ち夜明け前だ。

残る時間はほぼ後丸1日。

御柱は一部すら欠けず暁の前にそびえ立つ。

何度となく刀を振るい何度となく弾かれる。

それでも暁はやめない。

諏訪子 「ねぇ君」

そんな暁に諏訪子が話し掛けた。

暁 「なんだ」

暁は刀を構えながら聞く。

諏訪子 「君はなんでこんなに頑張るの?」

暁 「なんでとは?」

諏訪子 「君は異変を起こすって言った。でも、それは本当に周りのためになるのかな? もしかしたら迷惑に思ってるかもしれない。もしかしたら嫌だと思ってるかもしれない」

暁 「確かにな」

諏訪子 「ならなんで」

暁 「関係ないからだ」

諏訪子 「え?」

暁 「関係ない。迷惑だと思われてもな。俺は俺が好きな俺で在れるように生きる」

あまりの自己中な反応にぽかーんとしてしまう諏訪子。

暁 「究極的に言えば他者を百パーセント理解するなど不可能だ。たとえ、どれだけ愛していようとも、たとえ、心を読む術を持っていようともな。嬉しいも悲しいも強さ、感じ方は各個それぞれ違う」

フッと短い息と共に振られた刀は鈍い音を立てて弾かれる。

暁 「だから俺は自らに従う。周りのものは笑っていてほしいからまず俺が笑う。周りのものは幸せでいてほしいからまず俺が幸せにする。そのために善かれと思うほうを選ぶ。それがダメならその時だ」

そう言い切り、暁は諏訪子から意識を切り離した。

だから、去って行き際に言われた応援の言葉は聞こえなかった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.65 )
日時: 2014/04/01 15:05
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

一度日は昇り、また落ちた。

次の太陽が見える時間までが期限だ。

暁「何の用だ」

暁は後ろを振り向かずに問う。

ピクリと反応し、早苗はゆっくり話しだす。

早苗 「もうやめてください」

暁 「何故だ」

早苗 「信者の方がそんなになるのを放っておけません」

御柱を斬り続けた刀は傷一つないが、人間体の手はその刀を握り続けた代償で、皮が剥がれ血が滲みだし握りを赤く染めだしている。

御柱を斬ろうとすることで劣化する刀の修復に霊力を傾けているため、人間体を修復するほどの霊力がないのだ。

暁 「この程度問題はない。これ以上の状況などいくらでもある」

早苗 「でも! 加奈子様はああいいましたが、私は異変を潰したりしませんから」

暁 「む、それはダメだ。斬れなければお前が異変を潰す、それが約束だ」

早苗 「それは」

暁 「俺が斬れば問題はなかろう?」

早苗 「無理ですよ。神奈子様の御柱です。スペルもなしで斬れるようなものじゃありません」

暁 「お前は無理だと思うのか」

早苗 「ええ」

断言した。

おまえには無理だと。

暁 「そうか。俺は長く人間の中で生活していた所為なのか」

無理だといわれれば余計にやりたくなる質なんだ。

そう暁は言った。

暁 「日本には『無理を通せば道理が引っ込む』という素晴らしい言葉がある。使いどころは違うが、見ておけ。次の一太刀でこれを斬ってみせよう」

実際、飲まず食わずでここまでやってきたために後何回振れるかもわからないが、そう多くは振れない。

イメージは頭の中にある。

一度破った永琳の天文密葬法。

あの時を再現する。

幸い御柱はあの時ほどやっかいなものではない。

再現できればスペルカードなしで斬れるはずだ。

長年の経験、あの時覗いた剣術の深遠の一端。

暁 「居合いの極意その三。あらゆるものを切り裂くものであるべし、だ」

暁は自らに宿る全てを以て、





——御柱を両断した





早苗「えっ……」

早苗は思わず声を洩らした。

刀が鞘に収められる音が辺りに響いた瞬間、御柱が真っ二つになり、左右に倒れたのだ。

暁 「約束だ。不干渉を実現してもらうぞ」

神奈子 「ああ、好きにやりな」

いつのまにか現れた神奈子が答えた。

暁 「よろしく頼む。それとお前」

早苗 「私ですか?」

暁 「ああ、早苗と呼んで良いか?」

早苗 「ええ、いいですが」

暁 「では、早苗。すまぬが、飯をくれ。流石に二日完全断食は堪えた」

と、同時に暁のお腹は盛大になった。

集中力が切れたからだろう。

三人は盛大に笑った。








暁 「世話になったな」

早苗 「いえ、お疲れさまでした」

唯一見送りに来た早苗と挨拶を交わす。

暁 「また、祈願に来たときはよろしく頼む」

早苗 「ええ、お待ちしています」

そう言って暁は次の目的地に向かって歩きだした。




早苗 「何であんなことしたんですか?神奈子様」

神奈子 「さぁね。単なるお節介さ」

曰く、信者は大事にするものだそうだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.66 )
日時: 2014/04/01 15:09
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十七章−久々の我が家、変わりは無かった。‐
 

暁が、守矢神社で御柱を斬っていた頃。

輝夜はマヨヒガにたどり着いた。

紫 「永遠亭の主が出歩くなんて珍しいわね。こんなところまで何の御用かしら?」

扇を口にあてながら、紫が輝夜に問うた。

輝夜 「単刀直入に言うわ。貴女達は今度の異変には不干渉でいてほしいの」

紫 「あら、異変?何のことかしら?」

紫は笑みを崩さず答えた。

輝夜 「白々しいわね。どうせどこかで聞いてたくせに。まぁいいわ、答えは何よ」

紫 「そうねぇ。今回は参加しても面白そうなんだけど、見てるのもそれはそれで面白そうだわ」

輝夜 「それじゃあ!」

紫 「でもだめね。頼みごとするときにはそれなりの誠意ってものが必要よ」

扇の後ろで笑みを深めながら言う。

輝夜は一瞬考えるような仕草をした後、合点がいったように行動に移した。

輝夜 「お願いします」

頭を下げたのだ。

紫 「永遠亭の主が随分簡単に頭を下げるのね」

輝夜 「ええ、家族のためだもの。私が頭を下げるだけで済むならいくらでも下げるわ」

紫 「そうね。でもまだ足りないわ」

輝夜 「あら、私が要求されるほうになるとは思わなかったわ」

袖を口に当て輝夜がクスクス笑う。

輝夜 「何をすれば良いのかしら?」

紫 「藍」

藍 「はい」

するといつ出てきたのか八雲藍が紫の一歩後ろに姿を現した。

紫 「藍を倒せたらいいわ、不干渉を約束する」

輝夜 「そう、じゃあさっさと終わらせるわ」

永夜の借りもあることだし、と輝夜は仕掛けた。



——神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」



突然の開始に焦りもせずに回避した藍。

だが、それが間違いだ。

全力を以て、対応すべきだった。

蓬莱ニートと呼ばれるに相応しくない動きの速さで藍の懐まで潜り込むと、そこからは一方的だった。



——永夜返し—待宵—

——永夜返し—子の四つ—

——永夜返し—丑の四つ—

——永夜返し—寅の四つ—



被弾して吹き飛んだ藍に輝夜は止めを刺そうと蓬莱の枝を取り出した。

が、



——境界「永夜四重結界」



それに紫が割り込んだ。

輝夜 「あら、それじゃあその子を倒せないじゃない」

紫 「もういいわ。マヨヒガの不干渉は受託するわ」

輝夜 「そう、ならいいわ。じゃあ私は暁が帰ってくるまでに帰らなきゃいけないから」

そういうと、輝夜は足早にマヨヒガを去っていった。

紫 「ねぇ藍、手抜いたからって簡単にやられすぎじゃないかしら?」

藍 「元々私のほうが実力ないのに手を抜いたらこんなもんですよ」

紫 「そうかしら? まぁ今回の異変は見て楽しむことにしましょ」

藍 「はぁ初めからそうつもりなら素直に答えれば良いのに……」

紫 「何か言ったかしら?」

藍 「いえ、何も」

藍が思わず呟いた一言を耳聡く聞き取った紫。

藍は誤魔化すことにしたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.67 )
日時: 2014/04/01 15:16
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

さて時は進み、暁は白玉楼にて妖夢へのお願いを終え、博麗神社に来ていた。

霊夢 「あっお賽銭が来たわ」

暁 「失礼だな」

言葉ほどは怒る様子もなく、いつも通りにお賽銭をいれ手を合わせる。

祈願するのは異変の成功。

解決者の神社で祈願するのもおかしな話ではあるが。

霊夢 「何をお願いしてるのかしら?」

暁 「む、こういうものは口に出したら叶わないものであろう」

霊夢 「ふ〜ん、そういうものなのね」

暁は内心ひやっとした。

表面上はなんとか繕うことができたが、霊夢の勘がここまでとは。

だが、霊夢は問うたきり興味を失ったようで、お賽銭箱を開けてお金を取り出している。

入っている諭吉様を見てとろけるような笑みを見せる。

暁 「さすがに入れたものの前で取り出すのはどうなんだ?」

霊夢 「何よ? これはもう私のものよ。返さないんだから」

暁 「いや、返せとは言っていないが……」

ああ、そんなに好かれてちょっとだけ羨ましいぞ諭吉。



縁側には華扇が座っていた。

暁 「久しぶりだな、華扇」

華扇 「ええ、久しぶり」」

のんびりと答える華扇。

霊夢 「今お茶入れてくるわ」

そういうと霊夢は中へ入っていった。

暁「なぁ華扇」

華扇 「なに?」

暁 「もし、俺と霊夢が敵同士になったらどちらにつく」

と、問うと

「霊夢」

即答されてしまった。

暁 「それは何故だ?」

華扇「だって暁は鬼切丸でしょ? 恨んではないけど霊夢の方が世話になってるからね。」

ばれてしまったらしい。

恨まれていないだけましだと思うしかないようだ。

華扇 「ただ、手を出すなって言われれば出さないわよ。」

暁 「そうか、そうしてくれるとありがたい」

そう答えて、思案する。

紅魔館を除き、手を出してきそうな勢力には全て会った。

白玉楼と妖怪山、守矢神社は不干渉。

単一個体で戦力になりうる萃香はおそらく何もしないか、霊夢達の味方。

霊夢と魔理沙は異変を解決する側。

こちらは永遠亭+妹紅である。

戦力は十分だ。

後は術式の起動。

これだけは今いる味方では誰もできない。

永琳ができるのは解析まで、暁にいたってはそれがどういうものか知っているだけ。

魔法使いで今回頼れるのはパチュリーだけだ。

次の交渉が要になる。

だが、今日でちょうど二週間。

月は満月を過ぎ、欠けはじめている。

後は紅魔館だけなのだ。

後一つだが、一番重要な一つ。

一度本陣に戻り、対策を練るべきだ。

そう考えながら戻ってきた霊夢が用意したお茶をすすった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.68 )
日時: 2014/04/01 15:25
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「ただいま」

輝夜 「おかえりなさい、暁」

鈴仙 「おかえり」

竹林の前で、鈴仙と輝夜が暁を出迎えた。

暁 「そっちの様子はどうだ?」

それに輝夜が答える。

輝夜 「本陣の方は順調すぎるくらいよ。永琳が解析終えてからそっちの指揮してるわ」

暁 「うむ、予定より早く終わるとは。流石天才の名は伊達ではないということか」

鈴仙 「そっちはどうなの?」

鈴仙が聞く。

暁「華扇以外は予定どおり成功。後は俺が居候している紅魔館への対策のために一度戻った」

永遠亭に向かい歩きながら話す。

輝夜 「華扇はやっぱり味方には引き入れられなかったのね」

暁 「ああ、俺が鬼切丸だということまでばれていた。手は出してこないとは言っていたが」

輝夜 「来てもかまわないのに」

と、輝夜は余裕を見せた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.69 )
日時: 2014/04/01 15:28
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十八章−交渉はこれにて終わり。ここから先は力押しである。‐

時は過ぎ、新月の日が明日に迫った日。

レミリア 「異変への不干渉?」

暁 「ああ」

レミリア 「ふ〜ん。貴方のことだからそれなりの対価を用意しているんでしょう?」

肘を突き手に顎を乗せながら問う。

カリスマが溢れる姿だ。

暁 「これだ」

渡したのは血の盟約の印である小刀。

暁 「これで、レミリアならびにレミリアの妹の異変への不干渉を約束してほしい」

レミリア 「あら、紅魔館の勢力ではなくて?」

暁 「紅魔館の勢力全部を押さえるほどそれに価値はあるまい。一番敵になって困るのは吸血鬼、特にレミリアだ。個人的には美鈴や咲夜が来ても困るのだがな」

レミリア 「ずいぶんと評価が高いのね。貴方も私の天敵だったんじゃなかったかしら?」

暁 「そうだな。だが、おそらく一対一であれば七:三で俺が負けるだろう。自力の差だ」

レミリア 「そうかしら?」

暁 「いや、まだ下がるな。実際にやりあったことがないゆえ、受ける感触で判断した最低ラインだ。実際にやれば九対一程かもしれん」

レミリア 「咲夜、貴方はどう思う?」

咲夜 「妥当だと思います」

実際に暁と戦ったことがある咲夜が言った。

レミリア 「ふ〜ん。そんなもんなのね。わかったわ、私とフランは今回の異変には干渉しない」

暁 「恩にきる」

レミリア 「いいわ、結果がわかってることに参加してもつまらないもの。今回は見て楽しむことにするわ」

暁 「うむ、では楽しめる見せ物になるように努力しようか」

レミリアの言い様に対して毒を含ませて返した暁。

言い返したりしないところはさすがか。

こちらにとってレミリアが参加しないことは好都合なのだ。

わざわざ訂正することはない。

したいならば、異変を終えた後にくればいいのだ。

暁は自分にそう言い聞かせた。

もっとも、大して頭にこないというのも言い返さない理由ではあるが。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.70 )
日時: 2014/04/01 15:32
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

さて、場所は図書館。

パチュリーとの交渉だ。

パチュリー「話は理解したわ。私に一冊本を手放せというのね」

暁 「それについては謝る。すまぬが、あれがなければ今回のことは不可能だ」

パチュリー 「相応しい対価は?」

暁 「今回も前払い、魔理沙に盗まれた本全てを取り返す」

パチュリー 「前回十二冊でボロボロだった貴方にできるのかしら?」

暁 「可能だ。今回は一人ではなく永遠亭の協力がある。加えて事前調査でわかったことたが、魔理沙は今日は博麗神社に泊まる。その間に盗みだす」

暁は語った。

暁 「無論、パチェの喘息は考慮して永琳を傍につけておく。依頼は術式の起動と維持。開始は今日の晩、魔理沙の家から帰ってき次第パチェを連れて本陣に行く」

ここでパチュリーが断れば、術式を起動できず、封印もできなくなる。

パチュリーの答えは、

パチュリー 「やるわ。ただし報酬が成功したらよ」

暁 「感謝する!」

思わず暁はパチュリーの手を握り、大いに喜んだ。

これで準備は整った。

後は、本を盗みかえしたのち異変を起こすだけだ。

一ヶ月かけて準備したことの総仕上げ。

ここまでは順調にきた。

後は、戦闘要員の頑張りしだい。

遠足の前日のようにわくわくしてきた暁だった。


なおしばらく感動に浸っている間、パチュリーの手を握りっぱなしだったことは言うまでもない。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.71 )
日時: 2014/04/01 15:36
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

決行日の夜。

月は新月の一歩手前の朝月。

暁とてゐ以下兎達は魔理沙の家に侵入していた。

ピッキングテクニックで鍵を開けたのはてゐである。

あまりの手早さに暁が戦慄したのは余談である。

暁 「よし、これで最後だ」

てゐ 「じゃあ閉めるよ」

と、てゐが扉を閉めた。

だが、その時だ。

アリス 「ちょっと貴方達何やってるのよ!」

そう声を上げたのは、アリス・マーガトロイド。

肩には上海人形が座っている。

魔理沙がいないことも知らず訪ねてきたのか。

暁 「む、まずいな。新手か」

てゐ 「失敗したね。いつも家に籠もって人形作ってるから、出てこないと思ったけど」

暁 「ニートだな」

てゐ 「ニートだね」

アリス 「あんた達失礼ね!」

アリスがあまりの言われ様にキレる。

暁「暁、先に行ってて。私は本持ってないから、アリスを止めるよ」

暁 「しかし」

てゐ 「いいよ。これ終わったら私は出番ないし、この辺りで頑張っておかないと。倒してすぐに追いつくから」

暁は数瞬の逡巡の後、

暁 「了解した。無理はするなよ」

と言って紅魔館の方に向かって走りだした。

アリス 「待ちなさい!」

てゐ 「ここから先は行かせないよ」

暁を追おうとしたアリスをてゐが遮る。

アリス 「退きなさい!」

てゐ 「嫌だね。やるんだったら力ずくで」

アリス 「そう。覚悟しなさい!」

てゐ 「それはこっちの台詞!」

暁が信頼し任せた場。

イタズラ兎はそれを裏切りたくないと思った。

全力で戦う。

信頼に応えるために。

一度永夜で負けた相手でも。



負けてたまるものか!



——「エンシェントデューパー」!

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.72 )
日時: 2014/04/01 15:41
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第十九章−異変の始まりはじまり。‐

暁「大丈夫か、てゐ」

暁はパチュリーを本陣に連れていった後、まだ戻っていなかったてゐを迎えに来ていた。

暁 「んー、大丈夫だよ。でも相討ちってところかな。アリスを止められたけど代わりに博麗神社の方行っちゃった。たぶん魔理沙に知らせに行ったんだと思う」

すでに魔法の森の出口に来ていたてゐが答えた。

暁 「それなら問題はない。どのみち知らせなければならなかったんだ。おそらく今ごろ咲夜がレミリアの命で向かっている頃だ」

てゐ 「そっか。じゃあ私はちょっと休むね。後はよろしく」

暁 「ああ、任された」

てゐを背負うと暁は本陣に向かって走っていった。




さて、本陣に戻った暁。

ついに異変の開始である。

暁は呪の解放を行う。

「鬼切丸」

赤い刀身がその呼び掛けに応えるように煌めき、凛として音を鳴らす。

握った手を突き出し、刃先を下にむけ、柄から手を離した。

ゆっくりと地面に突き刺さる刀。

その動きが止まった瞬間。




——幻想卿から音が消えた




次の瞬間には何かとてつもなく大きな物が落ちたような音が響き渡った。

森から驚いた鳥達が飛び立とうとして何かにぶつかり、次々と墜落していく。

暁 「鈴仙」

鈴仙 「うん」

続けて鈴仙が能力を行使した。

出来上がったのは透明な壁の巨大な迷路だ。

上からの脱出は不可能、壁に関しても強度が高く、さらに再生機能等、暁の能力を最大限に繁栄させたものとなっている。

この迷路によって空気中の気の流れを制御し、まずは三宝絵に書かれた術式を起動する。

だが、霊夢の勘ならばその前にここまで辿り着いてしまうだろう。

霊夢達の到着は発動後、夕刻でなければいけない。

そのための鈴仙の能力だ。

鈴仙の能力によって認識を揺らす。

それと同時に気の流れを操作する。

それによって、術式の起動と霊夢たちの足止め両役を担う。

第一段階は成功した。

暁 「ふぅ。なんとかうまくいったな。少し休む。霊夢たちが来たら教えてくれ」

鈴仙 「わかった」

鈴仙が請け負い、暁は突き刺さったままの刀に戻っていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.73 )
日時: 2014/04/01 15:45
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

一方異変が起きる少し前の博麗神社は、

アリス「魔理沙!」

アリスが来ていた。

魔理沙 「魔理沙! ちょっと大変よ」

魔理沙 「何なんだ?そんな急いで」

アリス 「実は——」


咲夜 「みんなそろってるわね」

霊夢 「あら、咲夜。珍しいわね、レミリアは一緒じゃないの?」

咲夜 「ええ、知らせることがあってね」

霊夢 「何よ?」

と、霊夢が咲夜に聞いた瞬間だった。


響き渡る音、異変が起きた印だ。


魔理沙「なに! 本が盗まれたならこんなところにいる暇じゃないぜ!」

アリス 「ちょっと待ちなさいよ!」

魔理沙は気にも止めず、盗まれた本を取り返すために、箒にまたがって飛び立とうとした。

だが、

魔理沙 「ヘブッ」

いつぞやの鈴仙と同じ声を出して墜落した。

霊夢 「ああ、だから言わんこっちゃない」

霊夢が頭を抱えた。

霊夢 「で、咲夜。知らせるってこれのこと?」

咲夜 「ええ、起こしてるのは永遠亭」

霊夢 「また永遠亭なの? 懲りないわねあいつらも」

咲夜 「今度の首謀者は暁よ」

霊夢 「あのお賽銭が?」

ついに暁はお賽銭に成り下がったらしい。

悲しいことだ。

咲夜 「詳しくは言えないけど間違いはないわ。永遠亭に向かえばいる」

霊夢 「ならさっさと行きましょ。空を飛べないのは不便だし。咲夜も手伝ってくれるんでしょ」

咲夜 「ええ、そのために来たのだし」

霊夢 「魔理沙達は?」

魔理沙「う〜、暁、許さないぜ」

ぶつけた額を押さえながら魔理沙が言った。

どうやら参加は確定した。

アリス 「私も行くわ」

アリスも参加を表明した。

そして四人は空が飛べないために歩きだした。

「「「「イタッ」」」」

横一列に並んでいたために全員が同時に正面の壁にぶつかった。

前途は多難のようだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.74 )
日時: 2014/04/01 15:49
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

遠回りに遠回りを重ね、霊夢達がようやく竹林の入り口に到達した頃には、すでに日は落ちはじめ夕刻に入る手前だった。

途中思いついたように、魔理沙が壁に向かってマスタースパークしたが、壊れた後すぐに再生し通れず、壊した後咲夜が時を止めるという作戦も、暁の力を最大限に受けているが故に、止まっている間も再生する壁の前に失敗した。

壁にぶつかりまくった四人の額は赤くなっている。

それを出迎えたのは、

霊夢 「あんた達が一面ボスだとは思わなかったわ」

妹紅 「ああ、私も一面ボスなんてやるとは思わなかったね。しかもこいつと一緒に」

輝夜 「あら、そんなに嫌なら私が殺してあげるけど」

フフフ、と袖を口に当て笑う輝夜。

その隣にいるのは妹紅。

輝夜 「とはいっても二面までしかないのだけど」

咲夜 「霊夢、魔理沙先に行って。ここは私とアリスでやるわ」

輝夜 「意外ね、どうしたの?」

咲夜 「お嬢様の命令よ。もしこういう状況になったら先に行かせなさいってね」

霊夢 「そう、じゃあお言葉に甘えようかしら」

輝夜が手に蓬莱の枝を、妹紅が背中に炎の翼を生やし、行く手を遮る。

輝夜 「素直に通すと思うのかしら?」

妹紅 「友の願いだ。楽には通さない」

それを抜くためにアリスと咲夜がスペルカードを使う。


——闇符「霧の倫敦人形」

——幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」


魔理沙 「霊夢、掴まれ!彗星『ブレイジングスター』」

箒に掴まった霊夢とまたがった魔理沙は猛スピードでスペルに対応してる輝夜と妹紅の間を抜けていった。

妹紅 「クッ! 不死『火の鳥——』」

咲夜 「させないわ。時符『プライベートスクウェア』」

後ろから撃とうとした妹紅は咄嗟に中断、回避行動に移した。

結果、ダメージは受けなかったが、霊夢達ももう追えないところまで行ってしまった。



輝夜 「さぁ、じゃあ役目を果たすとしましょ」

妹紅 「そうだな。珍しく同意だ」

妹紅が首をゴキリと言わせ掌に拳を叩き付ける。

アリス 「は? どういうことよ!」

その言葉にアリスが反応する。

アリス 「あんた達はここで霊夢達を止めるためにいたんじゃ」

輝夜 「あら、一面ボスだとは言ったけどね。霊夢達を通さないとは言ってないわ。素直に通さないといっただけ。私たちの役目は霊夢と魔理沙以外をここから先に行かせないこと」

妹紅 「長く生きてると演技が上手くなるもんだな」

輝夜 「あら、妹紅の大根役者ぶりにバレないかひやひやしたけど」

妹紅 「お前だって大根役者なくせに!」

輝夜の言葉に噛み付く妹紅。

アリス 「じゃあ私たちが貴方たちを倒せば、計画は崩れるってことよね」

アリスが、ボソッと言った。

輝夜 「あら、永夜の時は二人でようやく勝った貴方にそれができるかしら?」

輝夜は言葉で返し、


——虚人「ウー」


妹紅はスペルカードで答えた。

輝夜 「さすが妹紅、やることが野蛮ね」

妹紅 「うるさい!」

二人は口喧嘩しながら敵を討ち滅ぼす為、踏み出した。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.75 )
日時: 2014/04/01 15:50
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

レミリア「運命は回り始めたわ。今回の貴方は悪役ヒール。悪は正義に討伐される運命。正義はやられても何度も立ち上がれるけど、悪は負けたらそれで終わり。貴方はこの運命をどうするのかしら。ここまで私がお膳立てしてあげたんだから楽しめるように面白くしてちょうだい」

夕日を背に日傘を差した小さな少女が一人ごちる。

紫 「あら、今回は貴方も傍観者なのかしら?」

スキマに腰掛けた紫が、そんなレミリアに話し掛けた。

レミリア 「そういう貴方も傍観者ね」

紫 「ええ、頭まで下げられちゃったもの。素直に引き下がるのが大人ってものよね」

文 「あやや、ずいぶん大物が集まってますね」

そこに事を思い出した文が到着した。

役者、観客すべてが集まり、舞台は整った。

どんな結末を迎えるのか、それは役者しだいである。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.76 )
日時: 2014/04/01 15:53
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十章−自らの願い。それは叶え難く遠いものだった。‐

竹林の奥深く広く竹の無い空間がある。

そこの中央に刺さる赤い刀。

そんな場に霊夢と魔理沙は現れた。

パチュリー 「保安元年六月七日書うつしおはりぬ」

パチュリーが本陣のなかでつぶやき、三宝絵の術式が起動する。

だが、外面上は変化はない。

鈴仙 「暁、来たよ」

その言葉を聞いた刀は赤い光を放った。

それは徐々に人型を形成し、暁が出てきた。

鈴仙 「ねぇ暁、前から聞きたかったんだけど」

暁 「む、なんだ?」

鈴仙 「毎回出てき方が違うのは何で?」

暁 「気分だ。その時の雰囲気で変わる」

うわー痛い子だーと言う目で暁をみる鈴仙。

暁 「仕方ないだろう。そういう仕様だ」

言い訳するように暁が言った。

霊夢 「いいかしら?」

痺れを切らした霊夢が声をかけた。

暁 「うむ、よく来たな霊夢に魔理沙」

魔理沙 「よく来たな、じゃないぜ。私の本を盗んだらしいじゃないか」

暁 「そうだな、正確にいえば魔理沙が借りた本全てを図書館に返却した、だな」

魔理沙 「全部! ずいぶん質悪いぜ……」

落ち込む魔理沙。

全部と言えば相当量だ。

数百冊というレベルである。

魔理沙「許さないぜ、暁」

暁 「まぁ、魔理沙には饅頭を盗まれたからな。その借りを返したと思ってもらえればよい」

魔理沙 「饅頭二個でこれかよ!」

暁 「昔から言うだろう? 食い物の恨みは恐ろしい、とな」

イライラしたように霊夢が口を挟む。

霊夢 「降参するの? それとも実力行使? どっちなのよ」

暁 「無論降参などするものか」

霊夢 「じゃあ実力行使でいいのね」

暁は一度まわりを見渡し、文がいることを確認し、言った。

暁 「ここの竹が生えていない空中には壁はない。あそこに文やレミリアがいるのが証拠だ」

霊夢 「ずいぶんと親切なのね」

暁 「なに、説明しなかった所為で負けたとごねられても面倒だ」

飄々と暁は答えた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.77 )
日時: 2014/04/02 08:43
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「さて、始めようか。二人でこい」

霊夢「あら、そんな余裕で良いのかしら」

暁「余裕? 何のことだかわからんな」

霊夢「こういうことよ」



——魔符「スターダストレヴァリエ」



いつのまにか移動した魔理沙が仕掛けた背後からの一撃。

だが、

暁「うむ、予想していればそれほどでもないな」

暁の蹴りが箒の先端を捉え、魔理沙は暁に当たらず霊夢の隣まで飛んでいった。

霊夢「何でマスタースパークじゃないのよ」

魔理沙「ちょうど直線上に霊夢がいたからだぜ」

霊夢「私なら避けられるわよ」

暁「悠長に話しているほど余裕なのか?」

暁は二人の間に切り込む。

霊夢と魔理沙はそれぞれ左右に避け、二人同時にスペルカードを発動した。

霊夢「宝符『陰陽宝玉』」

魔理沙「儀符『オーレリーズサン』」

しかし、スペルを使ったわけでもなく大した隙を見せていなかった暁は、危なげなく上に脱出。

結果、

魔理沙 「うわっ」

霊夢「きゃっ」


味方同士で被弾することになった。

幸いお互いに強力なスペルではなかったために、これで終わる事はないが、ダメージを受けたことには変わり無い。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.78 )
日時: 2014/04/02 08:47
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

霊夢「ちょっと離れるわよ、魔理沙! これじゃ足ひっぱり合うだけよ」

魔理沙「わかったぜ!」

二人は距離を離した。

暁は霊夢に向かって走りだす。

暁「奥義『鬼皮削』」

霊夢 「夢符『二重結界』」

霊夢は前回と同じように受けた。



——ピシッ

一枚目に罅が入り、


それだけだ。

背中を見せている暁に隙を見た魔理沙が必殺を使う。

魔理沙 「隙ありだぜ!」

霊夢 「まっ——」

待って魔理沙。

その言葉を言い切る前にスペルカードは発動されてしまった。




——恋符「マスタースパーク」



魔理沙 「罅が入った状態であれを受けられるのか見物だな」

縮地によって二重結界を張って動けない霊夢の後ろにまわった暁。

暁 「降華蹴」

結界ごと霊夢をマスタースパークに向かって蹴り飛ばした。

霊夢 「クッ! 夢境『二重大結界』」

霊夢を直撃するマスタースパークを、もう一度新たな結界を張り直すことでなんとか受け切る。

霊夢 「ちょっと魔理沙!」

魔理沙 「さっき言われたとおりにしただけだぜ」

破壊された結界がマスタースパークの火力を物語っている。

『弾幕はパワー』と言うだけのことはあった。

だが、それが味方に向かってしまえば逆効果だ。

霊夢 「! 魔理沙しゃがんで!」

魔理沙 「うお!」

魔理沙の後ろにまわった暁が首をおとさんと刀を振るい、しゃがんだ魔理沙は間一髪それを避けた。

魔理沙 「危ないぜ!」

しゃがんだ態勢から後ろに向かってタックルを食らわせる。

それは見事に暁に当たり魔理沙と暁は同時に地面に倒れこむ。

霊夢 「魔理沙避けなさいよ? 夢符『夢想妙珠』」

五つの玉が二人が倒れている場所に向かい殺到する。

ある程度引き付けてから魔理沙は箒に掴まり空中に脱出した。

暁 「うむ、さすが魔理沙だ」

だが、箒の後ろを掴んでいた暁も一緒に脱出させてしまう。

その後ない足場に立ち、

暁 「礼だ。受け取れ」

箒ごと魔理沙を投げ飛ばした。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.79 )
日時: 2014/04/02 08:50
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

魔理沙「くそ、なんなんだあいつ」

地面寸前で制御を取り戻し、衝突を免れた魔理沙。

だが、この間鬼ごっこしたときのようにはいかないなにかに苛立ちを顕にする。

この間は一対一でも圧倒できた。

今は二対一なのに圧倒できない。

れ 「魔理沙! 一人ずつでやるわよ」

暁 「む、始めた途中でルールを変えるのか? それでもかまわんが、一つ質問だ」

霊夢 「なによ」

暁 「二人がかりで倒せなかった妖怪。これをどう思うか?」

霊夢 「それは強いとしか……」

暁 「そうだな。俺を知っている奴ならばあるいは当然だと思うかもしれん。だが、幻想卿全体で見るとどうだ?」

魔理沙 「どういう事だぜ」

暁 「天狗はおそらく殊更にこう書くだろうな『二人で襲って適わなかった』と。仮に今一人ずつ戦うことにするとしたら、な。この相手がレミリアならレミリアが強いで済むだろうな。だが、相手は俺だ。幻想郷全体としてはほとんど知られていない無名の妖怪。そんな妖怪に霊夢と魔理沙は二人で襲って負けたとすれば、こうは思わないだろうか? 『もしかして霊夢達弱くなった?』とな」

(利用されるのは面白くないですが……)

そういう記事を書くのも面白そうだと思う文。

霊夢 「ずいぶん卑怯なのね」

霊夢が思わず毒気づく。

これでうまくいかない二対一を続けるほかなくなった。

暁 「悪役は悪役らしくいくとしよう」

暁は気にせず永琳の方をちらりと見る。

永琳はその意図を受け取りコクリと頷いた。

(さて、ここまではなんとかうまくいったな)

何故霊夢と魔理沙の二人を相手したか。

これは単純、単に片方を倒したとしてもその時の消費でもう片方に負けることがほぼ確定であるからだ。

二人同時に相手にするほうがまだ勝算があった。

何故霊夢と魔理沙の二人を相手にして圧倒的に押しているのか。

これも見掛け上押しているように余裕を見せているだけである。

なんとか、と言っているのでわかるだろう。

後の後という戦い方がある。

相手に対してわざと隙を見せ自分の任意の場所に攻撃させ、それに対応する、という戦い方だ。

つまり、自爆させているだけなのだ。

隙にも満たない隙を隙っぽく見せて避ける。

先のマスタースパークの時もあらかじめスペルを弱めて打ち込み、本来ならば隙になる時間を隙にも満たない隙に変えてしまったのだ。

これまでやってきたのはそれだけ。

だが、おそらくここからは

霊夢「やめましょ魔理沙。連携なんてとろうと思うからダメなのよ」

魔理沙 「じゃあどうするんだ?」

霊夢 「三つ巴だと思えば良いわ。単純に敵だと思って二人注意してればいい。流れ弾が当たっても文句なしよ」



こうなるだろう。

ここからが本当の山場。

行うことに関して二人には全力を出してもらわなければ困る。

そこで、もう一つ嘘を吐くことにする。

暁 「本気で来られるように一つ教えておこうか」

霊夢 「なによ、まだ何かあるの?」

暁 「変だとは思わないか?」

霊夢 「何がだ?」

暁 「先程撃った夢想妙珠は草木の一本も殺さないようなものか? 魔理沙が撃ったマスタースパークにしてもそうだ。竹の一本や二本どころじゃ済まない威力だが」

「……」

その通りだ。

暁が放った鬼皮削はちゃんと跡がついているが、他はまったく跡がない。

暁 「これは三宝絵に納められている術式でな、人間が放った霊力を吸い取る役割をしている。因みに全部吸い取られれば、能力は霊力が元となっているものだからな」



——能力を失う

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.80 )
日時: 2014/04/02 08:52
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「まぁ俺を依り代にして発動している故、俺を倒せばこの術式は解除される。能力を失うこともない。中途半端なことをせず本気でくるといい」

霊夢 「あんた本当に卑怯ね。こんな異変初めてよ」

暁 「さあな、全力で来てくれるなら俺はかまわん」

飄々と暁は話す。

霊夢 「あんた結局何が目的なのよ」

暁 「自らの能力の一部を封印する」

霊夢 「は?」

異常だ。

自らの能力を一部といえども封印するという。

暁 「平家物語の冒頭は封印の術式だ。あれは人間の霊力でなければ起動しない。故に三宝絵の術式を起動させ、それのために異変を起こし霊夢と魔理沙をここへ誘きだした」

能力とは後付けされたものではない。

自分自身と言ってもいい。

霊夢 「私たちにそれの起動をお願いすれば」

暁 「無理だな。言ったろう、能力が使えなくなると。それ位の霊力が必要だ。どの道、人の身で平家物語を起動させれば能力は消える」

つまり、自分の一部を消すと言っているのだ。

自らの腕を自らの手で引きちぎるような行為。

それを自ら進んでやろうと言う。

はっきり言って、

魔理沙 「狂気の沙汰だぜ」

暁 「そうだな。ここへくる前ならば考えもしなかった」

暁は刀を鞘に納め言った。

暁 「さて、与太話は終わりだ。全力でくるといい」

霊夢 「やるわよ、魔理沙」

魔理沙 「ありゃ大丈夫なのか?」

霊夢 「ああいうのは叩いて直すのよ」

こういう風にね、と斜めにチョップする。

おばあちゃんの知恵以下の知識を披露した霊夢。

魔理沙 「元々正常じゃないものは直らないんじゃないか?」

もっともな事を言う魔理沙。

この言いたい放題な状況にも暁は対して反応を示さない。

頭に来ないわけではない。

むかっとする気持ちが全くないわけでもない。

だが、今の行動のすべては家族のため。

個を消し、それに必要な要素をかき集め、目的を成す。

今の暁はそれに集約していた。

そうして、無言で振り下ろした刃によって第二ラウンドは開始された。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.81 )
日時: 2014/04/02 08:58
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十一章−看過できぬことは、力にて押し通せ。‐

暁が放った飛ぶ斬撃を避け、両サイドに回り込む。

魔理沙 「食らえ」

そして、魔理沙からナロースパークが放たれ、暁と霊夢はそれを避けた。

(本気で三つ巴らしいな)

試しに霊夢を盾にするように動いたが、容赦なく撃ってきていた。

下手に連携をとろうともしないため対応が難しい。

特に魔理沙が自由にぶっぱなせるようになったことだ。

これまでは霊夢を盾にしていたが、これからは自分で止めなければ。

鬼ごっこの時見たスペルで少なくともあと二つは同等か、またはそれ以上の威力のものが飛んでくることになる。

対して、暁の防御技は一つ、鬼神哀愁歌のみだ。

後は攻撃で合い討つか、避けるしかない。

決まりだ。

魔理沙から潰す。



——星符「ミルキーウェイ」



魔理沙に向かった暁の前進を拒む様に展開されるスペル。

だが、居合いによる抜刀によって自らの道を切り開く。

その先には待ち構えた格好の魔理沙。

魔理沙 「待ってたぜ、恋符『ノンディレクショナルレーザー』」

一直線に向かってくるレーザーを毎度お馴染み刀に戻ることでやり過ごそうとした。

霊夢 「隙あり、ね」



——宝具「陰陽鬼神玉」



魔理沙に集中したことにより霊夢の接近には気付けなかった。

間一髪刀から脱出、人間体だけを離脱させ、ボロボロになった鬼切丸を修復する。

霊夢と魔理沙はその間を傍観していることなどありえない。

霊夢 「祈願『厄払い祈願』」

魔理沙 「邪恋『実りやすいマスタースパーク』」

周りを取り囲む札に暁を撃ち抜くマスタースパーク。




——居合「鬼切斬」



お札を切り裂き、包囲を脱出。

二人に向けて、

暁 「憑符『鬼神千手観音』」

無数の巨大な手が武器を振り下ろす。

霊夢にスペルによる反動はないが、魔理沙は反動で動けない。

そう判断した霊夢は、咄嗟に近くにいた魔理沙を蹴り飛ばし、有効範囲から脱出させ、

霊夢 「境界『二重弾幕結界』」

自らも結界を張ることでガードしようとした。

暁 「俺を、なめるな!」

暁はお構いなく結界ごと叩き潰す。


霊夢 「いたた、流石に効くわね……」


結界によって被害は最小限にできたが、それでも十分にダメージが入ってしまった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.82 )
日時: 2014/04/02 09:03
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

魔理沙「何で自分が避けないんだよ!」

助けられた形になった魔理沙が叫ぶ。

霊夢 「気付いてないの? あいつ魔理沙が苦手みたいよ」

魔理沙 「え?」

思わず声を洩らし、暁の方を向いた。

だが、そこに暁の姿はなく。

霊夢の両手が思い切り魔理沙の胸を押し、その反動で自らも反対側に倒れこむ。

傾いていく視界で魔理沙は暁ではなく、鬼切丸を捉えた。




——殺符「鬼神殺劇抜刀斬」




巨大化した刀が、一瞬前までそこにいた場所に突き刺さり、刀身の赤が視界を埋める。

暁「チッ!」

舌打ちしながらも、地面に突き刺さった刀を強引に引き抜き、巨大なまま横に薙払う。

周りに生えた竹を何本も切り飛ばすが、上空に逃げた二人を捉えることはない。

暁は無い足場を駆け上がり、魔理沙に向かう。

それに霊夢が割り込み、刀を幣で受けとめた。

暁「降華蹴!」

霊夢 「昇天脚!」

蹴で打ち合い、

霊夢 「神技『天覇風神脚』」

バク転するような霊夢の蹴が暁にヒットした。

暁は衝撃に逆らわず、体を後ろに流しながら着地、再び縮地で霊夢との距離をつめる。

霊夢は封魔針を投げながら一瞬魔理沙と目を合わせた。

それは長年一緒にいた時間がそうさせたのか、魔理沙は霊夢の言いたいことをを理解した。

曰く、『何も考えず、火力でぶち抜け』。

下手に連携を用いない最適化された指示。

暁 「何か考え付いたか?」

霊夢 「今日はずいぶん饒舌ね」

暁 「自ら望んで勝ちたいと思うのは久しぶりでな」

互いの武器を合わせながら会話する二人。

暁の目はずっと欲しかったものが目の前にある子供のように輝いている。

霊夢 「そう、でも簡単にはいかないわ、よっ!」

言葉尻にあわせ、妖怪バスターを放つ。

暁は一歩引き半身になることで避け、その引いた足を霊夢に向かい踏み出す。

暁 「ふっ」

短い息が暁の口から洩れ、霊夢に三本の斬撃が迫る。

霊夢は地面に札を置き簡易結界によってそれを防いだ。

そして、シンクロするように互いに袈裟切りをうち、結果弾き合う。

そこから先に切り返したのは霊夢だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.83 )
日時: 2014/04/02 09:10
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

亜空穴、無時間移動だ。

暁は、こんな近くで発動されるとは思ってもいなかった。

完全なる不意打ちになる。

後ろから蹴り飛ばされ、

霊夢 「今よ、魔理沙!」



——恋心「ダブルスパーク」



辛うじて暁は態勢を立て直し、刀を体の前にさしだし耐える態勢をとる。

スペルを発動する時間さえない。

こうして直撃を受け、暁は地面に叩きつけられ、バウンドした。








要因の一つは暁のテンションだ。

残機の概念は精神値。

故に増えることもあれば減ることもある。

今のダブルスパークは完全に暁の残機を奪い取ったはずだった。

いや、事実奪い取った。



だが、暁は叫んだ。




「EXTEND!!」





地面に触れた瞬間に踏みだす。

勝負所だ、と見た暁は懐から小瓶を取出し、借り物のスペルを発動するために宣言した。



——生薬『国士無双の薬』



一口で飲み干すと、ぐんとスピードが上がり、霊夢に切り掛かる。

先ほどまでの拮抗が嘘のように押し込まれていき、

「沈んでいろ! 喪符『鬼神哀愁歌』」

そうして地面に叩きつけられた霊夢。

魔理沙はこの様子を黙ってみていたわけではなかった。

そして、準備されたのは自らが持つ最高火力。

魔理沙 「これで終わりだぜ! 魔砲『ファイナルマスタースパーク』!」

迫りくる破壊の光。


それに向かいながら、暁は刀を収めた。

それは決して諦めなどではなく。

すべては次の一撃のために!



——神鬼「羅生門」



放たれた赤は魔理沙が撃ったファイナルマスタースパークを真っ二つに切り分けた。

あまりの衝撃に動きが止まる。

それが致命的だった。

暁 「退場だ」



——「黄泉比良坂」



右手に新月が如く全てを覆い隠すような黒を左手には満月が如く全てを狂わすような白を携え、二つは同時に放たれた。

魔理沙を中心に白と黒が交じり合い、弾けて消えた頃には、魔理沙は残機を失っていた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.84 )
日時: 2014/04/02 09:16
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

気を失った魔理沙の襟首を掴むと永琳に向かって放り投げ、永琳はそれを衝撃を与えないように柔らかくキャッチした。

後は霊夢だけだ。

だが、代償も大きい。

本来国士無双の薬は鈴仙の為に作られており、暁の為には作られていない。

故に鈴仙が使ったときには本来ない副作用がある。

少なくともこの戦闘中の回復は不可能になった。

加えて、ファイナルマスタースパークを切り裂きはしたが、余波によってダメージは免れなかった。

着ている物は元より刀も切れ味は落ちないまでも、ダメージを受けている。

そんな中あともう一人、霊夢を倒さなければならない。

暁 「さて、後は一人だ」

しかし、表情にそんなことは出さない。

霊夢 「魔理沙を退けてくれるなんて、意外と紳士的なのね。見直したわ」

ゆっくりと霊夢が立ち上がる。

霊夢 「魔理沙はやられちゃったけど、暁を倒せば能力が無くなることはないわよね」

暁 「ああ、その通りだ。俺が負ければ術式は壊れ、霊力は持ち主の元に帰る」

霊夢 「それ聞いて安心したわ」

同時に踏み出す足。

先にスペルを使ったのは霊夢。

霊夢 「大結界『博麗弾幕結界』」

結界と結界の間に閉じ込められる暁。

外側の一枚に触れ、スペルを発動させる。

暁 「写本『三宝絵』」


触れていた手に吸い込まれるようにして結界が消え、暁は脱出を成功させた。

牽制として今吸った霊力塊を投げ付ける。

霊夢はふわりと舞いそれを避けた。



残機はほぼ同じで残り少ない。

同様にスペルカードの枚数もゼロに近づき始めている。

だが、互いに技のキレは衰えを見せず、むしろ鋭さを増していく。

暁はこの感覚を不思議に思っていた。

魔理沙には純粋に強いという思いを抱く。

だからこそ、打倒できるチャンスにきっちり決めた。

対して霊夢は底が見えないのだ。

どこまでも強くなっていきそうな感覚。

魔理沙のようなスピードも、パワーもない。

なのになぜか自分が押されている。

こんな感覚は感じたことが無かった。

故に、

暁 「それでこそ解決者だ」

そう思った。




——神技「八方鬼縛陣」



———咆符『鬼神破咆哮』

二度と同じ技では負けない。

防御されたのを見た霊夢は、バックステップで距離をとろうとする。

それを逃がすまいと暁は追った。

否、追ってしまった。

永琳 「暁!」

それが見えていた永琳が叫んだ声は、爆発音で暁には届かなかった。

常置陣、地雷である。

片足が吹き飛び、そこに七つの陰陽玉を携えた霊夢が襲い掛かる。

一発目は蹴り上げられた。

霊夢が携えた陰陽玉の一つ目に光が灯る。

二発目はぬさによる打撃。

霊夢が携えた陰陽玉の二つ目に光が灯った。

三発目にして暁は飛び蹴をくらいながらもスペルを発動させた。

暁「喪符『幻影将門』」

五人の分身が出るが、霊夢は本体を逃がさず、四発目を加える。

打ち下ろしをくらった暁は地面に叩きつけられ、そこから跳ね上がるようにしてなんとか体勢をとる。

お構いなしに霊夢は両手を腰の辺りから突き出し、五発目。

ここで、ようやく暁の防御が間に合う。

自分が飛ばした暁に追撃をかけるように追いすがり、刀の上から殴り付けるような六発目。

その勢いのまま回し蹴りを放ちついに七発目を打ち込んだ。

霊夢が携えた陰陽玉全てに光が灯り、周囲で高速回転を始める。

だが、暁は反撃のチャンスを得た。

すでに砲台は出してある。

後は放つだけ。

霊夢のスペルと暁のスペルは同時に発動した。




——「夢想天生」

——「輪廻炎獄」




暁が放ったスペルが、霊夢に向かい、リボンの端を切り裂いた。

しかし、そこまで。

それは先ほど失った一本の足の踏み込みがあれば勝てただろうか。

現実は足は存在せず、踏み込みは足りない。

暁は霊夢が放つ札の群れに飲み込まれた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.85 )
日時: 2014/04/02 09:23
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

見ていた者の視界を覆い尽くした霊夢が放つ光。

その光が消えると同時、 


——パリン


あっさりとした音と共に術式は崩れ去った。

同様に暁が作っていた透明な壁も消えてなくなった。

咲夜がそれを見て走りだす。

暁 「む、今触ると汚れるぞ?」

咲夜 「知らないわよ! そんな格好になってまで変なこと言わないで!」

そう叫んで咲夜は、倒れている血まみれの暁を抱き上げた。

咲夜 「永琳!」

暁 「すまん、永琳。負けてしまった」

咲夜が呼ぶまでもなく、すぐ後ろまで来ていた永琳に顔だけ向け、謝った。

永琳 「あら、負けちゃったのね」

なんでもないようにアリスを背負った妹紅を連れて現れた輝夜が言う。

暁 「ああ、完敗だ」

これからどうしようか、と暁は思案する。

咲夜 「そんなことより治療でしょ!」

なんとなくのほほんとした雰囲気に咲夜が怒るが、

暁 「いらないぞ? とりあえず霊夢達が先だろう。一晩眠ればこの程度治る……よな?」

国士無双の薬の副作用がいつまで続くかわからない暁は、永琳に尋ねた。

永琳 「ええ、そうね。でもそれはウドンゲの為に作った薬だから、貴方が使ってこれからずっと先に何かしらの害があるかもしれないわ。それがわかるまでは紅魔館にいなさい」

暁 「……ありがとう」
永琳が今言ったことはつまり、自宅療養なのだろう。

輝夜 「永琳は恥ずかしがってああ言ったけど、ずっとわからないことになるからずっといなさいってことよ」

と輝夜がこっそり耳打ちした。

暁 「良いのか? 俺は」

輝夜 「良いもなにもないわ。永琳がいなさいって言ってるのよ。それに私はそんな簡単に殺されるほど弱くないわよ」

と、腕を曲げ力瘤を作るような仕草をする。

まったくできていないが。

霊夢 「あーちょっと良いかしら?」

暁 「なんだ?」

霊夢 「物は相談なんだけど、宴会の準備手伝ってもらえない? 昨日から始める予定だったんだけど、まだ何もやってないわ」

魔理沙も明日まで起きなさそうだし、と霊夢。

輝夜 「それならうちでやりましょ。襖開ければできるわよね、永琳」

永琳 「ええ、広さは十分ですよ」

じゃあ決まりね! と、一人元気よく言った。






暁 「戻らないのか?」

紫に外界へ買い物を輝夜が頼み、その後咲夜と暁を残しみんな永遠亭に戻っていった。

因みに観戦していた者も含めこの場にいた者は全員永遠亭に泊まっていくことになっている。

咲夜 「心配したんだから」

ぽつりと咲夜が言った。

ずいぶんと心配をかけてしまったようだ。

暁 「すまなかったな」

そう言って咲夜の頭を撫でようとしたが、手が上がらないことに気付いてあきらめた。

咲夜 「いいえ、違う。本当は異変起こすって言ったときに止めるべきだった。でも、お嬢様のためだったから…暁を止められなかった……」

一呼吸置いてもう一つ言った。

咲夜 「ねえ、暁」

暁 「あー、すまん。問いに答える時間が無いようだ」

ついに人間体を保てなくなった暁は燐光を放ちながら刀に戻った。

咲夜 「お嬢様の立場が私でも同じようにしてくれたかな?」

それでも咲夜はそのまま言葉を続けた。

その問いを最後まで暁は聞かなかったが、赤い刀は光が無い中薄い光を放ち、当たり前だ、と答えたようだった。

咲夜は丁寧に鞘にしまい、今日は久しぶりに刀の手入れをしてあげようと思った。

一人のメイドは大事そうに両腕で刀を抱えながら、暁の血が大量についている事も気にせず、紅魔館に向かって歩き出した。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.86 )
日時: 2014/04/02 09:27
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十二章‐宴会、ここに開催された。 ‐

早朝、暁の意識は回復した。

倒れたときには呪を解放していたので、表面上はほぼ全快である。

鞘に入った刀を抱き抱えながら眠っている咲夜を起こさないように、そっと刀から出る。

周りには刀を手入れするための道具が散らばっている。

どうやらあの後血を拭い、手入れをして終わったところで寝てしまったようだ。

暁は心の中でお礼を言うと、そっと毛布をかけてやり、居間に向かった。








永琳の診察室には入らないからだろうか、普段から他の部屋よりも念入りに清潔にされているこの部屋を治療のために使ったようだ。

昨日弾幕ごっこをした者はみんな永遠亭で眠っている。

さて、みんなの朝ご飯の準備だ。

紫 「早いのね。一番遅いと思ったのだけど」

そんな時傍らに切れ目が入り、そこから一人の女性が顔を出した。

暁 「む、確か御淑女は八雲紫でよろしかったか?」

紫 「ええ、気軽にゆかりん♪って呼んで良いわ」

暁 「ではゆかりん♪」

冗談をわざと真に受け、ボケ殺しする暁。

紫 「なかなかやるわね」

暁 「なにがだ、ゆかりん♪?」

暁が♪を付けるのも中々シュールである。

暁 「それはそうと少々頼みごとがしたい」

紫 「何かしら?」

暁 「外界のビールという酒が欲しい。幻想卿には無いようなのでな」

紫 「あら、何か報酬はあるのかしら?」

暁 「む、これといったものはないが、旨い飯は約束しよう」

紫 「十分よ。じゃあ行ってくるわ」

そういうと、紫はスキマの中に戻っていった。

暁は宴会で出す料理を考えながら、朝ご飯の為に台所へ向かった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.87 )
日時: 2014/04/02 09:31
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

時刻は昼をまわった辺りだが、永遠亭は宴会の準備で大忙しだ。

兎達があっちへ走り、こっちへ走りたまに誰かが尻尾か何か踏んでしまったのか、世にも珍しい兎の悲鳴と謝る声が聞こえたり。

暁は茹でたキャベツを切ったり、ニンニクや生姜をすりおろしたり、宴会に出す料理のために忙殺されていた。

作る料理はビールに合うもの。

因みにビールは先ほど紫が藍と橙をつれて、大量に持ってきている。

冷やしておいたほうが良いと言うと、てゐがビールをしまった納屋に妖精を放り込んでいた。

てゐが言うにはチルノと言う妖精らしい。

チルドと似ていたことから、幻想卿ではそういう風に妖精を使うのかと暁は間違った認識を持ってしまった。

あまりそういうことは気にせず、作業を進めていく。

皮で包む段階はあまりの量であり、さすがに一人では無理なので、てゐや咲夜に手伝ってもらおうと声をかけた。

てゐ 「これなに?」

てゐが不思議なものを見るように尋ねた。

どうやら餃子を知らないようだ。

確かに暁自身餃子を知ったのはここ最近(とはいっても、五十年ぐらいだが)であり、知らなくても不思議はない。

暁 「餃子といってな。皮で具を包んで焼くんだ。揚げたり、スープに入れたりすることもあるが、今日は焼く。これをこうやって——」

と、実演しながら説明しあっという間に一つが出来上がる。

暁 「これを手伝ってほしいんだが」

そう言う前に見たことが無い物に興味が湧いたのか、咲夜とてゐは見よう見まねで始めていた。

なかなか上手くいかないが、それでも楽しそうだ。

永琳 「あら? 楽しそうね」

永琳を連れた輝夜が参戦し、

「うさうさ〜」

それにつられた兎達もやってきてしまい、宴会準備は一時中断、家族のように机を囲みみんなで餃子を包む作業となった。



暁 「てゐ」

暁の発したいつもより低い声にびくりと飛び上がったてゐ。

暁 「今入れようとしているのはなんだ?」

てゐ 「と、唐辛子です」

暁 「食物で遊ぶことはお天道様が許しても、俺が許さん」

てゐ 「はい、ごめんなさい……」

いつもはイタズラ仲間な暁に怒られてさすがに堪えたようだ。

咲夜 「暁、もう具が無いわよ」

皮を手に持ち咲夜が言った。

餃子の皮は大量に余っている。

暁 「ああ、他にも包むものがある」

そう言って暁が持ってきたのは、チーズにキムチだ。

また違う包み方を教え、みんなわいわい作業を再開した。

そんな永遠亭には笑顔が絶えない。

最近ではだんだんと兎達が言っていることもなんとなくではあるが、ある程度理解できるようになってきた。

改めて、俺はここは良い所だと実感した暁は頬が弛むのを押さえられなかった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.88 )
日時: 2014/04/02 09:37
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

そして、日も落ちきりレミリアが起き上がってきた頃。

宴会の開始だ。

襖を開け放ち、いくつもの部屋をつなげた大広間は様々な妖怪で大繁盛。

すでに輝夜による乾杯の音頭も済み、兎達は給仕に大忙しであちこち駆け回りお酌している。

ちゃんと教えた通り七対三を守っているようだ。

周りからあがるうまー! という声に暁も大満足である。




妹紅 「ゆうぎりぃ〜、かぐにゃがいじめりゅ〜」

半泣きになりながら絡んできたのは妹紅だった。

どうやらゆっくり飲めば大丈夫だが、一気に飲むと酔うのも物凄く早いらしい。

暁 「はいはい、大変だったな」

ぽんぽんと頭を軽く叩いてやると、喉をならし寄り掛かって寝てしまった。

慧音 「お前も大変だな。いや、役得か?」

暁 「うむ、役得と思っておくのが吉だろう」

声をかけてきた慧音に軽く答えながら、あぐらをかいている片方の膝を枕にする妹紅の髪を撫でる。

紫 「それは私でも役得と思ってもらえるのかしら?」

後ろから紫が声を出した。

スキマから出てきたのだろうか?

暁 「おお、ゆかりん♪か。どうだろう、報酬として適うぐらいには旨いか?」

紫 「それはまだ引きずるのね……。ええ、十分よ」

初対面を若干後悔した紫が答えた。

大広間の真ん中は大きな中庭になっていて、そこでは音楽が演奏されている。

曲はシンデレラゲージと言うらしく、てゐがその前で踊っていておひねりをもらっていた。

曲が終わったとき、てゐは中庭から戻り、輝夜の近くに座った。

次の志願者はいないようだ。

そう思ったとき、

輝夜「暁、一緒に舞でもどうかしら?」

満月をバックにかぐや姫は明らかに舞に誘うような笑みではなく、獰猛な笑みで暁を誘った。

つまりその意味は、

輝夜 「永琳、思い切りやっても?」

永琳 「問題ないわ。一切中には弾幕は入ってこないし」

暁 「では、ぜひ、とでも答えておくか」

そういうと、暁は眠っている妹紅を慧音に預けた。

慧音 「大丈夫なのか?」

との慧音の問いには、

暁 「永琳が止めなかったんだ、一戦程度なら問題あるまい。危なくなれば奥の手もあることだしな」

と答えておいた。

鈴仙 「えっ…え、師匠! いいんですか!」

永琳 「いいわよ。これは宴会よ? その辺りは姫様も暁もわきまえてるでしょ」

慌てる鈴仙を永琳がやんわりと止めた。

てゐ 「はいはーい、賭け符一口五百円からだよ〜」

早速商魂を出したてゐが賭けの胴元を開始、てゐが手に持っているザルには瞬く間にお金が集まっていく。

どうやら輝夜の勝ちに買いが集まっているようで、倍率が酷い。

ほぼ無名の暁と幻想郷最大勢力の中の一つの長、輝夜では知名度が違いすぎる。

そんな中大きい声ではなかったが、凛とした声が響いた。

レミリア 「てゐ」

てゐ「はい、あなたも買いますか?」

レミリア 「ええ、暁の五百口ね」

辺りが騒ついた。

知らない妖怪に紅魔館の主が大穴賭け。

様々な情報が行き交う。

異変を起こしたらしいという眉唾物だと思われているものから、料理を作ったらしいという関係ない情報まで。

鈴仙 「あってゐ、私も買う」

騒ぎの中可愛げなお財布から鈴仙がお金を入れた。

暁 「む、輝夜が賭けたか。これは負けられぬか?」

そんな時一際大きな声が響く。

レミリア 「咲夜、暁に千口よ」

再び騒つく。

輝夜の自信とレミリアの自信。

やるのは暁であるが、焦点はそこに移っていた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.89 )
日時: 2014/04/02 09:41
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

結局買いが先に走っていた輝夜の方が断然多く、暁が勝てば暁に賭けたものは七から八倍の配当だ。

妖怪たちはよりいい席で見ようと我先に前に進む。

もちろんビールとつまみは忘れない。

輝夜の賭け札の者は北に、逆は南に移動している。

故に北はぎゅうぎゅう、南は比較的ゆったりだ。

暁の応援には咲夜やパチュリー、紫、霊夢、レミリアなどが陣取り、輝夜の応援には永遠亭の者たちや兎、そして魔理沙がいた。

霊夢「暁、あんたのお賽銭入れてるんだから勝ちなさいよ!」

と霊夢が野次を飛ばす。

その声にむっとした顔を見せる輝夜。

輝夜 「そういえば、あなた私に霊夢の能力がなくなる可能性は話してないわよね」

暁 「ああ、知っていたらあの時点で止めていただろう?」

輝夜 「当然ね。私はまだ霊夢に借りを返しきっていないのだから」

暁 「後に永琳の治療によって戻せるもの、でもあったわけだが」

輝夜 「じゃあ」

暁 「頼んだらやってくれたかもしれぬ。だが、それが同情なのか別のことなのか俺にはわからんが、禍根を残すには間違いない。俺は対外上輝夜の下にある者で、姫は何もしなくても貢がれるものであり、施しを受けるものではない。だからこその異変と弾幕」

曰くスペルカードルールは後に禍根を残さぬ。

そんなことを話していれば周りから野次が飛ぶ。

暁 「む、これ以上話していては興が覚めるか」

輝夜 「ええ、今回は私の運動に付き合ってもらうわ」

正面に見える位置には魔理沙がいて野次を飛ばしている。

本の恨みだのなんだの。

暁 「務める自信はない。俺が勝つからな」

騒ついていた場内がピタリと静まり返る。

冷水を浴びせられたような、そんな輝夜から発された威圧の所為だ。

だが、暁はひどく凪いでいた。

呟くように鬼切丸と言った暁の声が静かに響く。

緊張に耐えられなかったのか何者かの皿が落ちる。

その音が合図になった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.90 )
日時: 2014/04/02 09:57
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

——難題「龍の頸の玉 -五色の弾丸-」



誤植に光る玉が暁に向かう。

ぶっぱされた攻撃など当たるはずもなく、軽々と避ける。

それは最前列で見ているレミリアの五十センチ手前何もない空間で止まり、静電気のようなバチという音と共に消えた。

どうやら宣戦布告のつもりらしい。

永琳から問題ないと聞いていた暁は全く気にせず距離を詰める。

「技巧『久遠の檻』」

一人の暁が作った九本の斬撃から成る檻がレミリアを襲う。

輝夜 「昨日の勢いはどうしたのかしら? それとも舐めてるの?」

暁 「舐めているのはどちらだ?」



——「黄泉比良坂」



放たれた白と黒に輝夜は嬉しそうに言った。

暁 「そう、これよ! それでこそ叩きつぶす意味があるわ!」


———神宝「蓬莱の玉の枝-夢色の郷-」



紅と白と黒が交じり合い、拮抗し、消えた。

先手を取ったのは輝夜。

神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」

光る玉が暁に向かう。

暁はタイミングを合わせ、
美鈴 「そこです!」

後ろ回し蹴りを入れようとした。

タイミングは体術に関して監修した美鈴が、思わず声を出した。

だが、輝夜の攻撃力はそれを上回った。

逆に弾き飛ばされ、辛うじて足場で体勢を立て直す。

尚も輝夜は止まらない。

——『 永夜返し -待宵-」

ドラゴンバレッタとは比べものにならぬ網状の弾幕。

小さな体が引き絞るように捻られ、強烈な勢いで迫る。

「憑符『童子切』」

刃が合い、互いに弾き合う。

押し切られないように踏ん張った足が、悲鳴を上げ始める。

だが、何とか流し切りその場をしのいだ。

レミリア 「確か、血を吸われたら霊力が半減するんだったかしら?」

レミリアが声を漏らす。

———永夜返し -子の四つ-



先ほどの弾幕とは違う猛攻撃。

暁 「うむ、数打ちゃ当たる、か」

暁は鞘にしまい居合いの構えを取ると、いつもより三拍長く溜めをつくり、解き放った。



——居合「鬼神斬」



目には目を、数には数を。

世界を染める黒を光を超えた赤が切り裂き、月が顔を覗かせる。

しかし、ただ一つ、鬼神斬には弱点があった。

有効射程だ。

届くのは一メートルから先。

つまり、

輝夜 「ここは安置よね」

ゼロ距離は安置。

武器の性格上、そうならざるをえないのだ。

本来ならば、近付ける隙間は無い。

だが、小さなコウモリが通る隙間ぐらいならある。

鬼神斬を撃つために場を踏みしめていた足は蹴を放てない。


———「永夜返し 明けのm———」

明けの明星を放とうとした輝夜が止まった

結界内に入っていた虫が輝夜の袖に付いたのだ。



——人鬼「羅生門—裏—」



そんな大きな隙を、暁が見逃すはずもない。

鬼切丸の峰が輝夜の頭にぶち当たった。

しゃがみ込んだ体勢で頭を抱え、あまりの痛さに唸っている。

暁 「油断大敵だな、輝夜」

そうして暁は勝ち名乗りを上げた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.91 )
日時: 2014/04/02 10:02
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

輝夜側の応援席では大ブーイングが起きていて、暴動に発展するような勢いであるが、暁は気にせずむしろ左手を振ってブーイングに応えている。

レミリアは腹を抱えて大爆笑。

永琳は入っていることを見抜いていた様子で、鈴仙は呆れ果て心配したことを後悔しているようだ。

てゐと霊夢はたんまりと儲かったので、一人でお金を数えてほくそ笑んでいる。

咲夜は視線だけで笑ているようにも思えた。

輝夜 「えー。あんなのなしよ! 嫌いなのに!」

暁 「あれはあくまでもアクシデントだ。たまたま入り込んだ。それに気付かないまま弾幕ごっこを始め、それがたまたまあのタイミングで。すべては単なる偶然。アクシデント程度で無効になる弾幕ごっこではあるまい」

屁理屈である。

だが、終わった後では何も言えない。

舞台に上がった時点で気付けなかった輝夜の負けだった。

輝夜 「それじゃあもう一回よ!」

暁 「すまぬが勘弁してくれ」

咲夜達には見えないように捲った右手はどす黒く気味悪い色に染まっている。

暁 「まだ薬が抜け切っていないらしい。治りが悪くてな。正直鬼神斬を撃ったところで今日の本気は打ち止めだった」

本来、この程度の障害は即時回復できるのだが、今はそれが働いていない。

本調子ならば、もう少しやりたかったんだがな、と暁は言った。

そんな夕霧にレミリアは少し考えてから、

レミリア 「血の盟約の約束使えるわよね?」

と聞いた。

暁「ああ、いつでも使ってくれ。」

レミリア 「そうじゃないわ。治ったらでいいから居候から何日間かうちの執事やりなさい」

それを聞いた咲夜は自分の主に取り消しを求めるサインを全力で送っていたが、全て無視された。

すると今度は暁に断れ〜断れ〜と念を送りはじめる。

もちろん暁も無視して、

暁 「了解した。履行しよう」

と答えたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.92 )
日時: 2014/04/02 10:08
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

宴会も順調に進み(とはいえ好き勝手に飲み食いしているだけだが)、レミリアがもう何回目になるのか弾幕ごっこを始めている。

てゐはその度に賭け符を売り、途中から文が実況を始め、永琳が解説に入る。

相変わらずレミリアは自分に賭けさせているようだ。

騒霊たちがBGMを流す。

今の曲は

「亡き王女の為のセプテット」というらしい。

なるほど、レミリアにはぴったりな曲調である。

暁「すまんな」

慧音 「いや、この程度ならお安い御用さ」

暁はどす黒く染まった右手を慧音に隠してもらっていた。

慧音 「それより、私では隠せても治せはしないぞ」

暁 「永琳も治らないような状態になるなら止めてただろう。完全に戻れば治るから問題ない。妙なことで心配かけたくないのでな」

懐手して答えた暁。

妹紅 「んあ〜? なにしてりゅのら〜?」

酔いどれもとい、妹紅が目を覚ましたのか声を上げるが、今だに完全に酔っている。

ふぅ、と慧音は軽くため息を吐くと妹紅の酒気を食った。

とたんに覚醒した妹紅。

これまでは前後不覚になるほど酔っていたので、気にもならなかったが、今まで枕にしていたのは

暁「よう、お目覚めか? 姫様」

皮肉を吐いた暁だった。

三人の間に沈黙が流れ、ものすごい勢いで妹紅が飛び退いた。

暁 「あっ…暁、おまっ、何」

暁 「何もしてない。妹紅が『輝夜がいじめりゅ〜』といって寄ってきたのだろう」

意外に上手いものまねを披露する暁。

妹紅の顔がどんどんと紅潮していく。

この前酔い潰れた時の記憶もあったようなので、妹紅は記憶が消えないタイプなのだろう。

つまり、自らの痴態を覚えていて、

妹紅 「消す……!」

恥ずかしさの余り、危ないことを口走る。

暁 「消すのは良いが、おそらくここにいた全員見てるぞ?」

その通りだった。

レミリアが誘った所為で、妹紅が暁を枕にして寝ているのを全員が目撃している。

妹紅「うっ、じ、じゃあ慧音!」

慧音 「自業自得だな」

慧音に助けを求めたが、名前を呼んだ時点で断られた。

実は慧音も妹紅を見てけっこう楽しんでいたりする。

暁 「全員に見られたのはレミリアの所為ではあるが……」

ぼそっと呟いた暁の言葉を妹紅は聞き逃さなかった。

いや、暁も聞こえるように言ったのだが。

妹紅 「あいつの所為で……!」

中庭では丁度今の挑戦者をレミリアが打ち倒したところのようだ。

小さな両手を振り上げて歓声に応えるレミリアに向かって、妹紅は炎の翼を生やし挑んでいった。

暁 「うむ、これで少しは盛り上がるだろう」

そして、賭け符を売っているてゐに声を掛け、妹紅に賭けておいた。







最終的に二人ともマジモードに突入、死闘すぎて弾幕を遮る仕掛けに歪みが出始めたため、永琳、紫、霊夢、鈴仙が連合して止めた。

もちろん賭け試合はそこで終了、引き分けとなり、賭けは胴元総取り、てゐの一人勝ちとなったのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.93 )
日時: 2014/04/02 10:18
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十三章−執事。それは役柄であり、演じるのは勿論。‐

宴会から数日経ち、右腕もすっかり元通りになった暁。

今日はレミリアとの約束を果たすためレミリアの部屋へ向かう。

咲夜 「暁。これ持っていきなさい」

咲夜が差し出してきたのは執事服。

暁 「これは?」

咲夜 「まずは形から…でしょ?」」

暁「うむ、そうだな」

咲夜から受け取り、着替えた暁は早速部屋へ向かった。




暁 「おはようございます。レミリア譲」

レミリア 「ぇ? 誰?」

珍しく早く起きていたレミリアは、見知らぬ誰かに挨拶された。

執事服に後ろで一つに結んだ少し長めの髪。

暁 「ひどいですね。あんなに仲良くしていただいたのに……」

好青年っぽい見かけに丁寧語。

哀愁を漂わせた雰囲気にレミリアは慌てた。

レミリア 「?、え……あれ?」

やっぱり自分の知り合いには全くいない。

しかし、自分のことをそうやって呼ぶ者は一人しか思い当らなかった。

レミリア 「もしかして、暁……?」

外見に全く面影はない。

丁寧語で話していると、若干声も高くなっていて。

暁 「思い出していただけたようで幸いです」

さわやかな笑顔で告げた暁。

レミリア「すごい外見変わってるわね?」

いつの間にか現れた咲夜に問いかけるレミリア

咲夜「おはようございます。お嬢様」

暁は丁寧にお辞儀した。

どうやら、執事の間はこれで通すつもりらしい。

咲夜 「はい、変わってますね。」

レミリア 「咲夜?」

レミリアが肩を叩いて咲夜を呼ぶ。

咲夜 「え? あっ…なんでしょうか?」」

レミリア 「熱でもあるのかしら?ずっと暁の方見て」」

「ぇ」

思わず変な声を出した咲夜。

すると爆発したように顔から蒸気が出てきた。。

レミリア 「咲夜!」

暁 「重症みたいなので運んでおきますね。」

どうやら危ないらしい。

レミリア 「今日から一週間おねがいね?」

それから出た言葉は確かに宴会の日、咲夜の主が暁と約束していたことだった。

しかし、こんな姿の暁は普段の暁からは想像もつかず、

レミリア「でも…気味悪いわね」

その通りだった。

暁 「中々キツいですね」

苦笑しながらしょんぼりとした暁はやっぱり、

”気味悪いわね”

だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.94 )
日時: 2014/04/02 10:22
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「これからよろしくおねがいします、レミリアお嬢様」

レミリア 「いつも通りにしていいわよ?」

暁がこういう口調では何か企んでいそうな気がして、レミリアは言ったが、

暁 「いえ、日本には物事を始めるにはまず形からと言う言葉がございますので」

暁はピシャリと断った。

レミリア 「それにしても見事に変わるものね。怪盗二十面相と言ったところかしら」

レミリアは諦めて、パチュリーから以前借りた小説に載っていた変装の達人の名前を出した。

暁 「日本では、陰陽師がおります。正面から相手をしていてはキリがないので、変装なんかが上手くなったんですよ」

レミリア 「普通は口調まできれいに変わるものじゃないわ。なにかしら癖が出るものよ」

暁 「やつらは感知、と言う点においては優秀で、口調程度でもすぐに尻尾をつかんできます。それで一度大群で押し寄せて来たことがありまして、それ以来五百年近く注意していたら、自然とできるようになりました」

暁の話を聞くかぎり、素の時間よりも変装していた期間の方が長そうである。

自らの力で近寄る敵を叩き潰していたレミリアには考えられなかった。

レミリア 「まぁいいわ。とりあえずよろしくね。二日ぐらい咲夜に着いて仕事を覚えてちょうだい。それが終わったらフランのお世話係ね」

暁 「フランドール様……レミリアお嬢様の妹様でしたか」

レミリア 「そうよ」

暁 「専属の方がいらっしゃるのでは? レミリアお嬢様の咲夜さんやパチュリー様の小悪魔さんのような」

レミリア 「いないのよ。だからお願いしてるの」

暁 「失礼しました。差し出がましいことを」

と頭を下げた暁。

レミリア 「いいわ。それよりお願いね」

咲夜 「かしこまりました」

レミリア 「咲夜。仕事を教えてあげて」

咲夜 「かしこまりました」

回復した咲夜が一礼し、廊下に出ていく。

暁もそれに倣い一礼し廊下へ出ていった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.95 )
日時: 2014/04/02 10:26
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「あなた何ができるの?」

暁 「家事全般は大抵こなせます。高級絨毯の扱いから、銀器や骨董品の扱い、楽器全般の手入れ、裁縫、掃除全般、炊事、洗濯、咲夜さんの入れた紅茶にはかないませんが、茶類ならば全般扱えます。後は——」

咲夜 「もういいわ。とりあえず全部できるってことね」

一般的に高級絨毯の扱いなんて家事全般には含まない、と咲夜は思った。

暁 「じゃあ館の三分の一ぐらいの掃除をお願い。私はその間に残りを終わらせるから。先ずは廊下だけでいいわ」

咲夜 「他のメイドさん達はどうしたんですか?」

暁は前に紅魔館に来た時に見かけたメイド服姿の妖精を思い出した。

咲夜 「妖精メイドは自分たちのことで精一杯よ。普段は私一人」

どう見てもこの館が一人で管理できるようなものではない。

完全で瀟洒なメイドの名に歪みはないようだ。

咲夜 「掃除道具はそこの部屋に全部あるわ。終わったらここで待ってるからなるべく早くして」

なるべく感情を籠めずに咲夜は言った。

そう努力しなければ、笑みが表れてしまいそうだったからだ。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.96 )
日時: 2014/04/02 10:32
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜は担当地域を終らせ約束していた場所に戻ってきた。

暁「あっ、おかえりなさい、咲夜さん」

すでに暁はその場所で待っていた。

咲夜 「早いわね」

暁 「いえ、私も今来たばかりです。二分の一の量しかないですし」

そんな言葉は聞かず、ツーと窓枠に指を滑らせる。

ドラマなどでよく姑がやりそうなあれだ。

すっと持ち上げた指はきれいなままだった。

咲夜 「ついてきなさい」

咲夜は唐突に歩きだした。

暁 「何処に行くんですか?」

咲夜 「フランお嬢様のところよ」

暁 「でも、レミリアお嬢様は」

咲夜 「仕事を覚えてとおっしゃったのよ。教える必要はないわ。だから次の役目」

歩みを止めずに咲夜が言う。

どうやら、一応合格をもらえたようだ。

咲夜 「フランドールお嬢様はどんな方なんですか?」

と、見たことがない暁は尋ねたが、

咲夜 「会えばわかるわ」

咲夜は回答を拒否した。

仕事中は言葉をあまり発しないらしい。

ちょっと認められたと思っただけに、残念だ、と思う暁。

それ以降フランの部屋に着くまで咲夜が口を開くことはなかった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.97 )
日時: 2014/04/02 10:37
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

紅魔館にあって一際大きな扉だ。

重厚な面持ち。

咲夜はそれを軽く開けた。

咲夜「フランお嬢様、新しい執事を連れてまいりました」

そう口を開いた。

ドアの先には広く、真っ白な壁に覆われた空間があり、家具は少なく、ベッドがあるだけである。

その中に一人ぽつんと小さな少女がいた。

ふと気付けば咲夜は消えていた。





フラン 「あなたは私の執事?」

暁 「はい。暁と申します。よろしくお願いします」

そう告げると、フランは満面の笑みで迎えてくれた。

フラン 「私、お姉様みたいに付き人が欲しかったんだ! 私のことはフラン、で良いよ」

暁 「では、フランお嬢様と」

暁もそれに笑みをもって応えた。

フラン 「それでね、咲夜みたいに紅茶入れて?」

暁 「咲夜さんほどおいしくないですよ?」

フラン 「いいの。私は暁に入れてほしいの」

暁 「かしこまりました」

フランは至極嬉しそうに話す。

お湯を取りに行けばニルギリの葉が置いてあった。

沸騰したお湯を手早くティーポットに注ぎ、二分ほどゆっくり待つ。

そうしてできた紅茶をミルクティーに仕上げた。

暁 「お待たせいたしました」

フラン 「ありがとう!」

フランが両手で暁からティーカップを受け取った時だった。





——ティーカップごと暁の右手が吹き飛んだ





フラン「あ……」

フランは怯えたような表情で後退りし、頭を抱えてしゃがみこんだ。

フラン 「やっぱりいらない。私、壊しちゃうから」

暁は表情を変えなかった。

右手が吹き飛んだ痛みはあるが、自分の右手なんていくらでも治せるのだ。

レミリアがフランのお世話係にした意味がわかった。

小さく呟いて呪を解放し、手首から先が無くなった右手を再生する。

そして、目線を合わせるためにフランの隣にしゃがみこむ。

暁 「フランお嬢様」

フラン 「……ぇ?」

恐る恐る顔を上げたフランが右手を見て、驚いた表情を見せた。

フラン 「大丈夫ですよ。私はそう簡単に死にませんから。でも、ちょっとだけ痛かったです。こういう時どうしたらいいかわかりますか?」

フラン 「ごめん……なさい……」

暁 「はい、よくできました」

戸惑いがちに謝ったフランの頭を暁の右手が撫でる。

暁 「悪いことをしてしまったら、謝る。一番大切なことです」

上目遣いで暁を見ていたフランは暁に飛び付いた。

暁はそれをしっかりと受けとめる。




こうして暁の執事生活は始まった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.98 )
日時: 2014/04/02 10:42
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十四章−概ね優秀。そう概ねだ。‐

すでに暁が執事生活三日が経ち、フランもすっかり暁に慣れていた。

フラン 「禁忌『レーヴァテイン』〜♪」

風を切るように振るわれた紅い剣を暁はにこやかに眺めている。

美鈴 「ちょっ、フランお嬢様! それはっ、さすがにきついですよ! 暁さんも止めてくださいよ!」

それを受けているのは美鈴で、涙目になりながら必死に叫んでいる。

暁 「いえ、今はフランお嬢様の執事ですので」

と、笑って流す暁。

フランも本気で叩きのめそうとしているわけではなく、ただ美鈴にじゃれついてるだけなので、危なくない限りは見守ることにしていた。

美鈴 「うわ〜ん、暁さんの鬼! 鬼畜!」

フラン 「む〜美鈴、私の執事を悪くいっちゃダメだよ!」

美鈴 「ごめんなさいごめんなさい! 謝りますからもう許してください〜!」

より一層激しくなった弾幕に美鈴は悲鳴を上げた。










暁 「はい、お疲れ様です」

そう言って、紅茶を差し出す。

今はフランと疲れ切った美鈴が、テラスの片隅にある椅子に座っている。

暁 「美鈴さんもどうぞ」

美鈴の前に紅茶を差し出すが、

美鈴 「そんなんじゃ懐柔されませんよ」

と拗ねている。

先ほど助けてくれなかったのを根に持っているようだ。

暁 「そうですか。残念ですね。せっかく作ってきたシフォンケーキを用意していたんですが、フランお嬢様と二人で食べますか」

美鈴 「いただきます!」

美鈴は最早条件反射の領域で反応を見せた。

暁 「はい、どうぞ」

暁もそれがわかっていて、でも少し悪かった気もして美鈴のシフォンケーキはその分大きいのだ。

美鈴 「ん〜おいひ〜」

口いっぱいに頬張る美鈴。

先ほどのことなどなんのことやら、と言わんばかりの満面の笑みである。

フラン 「む〜なんかそっちのほうが大きくない?」

フランがじーっと二つのシフォンケーキを見比べて言う。

暁 「ダメですよ、フランお嬢様。昨日は御夕飯食べられなかったではないですか」

フラン 「昨日は昨日だよ! 今日は大丈夫」

暁 「昨日もそんなこと仰ってましたよ」

フラン 「う〜、私はこれが食べたいの!」

暁 「いけません。きちんとした食事をしなければ、体を壊してしまいますよ?」

お世話係も担っているので、そんな事態にさせる訳にはいかない暁だった。

フラン 「お姉様は咲夜にたくさん食べさせてもらってたよ」

暁 「私は咲夜さんではありませんので」

ちょっと怒ったように告げた暁。

フランはそのことに敏感に気付いて、謝ろうと口を開いた。

だが、それを白い光と轟音が遮った。


暁 「魔理沙ですね。美鈴さんはフランお嬢様をお願いします。フランお嬢様はここで待っていてください。おそらく危険はないと思いますので」

では、いってきます。と暁は走り去った。

今日は休日で出番がない美鈴は、美味しそうにケーキを頬張っている。

ここは図書館からも離れていて、侵入者が魔理沙ならほぼ危険はない。

フラン 「ねぇ美鈴」

美鈴 「はい? なんですか?」

フラン 「暁、怒ってた?」

美鈴 「ちょっと怒ったようではありましたね」

ごくんと一気に飲み下して美鈴が答えた。

美鈴 「暁さんは私たちと違って元々は我を持たない種族ですから、そういうことに強く反応してしまうのかも知れませんね」

フラン 「どうしよう……」

何事も時間が経ってしまうと難しいものだ。

特にフランはそれをよく知っていた。

美鈴 「贈り物をするというのはどうですか?」

フラン 「贈り物?」

美鈴 「はい。それをキッカケにすれば謝りやすいんじゃないですか?」

フラン 「何を贈れば良いのかな?」

美鈴 「それはフランお嬢様が暁さんを思って考えるものですよ」

微笑みながら言った美鈴。

こうしてフランの贈り物選びが始まった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.99 )
日時: 2014/04/02 10:49
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

一方その頃玄関前。

門の警備を突破し、本館に侵入してきた魔理沙を咲夜は迎え撃った。

——時符「プライベートスクウェア」

魔理沙「うお!? またお前かよ」

咲夜 「それはこっちのセリフね」

咲夜はナイフで弾幕を張り、魔理沙をけん制する。

魔理沙はそれを箒に乗ったまま、弾幕の隙間に飛び込んでいく。

——魔空「アステロイドベルト」

「時符『パーフェクトスクウェア』」

止まった時の中を動き、スペルカードを避けきる。

そして、多くの魔理沙との対戦経験から次にくる攻撃はわかっている。

あれは、構えなしで受けきれるものではないとわかっている咲夜は、次の攻撃に備えようとした。

「!?」

だが、別の紅魔館の住人ではない気配に振り返った。

いや、振り返ってしまった。

そこにいたのは、今駆けつけた暁。

現在に限っては敵ではない存在。

咲夜の意識は、そこで途切れた。








魔理沙 「おし、いくぜ!」

暁 「お待ちください」

咲夜を倒し、意気揚々と図書館に向かおうとした魔理沙を暁は呼び止めた。

魔理沙 「ん? 誰だ、もう敵はいないはずだぜ」

暁 「門を蹴破って入ってくるような輩を、ここから先には通す訳にはまいりません」

魔理沙 「門は吹き飛ばしただけだぜ」

暁 「結果が同じならば、細かいことはどうでも」

今日はパチュリーの体調も悪く、魔理沙を相手に立ち回ることはできないだろう。

つまり、夕霧が事実上最終防衛ラインである。

咲夜抱きかかえ、安全な場所に寝かしておく

暁 「今すぐお帰りになることをオススメしますが」

魔理沙 「断るぜ」

暁「ではそれなりのご覚悟を」

魔理沙 「誰だかは知らないが、おまえを倒したら執事になれるのか? なる気はないけど」

暁 「ご自由に。負けませんので」

咲夜さんの仇打ちも兼ねているのですから、と暁。

既に呪は解放している。

だが、今回は抜かない。

魔理沙 「遠慮なくいかせてもらうぜ」


——恋符「マスタースパーク」


魔理沙のミニ八卦炉に光が集約し、放たれる瞬間だった。

縮地法によって距離を詰めた暁は、魔理沙の腕を蹴り上げた。

まるで見当違いの方向に放たれたマスタースパーク。

「恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」

距離を置くために続けてスペルを発動させた魔理沙だったが、その目論見は成就しない。

暁は壁や天井を利用して、追い打ちをかけ続ける。

暁 「あなたの敗因は、ここで戦ってしまったことですよ」

魔理沙はその言葉を無視して、スペルを宣言した。


——「ブレイジングスター」


だが、それも本来の威力を発揮することなく、発動前に箒の先端を暁の左手に掴まれ完全に潰された。

暁「こんな狭い場所では、あなたの長所であるパワーも、スピードも何一つ生かされない。そんな状態で何のアクシデントもなく負けることなんてありませんよ」


——喪符「鬼神哀愁歌」







暁 「さて、どうしましょうか」

魔理沙は放り出しておき、咲夜の手当は依頼し終えた。

暁 「まぁ、と言っても直すしかないのですが」

視線の先にはさっきの弾幕勝負で壊れた天井。

咲夜がいればどうということはないのだが、今は意識がない。

だからといってこの状況をそのままにしておくわけにはいかない。

暁は一つだけため息を吐いて、作業に取り掛かった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.100 )
日時: 2014/04/02 10:53
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「失礼します」

ノックをしてからフランの部屋の扉を開いた。

その先には物が散乱していた。

暁 「フランお嬢様?」

その中心にフランがいる。

フラン 「え?」

どうやらノックには気付かなかったようで、ようやく暁に気付いたようだ。

そして、隠すように手に持っていたものを箱に突っ込んだ。

暁 「捜し物ですか?」

「……」

フランは喋らない。

暁 「一緒に探しますよ」

フラン 「……もう怒ってないの?」

暁 「? 何がですか?」

はて、と暁は首をかしげた。

フラン 「さっきの……咲夜はって言っちゃったから。すぐに謝ろうと思ったけど、魔理沙が来て暁は行っちゃって。美鈴に相談したら贈り物したら、って言われたから選んでたんだけど、私、何をあげたら暁が喜んでくれるかわかんなくて……」

下を俯いてぽつぽつと話すフラン。

暁 「大丈夫ですよ」

今の今まで忘れていたぐらいですから、と暁は言った。

撫でられたフランはゆっくりと顔を上げた。

そして、目線の先に何かを見つけた。

フラン 「あっ!」

何かを思いついたように箱の中を探ると、その中の一つを取り出した。

フラン 「はい! さっきはごめんなさい!」

手に持ったものは髪を縛るための白い紐。

暁の後ろで縛っている髪を見て思いついたのだった。

暁 「よろしいのですか?」

フラン 「うん! それより付けてみて」

フランの言葉に従い、暁は髪を一度解き受け取った物で結び直した。

フラン 「へへっ、これで私の帽子と色がお揃いだね!」

暁 「そうですね」

二人はそう言って笑い合った。

フランにとって今は幸せな時間だった。

しかし、変わらないものというのは少ない。

時間は過ぎ去っていくものなのだから。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.101 )
日時: 2014/04/02 10:59
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十五章−躊躇、タイミング、間の悪さ。 ‐

時は七日目、約束の終焉も近づいてきた。

暁は変わらず執事の仕事に精を出している。

レミリア 「契約は今日の夜までだったかしら」

レミリアは二階の手すりに腰をかけ、廊下の掃除をしている暁に話し掛けた。

暁 「そうですね。もう一週間ですか」

レミリア「あら、物足りないならもう少しいいわよ?」

暁 「いえ、咲夜さんにあまり心労をかけるものではないですよ」

手を止めず、暁は答えた。

フランのことは気に掛かるのだが、約束の期間はあと数時間。

それが過ぎれば、暁は居候に戻る。

暁は元々紅魔館の居候なのだから。

レミリア 「咲夜は仕事ができるのが増えて喜んでるんじゃないかしら?」

暁 「日に日に顔がやつれてますよ」

その通りだった。

暁にその気はないが、咲夜は暁がなにか起こさないか目を光らせているために、自分一人でやっている時以上に疲れている。

暁 「何もしてるつもりはないんですがね」

妙に咲夜に嫌われているような気がした暁は呟いた。

レミリア 「犬が縄張りを守ろうとするのは当たり前でしょ」

ふと、レミリアは視界の端に小さな影を見つけた。

それはフランに違いない。

そして、暁からは死角になっていて気付いている様子はない。

レミリア 「本当に戻るのね?」

暁 「ええ、そうさせていただきます」

レミリアはそれを知った上で再び問い、暁はそれを知らぬまま答え、フランはそれを聞きどこかへ去っていった。

暁「では、ここの掃除も終わりましたので」

レミリア 「そう」

レミリアは、そう言って背中を向けた暁に返し、見送った。

レミリア 「気をつけなさい。今夜は少々ルナティックよ」

小さくつぶやいた言葉は、暁に届くことはない。

運命は順当に、確実に崩壊へと向かっていく。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.102 )
日時: 2014/04/02 11:05
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

廊下を進む暁。

ふと、緑の帽子に赤毛という存在を見つけた。

暁 「あ、美鈴さん、よ——」

美鈴は、暁の姿を目視するや否や回れ右。

美鈴 「ご、ごめんなさい!」

そして、風神少女も驚きの速さで走り去って行った。

暁 「??」

暁は現状が理解できない。

特に美鈴に何かをしたということもないし、謝られるようなこともないはずである。

パチュリー 「気にしないであげて」

暁 「パチュリー様……」

いつの間にか現れたパチュリーが言った。

パチュリー「今日はちょっと情緒不安定なのよ、あの子」

暁 「はぁ、そうですか」

パチュリー 「ちょうどアレの日だから」

暁 「……」

パチュリー 「……」

沈黙が二人を包む。

暁は、パチュリーなりの冗談かと思ったが、当の本人は無表情で前をじっと見据えている。

パチュリー 「それよりも、妹様のところに行ってあげて。そろそろ起きる時間よ」

沈黙を破ったのは、パチュリーであった。

暁 「はい。では、失礼します」

その言葉に従い、暁はフランの部屋へと進んでいった。







パチュリー 「これでいいかしら、レミィ」

レミリア 「ええ、上出来よ、パチェ」

一匹の蝙蝠が徐々に増え、レミリアを形成した。

レミリア「今回の事はあまり良くないと思うわ。紅魔館のことを考えれば——」

パチュリー 「わかってる」

パチュリーの言葉をレミリアが遮る。

レミリア 「暁が消えればどんなことになるか。でも、フランには必要なことなのよ」

一呼吸おいて続ける。

レミリア 「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。他人とは決して相容れない能力。でも、暁ならあるいは……」

「そう」

パチュリーはゆっくりと言った。

パチュリー 「もしものときは、レミィが止めなきゃだめよ。どちらの危機でも」

そう言ってレミリアに背を向けると、図書館に帰って行った。

レミリア 「わかってる。…わかってるわ」

そう、自分に言い聞かせるように呟いたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.103 )
日時: 2014/04/02 11:14
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「お嬢様」

レミリア 「何?」

レミリアの紅茶を入れていた咲夜である。

咲夜 「すごく嫌な予感がします」

レミリア 「それは紅魔館にってことかしら」

咲夜 「いえ、紅魔館にも関連しますが、暁のことです」

いやな予感というものでありながら、咲夜は断言した。

右手を顎に当て、思考をまとめるレミリア。

レミリア 「そういえば、前にもあったわね」

咲夜 「はい」

レミリア 「その時は、輝夜と相手の居城で弾幕を始める寸前だったと……」

咲夜 「暁自身が言っていたので、間違いないです」

レミリアは数瞬考え、頬に手を当てた。

レミリア 「心が繋がる二人、ね。羨ましいわ」

咲夜「お嬢様!?」

全く予想外の返答に動揺する咲夜。

そんな咲夜にレミリアは追撃の手を緩めない。

レミリア 「あら、咲夜は暁が嫌い?」

咲夜 「え、いや、そういうことではないですけど……」

レミリア 「私は好きよ」

咲夜 「!?」

レミリア 「咲夜は暁が好きかしら?」

咲夜 「それは、その……」

そして堪えきれないというように、笑いだした。

レミリア 「ちょっと虐めすぎたかしら。私が言ったのは家族としてってことよ」

一呼吸おいて話を続ける。

レミリア「パチュリーも小悪魔も暁も美鈴達も、もちろん貴女も私は大好きよ」

咲夜 「お嬢様……」

そう言ったレミリアはとても綺麗で、咲夜は暫く見惚れてしまった。

レミリア 「貴女の予感は簡単に無視できるものではないけど、今は待ちましょ。信じて待つことも必要なことよ。助け合うことと依存することは違うわ」

それに、とレミリアは続けた。

レミリア 「もし暁が消えるようなことがあれば、戦争よ。他ならぬ私が、存在の根源からあちらを消し去る」

咲夜は手に持っていたティーカップを落としそうになって、ギリギリで持ちこたえた。

それだけの意志がその言葉には詰まっていた。

レミリア 「さ、入れてくれない?」

咲夜 「はい」

咲夜は不安げに窓の外を見上げ、作業に戻った。

窓の外の暗くなった空には、満月が浮かんでいるだけだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.104 )
日時: 2014/04/02 11:22
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十六話−覚悟−

間違いなく何かある。

暁はそう考えていた。

美鈴の行動は明らかに不信であったし、それのフォローにパチュリーが現れたことも珍しい。

元々図書館から出てくることも珍しく、ましてやパチュリーが人のフォローなど見たことがない。

そんな思考を流しながら、フランの部屋までたどり着いた。

そこにどんな思惑が潜んでいようと、自らやるべき事は執事であり、明日までそれを全うすることだ。

そう心に言い聞かせ、ゆっくりと扉をノックし、そうして暁は扉に手を掛けた。

いつもと変わらぬ部屋にいつもと変わらぬベッド。

そこにあってフランはいつもと違った。

いつもは横になっているベッドの上で、体を起こしてぺたりと座り込んでいる。

暁 「おはようございます、フランお嬢様」

いつも通りの言葉に、いつも通りの返事はない。

この五日間、暁の挨拶に嬉しそうに返していたフランが何も言わないのだ。

暁は歩を進める。

後一歩で手を伸ばせば届く位置まで来たときだった。

フラン 「ねぇ、暁」

暁は足を止めた。

まるでその距離は、踏み込めぬ壁であるように。

フラン 「暁はいなくなるの?」

「……」

何のクッションもなく、話は核心であった。

純粋さ故に。

フラン 「ねえ」

無表情に、声すら色を失いただ暁の返事を求めた。

暁 「執事ではなくなる、ということならば、えぇ、その通りです」

暁は、純粋さ故に染まりやすいことを知りながら。

フラン 「本当に?」

暁 「えぇ」

事実だけを告げた。

嘘や虚構はその場しのぎにしかならないことを知っていたからだ。

それはフランに悪影響である。

そういう判断だった。

今の暁は、フランの世話係なのだ。

そうである以上、嘘は吐けなかった。

フラン 「そっか……。いなくなっちゃうんだね……」

二人の間に沈黙が漂う。

長い長い沈黙の後、ポツリとフランが呟いた。

フラン 「でも……」

それは二つの要因による幸いだった。

一つは、長年にわたる闘争の中で、奇襲的な気配への知覚が敏感であったこと。

もう一つは、初日以来フランといるときには、常に鬼切丸であったこと。

この二つが暁を初撃から守った。

七歩分の間合いの先に、ベッドだったものの粉砕された残骸が舞っている。

フラン 「壊れちゃえば、そんなことできないよね」

粉塵の中でフランは笑った。

狂気。

暁の中に浮かんだ言葉だった。

暁 「そういえば、今日は満月でしたか」

執事になって以来、夜に外に出ることもなく、月齢をすっかり忘れていた。

満月の夜、吸血鬼が最も力を得る日。

だが、同時に

暁「Lunatic……狂気ですか」

狂気を最も強く得る日でもある。

どこからその情報を得たのかは、暁にはわからなかったが、暁がいなくなることが引き金となり、狂気が破壊に傾いてしまったことだけは理解できた。

フラン 「あんまり早く壊れないでね。楽しくないから」

そうして、フランは暁に襲い掛かったのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.105 )
日時: 2014/04/02 11:35
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁は刀を抜かず、ステップを刻む。

フランのキレは、宴会の時に見たレミリアに勝るとも劣らない。

七色の羽により空中での制動も暁の一段上を行く。

そんなフランに対し、暁は回避という選択肢だけを選んでいた。

容易なことではない。

ただでさえ破壊するという危険極まりない能力の上に、殴られるという事象も致命打になりかねないのだから。

擦った瞬間に吹き飛ぶこともありえる。

それを把握していながら、なお反撃という選択肢を取らない。

右足が破壊された。

瞬時に復元。

右腕を破壊しようとフランは、小さな手を握る。

だが、破壊は起こらず、不審に思ってもう一度握ると右腕はちゃんと破壊された。

身体の一部を失っても暁は、即座に回復。

隙を見せない暁に、フランはスペルをぶち込めない。

しかし、今日のフランは冴えていた。

思い通りに能力が働く。

破壊の規模すら自在になっていることは、暁の右足だけを破壊できたことでわかったことだ。

フラン 「避けてばっかりじゃ……」

暁の着地の瞬間に足元を破壊。

流石にそれには、暁はバランスを崩した。

もしここで刀を抜いていれば、打ち合うことも可能だったかもしれない。

だが、暁は抜かなかった。

いや、抜けなかった。

それは甘さか。

暁には右手、右足を一度破壊されながら、フランに刀を向ける覚悟がなかったのだ。

フラン 「ほら、すぐ壊れちゃうよ」



——禁忌「レーヴァテイン」



迫りくる紅に対し、暁は詰んでいた。

体勢として童子切も扱えず、哀愁歌では間に合わず、羅生門ではフランごとぶった切ることになるし、将門では遅すぎる。

無論、そのまま避けられるなど甘いこともない。

だから、それを避けられたのは暁の力じゃなかった。




美鈴 「やっぱりダメです!」




後ろに突き飛ばされ、傾いていく視界のなか、赤い髪を見た。

いつも被っている帽子は、走ってきたときに飛んでいってしまったのか、今は見当たらない。

状況の変化にされどレーヴァテインは止まらず、美鈴を通った。

一拍遅れて噴き出す鮮血。

散った鮮血を見て、暁は漸く今起こったことを理解する。

暁「美鈴!」

暁が叫んだ。

後ろに倒れこみそうになった美鈴を抱き留める。

美鈴 「くっ……流石に全力でガードしてもキツいですね」

力なく美鈴が言った。

暁 「バカ野郎! なんでこんなことをした!!」

美鈴 「女の子に野郎……はないですよ」

はは、と弱弱しく笑う。

美鈴 「暁さんを壊しちゃったら、フランお嬢様は必ず後悔すると思います」

理由なんてそれだけで十分です、と美鈴は言った。

美鈴 「だから、フランお嬢様を止めてあげてください」

そう言いきると、糸が切れるように意識を失った。

幸い傷は致命傷ではなさそうだが、血を流しすぎたのだろう。

暁 「パチェ! いるだろう?」

パチュリー 「そんなに大声出さなくても聞こえるわ」

どこからともなく現れたパチュリーは、美鈴を引き取り魔法で浮かべて運んで行く。

暁「美鈴を頼んだ」

パチュリー 「大丈夫よ、美鈴は私が死なせない」

一度振り返り、言葉を紡ぐ。

そして、フランと暁を一瞥し

パチュリー「頑張りなさい」

背を向け、そう告げた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.106 )
日時: 2014/04/02 11:41
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

あかつきは一度深呼吸した。

そうして、一度息を吐いた後、刀を抜いた。

フラン 「ハハ、アハハハハハァ!!」

フランは楽しみが増えたように歪んだ笑みを見せる。

フラン 「本気の暁はどんなかな? せめてすぐに美鈴みたいにはならないでね」

あかつき 「フラン」

暁は執事でありながら、あえてそう呼んだ。

暁 「もう、やめないか?」

刀を抜いたのは、決意の証。

どんな手を使ってでも壊されない。

ただ叩き潰すための意志ではなく、必要ならば躊躇わぬ為の自分への意志表明。





甲高い笑い声が響く。

狂ったように、否、実際狂って、フランは笑った。

可笑しくて可笑しくてたまらないように。



——お・こ・と・わ・り・だ・よ♪



砲弾の如く、螺旋状に回転し全身で突っ込む。

それはさながらレミリアのクレイドルの様な。




——憑符「鬼神千手観音」




暁はキャッチボールでもするように左手で掴み、そのまま握り潰した。

その指の隙間を数多の蝙がすり抜け、再びフランを形成する。

それを追撃するために握りこぶしのまま、横に一回転し遠心力に乗せて刈り取るようにスイング。

フランは身体をちょっと傾けるだけでこれを回避。

拳はそのまま壁に突き刺さり、壁は蜘蛛の巣状に罅を作り、館を揺らした。

暁はフランを無視し、左手の先を起点に縮小、さらにこめかみの高さに刀を構える。

そこに左手を添え、繰り出す突きによる斬撃は四本、しかし響いた音は一つ。





——仏世「色即是空」





剣の才を持たぬ暁が、それでもなお剣を振り続けた結物。

破壊力という一点において辿り着いた究極の一。

無論それがただの四連撃には非ず、あのフランを閉じ込めておくための部屋の壁をぶち破った。

大人がゆうに二、三人は通れそうな大穴から暁は勢いよく飛び出す。

フラン 「逃げる気? 逃がさないよ!」

同じく壁の穴から飛び出すフラン。

その穴を抜けたばかりのフランに



——居合「鬼神斬」



暁は容赦なくスペルカードをかました。

「禁忌『フォーオブカインド』」

四人のフランが視界を埋め尽くす斬撃の一本一本を丸ごと破壊しきり、暁の追撃を開始する。

暁は後ろを振り向かない。

ただひたすらに走っていく。

ことスピードに関して言えば、暁はフランに劣っている。


振り向き、様子を確認する余裕など微塵も存在しない。

だが、そこまでしても差は歴然だった。

フラン 「捕まえた♪」

暁 「くっ……」

頭上からの一撃を横に跳ねることで避け、そのままバックステップで少しでも距離を稼ぐ。

それも二、三歩で追いつかれてしまう。

当たり前だ、元より差があるものが前に走るものと後ろに下がるもの、どちらが速いかといえば確実に前者。

全力で逃げている暁の背後に回り込む一人。

暁は勘だけで頭を下げた。

一瞬前まで頭があった場所を紅い剣が通り過ぎる。

それは、レーヴァテインを縮小したような100センチほどの剣で、破壊の力が込められていた。

しかし、その程度では暁の動きは止められない。

バックステップしていた勢いをそのまま足に伝え、後ろに振りぬく。

確かな手ごたえとともにフランの分身の一人が消滅。

暁に向けてフランの分身たる二人が、挟み撃ちのように迫るが、左右から同時に振るわれた剣を一刀のもとに両断。

剣を切られてできた隙に右側のフランに向けて逆袈裟切り。

振り上げた刀の流れで左側のフランに袈裟切り、そして消滅させる。

切った勢いで足を曲げ、前に飛び出し再び走り出した。

フラン 「うぅ……禁忌『クランベリートラップ』!」

捕まえたと思った暁がさらに逃げ出すのを阻止するために、暁を囲う弾幕。




——喪符「鬼神哀愁歌」




フランの足どめという思惑は外れ、暁は一分の迷いもなく強行突破を選択。

そしてそれはこの場面での正解だ。

純粋に避ける、スペルカードを使う、どの選択肢をもってしても、一瞬でも迷えば即距離を詰められていただろう。

今ならばフランは自らの分身たる三人を潰され、多少なりとも疲弊している。

それ故に、出だしが遅れた。

暁一人では、フランを討伐はできても止めることはできない。

少しでも距離を稼がなければならない。

目的地はもう少し先なのだから。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.107 )
日時: 2014/04/02 11:50
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜の髪が揺れた。

咲夜 「お嬢様!」

レミリア 「今度はなに?」

咲夜 「行かないと……。お嬢様も来てください!」

レミリア 「ちょっと、待ちなさい! 何があったのよ!」

咲夜 「暁が……暁が呼んだような気がして。私とお嬢様の力が必要だって」

そう言って窓から飛び出していく咲夜。

その表情には先ほどとは違い、確信の色が浮かんでいた。

レミリア 「もう、仕方ないわね」

レミリアもいつも傍らに置いている槍を手に取り、咲夜の後を追った。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.108 )
日時: 2014/04/02 11:58
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十七章−争いたくは無かった−

生物の気配を感じない。

虫の音も動物の鳴き声も一切聞こえない。

しかし、森は静寂に包まれてはいなかった。

破壊音が一直線に進んでいく。

紅い剣と紅い剣とがぶつかり合い、その衝撃を逃がさず利用して再び距離をとった。

フランも一旦バランスを崩しながらも、羽を広げ追撃を仕掛けようと暁に迫る。

そのまま暁を壊そうと手を握ろうとした。

しかし、暁は後ろを振り向く事無く周りの大木を三本切り倒す。

予定調和のようにフランに向かって倒れこむ大木。

即座に対象を切り替え左右の手を握り、大木の二本を破壊する。

握りこんだ右手を正面に倒れてくる大木に叩きつけると、風船のようにパンッと弾けた。

だが、上に向かって伸びた腕は、たとえ吸血鬼と言えども隙になる。


メキ……。


暁の爪先が、フランの脇腹に深々と突き刺さる。

フランは横にくの字に折れ曲がり、大木に打ち付けられた。

折れた肋骨が肌を突きぬけ、肺が破けたのか、呼吸音が笛のように鳴る。

瞳の中の狂気の色が揺らいだ。

しかし、フランは明確な意志を持って紅剣を握る。



——禁忌「レーヴァテイン」



木を薙払いながら進む大剣に、自らの刃を乗せてフランの力で投げ飛ばされる。

フランはレーヴァテインを片手に、体を引き絞る。

自分は砲台、砲弾はレーヴァテイン、狙いは暁。

空中に投げ出されたところで、単純で直線的な攻撃など暁には容易に避けられる。

だが、避けるわけにはいかなかった。

「憑符『鬼神哀愁歌』!」

レーヴァテインの大きさを遥かに上回る規模で展開され、飲み込むように内包した。

そのまま押さえ込む為に力を籠める。

暁 「ぬぅ……」

そこまでして、なお暴れて拘束を振りほどこうとする剣に夕霧が唸る。

ここで振りほどかれるわけにはいかなかった。

暁の後ろに広がるのは人里。

いつの間にか森の端まで着ていたのだ。

避ければ、人里を裕に滅ぼして余りある紅剣が、そこで破壊の限りを尽くすだろう。

暁 「ぐ……うぉォォォォ!!」

暴れ回る紅剣を押さえ込み、強引に左手を握る。

徐々に白が勢力を強め、飲み込んでいく。

フラン 「いつもそうだよね、夕霧は」

レーヴァテインとは違う小型の紅剣を携え、暁にいつでも斬り込める位置にフランが現れる。

フラン 「他者の為に傷ついたり苦労したり。ううん、それが悪いって言ってるんじゃないよ……でも」

翼を一度はばたかせる。

それだけで、スピードは最高速へ。

フラン 「だったら私の為に傍にいてくれても良いじゃない!!」

振り下ろすだけで良かった。

それだけで、豆腐でも切るかのように暁は切り裂かれたことだろう。

それに待ったを掛けたのは、打ち込まれた一本の槍だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.109 )
日時: 2014/04/02 12:02
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

フランは認識と同時に急制動、真逆の方向に飛び退く。

暁は、その槍に対して一瞬驚愕する。

それは、槍が飛んできたことにではなく、その持ち主に心当たりが有ったからだ。

いち早く驚愕から抜け出し、漸く暁はレーヴァテインを掌握、白は収縮し、ポンッと呆気ない音とともに消えた。

暁 「レミリア+!」

その間にフランは邪魔をしてきたレミリアに突っ込んでいく。

フランを止めるため、足場を踏みしめたとき、袖に抵抗を感じた。

咲夜「暁」

振り返れば、そこにいたのは咲夜だった。

暁 「な——」

咲夜 「全部準備はできてる。あとは移動するだけ。お嬢様は大丈夫、絶対無事に運んでくれる」

暁は『何故』という言葉を閉まった。

今は必要ではなく、確かにフランを『止める』為には二人の協力が必要だったからだ。

暁 「場所は?」

咲夜 「今お嬢様が投げ飛ばした辺り」

咲夜が指差したほうを向くと、遥か先にフランを投げ飛ばしたレミリアがいた。

よし、と暁は頷くと咲夜をお姫さま抱っこした。

咲夜 「え? ちょっと!?」

暁 「口を閉じていろ。舌を噛むぞ」

慌てる咲夜に静かに言いながら、四度右足で足場を叩く。

人里を越え、竹林の浅い位置を目指し左足で足場を蹴る。

それは普通の一歩。

だが、そんなものは序章に過ぎない。

言うなれば、ジェットコースターが加速する前にゆっくりと坂を上ったというところだ。

暁 「しっかり捕まれ。落ちるぞ」

咲夜 「待っ——」

咲夜の言葉を待たず、暁は更に一歩を踏み出した。

咲夜に言葉を止めさせたのは、空気の壁。

暁は明らかに音の領域で進んでいた。

漸く暁が言った意味を理解した咲夜は、力の限り暁にしがみつく事にした。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.110 )
日時: 2014/04/02 12:11
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「っと」

着地と同時に咲夜を降ろそうとしたが、

暁 「いつまで掴んでいるんだ?」

咲夜 「んっ……ぁ!」

ぱっと手を離し、暁の腕の中から飛び降りる咲夜。

それを確認した暁は、たいした反応を見せず、すぐに縮地、もちなおしレミリアに向かったフランの前に立ちふさがった。

フラン 「何でみんなを守るの!?」

暁 「守る? 違うな、壊させないだけだ」

フラン 「嘘だ!」

暁は後ろに視線を流し、レミリアを見る。

それだけでレミリアは意志を受け取った。

フラン 「暁はそいつらを守ってる!」

言葉と共にフランは周りの物を破壊、暁は後退を余儀なくされる。

フラン 「そっか……」

フランが小さく呟いた。



——封符「鬼神滅陣」



暁、フラン、咲夜を中に抱え、更に広大に時間断層が展開される。

フラン 「そいつらさえ……」

だが、満月から切り離されてなおフランは止まらない。

フラン 「そいつらさえいなければァァァァアア!!!」



——QED「495年の波紋」



前方三方向から襲い来る破壊の波。

今は鬼神滅陣の中にいるだけに逃げ場はない。

だから、咲夜はスペルカードを引いた。

ただ、そのカードの出番はなかった。

暁 「すまんな、危険な目にあわせて」

そっと頭に乗せられた手。

ぐりぐりと頭を撫でられる。

暁は目を細めながら言った。

暁 「だが、俺だけでは足りない。俺には咲夜が必要だ」

ぐっと一歩踏み出し片手には古ぼけた一冊の本。

暁 「道は俺が作ろう。後は任せた」

咲夜を背に置き、道を拓くためにスペルカードを引いた。



——「平家物語」



暁 「出現せよ、八咫鏡」

巨大な銅鏡が出現、一時的に破壊の波を押し留める。

それが暁に数秒の時間を与えた。

暁 「変革せよ、八尺瓊勾玉」

勾玉が鬼切丸の周りを回り、暁に最後の一を扱うだけの霊力を授ける。

そうして高まった霊力が強烈な光を放つ。

暁は鬼切丸を上段に構え、振り下ろした。

暁 「蹂躙せよ、鬼竜八頭破」

文字通りの蹂躙だった。

暁が放った光は、八つの頭を持つ竜の形をとり、破壊の波に喰らい付いていく。

もちろんそれは波に当たる端から破壊されていくが、壊される以上に再生するそれは圧倒的で、破壊の波を押しつぶしていく。

徐々に、というレベルではない。

爆発的にその大きさを拡大した光が辺りを一飲みした後は、何も残っていなかった。

フランはその事実を確認した瞬間、次なるスペルカードを準備した。

暁は動いていない。

発動すれば確実に仕留められた。

ただし、それは発動すればの話だった。



——「時符「ミステリアスジャック」」



咲夜は一分の疑いもなく、暁が道を作ることを信じていた。

もはや咲夜にとってはフランまでの道ができることは必然、知っていることと同じだった。

その差が明暗を分けた。

咲夜は狂気を完全に打ち消し、意識を奪い去る。

重力に反抗していた翼が力を失い、落下を始める。

戦いが、フランの狂気が終わった印だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.111 )
日時: 2014/04/02 12:17
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「おっと」

フランの小さな身体を受けとめる。

それは羽のように軽く、華奢な腕からはあれだけのスペルを扱うようには見えなかった。

暁 「ありがとな」

咲夜 「どういたしまして。早く帰ろう、皆待っている所よ。」

暁 「そうだな。」



——神鬼『羅生門』



暁が鬼神滅陣の断層を切り、出口を作る。

そこは紅魔館の玄関があった。

少し白み始めた空が暁の執事終了を知らせている。

咲夜 「あっ、ちょっと待って」

動きだそうとした暁を止め、咲夜がフランを抱えたまま先に横開きの戸を開けて入っていった。

そして、振り返りとびきりの笑顔でこう言った。

咲夜 「おかえりなさい」

暁 「ああ、ただいま」

暁は紅魔館に帰ってきたのだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.112 )
日時: 2014/04/02 12:23
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十八章‐それでも許してほしいから。‐

ふと目が覚めた。

まだ視界はぼやけていて、頭を撫でている大きな手が辛うじて暁の存在を知らせていた。

フラン 「暁……?」

その大きな手はただただ暖かかった。

それ故にフランは思う。

フラン 「あのね、凄く怖い夢を見たんだ。暁が執事を辞めるって言ってね、それから暁の手と足を握り潰して、美鈴を……」

だが、そこまで言って気付いた。

鮮明に思い出せるその瞬間。

暁の手と足を握り潰して、美鈴に刃を通したこと。

今やったことのようにわかる。

夢であったならこんな鮮明に感触があるものだろうか?

目を背ければ映ったのは竹林。

夢の最後に入った場所は確か竹林だった。

つまりそれが示すところは

フラン「現実……」

喉が渇く。

その言葉を出すことを拒否するように。

思い出したくない、あの感触は本物で。

頭が割れそうだ。

いや、そうなってしまえば良いとさえ思えた。

フラン 「あ、あぁ…、あ——」

ふんわりと柔らかく頭を抱かれた。

爆発寸前だったフランはそれだけで止まった。

フラン 「あか…つき………」

震える喉がなんとか言葉を発した。

それはすがるようで、必死で許しを求めるようだった。

しかし、暁は語らない。

許しも叱咤も、怒りをぶつけることも慰めることもしない。

スッ、と抱き締めていた手を離し、席を立つと二三言葉を交わすような声がして、暁は戻ってくるとフランに背を向けしゃがんだ。

その意味を汲み取り、フランはそっと手を伸ばす。

暁に触れる寸前で戸惑い、手を震わせながらも首に手を回した。

それを背負って暁は歩きだす。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.113 )
日時: 2014/04/02 12:32
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

眼下には生々しい戦闘の跡が残っている。

薙ぎ倒された木々が、抉られた地面が、その全てが苛烈さを語っていた。

暁「なぁ、フラン……」

そんな中で、暁は漸く沈黙を破った。

暁 「俺はどうすればよかったのだろう?」

フラン 「……」

暁 「どうすればよかったのか。どうすれば美鈴を傷つけずに済んだ? どうすればお前に刃を向けずに済んだ? どうすれば咲夜達を危ない目にあわせなかった? どうすれば……よかった……?」

それは、独白めいていて

「あ——」

フランは圧倒された。

一週間という短い期間ではあったが、それでも暁の人となりは感じ取っていた。

フランにとって、咲夜と比べても遜色ない執事であった。

間違えば正してくれる者だった。

確固たる意志を持ち、理念を掲げ、それを曲げぬ心の元に進む、偉大なる刀だった。

向けていた感情は、父親に向ける敬愛の情に似ていた。

そういう存在だった。

暁 「すまん、答えが欲しかったわけじゃないんだ。覚悟を持たないまま、居候に戻ることを選択した結果はもう出た」

そんな存在が、自分に問い掛けた。

フランには、なんと答えて良いのかがわからなかった。

でも、一つ言わなければいけないことがあった。

それは、暁が教えたことで大事なこと。

フラン 「ごめんなさい……」

それは小さな声だった。

それでも、その声は暁に届いた。

フラン 「暁を壊そうとしてごめんなさい。美鈴を傷つけてごめんなさい」

暁の背中に顔を埋めながらも、言葉を紡ぐ。

フラン 「でもね、暁のことも美鈴のことも大好きだよ? あんなことしちゃったけど、大好きなんだよ? ……嫌われちゃったかも、しれない、けど……大好き……だよ」

それを言葉にするだけで涙があふれそうになった。

必死で堪えて、なんとか言葉にすることができた。

暁 「……だ」

フラン 「え?」

ぼそりと言った暁の言葉はフランには届かなかった。

暁 「いや、なんでもない。

別段執事を辞めたからといっても、永遠の別れというわけではない。これからも紅魔館の居候だろうし、いつでも会えるだろう」

フラン 「ホント?」

フランは顔を上げ問う。

暁 「ああ。それに、フランが地下から上の階に遊びに来ても良い」

フラン 「うん!」

フランの涙はもう止まったようだった。

暁は柔らかな笑顔を浮かべていた。

暁 「よし、少し急ぐか。着いたら一緒に美鈴に謝るとしよう」

フラン 「うん!」

こうして、刀と吸血鬼はスピードを上げて紅魔館に向かっていった。




数十分後の紅魔館には、全快になった美鈴が、二人に謝られてあたふたした様子があった。

その後には、三人で笑い合うことができていた。

そんな刀と吸血鬼と門番の後日談。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.114 )
日時: 2014/04/02 12:35
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

レミリア「あれで良いのかしら?」

パチュリー 「良いのよ、あれで」

少し欠けた月の下、紅茶が揺れる。

パチュリー 「フランは壊す意味と向き合った。今まで本当に向き合ってこなかったものとね。壊すことを知れば、壊さないこともわかる。だから、無闇に壊さなくなる。それは能力のコントロールに繋がる」

一息で言い切ると、喉を潤すために紅茶を口に含んだ。

パチュリー 「門番は怪我しちゃったけど……大事は無かったし、概ね予定どおりじゃない」

パチュリー 「あれ、実の姉以上に懐いてるけど」

レミリア 「あ——そ、そそそそんなここと、なななないわよ?」

パチュリー 「震えすぎて紅茶、零れてる」

うっと唸ると一度コホンと咳をして、カリスマを取り戻す。

パチュリー 「いいのよ。そろそろ姉離れしなきゃいけない時期よ」

暁とフランが戦ってる時に、バレない位置から覗きいつでも助けられる態勢でいたり、フランが帰ってくるまであっちへうろうろこっちへうろうろ落ち着きがなかった者が言うことではなかった。

パチュリー 「そう」

微笑みながら全部含めてそう答えておいたパチュリーであった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.115 )
日時: 2014/04/02 12:38
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第二十九章−近づいたり遠ざかったり−

咲夜は、寝呆け眼を擦りながら起き上がる。

起き抜けの頭ではいくら考えても答えは出ない。

台所では既に朝食が出来ているのだろう、部屋まで美味しそうな匂いが漂っていて、それが咲夜の思考を引っ張っていく。

暁は時間に正確だ。

いつも同じ時間に朝食が出来上がる。

いつもは手伝いなどをするようにしているので、咲夜にとっては常日頃よりも若干遅い起床だ。

それに気付いて急いで服を着替え、部屋を飛び出していった。

そうしているうちに、夢は夢故に薄まったのだった。








廊下を駆け抜け、台所のドアを勢い良く開け放った。

その先にはいつもどおりの暁の姿と、レミリアの姿があった。

暁 「おはよう、咲夜」

レミリア 「朝から慌ただしいわね、どうしたの?咲夜?」

ごく自然に挨拶をしてくる。

咲夜 「おはよう、暁。おはようございます、お……お嬢様?」

レミリア 「あら、咲夜。私はここにいてはいけないのかしら」

咲夜 「い、いえ、そういうことでは……。でも、お嬢様料理できたんですか?」

レミリア 「妖精メイド達に料理を教えたのは誰だと思ってるの。それに、元々はフランの世話だって私一人でやっていたのに」

呆れたようにため息を吐き、答えるレミリア。

レミリア 「ダメよ、咲夜。質問する前に答えにたどり着かなきゃ。貴女は私のメイドなんだから」

起きたばかりで頭が未だぼーっとしているとか、突然のことでとか、色々言い訳したいこともあったが、それこそ完膚無きまでに叩きのめされるだろう。

レミリアのお小言に咲夜は、ある意味素直にうなだれた。

だから気付かなかった。

何故ここに二人がいるのか。

気付けていたら此処から先のことは変わっていたのかもしれない。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.116 )
日時: 2014/04/02 12:42
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)


暁「咲夜。準備ができたら森の出口に来てくれ」

咲夜 「え? 家事はどうするの?」

朝食を食べ終わり、二人が食器などの洗い物を済ませたところで暁が口を開いた。

無論、仕事はこれから始まるものであって、ほとんど終わっていないのと同じ状態。

当然の疑問を咲夜は投げかけた。

暁が今まで家事をしない日など、通常時にはありえないことだった。

暁 「代役を立てた。今日の分は問題ない」

咲夜の分もな、と暁は言う。

若干の違和感を持ちながら、次の疑問を投げる。

暁 「出かけるならここから一緒に行けば良いんじゃ——」

レミリア 「ダメよ、咲夜」

咲夜 「お、お嬢様!?」

後ろから抱きつきその言葉を止めさせたのは、レミリアだった。

レミリア 「これはね、デートのお誘いよ。貴女、今気合い入ってない服装じゃない。暁はその気合いの入ってない服装着替えてこいって言ってるのよ」

暁 「そこまでは言ってないが……」

暁は軽くツッコミを入れながら、言うべきことを整理する。

暁 「そうだな、ちゃんと言うべきか」

コホンと一つ咳をして、それから言った。

暁 「今日一日俺に付き合ってくれ」

咲夜 「でーと……? 私と暁が……?」

たっぷり三秒かけて理解し、暁の方を見やる。

特に大きな感情も無く……いや、その顔は無表情過ぎた。

それ故に、咲夜にはわかった。

暁の言葉が本当であることと、それが真剣な気持ちであることが。

カーっと赤面する咲夜。

咲夜 「お嬢様、失礼シマス」

そう片言で答えると、素早くレミリアの拘束を抜け自らの部屋へ走り去った。

何とかポーカーフェイスを保ちきった暁はほっと息を吐く。

暁 「さて、一応承諾ってことでいいのか」

レミリア 「あの子が断るはずもないじゃない」

暁 「そんなものか?」

レミリア 「そんなものよ」

優しい微笑みを零しながら、レミリアが言った。

気付かれない程度に暁は表情を変え、また戻した。

暁 「では、俺は先に行って待ってるとしよう」

レミリア 「そうね、デートは男が待ってるものだもの」

レミリアは袖を口に当て、笑いながら言った。

そうして、

レミリア 「いってらっしゃい」

レミリアが言った。

その言葉に暁は答えられなかった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.117 )
日時: 2014/04/03 08:52
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁は一人、咲く夜を待っていた。

暁の格好も、いつもの代わり映えしない着物ではなく、黒のチノパンにロンT、キャスケット型の帽子とどことなく現代風な格好だった。

暁にとって着物が気合いが入ってない服装、と言うわけではなく、戦闘にも使う服であってこのような機会には不適切だと思ったが故の服装だ。

咲夜 「ごめん、お待たせ」

「いや、俺も——」

息を呑んだ。

今さっき来たところだという常套句は接げなかった。

いつもの服装を黒くしただけ(細かい場所は違うが)で随分と印象が違う。

銀色の髪と黒が相まって艶やかさが際立ち、髪がとても綺麗だった。

咲夜「ど……どう?」

暁 「……」

咲夜「暁?」

暁 「いや、すまん。正直見違えた」

ようやく復帰した暁は、自らの状態を正直に吐露した。

ただ、繕う程の心の余裕もその必要性もなかっただけなのだが。

咲夜 「ふふ。ありがとう」

暁の様子に化かした様な気分になり少し上機嫌な咲夜は、笑みを零しながら言った。

咲夜 「それで? 今日はどこに行くの?」

暁 「そうだな、これを被っておけ」

そう言って自分が被っていた帽子を咲夜に被せる。


暁 「人里へ行こうか」

咲夜は素直に従うことにする。

自分の意見がなかったということもあるが、出かける前レミリアに『相手のリードに従うこと』と厳命されていたからだった。

こと男性については百戦錬磨、一騎当千のレミリアの言うことだからこそ、咲夜はそれに逆らわないことにしたのだった。

ただ、かぐや姫が貢ぎ物をたくさん頂いていたような時期には、デートは主流ではなかったのであるが。

そこまで気が行かないくらいには、咲夜も舞い上がっていた、ということだろう。

二人は並んで人里へ向かって歩きだした。

咲夜は忘れたが故に気付くことはなかった。

今自分がいる場所は、自分が羨んだ場所に近いことに。









村人 「おはようございます、暁さん」

暁 「おはよう、息子さんは元気か?」

村人 「おかげさまで。また暁さんが来るのを楽しみにしてましたよ」

定型句のような会話を人里の見張りの人間と話している。

会話を聞いた限り、相当何度も出入りしているようだ、と咲夜は思った。

村人 「おや、そちらの方は?」

と、ふとした流れで咲夜に話題が飛ぶ。

全く別のことを考えていた咲夜は咄嗟に対応できなかったが、

暁 「こっちは「あ、紅魔館とこのメイドさんですね」っと」

暁がフォローを入れる前に、見張りの人間はそう言った。

どうやら咲夜のことを元々知っていたらしい。

村人 「あぁ、あんまり引き止めてもなんですね。どうぞ御通りください」

そうして、雰囲気を悟ったのか見張りの人間は道を開け暁に先を促した。

暁 「失礼するよ」

そう告げながら暁は失敗したと思い、頭をかいた。


咲夜 「だから帽子かぶせたのね」

咲夜は暁の隣を歩きながら、少し嬉しそうに言う。

咲夜 「人里には買い物とかに来たり、お遣いとかで来てるから大丈夫なのに」

普段ならしないような暁の失敗が可笑しかった。

暁 「うむ、では役立たず君は回収するとしよう」

暁が手を伸ばし帽子を取ろうとするが、咲夜は帽子を両手で押さえ暁の少し前に出て振り返りながら言った。

咲夜 「いいの。これ気に入ったから」

暁 「そうか?」

咲夜 「そうよ。さっ、行こ?」

その笑顔は暁にとって少し眩しかった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.118 )
日時: 2014/04/02 12:52
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

「「ふぅ」」

茶屋に入り、椅子に座ったところで二人は同時に息を吐いた。

なれないことをして少々疲労を感じるというのもあるが、それ以上に人に話かけられて止まることが多く、気疲れというのが大きい。

咲夜「暁に知り合いが多いとは思わなかったわ」

暁と歩いているだけでレミリアと歩いているとき以上に声を掛けられていた。

おそらくレミリアよりも話しかけやすいということもあるのだろうが。

咲夜 「特に子供が凄かったわね」

一人駆け寄ってきたと思えば、あっという間に周りを囲まれ「何しに来たのー?」から始まる質問攻めを食らうことになったことは今日一番の疲労ポイントだった。

ちなみに、子供たちの質問には「このおねーちゃん誰ー?」から連なるものもあったのだが、全てに暁はうまい具合にお茶を濁していた。

一方質問攻めに慣れていなかった咲夜は終始あぅあぅとなっていたので、あんまり余裕はなかった。

咲夜 「暁先生とか呼ばれてたけど、あれは一体?」

咲夜が若干疑念のこもった目を向ける。

暁 「あぁ、慧音に手伝いを頼まれて寺子屋で授業をしているからな」

暁は慧音と一緒に飲んで以来、たまに人里に赴き先生のようなことをしていた。

慧音曰く「私以外の者に教わるのも良い経験だろう」だとか。

暁がなぜ今まで自分一人でやっていたのかを問えば、「適材がいなかったからだ」と、遠い目をして答えられてしまった。

一番親しいであろう妹紅を思い浮かべてなるほどと十分以上に納得した。

我が儘をいった生徒を燃やしてしまいそうだと、本人が知ったら憤慨しそうな感想を添えて。

長い間人間社会に溶け込んでいたこともあり、他者に教えられる程度の教養もあった。

咲夜 「へぇ、そんなことしてたの?。そういえば暁ってよく小さい子に好かれてない?」

咲夜はふと思ったことを口に出した。

永遠亭ではてゐと悪戯仲間であるし、フランは言わずもがな、今回の寺子屋の子供たちも皆マイナス感情は持っていないようだった。

暁 「ふむ、そうだな……、甘いからかもしれん。昔からの条件反射なんだが」

咲夜 「甘い……? あれが……?」

咲夜が思い浮かべたのは、レミリアのことである。

あれも一応好かれているだろうと勘定に入れていた咲夜ではあるが、どう考えても暁が咲夜に甘いようには見えなかった。

暁 「あれは別だ。自らを主と称する者だからな」

当たり前のように暁はそう答えた。

ただ、無意識下で若干他者に比べて甘かったりもするのだが。








凡そ、このような普段とあまり変わらない二人の会話は緩やかに流れ、淀まず日が傾くまで続いた。

いつも通りと言ってしまえばいつも通りの特別な一日は残すところあと少しだけ続くことになる。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.119 )
日時: 2014/04/03 08:54
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

メイドは刀に手を引かれ、一寸先も見えない程の闇を進んでいく。

二人とも夜目は利く方であり、特に咲く夜は能力上暗闇程度単に光波が受信できないだけのことである。

その咲夜が自らを闇に置いて行動していることには理由がある。

というのは至極単純で、暁が目をつぶっていてくれと頼んだからだ。

その意図を正確に読み取り、能力による状況察知すら放棄したのだった。

二人に交わす言葉はない。

ただ黙々と道無き道を進んでいく。

体感で若干上り坂を登っていること以外は情報は無い。

周りはひどく静かで、足音が二人分響くだけだった。

ふと、前の足音が止む。

目的には達したということだろう。

暁 「開けてくれ」

短く、暁が告げる。

それにはゆっくりと目を開けた。





——それは一面に広がる星月夜だった





咲夜は息を呑んだ。

自分のいた月はこんなにも綺麗なものだったのかと。

いや、そんな言葉すら陳腐。

暁が短く用件だけ言った意味がわかった。

これに言葉はいらない。

暁の能力で道を作ってきたのか、周りに遮蔽物は無い。

眼下には竹林が広がっており、様子をうかがうことはできない位の暗闇だった。

そして、空の暗闇には月があり、星がある。

たったそれだけの景色がここまで個を魅了するのかと。

幻想郷のどこにいても空を飛べば、この景色は見えるはずである。

それだけに驚嘆も大きかった。

なぜ今まで気付かなかったのか。

いや、今はその気付かなかった事実に感謝した。

今この瞬間に気付けたことに対して。

咲夜は手を伸ばせば届きそうな月に、手を伸ばしかけてやめた。

見惚れるより暁にお礼を言うのが先だと思ったからだ。


「あかつ——」


そうして。


そうして。


帽子は二つに分かれヒラヒラと舞落ちて暗闇に飲み込まれた。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.120 )
日時: 2014/04/03 08:55
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

第三十章−予定調和‐


咲夜はゆっくりと落ちていく帽子を見送った。

帽子は切れたが、咲夜自身はただの髪の毛一本ですら切れることなく健在していた。

暁 「ほう、今のを避けるか。流石は紅魔のメイド。」

いつもと変わらない調子で暁が言った。

それ自体何でもないことのように。

咲夜 「突然何するの?」

なんとなく不穏を感じとった咲夜は静かに質問を投げた。

暁 「何、見てのとおり切ろうと思ったのさ」

いつの間にかいつもの着物姿に戻った暁は、無表情にそう言った。

暁 「紅魔館との縁をな。おまえを斬れば、俺を幻想郷に縛り付けるものはなくなるだろう」

咲夜 「それは一体どういう……」

理解を拒否するように咲夜は聞く。

暁 「幻想郷を出る。それだけのことだ」

その咲夜が聞いた意味を理解しながら暁は言うことを止めなかった。

それは或いは自分に言ったようだったかもしれない。

暁 「狭き世界の家族ごっこにもいささか飽きた」

その言葉と共に自らを呪から解放する。

同時に膨れ上がる威圧感。

暁 「全てを終わりにしよう、咲夜」




——嫌だ




暁を拾った日もこんな満月の夜だった。




——嫌だ




それから生きてきた時間に比べれば短い間だが、様々なことがあった。




——嫌だ




いつの間にか日常になった暁が、いなくなると言う。




——嫌だ




「嫌よ!!」

堪えきれないように咲夜が叫んだ。

それは咲夜の一番ストレートな想い。

まだ。もっと。ずっと。

日常を過ごしたかった。

今の紅魔館にいたかった。

咲夜 「勝手にいなくなるなんて絶対に許さない」

対立した二人の想い。

ならば、やることなど幻想郷において一つしかない。

咲夜 「手足圧し折ってでも連れて帰るわ!」

それが開戦の合図だった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.121 )
日時: 2014/04/03 08:57
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

苛烈にして激情。

表面にそれを押し出しながらも、頭の中で咲夜は至極冷静だった。

「(何にしても理由が薄すぎる)」

それが何度も先の会話を反芻した咲夜が出した結論だった。

正しく理解する(納得しないが)ならば、暁は幻想郷を出ていきたいらしい。

だとすれば、なぜ今自分(咲夜)を切ろうとしたのか。

その理由が薄すぎるのだ。

暁が一人でいる場面などいくらでもある。

それこそ早朝部屋から出ていく暁にも気付けていないのだから、そのタイミングで抜け出せばこれは必要ない。

気付けば追うだろうが、博霊大結界を越えてしまえば追うこともできない。

その中でこのタイミング。

更に言えば、咲夜を切る理由がない。

別の理由があるとしか思えないのだ。

それも相談もしないほどの理由が。

「(みんな自分勝手ね)」

咲夜は心の中で言った。

永琳も暁を追い出そうとした時そうであったし、輝夜も異変時マヨヒガに行くのにほぼ独断。

そして今回の暁である。

出ていきたいと言った暁を引き止める自分が、自分勝手な我が儘を押し通そうとしていることを理解しながらも咲夜はそう思った。

だからこの言葉は批判ではなく同族愛好だったかもしれない。

ただ今は。

自らの日常を続けるために。

自らの自分勝手を以て。

暁の自分勝手を叩き潰す。

「(とりあえず一発殴って理由はそれからでいい)」

ここで負ければ、その先に後悔があるのは目に見えていた。

とにかく暁を止めなければ。

冷静に分析していた部分を弾幕用に切り替えていく。

一片の敵意も害意もなく、ただひたすらに日常を守るために。

咲夜はその初撃、三本の太刀筋を避けることなく避けたのだった。






暁はまばたきの間に三度、刀を振るった。

無論、それで被弾させられるとは考えていない。

だから、咲夜が弾幕を抜いてきたのはいい。

だが、避ける素振りすらないのはどういうことか。

暁の見た光景は明らかに被弾した咲夜が無傷で抜けてきた、というものだった。

驚愕の間もなく右手を振りかぶる咲夜を見た暁は、四太刀目の斬撃を踏み込みのタイミングで叩き込む。

しかし——

暁「ぬぅ」

咲夜は既に斬撃の安置にあった。

それはまるで瞬間移動のように。

鞘走りを終えた刀はどう足掻いたところで咲夜を捉える軌道には至らない。

逆に咲夜の右手は正確に暁の心臓を捉えた。

詰まる呼吸と止まる世界。

それは被弾を余儀なくされる隙。

刀の付喪神として、ほぼ人間を再現しているがゆえに生まれた隙だった。

咲夜は一度目を瞑り



——傷魂「ソウルスカルプチュア」



一手目となるスペルを発動した。

頭を思い切り殴り付けたような衝撃が暁を襲う。

一瞬断絶しそうになる意識を気合いで繋ぎ止め、竹林の竹を一本掴み体勢立て直し、視線を上げた。

その作業の終わりと咲夜がスペルを唱えるのと同時。

「おいおい……」

思わず暁が声を洩らす。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.122 )
日時: 2014/04/03 08:59
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

パチュリーから聞いた暁に関する情報は主に二つ。

一つは異変を起こすきっかけとなった戦いにおいて、実戦中にパチュリーが気付いた、人間体は再生能力を除きほぼ人間であるということ。

もう一つはそのことについて自然と浮かぶ疑問を解決するための仮説だ。

曰く、なぜただの人間が弾幕ごっこについてこれるのか。

元来、人間が異変を解決しやすくするための弾幕ごっこではあるが、普通の人間が戦うことを前提としたものではない。

霊夢たちのような特殊な人間が漸く弾幕という枠組みで渡り合えるのだ。

そこにはできるできないの問題ではない、基本スペックの問題が横たわっている。

霊力によってある程度肉体を強化することは可能である。

しかし、反応速度。

脳からの電気信号の時点で経験則ですら超えられぬ、人間の限界がそこにはあった。

その限界を超える術が、霊夢の予知能力じみた勘であり、魔理沙の火力とスピードであり、咲夜の時止めであり、早苗の奇跡であるわけだ。

そして、立てられた仮説が並列思考だった。

単純に一つで処理していたものを二つで処理すれば、速度は二倍になる。

そこで暁は意志の分割を行った。

刀と人間、この二つが戦いに関して自らの経験則を以て状況判断、情報収集、行動決定を同時にかつ高速に処理すること。

これが暁の弾幕についてこれる要因。

刀の方は如何なる法則を以て知覚、処理行動を行っているのかはわからないが、人間体は五感を使った情報収集が行われている。

そして、人間は情報の七割を視覚に頼る。

光波を狂わせてやれば、その事実は仇となる。

暁は刀に戻り、再構成を行えば幻覚を消すことも可能ではあっただろう。

しかし、あえてそれを行うことはなかった。

簡単には行かないか、と咲夜は心の中で思う。

幻覚を消せたとしても、刀だけの間に組み伏せてしまえばほぼ詰みであったからだ。

それを思ったと同時に咲夜のスペル。
 

————奇術「エターナルミーク」


向かって右側から飛び込んできたものを肩口から袈裟切りで両断、ナイフは霞となってかき消えた。

その隙を見て背後のナイフにヒールキックをたたき込む。

その勢いで今度は前に脚を振りぬき鳩尾に正確にえぐり込む。

いつの間にか得た左手の小刀を頭に差し入れる。

ココまで全てナイフ。

右側に確かな隙を突いた、幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」を発動。

確かに当たると思われたそれは、

「!?」

脇腹から射出された刀によって相殺された。

刀から弾き出される確かなインパクト。

暁が地面を蹴る。

向かうのはたった今投げてきた咲夜。

慌てて竹に紛れるように逃げ出すが、そこはすでに射程内。



——憑符「鬼神千手観音」



巨大な武器が咲夜を襲った。

確信と共に巨大化した武器が小さなクレーターを作り出す。

暁 「む——」

そこから現れたのは咲夜ではなくナイフ、身代わりの証明だった。



——傷符「インスクライブレッドソウル」


——喪符「鬼神哀愁歌」



白い満月に似たものを見ながら、咲夜は何百本目かのナイフを投げた。

竹林に身をを隠して不意を打てたが、同じ手は喰わないだろう。

そもそも哀愁歌の中で再構成を行っているであろう暁にもう一度同じことをするのは不可能だ。




刹那、暁が、白い満月を突き破り飛び出してくる。

ナイフを牽制に撃つが、意に介ぜず一刀の基に両断。

スピードすら落とさず射程内まで踏み込む。

「(逆袈裟!)」

咲夜の身体能力は自らのイメージを最適に再現する。

まずは右足で逆袈裟に来ている暁の腕に着地。

それを足場として頭を刈り取るように左足を振り切る。

頭を下げてそれを避けた暁に対し、右足の力のみで上に飛びくるりと一回転。

その勢いを乗せて下げられた頭にカカト落とし。

それに一瞥もくれず、暁はバックステップで距離をとった。

前に流れた暁の髪が咲夜の足と接触し、その場で千切れていった。



——喪符「鬼神哀愁歌」



——幻符「殺人ドール」



咲夜は弾幕の光を盾に哀愁歌との距離を詰める。

一歩前進したところで両腕を上げ顔をガードした。

視界にしなりながら落ちてくる足を捉えたからだ。

恐らく半歩程の差。

距離が近ければ近いほど思考速度がものをいう。

足と腕が接触、ガードの上から咲夜は弾き飛ばされる。

暁が追撃をかける前にスペルカードを宣言した。



——幻術「マイナイフリカージョン」



一帯にナイフを展開し、追撃を拒否する。

暁も墜落したであろう場所に斬撃を飛ばすが、爆発を伴う射撃で相殺。


それを機に咲夜はリカージョンを解除した。

視覚を遮断した奇襲をかけたところで、手痛いカウンターを貰うことは見えていた。

今までやってきたことは逆である。

咲夜がわざと後手に回り後の後をとる戦い方をしていた。

カウンターを食らえば反応すらさせず両断されるだろうことを良く良く理解していた。

虚を突く限り暁についていけることは先のことで証明済み。

ならば全力で追いついていくのみだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.123 )
日時: 2014/04/03 09:02
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

次が最後である。

それは二人が何とはなしにわかっていた。

「……」

「……」

目視が可能になった先にいる暁と目が合う。

ゆっくり三秒見つめてから静かに目をつぶった。

自らの言葉を反芻するようにたっぷり時間をかけて目を開け、そっと口から出した。

咲夜 「全力で連れて帰るわ。何処かへなんて行かせないから」

力強かった。

確固たる意思であった。

「……」

暁はそれに答えず、沈黙を返した。

スッと刀を上げ上段の構え。

それを見て咲夜の腰も落ちる。

そして、示しを合わせたように同時に動いた。


——憑符「童子切」


ギロチンのように振り下ろされる鬼切丸を咲夜は見た。

普段は線にしか見えないそれを今は映像として捉えられていた。

咲夜の額前三センチ。

不自然に鬼切丸は止まった。

否、止められた。

他ならぬ咲夜の両腕によって。

「ハアァァァァァア!!!」

気合いの籠もった声と共にそのまま後ろへ放り投げ、暁の間合いを食い潰していく。

暁は刀を手放さず一緒に宙に投げられたのを足場を作り、無理矢理に引き止めた。

一度肩の高さまで持ち上げ、刀を巨大化させたまま素早く幻影将門を発動、同時に刀は振り下ろされた。



——天獄「久遠劫の回廊」



暁のたどり着いた色即是空の多重斬撃とは異なる境地、久遠の檻——自由斬撃。

自身の座標を無視して放たれる斬撃を暁が放てる最大数九。

その九本に関して質を追い求めた末の一枚。

計七十二本の自由斬撃は、その巨大さ故に剣圧のみで破壊を生んだ。

七十二の剣圧は混じり合い溶け合い、中心にいる咲夜を目として強烈な勢力に拡大していく。

それはさながら堅牢。

迷い込んだものを飲み込む、無限に続く走馬灯の回廊。

対して咲夜が用意したのは二百数本にして最後の銀のナイフ。



——銀符「シルバーバウンド」



音が爆ぜた。

これが咲夜の本命。

これまでの身体能力向上など副次的な作用でしかない。

恐らくは、副作用を応用した内気功の爆発的放出現象だと暁は分析した。

同じように咲夜を目として形成された風は堅牢をあばら家にし、自由斬撃すらずらすことに成功した。

できたスキマからスペルを攻略した咲夜に、しかしながら休みを入れる間など一瞬足りともありえない。



——居合「鬼神斬—惨—」



迎え撃つ神速抜刀、概念斬撃を咲夜は気合い避けする覚悟を決めた。

久遠劫の断罪の脱出に重ねられた鬼神斬は止めの構えだと、そう読んだからだ。

スペルを打ち合えば物量として負けることは見えていたし、刀の間合いより、蹴の間合いより内に入れれば、「ソウルスカルプチュア」をぶち込み勝つイメージは既に出来上がっていた。

止めの構えを破られれば必ず動揺ないし、数瞬の揺らぎは見られるはずであり、その間に決着を得ることも可能だという思いもあった。

それを考えれば鬼神斬を気合い避けは部の悪い賭けではなかった。

シルバーバウンドによって牽制されていたされていた暁自身ももその覚悟を支えていた。

咲夜の思考がフル回転を続ける。


一本目を右足を引くだけで避け、胴を薙ぐような二本目を地面に手を着きながら回避。

そのままクラウチングスタートの要領で前へ出る。

絶妙なタイミングで地面を蹴り、前宙の間に三本目を越えた。

加速を続ける咲夜の思考はここで暁までのルートを割り出した。

覚悟をしてから一秒にも満たず、咲夜はそのルートに飛び込むのに躊躇はなかった。

暁までの距離、約十メートル。

自らのイメージに自分を乗せる。


九メートル


イメージにピッタリとはまる感覚が更に咲夜を加速させた。


八メートル


咲夜は進む。

最高のレスポンスを発揮する身体に助けられ、着実に暁との距離を詰めていく。


七メートル


危険故か、頭の中で警報が鳴らされ続けている。

それを精神力で無理矢理無視した。


六メートル


より一層大きく鳴った警報にふと疑問を抱いた。

ルートを見つけたのは一秒足らず。

だが、果たしてそれは正しいことなのか。


五メートル


その考えが、咲夜を救った。

目の前に突然あらわれた暁がその疑問の正当性を証明していた。

「縮地……!」

自らが作り出した剣撃の雨の中を暁は躊躇いもなく飛び込んだ。

それが意味することは避けたのではなく、避けさせられていたということ。

つまり誘導されていた。

鬼神斬は止めではなく、次の一太刀こそ止め。

まだ間に合う、と咲夜はナイフを展開する。

「間に合わない!?」

能力を使った回避を不可能にする、一部の者が持つボムガードを無効化する、ただそれだけの一太刀。

たった半歩避ければ当たらない。

そういうもの。

それを避けることが叶わない。

濃厚な死の気配に、防衛本能として鬼切丸の鞘走りを見た。

しかし、その光景に強化された身体能力はついていかなかった。

咲夜が感じた濃厚な死の予感。

恐怖の余りに気絶するというのはよくある話で、本来より咲夜が身を固くするのも無理はなかった。

一度は咲夜を救った本能が、今度は足を引っ張った形。

そして、輝夜に放ったときとは刃を逆に。

「人鬼『羅生門—滅—』」

鞘走りが終わったと同時にスペルが宣言された。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.124 )
日時: 2014/04/03 09:03
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

真剣白刃取りも考えたが、不可能だ、と切って捨てた。

あれが可能だったのは、巨大化した刀であり、必然的にスピードの減衰があったからだ。

神速を以て振るわれている羅生門を受け止めるなど不可能だろう。

咲夜は目を瞑った。

そこに一切の抵抗意志はなく。

何でこんなことになってしまったのか、と思いながらも暁が来てからのことを思い出していた。

初めてプレゼントを貰ったなど小さなことから、異変のような大きなことまで。

そこまで考えて何となく思ってしまった。

「(暁になら、いいかもしれない)」

そうして、無意識に暁に手を伸ばしていた。



決して届くはずのないその手はゆっくりと伸びていき。



「え?」



——指先が暁に触れた。



目を開ければそこには暁が居た。

髪の僅か一センチ手前、そこに見えない壁があるように微動だもせず鬼切丸が止まっていた。

「…………」

暁に表情はなかったが、咲夜には辛いように見えた。

鬼切丸を無視して暁に一歩近付く。

鬼切丸に髪が触れ、暁がピクリと反応を見せる。

両腕を背中に回して、割れ物に触れるように優しく抱き締めた。

咲夜 「もう、やめない?」

辛いように見えた瞬間に咲夜に自分の気持ちは消えていた。

とにかく、辛いことをなくしてあげたいと、ただそう思ったのだった。

抱き締められながら鬼切丸を振り下ろそうとするが、やはり一センチ手前で動かなくなった。

咲夜 「なにがあったの? 言ってくれないとわからないわよ……?」

戸惑い、迷い、鬼切丸は粒子になり暁にしまわれた。

空いた右手は咲夜の頭に触れようとして、それを止めた。

代わりに両手で肩を押し、咲夜の正面に立った。

そして、ゆっくりと話しだした。

暁 「縁を切ろうとした。文字通りの意味で、な」

縁とは本来見えぬ、実体を持たないものだ。

しかし、暁には羅生門によって物理的に切ることができる。

暁 「首筋から右心房を通りそのまま振り抜く。それだけで縁を切り裂ける」

戻し切り。

突き詰めたその技術は、それだけのことをして縁のみを切り、決して傷を付けぬことを可能にした。

暁 「縁を切るというのはよく聞く話ではあるが、これは生易しいものではない。切れた縁に関する情報の一切を失うことになる。つまりは現在のみならず、過去は無論、未来までもなくす。思い出すことも、すれ違うことも可能性は皆無だ」

咲夜 「やろうとしたことはわかった。でも、なんでそんなことを?」

咲夜の疑問はそこだ。

何故こんなことをする必要があったのか。


暁「初めの違和感はレミリアの部屋にてお前が来たことだ」

その時、咲夜は危ない気がした、と言った。

しかし、気がしたというのは何故か。

元来感知能力の優れた咲夜であるが故に、暁はそういうものなのだと、その時は気にしなかった。

暁 「永琳との一戦もそうだ。今になってしまえば、疑問を持つべきだった」

あの永琳が咲夜を、招いてしまうようなへまを犯すだろうか?

そんな中、咲夜は暁の下に辿り着けた。

明らかに不測の事態だろう。

暁 「確信を得たのは今朝の話だが。レミリアに一通り話を聞いた」

フランとの一件での余りに確信に満ちた発言。

既にやるべきことを理解した行動。

確かに暁は咲夜とレミリアが必要だと考え、紅魔館に向かっていたが、それは紅魔館に近付けば見つけてもらえると考えていたわけで、森に入る前に会えるとは思ってもみていなかった。

暁 「パチュリーから聞くに、俺を持ち帰った際『持って帰らなければいけない気がした』と言ったらしいな」

こくりと咲夜が頷いた。

確かにそういった感覚を覚えたのだ。

暁 「此処からは暫く意識を失っていたから推論になるが、咲夜が俺を拾った当時、防衛本能として能力を無差別に振りまいていたと考えられる。幸い咲夜のように一次的に効果を発揮するものではない。従って、何の変化も無かったはずだ。しかし、その効果範囲に咲夜が踏み込んだ」





無を有にする程度の能力。





器がなければ発動しない能力。





その器になったもの、咲夜と暁の間に無かったもの。







「運命…ってやつだろうな、それもとびきり強力な。」

紅魔のメイドと地上の刀。

あり得なかった運命。

だからこそ、反転して強力な運命で結ばれることとなった。

多少の強制力を伴うそれをだ。

時に片割れの危険を察知し、時に強い思いを伝える。

まさに以心伝心。

だからこそ、これを知ったとき暁は切らねばならぬと、そう思った。

暁 「思考誘導。心理誘導。それ以外にもこれだけ強力な縁だ。他の細い縁をいくつも引きちぎっただろう」

つまり、未来を変えた。

出会わないはずのものと出会い、出会うはずのものと出会わない。

伝わらないものを伝える。

知らないはずのことを知る。

もし。

もし、今抱いている感情が作られたものだとしたら。

それを知ってしまったなら。

そして、それをなくす手段を持っていたとしたなら。

暁 「斬るべきであろう。それだけの業だ」

暁は断言した。

否定すべき言葉ではない、とでも言うように。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.125 )
日時: 2014/04/02 14:14
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「違う」

だからこそ、咲夜は否定した。

今なら、レミリアの問いにも胸を張って答えられると、そう思いながら。

咲夜 「私は暁のこと、家族みたいに思う」

家族への親愛。

大好きな兄、そんなところだろうか。

暁 「それは縁のせいだと……」

咲夜 「違う!」

言い切らせず、咲夜は否定する。

そういうことではない、と。

咲夜 「この気持ちは作り物かもしれない。でも、それがどうしたの?」

言い放った。

そんなことなんでもない、と。

咲夜 「作り物かどうかなんてどうでもいい。ただ、今抱いているこの気持ちは本当。だったらそれ以外になにか必要?」

暁は言葉が出なかった。

確かに因縁というような言葉があるように、縁がもたらす感情はプラス方向であるとは限らない。

だが、縁が強制力をもって感情を持たせたことも恐らく事実である。

そのことを理解した上で、こう言っているのだ。

レミリア 「そういう結論にいたると思ってたわ。流石私の咲夜ね」

咲夜 「お嬢様?」

咲夜の後ろから突然現れ、頭をグリグリ撫でながらレミリアが言った。

パチュリー 「全く、考え過ぎなのよ」

Re: 東方刃暁録-sword morn ( No.126 )
日時: 2014/04/04 18:55
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

パチュリーがぽかっとグーで暁の頭を殴ったが、大した威力は無かったようだ。

フラン 「よいしょ…っと」

暁 「待て、フラン」

フラン 「ん? 何?」

暁 「その棒はなんだ」

フラン 「パチュリーのパンチじゃ威力足りなかったかなって」

パチュリー「俺ごとやれ! レミリア!!」

レミリア「うおぉぉォォォーーー! まかんこうさっ〇〇!」

暁「……」

「ヘブッ!?」

突然暁を羽交い締めし、ネタを始めたパチュリーにフランがレーヴァテインでツッコミを入れる。

頭から血がピューと飛び出しているのは気にしてはいけない。

フラン「こんなのだから運動が足りないとか言われるんだよ?お姉さまも乗らないでよ、シリアス雰囲気が台無し」

パチュリー 「あら、今乗らないでいつ乗るのよ」

初めに打ち壊したフランが言える台詞では確実にない。

そして主人公だったはずの二人は完全に置いてきぼりである。

それもレミリアたちなりの気の使い方だったりはするのだが。

レミリア 「まぁとにかく、これが私たちの回答よ。咲夜の答えが私たちの総意と思ってもらってかまわない」

あなたたちを含めてね、とレミリアは言った
レミリア「ただ私達に言わずに勝手にいなくなろうなんて、いい度胸ね」

暁「……そうだな。すまなかった」

と、言ってから暁の片手に刀が握られる。

しかし、それで身構える者は此処にはいない。

そのことに苦笑しながら、だがそれで更に決意を堅くし、地面へ刀を突き立てた。

暁「儀式のようなものだ。決意とは胸に秘めるもので、形などある物ではないが」

一呼吸分だけ間をとる。

暁「鬼切が誓う。紅魔館を我が主とす。我は剣で、我は盾。我が命脈尽き果てる迄あらゆる害意、敵意から守らん」

そして、膝を着き頭を垂れた。

レミリア 「全く、律儀ねえ」

咲夜「まぁそこが暁らしいっていうか……」

レミリア「好きなんでしょ?」

咲夜「お嬢様!?」

流石に咲夜もからかわれるのには耐性がなかった。

あらあら、と頬に手を添えて困ったふりをしているパチュリーもちゃっかりこれを楽しんでいる。

レミリア「さっ、何はともあれ解決ね。じゃあ」

「帰るわよ」

「帰りましょ」

「帰ろう」

「帰るよー」

「主殿のお心のままに」

















「「「「……え?」」」」

四者が差し出した手を見ながらそのままの姿勢で暁は答えたのだった。

咲夜 「え、えー、えーと、……暁?」

この硬直から一番早く反応できたのは、咲夜だった。

ここから普段いかに暁に弄られているかうかがえる。悲しいことだが。

咲夜「あの、大丈夫? 熱とかない?」

暁「いえ、問題はありません」

しかし、全く混乱からは抜け出せていなかった。

咲夜「暁、ちょっとタイム。時間を頂戴」

暁「御意」

さっと声の聞こえない程度の位置まで下がったのを見て、四者は円になった。

レミリア「作戦会議よ。あれは何」

パチュリー「熱でちょっとおかしくなってるのかしら?」

咲夜「いえ、熱はありませんでした」

フラン「一回叩いてみたら治るかな?」

レミリア「ダメよ、フラン。それはさらに壊れるフラグだわ」

散々な言われようであるが、幸い暁は一切聞いていない。

咲夜「ねぇ暁」

暁「ここに」

「!?」

突然傍に出現した暁にさすがにビビる咲夜。

咲夜「と、突然現れないで!」

暁「御意に」

片膝を着き頭を垂れている暁から一旦目を離し、一度深呼吸。

それだけでは足りず、もう三回深呼吸した。

咲夜「ど、どうしたの?」

暁「どうした、とは何でしょうか?」

咲夜「だから、突然主殿とか……」

暁「主殿は主殿でございましょう」

間を置かず、表情も変えず伝えた。

暁「誓いました。我が命脈尽き果てるまで我は剣で、我は盾だと。我が命を預けたる主は主殿でございます」

咲夜「えーと、そのっ、そういうのは求めてないっていうか、」

暁「我が命、受け取るに足らぬと、我が命などスッポン、いや、畜生、いや、糞虫にも劣るとそう仰りたいのですね? いえ、存分に理解していますが、今一度……なにとぞご慈悲を」

咲夜「いやいやいや!? だからそういう事じゃなくて」

暁「ま、という冗談はここまでにしておくか」

そして、何事もなかったかのように懐手していつも通りに話す暁であった。

咲夜「え?」

疑問の声をもらした咲夜とは違い、この手の悪戯に一番早く反応したのはレミリアだった。

レミリア「フラン。やりなさい」

フラン「うん!」

力の限り、手加減など一切混じらずフランはレーヴァテインを振り下ろした。

当然のように暁は避けるが、次の瞬間には首にヒヤリとした感覚があり、動くことができなくなっていた。

咲夜「次にやったら……細切れにするわ……」

暁「ハンセイシテマス……」

あまりにもガチな咲夜に片言で謝罪する暁。

暁 「だが、あの誓いはそれだけのものだと理解してくれ。本来ならばこのような口調で話すことはありえん」

咲夜「とにかく暁はいつも通りに話すのよね?」

暁 「そうだな」

それを聞いて咲夜はふぅと息を吐いた。

あんな口調を毎日されれば身が保たない(いろんな意味で)。

暁「続けるのだろう? 家族ごっこを」

レミリア「そうね。飽きるまでいつまでも遊んであげるわ」

パチュリー「因みに私たちは飽きっぽくないから覚悟しなさい」

暁「ああ、覚悟しておこう」

そして五人は悪戯っぽく笑い合い、並んで紅魔館に帰っていった。





「「「おかえりなさい」」」

「「ただいま」」

いってらっしゃいのときには言えなかった返事を、今度はしっかりと返した。

Re: 東方刃暁録-sword morn ( No.127 )
日時: 2014/04/04 19:02
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「時にフラン」

フラン 「ん? 何?」

暁 「なぜあの場にいたんだ?」

フラン 「それは、こんな面白そうなことほっとけないって皆で尾行し……ハッ」

自然な、違和感のない流れで聞かれて思わず口を滑らせたフラン。

そっと夕暁を上目遣いでうかがうと、珍しくカラカラと笑っていた。

暁 「そうか。尾行してたのか」

笑い事のように言う暁に、胸を撫で下ろし——

暁「喜べ、咲夜。今日の晩ご飯は吸血鬼の唐揚げだぞ」

ている場合ではなかった。

腕の中からヌタリという効果音と共に刀を引き出す。

レミリア 「止めなさい。フランを切るなら私を斬ってからにしなさい」

パチュリー 「いえ、この二人を切るなら私を!」

暁 「おまえらも同罪だ、馬鹿者」

二発間を開けず峰打ちが炸裂した。

パチュリー 「ちょっと暁! 今のは感動してお叱りなしの場面でしょ!」

暁 「黙れ、そこに正座しろ」

このやりとりの間、ツッコミの類の衝撃に慣れていないパチュリーは、しゃがみこんでプルプル震えていた。

暁 「それと、フラン」

フラン 「ッ!?」

暁 「今逃げたら吸血鬼のソテーだ」

フラン 「……はい」

暁の死角から逃げようとしていたフラン。

咲夜「その位に……」

しかし声は届いていないようだ…


暁「そもそも——」

それから暁のお説教は小一時間続き、三人は精魂尽き果てた様子で各自の部屋に帰っていった。


よくよく考えてみると、百年単位で追われ続けていた暁が、尾行などという行動に慣れていないレミリア達の尾行に気付けていないのはおかしいのであるが。

それもまた——————幸せな後日談、

何がともあれ、戻ってきた暁。

———時が過ぎようとも、

———年が経とうとも、

———争いがあっても、

折れないであろう、この絆。

運命の気まぐれか、はたまた偶然か、

空気はまだ、夏の香りがした。

そんな物語は、これからも、末永く続くのであった。

———東方刃暁録——これにて『完』

Inspiration

東方シリーズ
ZUN様


Scenario

黄昏。


Special Thanks

Only you.

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.128 )
日時: 2014/04/03 12:44
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

閑話編
この欄では、暁達が色々と会話…ぶっちゃけ懇談会じみた事をするコーナーです。
物語とは何か違うキャラクター性や、行動をしています。

ぶっちゃけて言うとかなり悪乗りしてます。
なので、不快感が出てきたら、すぐに退出を。

覚悟が出来た方、どうぞ…

あ、ちなみに、読むなら本編を読んでおいた方が良いです。ネタバレが含まれているので。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.129 )
日時: 2014/04/03 13:06
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

暁「ほ、本当にやるのか?」

レミリア「当たり前よ。皆もやる気なんだから、」

咲夜「…」

パチュリー「まあいいわ、このコーナーは本編であのことをどう思っていたかなどを話すコーナーよ。」

暁「まあ、チャキチャキ始めよう。」

レミリア「第一回閑話コーナー」

咲夜「で、始まりましたが何を話せばいいんでしょうか?」

暁「で、なんだこのセットは何だ」

レミリア「スタジオよ、スタジオ。ここでいろいろ話を進行させるの。」

パチュリー「じゃあ初ゲスト紹介するわよ。今日のゲストは月の頭脳、もとい八意永琳とその弟子の鈴仙・優曇華院・イナバよ。」

永琳「はいこんにちは、八意永琳よ。」

鈴仙「名前長いので鈴仙と言っておきます…」

暁「と言う事で、先ずはこのサイトの閑話コーナーの注意事項を、永琳」

永琳「…言う事はないわ。注意事項作者が書いてるはずだしね。」

暁「…だそうだ。では咲夜、質問を。」

咲夜「ええ、ではまずは読者さんが気になっているであろうことを質問させていただきます。」

———妹紅は酒をちょっとずつ飲めばひどく酔わないといいますが、一気に飲めばひどく酔いますよね?そこで度数は関係ないのでしょうか?

永琳「妹紅は度数は関係ないわよ。ただしなぜか一気がだめなのよね〜。それに暁が一番知ってるわよ酔い方は。」

———宴会の時に妹紅とレミリアが戦いましたよね?そこで弾幕を遮る結界に歪みができたとありますがどれぐらいすごかったのですか?

鈴仙「あれはすごかったですね。もう妹紅の炎で結界内が見えないくらいでしたから。歪むと思います、ええ。」

———暁はお人好しなのですか?

咲夜「お人好しというより…子供に甘いのよね、子供に。」

暁「まあそうだな…ではこの辺で仕切りにさせてもらおう。」

———続く。



Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.130 )
日時: 2014/04/03 14:04
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

レミリア「はいこんにちはーレミリアよ。」

パチュリー「今回のゲストは、楽園の巫女、博霊霊夢と普通の魔法使い、霧雨魔理沙よ。」

霊夢「こんにちは、博霊霊夢よ。」

魔理沙「それよりパチュリー、本貸してくれよ。」

暁「咲夜は?」

レミリア「あれ?どこ行ったのかしら?」」

霊夢 「ギャラは貰えるんでしょうね!?」

魔理沙「なあ、パチュリー?」

咲夜「…(←魔理沙の後方約5mに出現」

パチュリー「…ニヤ…」

※BGM:某サメ映画のあの有名な音楽

魔理沙「お前もう見ないだろ!?」

咲夜←後方約4m

魔理沙「ほぼニートだし!」

咲夜←後方約3m

魔理沙「風呂入ってないだろ!?」

咲夜←後方約2m

魔理沙「影薄キャラだし!」

咲夜←後方約1m

魔理沙「挙げ句、原作じゃ言ってる事が(゜Д゜)ハァ?だし!」

咲夜←後方約30cm

魔理沙「まあ何より本を…」

咲夜←後方零距離

魔理沙「(゜д)?」

咲夜「(´∀`)」

魔理沙「Σ(゜Д゜)」

咲夜「(゜∀゜♯)」

ピチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチューン

霊夢「さあ、魔理沙はほっといて始めましょうか。」

暁「だな。」

咲夜「まず質問を…」

———暁と初めてたたかった時の暁が払った一万円と、暁が今日スペルで打ち壊したものの修理代。どちらのほうが高かったのですか?

霊夢「そりゃもう10倍程よ!!じゅ・う・ば・い!!!!」

暁(ニヤニヤ笑っている)

霊夢「何笑ってんのよアンタ!あー!もう腹立ってきた!」

———夢符「封魔陣」

暁「ほう、暴力は良くないな、霊夢。」

霊夢「アンタねぇ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  しばしご歓談ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

咲夜「乱闘になってきたので、今回はここまでです。」

—————————続く。



Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.132 )
日時: 2014/04/05 18:41
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

レミリア「こんばんはー紅魔館の主、レミリアよ。」

暁「何故に言ったし…」

フラン「第三回閑話コーナー!!」

暁「やーれやれだぜ…」

パチュリー「コホン…ゲスト紹介行くわね、今回のゲストは堅苦しい歴史家こと上白沢慧音と蓬莱の人の形、藤原妹紅よ。」

慧音「やあ、よいこの皆、慧音先生だぞ」

妹紅「授業気分かよ…全く…」

咲夜「では、しつm『今回は俺が言おう』」

暁(ニヤニヤ)

妹紅「気持ち悪いな…ニヤニヤしやがって…」

慧音「まあいいじゃないか、それより早く質問してくれ。」

暁「あぁ、わかった。」

———妹紅はMOCOU'Sキッチンという企画をやってるみたいなのですが本当なのですか?

妹紅「ああ、本当だ。」

暁「おまえ、飯作れたのか?」

妹紅「当たり前だ!何年生きてると思ってる!」

慧音「確かに妹紅は上手いぞ、料理」

暁「お前は食べた米の数を覚えているのか?」

妹紅「え?どういう事」

暁「…何でもない…次行くぞ!」

———妹紅は9歳の時何かあったのですか?よければ教えてください。

暁(ニヤニヤ)

妹紅「ウワァァァァ!!言うな…!言うなぁぁぁ!」

慧音「落ち着け、 落ち着いて素数を数えるんだ 」

———ゲストではないのですがやはり咲夜はPADなのですか?

咲夜(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)

暁「いや、殺気をこっちにむけんでくれ・・・」

咲夜「お前は私を怒らせた。」

暁「皆…」

(皆、すでに退避完了)

咲夜「ロードローラーだッ!」

暁(冷や汗)

咲夜『無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

紅魔館のスタジオには暁の叫び声が響くのであった。

———続く

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.133 )
日時: 2014/04/06 08:45
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

あとがき
完結いたしました、東方刃暁録。

如何だったでしょうか?読み応え有ましたでしょうか?

何がともあれ、完結です。

暁のキャラ設定はジジ臭い、胡散臭い?とまあ諸々です。

紅魔館中心でしたが、(作者が好きでしたのでw)
登場キャラ以上に少ないです…はい。

・アリス出番少ないw
・地、星、神霊出てこない。
・咲夜キャラ変わってる…などなど

申し訳ございませんでしたm(__)m

最後に…

この作品をお読みになさてくれたお方、

  『有難う御座いました!!!」

以上、黄昏。です。

Re: 東方刃暁録-sword morn ( No.134 )
日時: 2014/06/09 23:42
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: pVoFPF2t)

ロック解除したのでコメ自由に書いてくださいー

Re: 東方刃暁録-sword morn ( No.135 )
日時: 2014/06/10 07:27
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: pVoFPF2t)

一気読みつくりますたー

Re: 東方刃暁録-sword morn ( No.136 )
日時: 2014/06/12 07:38
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: pVoFPF2t)

突然ですが、このサイト、小説カキコを移籍しpixivで小説を執筆することになりました。

この訳言い出したら止まらないので、止めておきます。

今まで自分の作品をご参照なさってくれた方々、有り難う御座いました!


またどこかで見かけたら遠慮なくコメントしてください。


後自分の作品にはロック掛けませんので、作者の中傷なり、何でも書き込んで下さっても構いません。



では、さようなら。