二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.123 )
- 日時: 2014/04/03 09:02
- 名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)
次が最後である。
それは二人が何とはなしにわかっていた。
「……」
「……」
目視が可能になった先にいる暁と目が合う。
ゆっくり三秒見つめてから静かに目をつぶった。
自らの言葉を反芻するようにたっぷり時間をかけて目を開け、そっと口から出した。
咲夜 「全力で連れて帰るわ。何処かへなんて行かせないから」
力強かった。
確固たる意思であった。
「……」
暁はそれに答えず、沈黙を返した。
スッと刀を上げ上段の構え。
それを見て咲夜の腰も落ちる。
そして、示しを合わせたように同時に動いた。
——憑符「童子切」
ギロチンのように振り下ろされる鬼切丸を咲夜は見た。
普段は線にしか見えないそれを今は映像として捉えられていた。
咲夜の額前三センチ。
不自然に鬼切丸は止まった。
否、止められた。
他ならぬ咲夜の両腕によって。
「ハアァァァァァア!!!」
気合いの籠もった声と共にそのまま後ろへ放り投げ、暁の間合いを食い潰していく。
暁は刀を手放さず一緒に宙に投げられたのを足場を作り、無理矢理に引き止めた。
一度肩の高さまで持ち上げ、刀を巨大化させたまま素早く幻影将門を発動、同時に刀は振り下ろされた。
——天獄「久遠劫の回廊」
暁のたどり着いた色即是空の多重斬撃とは異なる境地、久遠の檻——自由斬撃。
自身の座標を無視して放たれる斬撃を暁が放てる最大数九。
その九本に関して質を追い求めた末の一枚。
計七十二本の自由斬撃は、その巨大さ故に剣圧のみで破壊を生んだ。
七十二の剣圧は混じり合い溶け合い、中心にいる咲夜を目として強烈な勢力に拡大していく。
それはさながら堅牢。
迷い込んだものを飲み込む、無限に続く走馬灯の回廊。
対して咲夜が用意したのは二百数本にして最後の銀のナイフ。
——銀符「シルバーバウンド」
音が爆ぜた。
これが咲夜の本命。
これまでの身体能力向上など副次的な作用でしかない。
恐らくは、副作用を応用した内気功の爆発的放出現象だと暁は分析した。
同じように咲夜を目として形成された風は堅牢をあばら家にし、自由斬撃すらずらすことに成功した。
できたスキマからスペルを攻略した咲夜に、しかしながら休みを入れる間など一瞬足りともありえない。
——居合「鬼神斬—惨—」
迎え撃つ神速抜刀、概念斬撃を咲夜は気合い避けする覚悟を決めた。
久遠劫の断罪の脱出に重ねられた鬼神斬は止めの構えだと、そう読んだからだ。
スペルを打ち合えば物量として負けることは見えていたし、刀の間合いより、蹴の間合いより内に入れれば、「ソウルスカルプチュア」をぶち込み勝つイメージは既に出来上がっていた。
止めの構えを破られれば必ず動揺ないし、数瞬の揺らぎは見られるはずであり、その間に決着を得ることも可能だという思いもあった。
それを考えれば鬼神斬を気合い避けは部の悪い賭けではなかった。
シルバーバウンドによって牽制されていたされていた暁自身ももその覚悟を支えていた。
咲夜の思考がフル回転を続ける。
一本目を右足を引くだけで避け、胴を薙ぐような二本目を地面に手を着きながら回避。
そのままクラウチングスタートの要領で前へ出る。
絶妙なタイミングで地面を蹴り、前宙の間に三本目を越えた。
加速を続ける咲夜の思考はここで暁までのルートを割り出した。
覚悟をしてから一秒にも満たず、咲夜はそのルートに飛び込むのに躊躇はなかった。
暁までの距離、約十メートル。
自らのイメージに自分を乗せる。
九メートル
イメージにピッタリとはまる感覚が更に咲夜を加速させた。
八メートル
咲夜は進む。
最高のレスポンスを発揮する身体に助けられ、着実に暁との距離を詰めていく。
七メートル
危険故か、頭の中で警報が鳴らされ続けている。
それを精神力で無理矢理無視した。
六メートル
より一層大きく鳴った警報にふと疑問を抱いた。
ルートを見つけたのは一秒足らず。
だが、果たしてそれは正しいことなのか。
五メートル
その考えが、咲夜を救った。
目の前に突然あらわれた暁がその疑問の正当性を証明していた。
「縮地……!」
自らが作り出した剣撃の雨の中を暁は躊躇いもなく飛び込んだ。
それが意味することは避けたのではなく、避けさせられていたということ。
つまり誘導されていた。
鬼神斬は止めではなく、次の一太刀こそ止め。
まだ間に合う、と咲夜はナイフを展開する。
「間に合わない!?」
能力を使った回避を不可能にする、一部の者が持つボムガードを無効化する、ただそれだけの一太刀。
たった半歩避ければ当たらない。
そういうもの。
それを避けることが叶わない。
濃厚な死の気配に、防衛本能として鬼切丸の鞘走りを見た。
しかし、その光景に強化された身体能力はついていかなかった。
咲夜が感じた濃厚な死の予感。
恐怖の余りに気絶するというのはよくある話で、本来より咲夜が身を固くするのも無理はなかった。
一度は咲夜を救った本能が、今度は足を引っ張った形。
そして、輝夜に放ったときとは刃を逆に。
「人鬼『羅生門—滅—』」
鞘走りが終わったと同時にスペルが宣言された。