二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 『DAIVA』 ディーヴァ・アニヒレイトファンタズマ ( No.8 )
日時: 2014/04/29 16:45
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Z7CFL5rC)

 ア・ミターバは惑星エンタナの貴族ア家の跡継ぎとして生を受けた。

 宇宙に名立たる高貴な血筋に恥じぬように、厳格なる家柄に相応しくあるべきと幼き頃より徳を高め、教養を育み、学んできた。

 帝国士官学校を優秀な成績で卒業し、行く末は、父親の後を継ぎ、政治の世界に足を踏み入れるのか、母の補佐として宇宙外交官を務めるのか、と誰もが疑うことの無い確約された未来だと思った。

 だが、彼の人生を一変させる出逢いがすべてを変えた。

 ミターバ自身、己の運命さえも宇宙を構築する歯車のひとつとして、組み込まれる事になろうとはこの時はまだ、及びもしなかった。



 サティーというひとりの美しき女神のごとき女との邂逅が。
















 ミターバは今朝から酷く憂鬱だった。

 父、母との朝食で聞かされた突然の見合い話。

 いつかくるだろうと、漠然に思っていたが唐突に縁談が持ちかけられた。

 しかも、本人、ミターバ自身の意志など微塵も意に介さず、予定調和のように淡々と語られていく。

 相手はミターバ家と所縁のある由緒正しい家柄の貴族のお嬢様。

 社交パーティーで何度かダンスを踊ったはずなのだが、いまいち印象に残っていない。

 彼女だけではない。

 他の女性もほとんど、顔と名前が一致していない。

 女に興味がないわけではない。

 皆、同じに視えるのだ。

 人形のように。

 豪華絢爛に着飾った高級な人形の少女たち。

 ミターバには、それはなんとも滑稽に映ったものだ。

 幼少よりア家を継ぐ者として、厳しい教育を受けてきた。

 学問、武術、礼儀作法、その他もろもろ本当に役に立つのかという事柄を徹底的に教え込まれた。

  

 これも両親のため、家の名誉のため、と必死でこの身に刻んできた。


 しかし、現実は悪友と馬鹿な事をして、人目を忍び遊んでいた方が何万倍も楽しかった。

 学園は楽しかった。

 全寮制で、親の監視も比較的緩い。

 教師たちを欺くのは、難しい事ではなかった。

 女子寮に忍び込んでみたり、女の子を誘って街に繰り出したり、と青春を謳歌していた。

 が、

 その青春もつい先月、終わってしまった。

 卒業したのだ。

 あっという間の学園生活だった。

 そして再び、自由と言う翼を奪われ籠の中に閉じ込められてしまう。

 決められた道筋。

 終着駅まで延々と敷かれた一本のレール。

 自分は柵に阻まれた列車の中で、身動きできず運ばれる。

 目的地はとうに判っている。

 最初から教えられているから。













 



 ミターバは大きく溜息を吐き、人の波が行き交う大通りの街並みから、ひとり外れ、裏通りに入る。

 表街道とは趣が違い、ここにはあらゆる物が揃う。

 違法な薬物、非合法な代物、売春婦・・・など。

 両親がこんな所に出入りしていると知ったら卒倒するだろう。

 学生時代、よく悪友と来たのだ。

 勝手知ったるなんとやら。


 「おっ、アの旦那。久しぶりじゃないですか。ガッコ卒業してから、とんとお見受けしませんでしたぜ」


 裏通りの露店を眺めながら歩いていると、ガラクタを小売りする痩せた貧相な、だが鋭利な眼つきの男が声を掛けてきた。


 「ん? シドか。今度はCPUのジャンクパーツ売りか。相変わらず手広くやってるな」

 
 ミターバはにやりと笑った。