二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- chapter02 〜明日の登らない丘へ〜 ( No.185 )
- 日時: 2014/06/20 18:31
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: pR7JxfSl)
———次の日。朝食会も普通に終わり、自室でくつろいでいたところに……。『そいつ』は現れた。
「片桐の旦那ーー!!起きてたら返事しろーー!!」
「そんなに騒がなくてもいるから声のトーンを下げろ!ほかの人に迷惑だろ!」
『片桐の旦那』なんていうのは閉じ込められた奴だと一人しか思い浮かばないのだが、一応念のため扉を開けてみる。
その先には、俺の思惑通り鼎野が興奮を抑えきれない表情で立っていた。普段あまり表情を変えないように感じていたので、その変化にただびっくりしていた。
「…なにびっくりしてるんだい?」
「いや、興奮気味そうだったからな。何かあったのか?」
「食堂に行こうぜ!」
「主語がない主語が!!」
鼎野から食堂へのお誘いも珍しいが、その『食堂に行こうぜ』の向こうにある意図を俺は無意識に読み取っていた。
ちゃんと言ってくれ。そうでないとこんな状態だし危険が待っていないとも限らない。鼎野を信じていないわけじゃないんだけどな…。
俺が要件を聞くと、鼎野は声のトーンを上げてこう答えてきた。
「今食堂で瀬川の旦那が人形劇をするんだよ!!月樹野の姉御も興味があるみたいでさ、今から一緒に行こうぜ!」
「へぇ、瀬川の人形見つかったのか」
「そんなことはどうでもいいから早く、早く!!」
ま、まだ『Yes』の返事してないんだけど…。まぁ、興味もあるし『No』といえる雰囲気じゃないし、食堂まで行ってみようかな…。
そんな思いも関係なしに、鼎野は俺の背中を押しぐいぐいと食堂まで向かっていった。
「あ、片桐くん!あなたも来たんですね!」
「よぉ月樹野。瀬川が人形劇をやるんだって?」
「はい、先程鼎野くんからお聞きしまして。興味があるので見てみようと思ったんです。丁度お仕事も終わりましたしね」
「いつもいつもご苦労さん」
食堂では長テーブルに月樹野が座っていた。瀬川はどうやら厨房で人形のセッティングを行っているらしい。
俺は彼女と軽く挨拶を交わし、彼女の隣の席へ座った。同時に鼎野も俺の隣の席に座る。
まだ時間もありそうなので、月樹野、鼎野と話してみることにした。
「月樹野って、いつもご飯とか作ってくれるけど大変じゃないのか?」
「いえ。全然大変ではありませんよ。皆さんのご飯を食べているときの笑顔が私の元気の源ですから!」
「確かに月樹野の飯、美味いもんな〜。きっと親御さんも喜んでるだろ」
「え……えぇ……そうですね…」
…あれ?鼎野が家族の話を振った途端、月樹野顔を歪めなかったか?あいつは気付いていないようだが、俺はその微かな表情の変化に気付いていた。
もしかして、家族がらみで何か苦労をしたんだろうか…。このまま彼女に家族がらみの話を続けさせていたら大変だ。
俺はすかさず別の話題を挟み、家族の話題から遠ざける。
「な、なぁ!月桂樹のおすすめ料理とかないのか?俺食べてみたいな」
「お、いいね〜。老舗旅館なんだから和食が十八番なんだろ?」
「そうですね…。今の時期ならば、山菜の天ぷらなどいかがでしょう。モノクマさんに頼めば山菜も用意してくれるでしょうし、今夜はそれに致しましょうか」
「よっし、今夜は和食で決まり!」
「…何話してるかと思えば食事の話か。劇の準備が出来たぞ」
話を続けていると、瀬川が厨房からひょっこり顔を出した。どうやら劇の準備が出来たらしい。
しばらくして、食堂の電気がうす暗くなり、彼の人形劇が幕を開けた。
『今宵は音の神様の話を致しましょう』
———音の、神様?聞いたことがないな。これも瀬川の作った話なんだろうか。思わず瀬川の人形劇に釘付けになる。
『これは、いつの時代の話かは分かりません。あなた達が住んでいる未来の話かもしれないし、過去の話かもしれません。そんな時代のお話です。
ある大きな町に、緑の帽子が似合う一人の少年が暮らしておりました』
話が始まり、彼は一つの人形を取り出す。どうやら今回の主人公は、この『緑の帽子』の少年らしい。…すげえ、関節やら何やら細かく作られている。
……隣で『関節すげえ』と感動していた鼎野は置いておこう。
『少年は、幼少の頃より音に親しみを持って生きてきました。しかし、彼が丁度小学生高学年になったころ…。一つ目の悲劇は起こりました。
彼の両親が、交通事故に巻き込まれて死んでしまったのです。彼もその事故に巻き込まれたのですが、奇跡的に無傷で助かったのです…。』
『その後、彼は親戚に引き取られ育てられましたが…。そこで二つ目の悲劇が起こりました。叔父が少年のことを快く思わず、彼に暴力を振るい始めたのです。
彼は暴力に耐え続けましたが、『人』としての心はどんどん失って、他の人間でさえも信じなくなったのです…』
『彼が小学6年生になった頃、一つの出会いがありました。彼にはいつも気を晴らしている場所がありました。そこで———彼は運命的な出会いを果たすのです。
いつもの通り、彼は小川に立ち寄りました。しかし、そこには先客がいました。彼こそが———少年の運命を変える、一つの道しるべとなるのです』
『彼は少年を気にかけ、話す機会を伺っていたようです。最初は少年も彼を信じていませんでしたが、彼の必死の訴えに…彼の心の中の氷は…溶け始めていました。
その後、少年の叔母と話を着け、彼と少年は度々会うようになりました。様々な出会いを得て、彼は人間としての心を取り戻していったのです』
『ある日、少年は彼に『一緒にライブに出ないかい?』と誘われました。音に非常に興味を持ち、彼から音楽を学んでいた少年にとっては嬉しい誘いでした。もちろん彼もライブに参加し、結果は大成功。音楽としての道を開いたのです。
そんな帰り道。彼は少年に先に帰るように言います。しかし、それが間違いだったのです。彼は帰る途中、赤になろうとしている信号を渡ろうとし……。彼は叔父の操縦する暴走トラックに轢かれ、死んでしまいました。
彼がそんな残酷な運命を知ったのは、不幸にも片付けが終わった後…。トラックが、過ぎ去ってしまった後だったのです。』
『彼は思いました。『どうか少年を助けてくれ』と。彼は思いました。『どうか少年を呪わないでくれ』と。彼は思いました。『どうか少年を幸せな世界に住まわせてほしい』と———』
……メガネの青年が悲しみに暮れているところで、幕は閉じた。とても…とても悲しい話だ。
———その少年の気持ちが俺の中に入ってくるような、そんな気が…そんな気がしたんだ。
- chapter02 〜明日の登らない丘へ〜 ( No.186 )
- 日時: 2014/06/20 19:02
- 名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: JiXa8bGk)
瀬川夏樹の演じる『登場人物』は、まるで本当に生きているような感触を俺は覚えた。
これが、『超高校級』の力———。改めて俺は彼の凄さを感じ取ることになった。
「まるで登場人物が本当に生きているかのようでした…。瀬川くん、凄いです」
「……瀬川の旦那……。俺……感動したよ……」
「何か感じ取れてもらえたのならそれで万々歳だよ」
「俺も度肝を抜かれたよ…。流石『超高校級の人形師』だな」
月樹野は感動で動けなくなっているようだし、鼎野に至っては号泣してしまっている。
かくいう俺も、しばらくここを動けそうになかった。それくらい…凄かったのだ。
瀬川は俺達の反応を見て、満足そうに向かいの椅子に座る。そして、こう語り始めた。
「この物語は、俺が小学生の頃に出会った『とある音楽家』をモチーフにして作った話なんだ。今まで同年代の仲間がいなくて、ずっと一人だった俺を救ってくれた。そんな人なんだ」
「瀬川にもそんな人がいたんだな…。なんかうらやましいよ。そういう人がいるのって」
「私も人とは常にふれあっていますけれど、同年代でこうしてお話しするのは初めてなんです。だから…凄く嬉しいんですよ」
瀬川を『孤独』から救ってくれた恩人…。どんな人なんだろうな。月樹野も瀬川のゆるんだ顔に穏やかに微笑んでいる。しかし、一人だけ沈んだ表情をしていた人物がいた。
「…どうした?鼎野」
「……いや、ちょっと昔を思い出してな」
「昔?鼎野にも瀬川と同じような恩人がいたのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…。幼馴染的な人はいるかな」
沈んだ表情で、元気のない声でそう答える鼎野。話を聞いてみると、彼の扱う忍術はその『幼馴染』に教えてもらったものらしいということが分かった。
彼は———その『幼馴染』の安否が知りたいのだそうだ。しかし、自分など下っ端の存在。探してはいけないと理性が押さえつけるのだそうだ。
……そんなことない。そんなことないのに……。
「鼎野、お前は立派な希望ヶ峰学園の生徒じゃないか。なのにどうして…下っ端体質なんて言うんだよ」
「俺はさ、村人Aくらいが丁度いいんだよ。人形劇でも『主役』と『脇役』がいるだろ?幼馴染はその『主役』、俺はその『脇役』。主役と脇役は、交わりの先にはいけないんだよ」
「鼎野くん…」
小さな声で彼は話し続ける。まるで、自分が『この世界にいてはいけない』と考えるように。
———しかし、『役割』の大切さを何よりも知っている奴が、それを否定しにかかった。
「ちょっと待った。鼎野、少し勘違いしてないか?」
「……なんだよ。同情なら要らないぜ」
「同情じゃない、話を聞いてほしいんだよ。人形劇ってさ、『主役だけじゃ何も出来ない』んだよ。主役や悪役、脇役全員の『役割』が揃ってるから人形劇ってのは出来上がるんだ。そのどれが欠けたって劇は完成しないのさ」
「…………」
「鼎野がその幼馴染を『主役』に思うならさ、あんただって必要なんだよ。あんたがそう思ってるなら、その幼馴染との仲は結構いいんだろ?
だったら『自分は探しちゃダメ』とか言っちゃだめだ。『あんた』っていう名の劇を完成させるには、あんたも、その幼馴染も、必要なんだ」
「瀬川……。お前は……」
「少なくとも俺はそう思っただけ。……少なくとも、俺よりはあんたのほうが善人だと思うからさ」
そう言って、瀬川は力なく笑った。
「……ありがとう……。俺、信じてみるよ。瀬川のことも、黒夜のことも…。絶対にこんな学園生活、脱出して見せる!」
「だからって人を殺しちゃ駄目ですからね?」
「殺さねーよ。俺はどう足掻いたって『下っ端体質』なんだからさ」
結局鼎野の根っこにあるものは変わらなかったものの…。自分のやるべきことを見つけられたんだと俺は思った。
だって…あいつの顔、人形劇見るより立派になっていた気がしたから。
「……瀬川、片桐の旦那、ありがとな」
「お、おう」
———それにしても、なんでこいつは瀬川のことを『旦那』って呼ばなくなったんだ?
『心の許せる相手』が見つかった……ってことなのかな?真意はよく分からないけど…。今はそう思っておくことにしよう。