二次創作小説(映像)※倉庫ログ

chapter02 〜明日の登らない丘へ〜 ( No.190 )
日時: 2014/06/22 12:58
名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: S20ikyRd)

『希望ヶ峰学園 学園長がお知らせします。オマエラ、おはようございます。朝です。朝ですよー!今日もはりきっていきましょー!』



———いつもの耳障りなアナウンスで、俺はいつも通り目が覚める。
もうこんな生活も1週間が経っているような気がした。既にこんな生活に慣れてしまっていた。
本来であれば慣れてはいけないのだが、こうも長く閉じ込められていると当然『慣れ』というものが生じてしまう。「このまま殺し合いが起きないのなら、ずっとこのままでも…」そんなことさえ頭に浮かんでしまう。
…ダメだダメだ、そんなことを考えるのは俺達をここに閉じ込めたあいつの思うつぼだ。闇からの誘惑を何とか払い、俺は食堂へと向かっていった。


「おはようございます、片桐さん。ここ数日は何も起こっていないですけれど…。このまま何も起きずにみんなで脱出できたらいいですよね」
「おはよう。あぁ、そうなれば俺も万々歳なんだけどな…。あいつのことだ、きっとまた何か仕掛けてくるに違いない」
「ディムにーちゃんが殺されちゃって、あの裁判やって、もう3日も経っちゃったんだもんな…。こう日にちが過ぎるとそれすらも薄れていっちゃいそうだよ」
「後味の悪いものを見せつけられてしまったからなっ…」
「……今日も、何も起きないことを祈るしかないな」


食堂でもいつも通りの早起きチームといつも通りの会話。…ただ、ディムの死から3日、みんなは少し不安になっていた。
『いつ殺し合いが起きるのだろう。自分はいつ死んでしまうのだろう』と。
そんなはなしを続けているうちに、今日も来ないメンバーを除く全員が食堂に揃う。
月樹野がいつも通り厨房から朝食を持ってきて、朝食会がスタートすると思ったその時だった。


『いつも通りじゃない展開』に俺達が巻き込まれてしまうのは。





『あーっ、あーっ。大丈夫?聞こえてるよね?

 皆様、朝方から忙しいとは思いますが支給体育館までお集まりください。朝だからちょっとは待ってあげるけど、もし来ないつもりであればボクが引っぱたいてでも体育館に連れてきますからね!

 以上、忘れないように集まってくださ〜い!』




ぷつり。
このアナウンスを聞いたのはいつ以来だろうか。いつもは流さないあいつのアナウンス。恐らく…また俺達を殺し合わせるための『動機』を発表するのだろう。


「もしかしなくても次の『動機』を発表するのかな…。行かない方が賢明だとは思うけど、行かなきゃモノクマになにをされるか分からないね」
「行かないも何も、行くしかないだろ?俺は先に行ってるぜ」
「動機…。モノクマ、どんな動機を持ってくるんだろうね」


きっとあいつはその動機でこの中の誰かが動くものだと確信しているに違いない。だけど…行かないわけにはいかない。
俺は気持ちを切り替え、意を決して体育館へと向かった。





「やぁやぁ、よく集まってくれました。ボクこの姿を見せるために待ってたんだよ〜?」
「……なんなんだよその服は!ミスマッチにも程があるだろ!!」


体育館にやって来た…のはいいものの、あいつは今回妙な服を着て教壇に座っていた。
左側の白い方には何故か真っ白なスーツ。そして包帯が巻かれたこれまた真っ白な羽が生えている。右側の黒い方には真黒なスーツ。そしてボロボロになった黒い羽根が生えていた。
口元は真っ白な包帯で覆われており、左右の目は赤と青。耳元には変な飾りがついていた。
……まるで『堕天使』を象徴しているかのように。しかし、あの不安定な図体には物凄くミスマッチ過ぎた。はっきり言って似合っていない。


「これ用意するのに3日もかかったんだよ〜。真っ白な包帯を用意するの手間がかかってさ。しかも巻き方が特殊だから面倒だったんだよね!」
「だよね!ではありません、元ネタの人に対して失礼です!」
「元ネタ?何それ、これはボクが考えたれっきとしたコスプレだよ〜?名付けて『DJ YOSHIKUMA』……」
「モデルになった本人に謝れ!!!」
『(そうだそうだ!謝れ謝れ!!)』


…隣で月樹野と寺阪が変な突っ込みをしていた。ディムの声も聞こえてきたような気がするのだが…気のせいか?いや、気のせいということにしておこう。
モノクマは彼らのツッコミを総スルーし、俺達のほうを向き直す。何度見てもミスマッチ過ぎる。


「…こほん。では本題に移ります」
「スルーしないで下さいよ!」
「本人にはあとで謝るから今は勘弁してよ…。でね、ディムクンの裁判から3日立ったわけだけど…。全然コロシアイ起きなくて、ボクツマンナ〜イ!!だから、次の動機を持ってきたんだよ」
「俺達はどんな動機にも揺るがされないぞ!!」
「そうだよ!私達の絆の力、舐めないでよね!!」
「うぷぷぷ、そんなことを言ってられるのも今のうちだよ?今回の動機は………これだよっ!!!」


大きな声でそう言ったかと思うと、モノクマの手から15通の封筒が現れる。


「これの中には、オマエラの『恥ずかしい過去』や『知られたくない秘密』が書かれているんだ。それじゃこれをくばりま〜す!!」


恥ずかしい過去?知られたくない秘密…?一体どういうことだ?
モノクマはその封筒を俺達の前に投げ捨てる。すかさず俺達は自分の名前が書かれた封筒を拾って中身を見てみる。
俺の封筒の中には紙が1枚入っていた。……そこには……こんなことが書かれてあった。




『片桐クンは、高校に入るまでトマトが食べられなかった』




…………は?
これが…恥ずかしい過去?って、俺のトマト嫌いどこから漁ってきた!!……違う違う、そういうことじゃなくて。
あまりにも拍子抜けした過去に、俺は言葉が出なかった。


……こんな動機で……殺人が起こるのか……?そうとすら思えてしまった。

chapter02 〜明日の登らない丘へ〜 ( No.191 )
日時: 2014/06/22 13:32
名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: S20ikyRd)

俺と同じ考えに至った仲間も何人かいた。自分の秘密が書かれた紙を封筒にしまい、床に投げ捨てる。


「あっ、せっかく徹夜して頑張って書いたのにーー!!ひどいよ!!貰ったものは大切にしましょうって学校で教わらなかったの?!」
「んなもん知るか!俺たちを惑わせようと思っただけ無駄だったようだな!こんな秘密、別にどうってことないよ!!」
「自分も小鳥と同意見だ。全くもって恥ずかしくないぞ!」
「うぷぷぷぷ〜。それなら問題ないね!では、『24時間以内にコロシアイが起きなければ、全員の秘密を校内放送で流しま〜す』!!」
「はぁ……」


どうやら24時間以内にコロシアイが起きなければ、俺達の秘密が全員に知れ渡ってしまうらしい。
…別に俺のトマト嫌いが流れたって俺が困るわけではないし、みんなの俺に対してのイメージが少しダウンするだけだ。
流れたってどうってことなかった。そもそもこんな動機で動く奴いるのか?
そんなことを思っていると、モノクマは怪しげに笑みを浮かべながらこんなことを言う。


「片桐クン。キミはどうだっていい顔してるけどさぁ。


 『そうじゃない人』もいるってことを覚えておいてね?」
「どういうことだ?」
「うぷぷぷぷ〜、それは事件が起こってから自分で考えるんだね!それじゃまったね〜!!」


意味不明な言葉を俺に投げかけると、モノクマは両方の翼をバサバサ動かしてどこかに消え去ってしまった。…あの翼、飛べたんだな。
それにしても、あいつの去り際に言った『そうじゃない人』ってどういうことだ?みんな俺みたいなくだらない秘密が書かれているんじゃないのか?
そう思ってみんなのほうを見てみると、明らかに青ざめている何人かも見受けられた。


「……どうして知ってるんですか……!!」
「…………」
「勘弁してほしいものですね…」
「…………嘘。絶対嘘」


知られてはいけない秘密……。俺は…何か重大な勘違いをしている?
頭が混乱し続けていると、ふと波希がこんなことを呟く。


「ねぇ、みんなの封筒にはどんなこと書かれてあったの?」
「それを今聞くんですか?」
「うん。だって、24時間以内に誰かを殺さなければいずれ知らされてしまうんだよ?だったら、今ここで言っちゃったほうがいいと思うんだ」
「俺もそれに賛成だ。秘密など隠しておくことは無理だろうしな」
「まぁ、俺も別にいいけど…」


……実は俺もちょっと気になってるんだよな。でも、一部の仲間はその提案に首を縦には振らなかった。


「……ごめんなさい。言いたいのは山々なんですけど…。それに秘密って、自分からバラすものじゃないですよね?」
「僕もパス。言う義務ありませんから」
「…悪い、俺も言えない」
「……だったら言わなくていいんじゃない?」
「そ、そうかな…。言ったほうが殺害防止につながると思うんだけど」
「言いたくないって奴いるんだ。仕方ないだろ、波希」
「……うん……」


その場は何とか波希を諭したが、彼は納得がいっていないようだ。まさか、こんな動機で動くやつ…いないよな。
いつの間にか春白もいなくなっており、それを皮切りに仲間もどんどん体育館から去っていく。


「片桐さん…」
「どうした?早緑」


ふと、早緑が俺に話しかけてきた。何だろう?


「……明日、変なこと起きないといいですね」
「まさか。あんな動機で……」
「そうやって油断していると、後で痛い目を見ますよ?」
「……え?」
「うふふ、ちょっと不安だっただけですよ。さぁ、私達も戻りましょう」
「……あぁ」


早緑、何を言っているんだ?一瞬だけ、氷のような冷たい目で俺を見ていたような気がするんだが…。
そんなことを思っているのも束の間、彼女はいつも通りの笑顔に戻る。



———変なこと、か。まさか、まさか……な。
体中に湧き起こる嫌な予感を潰しながら、俺は自室に戻った。