二次創作小説(映像)※倉庫ログ

chapter02 〜明日の登らない丘へ〜 学級裁判編 ( No.238 )
日時: 2014/07/01 20:26
名前: ランスロット ◆/.5aaSlLPY (ID: NsAz6QN0)

「はい、というわけで議論の結論が出たみたいですので、投票タイムと参りたいと思いまーす!
 オマエラは、前と同じくお手元のスイッチで『犯人だと思う人物』に投票してくださいね!」
「どうして…ごめんなさい…浅峰君…」


明るくはしゃいで投票タイムの説明に入るモノクマとは裏腹に、月樹野は泣き崩れてただひたすらに「ごめんなさい、浅峰君ごめんなさい」と繰り返していた。
———彼女にとっては、予想外の結末を迎えてしまったのだからしょうがないだろうけど…。浅峰の立場だったらたまったもんじゃない。


「はてさて、投票の結果クロとなるのはいったい誰なのでしょうか!!!
 その答えは、正解か、不正解かーーーーーーーーーーーーーー?!」


前回と同じように、裁判場に置いてある大きなモニターに、カジノのスロットのようなものが回り始める。
……スロットが止まるのに時間はかからなかった。スロットは———月樹野ゆうの顔で、全て、止まった。
それと同時にスロットのファンファーレが鳴り響き、紙吹雪が周りに舞う。
月樹野の気持ち、そして浅峰の気持ちを考えれば考えるほど、胸が痛くなる気がした。


「大正解だよーーーーーー!!!『超高校級の体育委員』浅峰小太郎クンを殺したのは、月樹野ゆうさんでしたーーーーーーーー!!!
 今回もよく出来ました!!ちゃんと真実を導けて、オマエラ偉いねぇ〜!!」
「偉いもんかよ…!!」
「……春白!!!月樹野にどんな言葉を浴びせたんだ……!!言葉次第じゃただじゃおかないぞ!!!」
「お、落ち着いてください鷹取さん!!」


鷹取の敵意に満ちた目が春白に向けられる。そりゃあそうだ、今回月樹野が動くことになったきっかけ———それが、春白なんだもんな。
実は俺も知りたかった。彼女が月樹野に何を言ったのか。そして、彼女の何が殺人に駆り立てたのか。
春白は相も変わらず鷹取を見下した目で見つめ、不気味な笑みを浮かべながらこんなことを呟き始めたのだった。


「……ただ、言ってあげただけだよ?彼女の『過去』をさ」
「どういう意味だ!!答えろ春白!!!」
「理解できない?ボクには見えてたんだよ。あの時…みんなの過去が封筒で渡された時……」




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「ど…どうしてこんなことまで…「あれ」の存在はひた隠しにしてきたのに…!!」
「(月樹野……なかなか面白い過去を抱えているじゃないか。これは…『使えそう』だ)」




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「ふと、後ろから見えてしまったんだよね。彼女が本当は『赤い髪』ってこともさ」
「赤い髪……?」
「…………っ!!」
「そうなんですよ〜奥さん、聞いてくださいよ〜」


春白が勝ち誇ったように淡々と月樹野の過去を並べる中、ふとモノクマが明らかにウザったい関西のおばちゃんのような恰好をして呟く。


「月樹野さんの旅館ね、一回『経営難』に陥ったことがあるんですよ〜。それでね、その原因が…なんと…


 『月樹野さんのお母様』にあったらしいんですよ〜。このお母様、よほど悪女だったみたいでね、夫とは別の男と不倫し旅館のお金を持ち出していただけではなく、そのまま蒸発してしまったみたいなんですよ〜!!


 月樹野さんはそれ以降母親を憎むようになり、全ての記憶から母親を抜いて暮らしていたんですよ〜。その小奇麗な『赤い髪』も塗り替えてね〜!!」
「それが…月樹野さんの…過去…」


月樹野は、母親への憎悪を隠して生きていたというのか?それが…月樹野の動機のきっかけ?いや、そうじゃない。
彼女はきっと…『春白にそのことを指摘され、馬鹿にされた』んだ。母親のことだけだったらこんなことしない。


「……私は『あれ』を母親だとは思いたくありません。だからこそ…春白さんの言葉は深く突き刺さったのです」
「春白さん、ちなみに何ていったの?」
「少しは空気読めよ波希!!」
「え?だって気になるじゃない」


きょとんとした顔で波希が質問のタブーを春白に侵す。それを聞いた彼女は「待ってました」と言わんばかりにこう、言ったのだった。


「そうさ。母親が屑なら家族も屑だろ?だからこう言ってやったのさ。


 『キミも母親と結局は同じなんだよ』

 
 ってね?」
「ひどい…!!何てこと言うんですか!!」
「へぇ〜」


———そうか…。母親を憎んでいたからこそ、『肩書』だけで判断したことに憤慨したんだな…。
『自分と母親は違う』それを頑なに信じていたんだからな…。
睨み付ける月樹野や鷹取を尻目に、彼女は余裕を崩さず話し続ける。


「だってそうじゃないか。結局は『家族』。いくら憎んでようが、いくら愛していようが結局は『血のつながった家族』なんだ。
 ……キミのその『赤い髪』が物語っているだろ?」
「いい加減にしてください…!!そもそもあなたが毒を持ってこなかったら」
「どっちにしろ、キミはボクを殺そうとして動いただろう。……それが間違いだったんだよ。
 こうやって…関係ない奴を犠牲にして死んでいくのさ」


そう笑う春白が、俺にはとても怖く見えた。これが…人の『悪』というものなのか…。
月樹野も、月樹野も、本当は…春白に踊らされたただの被害者なんじゃないか…。


「ねぇねぇ、お話し中いいかな〜?そろそろ待望のオシオキタイム行きたいんですけど」
「ちょっと待ちなさいよ!!月樹野さんの件、全然解決してないじゃん!!」
「い〜い?三神さん。ここでは『ボクがルール』なの。ボクがオシオキしたいって言ったらお話タイムは終了なの!」
「何ですかその駄々っ子みたいな言い方は…」
「……いいんです。過去を知られた私など、もう生きている価値もありません」
「月樹野……」


「それじゃ、『超高校級の女将』である、月樹野ゆうさんのスペシャルなおしおきと行きましょうか!!
 では早速参りましょう!!おっしおっきターイム!!」


話をぶった切って、モノクマは赤いスイッチをハンマーで叩く。
モニターには、ドット絵の月樹野がモノクマに引きずられている映像が映った。




『ツキキノさんが クロに きまりました。 おしおきを かいしします。』




「…片桐君」
「どうしたんだ?月樹野」


鎖が来る直前、彼女はふと俺を呼び止める。そして…こう言ったのだった。


「もし私が過去を克服していたら…運命も…変わったのでしょうか?」
「……?」
「なんでもありませんよ。……さよなら、片桐君。さよなら、皆さん」




鎖に引きずられていく彼女の表情は……全てを悟ったかのようだった。
彼女も家の縛りがなかったら———こんな奇妙な生活にも巻き込まれなかったのかもしれない。俺は…彼女の表情を見てそう思った。