二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 黄昏の世界の錬金術師達 リリーのアトリエ 1-1更新 ( No.10 )
日時: 2014/07/19 18:49
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)

 第1話 雲海の彼方で Part2

 「よし、じゃぁ、買いに行こうっベルちゃん!」

 言うや強い歩調で足を進めるアーシャ。彼女は当然のようにウィルベルの手を掴んだ。

 「えっ、あたしまで? 別に良いじゃん、買い物ぐらい1人でいきなよ」

 それに対してウィルベルは激しく困惑した。バツの悪そうな表情を浮かべ、素直に胸中を口にする彼女。そんな釣れない友人をアーシャは指をさして非難する。

 「えぇっ、あれだけ発破掛けといてそれはないよぉ」
 「だあぁぁっ、それとこれとじゃ話が違うでしょうっ!」

 弟子の不始末なんだから師匠1人で片付けろと、胸中でウィルベルは毒づきながら。ツイと目を細めた。昔ほんの少し過去の話。ウィルベルも弟子を持っていたことがあった。
 それも専門である魔法の師事をしたわけではない。専門外の錬金術をシャルロッテという少女に教えたのだ。錬金術と魔法は多少知識が似通うところがあるので、最初の頃は何とかなったのだが。シャルロッテが知恵と技術を手にするにつれ、綻びは広がって行き。
 弟子にばれないように必死に、魔法の勉強の傍ら錬金術も学んだが。少女の才能と努力はウィルベルの小さな努力など遥かに超え。ついには自分が錬金術師ではないことがばれた。あの時のことを思い出すと本当に自分は青かったと恥ずかしくなる。 
 シャルロッテに罵られると思って怖くて、裏切ったと糾弾され関係が断たれてしまうと怖れ逃げ回り。逆に慰められた。そして言われたんだ弟子に。“例え錬金術師じゃなくても師匠は師匠です”と、笑顔で。
 そんな過ちをアーシャより先にしたウィルベルだからこそ、弟子と師匠というアーシャとリリーの関係に自らなるべく手を出したくないのだ。なるべく2人は2人で問題を解決していって欲しい。声を荒げながらも、少し母性的な視線を送るウィルベルだった。

 「相変わらずやかましい娘共だな」

 一瞬の静寂。その数秒後。深くしわがれた男性の声がアトリエに響く。
 
 「ゲッ」「あっ、キースさん!」
 「失礼する」

 聞き覚えのある声に先ず反応するんはウィルベル。あからさまに嫌悪の滲んだその声に重なるように、アーシャが人物の名を呼ぶ。キースグリフ・ヘーゼルダイ。略称キース。がっしりとした体躯に落ち着きのある茶色のスーツを着こなす堀の深い顔立ちの紳士を思わせる男だ。
 男は口にした煙草を形態の吸殻入れに入れ、アーシャとウィルベルを交互に見回す。そして一言口にして2人の間へと割ってはいる。

 「何の用よ? ってか、あんたが入ってきた時はあたしら両方黙ってたじゃない!?」
 「ベルちゃん! そんなにキースさんを嫌っちゃだめだよぉ?」
 「べっ別に嫌って無いわよっ! ってか、本当に何の用……こっちはアーシャと一緒に」

 ズカズカと遠慮なく入ってくる老紳士を指差し、ウィルベルはさえずる雀のように捲くし立てる。興奮気味のウィルベルの細い体に抱きかかり、アーシャは彼女を制止する。忌々しげに歯軋りするウィルベル。アーシャの言葉を批判してこそいるが誰が見ても、キースクリフを彼女が嫌っているのは明白だろう。
 実際、彼女がキースクリフを嫌うのは、十分過ぎるほど全うな理由があるのだ。アーシャを自らの目の前から連れ去り数年以上連れ回した男なのだから。連れ回した理由やその過程で彼らは何をなしたのかなどは余り関係ない。寂しさは正当な理由で埋められる物ではなかったから。だからこそ先ほどまでは無理をしてまで行かないと言っていたのに、アーシャと錬金釜を買いに行かないとなどと口走りそうになったのだろう。

 『ベルちゃん行きたくない言ってたくせに』
 「黙れアーシャッ!」
 「心の声読まないでよベルちゃん!?」

 内心でウィルベルの言葉に突っ込むアーシャ。その内心を読んだように怒るウィルベル。まさに以心伝心のような2人をしばらく眺めながら、キースクリフは小さく笑い声を漏らし、少し落ち着けと2人を無言で嗜(たしな)める。

 「錬金釜の話か?」

 そして口火を切った。どうやら2人の会話は聞いていたようだ。扉に耳を当てて聞いていたのか、彼女たちの声が外に響くほど大きかったのか、それは定かではないが。キースがそれを知っていることに驚き、気恥ずかしさと格好悪さでアーシャ達は頬を赤らめた。

 「言っておくが、錬金釜は今この町には無いぞ?」
 
 そして、衝撃的な言葉がキースの口から漏れる。アーシャとウィルベルは顔を見合わせ、しばらく動きを停止させる。追い討ちのように彼が、冗談ではなく現実だと告げた後2人は悲鳴を上げた。

 「ええぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇッッ!?」

 それは盛大に。近所の人々が驚くほどの大声で。


 続く