二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: リリーのアトリエ 1-3執筆中 オリキャラ募集中 ( No.18 )
- 日時: 2014/08/12 15:38
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)
第1話 雲海の彼方で Part3
「落ち着けきさま等」
「きっ、きさまってアンタ!?」
茫然自失とするウィルベル達の肩を叩き、キースクリフは2人の意識を現実に戻そうとする。キースクリフのぞんざいな呼び方に半眼になり、ウィルベルはてぐすねを引くが、アーシャはそれを止め彼に話の続きを促す。
「まぁまぁ、ベルちゃん……ここはキースさんの話を聞こうよ」
アーシャに宥められたウィルベルは、手で額を抑え少しの間沈黙する。
「っつー、手短に頼むわよ!」
吐息を漏らし、ウィルベルは憤慨しながらキースクリフに話の続きを問う。口調は怒っているが、アーシャの態度は大人だし、彼の昔と比べての性質の軟化を考えると、それ程の怒りがこみ上げている分けではない。
「現状この町に誰かに売り出せる錬金釜は1つしか残っていなかった。術者が少ないためにくる需要の問題から、今までそれは続いてきたが」
触りにキースクリフが口にしたのは、アーシャ達ならとうに知っている事実だ。そして、その残り1つを買うつもりだったのも事実である。
「何よ」
2人の胸に嫌な予感が、沸々と湧き上がる。
「悪いな。その錬金釜は俺が買収した」
「…………」
「は?」
そして次の瞬間それは現実としてのしかかり、アーシャは沈黙。ウィルベルは唸り声を上げた。
「だから、俺が買ったと言っている」
「マジで!? アンタ錬金釜なんて幾らでも持ってんじゃないの!?」
同じことを言わせるなと、苛立たしげに首を振りながら、無常な口調で男は繰り返す。ウィルベルは彼からその錬金釜を借りるのは無理だと理解し、当然他の釜を借りることも適わないと一瞬で理解し、ムキになって食って掛かる。
「一口に錬金釜と言っても、そう単純ではない。場所によって求められる素材も違えば、製作者によって癖も違ったものになっていく。そして、俺は兼ねてよりここに眠る錬金釜は“黄昏”の打破。そのヒントになりうると思っていた」
憮然とした調子でキースクリフは訥々と言葉を紡ぐ。ある程度の錬金術に対する知識があるウィルベルは、前半のキースクリフの言葉であきらめて頭を垂れる。しかし、広範に続く言葉を聴き、頭を上げる。その自信に満ちた声を自然胸は高鳴る。
“黄昏”それは世界壊滅を意味する単語。じわじわと侵食し最後には暴発し、人類を一掃する大災害とされ、今地上に存在する人類の人口から今回の黄昏を回避できなければ人類は全滅するとされる。それを打破する作を見つけたと言うのだから、否応無く心が燃えるというものだろう。誰とて皆一緒に何も無くなったなど嫌なはずだ。
「黄昏を解決するヒントがあるってこと!? そんな、どうやって」
せかすようにウィルベルは続きを促す。
「この町に最後に残された錬金釜は、黄昏の原因となる遺跡で採掘された物らしい。錬金術の道理で言うなら、破壊と創造は一体にある」
男が言うには、黄昏は唯の自然現象ではなく、人為的な物らしい。そして人類が行ったことの結果だとするなら、人類に解決出来ないという理念が感じられる。勿論技術や知識が追いついていなければ、不可能であろうがキースクリフはすでにそれが整っていると見ているようだ。
「ずいぶんと感慨深そうに喋るのね」
珍しく目を細めるキースクリフを見てつぶやくウィルベル。彼は皮肉の入った彼女の物言いに怒ることも無く笑いながら言う。
「俺の長年の研究と放浪は1つの終着を見出している。気づかないか? 黄昏の始まりの遺跡で作られた錬金釜がここにあるということは、黄昏の発端たる遺跡もまた近くにあるはずなのだ」
黄昏の元凶であるれの場所が、このデュアレラマレの周辺に有るということを。更に彼の考えによれば、その黄昏の根源を絶つのに、この町に1つ残された錬金釜は重要な役割を果たすのだろう。当然、世界最高の錬金術師キースクリフが使ってこその何かも重なって。
「キースさん」
アーシャが居ても立ってもいられないような声を上げる。今まで見たことの無い優しげではかなげな笑みが、何か酷く消え入りそうで。ただでさえ自分の目的のためには命すら投げ打つ男だから。しかしキースクリフはそんな彼女の動揺を察していたのだろう。アーシャの頬を撫で。
「言うなアーシャ。俺1人で行くわけではない。すでにきさま等も知る者達が、この町に何人も入り込んでいる。この世紀の大偉業を果たすと言う、共通の目的を胸にな」
1人で行く気など無いと告げる。その2人の様子を見てウィルベルは深く息を吐く。野蛮で冷たい男だったキースクリフは、アーシャと共に行動する間にずいぶん丸くなったようだ。凍り付いた男の心を癒したアーシャは今や間違いなく、最愛の仲間で。
『何よ、あたしこれ邪魔じゃない』
長い年月を噛み締めウィルベルは帽子を深くかぶり、涙を隠した。
続く