二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: リリーのアトリエ 1-5執筆中 オリキャラ募集中 ( No.26 )
- 日時: 2015/05/17 15:03
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: xMHcN6Ox)
第1話 雲海の彼方で Part5
路地裏にある一見狭苦しいこの店舗は、実は広い。理由は階層数だ。寝室、談話室、書斎といった具合に、この店は全5階構成となっている。リリーは階段の上り下りが面倒だと言うが、年を取って体力が衰え易くなっていると感じているアーシャはありがたがっていたりする。日々体を動かすことは大事だ。何事も体が資本なのだから。
「ふーん、飛行船であんたらここまで来たの……気流とか色々やばいことになってると思ったけど、無事で何よりだわ」
そんなアトリエの2階に談話室は設けられていた。狭いとはいえ下層に依頼所を設けるだけあり、10人程度が入ってもごみごみすることはない程度には広い。ウィルベルは頬杖をしながら、気のない様子で言う。
「無事って言われても実際何度か落ちそうにはなったわよ。長旅だから燃料もぎりぎりだったし……モンスターに落とされそうになったりもしたしね。まぁ、モンスターは大体リンカが請け負ってたけど」
「自分はそれ位しかできることがないもので」
「相変わらずかいっ!」
「にっ、人間はそんなに簡単に変われないものですよウィルベルっ! そもそも貴方だってっ!」
ウィルベルも空を飛んでいろんな町を往復しているのだから、言えたものではないだろうという様子でマリオンは答える。どうやら案外と艱難辛苦あったようだ。同情するようにウィルベルは溜息を吐く。とうの本人としては、風の精霊の力で気流など物ともせず進めるし、魔力はガソリンなどよりはるかに燃費はいいし、モンスターに襲われても鈍重な気球とは違い機敏で速力もあるしで、案外町と町の往復に苦労した覚えはない。
一方で相変わらずの脳筋具合を呈する、飯まずいき遅れ女リンカの武勇伝には迷いなく突っ込む。それに対しなかば絶叫めいた声でリンカは反発する。どうやら本人としてもそれなりに思うところがあるようだ。普段の怜悧な様子は微塵(みじん)もない。
となりにいるマリオンは呆れ顔になりながらも、どこか諦めた様子だ。
「あぁ、その話は良いからぁっ、って何にやにやしてんのよアンタっ!?」
「えへへぇ、何か昔のことを思い出すなぁって……」
苛々とした声を上げるウィルベル。昔と変わらないようなやりとりにアーシャは含み笑い声を漏らす。目くじら立てながら人差し指で、アーシャを指差し怒るウィルベルに、ついには大声で笑い出すアーシャ。ウィルベルは呆れて顔を膨らませた。
「所であんたらだけじゃないでしょ? 他には誰とか来てるのよ?」
そしてそっぽを向いて話をそらそうとする。
「そうね。ルシルちゃんやアヴィン君、ニオちゃんやアーニーさんなんかが私の船には乗ってたわ。もう一機あるんだけど、そっちにはロジー君やエスカちゃん、ハリーさん、レイファーさん、後は直接私は面識ないけど、シャリステラちゃん、シャルロッテちゃん、ミルカちゃんなんかが乗ってたわね。他にも懐かしい面子がいるわよ」
「随分大所帯ね」
指折り数えながら言うマリオン。指物ウィルベルも随分多いなと驚く。飛空船は確かに巨大だが、それは案外搭乗限界ぎりぎりなのではないだろうか。むろん、積載比重すなわち、搭乗人員は多いほど航空は大変になる。懐かしい面々の名前に感動するより先に、そんな搭乗数でここまでこれたことへの感謝が先行するウィルベル。どうやらそれほどの数の人員が、この偉業には必要だろうという上層部の意思があるのだろう。そうでなければ上が許すはずがない。彼女は改めて心を引き締めるのであった。
「えぇ、だから役割分担が大事になってくると思うわ」
「ふむ、その辺は人員が集まってから、改めて話すほうが良さそうだ。その前に俺から話しておきたいことがある。いいか? ここにいるメンバー以外にはすでに言ってあることでな」
「どうぞ……」
ウィルベルの表情を一瞥し、ウィンクしながらマリオンは穏やかな口調で答える。皆が専門の知識を有し、マリオンを含む大半がそれなり以上の武術の持ち主であることを考えると、誰をどのポジションにおいてもそれなりの成果を得ることはできそうだが、相当な専門性の持ち主も多いため、やはり分散させるのがベターだろう。
それに対しアーシャが何か言おうとしたときだ。アーシャの口を塞ぎ、キースクリフが声を上げる。普段の冷然とした声ではなく、感情の伴った厳しい声だ。周りにいた者たちが黙りこむ。
「あっ、ここがお姉ちゃんのいるアトリエだよぉアーニーさんっ!」
「そうか、アーシャちゃんもお師匠さんか……何だか」
丁度来客の声が聞こえるが皆それに答えはしない。おどおどしながらリリーが客人の接待へと降りていく。アーシャは久しぶりに聞く2人の声になびきそうになるが、ウィルベルがそれを止める。心配しなくても会えるから、今は目の前の男の話を聞こう、と。
「ふむ、どうやら買出しをしていたメンバーが戻ってきたようだな」
「買出しって何の?」
「……重要なものだ。錬金釜と対を成す古の術師の秘法」
キースクリフが顎を撫でながらつぶやく。どうやら丁度、話そうとしていた内容に直結する物を、アーニーたちは買ってきたらしい。
「名を増幅車翼(ガブリエラ)という——それのパーツとなるものだ」
皆が緊張感を漂わせる中、六十路に至った男は厳かにその重要物の名を告げる。天使がごとく者の名を冠する重要機関の存在を。
続く