二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 黄昏の世界の錬金術師達 リリーのアトリエ ( No.6 )
- 日時: 2014/07/06 20:22
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)
- 参照: 書き方少し変えました
第1話 雲海の彼方で Part1
デュアレラマレ西部にある研究施設が密集するエリアの裏通り。そこにリリーの師匠の構える店はあった。名をリーシャのアトリエ。弟子のリリーの“リ”と師匠のアーシャの“ア”から取っている。何とも分かり易い名前だ。因みにアトリエと言うのは、古より遡る繁栄の時代に名を馳せた錬金術師の職場の名前から由来する。そんなリーシャのアトリエからでも、弟子リリーの起こした爆発により発生した黒煙は、見えていた。
「あーぁー、アーシャァ、リリー派手に爆発させたみたいだよぉ?」
あちこち一般人には理解できないようなもので散らかった作業室の中で。モクモクとバツの悪そうな表情を浮かべながら何かを忘れるために作業に打ち込む、金の長髪にブラウンの優しげな瞳を湛えた童顔美人錬金術師アーシャ。そんな彼女に魔女を思わせるルックスの幼児体質なピンクのツインテールの勝気そうな童顔というにも若すぎる感じの美少女(本当は20台後半)は声をかける。
「ちょっ、ベルちゃん! かっ勝手に決めないでよぉ、リリーちゃんだって決まったわけじゃ……」
そう思いたくなかったことを見事に指摘され、アーシャは悲鳴を上げ薬品を床に落とす。そしてウィルベル(通称ベルちゃんorベル)を指差し、呂律の回らない明らかに動揺した口調でまだ決まったわけではないと言った。
「いやいや、この都市に新人錬金術師なんて2人と居ないんだから……」
明らかに動揺する友人を傍目にウィルベルは下を向きながら「うーん」とうなり声を上げる。ウィルベルの言っていることは正しい。この天空都市において錬金術師という存在はマイナーその物で、新人などと言う轍を設けなくても、30人と居ないのが現状だ。
しかしアーシャもそんなことは分かり切っている。だが新人じゃなくても、錬金術は精緻な仕事であることに変わりはなく。失敗すればベテランでも爆発くらい起こす。問題は場所なのだ。新人以外あんな場所で普通錬金術を行わない。
「うぅー」
涙ぐむアーシャ。それをよしよしと頭を撫でながら、ウィルベルは呟く。
「しっかし、成長したもんだよねぇ。アンタなんて一生弟子で終わると思ってたよ。それがまさか弟子持ってるんだもん」
「ははっ、それは本当だね。キースさんに突き放されたときは本当泣きそうになったけど」
ウィルベルは既に26歳。アーシャも既に30に差し掛かっている。彼女達が出会ったのは12年も昔。あのころは若かったなぁと、懐古しながらウィルベルは言う。思ったことを率直に。ただ、過去の弱弱しかったアーシャを振り返って。そして実感する。今のアーシャは前のアーシャと同じ少し頼りなくて弱弱しく見えるけど、前より少し生き意地があって、生き生きしてると。
「遠くへきたわね本当。何だかんだで、あたしなんてあんたに会うのにあんたと過ごしたあの時間より長く掛かってたわけだし」
「ははっ、ゴメン。でも、お陰でニオやベルちゃんに普通に会えるようになったね!」
アーシャと一緒に他の仲間達と色々な遺跡を旅した時間。アーシャの妹のニオを探す旅だった。それはいつしか出奔したアホ(アーシャ)を呪縛から助けたニオと一緒に探すたびに変わっていて。何とも面白いことにニオを探す旅の倍の期間をアーシャを探す旅に掛けることになった。そんなウィルベルの苦労をなかったことのように、笑いながら相槌を打つアーシャを軽く小突くとウィルベルは言う。
「さてと、現実逃避は止めて……錬金釜買うお金は?」
「それ自体は余裕なんだけど、周りから馬鹿にされそうで……」
まじめな口調で問うウィルベルに、財布の管理はちゃんと出来てますよとアピールしながらアーシャは余裕だと言う。錬金釜自体現在となってはレアな上、性能は相当なものなのでものすごく高い。例えるなら、並みの家程度なら5軒は建つほど高いのだが。その万能性から錬金術師は人数の割りに需要があり、ほぼ個人経営と言うことも手伝い、アーシャはこの都市においても相当な金持ちだ。そんなアーシャが気にするのは世間の目だった。
「アンタ」
「ベルちゃん?」
「馬鹿にされるとか、世間体みたいなこと考えれるようになったんだ!?」
「酷いよベルちゃん!」
年をとって要領を得て周りから馬鹿にされないようになって、そんな所まで変わったのかと、ウィルベルはアーシャを少し軽蔑した目で見た。別に馬鹿にしているわけではないのに、さも馬鹿にされたかのように振舞うアーシャに彼女は言う。
「あたしの知ってるアーシャ・アルトゥールは仲間や家族のためなら、そんな恥幾らでもかける格好良い女だよ」
その眼差しは真剣そのもの。アーシャは彼女が何を伝えたかったのか思い知る。今はそんな恥とか言ってる場合じゃなくて、弟子を助ける時だ。赤の他人から非難されて何を怯えることがある。本当に悔しいのは……
「ゴメン、ベルちゃん」
続く