二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.10 )
- 日時: 2015/09/25 22:51
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
§第二章 決意と覚悟§
——現在、フライアは「赤い雨」の中を通過中。いかなる理由があれ、屋外に出ることを固く禁じます…
あの時と同じ、ロビーに集まって赤い雨の話をするブラッドメンバー。その頃。
「ラケル、そろそろ教えてほしいのだけど、極東に来たホントの狙いは……何?」
フェンリル極致化技術開発局室長のレア・クラウディウスは妹のラケル・クラウディウスに問う。
「グレム局長にお伝えした通り、神機兵とブラッドの運用ですわ、お姉様」
「なら、良いのだけど……神機兵は私たちの悲願。何があっても、認めさせなくては……」
その通りだ、とラケルは手元のモニターから視線をレアの方に移して続ける。
「彼らにはしっかり働いてもらいましょう……あら?極東がもう近づいているようですよ。お姉様、ほら」
レアは言われるがままモニターを見る。そこには高く聳え立つ壁に囲まれた居住空間——極東支部が映っていた。
「ブラッド隊長ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、到着しました」
極東に着いた一同は、最高責任者に会いに行った。どんな人なのかとそわそわしている仲間を他所に、マキは微動だしになかった。
「ようこそ極東支部へ!私がここの支部長、ペイラー・サカキだ」
——サカキ博士。貴方に会いに来たと言っても過言じゃないんですよ。
マキは心中で呟いた。サカキは丁寧に極東支部について、感応種について話す。一度聞いた説明ではあるが、改めてこの場所はアラガミの最前線なのだと思い知らされる。彼が色々話している時、ドアの方から元気な声が聞こえてきた。
「博士ー!歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよ……あれ?もしかして、ブラッドの人たち?」
——コウタ…。
変わっていない姿に安堵して溜息をひとつ漏らすと、隣にいたロミオに不思議な顔をされた。「歓迎会があるから、準備が出来るまで極東を見て回るといい」と言われ、一同は支部長室を次々と後にする。
そんな中、マキは一人支部長室に残った。サカキは訝しげな顔をする。
「どうしたんだい?」
「初対面で申し訳ないのですが、私は、貴方にお話があって」
サカキは顔の前で手を組んだ。まるで「何のことだね」と誘うように。
「博士は森羅万象が観察対象、なんですよね」
「そうだね」
「ということは、この世界で起きること全てが研究対象ですよね。今から私が話すことも、研究対象にして頂けますか」
サカキは感情が読み取れない瞳を向ける。
「話の内容次第だが…そのもったいぶり方は、実に興味深い」
マキはにやりと微笑む。流石は極東の頭脳といったところだ。彼女は部屋の横にあるソファーに座るよう促され、サカキと共に腰掛けた。
「私は、貴方に以前会ったことがあります。その証拠に他の隊員はまだ知らない人たちの名前も存じています。例えば——雨宮リンドウ、とか。あぁ、でもあれか。リンドウさんなら知らない人はいないか。じゃあ…」
極東で一緒に戦った神機使いたちの名前や特徴を事細かに言う。サカキは驚いた表情を見せた。掴みは良いようだ。
「クレイドルや防衛班。彼らが過去にどんなことをして、今何をしているのかも、知っています。結論を言います。つまり私は——未来から来ました」
瞳は真剣そのものだ。彼女が嘘を吐いているとは思えなかった。
「昔、本で読んだ『タイムスリップ』でもしたというのかい?」
無言で頷く。そして、ここに至るまでの経緯を説明した。ロミオの死。ジュリウスの離脱。ラケルによる終末捕食。それを防ぐ為のサカキによる終末捕食の相殺。その相殺を止めないように生まれた螺旋の樹。キュウビとの戦いや、防衛班との任務。そして、あの時の任務のことも。全てを聞き終わったサカキはゆっくりと呟く。
「実に興味深い。命の危機に応えたという訳か」
「貴方ならそう言ってくれると思ってましたよ、博士」
「確証が得られるまではなんとも言えないが、これだけは言っておこう」
咳払いをひとつして、少し声を低くする。
「過去を変えるということは、未来を変えるということだ。信じたくないが、ロミオ君が死ぬことを君が防げたとしよう。それで本来…君がいた未来が、君がいたときと全く同じまま時が流れるとは限らない。彼らを助けたことで、ラケル博士がまた何か新たに策を仕掛けてくるだろう。彼女は最高の頭脳と称されている位だからね」
マキは目を見開いた。彼らを助けたいと思うあまり、元の時間で起きてきたことなど気にしていなかった。あの時間に置いてきた仲間たちが犠牲にならないとは、言い切れないのだ。そして、仮に助けられても。自分の身を犠牲にしてまでジュリウスを『世界を拓く者』にした彼女だ。次なる手があるに違いない。あまりの衝撃に、そして自分の愚かさに言葉を紡げなかった。
だが、とサカキは続ける。
「君は、話を聞く限り、想像を絶するような戦いを続けてきたみたいだ。奇跡も起こした。二人を救える可能性はゼロではない。現在を変えることで未来も変わるリスクを背負うか…同じように時を過ごし、元いた世界に戻るのか…」
マキは鼻で笑う。
「言うまでもない。私が戻ってきたのは、二人を救う為。その為にきっとジュリウスが私をここに連れて来てくれたんだと思うから…だからと言って、他の仲間を見捨てたりしない。全員まとめて護ります。この手で。命に代えてでも」
彼女の目は仲間を護りたいと思う優しさと、ラケルを許すわけにはいかないと思う怒りが入り混じっていた。だがどこまでも、その眼差しは力強かった。
「そうかい」
サカキは立ち上がっていつもの感情が分からない顔に戻る。
「私も出来る限りの援助はしよう。だが、無茶はいけないよ?仲間を頼りなさい。君一人では出来ないことも、仲間がいれば出来ることもあるのだから」
「はい…ありがとうございます。お時間を頂き、申し訳ございませんでした」
マキはドアをくぐり抜けようとしたとき、振り返って追加の依頼をする。
「このことは、内密に願います」
人差し指を立て口元に持っていく。サカキも同じジェスチャーをする。マキは微笑むと、今度こそ部屋を後にした。
「…タイムスリップか。実に興味深い。ブラッド副隊長。君は底知れぬ技量があるようだね」
再びパソコンに向き直り、リズミカルにキーボードを打ち始めた。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.11 )
- 日時: 2015/09/26 23:14
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
エリナとエミールへの挨拶を簡単に済ませた後、自室へ向かったマキ。そこで高峰サツキと葦原ユノに会った。
貴族趣味だと言ったギルバートへサツキが反論したり、ロミオがファンだとユノへ言い寄り、サツキがそれを止めに入ったりと一悶着あったが、どうにか部屋へ入ることが出来た。
「確かに、フライアは貴族趣味かもな」
部屋はフライアよりも簡素に出来ていた。青い床にベッドと机とソファー。それからターミナルがある程度。フライアは窓枠や床に装飾が施されており、食事といえば極東のようなアットホームな雰囲気は無く、昔テレビでよく見た長い机にブラッドや局員が定位置に座り、重苦しい空気の中食べていた。
今では——といってもこの頃はまだ極東の事を何も知らなかったが——フライアより極東にいる時間の方が長くなってしまい、フライアにいた僅かな時間さえ懐かしく思えてしまった。マキは苦笑し、ベッドへ横になった。
『——過去を変えるということは、未来を変えるということだ。本来君がいた未来が君がいたときと全く同じまま時が流れるとは限らない』
先程のサカキとのやり取りを思い出す。
何度もジュリウスとロミオを救いたいと願っていた。出来ることなら過去に戻って二人を助けて、またブラッド全員で任務に行きたい。自分が副隊長として隊長をサポートしながら先陣を切って戦いたい…そう思っていた。けれども、二人を救ったら、別の誰かが犠牲になるかもしれない。その犠牲者は自分かもしれない。
「あんな大口叩いておいて、出来るのか…私が」
先のことなんて何も考えていなかった自分に腹が立ってきた。いつもなら気にすることなど無い未来を気にして、叫ぶことができない鬱憤をシーツを握り締め、皺くちゃにさせることで解消する。その時、部屋の外から声がした。
『副隊長ー!任務だってよー!』
ロミオの明るい声がする。軽く返事をし、ターミナルで準備を整える。次の任務は確かコンゴウ二体の討伐任務だ。
「…そういえば、あの辺の奴らとやりあうのは久々な気がする」
マルドゥークやらキュウビやらハンニバル神速種やら、所謂「強敵の大型種」と何度もやり合ってきたマキは、コンゴウ二体程度なら一人でも行ける。そしてふと、思う。
「…この頃の武器ってあんまり揃ってないか?」
ターミナルで自分の持ち物を確認する。
「…え」
武器は——ないといえばないし、あるといえばあった。属性に特化した武器はなかったが、クロガネの武器ならあった。しかも最終型。この頃、まだ極密度複合コアはまだ作れないはずだ。
「まさか…あの時の持ち物のまま…?」
過去に飛ばされる前、付けていた装備だ。簡単な任務だと思っていたので、回復錠Sはあの時持っていってなかった。ホールドトラップも持っていっていない。いつものスタングレネードと回復錠・回復錠改のみだ。
外でロミオが催促している。マキは装備を変えず——正確には変えられず——自室を後にした。
ミッションはコウタ・ロミオ・ジュリウスで向かうことになった。コウタが付いてきたのは「ブラッドのお手並み拝見と行こう」というものだった。そこに隊長と副隊長、一番近場にいたロミオを連れてきた。マキはいつものとおり指示を出す。
「コウタ…隊長はロミオと雑魚を叩いて下さい。私と隊長はコンゴウを一体ずつ相手する。二人は雑魚を始末次第、どちらかに合流してくれ」
マキは作戦エリアに入る前に全員に告げる。
「っふー!やっぱブラッドは違うねー!指示の出し方が上手いや!俺も見習わなきゃなー」
コウタが賞賛する。それに便乗するかのようにロミオもマキを賞賛し始める。
「うちの副隊長はすげーんですよ!血の力にもう目覚めてるし、ブラッドアーツなんかかっけーんですから!」
「あぁあれね!噂は聞いてるよ!必殺技みたいなのをずばーっと…」
「コウタ隊長、その話は後ほど…」
ジュリウスが話を強制的に終わらせる。マキは思わず噴き出した。二人のテンションに彼は付いていけないみたいだ。「俺はロミオみたいにできない」と言っていたのを思い出す。
「隊長はローテンションみたいですよ」
「え、そうなの?そんなんじゃやってけないよー!テンションあげていこうぜ!この後は歓迎会だからな!」
コウタがバシバシとジュリウスの背中を叩く。ジュリウスは背中をさすっていた。少々痛かったようだ。
「余興はこれくらいにして、行くぞ」
「「「了解!」」」
三人の声が重なった。それを合図に全員作戦エリアに下りる。開けた場所に出ると、コンゴウが姿を現した。
「コウタの願いに応えてやらないとな…」
先程の迷いなどなかったかのように、マキはコンゴウに向かっていった。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.12 )
- 日時: 2015/09/27 15:00
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
ものの数分でコンゴウを無へと還すことに成功したマキ達。
「ひぇー…驚いたな。ブラッドってこんな簡単に終わらせちまうのか?」
まだバレット残量があるよーと感心したように言う。
「いや、今回は…」
結構楽でした、なんて言ったら二人に驚かれるだろう。なんせこの頃は神機の扱い・アラガミとの間の取り方はまだまだ研究段階で、シユウ一体でさえ苦戦していた頃だった。言おうとしていた言葉を飲み込んで、新たな言葉を紡ぐ。
「コウタ隊長がいたからですよ。極東の神機使いはレベルが高いです」
「え、そう?照れちゃうなー!」
時々あどけない表情を見せるのは、今も昔も変わらない。
「でもすげーのな!必殺技!なんか赤い光とか見せてバチーン!ってやっちまうのな!」
血の力を持つものが使える必殺技、ブラッドアーツ。戦いの中で洗練され、理論上は際限なく強くなる。ジュリウスやマキ、シエルが現段階で使える。後にギルやナナも使えるようになるのだが…。
「そうなんすよ!俺も早く使えるようになりたいなー!」
ロミオは、死ぬ直前に発現した。すなわち、使うことなく亡くなっていった。彼の血の力は一体なんだったのだろう。新人の頃に血の力について教えてくれたことを思い出す。あの時、周囲のアラガミが逃げていったとシエルから聞いた。となるとナナとは真逆の力なのかと思う。そして気づいた。
——戻ってきた今なら、彼を救って、血の力に目覚めさせることも出来るかもしれない。
「ふくたいちょー?どうした?」
「え?あ、いや…ちょっと、考え事を…」
『——帰投準備が出来ました。位置情報を送るのでそこでお待ち下さい』
ヒバリから無線が入った。コウタが位置情報を確認し、三人を先導するように歩き始めた。
「おかえりー!お腹空いたよー!早く歓迎会して貰おうよー!」
エントランスではナナが迎えてくれた。
「ナナお前なー」
ヒバリに帰還報告をし、コアや拾ってきた素材をターミナルに収める。そこでマキは異変に気付く。
ターミナルでは戦闘準備や武器強化のほかに、複合コアを作れる。そのコアを武器に使うと今までの武器より強くなり、戦闘を有利に運べるようになる。
「なんで…?」
——極密度複合コアが作れる。
極密度複合コアには100のコストが必要である。コストは、アラガミから手に入ったコアの稀少度で決まるのである。例えば、マガツキュウビのコア・空弧ノ肝。あれはもの凄く手に入りにくいとされている。胸鎧を結合崩壊させれば手に入る筈なのだが、個体毎に持っているものとそうでないものがいる様だ。実際、マキも手に入れたのは片手で数えられる程度——最も、マガツキュウビなどの稀少アラガミが現れることが低いのと、あまり戦いに自ら進んでいかないのもある——。反面、ドレッドパイクのコアは簡単に手に入るものが多いが、コストは低い。だが、異常な変化を遂げた個体だと、珍しいコアが手に入る。
このようにコアの稀少度はアラガミの強さに比例していたり、入手頻度の面もある。つまり、それだけ沢山のアラガミを狩り、部位を結合崩壊させるかコアを捕食しないと作れない。マルドゥークすら倒していない今、何故作れるのか。
「いろいろとおかしいな…」
「どうかしたのか?何がおかしいんだ?」
ジュリウスがいつの間にか横にいて、手元のターミナルを覗いている。本人は至って真面目にターミナルの調子が悪いのかとか、武器が無いのかと聞いてくる。
「え?あ、いや、その、なんでもない!」
——というか顔が近い!
マキの顔がみるみる赤くなる。
「そうか。先程のミッションもそうだったが、疲れているんじゃないのか?突然黙り込んだり、顔から血の気が引いたり…ん?顔が赤いぞ副隊長。熱でも——」
「だ、大丈夫だ!そ、それより隊長、歓迎会。歓迎会行きましょ!皆が待ってる」
ジュリウスの背中をぐいぐいと押す。そのままラウンジへを押し込み、「あとから行く」と言ってその場を後にした。
マキはその場に座り込み、両手で顔を覆う。その時ユノが通りかかり、大分心配された。適当に言い訳を作り納得させ、自室へと駆け込む。通り過ぎる人々が終始驚いていたが気にしない。部屋に入るやいなや、ベッドへ突っ伏す。
「…ジュリウスって、あんなに女への距離感とか分かっていないのか?」
綺麗な肌と長い下まつげ。整った目鼻立ち。まるでビスクドールのような顔が脳裏に焼きついてしまい、ますます赤面する。
マキは顔をバシバシ叩き、顔を洗って心を落ち着かせ、こんなことに現を抜かしていてはいけないと反省した後、部屋へ来たときと同じスピードでラウンジへ急いだ。歓迎会ではジュリウスの挨拶やユノの歌が披露されたのだが、どれもあまり頭に入ってこなかった。
朧げにユノの透き通るような歌声が耳に残っている程度だった。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.13 )
- 日時: 2015/09/27 15:49
- 名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)
その後のマキというもの、呆けていることが多くHP危険域突入・アイテム切れなど、普段の彼女からしたらありえないミスが目立った。ミッションに同行したギル、シエル、ナナから問いただされた。
「副隊長、どーしたの?なんか珍しいねー。アイテム切れとか」
「やはり疲れているのですよ。それとも前に負った大怪我の傷が痛みますか?」
「少し休め副隊長。あんなミッションくらい俺らでもできる」
——いや、そういうわけではないのだが…と、内心で呟く。あまりにも情けない。自分の感情程度で命の危機が迫るというのだから。大丈夫と言っても仲間は休めだの、後方支援に回れだの言って来る。心配はありがたいのだが、これでは過保護も良い所だ。確かに本来のこの頃は上手く立ち回れず苦戦したものだが、『今』のマキではありえないものだった。
「手当てはしたのか副隊長」
そこへ、原因を作った本人登場。貴方の所為だジュリウス!などとは言える筈もなく。
「だ、大丈夫だ…アイテム切れと言っても普段より少なく持っていってたからこうなっただけだし、HP危険域なんてしょっちゅうだしな」
まともにジュリウスの顔が見れないマキ。平静を装っているが、目が泳いでいた。
「と、とにかく、次は気をつけるから…みんな、ありがとう」
足早にその場を去る。途中で躓いてこけそうになり、エレベーターの壁に勢いよくぶつかったが、ぶつかる前に扉が閉まってくれたので、誰にも見られずに済んだ。最も、躓くところは見られたかもしれないが。
「冷静になれ!こんなんじゃあいつらをまた危険な目に合わせるだけじゃないか!…ブラッドの副隊長たるもの、私情を持ち込んではいけない!私は何のために此処に来たのかをよく——」
己を叱咤しているその時だった。アナグラに警報が鳴り響く。先程とは打って変わり、一気に引き締まった表情になったマキは部屋を飛び出し、エントランスへと急いだ。すぐさまヒバリへ事情を聞く。
「アラガミ防壁を破られました!サテライト拠点へ侵入します!ですが…先程ブラッドの皆さんはつい先程任務へ向かわれてしまいました…現在、第一部隊も向かっているとのことですが、時間かかかります」
「私だけか…行こう。数と種類は」
「数は把握できていませんが…シユウやサリエルと言った飛行系のアラガミが多数——マキさん!?」
マキは最後まで聞くことなく、出撃ゲートへ向かった。
車を全速力で走らせる。ヒバリからどのあたりなのかを聞くのを忘れたため、悲鳴と砂煙を頼りに向かう。角で思い切りハンドルを切り、横向きに急停止させる。そこにはヒバリから聞いたとおり、飛行系のアラガミが多数いた。穴が開いたアラガミ防壁から続々とアラガミが入ってくる。既に犠牲者も出ているようだ。己の無力さと悔しさをこめた舌打ちを一つしたときだった。
『——マキさん!マキさん!聞こえますか!ヒバリです!』
「聞こえるぞ。どうした」
『現在第一部隊が目的地まであと10キロとの連絡を受けました!耐えてください!すぐに他の神機使いを向かわせます!』
了解、と言い残して無線を切る。目の前のものに集中するためだ。緊急事態の任務ではマキがよくやっている戦法だ。情報はちゃんと聞いてくれとよく怒られるのだが。地面に血まみれで倒れている少女の亡骸を見、その少女を捕食したと思われるシユウへと視線を移した。
「…なぁ、人ってどんな味がするんだ?美味いのか?教えてくれよ」
神機を握りなおし、アラガミとの距離をじりじりと詰める。その際、腰が抜けて動けなくなっている少女の父親らしき人物が視界に入った。
「ご家族、ですか」
男性は頷く。マキは目だけを男性に向ける。
「アナグラへ連れて行ってあげてくれ…何も出来なくてすまない。でも、私が食い止める」
マキは上体低くしたままシユウへ駆け寄る。シユウは低空飛行でマキへ向かってくる。ライジングエッジで斬撃を加えながら攻撃避けつつ、着地と同時にすぐさま踵を返し、横一線。シユウの硬い体を真っ二つにした。
マキの気迫に驚いたのか、暫し男性は動かなかった。しかし、我に返ったのか少女を抱きかかえ、アナグラの方へ姿を消した。近くで悲鳴らしきものは聞こえてこなくなった。聞こえるのは、アラガミの咆哮とマキの戦闘音のみだった。
無駄が無い動作で次々とアラガミを倒していく。地面にはざっと10体もの飛行系アラガミの亡骸が転がっていた。
3体目のシユウがダウンした隙に、ライジングエッジで攻撃をしつつ宙に舞うと、そのまま神縫いを見舞う。シユウは割れるような悲鳴を上げ、力なく崩れた。コアを回収し、すぐさまシユウを援護するかのようにレーザー光線をマキに浴びせていたサリエルへ駆け寄る。が、低空飛行してきたザイゴートに衝突してしまい、民家へ叩きつけられた。
「うぐっ…」
ザイゴートごときで手こずる彼女ではない。すぐに立ち直り、ザイゴートを一瞬で地面へ落とし、サリエルへ向き直る。口から血を吐き捨て神機を構えなおし、走りながら高くジャンプする。ショートブレードしかできない空中移動で一気に間合いを詰める。
「土に還れ!」
一撃でサリエルを真っ二つにした。サリエルはすぐに黒き煙となって消えていく。改めて耳を澄ませたが、サテライト拠点の方からはアラガミの声や人の悲鳴はやはり聞こえてこない。
「終わったか…」
無線を切っていたので何体やったのか分からない。荒い息を整え、無線を入れようとしていたその時だった。
「後ろっ!!!」
声のする方向へ向き直ろうとしたとき、マキは宙を舞った。激しい音ともに瓦礫の中へ落ちる。
「しっかりしろ!大丈夫か!!」
声の主はコウタだった。第一部隊が戻ってきたのだ。
「エリナ!こいつの手当てを頼む!エミールは住民の状況を確認して来い!車使って飛ばせ!」
「了解!」
「騎士たるもの、民を護ることが出来なければならない!!」
エリナがマキへ駆け寄り、エミールは土煙を上げながらサテライトの方へ小さくなっていった。
「遅くなって悪かった。けど、もう平気だぜ。こっからは、俺たちに任せな!」
コウタが歯を見せ笑う。
「傷だらけじゃない…しかもアイテム切れてるし!これ使って!」
エリナはマキへ回復球を渡す。鞄から包帯を取り出し、止血を行う。
血で視界が悪かったが、マキは自分を痛めつけたアラガミを見やる。どうやら開いた穴から入ってきたらしい。目の前のアラガミに集中しすぎて周囲に気を配れていなかったことが迂闊だったと反省する。
コウタの向こう側には、犬のような井出たちだのアラガミがいた。だが、その大きさは犬の比ではなく、足は硬い岩のようなもので覆われている。
「…ガ、ルム…」
「お前は影で隠れてろ!エリナ!行けるか!」
「はい!いい、ここから動いたら絶対駄目だから!」
マキはアラガミの視界に入らない場所へ移された。極東に来たばかりだというのに、ブラッドの威厳を見せるどころか、醜態を晒しているばかりだ。先のミッションでも、今も。己の情にかられ、本質を見失っている。情けなくて堪らない。
『——全員まとめて護ります。この手で。命に代えてでも』
——貴方にそれができるのですか?為すべき時に為すべきことを為せなかった貴方が——
ラケルの声が聞こえたような気がした。マキはそのまま気を失った。
「あっ!」
エリナが神機を手放してしまった。ガルムの攻撃を受け流せなかったようだ。ガルムはエリナを踏みつける。その風圧でエリナは吹っ飛んでしまう。
「エリナ!」
追い打ちをかけるガルムとエリナの間にコウタが駆け寄り、身を挺して彼女を護ろうとする。コウタは覚悟を決め目を瞑った。だが、痛みはなかった。
「…?」
恐る恐る目を開けると、ガルムの足が目の前で止まっていた。足元に何か冷たいものを感じ、視線を移す。血が流れていた。正確には、上から落ちていた。マキがガルムの足へ剣を刺していたのだ。
コウタが視界の隅で捉えていたマキの姿は瓦礫に突っ伏したまま動かなかったはずだ。なのに、あの距離——直線距離で50mだろうか——を一瞬で詰め目の前にいる。睨みつけるマキの瞳は、アラガミのそれだった。コウタは背中に悪寒を感じた。
返り血を浴びるのも気にせず、思い切り剣を引き抜く。目にも留まらぬ速さでガルムの体中に傷が出来る。
錯覚だろうか。そのときコウタは、マキの背に金色の翼が生えているように見えた。
ヒバリが何やら言っていたが、コウタの耳には入らなかった。エリナもコウタの肩から恐る恐る顔を覗かせ、絶句する。
「動いちゃ駄目だって…」
ガルムがダウンした。その時、コウタが我に返る。
「エリナ!Oアンプルくれ!その場に捨てて行っていいから!動けそうだな?すぐに後方支援に回ってくれ!」
「え!?あ…はい!」
その後三人はガルムを見事倒し、エミールも住民の無事を確認し戻ってきた。だがマキは、ガルムに最後の一撃を放つと同時に再び意識を失った。
先程感じた、狂気にも似た強さ。一体何だったのか。コウタの腕の中で目を瞑る彼女からそれは感じられなかった。後にこのことをコウタはこう語った。
——あの時、アラガミ化したのではないかと思った、と。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.14 )
- 日時: 2014/08/25 23:49
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
「あ、大丈夫ですか?」
気がつくと、看護生の桐谷ヤエが点滴を取り替えていたところだった。
「すごい量のアラガミをお一人で倒したんですってね。噂はやっぱり嘘じゃなかったんですね、ブラッドはすごいって」
「…た」
ヤエが表情をハテナにしているろ、マキは虚ろな目をして呟いた。
「女の子を…助けられなかった」
血まみれで倒れていた少女を思い出す。
「私は、一体何の為に、神機使いをやっているんだろうな」
マキは手を突き上げ拳を作る。そして、それをそのままベッドに叩きつけた。ヤエが小さく悲鳴を上げる。
「私は…自分の欲に負けたんだ。それで、そんなので動揺して…護るべきものを護れない癖に、皆丸ごと護るとか、大口叩いて…くそっ…私は…無力だッ」
「そんなことはないですよ」
「!?」
喪服のような服を身に纏い、車椅子を押した少女——というには若すぎる女——ラケルがいた。マキは目を丸くしたままで何も言葉を発することが出来なかった。
「私の可愛い子達が大怪我を負ったと聞いたら、いても経ってもいられなくなってしまったのですよ、マキ」
ラケルはその手を傷を負ったマキの頬に置く。
「あまり無理をしたらだめですよ」
ラケルはヤエに退室を促した。病室に二人きりになる。
「最近、無茶をしているようですが…仲間を頼りなさい。貴女は一人じゃないの——」
会話の途中だったが、マキはラケルの手を払う。
「どの面下げてきたんですか…人間の姿をしたアラガミさん」
わが子を心配する母親のような瞳を向けるラケルとは対照的に、今にでも襲い掛かりそうな獰猛な瞳をマキは向ける。彼女にとってラケルは因縁の相手だ。ロミオを死に追いやり、ジュリウスを使って世界を破滅へと導こうとした張本人。出来ることなら止めを刺したいと思っていた。だが、ラケルはアラガミとなったジュリウスに取り込まれ——正確には自ら取り込まれることを望んで——その願いは叶わぬものとなってしまった。
「…どうしたのですか?反抗期ですかね…」
「貴女のやろうとしていることは全て知っていますよ。力ずくでも止めて見せる」
こういう事を言っている自分のほうがよっぽどアラガミなんじゃないかと思ったが、今はそれどころではない。
ラケルはくつくつと笑う。
「面白いことを言うのですね…悪い夢でも見たのでしょう」
「今に証拠を掴んでやる…ロミオも、ジュリウスも、あんたなんかに殺させはしない…」
ラケルが一瞬真顔になる。だがすぐに元の微笑を取り戻す。
「何を言っているのかはよく分かりませんが、きっと出動のし過ぎとアラガミからのダメージで気が動転しているのでしょう。だから私が、アラガミに見えるのでしょうね」
車椅子を回転させ、マキへ背を向ける。
「待てっ…うっ…」
追おうとしたが、傷が痛み、動けなかった。
「物語は、貴女によって始まった。始まりがあれば終わりがある。人が生まれ、死に逝くように…この物語も、いずれ終焉を迎えるのです。最後の晩餐まで、刻一刻と、迫っているのです」
「…終わらせてあげますよ。ストーリーテラーの死で物語はジ・エンドだ」
ラケルは振り向きもせずに言った。
「ふふふ…さて、どうなるのでしょうね。楽しみにしていますよ、マキ」
そう言って、ラケルは姿を消した。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.15 )
- 日時: 2014/08/27 20:59
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
暫くすると、病室にコウタとエリナ、エミールが見舞いに来てくれた。
「悪かったな…極東来たばっかりなのにこんなんにさせちまってさ」
「いや…いいんだ。これも仕事のうちさ」
返事をしながらも、別のことを考えていた。
歴史が変わっていないか、と。こんなにもアラガミが突発的に出てくることがあったか。確か、コウタたちといったコンゴウ二体の討伐任務のすぐ後にアラガミ防壁突破など無かった筈だ。アリサに出会ったあの時以来無い…様な気がするのだ。
そして、こうして自分の下へラケルが訪れたことも無い。
考える程頭が痛くなる。それを怪我によるものだと彼らは捉えたようで、マキの体を気遣う言葉をくれた。
「アラガミの巣窟だからな…こういうことは珍しくないんだ。これからもあるかもしれないから、宜しくな。もう無茶すんなよ」
「今はちゃんと休んでなさいよねっ。神機使いはいつでも人手不足なんだから」
「騎士にも休息は必要だ。これをいい機会だと思ってゆっくり休んでくれたまえ」
けれども今は、三人の言うとおりにしようと思った。
「成程。つまり、君が此処、過去に来たという時点で歴史が少し変わっているのではないか、ということだね?」
病室にサカキを呼び出し、疑問を投げかけた。マキは無言で頷く。サカキは腕を組んで考え始めた。頭の中の引き出しから答えを導くように。
「結局、私には何も出来ないのか…危険に巻き込むだけで、何も変わらないのか」
「誰がそんなのこと決めたんだい?」
サカキは相変わらず表情の読み取れない目でマキを見つめる。
「これからの動きで、どうとだって変わっていく。これからのことを知っている君なら…あの二人をいや、皆を、救っていけるさ。一人で戦おうとするんじゃない。仲間を頼りなさい」
そう言ってサカキは席を立つ。そして、去り際に一言残していった。
「私も戦うよ、マキ君」
神機使いの回復は早いもので。一日もしないうちにマキはすっかり元気になった。その途端、シエルとブラッドバレットの検証に行ったり、リンクサポートデバイスの運用テストに行ったりと、元の活躍ぶりを取り戻してきたようだった。一方ラウンジではコウタとロミオがシプレの新曲に酔いしれていた。マキも一緒に見たのだが…二人が熱狂する程の良さは、いまいち分からなかった。
相変わらずの忙しさに少しほっとしたマキ。
「私には、これが一番似合うんだな。きっと」
ムツミが作ってくれた飲み物を口にしながら、そういえば神機使いになる前は何をしていたっけ、と考える。毎日どうやって生活していたのか。思い出そうとしたが、神機使いになってからの方が色々あったので、もう思い出せなかった。思わず苦笑する。
「よぉ、ブラッドの副隊長さん!」
引退した神機使いであるダミアンが話をしにやってきた。彼は相当強かったという話だ。リンクサポートの件について話に来たようだ。
「分かった。リッカの所へ急ごう。ムツミちゃん、ごちそうさま」
「え?もう行くの?」
「私にはこれしかないようだからな」
一気に飲み干し、マキは駆け足でラウンジを後にする。
「元気になってよかった」
ムツミはニコニコしながら後片付けを始める。
「あ、片付けてるところ悪いんだけど、俺にも何か頂戴?」
「はーい!」
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.16 )
- 日時: 2014/08/19 13:03
- 名前: 諸星銀佳 (ID: FAB9TxkG)
第一章を加筆・修正しました。
第二章も書き終わり次第しようと思っていますので、よろしくお願い致します。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.17 )
- 日時: 2014/08/20 22:15
- 名前: 諸星銀佳 (ID: FAB9TxkG)
リッカとのミッションを終え、ギルバートに呼び出されていたことを思い出したマキ。彼を呼びに行き、すっかり変わり果てた極東の地図を眺めていた。
「おお!ギルじゃないか!」
聞き覚えのある声がした。
「ハル……さん?」
「ハルさ」
マキは言いかけて口を押さえた。二人に怪訝そうな顔で見られたが、ハルオミは気にせずに続ける。
「極東に来てんなら、言ってくれりゃいいのに」
「いや……ここにいるって、知らなかったッスよ」
二人の昔話を聞きながら、どっと出た冷や汗をマキは服の袖で拭う。
——危ない…初対面の人間が名前なんか知っていたら絶対に怪しまれるところだった…
その際は、なんとかして言い訳しようと思っていたが。
「ああ、紹介する、真壁ハルオミさん。グラスゴー支部で、一緒にチームを組んでいた…ハルさん、今所属しているブラッドの副隊長です」
「ああ!ブラッドかー!うっすら聞いた。なんかすごいんだってな、よく知らないけどさ。俺は——」
ハルオミの自己紹介やカノンのことなど、もうとうに知っている。話は軽く聞き流していた。相変わらずのセクハラ発言は——聞いてないことにした。
「ギルが何かやらかしたときは、遠慮なく言ってくれ。斜に構えてるコイツの扱い、俺は相当プロだぜ?」
元いた時代と全く変わらないやり取りをして、ハルオミはその場を去った。
その後も任務を淡々とこなしていくマキ達。着実に皆力をつけていっている。
アナグラへ戻る車の中。マキが運転し、ギルバートが助手席に乗り、後ろではシエルとナナがなにやら楽しそうに話していた。
この大きさなら二人には聞こえないだろうと思い、マキはギルバートに話しかける。
「ギル…」
それはいつもより若干小さめの声。豪快な音を鳴らしながら、土煙を上げて走る車では無論、聞こえなかった。別段、深い理由があって話しかけた訳ではない。ただ、どこか寂しげに遠くを見つめるギルバートが気にかかっただけだ。
会話は諦め、運転に集中する。そして、これからのことを少し考えていた。
——ロミオが色々と焦りを感じ始めるまでは、普通に任務をこなす。考えるのはその後だ。
「生きろよ…」
先程より小さな声で言った筈だが、ギルバートはそれに気付いたようだ。彼は小さく笑った。
任務を終え、報告をしている最中、ギルバートとハルオミがラウンジへ入っていくのが見えた。マキは扉の前で聞き耳を立てた。ところどころ聞き取れない部分はあるが、ハルオミが色々ギルバートのことについて聞いているのは分かる。
『——お前んとこの副隊長!アイツ、面白そうなヤツだな』
『——柔らかい感じがして、不思議な奴です。いつだって前向きで……』
そんな会話が聞こえてきた。マキは思わず照れる。ミッションへ行こうとしていたコウタに怪しまれたが、気にせず続けた。
『——人から好かれて、何でもかんでも、すぐに背負っちまう……』
『——それでつい、一度説教じみたことをしてしまいました』
あれはそういう意味があったのかと悟る。赤い雨の中、神機兵に乗ってシエルを助けに行ったことだ。だが別段怒ってはいない。自分を心配して言ってくれたことだから、むしろ感謝さえ覚える。
『——結局、どこまでも前向きで、キラッキラしてて……そのくせ、すごい頑なで、ちっともこっちの言うこと聞きゃしないんだ……』
ハルオミは恐らく妻であったケイトさんのことを言っているのだろう。だが、その彼女はマキに似ているらしい。「頑な」「言うこと聞かない」は図星であり、ドキっとした。二人の気持ちは、元いた時代では聞けなかったことなので、ちょっと嬉しい反面、自分のことをそう思っていると言ってほしかったと思う。
——ま、女にこんなこと面と向かって言えるような奴じゃないよな。ハルさんは分からないけど。
『——いい奴ほど早く逝っちまうってのは……何でなんだろうなぁ』
ハルオミのその言葉にマキは背中に何かが走ったような感覚を覚えた。
そのとおりだ。助けてもらったおじいさんとおばあさんの身を案じて赤い雨の中を飛び出し、突然出てきた感応種からジュリウスを護るべく、命を投げ打ったロミオ。そして、もうそんな思いをしなくていいようにとラケルの駒となり、世界を破滅へ導こうとしたが、最後は仲間やサテライトの住民を思い、赤い雨を止めたジュリウス。
人の為に動いた人が、この世界では消えていく。そう思った。
では自分はどうだろうかと、改めて考える。人の為に動いたことは——ない。自分の為に動いた結果が人の為になった、と言う感じだ。
「ほんと、何でなんだろうな…」
二人の会話が終わり、マキもラウンジへ足を踏みいれる。すれ違ったギルがやはり寂しそうな顔をしていたのを見逃さなかった。やるせない気持ちになりながら、一番奥のサテライト拠点が見える椅子に座る。
「よう、副隊長さん」
声をかけられた。声の主はハルオミだった。そういえば、あの時もこうした話しかけられた気がする。グラスゴー支部の昔話だ。いつも通りもミッションで突然あのルフス・カリギュラが現れ、ギルバートがケイトさんを介錯しなければならなくなったこと。
どことなく重苦しい空気が流れる。
「お前さんはずいぶん聞き上手だな……そんな真剣な表情されると、ついベラベラと話しちまう」
今日は楽しかった、と無理に笑いその場を去るハルオミ。彼やギルバートの気持ちは、「今」の自分なら、痛いほど分かる。
「けど…私は、お前たちのために戻って来た訳じゃないんだ…ごめん、ギル、ハルさん」
結局自己満足で動いている自分に腹が立ってきた。
「だから無駄に死なないで、こうして生きているんだろうな…」
その後、エイジスで赤いカリギュラを目撃したとの情報を受け捜索したところ、少し離れた廃棄母艦にそれは現れ、マキ、ギルバード、ハルオミの三人で討伐に向かった。そこでギルバートは血の力に目覚めた。標的も無事討伐し、ギルバートとハルオミは過去に一応の踏ん切りをつけることが出来た。彼らから漂っていた哀愁は、もうどこにもなかった。