二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.18 )
- 日時: 2014/08/24 22:11
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
§第三章 忍び寄る悪夢§
ギルバートが血の力に目覚めてすぐ、紆余曲折を経たが、ナナも血の力に目覚めた。あとはロミオのみとなった。
ブラッドは覚醒したナナの力を使って戦術を立ててみようという話になり、一度フライアに戻って作戦会議をしていた時だった。
オープンチャンネルに救援要請が入った。感応種が出たとのことだ。
感応種。特殊な偏食場を出し、神機を使えなくするアラガミ。また、他のアラガミを活性化させたり、神機使いにまで作用を及ぼしたりもする。ブラッドは動けるものの、他の神機使いたちは成す術がないのだ。そうとなれば自分たちが赴くしかない。
「ブラッド、出るぞ!」
ジュリウスの一声で一同は戦場へ向かった。
今回の討伐対象はイェン・ツィーという感応種だ。自身の感応能力により周囲のアラガミの攻撃目標を一人の神機使いに集中させ、集中攻撃を仕掛けてくる。攻撃対象となった神機使いは、イェン・ツィーを怯ませることで集中攻撃を免れることが出来る。が、戦術マニュアルには「守備に徹すること」を推奨している。また、周囲のオラクル細胞を瞬時に集合させ、下僕であるチョウワンというアラガミを召還する。このチョウワンと言うアラガミは、とても脆いコアで出来ているため、倒すとすぐに黒い煙となって消えていく。
「厄介だな…」
ジュリウスが呟いた。
「焦るな。アイツはシユウ種だが、シユウやその堕天と比べると剣が入りやすい。それに弱点特性が多いのも討伐しやすい。高いところから一気に降りてくる攻撃だけが少々厄介だ。気をつけろ…はっ」
——しまった!今回が初討伐だった!こんなことを言ったら怪しまれる!
マキは恐る恐る今回のミッションに同行させたジュリウス、ナナ、シエルをみやる。
「副隊長…」
「な、なんだシエル」
「以前、どこかで戦ったのですか?」
痛いところを突かれた。
「ま、まぁ気にするな。今は倒すことが先決。行くぞ」
どうにか丸く——は、ないかもしれないが——収めることが出来た。
討伐後、一人の神機使いと出会う。
「あの……貴方たちは?」
銀髪に赤い帽子。青い目をした美少女。
「フェンリル極東支部、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです」
「アリ——」
そこで手を押さえる。一体何度同じことをするのか。アリサは少し不思議そうな顔をするが、じっとこちらを見つめてくる。
「ん?私の部下が何か?」
ジュリウスがその視線に気付いたのか、アリサに問いかけた。
「いえ!ただ、少し知っている人と似ていたような気がしたので……」
「そうですか」
帰投準備が整ったため、一同はその場を後にする。アリサは立ち尽くしたままだった。マキは声をかけようと思ったが、のちにアナグラで会うことを思い出し、皆に続いた。
その後アリサとも再会し、感応種討伐を手伝うことを約束した。
ラウンジへ向かうと、ナナとロミオが熱心に会話している。今度の任務についてのことらしい。いつになくやる気ナロミオにナナは少々違和感を覚えているようだ。マキはいつものように「焦るな」と言うが、ロミオは大丈夫の一点張り。不安を覚えながらも、ミッションに同行させた。その不安が当たったのか、前に出すぎてHPが危険域に突入することが多かった。そのことをギルバートに指摘されたが、素直に受け止めているような口ぶりとは思えなかった。
「……俺だって、ブラッドだからな」
マキはロミオが何か言ったように見えたが、内容までは聞こえなかった。
次のミッションでも同じことが続いた。何とか討伐できたものの、ほめられたものではなかった。
「いやー、楽勝楽勝!もうブラッドに敵無しって感じ!……ん?何、この空気」
いつもの様に頭の後ろで手を組みながら歩くロミオ。いつもとは違う雰囲気に歩みを止めた。そのタイミングで、ナナは恐る恐る聞いた。
「先輩、なんか最近おかしくない?」
「え?……いやいや、そんなことないよー!だってさージュリウスがいなくたって生還率100%でしょ?これは明らかに、ブラッドとしての実力だよ!あ、もちろん副隊長の指示もいい感じだよ!」
——この時から違和感を感じてはいた。なんで、気付いてあげられなかったんだ…。
ロミオは明るく振舞い続ける。
「おい、ロミオ……さっきのミッション何なんだよ……全然なってねぇ」
ギルバートの言うとおりだった。言い方はきついが、ロミオの身を案じていた。
「あんま固いこと言うなよ、ギルちゃーん。頼れる後輩もいるわけだし、もっとこう、余裕を持ってさー」
痺れを切らしたのか、ギルバートは思っていることを口にしてしまう。
「余裕と油断は違うだろ……後輩に抜かれまくって——」
追い討ちをかけるようにやる気が無い、だったら止めろと言われる。その言葉を聞いて、ロミオの顔つきが変わった。
「ギル、取り消せよ」
ギルバートは何のことだが分からないといった表情を浮かべる。その瞬間、ロミオが殴りつけた。当然、彼は怒った。ナナは困惑の表情を浮かべる。マキはただ、静かに見つめていた。
「お前になんか、分かるわけないんだよ!後から来たやつに抜かれまくってるのなんか俺が一番分かってんだよ!それでも、何か出来ることは無いかって……俺は、必死で探してるんだ!俺には、お前やシエルのような経験はないし……ナナみたいに開き直れるほど大物でもない……ましてやコイツみたいに」
そう言ってマキの方を指差す。こうなることは分かってはいたが、いざやられるとドキッとする。
「さっさと血の力に目覚めて怪物みたいなジュリウスと肩を並べるなん——」
「そんなことはない」
突然マキが口を挟む。一瞬の静寂が訪れた。自分でも、無意識で呟いていたのだ。
「謙遜してんのかよ…いいよな、力があるやつの言葉は違うよな」
「何を言ってもそう思われて仕方ない…この後起こることが何か分かっているから、自分の無力さがよく分かる。幾ら周りが褒めちぎろうが何しようが、大切なものが護れなかったら、力も何もないんだ」
何を言っているのか分からないといった表情を浮かべる一同。だが、ロミオはマキの話を聞こうとしなかった。自分は役立たずでどこにも居場所なんか無い、と言い残し、その場を走り去った。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.19 )
- 日時: 2014/08/31 00:27
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
ラウンジへ戻ると、ブラッドの面々は表情を落としていた。
「ロミオは……ずっと一人で悩んでいたんですね。それを隠して……明るく振舞って……居場所の確認を急ぎましょう。おそらく、そんな遠くまでは行っていないでしょうから」
「ロミオ先輩と……もっと、ちゃんと話しておけば良かったな……」
「ったく……ロミオの奴、神機も持たずに……早くとっ捕まえてやらねぇとな」
こんな時に自分がしっかりしなければいけないのだが、やはりいつも傍にいる人がいなくなるというのは落ち着かない。こうなると分かっていても、だ。
ロミオのことは調査班に任せ、自分たちは残っている任務を行うことにした。
任務から帰ると、待っていたシエルがなんだかそわそわしてやってきた。
ここから程近いサテライト拠点でロミオの目撃情報があったとのこと。ただ、迎えに行こうにも赤い雨の発生で近くにいけずにいる。偏食因子のリミットも近い。
神機使いは、神機から捕食されないよう、常に偏食因子を投与しなければならない。効果が切れるとアラガミ化してしまう。
「急がないとな」
マキは溜まっていた任務を素早く片して行った。
その頃ロミオは、雨宿りをさせてくれた老夫婦の家でブラッドの話をしていた。
「——神機使いたちのリーダーみたいな部隊なんだよ」
ロミオは自慢話でもするように続ける。
「俺、ジュリウスの次にブラッドに入って……あ、ジュリウスっていうのが隊長なんだけどね、スゴイやつでさ」
そこで少し切り、若干声のトーンを落とす。
「後から来たヤツ……今はそいつ副隊長やってるんだけど結構そいつもスゴイ奴でさ。正直、副隊長になれなかったのは悔しかったけど……そいつ、いいヤツだから、ちゃんと支えようと思ってさ。で、その後も——」
まだブラッドが今の体制になってから日も浅いが、昔話でもするように話す。
皆が溶け込めるように、無愛想なジュリウスの代わりに頑張ったこと。ギルバートと上手くいかないこと。
「ロミオ、お前さんはもう少し、胸を張ったほうがいいなあ」
爺さんが今までの事を聞いてポツリと言う。
「……うん、わかってるんだ、俺……自分に自信が無いってこと。でもさ、どうしようもなくて……」
自分を卑下するような発言ばかりするロミオに、爺さんが言った。
「お前さんは……人や友達が大好きなんだな。それは、本当に胸を張っていいことだ。人は群れないと生きていけない、弱い生き物だ。だから、人の顔色をうかがって当たり前なんだ」
「でも、俺……!逃げ出して……」
「休むのと、逃げるのは違うでしょ」
そういって婆さんがロミオの右手に手を重ねた。
「ロミオちゃんが戦ってくれているおかげで戦えない人が、助けてもらってるんだよ。少しぐらい、ここで休んだっていいでしょ?何なら、ウチの子になる?」
二人の温かい言葉に、ロミオは泣くことしか出来なかった。
一夜明けて赤乱雲も消え去り、綺麗な青空が広がっていた。
「ありがとう……俺、戻らなきゃ」
「ああ…戻るといい。お前さんの居場所に、な」
「また、遊びにおいで」
すると、爺さんは笑いながら続ける。
「そうだなぁ。神機使いが家にいると、安心だからなあ」
ロミオも思わず笑い出す。釣られるようにして婆さんも笑い始めた。
「あのさ、サテライト拠点か……極東支部にでもさ……爺ちゃん達、引っ越さない?本部に直接申請すれば、何とか通ると思うんだ。俺、親戚も肉親もいないし……だから」
二人が住んでいたのは、サテライトから少し離れたところの少しボロボロの家だったのだ。二人を思って言った言葉だった。爺さんはロミを野言葉を遮るように言う。
「わしらがここに居るのはな、その席を若い者に譲りたいからだ」
「ありがとう……でもね、それはロミオちゃんの未来のお嫁さんのために、とっておきなさいね」
その時だった。突然、地面が揺れる。
「これは……アラガミ」
ロミオは廃墟と化したビル郡を見つめながら呟いた。
その揺れを、極東支部でも観測していた。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.20 )
- 日時: 2014/09/04 00:07
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
ミッションから帰ると、ラウンジがなんだか慌しかった。訳を聞くと、ロミオから連絡があったとのこと。ガルムに遭遇したらしい。
彼が飛び出してからだいぶ時間が経っている。偏食因子が切れる。時間が無い。
ブラッドは彼の神機を抱え、外へ飛び出した。
「神機持ってきてくれて…助けに来てくれて…ありがとう」
ロミオが走りながら申し訳なさそうに言った。
「説教は後にする。まずは仕事だ…」
「ギルが一番そわそわしてたくせにー。ロミオ先輩、私はチキン5ピースで許してあげるから!」
「俺、後でちゃんと謝るから…皆、力貸してくれ!爺ちゃん…じゃなくて非戦闘員はサテライト拠点に避難してもらった!アラガミを近づけないように、ここで倒すよ!」
ロミオの瞳にはいつにも増して力に満ちていた。
「了解!」
「了解だ」
マキはその光景に微笑んだ。
「よし、始めるぞ」
無事にミッションが終わり、ロミオの偏食因子も投与し終えた後、ロミオが俯きながら謝ろうとした。すると、ギルバートが拳でロミオの頭を軽くつつく。
「お前の休暇届は勝手に出しといた。これは貸しだ……もう二度とするなよ……今日は、いい動きだった。この調子で頼む」
どこか照れくさそうに背を向けながら、片手を挙げて行った。
「へへー、ギル、ずっとロミオ先輩のこと気にしてたんだよ。言い過ぎた、って。さ、帰ろ!ロミオ先輩がいないと、皆無口だから、やりづらくてー」
ナナがにこにこしながら言う。ロミオは涙を流した。だがすぐに袖でふき取り、ナナに負けじと笑顔を向ける。
「そうだなー!よっし、元気よく帰ろう!」
その言葉にマキとナナが頷き、すでに遠くに行ってしまったギルバートを追うように歩き出す。
「あ、そうだ!帰ったら例の約束、よろしくねー!」
「例の約束?なんだっけ?」
わざとぼけるようににやっとする。ナナも同じようにとぼける。
「えー!約束したじゃん!チキン8ピースだよ!」
「こっそり増やすなよ!5ピースだったろ!」
「やっぱり覚えてたんじゃーん!」
一歩下がったところからマキはそのやり取りを見つめていた。その表情は、どこか子供を見守る母親のようだった。
ギルバートが待っていてくれたようだ。早くしろと催促する。
「まあ、間を取って7ピースってのはどうかな」
「ナナだけに?」
「先輩……それはちょっと……」
ナナに哀れむような目で見られ、頭を掻くロミオ。マキはどんまい、と肩を叩いた。
「ごめん……」
こうして、またブラッド全員でミッションに行ける。
だが、アナグラに着くとまたあの恐怖が近づいているのだと思い知る。皆のロミオの帰還を喜ぶ表情とは裏腹に、マキの顔はどこか曇っていた。
その時だった。マキはヒバリに呼ばれる。内容は「ラケルが来ている」だった。マキの表情が寂しげなものから冷酷で凍てついたものに変わる。ヒバリが少々恐怖を覚えたくらいだ。それほどの変貌だった。
マキは言われたとおりラケルの元へ向かった。
彼女がエレベーターに消えるまでの一部始終を、ジュリウスは横目で見ていた。ジュリウスはマキがエレベーターに乗り込んですぐ、ヒバリに伺った。
「ヒバリさん、副隊長…なんかおかしくないですか」
「え?あ、そうですね…ミッションでのミスが一時期とても目立っていたときもありましたし、最近はどこか怯えたような…寂しそうな表情をするときがあります。あ、さっきも『ラケル博士』と言った途端、表情が変わりました」
「ラケル…博士?」
何故彼女がその言葉で表情を変えたのかは分からない。だが、一つ分かることがあった。
「副隊長は…何か隠している…」
「え?」
「ヒバリさん、お願いがあります。宜しいでしょうか」
これも隊長の務めだと思い、彼はヒバリに協力を仰いだ。
そんなことを知るはずも無いマキは、ラケルの前までたどり着いていた。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.21 )
- 日時: 2014/09/10 21:28
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
マキは指示通り、ラボラトリへ向かう。病室にはラケルが待っていた。サカキの元へ連れて行って欲しいとのことだ。この間歯向かった事など覚えていないような接し方で逆に不快感を覚えたが、断る理由など無い。彼女を案内することにした。
支部長室の前まで案内すると、そこで待っているように言われた。言われるがまま待つ。そこへ、見慣れた姿が。
「ん?サカキのおっさんは来客中か?その腕輪……噂のブラッド、ってやつか……サカキのおっさんに何の用だ?」
褐色の肌に白い髪。深海のような碧い瞳。弱冠12歳にして神機使いになったソーマ・シックザールだ。
「ラケル博士の付添です」
もう同じミスはしない。間違えて名前を呼ぶことは無かった。
「あのおっさん、フライアまで巻き込むつもりか……」
壁に寄りかかり呆れ顔で言った。とりあえず『この時代では』初対面なので極東の人かどうか問うた。ソーマがその問いかけに答えようとしたとき、扉が開く音がした。
支部長室から出てきたラケルと、彼女に視線を移したソーマが暫しお互いを見やる。
「……お知り合い?」
「いや、今さっき、な」
ソーマが同意を求めてきた。マキは無言で頷く。
「貴方……シックザール前支部長の……?」
そう問いかけられたソーマはその通りだと、軽く自己紹介をする。ラケルは会釈をし、彼に倣って自己紹介を始めた。
「……ご挨拶が遅れて申し訳ありません。貴方のお父様にお世話になったラケル・クラウディウスと申します。是非、一度お会いしてお礼を申し上げたいと……」
「ああ、礼なら直接、本人にお願いしたいな。いずれあの世で直接会える……」
ソーマは一瞬険しい顔をした。だがその後、「冗談だ」と言った。
彼の父であるヨハネス・フォン・シックザールは、人類の救済を称し、クーデターを起こしたのだ。そして、自らを犠牲にして世界を破滅へ導こうとしたのだ。
ラケルは顔を伏せ、少し笑った。
「ずいぶんとキツい冗談をおっしゃる方ですね……もしかして、それが原因で」
そして、顔をあげた。
「お相手に月まで逃げられてしまったのですか?」
長い沈黙が続いた。
『シオ』というアラガミの少女がいたという話を以前コウタから聞いたことがあった。彼女はソーマにとても懐いていて、ソーマもまた彼女に色々な事を教えたとか。だが、彼の父のクーデターで彼女はその身を犠牲にしたという。終末捕食を月まで運び、世界を救った。そして、少女が月に行く前、彼女に懇願されて、ソーマは核を摘出されて抜け殻となった彼女の体を捕喰した。それゆえにもともと彼の黒かった神機が白くなったらしい。「あいつを変えたのはシオなんだ」と、コウタが言っていたのを思い出す。
ソーマの過去を抉る様な発言をしたラケル。マキは思わず手を上げそうになったが、ぐっと堪える。
「冗談です」
微笑みながら言った。
「あんたはどうも他人な気がしないな……俺と同じで、混ざって壊れた匂いがする」
マキはその言葉にはっとした。ソーマが一瞬マキの方を見たが、彼女は気付いていない。
「フフッ、光栄ですわ……そろそろ失礼致します」
マキは黙ってラケルに付いていく。すれ違い際に、ソーマがマキに言う。
「お前はどことなく、俺のダチに似た匂いがする……いい神機使いになってくれ、じゃあな」
ラケルと別れた後、自室へ向かった。ベッドに体を放り投げる。
『——あんたはどうも他人な気がしないな……俺と同じで、混ざって壊れた匂いがする』
「このときに…気付くべきだった」
ソーマは、体内に偏食因子を有しており、自分で生成することが出来る。それは、彼の母親が自分を犠牲にして人体実験を行った結果だそうだ。その為、他の神機使いよりも高い戦闘能力を誇る。また、以前ユノの故郷である「ネモス・ディアナ」で感応種が出たとき、アリサの神機は偏食場パルスの影響で動かなかったが、彼の神機はかろうじて動かすことが出来たらしい。それもこれも、彼の体内にある偏食因子のおかげなのだった。
そして「同じ匂いがする」ラケルも、体内に偏食因子を有している。ソーマと同じ「P73偏食因子」を。幼少時に致命傷を負ったのだが、それを投与し、回復したという。だが、それと同時に無口だった彼女が口を開くようになったが、すでにその偏食因子の重大な副作用により、その思考は非人道的なものに変貌していた。
つまり「アラガミ」になっていたのだ。
マキは気付くべきだったと自分で言ったものの、あの頃の自分はソーマの過去を全く知らなかった。だが、二人の異様な雰囲気はなんと無く感じていた。それを怪しいと思うべきだったのだ。
——でも、今ならまだ、間に合う。彼女はそう思った。
「同じ過ちは、二度としない」
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.22 )
- 日時: 2014/09/18 18:01
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
だいぶ遅くなったけど…
GODEATER2 RAGEBURST発売決定おめでとうございます!
そして、GODEATERアニメ化、おめでとうございます!
ゲームの方はジュリウスが帰ってきそうな雰囲気でとても嬉しいです。
アニメの方はあのFateZeroを作っている会社が製作するんだそうです。アクションシーンに期待です。
この小説も、ゲームとはまた違った方向で楽しんで頂けたらと思います。全力で書き進めてまいりたいと思いますので、今後とも応援の程、よろしくお願い致します。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.23 )
- 日時: 2014/09/20 21:59
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
ミッションの受注をすると、マキのみがラケルから一時フライアへの帰還命令が下された。どんな内容で呼び戻されるかは覚えている。人の為に動いたつもりが、まさか仲間を殺す羽目になるとはあの時の自分は思ってもいなかったが。しかし今回は、ラケルの指示の下動きつつ、神機兵が止まってしまった原因を突き止めることが出来る。見つかってしまえば殺されてしまう——かも知れないが。
つまり、ハイリスク・ハイリターンと言う訳だ。
鮮やかな手つきでミッションをこなし、共に戦った仲間と別れ一人フライアへと足を運ぶ。その様子を、遠くからジュリウスが一人見つめていた。
「隊長、どうかしましたか」
シエルが心配そうに声を掛けた。なんでもないと告げ、仲間を先導するかのように足早にヘリへと向かいながら、先程のやり取りを思い出していた。
「——彼女の状況を逐一伝えて欲しい?」
ヒバリは驚きを隠せないといった表情だ。
「そういうと色々語弊があるんですが…」
ジュリウスはマキが何かを隠していると踏み、ヒバリに協力を仰いだ。彼女は、一人だけフライアに呼び出された為暫くアナグラには戻ってこない。すなわち、彼女が何をしようとしているのかを知るには、フライアにいる誰かにも協力をしてもらわないといけない。そこで、ヒバリの出番なのだ。
「フランさんにも…ですか?」
「私情で回線を使うのは申し訳ないと思うのですが…ここ最近の副隊長はどこかおかしい。我々に何も言わずに一人で何かをしようとしています。本来は一人でやるべきなのでしょうが、生憎彼女はフライアに行ってしまった。極東支部預かりとなっている我々がフライアに特別な用も無く立ち入るのは困難…そこで、ヒバリさんの力をお借りして、フランにもこのことを伝えて頂きたいのです。フランが副隊長の様子を知れる唯一の鍵…ですから」
ヒバリは最初は浮ついた感情で頼んだことなのかと思った。タツミやハルオミといった所謂「たらし」——タツミがたらしとは少々言いすぎかも知れないが、少なくともヒバリはそう思う——ならば、こんなことをしてもおかしくないと思った。だが、目の前にいるジュリウスはそんな人には見えなかった。いかにも真面目な隊長タイプ。仲間のことを第一に思っている。そんな彼の真摯な態度に惹かれた。
「分かりました。ご協力します。回線はいつものとは違うもので行いますので、本部にはばれないと思います」
微笑ながら言った。
「ありがとうございます。では早速なのですが——」
「おかえりなさい……急に呼びつけて、ごめんなさいね。さっそく本題に入りましょう」
その頃、マキはフライアに到着していた。呼び出された内容は神機兵の運用を軌道に乗せること。その為にクジョウ博士の手伝いをして欲しいとの事だった。以前、神機兵の運用テストで背部に大きな損傷を負ったのだ。それ以来、運用テストは行っていない。
気乗りはしないが、これも彼らを救うためだ。二つ返事をし、部屋を後にした。
サリエル種のアラガミ細胞を取りに行くことになったマキは、一人ターミナルで戦闘準備を行っていた。その時、オペレーションルームから何やら会話が聞こえてくる。今は誰もミッション受注はしていないはずだ。何をしているのか耳を澄ませてみたが、こちらまでは聞こえない。マキはどうせ関係の無いこと、と諦めた。
「——マキさんの様子を伝えろ、ですか」
フランがマキの視線に気付き、小声で話し始めた。こんなことを頼んでくるとは思ってもいなかったが、通常の回線で入ってこなかったので業務連絡ではないと思っていた。予想は見事的中したようだ。
『ブラッド隊長直々のお願いです。よろしくお願いできますか』
話を一通り聞いたフランはどこか悪戯な表情をマキに向ける。
「それは気になりますね…分かりました。協力致します」
マキは淡々とミッションをこなしていく。仲間にはいつもと変わらない態度で接していたが、腹の中では何を考えているのかは分からなかった。ジュリウスはなるべくマキのミッションに同行し、何か掴めないものかと探っていた。
「副隊長」
「隊長…お疲れ様です」
表情はやはり何も変わらない。いつものマキだ。
「フライアで一人…何をしているんだ」
「あぁ…なんか神機兵の運用に向けての準備を頼まれました。その為にはアラガミ細胞が必要なんだそうです。あんなことがあってもまだ運用しようだなんて…馬鹿げてますけどね」
帰投準備を行いつつ、目的のものが手に入ったことを確認している。
「なら…俺も協力——」
「それは大丈夫です」
ジュリウスの言葉を遮るように言った。手伝ってくれるのは嬉しいが、自分がやっていることがバレてしまう危険がある。それだけは何としても避けたかった。
「それに、ブラッドが今簡単にフライアには入れない。頼まれたのは私だ。一人でも平気ですよ。ミッションには皆と行っているし、フランもいるし…寂しくないです」
こんなのすぐに終わらせるから、と笑顔を向けた。止めようと思ったが、そそくさと一人でフライア行きのヘリに乗ってしまった。
「今回も何も分からず仕舞い…か」
ジュリウスも神機を片付け、仲間の下へと向かった。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.24 )
- 日時: 2014/09/29 21:49
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
その後もマキはラケルに言われたとおり、素材を集め続けた。ひたすら淡々と。暫くすると、マキはラケルから手紙を受け取った。
「クジョウ博士に渡していただけないでしょうか」
これだ。これなのだ。この手紙の所為なのだ。きっと。もともと神機兵の運用を持ちかけたのはラケルたちだった。その話が急にクジョウになっておかしいとは思っていたのだが。
「でも、人の手紙を相手よりも先に勝手に読むのは…」
気が引けたので、とりあえず渡してみることにした。ロビーに到着すると、手すりにその身を預けるようにしているクジョウがいた。彼のほうから声をかけてきた。
「いやー、ありがとう!貴方の協力のおかげで研究がはかどりましてねぇ!」
なんだか嬉しそうに話しているが、神機兵には元から全く興味が無い。それに、話している内容も殆ど理解できない。聞き流していた。だが、気になることがいくつかあったので、この際聞いてみることにした。
「なぜ無人タイプの神機兵を?」
待ってましたと言わんばかりに嬉々として話し始めた。長いのでまとめると——無人であれば死人は出ない、ということらしい。
——無人であったが故に死人が出たんだがな…マキはそんなことを思っていた。勿論、おくびにも出さず。変わらぬ体を装い、次の質問をする。
「レア博士と仲が悪いんですか?」
以前、口論になっているところを見たことがある。ラケルには信頼を寄せているようだが、レアにはそんな印象がなかった。クジョウは今度は予想外の質問だというような顔をして、少々言葉を詰まらせながら答える。——レアと対立する気はないが、立場上どうしてもそういう関係になってしまう、だそうだ。
——言い訳だな。マキは素直に思った。小声ではあったが確かに言っているのを聞いたからだ。
「レア博士の政治能力の高さには舌を巻きますよ……なのに、昔の戦車と変わらない設計思想の有人型開発に何を手間取っているのか……その辺が、限界なのですかねぇ。グレム局長の目はごまかせても、私の目はごまかせませんよ……」
と。マキは個人的な偏見で研究者にあまりさばさばした性格の持ち主はいないと思っている。クジョウはその典型であると思う。彼は一つのことにしつこくて、自分の方が良いと胸を張っている、と勝手に決め付ける。
バレない程度に小さくため息をついて最後の質問に移った。
「ブラッドについてどう思いますか?」
ラケルが手塩にかけて育てた「研究成果」である自分たちのことはどう思うのか。ラケルのことが恐らく好きであろう彼は、絶対にラケルの研究に対しては文句を言わないはずだ。どんな上辺の感想が出るのか、正直気になる。
案の定、ものの一番に褒め言葉が出た。また、レアのことは散々に言っていたのにも関わらず、ラケルのことはべた褒めである。その言葉を聞いて、思ったことが一つ。
——この弱みを、ラケルは利用した…とは考えられないだろうか。
一度同じ経験をしているので内容はなんとなく覚えている。話を熱心に聴くことよりも、その言葉の裏に隠れている真実を読み取ることが今なら出来る。
頭の中で今後の予定を組み立てていく。「あっ」と小さく声を出したかと思えば、本来の目的を忘れていた。手紙を渡すことである。クジョウは気が動転しているようだ。なんせ「思い人」からの手紙だから。暫くぶつぶつと何か呟いていたが、そこまで聞こうとは思わない。マキは本部より発注されていたミッションへ足を運んだ。
マキの背中を見送ると、フランはヒバリへ無線を入れる。
「ジュリウス隊長へ、お願いします」
画面の向こうのヒバリは小さく頷くと、フェードアウトして行った。暫くすると、ジュリウスがモニターに映る。
「隊長、マキさんがクジョウ博士となにか喋っていたようです。クジョウ博士の声は大きかったので大体把握できましたが、マキさんが何を質問したかは分かりません」
『分かった。聞こえた部分だけで良い。話してくれ』
フランは記憶をたどるように話している。ジュリウスはその内容から巻きの質問内容を仮定する。そして、何故そのようなことを聞くのかを考えていた。
『あ、あの…真剣に考えているところ申し訳ないのですが』
ヒバリが申し訳なさそうに言う。
『新型同士の『感応現象』を利用してマキさんが何をしているのか知ることは出来ないのでしょうか…』
一瞬の沈黙が流れる。ジュリウスは「その手があったか」というような顔をしたが、すぐに思い直したのか、いつもの表情に戻った。
『だが、それだと俺たちがやっていることも副隊長にひけらかしてしまうだろう。それでは意味が無い』
「では、今後もこのような形をとるということで宜しいですか?」
『あぁ、頼む』
小声でのやり取りを終え、フランは小さく溜息を吐いた。
「ジュリウス隊長もマキさんも回りくどいですねぇ。この際、私が仲介したほうが良いですかね…」
妙な笑みを浮かべ、オペレーター業務に戻っていった。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.25 )
- 日時: 2014/10/08 00:56
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
マキがミッションを終え、帰路に着いている頃。フライアのラケルの研究室にクジョウが呼ばれていた。どうやらラケルが直々に呼び出したようである。何故呼び出したのかを問うと、ラケルはクジョウをお膳立てする。
「お見せしたいものがあるので、できれば、こちらの方にいらしていただけます?」
言われるがまま、ラケルの近くへ寄るクジョウ。パソコンのモニターを覗き込んだクジョウは驚きを隠せないといった表情を浮かべた。
「ハッ……これはっ!?神機兵の生体制御装置……?」
「さすがは、クジョウさんですわ!貴方が進めている自律制御装置のお役に立てればと思って……これも……」
「これは…私が追い求めていた答えそのもの……これは、ブラッドの偏食因子に何か関係が……?」
ラケルはその通りだという。ブラッドによる感応現象の教導効果と極東で得られた研究での成果だとか。
その時、ラケルが突然クジョウに手を重ねる。
「クジョウさん、これらの研究を引き継いでいただけますか?」
「引き継ぐも何も……こちらとしては願ったりかなったり……いや、しかし……」
そこで言葉を止めると、促すようにラケルはクジョウの言葉の最後を復唱する。クジョウは、ラケルの姉であるレアと自分は対立する立場にいるのに、何故自分に協力するのか、疑問に思ったようである。
「そんな野暮なことを……答えなければいけないのですか?」
ラケルはゆっくりと顔を背ける。クジョウは何か勘違いしたかのように慌てていた。ならば、とラケルは続ける。
「一つだけ条件があります。私ではなく、貴方が開発したことにしておいてください。優れた技術は必ず世に出るべきです、でも……姉はたった一人残された肉親……できることなら嫌われたくありません」
申し訳ない、と最後に付け加えた。悲劇に少女のように声を震わせて言うラケルにクジョウも何かを感じ取ったようで、自分で良いなら、とラケルの条件を飲んだ。
「…」
その一部始終を、マキは見た。いや、正確には「聴き終えた」だろう。クジョウに手紙を渡したあの後、一瞬の隙をみてクジョウの白衣のポケットに小型の盗聴器を仕掛けておいた。実際に見ていないので、どんなことがデータとして出力されたのかとか、ラケルがクジョウに何をしたかまでは分からないが、大方、自分に対する行為を利用したのであろう。要するに「色仕掛け」である。
「やっぱりな」
ラケルは自分が作った生体制御装置の権限をクジョウに譲り、自分は裏で神機兵を操っていたのだ。神機兵が動かなくなったことでアラガミへの供物…「生贄」を作る。そして、赤い雨で「王」を完成へ大きく導く。神機兵が動かなくなって死人が出たとしても、その反発は権限を持っているクジョウへと向かう。自分はただ平然と悲しみを装っていれば良い。
怒りがこみ上げてきた。
——でも、これで材料は揃った。あとはあの日に二人を救い出して、ラケルに神機兵が動かなくなったわけを問いただせば良いという訳だ。
ミッションから戻ったマキの一番初めに目に入ってきたのはクジョウだった。嬉々とした表情を浮かべている。だが、どうしてそんな表情をしているのかはこちらはすでに把握済みだ。聞く必要は無い。クジョウの横を通り過ぎ、フランの元へ行く。ロミオが来ているとのことだ。もう極東に戻っていいらしい。フランだけをここに残しておくのは忍びない気もするが、マキとしてはこんなところにいるのはもう散々だ。人を道具としか思っていない連中ばかりで、人間性の欠片も感じない。うんざりしていたところだ。——とは思ったものの、警備員や他の従業員たちは嫌いではないのだが——また、あの家族のような温かさのある場所へ戻れるのは凄く嬉しい。階段を駆け下り、ロミオの元へ向かった。
だが、マキの足はすぐに止まってしまった。本来の流れでは、此処にきたのはロミオだけであった。しかし、その場にもう一人マキを迎えに来た者がいる。
「ジュリ…ウス…」
マキを待っている彼の表情は、どこか暗いものであった。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.26 )
- 日時: 2014/10/23 20:38
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
明るく出迎えるロミオとは対照的にこちらを見つめるジュリウス。マキはゆっくりと歩を進めた。
「作戦行動に移る前に話がある。ロミオ、少し時間をくれないか」
「俺は別にいいけど?終わったら連絡してくれよ!久々のフライアだし、ちょっと回ってくる!」
「お、おい…」
そう言ってロミオはエレベーターの中に消えていった。
ジュリウスと二人になったマキ。暫く沈黙が続く。その様子をフランも遠くから見ていたかったが、無線が入ったので仕方なく業務に戻った。
「まぁ座れ」
言われるがまま、アーカイブの前に座る。
「まずは、お疲れ様」
マキは無言で頷く。
「今回、ラケル博士の依頼で神機兵の運用装置のためのアラガミ細胞の回収に行っていたそうだが——それだけか」
ジュリウスは姿勢を正し、真剣な面持ちで言う。
「単刀直入に聞こう——裏で、一人で何をしていた」
——この人には何もかもお見通し、って訳か。
にしても、そこまで怪しい素振りを見せた記憶は無かったが、なんせ過去にタイムスリップしてきているのだ。困惑が未だに隠せていないのかも知れない。マキは恐る恐るジュリウスの顔を見る。何一つ表情を変えない冷徹な顔は、見るものを一瞬で固まらせるような雰囲気だったが、瞳の奥には、どこか寂しげなものを感じる。まるで——どうして頼ってくれないんだ、と言わんばかりに。
マキはその顔をあげられぬままジュリウスに告げる。
「今は…お話できません」
普段のマキらしからぬ小さな声だった。彼女の声は普通の大きさでもよく通る声をしているが、今のはジュリウスだけにしか聞こえぬようなか細い声だった。
「お願いです…もう少しなんだ…ただでさえ禁忌を犯しているんだ。今、貴方に迷惑をかけられない…頼む」
その時、ジュリウスにはマキがいつもより小さく見えた。
過去に戻って、未来を変える。それは本来の時の流れを変えること。すなわち、元居た世界が実在するか分からなくなるということだ。ジュリウスが命がけで護ってくれた世界を、自分が壊してしまうかもしれない。
そんなこと、言える筈もなかった。
「そうか。でも、いつか…その時が来たら、必ず話してくれ」
マキは小さく頷いた。ジュリウスは彼女を励ますかのように肩を軽く叩いた。足音が徐々に遠くなっていく。
「なんにも変わってねーなー!フライア!あ、ジュリウス!副隊長!もういい…ってあれ?副隊長、ジュリウスは?」
「…帰ったよ」
若干声が震えていた。自分でも何故だか分からない。ロミオにバレたかと思ったが、その心配は無かった。
「そっか。まぁ、いいや。副隊長いいよな?ミッション!」
「あぁ」
その時やっと顔をあげることができた。無理やり笑みを作ったが変だと思われなかったか心配だ。
——あぁ、そうか、やっぱり。
気付いてしまった——いや、改めて思った。
平等に接しなければならないと分かっていても、もう、無理そうだ。彼だけが特別になってしまった。だから一緒に居たいと願う。迷惑かけまいと思う。
「ごめん…ロミオ。お前も一緒に救いに来たのに」
誰にも気付かれないように小さく呟く。
「私は——」
ジュリウスが、好きだ。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.27 )
- 日時: 2014/11/02 21:34
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
結局、ミッションはロミオと二人で行くことになった。二人だけだったのでなかなか辛いものがあったが、無事にクリアできた。
「くぅー……はー、今日もよく働いたなー!にしても、副隊長はやっぱ冴えてるよなー!副隊長と組むと、すげぇ動きやすくってさ」
そうやって言われるとやはり嬉しいものがあった。二人だったから指示が通りやすかったというのもあるが、自分の責務を全うできているようで何よりだと思う。
ロミオがふと、顔を逸らし、空を見上げ「考えてたんだけどさ」と話を再開する。
どうやれば上手く戦えるのか、役に立てるのか。彼なりに考えて立ち回っていたらしい。それで、ギルバートやナナの真似をしたりしていたのだと。
——この話を聞くと、胸が痛い…
あの時、もう少し早くロミオの闇に気付いてあげていれば、あんな悲劇を呼ぶことは無かっただろう、と。
「副隊長?」
いつの間にか呆けていたらしい。ロミオの話をしっかり聞いていなかった。話を続けるようにマキは促した。
「俺、ブラッドのみんなに会えて、本当によかったよ……ありがとな。これからも宜しくな、副隊長!へへっ」
明るく微笑むロミオの姿にマキも勇気をつけられていた。
ミッション終了後、ヘリの中でロミオが話しかけてきた。
「なぁ、副隊長、聞きたいことがあるんだけどさ」
マキはロミオをゆっくりと見やった。
「ジュリウスも、副隊長も最近なんか変だよ。なんかあったのか?」
ドキッとした。ロミオはあの事件以降、人間観察——と言うより人の立ち回りをよく見ている、と言った方が良いか——をするようになった。それゆえ、仲間の些細な変化を見逃さないようになった。
例えば、シエル。彼女は悩んでいる素振りをあまり人に見せない。だが、ロミオはすぐに気付く。顔色の変化やどことなく呆けている様子を見逃さず、声をかける。シエルだけではないが、彼の行動に少なからず助けられている人がいるのだ。
——よく見ているな。
とは、言わずに、マキはこう返した。
「何故…そう思う」
「副隊長がフライアに行ってから、なーんかジュリウスがこそこそやってたみたいなんだけどさ、手伝おうかーとか言っても平気だ、しか言わねぇし、副隊長も大怪我した日からなんか…怯えてるっていうか、なんていうか…変」
あの時から気付いていたのか。
確かに、タイムスリップしてきたのに戸惑った。ジュリウスとロミオが目の前にいることに戸惑った。あまりにも同じことの繰り返し過ぎて戸惑った——また、二人を失う気がして、怖かった。
見栄張ってそんな素振りは見せていないはずだった。だが、ずっと共に戦場を駆け抜けてきた仲間だ。そのくらいの変化はすぐに気付くのだろう。
「それは……気のせいだ」
「は?」
ロミオの優しさが辛い。自分のことを心配してくれているのだろう。だが、これはもう自己満足で動いている。心配されるようなことではなかった——このあとどうなるかは見当も付かないが。
「でも…ありがとう、ロミオ。私は、大丈夫、大丈夫だから。ごめん」
「な、何で謝るんだよ」
「優しいな、お前…」
「っ…」
急に照れるロミオが愛しかった。だが、ジュリウスに抱いた思いとは明らかに違うことにも気付いた。
——最低だな、私。
二人の帰還後、早速神機兵の運用テストに赴いた。結果は上々で、早速運用と行くらしい。サテライト拠点付近で赤い雨が多量に降ることが確認された、降る前に住民たちを移動させつつ、付近のアラガミを討伐しなければならないとのことだ。ブラッドと極東の神機使い総動員で行う大規模なものらしい。
遂に来た、このときが。思い出すだけで自分の無力さと、ラケルへの疑念が沸々と湧いてくるだけだ。ロミオの殉職への関与があるのか、今の時点では断定できない。ただ、クジョウとのあの会話を聞く限り、今後の展開は大方予想が付く。
——なんとしても、ロミオを救う。ジュリウスを救う。
気持ちが早まっているみたいだ。冷静にならなくてはならない。まずは、サカキのところに行き、今後の展開の詳細を話し、自分がどう動くかを伝えなければならなかった。
役員区画に行く前、ロミオがエレベーターに乗り込むところを見た。少々気になったので後を付いて行く。どうやらユノの部屋に行ったようだ。気付かれぬよう、聞き耳を立ててみた。
「ユ、ユノさん!あ……あの、一つ、お願いがあるんですけど……俺、ブラッドのメンバーにさ、今まで散々助けてもらったのに何一つ恩返しらしいことできてなくて……だから、その……この作戦が終わったら……ブラッドのために一曲だけ歌ってほしいんだ」
マキは息を呑んだ。
『——ロミオさんとの約束……こんな形で……果たすことになるなんてね』
あの時のユノの言葉は、そういう意味だったのか。涙が頬を伝った。
「ええ…いいですよ」
「ほ、本当!?」
「当然じゃないですかその代わり、一つだけ約束してください。必ず、全員生きて帰ってくること……いいですか?」
「了解!ありがとう、俺……超楽しみにしてるよ!」
ロミオが嬉々としてこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ふふっ、あいつらびっくりするだろーなぁ!よっし!頑張るぞ!」
その言葉を、隣の自室に逃げ込んで息を殺して聞いていた。
「…ロミオ」
今度こそ、死なせない。誰にももう辛い思いなんかさせない。目の前で失わせたりしない。
絶対に、私が護る。必ず、この手で——。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.28 )
- 日時: 2014/11/10 23:19
- 名前: 諸星銀佳 (ID: JnkKI7QF)
今回のミッションは、ブラッドが2つに分かれて行動する。マキ・ジュリウス・ロミオの三人はサテライト付近のアラガミを一掃する。シユウ・クアトリガ・ヴァジュラなど、大型アラガミを任された。
あのときこそ苦戦したが、今のマキには相手にならない。クアトリガを一瞬で倒すと、すぐさまシユウにかかる。ジュリウスとロミオは、あっと言う間に倒されてしまったクアトリガを見て唖然としていたが、マキに喝を入れられ、目の前のヴァジュラに集中することにした。
無事にミッションを終え、拠点まで戻った三人。もう一班もあと一体まで迫った。だが、赤い雨が近づいてきている。極東の神機使いの班も住民の護送が終わりそうだった。あとは神機兵に任せるとのこと。
——さて、此処からが本題だ。
心臓の鼓動が早くなる。
——落ち着け、サカキ博士との作戦を思い出せ…。
『アイテムの活用…ですか』
サカキが走り書きしたメモに目を通す。
『そうだよ。君の話によれば、ロミオ君は以前遭遇したアラガミと戦うことになる。赤い雨の中での戦闘は極めて危険だ』
メモの内容はこうだ。
シェルター付近をギルバートに任せ、ジュリウスの後を追う。二人が戦闘を行う前にスタングレネードで離脱。アラガミをサテライト拠点から引き離し、十分な距離を取り次第ホールドトラップと偽装フェロモンの薬を注入したアラガミ細胞を設置する。
『そして、最後はロミオ君次第、というところかな』
『ロミオ…次第?』
『その戦いの後、周囲のアラガミが離れていったそうじゃないか。君たちが持っている『血の力』…これが目覚めたんだろう。これに賭ける』
頭の中で反復する。住民を移動している最中、マキはロミオに話しかけた。どことなくそわそわしているロミオは突然話しかけられたことで、若干肩を震わせた。
「一人じゃないからな」
「え?あ…おう」
このときの言葉を、彼はまだ理解できていなかった。
遂にその時はやってきた。
神機兵が活動を停止した。ロミオが駆け出す。その後を追い、ジュリウスも飛び出していった。ジュリウスに此処で食い止めろといわれたマキも、彼にバレぬ様、防護服を手に取ろうとした。
「おい!副隊長!ジュリウスの話を聞いていなかったのか!?」
ギルバートが肩に手をかけ止める。マキはその手を優しく下ろす。
「行かせてくれ…安心しろ、無茶はしない」
「シエルのときにも行ったよな!?取り返しの付かないことになる前にやめて——」
「取り返しの付かないことになる前に行くんだ」
ギルバートの言葉を遮るように言った。
「お前なら、一人で此処を護れるよな?ギル」
彼の苦々しい顔を見て、罪悪感でいっぱいになったが、今は人命最優先で動かなければならない。
「…後で覚えておけ」
そう言って、彼は神機を取りにシェルター内部に消えていった。マキはその姿を見送ると、防護服に身を包み、車を走らせた。
ロミオが走っていると、後ろから轟音が聞こえてきた。振り返ると、ガルムの姿があった。踏まれそうになったところを紙一重で避けたが、すぐそこにガルムは来ていた。ロミオが動けないでいるところに、ジュリウスが助太刀に入る。息つく暇も無く、白いアラガミがガルムを引き連れ、こちらを睨んでくる。白いアラガミは咆哮を上げると、こちらに向かってきた。それに対抗するように二人も向かっていく。斬りかかろうとしたが不意にジャンプをし、右足で薙ぎ払う——
その時、二人の目の前が光に包まれた。
「…?」
目の前の無数の大型アラガミが動きを止める。
「二人とも!!」
声の先には、見慣れた車の姿があった。そこには見慣れた女が乗っていた。
「早くしろ!」
呆気にとられ、暫く動けずに居た二人。だが、マキの怒号にただならぬものを感じ、車に飛び乗った。マキは車を急旋回させ、北の集落から離れていく。アクセル全開で飛ばす車でジュリウスが叫んだ。
「何故来た!ギルと護れと言っただろう!」
「いいから黙って私の言うことを聞けこの馬鹿野郎共!」
マキの口調は女らしいとは言えないが、此処まで辛辣な言葉を聞いたとことが無かった。
「後ろから来てる!銃撃で対処し、ギリギリまで引きつけろ!」
言われるがまま、二人は銃を向ける。ジュリウスが怯ませ、ロミオがダメージを与える。二人の活躍で、一体のガルムが地に伏せた。
——後もう数キロ離したところで実行する!
「…あら?」
フライアの自室でラケルは首を傾げていた。
「生贄が…捧げられていない…?」
手元のモニターで原因を探る。そして、その答えが分かると、ラケルは不気味に笑う。
「ふふっ…面白いことを…してくれますね…」
「しっかり捕まってろよ!」
思い切りハンドルを切り、マキがアラガミの正面を取るような態勢になると、ホールドトラップを二つ配置。見事に引っかかった。その隙にマキは車を飛び降り、近くの岩の陰に偽装フェロモンを仕込んだアラガミ細胞を投げ入れる。地に落ちる姿を見届けることなく車へと走り出し、来た道を全速力で戻っていった。
その手際に、二人は呆気にとられた。
「警戒を怠るな、二人共」
そんな二人に釘を刺すかのように、マキが前を見据えながら叫んだ。
「なぁ…副隊長」
ロミオが恐る恐る言う。
「どうして…なんで」
少しの間だけ後ろを振り向き、微笑んだ。何か言おうとしたようだが、その表情は一瞬で変わる。
「ジュリウス!運転を代われ!」
ジュリウスはいまいち状況が飲み込めていないようだが、言われるがまま運転を代わる。でもそれは何故なのかすぐに分かった。後ろから轟音が聞こえてきた。アイテムの効果が切れた様だ。音と匂いでこちらを追ってきたらしい。ロミオが神機を構える。マキも同様に構え、ロミオの肩に手を置いた。
「あとはお前に賭かっているんだ、ロミオ」
「え、俺?」
「爺ちゃんと婆ちゃんを救いたいなら…できる。お前は優しいから、自分の為じゃなく、人の為に力を発揮する。大丈夫…」
「一人じゃないからな」
ロミオは目を見開いた。今になって、先程のマキの言葉の意味が分かった気がした。あの時と同じ、自分は独りで飛び出して行った。
仲間に置いていかれた気がして自棄になった。独りで戦おうとした。出来もしない癖に。だが、仲間は自分を見捨てずに探してくれた。共に戦ってくれた。
——俺は、一人じゃない。
マキが銃撃で応戦していたが、弾切れになってしまった。それを良いことに二体のアラガミがマキ達を襲う。
「あぁぁぁっ!!」
ロミオがマキの前に立ちはだかり、銃形態の神機を剣形態に直す。
「いっけぇぇ!!」
横一閃。ただ斬っただけではなかった。軌跡は赤い光を身に纏い、二体のアラガミの足を切断した。そして、そのアラガミは、突然立ちどまり各々違う方向へ駆け出していった。
ロミオは肩で息をし、片膝を付く。
「これがお前の力だ、ロミオ。作戦成功だ。お前のお陰だな」
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.29 )
- 日時: 2014/12/05 11:51
- 名前: 諸星銀佳 (ID: kQNjeZt9)
「大丈夫そうですね。はい、終わりましたよ」
一夜明け、ラボラトリで黒蛛病の検査をしてもらったマキ達三人。三人とも陰性で事なきを得た。だが、上層部からは三人の勝手な行動に懲罰処分となりそうだったが、神機兵の突然の停止及びサテライト住民の救助が加味され、不問となった。
「それにしても、なんで急に止まったんだろうな、神機兵」
ロミオが頭の後ろで手を組みながら考えていた。
「そうだ。それについて聞きたいことがあったんだった。悪い、二人とも。先に行っていてくれ」
「どこに行く副隊長」
ジュリウスに止められたが、気にせずサカキの元へ向かった。
「これで、準備は出来ました」
マキは盗聴器に録音した内容を聞かせ、今回起こった事件を詳細に話した。
「覚悟は出来ています」
「…もう、後戻りは出来ないと思ってくれよ」
「…はい」
二人は部屋を後にしようとしたときだった。部屋の外にはジュリウスがいた。
「どこに行くといっただろう、副隊長」
「見れば分かると思います、サカキ博士の部屋です。これから用事があるので博士と一緒に外に出てきます」
マキが歩みを進めようとしたときだった。ジュリウスは彼女の行く手を遮るように立ちはだかる。
「一人で、何をしようとしている。何を抱えているんだ」
「前にも言いました…今は、待ってくれって。あと少し…なんだ」
ジュリウスが追い討ちをかけようとしたとき、サカキがそれを制した。そしてそのまま二人はその場を去っていった。
「…」
エレベーターの中でマキは小さく震えていた。サカキは優しく声をかける。
「怖かっただろう…辛いだろう」
マキは頷いた。ジュリウスが怖いのではない。『ジュリウスがまたいなくなってしまいそうで怖い』のだ。彼を巻き込めば、ラケルはまた必ず何か仕掛けてくるだろう。自分の単独行動にしておけば、彼やロミオに目が向くことは無い。自分を潰す為に対策を練ってくるはずだ。なんせ最高の頭脳と持つと言われている科学者だ。自分の知識と技でどれだけ耐えられるか。
無論、自分が死ぬつもりも、誰かを死なせるつもりも無い。
「優しいから…ジュリウスは。ロミオも。その優しさが、怖い。自分のことは二の次だから、また、死んでしまいそうで。どこかに行きそうで
。嫌なんだ…傍にいて欲しいんだ。ずっと…」
「……彼が、好きかい?」
マキは小さく頷いた。
「好きじゃなきゃ…過去にまで来てこんなこと…しません…」
彼女の頬に涙が伝った。
扉をノックする音。部屋の中から入室を促す声が返ってくる。正装をしたマキとサカキはラケルの目の前に立つ。
「マキ…昨日はご苦労様でした。貴方の行動には驚かされてばかりです…今後も楽しみですね」
「どうも」
ぶっきらぼうに返答する。そしてそのまま俯く。
「サカキ博士…今日は、どういったご用件で?」
「まぁ、今回は付き添いみたいなものです。本命は、こっちですから」
マキを指す。ラケルが首をかしげる。マキは机の上に音も立てずに盗聴器を置いた。顔をあげ、ラケルを見つめる。
「本日は、貴方に伺いたいことがあります。お聞かせ願いますか」
その瞳は絶対零度の冷たさを放っていたが、反面怒りに満ちあふれているようにも見えた。常人が見れば声も出なくなるような眼差しだった。文字通り、人を殺せる瞳をしていた。
- Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.30 )
- 日時: 2014/12/28 19:04
- 名前: 諸星銀佳 (ID: checJY8/)
マキがことの全てを話そうとしたときだった。扉が開く音がした。振り返ると、ロミオの姿があった。
「ロミオ…?なんで」
「なんでって…ラケル博士に呼ばれて」
ラケルのほうを見返すと。優しく微笑んでいるように見えたが、今のマキにはただの冷笑にしか見えない。
「ロミオ…おめでとう、血の力が覚醒しましたね…貴方の力は…アラガミのオラクル細胞の活動を停止させる力…アラガミに囲まれても仲間が危機に陥れば、アラガミたちを後退する…」
「成程…つまり、『アラガミを強制的に散開させる力』ということか」
サカキもこれは興味深いとばかりに顎に手を当て思案する。マキはラケルに気付かれないように盗聴器を回収する。このどさくさに紛れてラケルに処分されるかもしれない——そう思ったからだ。
「えぇ…『離散』とでと言いましょうか」
「アラガミを…『離散』させる力…」
「聴力の良いアラガミを相手しているとすぐに集まってきてしまいますが…ロミオ、貴方の血の力で乱戦を避けられるようになるかもしれませんね…」
ロミオは満面の笑みを浮かべた。これでやっと皆の役に立てる、とでも言いたげな。
——まずい、ラケルのペースだ。なんとしてもこの証拠で査問会に訴えてやるんだ…
沸々と湧き上がる怒りをコントロールし、反撃のチャンスを伺う。
「ところで、なんで副隊長はこんなところにいるんだよ」
「ちょうどいい。ロミオも聞いていけ。知らないほうが良かったかも知れないが…私たちの生命に関わることだ。聞く覚悟があるなら…残れ」
ロミオはその場を動かなかった。顔色は蒼く、額には得体の知れない恐怖から来る汗が浮かび、体は硬直し、いかにも緊張状態だったが残る覚悟を決めたようだった。
「…話を戻します。ラケル博士。貴方のやろうとしたことは非人道的だ。これを聞いて下さい」
盗聴器から音声が流れ始めた。その内容を聞いていたロミオはまだ理解ができないというような表情だ。終了音がなるとマキは畳み掛けた。
「貴方は神機兵の生体制御装置をクジョウの自律制御装置の役に立つと言ってデータを渡した。そして、それを自分ではなくクジョウ博士が作ったことにして欲しいと言った。普通に聞いただけでは何も罪にはならない…しかし、問題はその後。昨日起こったことだ。その貴方が作った生体制御装置が故障し、神機兵が止まった。これによりサテライト住民の避難が赤い雨の中、神機使いが行うことになった。そして、逃げ遅れた住民を助けようとしたジュリウスとロミオを…命の危機に晒した…!!」
「え…?」
ロミオの顔が先程より蒼ざめていった。
「な、何が言いたいんだよ…訳が分からねぇ…」
その声は震え、瞳には涙を浮かべていた。その姿にひどく心が痛んだが、マキはラケルを問い詰めるのを止めなかった。
「貴方は、裏で神機兵を操っていた。ロミオを殺し、自分の『計画』を実行するために…しかも、自分が起こした罪を人に着せた…?許されるとでも思っているのか…?貴方がやったことは人として最低の行為だ!」
ラケルは俯き、何も言わないままだった。感情の高ぶりを抑えきれなくなったマキに代わり、サカキが続けた。
「貴方の体はオラクル細胞の暴走で制御が利かなくなってきているんでしょう?知らないうちに人間を辞めていたんですね」
「ふふ…面白いことを仰るのですね…貴方がたは…一体、私の何を知っているというのですか?」
口調はいつもと変わらないが、凄みが増している。どんな屈強な戦士でも言葉を失いそうだ。
平静を取り戻したマキがラケルに最後の一押しをする。
「この件は、査問委員会に提出します…言葉巧みに人を巻き込んで全世界がアンタの味方になったとしても、私だけはアンタを絶対に許さない…!」
ラケルは冷笑をマキに浴びせた。しかしマキは見ることをせず、部屋を後にしようとする。
「行くぞロミオ。お前の力についても全員に話す必要がある」
「え?ちょ、待てよ副隊長!」
マキの後を追うようにロミオも部屋を後にした。
「まだまだ子供のようだ。大人に対する礼儀と言うものを知らないね」
サカキは盗聴器を回収し、ラケルに向き直る。
「貴方のその頭脳を…別のところで使って欲しかったものだ」
そう言い残し部屋を後にした。独りになった部屋でラケルは黙ったままだった。
翌日、ラケルの処分が決まった。だが、その頭脳とレアの必死の訴え、またロミオを殺そうとした動機が不十分であることからフライア追放処分を免れ、1年の懲罰房生活の後、厳しい管理体制の下での研究を余儀なくされたとのことだった。
その報は瞬く間に全支部へと届いた。多くの人が残念がっている中、ただ一人、マキは拳を握り締めていた。
