二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.33 )
日時: 2015/01/21 21:49
名前: 諸星銀佳 (ID: e7DIAQ8b)


サカキは牢獄に居るマキに新しい本を渡すべくやってきたが、当の本人は寝入っている。本は乱雑に置かれ、食事も摂っていないようだ。
「…マキ君」
サカキは声をかけた。すると布団がもぞもぞっと動き、マキが顔だけを覗かせた。
「神機使いは体調管理が大事だよ」
「…博士」
「なんだい」
いつもよりトーンが落ちた覇気もない声を聞き、サカキは違和感を覚えた。なにか、よからぬ事を考えているのではないかと。
「私は、ブラッドに必要なのか…?」
予想は的中だった。
「当たり前だよ。君が今までブラッドを引っ張ってきてくれたんじゃないか」
「本当に?」
マキは体を起こし、サカキに向き直る。
「私の血の力は『喚起』。戦闘中では一切役に立たない。ブラッド全員が血の力に目覚めた今…私はブラッドに必要なのか?各々の血の力が組み合わされば…無敵だ。どんなやつにも勝てる。ラケルの脅威…今回みたいな事案から護れたらそれで、良いんじゃないのか」
過去に戻って、成すべきことを成し遂げようと奮起して今までやってきた。ラケルから、ジュリウスを助けたい。ロミオを助けたい。これは何よりの願いだ。
しかしそれを実行するということは、螺旋の樹を消滅させるということ。つまり、赤い雨の被害にこれからも苦しみ続けるということ。
それを実行するということは、ラケルが生きている限り、彼女に止めを刺さない限り、今後もブラッドは命を狙われ続けるということだ。
そして、過去を変えるということは未来を変えるということ。マキが残してきた仲間達の身に何も起こらないとは断言できない。

だから、過去も未来も全部まとめて救ってやる、と思っていた。でも結局、一人で出来ることは限られていた——それどころか、何も出来なかった——。
意気消沈としているマキに、サカキはある言葉を授けた。
「護り、護られる」
マキは小首を傾げる。
「君がブラッドや極東の皆を護っているように、君もブラッドや極東の皆に護られていることを忘れてはいけないよ。君が危険な状態になったとき、何度助けてくれた?落ち込んでいるときに何度声をかけてくれた?」
「…数え切れないな」
サカキは微笑んだ。そしてそのままの笑みで続ける。
「互いが互いに足りないところを補う。完全とまではいかないが、それは一人では到底敵わない力を持てる。『仲間』というのも、一つの武器だ。ラケル博士になくて、君にあるもの。それは我々人間が持てる最大の武器だ」
サカキの話にどこか引き込まれる様に目を見開いて聞いていたマキは、我に返って乱雑に置かれたままの本を返し、新しい本を受け取った。
「そうか…一人でやっていたと思っていたことも、あいつらに助けられていたんだな…なんで、気付かなかったんだろ。あいつらに私に頼れと言っておきながら私は…頼ろうとしていなかったんだな」
でも、と続けた。

「暫く、ブラッドから距離を取りたい。」

それは、マキにとって一大決心だった。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.34 )
日時: 2015/02/03 22:05
名前: 諸星銀佳 (ID: e7DIAQ8b)


 それからというもの、マキは第一部隊やクレイドル、防衛班といった数々の神機使いたちと共に戦い、力を授けた。使い方に大分慣れてきたところで、いざ本番。まずはコウタ・エリナ・エミールの第一部隊だ。
「っしゃ!宜しく頼むな」
「宜しくお願いします、先輩!」
「正義は、勝つ!」
非常に元気な第一部隊の面々。だんだん心を開いてくれてとても嬉しい。特にエリナ。彼女は始めこそツンケンしていたものだが、次第にマキの実力を認め、慕うようになった。それからと言うもの、成長が著しい。もっと鍛えていけば、かなり優秀な神機使いになるだろうと、マキは思っていた。
コウタはもうベテランだ。言わずもがなである。支援が上手い。リンクバーストをすれば高火力となり、その辺の新型神機使いより上手だ。
エミールは突っ込んでいきがちだが、持ち前の騎士道精神——かどうかは分からない——でめげずに何度も攻撃を叩き込んでいる。
この三人で連携を高めていけば、極東最強と謳われた第一部隊の再来も過言ではないだろう。
「よし…今回の敵はコンゴウだ。私は三人で上手いこと連携できるようサポートに回る。頑張ってくれ」

「「「了解!」」」

4人は出撃ゲートを飛び出した。

マキはスナイパーのステルス状態になりながら高台で指示を出す。
「エリナ!側面に回れ!正面はダウンしてから狙うんだ!」
敵の真正面にいるので被弾をしやすい状態のエリナ。側面に回ることで被弾率を下げる。
「はい先輩!」
「コウタは距離を取り、サポートに回れ。正面から撃て。ダウンしたらオラクルを全部使うつもりでいけ!」
銃形態しかない分、ガードが出来ないので近くに行くことは極めて困難。なるべく距離を取り、隙を突いていくのが最善だろう。二人のミスを補う形で進めていく。
「おっけい!エミール!ダウンしたぞ!叩き込め!」
「騎士道——!」
ダウンするまであまり攻撃を行わない。その為被弾率こそ少ないものの、エリナの負担が増える。
「エミール。普段もそれくらい突っ込んで行け。エリナだけに任せるな!」
その時、無線が入った。
『緊急事態です!想定外のアラガミが作戦エリアに侵入します!』
「ちっ…こんな時に…ヒバリ、何か分かるか」
『ヤクシャです!』
ヤクシャ。耳が良いのでこちらの戦闘音を聞きつけ乱戦になるかもしれない。ここはステルス状態のまま近づき、一人で相手をするしかなかった。
「コウタ!私はヤクシャの相手をしてくる。終わり次第、こちらに合流してくれ」
「了解!」
マキは高台から飛び降り、位置情報の通りの場所へ向かった。

まだ聞きつけていないようだ。一人で辺りを見回している。
——ここは挑発フェロモンを飲んで向こうに生かせないようにするしかないか…
無線でコンゴウがダウンした情報が入る。あと少しなようだ。一気に畳み掛け用としたその時。ヤクシャが戦闘音に気付いた。マキは慌てて銃を乱射する。挑発フェロモンを飲み、敵に狙われやすくする。
「おっと。お前の相手は私だ。行くぞっ」
マキはヤクシャに突っ込んでいった。

無事にミッションも完了し、帰投するだけとなった。
「指示分かりやすかったよ、流石だな!」
「しかもヤクシャ一人で倒しちゃうなんて!私たちが三人がかりでコンゴウ倒してたのにさー」
「しかし、今回の戦いで何か得られた気がする…騎士は常に高みを目指さなくてはな!」
三人がコンゴウを倒し終えマキに合流しようとしたとき、目の前で倒れていくヤクシャを見たのだった。
「いや…今回は調整ミッションだったし、上手くいかないのも無理はない。何回か実践を積んでいけば確実に強くなる。お前たちなら」
「先輩…!」
露骨に嬉しそうにするエリナが可愛らしく、頭を撫でたくなったが、「子ども扱いしないでよ!」と言われるのが目に見えたのでやめておいた。
「しっかし、最近出ずっぱりじゃないのか?この前は防衛班のやつらと連続でミッションに行ってたし、昨日だってアリサと一緒に行ってたろ?大丈夫なのか」
「あぁ。前からこんなもんだ。アリサよりは忙しくないし、防衛班とのミッションの後は丸一日休んだし…あ、半日か」
「無茶して倒れたりしないでよね!」
「はいはい」
そんなこんなで第一部隊とのミッションは終了。あとは実践で経験を積むだけとなった。明日は第四部隊のハルオミとカノンの二人だ。ブラッドアーツ・バレットの実践投入と言うよりはカノンの誤射率ダウンに行くようなものなのだが…。

「なるようになるか…」
マキは溜息を吐いた。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.35 )
日時: 2015/02/12 18:06
名前: 諸星銀佳 (ID: e7DIAQ8b)


「本日は、宜しくお願いします!教官先生!」
教官先生、とはマキのことである。以前、カノンのオラクルリザーブ解禁をどうするや否やで関わっていたときに付いた名前だ。
「今日はカノン、お前のためのミッションだと思ってくれ。いいか、よく狙って撃つんだ。射線に人が来たら避ける。ハルさんはブラッドアーツの確認ってことでいいですか」
「おーけい、おーけい!」
ハルオミは実戦経験が豊富なので特に心配する必要はないのだが…カノンの誤射に巻き込まれないかだけが不安要素だ。生傷が絶えない神機使いだが、小型アラガミ掃討任務でもボロボロになって帰ってくるハルオミが一番多い気がするのだ——それもこれもカノンの誤射にあるとは本人の目の前では口が裂けても言えないが——。
「今回のミッションはグボロ・グボロだ。動きはあまり早くないし狙いやすい。それにハルさんのブラッドアーツを確認するのにも最適だと思う…だが、ほぼ二人でやると考えると少し荷が思いと思う…そこで」
マキが急に喋るのを止めたので何かと思ってハルオミとカノンは後ろを振り返った。そこには二人の至近距離でキグルミが立っていた。
「どぉっわ!」
「きゃぁあ!」
驚くのも無理はないと思う。実際マキも若干声を上げそうになった。
「か、影の実力者、キグルミに同行してもらう。彼…?彼女……キグルミのブラッドアーツも確認と言うことで…いいよな?」
キグルミは両手を挙げて肯定した…ように見えた。未だに謎が多く顔も性別も何一つ分かっていない。ヒバリに聞いたが蒼ざめた顔で「ご容赦ください」と言われたほどだ。
「よし…行くぞ」

先と同じくスナイパーを持って行き、ステルス状態になってから高台で文字通りの「高みの見物」をする。
「カノン!まだだ!暫く溜めろ!」
「は、はい!」
衛生兵としては文句無しなのだが、いざ攻撃となるとそうは行かない。誤射をしても他人の所為にし、所謂「トリガーハッピー」状態になって周りが見えなくなってしまうのだ。
「ハルさん!いい感じです!そのままの調子で!」
「いやー!お兄さん褒められると頑張っちゃうよー!」
いちいち口説き口調なので言われたこちらが照れる。だがそれで調子に乗ってしまっては意味がない——と思った矢先、ハルオミが被弾した——。
「キグルミ!カノンの射線上に——」
と注意しようと思ったその時にキグルミがカノンの犠牲者となった。だが、今までのように「射線上に入るなって…私言わなかったっけ!?」と言わなかった。
「ご、ごめんなさい…!」
これだけでも成長と言うべきだろう。彼女だけではない。ハルオミやキグルミもブラッドアーツを使いこなせるようになっていた。今回のミッションで三人の成長を感じたのだった。
「さて…さっさと終わらせるぞ」
マキはステルス状態を解き、自身もグボロ・グボロ討伐に参戦した。

「本日はありがとうございました教官先生!」
「まだまだ改善点はあるが、以前より誤射は大分少なくなったな。この調子で『敵を狙って』、『周りに人が居ないことを確認』し、『十分に距離を取って』撃つんだぞ」
くどい様だが何度も言い聞かせた。
「お疲れさんだ」
「これからもよろしく頼みましたよ、ハルさん…キグルミもな」
この二人は十分に腕があるので問題はないだろう。今後はカノンを中心とし、サポートに回れるようなミッションに定期的に行くように指示をする。
「流石、ブラッドだな」
「いえ…上から目線でなんか申し訳ないです。自分は大して何もしてないのに」
「そんなことないです!教官先生の指示は分かりやすいし、教官先生が合流してからと言うもの、あっと言う間にアラガミが倒せましたし!」
「…ありがとう」
こうやって面と向かって言われるのはもう何回目だろうか。マキは偏食因子の高い適合率とその卓越した戦闘センスで何度も危険なミッションに赴いては無事に帰還してきた。同行する神機使いたちは「貴方のおかげだ」と顔を綻ばせて言ってくる。彼女の周りの神機使いたちは、いつもマキを頼り、慕ってくれている。
だが当の本人は、それに値する人間ではないと思っている。自分ひとりだけの力ではないのに、何故そんなにも褒めるのか。もっと自分を褒めてあげれば良いのに…そう思っている。傍から見ればそれは単なるおごりにしか見えないかもしれない。だが彼女は、沢山のものを身に着けたが、同時にかけがえのないものを失ってきた。大切なもの一つ護れない自分を慕う価値なんてない…常に思っているのだ。特にブラッドの仲間に対しては。
なので彼女は、一旦ブラッドから離れ、極東の神機使いたちと触れ合うことで「自信を取り戻す」戦いに赴いている。

今回は、その「自信を取り戻す」ことが第四部隊とキグルミのおかげでほんの少しだが出来た気がしたのであった。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.36 )
日時: 2015/03/02 20:33
名前: 諸星銀佳 (ID: e7DIAQ8b)


本日はクレイドルのメンバーでミッションに赴くことになった。このときはまだキュウビの討伐まで辿り着いておらず、リンドウは不在。現在も元第一部隊の隊長と姉の雨宮ツバキと一緒に各地を回っているらしい。
「と言うわけで、今回は三人でミッションに行こうと思う…」
同行するのは、研究がやっと終わり一段落ついたとのソーマと、昨夜遅くまでレポートをまとめていたアリサだ。
二人の顔色は優れず、目の下にはクマがあって顔はやつれている…用に見える。
「ほ、本当に大丈夫なのか…?アリサ、前みたいに倒れそうだ。無理はするなと言っただろう」
以前、ミッションに行ったときだ。過労が原因で作戦エリアに進入前に倒れてしまったことがあった。無理をするなと忠告したのに、相変わらず全部一人でやろうとしてしまうらしい。
「大丈夫です。サテライトの改善案をまとめたレポートの締め切りが今日の朝までだったので、仕方ないです」
「ソーマも…まだ色々やることがあるんだろ?」
「気にするな…アリサみたいに締め切りはねぇからな。区切りが悪かったからな」
平然を装ってはいるがその顔色では説得力がない。マキはそう思った。
クレイドルは独立支援部隊として各地を飛び回り、サテライトの候補地やキュウビのコアである「レトロオラクル細胞」を用いた技術の研究などを進めている。通常の神機使いとしての仕事だけではなく一般市民と深く関わっている、と言うべきだろうか。
以前——と言っても過去に戻ってくる前からみた「以前」なのだが——、リンドウにクレイドルに来ないかといわれたことがあった。返答はゆっくりで良いと言われたものの、まだあやふやにしていた。共に戦ってみたいと思う反面、ブラッドには思い入れがある…。複雑な心境を整理できずいた。
「——い…おい!」
「!?」
いつの間にか呆けていたらしい。
「お前のほうこそ大丈夫なのか」
「最近、出ずっぱりって聞きますよ?ちゃんと休んでますか」
心配する側が一気にされる側になってしまった。情けないと思いつつも、今日は二人の体調を考慮して任務を取りやめることにした。後で「やっぱり休んでないんですね!休暇申請出してきます!」とか「人の心配する前に自分の心配をすることだな」と言われてしまった。

ラウンジのソファーでくつろいでいたら、隣に誰かが腰掛けた。横を向くとそこにはナナの姿があった。
「副隊長ー!久しぶりー!」
「相変わらずよく食べるな」
「だって、ゴッドイーターは食べるのが仕事でしょー?」
そう言って「おでんパン」を何個も頬張っている。
「ブラッドは…どうだ」
「うん、いつもどーり。ロミオ先輩とギルがよく喧嘩してるけどねー」
そうか、と短く答えると、ナナが思い出したように喋り始めた。
「そういえば、ロミオ先輩の血の力なんだけど…あれ、『離散』じゃないんだって」
「…どういうことだ」
「難しくてよく分からないんだけど…「アラガミのオラクル細胞の活動を停止させる力」って言うのはあってるらしんだー。でも、アラガミたちが捕食にいくようになるわけじゃないんだってー。この前の任務で分かったんだけどね、今は調査中なんだってさ」
要するに「アラガミを離散させる力ではない」ということか。確かに「離散」と言う名前の力はあまりロミオに合っていないと思っていた。血の力はそれぞれの個性に合ったものになっている。逆にロミオは人々を惹きつける魅力がある。マキとナナが入隊したときも、ギルバートが入隊したときも明るく話しかけ、すぐに打ち解けた——ギルバートとはまだ打ち解けていないような気もするが——。
「対話…」
「え?何?」
「いや…なんでもない。話してくれてありがとう。詳しいことが分かったらまた連絡してくれ」
ナナは大きく頷き、去り際には大きく手を振ってきた。マキもそれに答えて振り返す。

マキは少しブラッドが恋しくなった。


Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.37 )
日時: 2015/03/14 23:15
名前: 諸星銀佳 (ID: e7DIAQ8b)


「今日から通常通り、ブラッドの任務に戻る…今まで迷惑かけた。不在の間、ブラッドを護ってくれて、ありがとう」
ブラッドから離れている間、マキは色々な思いを廻らせていた。
螺旋の樹周辺のアラガミを掃討中、謎の光に包み込まれて過去にやってきたマキ。今度こそ、ジュリウスとロミオを救いたい。ラケルの手から二人を護る。そう思って奮闘してきた。だが、過去を変えるということは、未来を変えるということ。実際の歴史では起きなかったことが起きたり、螺旋の樹をなかったことにすれば、人々は一生赤い雨と黒蛛病に苦しむことになる。そしてなにより、彼らをあの時から救えたとしても、ラケルはまた次なる策を打って出てくる。その時に対応できるのか。もしかしたら、考えたくもないが他のブラッドのメンバーや極東の神機使いたちにも手を出すかもしれない。
——それなら、犠牲は一人で十分だ。
そう考えたマキは、一人で突っ走ってきてしまった。誰も傷つけたくないから、失いたくないから一人で戦う。でもそれは、仲間を傷つけていることと同じだったのだ。一人でも、一人ではなかったのだ。
そして気付いた。仲間が居るから強くなれた。仲間が居るから悲しくなるし、笑い合えるのだ。
そんな簡単なことに、何故気付けなかったのか。マキは心の中で苦笑する。
「もう、一人で突っ走ったりしない…ブラッドの皆を頼る。迷惑かけるかもしれないが…よろしく頼む」
小さく頭を下げた。
「何改まってんだよ副隊長。当たり前だ」
ギルバートがぶっきらぼうに言う。
「ギル、副隊長が離れてから『副隊長が居ないと上手く回らないな』とか言って淋しがってたもんねー」
「な、ナナ…」
言われたくもない秘密を暴露されて赤面するギルバート。
「副隊長、君は…『力を合わせれば、無敵だ』と言いました。なのに、君は一人で、どこか思いつめたように任務に当たっていました」
シエルはマキに歩み寄り、手をとって真剣な眼差しで言う。
「君の言うとおり『力を合わせれば無敵』なのです。もう一人で抱え込まないで下さい。私たちに話してください。出来ることは少ないかもしれないけれど、君の負担を軽く出来るならなんだってしますから」
「シエル…」
「俺はさ、シエルみたいに頭良くないし、ナナみたいにあっけらかんと物事割り切れないし、ギルやジュリウスみたいに冷静に戦場把握とかも出来ないけど…話なら、何だって聞くよ?」
ロミオは照れくさそうに言ったものの、最後は顔を見てにっこりと笑ってくれた。
「…そういうことだ、副隊長。お前が居ないとブラッドはどうも上手く回らなくてな」
ジュリウスもマキに歩み寄り、優しげな表情で続ける。
「一人じゃないからな。仲間を頼れ。その代わりに俺たちもお前を頼る。古来から人間は、そうやって今まで困難を乗り越えてきているのだから」
新人のとき、ジュリウスから同じようなことを聞かされたのを思い出し、教わったことを何も実行できなかったのだと思い知らせれた。
「早速ですが、更新された任務があります。出ましょう、副隊長」
「了解」

いつも通りのブラッドが再始動する。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.38 )
日時: 2015/03/31 14:38
名前: 諸星銀佳 (ID: mt080X2r)


いつもの日常が動き始めた——のは、良かったのだが。
そろそろ直面すべき課題が来ていたのだった。
「時系列が同じになる?」
「はい…私がタイムスリップする前に近づいてきてるんです」
先日、雨宮リンドウが帰還したとの報告があり、彼のブラッドアーツ習得任務にすでに何回か同行している。キュウビ撃破まで僅かであり、あのマガツキュウビと交戦するときが近いのだ。
「過去が過去ではなく…現在、未来になろうとしているのです。私は…どうすればいいのでしょうか」
「うーん…まさかそのような問題が出てくるとは思わなかったねぇ。ラケル博士を一時的とは言え退けたのは良かったけど、君が未来に戻れなくなりつつあると思うと…不安だね。仮にこのまま時が進んだとして…君が居た時系列まで辿り着いたとしよう。そうすると、君が未来に居た事実はなくなり、今居るこの場所…『過去』こそが『現在』になり、元居た未来すら超える『未来』を迎えるというわけだね」
「…難しすぎてよく分かりません」

今までの経緯をまとめると。
マキはジュリウスとロミオを救うべく過去にやってきてその事実を帰る努力をした。その結果、二人は救われた。だが、このまま過去に留まり続ければ、彼女が元居た未来——すなわちロミオが死に、ジュリウスが螺旋の樹を作り上げた未来——が消滅するかもしれない…ということなのだ。
あまりにも現実味を帯びていなくて混乱しかしない。
「マキ君。君は、此処に来たとき、その螺旋の樹の光に呑まれたと言っていたね。すなわちそれは『感応現象』と捉えて良いだろう。前にこんな話をしたよね?君が此処に来たのはジュリウス君と君の感応現象によるものだって」
「しましたっけ…」
「と言うことはだ。君がジュリウス君と感応現象を起こせば…未来に戻れる可能性が高い」
マキは目を見開いた。驚きが隠せないといった様子である。
「幸い、ラケル博士は一年間の禁錮処分だ。仮に今過去に戻ったとしてもブラッドの皆が彼女の危険に晒される可能性はない。だが、今この瞬間に戻ったとしたら…『空白の時間』が生まれる」
「…それは、どういう」
サカキは分かりやすく説明しようと試みるため、マキをソファーに座るように促した。マキはそれに従う。
サカキは紙を広げ、二本の直線を適度な間隔を取り、横に引いた。
「いいかい?まず、君が元居た『未来』を整理しよう」

二本の直線のうち、上にあるのを『未来』、下にあるのを『過去』と書いた。
「ここから此処までは過去も未来も殆ど一緒だね。この真ん中の線はその『螺旋の樹』が発生したときにするよ」
過去と未来の両方に、線の真ん中あたりに縦に線を引く。とてもバランスの悪い「十」の字が出来た。
「未来ではその半年後にリンドウ君が帰還してキュウビを撃破。少ししてマガツキュウビ…で、君が元居た時間は此処だね」
発する言葉に対応して縦に線を引いていく。未来の線には計三本の縦線が引かれた。三本目の縦線の少し右側にサカキは黒く丸を書いた。この丸がマキがタイムスリップする前にいたところの時系列となる。
「君は感応現象によって過去に飛んできた。その時間が此処だね」
過去の線の真ん中より左側、つまり螺旋の樹発生より前のあたりに黒く丸を書く。
「そして君はラケル博士の陰謀を暴き、二人を救う。ということは過去ではこの螺旋の樹発生の事実はなくなる」
過去の螺旋の樹発生を意味する縦線にバツ印をつける。
「『過去』における今…すなわち今この瞬間だ。リンドウ君が帰ってきた。もうすぐキュウビの討伐作戦が始めるということだ。すなわち…此処だ」
未来の時系列と同じ位置になるように過去にも縦線を引く。そして、その場所にはカタカナで「イマココ」と書かれた。
「…ここまではいいかい?」
「はい、口頭で言われるより大分分かりやすいです」
「よし。じゃあ、此処からが本題だ。話を戻すよ。今、君がジュリウス君と感応現象を起こして未来に戻ったとしよう。すると、君が戻る時間は此処だ」
未来の黒丸を指差す。
「君の努力で過去が変わった。ということは『未来』における過去も変わったということだね」
マキはなんとなくサカキの言いたい事が分かってきた。

「要するに…『過去』における未来、『未来』における過去が空白の時間になるってことですか」

「そういうことだね」
サカキは過去の線にもう一つ縦線を未来の黒丸の下に足す。そして「イマココ」と記された縦線と先程足した線を山型に結ぶ。同様に未来の線にも同じことをやる。
「この山型の時間が空白の時間だ。ふぅ…かなり噛み砕いた説明になったけど付いてこれてるかい?」
「はい…大丈夫です…それで、この空白の時間はどうすれば…」
「うん。戻りたい気持ちは分かるんだが…君は過去と未来の時系列が同じになるまで此処にいなさい。そうだね…君が此処に来る前日…は何月何日か覚えているかい?」
マキは思い出すようにサカキに話した。サカキはカレンダーを見やる。
「あと一ヶ月か…じゃあ、その日が来るまで此処にいて、事情を説明してジュリウス君に協力してもらう。日付が変わると同時に未来に帰るんだ。そうすれば空白の時間もなくなる。戻って気が付いたらその日の朝、とかじゃないかな」
過去が『未来』における現在になる前に感応現象を起こすということである。難しそうだ。
とにかく、その日まではこのことは二人だけの極秘事項となった。
「じゃあ、そういうことでいいかな?キュウビ討伐、頑張ってくれたまえ」
「了解」

マキはサカキに敬礼をし、研究室を後にした。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.39 )
日時: 2015/04/15 22:14
名前: 諸星銀佳 (ID: mt080X2r)


分かったような分からないような話を聞かされたマキは、とにかく目の前の任務に集中することにした。
ラウンジで一人溜息を吐いていると、テーブルを軽く叩く音がした。
「隣、空いてますか?」
アリサが任務を終えて帰ってきたようだ。
「一人で行ってきたのか?」
「はい、誰も出て行ける人が居なかったので。中型種でしたし、一人でも大丈夫でしたよ?」
「無理をするなと言ったのに…」
頑張り屋で、自分のことは二の次で人のことばかり考えて行動してしまうアリサは、寝不足や過労で運ばれることもしばしばあった。「神機使いは身体が資本だろ」と耳にたこが出来るほど五月蝿く言っているのだが、やっぱり直っていないらしい。
「すみません…締め切りとかに追われているので…それより、貴方の方こそ何か思い悩んでいるようでしたけど?」
「アリサほどじゃないさ…きっと、何とかなるさ。こればっかりはどうしようもない」
「そうですか…でも、困ったことがあったら何でも言ってくださいね」
やはり、自分のことより他人のことを優先している。マキは思わず苦笑した。
その時だった。アリサに無線が入る。
「あ、リンドウさん?どうしたんですか…はい…はい…えぇ!?」
アリサが立ち上がって驚く。
「どういうことですか!?だってこの前…捜索隊は出しましたか!?」
行方不明でも出たのだろうか。マキは固唾を呑んで見守る。
「…はい、分かりました」
「何があったんだ、アリサ」
「それが…」
深刻そうな顔をして口にした言葉は、あまりにも衝撃的だった。

「キュウビを…逃しました」

「この前、あの雪山の廃寺にいたんだろ?極東にも居ないのか?」
「今、捜索隊を派遣しているのですが…極東にはもう居ないみたいです…これではレトロオラクル細胞が手に入りませんね」
——まずい。マキは冷や汗を掻いた。
今までが順調すぎたのかもしれない。自分にとって都合の良いような歴史の動かし方をしてしまった。それによってキュウビを逃し、ソーマの画期的な発明も全て机上の空論になってしまう。
「ハルさんに相談してみよう。あの人、いろいろな支部を渡り歩いていたから各国に知人が居る。その人たちにキュウビの捜索を依頼しよう。私も面識がある人が何人か居るから」
「キュウビは危険です…他のアラガミとは戦闘能力が極めて高いようですし、上空からの捜索でもあのレーザーのような攻撃をされたら…」
「くそっ…」

歴史が、変わっている。着実に、確実に。それは、元居た世界の歴史も変わっているということ。仮に戻れたとしても、前の世界があるとは限らない。