二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.4 )
日時: 2015/09/22 16:30
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)

§第一章 夢か現か§

——もし、過去に戻れたら……と、考えたことはあるだろうか。
人生をやり直して、失敗を無かった事にしたい。先祖に会いに行きたい…色々あるだろう。少なくとも、かつては人が住んでいたであろう廃墟を憂い、佇む少女——神野マキはその考えの持ち主だった。
数ヶ月前。人類は絶滅の危機を迎えようとしていた。人間による人類の終末計画。それは、かつて共に戦っていた仲間が起こしたものだった。
彼女が所属する特殊部隊・ブラッドと、極東の仲間たちの協力のおかげで世界は救われた。だが今も、彼女の手には共に戦った彼——かつての自分の上司で大切な仲間——を貫いた感覚が残ったままだった。
「おーい!帰るぞー!」
「あぁ。今行く」
遠くから元気に声を発するのは、フェンリル極東支部所属で独立支援部隊「クレイドル」の一員かつ第一部隊隊長である藤木コウタだ。彼はとても明るくムードメーカー的存在であり、マキが落ち込んでいる時もよく励ましてくれていたのだ。それゆえ、彼はマキの精神的支えになっている。
「先輩大丈夫?最近出ずっぱりだし、休めてないんじゃないの?」
傍で共にコウタのところへ向かうのは、同じく極東支部第一部隊の神機使い、エリナ・デア=フォーゲルヴァイデだ。彼女は若干14歳にして戦場へ赴いている。少し前までは高飛車な態度を取り、マキのことをあまり快く思っていなかったが、共に戦ううちに心境の変化があったらしい、今では「先輩」と頼りにし、目を見張るほどのスピードで腕を上げている。マキもまた、そんな彼女を頼りにしている。
「神機使いに休みなんてものはないだろう。皆が頑張っているのに私だけ休めるものか。それに、今日の任務はそこまで強敵でもなかった」
「くぅぅぅ〜!さっすがブラッドの隊長さんは言うことが違うねぇ」
着いた先、コウタの元には真壁ハルオミがいた。彼は極東支部第四部隊の隊長で、極東では一、二を争うベテランである。少々ナンパ癖があり、査問会に呼ばれた経歴もあるのだが、彼の過去は意外と重い——この話は後に語ることになるだろう——しかし、そんな過去とは裏腹に彼の周りや話題はいつも賑やかなものだった。
「ハルさん、そうやってお世辞を言っても何もでないですよ」
「いやいやぁ、本音だぞ?いつ見てもあんたの戦い方は参考になるねぇ」
「あいかわらずッスね、ハルさん……お、ヘリが着いたってさ。さっさと帰ろうぜ!」
コウタは皆を先導するように無線で入った場所へ向かう。それに続くように3人もコウタを追った。

「コウタ、ハルオミ、エリナ…無事に帰還した」
「お疲れ様です。このくらいの任務ならあっという間にこなしちゃいますね」
極東のベテランオペレーター、竹田ヒバリが笑顔で出迎える。彼女はまだ20歳だが、既にベテランの域であり、その冷静なオペレーションは神機使いの間でも評判だ。
「そんなことない。皆のおかげだ」
「ふふっ。ゆっくり休んでくださいね」
ヒバリは軽く一礼すると、マキもそれに応える。
報告を終えたマキはラウンジへと向かった。そこには先程ミッションを共にしたハルオミとエリナがいた。
「おう、お疲れさん。一杯やってかない?」
コップを傾けるようなジェスチャーでハルオミは誘う。エリナもまたこっちへ来て、と言わんばかりにブンブンと手を動かす。
「ハルさんの奢りでいいなら」
そう言って二人の間に座った。
「おうよ」

二人と今日の任務の反省会と称しながら、エリナのいつものエミールへの愚痴を聞かされた。ハルオミは部下である誤射姫——台場カノンの事である——の誤射率が最近減ってきたと、少し嬉しそうに話していた。賑やかな反省会になる筈だったが、マキがエリナへ話しかけようとした時に放送が入った。
『ブラッド隊長神野マキさん。至急エントランスに来て下さい』
放送を聞いたマキはグラスの中身を一気に飲み干し立ち上がる。始まったばかりの反省会はお開きになりそうだった。
「悪い…この埋め合わせは必ずする」
そう言い残し、足早にラウンジを去って行った。
「なんだろ。先輩が呼び出されるのはいつものことだけど…気になる」
「俺たちもちょっくら行ってみるか」
二人もマキに倣いグラスを空にし、その後を追った。

「どうした、ヒバリ」
「あ…それがですね、アラガミの大群の反応を確認したらしいのです」
「大群?どれくらいだ」
ヒバリはモニターを慣れた手つきで操作し、アラガミの詳細を割り出してマキに告げる。
「現在確認できるのはオウガテイルが4体とウコンバサラが2体です。しかし、近くにサリエルとコンゴウの反応もあります」
「問題ない。行こう。場所は?」
「それが…」
急にヒバリが黙り込んだ。
「どうした?」
「その、場所なんですが…『螺旋の樹』の周辺なのです」
「螺旋の…樹?」
——螺旋の樹。数ヶ月前の記憶とあの感覚——彼を貫いた感覚——が鮮明に蘇ってくる。
「ジュリウス…」
無意識に呟いていた。
ヒバリは彼女の名を呼ぶ。一回目は反応がなかったが、二回目でマキは我に返り、話を続けるようヒバリに催促した。ヒバリは申し訳なさそうに続けた。
「現在、ミッションに向かえる人が少ないのです。ブラッドの皆さんはまだミッション中ですし、他の神機使いもサテライト拠点防衛任務の応援へ向かってしまっています…先程帰ってきたばかりで申し訳ないのですが…」
宜しいですか、という表情を向ける。「私一人で行こう」そう言おうと思った時。
「私たちも行きます!先輩!」
「エリナ…でもさっき任務に行ったばかりで休んだ方が」
「それはあんたも一緒だろ?『神機使いに休みはない』らしいからな」
「ハルさん…」
「俺も行くぜー」
上の方から声がした。声の主を見やると、その主は階段を下りてきてマキの隣で止まった。
彼は雨宮リンドウ。極東支部最古参のゴッドイーターだ。過去に色々とあったそうだが、それを乗り越え、同じ部隊に所属していた現在の奥さんと結婚。子供がいながらも、第一線で活躍している。
「なんか大変そうだったからなぁ。手伝わない訳には行かないだろ」
「でも、リンドウさん書類が溜まってるってアリサが愚痴ってましたけど」
「あぁ、あんなもん良いんだよ。期限過ぎたって。紙の上の事より人命最優先、だろ?」
本人曰くデスクワークより戦場に赴くほうが性に合っているらしいが、それはそれ、これはこれである。「またアリサに怒られる」と大げさにガクガク震えた。マキはアリサの「ドン引きです」というお決まりのセリフが聞こえた気がした。
「ではブラッド隊長とリンドウさん、ハルさん、エリナさんで緊急任務を受注致します。ご武運を」
「了解」
マキが敬礼すると、三人もそれに続いた。

こうして、螺旋の樹に群がるアラガミ掃討作戦に向かった。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.5 )
日時: 2015/09/22 16:47
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


——螺旋の樹。
マキは真っ直ぐとそれを見つめていた。
「先輩…?」
いつの間にか険しい顔をしていたらしい。エリナに心配された。
「あ、あぁ…ごめん。大丈夫だ」
ぽんぽん、と頭を軽く叩く。
「ちょ、子ども扱いしないでよ!」
相変わらずのエリナの言動に思わず微笑む。
「そんじゃ、行くかぁ。隊長さん」
ハルオミの言葉に軽く頷き、オペレーションルームへ無線を入れる。
「こちらブラッド1。これから作戦エリアに突入する。問題はないか」
無線の音が耳を掠めると、ヒバリの声が返ってくる。
『はい。作戦エリア内に問題はありません。張り切っていきましょう!』
「よし、行くぞ!」
リンドウの掛け声で全員が作戦エリアに飛び降りた。

「貫くっ!」
エリナは作戦エリアに降り立つと、すぐさまオウガテイルの相手に取り掛かる。
「先輩!雑魚は任せておいて。ウコンバサラをお願いしますっ!」
「了解。ハルさん、エリナをお願いします」
「あいよー」
ハルオミの了承を得ると、リンドウに目で合図をし、奥へと進む。
作戦エリアは『神機兵保管庫』。大きく開けたところを中心に小さなエリアが二つある。とは言ったものの、他の作戦エリアに比べたらエイジスの次に狭いだろう。ここでの乱戦は非常に危険である。アラガミを分断し、各個撃破するのが得策だろう。
『作戦エリアにアラガミが侵入。侵入地点送ります』
「敵さんのお出ましだぜ!気ィ締めてけよ!」
送られてきた位置情報どおり、左右両方から討伐対象のウコンバサラが出てくる。鰐のような風貌だが、背中にあるタービンがそれとは違うことを物語っている。
「はぁぁぁぁあっ!」
一気に間合いを詰め斬りかかるが、硬い。その為、頭や尻尾の結合崩壊を狙う他はない。だが、そこを狙うと突進や尻尾払いに当たりかねない。故に体の横にへばり付きながら戦うのがベストだ。それと厄介なのは雷撃である。別段苦戦する敵ではないので、倒すことばかりに夢中になっていると、予備動作を見逃して雷撃を受けることもある。十分に注意をしなくてはならない。
マキはウコンバサラの横にしっかりと付きながら斬りかかる。マキの神機はショートブレード。リーチも短く、破砕攻撃は向いていないが、軽さを生かした空中攻撃や、連続攻撃に特化している。
『アラガミに結合崩壊発生!』
「いい感じ!」
雑魚を蹴散らし終えたエリナが援護に入った。ハルオミもリンドウの補佐に入っている。
その後も問題なく進み、無事にミッションが完了した。

『作戦エリア内にアラガミの反応はありません。予定より早く終わりましたね。ですが、近くにアラガミの反応がありますので、早急に帰還することをお勧めします』
「サリエルとコンゴウだな…了解。すぐに戻る」
全員が帰還のヘリを待っていた時だった。無事にミッションを終えてなんとなく和やかムードだった雰囲気を一瞬で打ち砕く出来事が起きる。
『作戦エリアにアラガミが侵入!?来ます!』
「新手!?」
後ろを見ると、来る前にヒバリから注意をしとけと説明を受けていた、サリエルでもコンゴウでもない大型アラガミが姿を現した。
巨大な尾針と盾を持った騎士のような蠍に似たアラガミ。
「ホルグ・カムラン…」
エリナがスピアを構えなおしたとき、右手から咆哮が聞こえた。目を向けると、赤い体毛と岩のような装甲を持った狼のようなアラガミがこちらへ向かってきた。
「ガルムもか!?へへっ…今日は氷のバレットを持ってきてねぇぜ」
ハルオミは冷や汗をかきながら呟く。
「いやいや、まだ来るみたいよ?」
リンドウが左の方を指差す。見ると、鎧のような漆黒の体に邪悪な人間の顔を持った『ディアウス・ピター』も登場。
三方向を囲まれた4人だったが、マキは冷静さを失わなかった。
「大丈夫だ。数的にはこちらが有利だ。焦るな。いつも通りだ」
全員が背中合わせになった時だった。
「…?」
マキの視線の先、壊れた神機兵保管庫。螺旋の樹の方に影が見えた。それは徐々に大きくなり、作戦エリアに降り立った。マキはその姿に思わず息を呑んだ。
「おいヒバリ…こんなに来るなんて聞いてないぞ」
無線でヒバリに文句を言った。だが、応答がない。
「チッ…『感応現象』で無線がやられたか」
「感応…?まさか」
エリナの顔がみるみる蒼くなる。
「あぁ…あの赤い触手、白い体毛。間違いない。『マルドゥーク』だ」
そしてアラガミに四方を囲まれた4人は睨み合いを続ける。
「ははっ、俺らにもヤキが回ったもんだな」
「こんな過酷ミッションだなんて聞いてないけどねぇ…」
「大丈夫、だよね?」
「…いいか3人とも」
マキは目の前のマルドゥークから目を逸らさずに呟く。
「私が閃光弾を使ったら全員で逃げる。流石に大型種4体…うち感応種一体は危険だ。いいな」
閃光弾——スタングレネード——は、僅かな時間だが、アラガミを行動不能にすることができる。活性化していない今ならどのアラガミにも有効に機能するはずだ。てっきり戦うと思っていた3人は目を見開く。だが、何故マキがその作戦を取るのかすぐに理解できた。

遠くからヘリの音がしたからだ。

「チャンスは一度。いいか」
全員が頷く。
マキがカウントダウンを始める。それと同時に各々が戦闘態勢——と見せかけた逃げの姿勢——を取った。

「くらえっっ!!」

気がつくと、マキは仰向けになって寝ていた。それはベッドの上でもソファーの上でもない。土の上でだった。体を動かそうと思ったが、全身に痛みが走る。それでもなんとかうつ伏せになり、かすかに開ける目で状況を把握しようと試みた。血だらけの手に神機は握られていない。視界の先に映るのは、アラガミの群れだった。遠くから戦闘音がする。どうやら離脱に失敗したのだと今になって気付く。
「そ、うか…」
マキはスタングレネードで敵を怯ませ、それを合図に全員で一目散に来た道を逃げようとした。だが、出口から一番遠かったマキが、その出口の一番近いところにいたホルグ・カムランの餌食になった。尻尾でなぎ払われ、元いた場所に押し戻されると、ディアウス・ピターの電撃を諸に喰らう。一瞬動けなくなったところを、マルドゥークは見逃さなかったようだ。右手で思い切りなぎ払われ、エリア外に吹っ飛ばされたようだ。
「それでも、死なない、とは…流石、神機使いと、言った、ところだな…」
もう一度仰向けになろうとするが、どうやらそんな体力も気力も残っていなかったらしい。
「ここまで、か…みんな…ごめ…」
——私はまた、何も護れなかった。仲間を、また失うのか…
フラッシュバックするように、思い出したくない出来事が次々に頭の中を駆け巡る。
「い、や…だ。ジュリウス…」
マキは螺旋の樹の中にいるその人の名前を呼び、縋るように顔を向けた。次第に彼女の周りにはアラガミが集合していく。
「約束、護れなかった…」
涙が零れ、痛む手を螺旋の樹に翳した時だった。

——白い光が、彼女の視界を支配した。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.6 )
日時: 2015/09/25 12:56
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


目を開くと、懐かしい風景が目に入った。
——フライアだ…
フェンリル極致化技術開発局、通称「フライア」。その姿は「動く要塞」とも言われる巨大な箱舟のようだったのを覚えている。
——夢を、見ているのか。
フライアは現在運行を中止しており、立ち入ることが出来るのは一週間に一回あるかないかだ。
マキは起き上がろうとした。だが、全身に激痛が走る。
「うっ…」
——ん?今…やたらと自分の声が鮮明だった気が…
気のせいだと決め付け、マキはもう一度起き上がろうとし試みる。今度は何とか起き上がれたが、声を堪えることは出来なかったようだ。
「うっ…うぅ」
気のせいだと言い聞かせ、周りを見渡してみた。フライアの病室だ。それは間違いない。だが、これは夢だと分かる。何故か。先程も言った通り、現在フライアは運航中止中。故に病室も閉鎖されている。使える筈がない。
——そもそも、何故夢を見ているんだ?
マキは自分に起きた事を思い出してみた。
——そうか、私は先のミッションで…病室に運ばれたのか。でも何故アナグラじゃないんだ?
考えれば考えるほど頭が混乱してきた。他の神機使いが病室を使っていて自分はこちらへ仕方なく回されたのだろうと決め付けて、自分自身を納得させる。とりあえず外に出ようと、自分に刺さっている点滴を持って外に出た。
——ミッションで怪我して、フライアの病室にいる夢を見ているのか。そうか。そういうことか。
マキは最近「これは夢」とわかるような夢をよく見ていたのだ。それはある筈も、叶う筈もないことが目の前で繰り広げられているから。例えば——ジュリウスやロミオと戦っている夢。そして「これは夢」と気付くと暫くしないうちに目が覚めるのだ。そのうち目が覚める。そう思った。
マキを乗せたエレベーターはエントランスへ到着した。
「…は?」
そこには、警備員がいつもの倍いた。もう一度言う。フライアは現在運行停止中だ。数人の警備で事足りるはずなのだ。監視すべき人も、モノも何もないのに。マキは痛む体を無理やり引き摺り、ソファーへと腰をかける。徐に上の方を見たときだった。
「…フラン?」
オペレータールームには元フライアのオペレーターにして、現在は極東のオペレーションを担当しているフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュがいた。
「なんで…」
「あーっ!副隊長!安静にしてなきゃだめだってばぁ!」
「ふ、副隊長?」
懐かしい呼び方をされ、思わず素っ頓狂な声を上げながら、呼ばれた方へ顔を向けると、エレベーターから見慣れた面々が降りてきた。
「お帰り…ミッション、終わったんだな」
「…何を仰っているのですか副隊長。私たちは一緒にミッションに行ったではないですか」
今は報告を終えたところですよ、とシエル——シエル・アランソンが大真面目な顔をして言った。
「シエルの方こそ…何言ってるんだ?お前たちはすでに朝、ミッションに行ったってヒバリが…大体、なんだ副隊長って。副隊長はシエル、お前——」
「頭でも打ったのか?」
マキの話を遮るようにギル——ギルバート・マクレインはしゃがんでマキに目線を合わせて訝しむ。
「まぁ、この怪我だから頭くらい打ってても無理ないな」
「副隊長、結構吹っ飛んじゃってたからねー。まっさか、ラーヴァナな大群を一人で相手するとは思わなかったからさー」
ナナ——香月ナナも心配そうにマキを見つめる。マキは若干声を震わせ、後ずさりしながら言う。
「ら、ラーヴァナ…?揃いも揃って何言ってるんだ、お前ら…頭が混乱してきた…」
マキは頭を抱え込む。その姿に勘違いしたらしい。ギルは「やっぱりな」と言って若干呆れたように続けた。
「副隊長、安静にしてた方がいい。頭打ったならちょっと心配だ」
「あれ?皆揃ってどうしたんだよ」
エレベーターが開く音と同時に懐かしい声がした。
——そんな、筈は。
「先輩ー。副隊長が病室から出てきちゃったんだよー。病室に連れてってあげてよー」
「お願いしてもいいですか。私たちはまたミッションに行かなくてはならないので——ロミオ」
ニット帽にオーバーオール。服のあちらこちらに缶バッチ。その姿にマキは目を瞠った。
「なんで…」
ロミオ・レオーニ。サテライト拠点の防衛任務にてKIA(作戦行動中死亡)と認定された筈の彼が目の前にいた。

夢というにはあまりにも生々しかった。

「任せとけって!」
「では、お願いします」
「あ、ちょっとま…」
呼び止めようとしたが、ブラッドの面々はそそくさと行ってしまった。伸ばした手は空を掴んだだけだった。
「んだよ副隊長ー。俺だけじゃ不満かぁ?」
「…これは、夢。ロミオが…私の目の前にいるなんて…」
マキが小さく呟き、自身の手をロミオの手に重ねてみた。
「ちょっ、おまっ…」
突然の行動に赤面するロミオ。だが振り払うこともなく、受け容れていた。
「…温かい」
奥からこみ上げてくるものがあった。夢だとしても、彼に会えたのは嬉しかった。
「何で泣くんだよ?俺なんかした!?」
「しただろう!?勝手に逝っちゃって…」
「勝手に殺すなよ!」
「私が止めればよかったんだ…ごめん。夢でも、また会えてよかった、ロミオ…」
さっぱり訳が分からないといった顔をするロミオ。うーんと唸る。
「…副隊長、変な夢でも見たのか?」
「今見てるんだよ、きっと…」
その言葉を聞いて何か思いついたのか、少々悪戯な笑みを浮かべると、マキの頬を抓った。
「いたっ、いたたたたたっ!何するんだ!!」
「夢じゃねーだろ?ちゃんと起きたか?」
確かに、痛かった。古典的なやり方だが、夢かどうかを確認するのにこれよりいい方法は知らない。抓られた頬はヒリヒリと痛む。

痛みも伴う夢。そんなものあるのか。少なくともマキは、体験したことがなかった。

「無理しすぎなんだよ副隊長ー。俺は一緒にミッションに行かなかったけどさ、満身創痍で帰ってきたのを見てビックリしたんだぜ?」
「夢じゃない…?じゃあ、この状況はどうやって説明するんだ?」
「う〜ん…何を言いたいのか俺にはさっぱりわからねぇよー…あ!今馬鹿だなって思ったろ!…まぁ、さ、とりあえず落ち着くまで庭園にでも行ってきなよ」
言われるがままにエレベーターまで連れて行かれ、庭園に着いた。
「じゃあ、俺戻るから。あんまり無理すんなよ?」
ロミオはそう告げると、頭の後ろで手を組んで口笛を吹きながら去っていった。記憶の中に今も鮮明に残る後ろ姿で。

いつもと変わらない景色に内心ほっとする。相変わらず綺麗な場所だと思う。あの事件から、何度かフライアには立ち寄っては此処に来てロミオの墓参りに来ていた。だが、その墓参りの相手であるロミオは自分の目の前に現れた。ある筈の墓石の場所へ目を凝らしてみても、それらしき姿はない。
——もう一度整理しなおそう。
点滴を引き摺り、記憶を辿りながら、歩を進める。すると、木の下に人影が見えた。影はこちらに気付いたみたいで、動き出した。
「もう動いて平気なのか?」
徐々にその影は大きくなって、マキの見慣れた姿へ。
「あまり無理をするな」
貴族を彷彿とさせる服装に整った目鼻立ち。頭頂部で結い上げた金髪。長い下睫毛。
「じゅ…ジュリウス…」

誰よりも会いたいと願った、その人だった。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.7 )
日時: 2015/09/25 13:08
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


——何が、起きているんだ?
目の前に螺旋の樹の創造主であるはずのジュリウス・ヴィスコンティがいる。螺旋の樹があるのか確認しようにも、ここからでは見る事ができない。そもそも。

螺旋の樹は、神機兵保管庫——フライアで出現した。

「どうかしたか?」
あの声だ。あの顔だ。あのオーラだ。もう一度会いたいと願っていた彼が目の前にいる。
「…夢でもいいから、覚めないでくれ…」
マキは小さく呟き、その場に崩れる。
「おい、大丈夫か副隊長」
——副隊長。先程から皆に呼ばれていたが、彼に呼ばれると何か特別なものを感じる。もともと彼が「隊長」と呼ばれていたのだ。彼が離脱した後にマキが隊長を引き継いだが、未だにしっくりこないのだ。他のメンバーに「隊長」と呼ばれても、たまに振り向けないことがある。
「何があった」
「どうして、何も言ってくれなかったんだ…」
マキはくしゃくしゃの顔でジュリウスを見て怒鳴りつけた。
「そうやって!いつも勝手に行って!仲間を思いやるのも良いけど、もっと自分を大切にしろ!!ロミオも、貴方も…皆、自分勝手だ」
ジュリウスは、普段見ないマキの姿に困惑しているのか、はたまたマキが自分に怒ったのを驚いているのか、反応に困っていた。
「よく分からないが、俺が何かしたなら謝ろう…すまなかった」
謝罪を聞くと、慌ててマキは首を横に振る。すまない、みっともない姿を見せたと小さく呟く。自分でも、もう何がなんだか分からなかった。失った仲間にまた会えた嬉しさ。何も言ってくれなかった彼らへの苛立ち。彼らを救えなかった自分の不甲斐なさ。そういったものが一気に押し寄せ、言葉にしようにも上手く伝えられない。嗚咽を漏らしながら泣き続けた。
「……隊長」
呼吸を整え、やっとの思いで紡いだ言葉は、今は自分に使われている役職名。名前で呼びそうになったが、この時は彼のことを名前で呼んだことはなかったのではないかと思う。久々に人に向かって「隊長」といった気がした。
マキは涙を拭い、いつもの凛とした表情をジュリウスに向け、思い切り深呼吸をする。
「一緒に、ミッションに行ってほしい。ロミオも」
「構わないが…今の副隊長の状態では無理だろう。神機使いは、確かに常人とはかけ離れた治癒力を持ってはいる。だがいつ傷がまた開くか分からんぞ」
「後方支援に回って二人に指示を出す。前には出ない」
目が腫れてはいるが、いつもの——いや、いつも以上に真っ直ぐな視線——に押され、渋々承諾した。
「わかった。ロミオに話をつけてこよう。副隊長は準備をしておいてくれ」
一つ頷くマキを見ると、ジュリウスは庭園を後にした。一人になった庭園をマキは改めて見渡す。
ロミオの墓はない。昔の、マキが大好きなあの時のままだ。ここでジュリウスと出会い、仲間とピクニックをしたものだった。最近は前以上に忙しい日々が続いており、ピクニックどころか、十分な休息も取れていない。
「…本当に、戻ってきたのか」
マキは夢ではないと信じることにした。これは現実なのだと。非科学的なことが起こる。それはもう何度も体験した。新型同士が触れると起こる感応現象。ブラッドアーツの覚醒。終末捕食の相殺。それによるジュリウスとの再会。今起きている現象——仮にタイムスリップとでもしておこう——もきっとその非科学的な現象の一端に過ぎないのだと思う。
マキはずっと抱いていた二人への自責の念を闘志に変える。体が熱くなってきた。いつも以上の力が出せる気がする。いつの間にか、体の痛みも引いていた。
「戻ってきたなら、やることは一つ」
点滴を無理やり剥がし、エレベーターへと歩を進める。懐かしい自室に戻り、入院服からクローゼットに仕舞ってあるはずのブラッドの制服へと着替えること。案の定、まだおろしたての匂いがする制服がそこにはあった。ジュリウスが特異点と化したあの日以降、ロミオの墓参り以外で着ていなかった制服。なんとなく気が引き締まる。着替えてエントランスへ出ると、出撃ゲート前には二人の姿があった。
「準備は出来たか、副隊長」
「早くいこーぜ!でも、あんま無茶すんなよな!」
マキはジュリウスよりもどこか隊長らしい雰囲気を身に纏いながら二人へ近寄る。
「詳しい話は後だ。行くぞ」
先陣を切って出撃ゲートをくぐる。

——今度こそ、二人を護る。ブラッド全員揃って、生きていく為に。
そう、心に誓った。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.8 )
日時: 2015/09/25 13:18
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


今回のミッションは、ハガンコンゴウとザイゴート堕天種討伐ミッションだ。舞台は蒼氷の峡谷。雪深い地方にひっそりと佇むダムの跡地。かつては観光地として賑っていたが、環境の変化に伴って寒冷化が進み、現在は大型アラガミの長距離移動の通路となっている。
マキたちは高台から状況を把握する。討伐対象を確認すると、ジュリウスとロミオに目で合図をし、飛び降りる。当然、耳の良いハガンコンゴウはこちらを振り向く。面が割れたような不気味な顔がマキたちを睨む。その周りにいたザイゴートたちも向かってきた。
「私は雑魚をやる。二人はハガンコンゴウを頼む」
「了解」
「任せとけって!」
二人はそういうと、ハガンコンゴウに剣を振るい始めた。マキはまだ万全の状態ではないため、剣で空中戦にもって行くのではなく、狙撃銃で雑魚たちを地面へ叩き落していく。倒す前に捕食をし、バースト状態になる。無論、今回は自分へのバーストが目的ではなく、手に入ったアラガミバレットを二人へ受け渡し、彼らをリンクバースト状態にすることが目的だ。
ザイゴートを全て倒し、二人へ合流する。
先程手に入れたアラガミバレットを二人へ受け渡す。神機開放レベル最大となった彼らは、更にハガンコンゴウへ斬撃を叩き込む。攻撃を喰らってHPが危険になった時は、すかさず回復弾を打つ。その間も二人に指示を出し続けた。
そして、マキがハガンコンゴウに触れることなくミッション完了となった。

「…さて、ここからが本題なんだ。話したいことがある」
段差に腰掛けた二人を若干見上げる形で話す。
「何だ?」
ジュリウスの催促にマキは軽く頷き、今は——というよりこの時代には——ない「螺旋の樹」を見つめるように話した。
「私は…副隊長として、皆を引っ張る立場にある。先陣切って敵の懐に飛び込み、仲間護るのが私の義務だ」
「それは俺も同じだ。しかし、それは隊長である俺の方が責任が重い筈だ。このことを思い詰めていたのか?」
心配そうに問いかけたが、マキは首を横に振る。そして視線を下に落とした。
「私は、ロミオを護れなかった。そして、ジュリウスの覚悟を、受けとめることが出来なかった。あの時…気付いていれば…止めていればっ」
マキは拳を強く握り、歯を食いしばる。声をかけようとしたが、その姿に二人は何も言えなくなった。
「だから…ここで、二人に誓うよ」
二人に向き直り、背筋を伸ばして敬礼をする。靡く銀髪のしたから見える血の色の瞳は力強い。
「私は…二人を、皆を護る。絶対。誰一人死なせはしない。私がっ、この手で護るっ!だから、どうか…死なないでくれ」
その決意とは裏腹に、涙を浮かべたその姿は少し頼りなくも見える。
「副隊長…」
小さく呟くジュリウスを余所に、ロミオは立ち上がって、マキの隣に下りる。そして、いつもみたいに肩を組んだ。
「何があったのか分かんねぇけど…ありがとな、副隊長!俺だって、皆や副隊長を護るよ。それは俺も、皆同じだからな!そんな簡単に死なねぇって」
破れんばかりの笑顔を向けた。それに続くようにジュリウスも彼女の隣に下りる。
「俺もロミオと同じだ。俺はブラッドを何が何でも護ってみせるさ。ブラッドが全員いれば…死ぬことはない」
「言ったからな二人共。私は忘れないぞ…」
マキは涙を拭うと、二人を横に並べさせる。顔がハテナな二人を気にせず、二人の肩を抱いた。
「ふ、副隊長!?」
ロミオは赤面する。ジュリウスも困惑の表情を浮かべた。背の高い二人の隙間に顔を出すことは出来なかったので、二人の肩に額を当てた。
「…本当に、生きてるんだよな…」
暫く二人の肩を抱き、その温かさを身に染みて感じていた。その間も、二人は何も言わずにただじっとしていた。そして確信した。

——二人は生きている、と。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.9 )
日時: 2015/09/26 22:52
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


その後も前と変わらずにマキはミッションに追われていた。着実に力をつけていくブラッド。そして、遂にシエルは血の力「直覚」に目覚め、ブラッドアーツとブラッドバレットの習得に励んでいた。
前と変わらないブラッドと過ごす日々。それはマキにとって何物にも変えがたいものであった。だが、着実にジュリウスとロミオの死が近づいていると言っても過言ではなかった。
マキは薄暗い自室のベッドの上で呟いた。
「夢ではないとしても、あれが起きたのは確実なんだ。きっと、これは本当に…」
——タイムスリップではないのかと。
血の力に目覚めてから、様々なことが起きたのだ。何が起きてもおかしくない。なんらかの影響で過去に戻ることもあるかもしれない。
「そういえば…極東に呼び出されたんだったな」
シエルの血の力に目覚める前——つまり、神機兵の運用テストに行く前に、世界中でも強敵とされるアラガミが多数目撃されている極東支部に行けと言う指示が出ていた。
「榊博士が、いるんだよな」
フェンリル極東支部技術開発統括責任者で、フェンリル創設メンバーの一人。アラガミ研究の第一人者で、ゴッドイーター達の座学教官も担当している彼なら、この事実が分かるかもしれない。

マキはベッドから起き上がり、なんとなく庭園へと向かった。

陽もすっかり落ちた庭園は、昼とはまた違った幻想的な雰囲気を作り出している。月光が程よく差し込み、夜でも明るい。
「こんな景色が、昔は沢山あったんだろうな」
遺産に登録されていた極東一高かった山とか、どこかの滝とか、木とか。それらは突然現れたアラガミに全て壊された。いつか、アラガミが消え、人々が安心して暮らせる世界を…神機使いたちは目指している。
庭園にある木の下に腰掛ける。いつもは此処はジュリウスの指定席だ。初めて会ったのも、待ち望んで再会したのも此処だ。この場所はジュリウスとの思い出が詰まった場所と言っても良い。
「しかし、相も変わらず此処は本当にいつ来ても良いな」
すると、エレベーターのドアが開く音がした。背の高い影が見える。近づいてくる影は淡い光に照らされ徐々にその姿に色をつけていく。それは見慣れた立ち姿となった。
「副隊長か。どうしたんだこんな時間に」
「ギル。それはこっちの台詞だ。寝れないのか?」
ギルバートはマキに促され隣に腰掛ける。その顔はどこか仄暗い。
「いや…夢を見て目が覚めた」
「昔の夢か」
「…まぁな」
ギルバートは、フライアに来る前はグラスゴー支部で神機使いとして活動していた。そして、真壁ハルオミ——彼にもまた会うことになる筈だ——の妻だったケイト・ロウリー少尉のアラガミ化を防ぐ為に介錯した——この事件に関しての詳細は嫌でも話すことになるだろう。
「副隊長はどうしたんだよ」
「私は…色々考え事をしてたんだ。色々あったからな。まだ整理が出来てないんだ。今、起きていることが本当のことなのか。それとも夢なのか。今、ギルの前にいる神野マキは、ギルの知ってる神野マキなのか…ってな」
「副隊長?」
どこか遠くを見つめるように話すマキに一抹の不安を覚えたギルバートは思わず声をかけた。ブラッドで一番の年長者なのにも関わらず、時々見せる負の表情は、迷子で母親を探す、もう会えないのではないかと不安で仕方がない子供のようだ。
「…よく分からないよな。私もよく分かってないんだ。ごめん。忘れてくれ」
軽く笑ってお茶を濁す。さてと、と立ち上がり、ギルバートに背を向ける。
「明日は早いからな。あんまり夜更かしするなよ」
「あぁ、おやすみ副隊長」
「…おやすみ」

この時はまだ知らなかった。
過去に戻ることは、リスクを伴うということを。