二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.40 )
日時: 2015/05/09 21:47
名前: 諸星銀佳 (ID: 5i2DFlGU)


§第五章 変わる世界§

「でもよかった…調査班が命がけで足止めしてくれたおかげですね」
一度極東から逃げたと思われたキュウビだったが、再び戻ってきていたことが発覚。これ以上遠くへ逃げないよう沿岸で足止めしてくれていたらしい。アリサがホッと胸を撫で下ろしていた。
「じゃあ、本題に入るぞ。今回のキュウビ討伐のミッションブリーフィングを行う」
ソーマとリンドウがスクリーンの前に立ち、アリサ、コウタ、マキは座りながら手元の資料を確認していた。
「前にも話したとおり、このキュウビは純粋なオラクル細胞だけで構成されたアラガミだ。こいつから採れるコアで一般市民の生活が格段に変わる。なんとしてでも捕らえるぞ」
ソーマが念を押した。
「キュウビの主な行動パターンとしては、追尾能力があるレーザーとオラクルを纏った移動攻撃——」
リンドウが話しているが、マキは別のことを考えていた。
——過去が変わっている…キュウビを逃すなんてことはなかった。これで取り逃したりしたら…
「——さん…マキさん!」
「!?」
「どうしたんですか?とても怖い顔してましたよ…?」
アリサの声で我に返ったマキはなんでもない、と告げるとソーマに話を続けるように促す。
「第一部隊・第四部隊・ブラッドには周辺アラガミの討伐をしてもらって、キュウビ単体になるようにしてもらう。コウタ、指揮は任せた」
「了解!」
ソーマの要請にコウタは威勢よく答えた。リンドウが一つ大きく頷くと、彼の鼓舞でブリーフィングは終了した。
「各自、消費アイテムの確認と神機のメンテナンスを怠るなよ?俺たちに未来がかかってる。絶対に倒すぞ。以上だ!」

マキが自室へ向かうエレベーターに乗ると、コウタが扉が閉まる寸前で駆け込んできた。
「悪いね」
目的の階を押し、暫しエレベーター内は静寂に包まれた。それを打ち破ったのはコウタだ。
「最近何か悩み事でもあるみたいだけど…俺らには言えないこと?」
流石、と言うべきか。新人育成にも力を入れ、長年神機使いとして第一線で活躍し、極東最強と謳われた第一部隊の隊長だ。人の僅かな変化も見逃さない。
「ごめん…本当はちゃんと言うべきなんだ。でも言えないんだ。変わってしまうから…出来れば変わって欲しくないから」
コウタは言っていることが分からないと言った様子だったが、深くは追求しなかった。
「言いたくないなら無理に言えとは言わないさ…ただ、俺らにも手伝わせてくれよ。どうせ皆から心配されてんだろ?一人で何でも抱え込んじゃってさ。出来ることなら何でもする。まぁ俺は第一世代でしかも十使いだから前線で支えるって言うのは難しいけどさ…『援護』するのが仕事だからな」
「ありがとう…ちゃんと言う。頼る。出来る限り…明日はよろしく頼むな、コウタ」
「おう、任せておけ!」
そんなうちに目的の階に到着する。コウタと別れ、自室に戻った。
来た当初から何も変わらない殺風景な部屋。だがマキはそんな部屋が好きだった。毎日取り替えてくれるシーツの匂いが好きだ。そのベッドに飛び込んでスプリングの跳ね返りを楽しむのが好き。少し固めのソファーで報告書をまとめたり、窓から見えるサテライトの子供たちを眺めるのが好きなのだ。
ベッドに転がり小さく呟く。
「やはり…変わらないのが、変えないのが一番だったのかな」
もしかしたら、あの後内部調査を行う可能性があったかもしれない。ロミオが何らかの作用で戻ってきたかもしれない。故人が帰ってくるなど聞いたこともないが——こんな世界だ。何があってもおかしくない。
「起こったことは変えられない。なら…その中で足掻くだけ」

変えないように、変えれるように。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.41 )
日時: 2015/06/07 16:27
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


キュウビ討伐作戦当日。
マキは久々にブラッドの制服を着て戦闘態勢に入った。神機もメンテナンスを重ね、最高の状態にしてもらった。また、相手が火と神属性が弱点なのも把握済みだ。そこで、シエルにオリジナルのバレットを作ってもらった。ブラスト専用の高火力バレッドを装備しておいた。
ゲート前に行くと、そこにはクレイドルの面々とブラッド・第一部隊が集結していた。
「よし、揃ったようだな。無理はするなよ若者たちよ!」
リンドウが全員を鼓舞する。
「いいか、命令は三つ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ」
クレイドルの面々とコウタ・カノンには御馴染みの台詞だ。言うまでもないがマキも初めてではない。が、直接リンドウから聞くのは初めてかもしれないと思った。
ブラッドは一言一句たりとも聞き逃すまいとリンドウを注視していた。
「運がよければ…不意を突いてぶっ殺せ!!」
了解、の声が揃ったところで一行は出撃した。

クレイドルとマキはキュウビを誘い出すポイントまでやってきた。キュウビはエリアの真ん中でくつろいでいる。その様子を岩陰から伺う。
「皆さん、上手くやってくれているみたいですね。すみません、マキさん。ブラッドにまでこんな迷惑を…」
「いや、構わないさ。なんせ血の気の多い連中だからな」
「ブラッドだけにか?」
「…リンドウさん、つまらないです」
アリサとソーマの乾いた目がリンドウを射抜く。マキは思わず噴出しそうになるのを必死に堪えていた。
「まぁま、そんなに硬くならんといつも通りに行こうぜ、って話よ」
そうこうしているうちに無線からゴーサインが出た。
「時間だ、行くぞ」
一斉に飛び出した。キュウビは咆哮をあげ、一気に距離を詰めてきた。キュウビとの戦いは飽きるほどやった気がする。この戦い以降極東でキュウビが度々見かけられるようになり、レトロオラクル細胞を逃すまいと事あるごとに出撃していた。
このときはほぼ初見のクレイドルは責めあぐねていた。
「速い!タイミングが掴みにくいですね…」
アリサは一旦距離を置き、銃形態に切り替える。ソーマも何撃か入れているものの、手ごたえはないようだ。リンドウは一度交戦しているだけあって、他の二人よりはよく動いているが、すでにバイタル危険域に何度か突入している。
——どうする…。いつも通り動いたら逆に怪しまれそうだ。
攻撃パターンも弱点も分かっている。どう動けばいいのかも手に取るように分かる。だが、ここであっさり倒してしまったら、またあの世界が変わってしまうかもしれない。
「けど…ここで皆を危険に巻き込むわけにもいかない」
我を忘れて呆けて足を引っ張ることは何度もやってしまった。また同じ過ちを繰り返すなど、愚の骨頂だ。
「マキ!気をつけろ!」
ソーマが叫ぶと、目の前にキュウビがタックルをしかけようとしてくるところだった。マキは紙一重で左に避け、体勢を低くし、胴に横薙ぎの一閃。タックルに失敗し、飛んで逃げようとするキュウビの足を斬り裂いたが浅かったらしい。変にキュウビを刺激し、活性化させてしまう。
活性化時に生じる僅かな隙を見逃さず、アリサとリンドウにリンクバーストを頼みマックスになった時、マキは銃形態に切り替えた。
「貯めておいたとっておきだ。受け取れ」
シエル特性高火力バレットを撃つ。シエルは確実に敵に当たるように追尾機能と識別機能を入れてくれたようだ。バレットはキュウビの胴をめがけて飛んでいく。キュウビに当たると同時に大爆発を起こした。一瞬風圧で飛びそうになったが、識別が付いているおかげでダメージは受けずに済む。
「な、なんていうバレット…」
アリサが呆気に取られた。
「ダウンしたぞ!ここで一気に叩く!」
マキが絶え間なく斬撃を繰り出す。後れを取るまいと三人も攻撃の手を緩めない。暫くしてキュウビが立ち上がる。相当ふらふらしてきている。
「追い詰めた!」
『作戦行動開始から10分経過』
キュウビが倒れ、捕食をし終わった時だった。突如としてなんとも言えぬ緊張感——悪寒と言うほうが正しいかもしれない——に包まれる。
全員が一斉に辺りを見回した。そこには目を疑う光景が広がっていた。
「な…なんですか…これ」
作戦エリアを囲うように無数のアラガミが現れた。
「ヒバリ…どうして無線を入れなかった」
返事はない。マキは叫んだ。
「おい、応答しろ!極東支部!こちらキュウビ討伐隊!作戦エリアに無数のアラガミが出現!早急に応援と撤退準備を願う!」
『——ふふっ』
ヒバリのものではない、聞き覚えのある声がした。マキは言葉を失う。
『此処は荒ぶる神々の領域。貴方たちが足を踏み入れて良い場所ではありませんよ…』
その無線はリンドウたちにも聞こえているようだった。
『貴方だけが異質…世界の掟に抗い、王の下僕となるのを拒む。系の振る舞いを乱す不埒な子には、お仕置きがいるのですよ』
その言葉と共にアラガミがマキ達目掛けて突進・攻撃を開始した。

「ラケル…貴様ぁぁぁっ!」

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.42 )
日時: 2015/07/19 19:23
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


『——っ、クレイドル!聞こえますか!撤退してください!!』
ヒバリとの無線がやっと繋がったようだ。
「撤退って言われても…どうやってするんですか。もうアラガミに突進されてるのに…」
アリサが苦い顔をして言った、その時だった。目の前が白い光に包まれる。それはマキが放ったスタングレネードだった。
「今のうちに逃げる!!走れ!!」
リンドウはスタングレネードで敵を見失った数体を切り刻み、逃げ道を確保する。それに続くように一行は崖の上へと逃げる。偏食因子により身体が強化されている神機使いは、常人を遥かに超える身体能力を有しており、一見したら素手で上るには不可能といえる崖でも、助走を付けて跳躍すれば、瞬く間に登ることが出来るのである。
「スタングレネードの効果が切れて、アラガミに場所がバレる前に行くぞ!」
リンドウが先導をし、アリサが救援要請を、ソーマが追加のスタングレネードを手にしながら走り出す。長年同じ部隊で戦ってきたメンバーだ。流れるような連携だった。
その連携に逆らうように、クレイドルに背を向けて立つ女が居た。
「おいマキ!何やってるんだ!」
ソーマが叫ぶ。だがマキは神機を片手に動こうとしない。
ソーマの声に戻ってきたリンドウとアリサもマキを止めにかかる。だがその声を彼女は聞き入れようとしなかった。
「…リンドウさん、アリサ。受け渡し弾…残ってるか」
「え?」
「お前、一人で行くってんじゃねぇだろうな。死にてぇのか」
「これは私が起こした事態なんだ。私がケリをつける」
振り向かずに言った。
「早く、撃ってくれ」
「そうしたら、お前は一人で行くんだろう。止めておけ。危険すぎる」
マキは何も答えない。そして、足を踏み出そうとしたときだった。
「!?」
首の後ろに何かが当たる。マキはそのまま意識を失い、前のめりに倒れる。地面に突っ伏しそうになるところを、ソーマが片手で受け止めた。
「ソーマ…」
言うことを聞かないマキに対する強硬手段だった。ソーマがマキに手刀を入れたのであった。
「さっさとずらかるぞ」

——どこかで聞いた声がする。それが誰のものかは思い出せないが、温かくて、愛おしい声だ。
自分の名前を呼び、手を広げている。その顔を見ようとしたが、靄がかかっている様にぼやけている。
マキはその呼ぶ声の主の方へ駆けて行く。マキがその胸に飛び込むと、声の主は優しく抱きしめ、穏やかに笑う。
だがその笑い声は徐々に不気味さを増していき、この世で一番憎んでるといっても過言ではない、『彼女』の声へと変わっていった。

「次は逃がしませんよ」

「———っ!?」
その手を払いのけるように飛び起きた。そこは戦場ではなく、ヘリの中だった。
「おう、起きたか」
リンドウがタバコを吹かしながら、声をかけた。
「気分はどうだ」
「…頭が痛いです」
「お前さんが悪い」
「あの大群をそのままにしておく気ですか」
マキの鋭い眼光がリンドウを睨む。リンドウは動じずにゆっくりと答えた。
「一旦引き上げて再度出撃する。だが」
そこで一度切ってマキの目の前まで移動する。
「お前さんは待機、だ」

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.43 )
日時: 2015/08/02 21:33
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


今回の大規模掃討作戦には、極東支部の神機使いが総出で駆り出された。その中でも腕の立つ部隊が召集される。ブラッドは勿論、クレイドル・第一部隊・第三部隊・防衛班。全員で綿密に作戦を練り続けた。長期戦を覚悟し、偏食因子の簡易キットを携行する事や、消費アイテムを物資輸送班に大量に積み込んだ。かつて、ロシアであったアラガミの掃討作戦の時の様な非常事態に極東は慌てふためいていた。
そんな中、マキは一人牢に入れられていた。
ラケルが自分を止めようとしている。その為に今回のことが起きたのは明白。だが証拠がない。あの無線もどこからのものなのか特定は出来ない。しかし、クレイドルが聞いていた。なら証人になってくれる、と思いたいところだが、仮になってくれたとして、彼らの処遇がどうなるか分からない。もう人を巻き込むのは嫌だったのだ。
自分の所為なのにも関わらず、何も出来ない自分。いっそのこと牢を壊してしまおうか。とも考えた。いくら神機使いの強化された身体だとは言え、頑丈な鉄を折ることは出来ない。変形くらいは出来るかもしれないが。
「くそっ…」
一人苦虫を噛みしめるマキ。そんな時、遠くのほうから足音が聞こえてきた。それは徐々に大きくなり、自分の部屋の前で止まった。顔をあげるとそこにはサカキの姿があった。
「サカキ博士…」
「君の元いた世界では、こんなことはなかったかな?」
マキは小さく頷いた。
「変えようとすればする程、誰かを危険に巻き込んでしまう…自分のエゴでこんなことになるなら…最初から望まなければ良かったんだ」
鉄格子にしがみつき、必死に訴えた。
「あいつらを救えたときに帰るべきだったんだ。そこから変えていけば良かったんだ。そしたら…」
「じゃあ、帰るかい?」
思いもよらない返事にマキは拍子抜けした。サカキはいつもの表情でマキを見つめる。
「優しい君だから、そんなことを言うんじゃないかと思ってね。起きてしまったことは変えられない。その定理を変えたのは君だ、マキ君。戻って、ここで起きてしまったことを…『未来』で変えておいで」
マキは目を見開いた。そんな考えがあることを想定していなかった。
今いるのは「過去」。

ならば「未来」に戻ってこの事実——自分のエゴで、沢山の人を傷つけた「過去」を——変えればいいのだ。

「じゃあ、そうと決まればやってみようか…頼んだよ」
その声に応じて出てきたのは他でもない、ジュリウスだった。
「じゅり…隊長!なんで此処に…掃討作戦は!?」
「見れば分かるだろう。出撃していない」
ジュリウスは申し訳なさそうに話した。
「サカキ博士から全部聞いた…お前の最近の不可解な行動の理由も、お前がいた本当の世界で起こったことも。俺の所為だ。俺があの時、もっと早く気付いていれば、こんなことにはならなかったんだな…隊長として、お前たちを引っ張っていかなければと思っていたが、どうやら空回りしていたようだ。部下の心中も察せないようでは、隊長失格だな」
だから、とジュリウスは続ける。その瞳には一点の曇りもなかった。
「出来ることはしよう。あの時、俺がお前を此処へ連れてきてしまったのは、変えて欲しかったんだろうな。ロミオが、死んでしまった事実を。俺が、ブラッドを抜けた事実を。お前なら出来ると信じて。ならばその逆も出来るはずだ。お前が望んだのなら俺もそれに応えよう」
マキは何故だか涙が止まらなかった。こんなみっともない姿を一番見られたくない人が目の前に居るのに、溢れ出してきて止まらない。今出来るのは、下を向いて見せないようにするだけだった。

感応現象を起動させる。辺りを光が包み始めた。
「あり…がとう…でも、一つだけ違うことが、ある」
「なんだ?」
「さっき、隊長は、『お前がいた本当の世界』って仰いましたけど…今いるこの世界が、偽物だとは思ってない…です。どこにいたって、何してたって…全部、本物です」
より一層輝きを増し、風が起きる。ジュリウスとマキ。お互いがお互いしか見えなくなった。
「副隊長…いや、マキ。また会おう」
その笑顔は優しくて。どことなく悲しげで。でもマキはその神秘的な笑みが好きで。それに応えるようにマキもぎこちなく笑った。
「ジュリウス…今度こそ…助けるから…」

——必ず、また会おう。


Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.44 )
日時: 2015/09/18 17:49
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)

もう少し、このままでいたい。なんとなくそう思うのだ。
此処が何処なのかも、一体自分は何をしているのかも分からない。だが、とても心地が良い。
喩えるならそう、水の中。頬を撫でる水は少々くすぐったく、ゆったりと重力に逆らう髪は、戦闘でボサボサになったり、風で自分の視界を邪魔するといった、日頃の鬱陶しさを忘れられる。身体は中を浮いているように軽い。

——ょ…ふ…た…

何か音が聞こえる。それが何なのかは分からなかったが、徐々に明瞭になっていく。

——ふく…ちょう…

「副隊長!」
その声に目を見開くと、見慣れた病室の天井と仲間の顔が目に入った。
「副隊長〜良かったよぉ…」
ナナが抱きつこうとするところをシエルが制する。
「ナナ、副隊長はまだ傷が治っていません。開いたら大変です」
「そうだった…ごめんね、副隊長」
「…副隊長?」
マキは依然、起き上がりもせず、ただ瞬きをしているだけだった。そんな彼女に何故かシエルは笑みを浮かべ、問いかけた。
「何か、いい夢でも見ましたか?」
「え…?」
「だって、穏やかな顔して眠ってましたから…運ばれたときこそ苦虫を噛み潰したような険しい表情をしていましが…今日は、それは心地よさそうに寝ていましたよ」
何を言っているか分からなかったが、徐々に何かが覚醒していくような感覚を覚えた。水の中にいたような…あれはどうやら錯覚——いや、夢と言うほうが正しいか——をしていたらしい。
マキはそこでやっと我に返ったのか飛び起きる。身体に激痛が走り、耐えられず小さく呻き声を上げたが、それでも突っ伏すことなく上半身を起こした。
「今…いつだ?何が起こった後だ!?」
「え…覚えていないんですか?」
「覚えていないも何も…私は——」
——過去から戻ってきたから分からないに決まっている。そう言いかけて口を噤んだ。マキの傍に居たシエルとナナはいぶかしげな顔をしていたが、少し離れたところに立っていたギルバートが詳細を話してくれた。
「副隊長が倒れたのは一週間前。あの赤い雨が降ったとき…ロミオを、助けに勝手に走っていったときだ」
少し苛立った口調で言った。
「と…いうことは」
マキは泣き叫びそうになった。戻りたいと思ったポイントに戻れた上に、『過去』にまで飛んでやり直したことが、『現在』にも適用されていた。

『——起きてしまったことは変えられない。その定理を変えたのは君だ、マキ君。戻って、ここで起きてしまったことを…『未来』で変えておいで』

それが、出来るのだ。今なら。いや、今度こそ。

「ロミオは!?ジュリウスは!?」
隊長と呼ぶことも忘れ、二人の安否を尋ねる。
「二人とも無事ですよ。副隊長が命を張ったおかげで。ですけど」
シエルはそう言って、マキの手を強く握った。
「もう、あんな無茶はしないでくださいね…赤い雨に奇跡的に濡れなかったのは良かったですけど、もし…」
安堵すると同時に、またこの三人に迷惑をかけてしまったかと思うと、自分の至らなさを感じるばかりだった。
「ごめん…悪かった。でもあいつらを見捨てることなんて出来なかった。隊員の命を護るのも私の仕事だ。そこは…理解してくれ」
「では、今度はちゃんと、私たちを頼って下さいね」
ナナもうんうんと大きく頷く。その大きな目には涙が溜まっていた。ギルバートも帽子を目深に被ってはいるが、自分の情けない顔を見せたくないのだろう。
ブラッドの優しさが、今のマキには痛いほど沁みる。過去で誰にも頼れない辛さ、よりも仲間が頼ってくれと言っているのに応えられない辛さを、もう我慢しなくていいのだから。
「あぁ、目一杯頼らせてもらうよ」

今度こそ世界を、仲間を、ロミオを、ジュリウスを、救う。
全部まとめて救う。この手で。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.45 )
日時: 2015/09/18 17:48
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


目覚めてからのマキの回復力は目を見張るものがあった。あと二、三日安静にしていれば完治するとのこと。神機使いは常人よりも回復力が優れてはいるが、それをも凌ぐ回復ぶりだった。
マキは興味本位で、自分は一体どんな怪我をしていたのかをヤエに聞いてみた。
「頭部を強く打ったことによる意識混濁、及び流血。全身打撲に腹部に大型アラガミの爪痕。内臓が見えるのではないかと思うほど抉れてましたよ…肋骨は右一本、左二本の骨折起き上がった時の痛みはこれだと思います。両足首の捻挫…吐血もしていましたし、いくら神機使いは丈夫とはいえ、無茶しすぎです」
聞くところによると、どうやら生きているのが不思議なくらいの重傷だったらしい。流石に自分でも驚いた。
「あんな重体患者、もう見たくないですね。でも全員生きていて良かったです。副隊長さんはもう少し自分を大切にして下さい」
「…善処する」
左腕に刺さった点滴を見ながら呟いた。

後から聞いた話だが、過去に戻って二人を助けた時の状況とも少し違うようだった。
車に乗って二人を救いに行くところまでは同じのようだ。だが、途中でマルドゥークによって集まりだしたアラガミの大群を一人で相手したらしい。そのとき助けた二人は何故いなかったのか、また、マキはあの雨の中濡れずに済んだのかは本人しか分からないといわれた。その本人も知らない——というよりは知る筈もない——ので、真実は闇の中となってしまった。

「…なるほど、実に興味深い話だね」
病室にサカキを呼び出したマキは事の一切を話した。
「信じられないかもしれませんが、本当です。過去にいた貴方も、同じようなことを言っていた。興味深いって」
「ははっ。そうだろうねぇ。未知との遭遇は探求心をくすぐられるからね。しかし驚いた。時間は不可逆性のものだと言われていたが、感応現象は時間を可逆性のものにしてしまうのだね」
「今回はたまたま上手くいっただけだと思います。次に同じことをやれと言われても、成功する保証はありません」
自分でも本当にタイムスリップなどしたのかと思う。実はただ長い夢を見ているだけで、何も変わっていないような気もする。
「聞くところによると、過去・現在・未来の時間軸がある。君が元々いた時間軸というのは、ロミオ君がKIA、ジュリウス君がMIAとなった『未来』。今我々がいるのが『現在』そして、君が感応現象で飛ばされたのが『過去』という訳だ」
「難しすぎて自分でもよく分かってないです。分かっているのは私が二人を救えなかった後悔を見かねて、螺旋の木にいたジュリウスが反応して二人がブラッドから離脱する前まで戻ってきた。そこで私は二人を救出。あとはラケル博士の陰謀を止めるだけ…そう思っていたら、二人を助けたことによって歴史が変わってしまった」
なかったはずのサテライト拠点の襲撃。キュウビの誘導失敗。歴史がわかったということは、当然、この先起こる筈のものが起きなくなって、起こる筈のないものが起こる。
「もしかしたら、二人を助けたことで他の誰かが犠牲になるかもしれない…そう思ったら、自分がやったことは間違っていたのかと不安になった…そしたら、あっちの世界の『サカキ博士』がやり直せばいいって言ったんだ。元の世界に戻って、この世界で起こったことをなかったことにすれば良いって」
「それだけ分かっていればいい。とにかく、三つの時間軸のうちの『現在』に君はいる。元いた世界——即ち『未来』から『過去』に飛んだ君は、ジュリウス君とロミオ君、二人を救った。『過去』で君がやるべきことは此処までだ。それだけで良かったんだ。けど君はそのまま『過去』に居続けてしまった。それで本来なかったことが起きたんだね。なら次は、その『過去』で起こしてしまったことをなかったことにする。『未来』から見た過去、『過去』から見た未来。即ち『現在』で『未来』を変えるんだ。『過去』で起こしたことを『未来』でなかったことにする為にね」
サカキの説明で絡まっていた糸が真っすぐになったような気がした。マキはただ頷いた。
「君は今まで通り頑張ってくれればいい。ただし、今度は仲間の手も借りてね。借金を返済し終わったら、君は元いた『未来』に帰るんだ。そうしないと、また在りもしないことが起きるからね」
サカキは話しすぎたね。お大事に、と言い残し部屋を立ち去った。マキはベッドにその身を預けた。これから大変なのだ。ラケルへの責任追及、キュウビ討伐。アラガミ掃討作戦。冷静に対処していけば何とかなる筈だ。

そう言い聞かせ、再び眠りについた。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.46 )
日時: 2015/11/22 16:13
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


同じ出来事の繰り返し。懲罰房にキュウビ討伐依頼。変わったことと言えばブラッドから離れて他の神機使いのブラッドアーツ習得の手伝いをしていないことだろう。

いや…それも少し違うのかもしれない。

ブラッドと任務をこなしつつ、他の神機使いたちとの任務もこなしているというべきだろう——来るキュウビ討伐とアラガミ掃討作戦に向けて。
今度は我を忘れて焦って待機、なんてことはさせない。何をするか分かっているなら打つ手はある。今からやっておけばよいのだ。
『ミッションコンプリート。帰投し、体を休めてください』
もう一つやっておくべきこと。それは神機の強化。複合コアを大量に作るべく、アラガミを片っ端から倒していく。至って単純明快な作業だ。
「しっかしまぁ、コンゴウはよく集まってくるよなぁ」
「でもお前の血の力のおかげで初めの一撃を加えやすくなった。乱戦になる前に叩ける」
ロミオの血の力は『対話』になった。アラガミのオラクル細胞に直接話しかけるように、その活動機能を一時的に停止させる。その間はしばらくアラガミの感覚器官が弱るので、見つかりにくくなる。
「そうかぁ?でも副隊長の方がすげーじゃん。喚起、だろ?」
「でも戦闘に直接作用させるものではないからな…私の力で戦局が有利になることはない」
「そうでしょうか?」
シエルが他地区での掃討を終え、合流してきた。
「人々の思いが増幅し、遠隔に伝わり、限界を超える力…すなわち「強化」と「伝達」の能力。それは人だけに限らず、君の神機にも応用できるのではないのでしょうか?」
「神機に…応用?」

アナグラに戻って早速リッカにその話をしてみる。話を聞くと、今の神機は本来の力が100%発揮されているものではないらしい。それが可能になると神機が暴走し、神機使いの命が危ないからだという。だが話をしている最中に何かを思い立ったのか走って整備室の方へと消えて行ってしまった。
「そうですか…リッカさんの事です。何か思いついたんですよ。本当に、君の力は可能性が無限大ですね」
「だといいけど…」
「そういえば、もうすぐキュウビの任務が控えているんですよね。バックアップは任せてください。レトロオラクル細胞を必ず手に入れてください」
そう言い残し、シエルは任務へ出かけて行った。

まさか、自分の願いがここまでの事になるとは思っていもいなかった。彼に会いたいという邪な願いが、まさか未来を変えるために過去まで飛ばす原動力になるとは。
「確かに、無限大の可能性を秘めているのかもしれないな」
だが長居はできないはずだ。目的を達成したらすぐに元の時間軸に戻らなければ。皆がいるこの居心地の良い空間にいたら、帰る決意が鈍ってしまう。そのためにはまず、過去での借金を返さなければいけない。
そうとなったらまた任務に行こうと思った。そういえば、ブラッドアーツの習得具合を確認ししてほしいとエリナに頼まれていたのを思い出した。ラウンジでエミールと口論になっているエリナを呼ぼうとした時だった。
「ブラッド副隊長さん!!」
リッカの大声がラウンジ中に響き渡る。走ってきたのか息が荒い。
「ど、どうしたんだ…」
「出来たよ…君のおかげだよ…!早速試してくれない?」

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.47 )
日時: 2015/12/19 22:14
名前: 諸星銀佳 (ID: .xQ.zB/T)


遂にその日がやってきた。
あの時と同じように岩陰からキュウビの様子を見守る。
今のマキにとってキュウビは大した相手ではない。それより何倍も強いアラガミや苦しい状況と戦ってきたからだ。
だが、今回は訳が違う。その後、起こるあの事件。
前は逃げ出したが今回はそうはいかない。
「同じ手には引っかからない…!」

小さく呟き、一斉にキュウビにとびかかった。

キュウビが倒れ、捕食をし終わった時だった。突如としてなんとも言えぬ緊張感——悪寒と言うほうが正しいかもしれない——に包まれる。

——来た。

全員が一斉に辺りを見回した。そこには目を疑う光景が広がっていた。
「な…なんですか…これ」
作戦エリアを囲うように無数のアラガミが現れた。そして、あの時と全く同じ無線が流れた。
『——ふふっ』
ヒバリのものではない、聞き覚えのある声。
『此処は荒ぶる神々の領域。貴方たちが足を踏み入れて良い場所ではありませんよ…貴方だけが異質…世界の掟に抗い、王の下僕となるのを拒む。系の振る舞いを乱す不埒な子には、お仕置きがいるのですよ』
その言葉と共にアラガミがマキ達目掛けて突進・攻撃を開始した。

——あ……ちょっと待って……君の顔見たら、思いついたかも……

アナグラに戻ってリッカに話をした時。急にリッカが独り言を言い始めたのだ。
『神機を喚起……感応制御システムを起動して……あ、リバースする可能性があるのか……じゃあ限定的にして……そこから感応波による誓約伝達……で、誓約履行による拘束フレームの解除……!』
聞いた事のある言葉が次々と発されていたが、全く理解はできなかった。彼女の頭の中で何かが組み立てられている様だ。
そして、暫くしてリッカが戻ってきた。
『ブラッド副隊長さん!!出来たよ…君のおかげだよ…!早速試してくれない?』


「——を開始する」
小さく呟いた。
「副隊長…さん…?」
この状況で何を冷静にいられるのか分からなかったアリサは、開始する、と言うマキの方へ顔を向けた。そこには見たことのない光景があった。
マキの体の周りにはわずかに光の輪が幾重にも見える。まるで彼女を護っているかのように。
そして、その光が消えたかと思ったらマキは一気にアラガミの群れへ突っ込んでいった。
「ちょ、ちょっと!?」
迷うことなく一閃、また一閃。クレイドルの面々はそのあまりにも無謀な戦い方に何度も制止をかけたが聞かなかった。そして、一体のアラガミに結合崩壊を起こしたとき彼女の行動が止まり、無線が入った。
『拘束フレーム、パージ!!ブラッドレイジ、発動!!』
「ブラッド…レイジ?」
アリサが呟いた時だった。マキに無数の金と黒の光が集まっていったかと思うと一気に放出する。その瞬間、アラガミが一斉に怯んだ。その金と黒の翼を携えた神機使いは一騎当千の力を発揮する。雄たけびを上げながら戦場を縦横無尽に駆け回り、アラガミに入れる一撃の一つ一つが重く鋭い。その一撃で倒してしまう。まるで別人のような、何かに憑りつかれたかのような動きで周囲のアラガミを一掃する。
『ブラッドレイジ、活動時間残り僅かだよ!!』
クレイドルの三人には状況が全く理解できていなかった。突然現れた無数のアラガミ。無線に入った謎の声。リッカのオペレーション。マキの獅子奮迅の猛攻。全て理解するには到底時間が足りない。
——30秒では。
僅か30秒。その30秒の間に現れたアラガミのほぼ全てが無に還っていた。彼女から光の翼が消えたとき、残ったアラガミは小型アラガミが数体と瀕死の大型アラガミが一体だけだった。
「なにぼさっとしてるんだ!手伝え!」
「お、おう…」
クレイドルの三人は言われるがままにアラガミを駆逐した。戦場にはまるで何も起こっていないかのような静寂が訪れる。先程までアラガミが蔓延っていた場所とは思えない。
「任務、完了」
『どう?体の調子は』
「なんともない。全く疲れてないし、むしろ体が軽いくらいだ。ありがとうリッカ」
『じゃ、帰ったらメディカルチェックと報告宜しくね』
そう言って無線は切れた。マキは嬉々としてコアが沢山獲れたなどと叫んでいる。
「一体…何が、起きたんだ…?」

マキは意味あり気に微笑んだ。

Re: GODEATER2—フューチャー・オブ・ブラッド— ( No.48 )
日時: 2016/02/11 23:30
名前: 諸星銀佳 (ID: CN5DwmtD)


迎えのヘリを待つ間、起こった事の全てを話した。クレイドルの面々はやっと理解したような、あまりにも人間離れした出来事に驚きを隠しきれない、といった表情だ。
「なんでまた…タイミングが良すぎませんか?まるで——」

——アラガミの大群が押し寄せると分かっていたみたいに。

その言葉をアリサは呑み込んだ。だがマキはアリサが呑んだその言葉を言い放った。一瞬ヒヤッとしたが、マキは意味ありげに微笑んで話を続けた。
「前々から理論上は可能だったらしいんだ。ただ神機使いの命が危ないから実現されていなかっただけなんだ」
「…で、お前さんのその血の力で可能になったワケか。はぁー…これまたすんげぇ神機使いがいたもんだ」
「それで、キュウビ討伐の際にでも使ってみたらどうだってリッカに言われててな。でもキュウビに使う時間なんて無かった…いや、シエルが作ってくれたバレットと皆のお陰で使わなくても済んだ、という方が正しいか」
喜々として話しているマキにどことなく不気味なものを感じたクレイドルの三人だったが、今回は『ブラッドレイジ』のお陰で事なきを得たのだ。あの大群から生きて帰ってきただけでも奇跡だ。深く考えるのは辞める事にした。

事件の詳細をサカキに報告する。よくやったと言われたと同時に次の魔の手が忍び寄っていることも確かだと言われた。そして、部屋の中をグルグルと移動し始め数分後、足を止め、大きく息を一つ吐いた。
「君は、もう、未来へ戻った方が良い」
「…え?」
「私は言った『借金を返済し終わったら、『未来』に帰るんだ。そうしないと、また在りもしないことが起きるからね』と。『過去』、そして『現在』の時間軸で起きたことの借金はもう返済し終わったはずだ。新たな種を蒔かれる前に戻りなさい」
だからと言ってここで引き下がって良いものなのか?仮に戻ったとして、やっと新しい力『ブラッドレイジ』を手に入れてどんなアラガミにも対抗できる術が出来たと思っていたのに。そう言おうとしたがサカキに止められた。
「君が言いたいことはよく分かる。考えてみてくれ。君が、その力を手に入れたこと自体がもう、『未来』では起こっていない出来事なんだ。このままここにいたら何が起こるか分かったものじゃない」
その通り過ぎて何も言い返せなかった。
「また、ジュリウスに頼るのか。何も知らない彼を、また巻き込むのか…私はこんな事でしか仲間の手を借りられないのか…それに」
泣きそうな顔で続けた。
「うまくいくとは限らない…今回たまたま上手くいっただけだったかもしれないじゃないか」
「なら…君のその力を利用したらどうでしょうか」
後ろから聞きなれた声がかかる。振り返るとそこにはブラッドが全員集合していた。シエルは低頭し「盗み聞きしてすみません」と述べた後、自身の理論を展開する。
「君のその『ブラッドレイジ』を発動させるときのように対象を『未来』に設定して誓約を履行する。そうすれば、私たちの感応現象が引き起こされて君を元の世界に戻せますよね」
「シエル…」
「なんだかよくわからないけど…副隊長の為ならなんだってするよ!」
ナナが元気よくウィンクする。
「仮にお前がいなくなっても俺たちで何とかするさ」
「縁起でもねーこと言ってんじゃねーよギル!」
「副隊長」
ジュリウスが歩み寄ってマキの手を引っ張った。その時に感応現象が引き起こされた。慌ててマキは手を払う。全てジュリウスに流れ込んだことで、自分が今まで何をしてきたのか、そしてどんな思いだったのかこの世界でもジュリウスにばれてしまったから。一気に顔が赤くなる。だが、ジュリウスはどこ吹く風。気にすることなく出発ゲートまで連れていかれた。
マキの神機を取り出し、発動を促す。
「どうした?やってみる価値はあると思うが」
優しく微笑んだ。何もかも見透かされているような気分だ——いや、実際に見透かされていたのだった。彼は自分をおちょくっているのかもしれない。そう思った——。
マキは自身の神機に手を置き準備を始めた。
「手を…貸してほしい」
その言葉を聞いたブラッドは、マキの手の上に手を重ねていく。
「ありがとう……いくぞ!」
誓約が履行されていく。そして、最後の一つが済んだその時。全員の背中にあの特徴的な羽が生える。

「届けっ…!!」

辺りが光に包まれる。それに意識が呑み込まれてしまう寸前、右隣にいたジュリウスを見やる。彼もそれに気づいたかのようにマキを見つめる。彼の顔が徐々にマキに近づく。

「———」

そう言って頬に何か触れた瞬間、マキは意識を手放した。